蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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144 天下分け目の戦い 13日朝「BATTLE of ASHIHARA」

「天下分け目の決戦 13日朝」

央暦1970年4月13日

長坂空港周辺

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 真田空軍基地から、葦原海の京沖へ。

 

 そこで再びアテンダントと合流したペンギン隊とイグルベ隊は空中給油を受けた後に南へ向かい、以前と比べて景観が大きく変わってしまった嵯峨野上空を通過。

 

 広大な工業地帯が吐き出す黒煙に包まれた長坂の空に、再び戻って来た。

 

「相変わらず煙たい空だな……精兵隊の状況は?」

 

 精兵隊は連邦海軍の空母に補給を受けるため着艦し、遅れて作戦区域に到着する予定であった。

 彼らがいなければ始まらないわけではないが、貴重な対地攻撃の戦力である。

 

「今発艦したところです。

そちらへの到着まで10分ほどと思われます」

 

 フツノミタマのゆかりが言った。

 10分あれば、偵察と露払いには十分だろう。

 

「なら、一足早く始めるとしよう。

チェイス、目標選定を頼む」

 

「了解。照準ポッド起動」

 

 チェイスはカビエシに頷いて機体胴体下に搭載した照準ポッドを起動させた。

 

 ナーガのアップグレードは、単なるハードポイントの追加だけではない。

 エアインテークすぐ下に、新たに開発された照準ポッドが搭載されているのだ。

 

 この装備があれば、F-2のFLIRのように地上の索敵はもちろん。

 レーザー測距機能とデータリンクを組み合わせれば、目標の共有も可能なのだ。

 

 早速、MFDの画面に物騒なシルエットを持ったトラックが現れた。

 驚くことに、検問所を築いて通行を監視しているように見えた。

 

「テクニカルを2両確認。奴ら、幹線道路で堂々と検問してやがる」

 

「テクニカル? 懐かしいが……葦原の正規軍らしくないな」

 

「世界博覧会実施直前に、葦原政府が部分的な徴兵を実施しています。

徴兵対象は幕府あるいは藩軍を経験した40代から50代の者。

徴発された兵士は葦原民間防衛隊と呼ばれる組織で、

輸送網防衛のような後方支援に従事しています。

テクニカルはこの葦原民間防衛隊の所属と思われます」

 

 葦原の事情を知りきれていないカビエシに、フツノミタマのゆかりが補足した。

 チェイスもその報道を耳にしていたが、まさか自分に直接関わるとは思っていなかった。

 

「大半が徴収兵で構成された、事実上の民兵か。

しかし、幹線道路の検問が輸送網の防衛には思えないな」

 

 むしろ、その逆と言える。

 民間防衛隊の検問によって、幹線道路は自家用車や運送トラックが入り混ざった長蛇の列と化している。

 守るどころか、麻痺させている。

 

「どういうつもりだ? これじゃあ物流が止まるぞ」

 

「こういう情勢では、その答えを見つけるのは難しいな」

 

 そう言うカビエシの口ぶりからは、彼の抱く確信を感じさせた。

 ソウサレス大陸での経験で、おおよその見当はついているのだろう。

 

「ただ、どんな答えがあろうと俺たちのやる事は変わらない。

違うか?」

 

「仰る通りで」

 

 チェイスは照準ポッドを操作し、長坂空港北部にカメラを向けた。

 こちらは民間防衛隊が完全に道路の通行を遮断し、テクニカルだけでなく対空陣地まで築いている有様であった。

 SAMがない事だけが救いである。

 

「空港北部、道路のど真ん中に対空砲(AAA)

こりゃ、どう頑張っても離陸は無理だ」

 

「滅茶苦茶な……!」

 

 その他、庭の広い民家や空き地、さらにはビルの屋上にすらAAAが設置されていた。

 

 あまりにもあんまりな展開の仕方に、竜司は愕然としていた。

 徴兵された人間が集められた、軍ではない準軍事組織がこれをしている。

 上からの指示がないとは到底思えない。

 

 恐らく葦原政府の中枢神祇官や、政府軍とは無関係な体を装うため。

 民間防衛隊は切ることが前提の尻尾なのだ。

 

「誰がやってるにしろ、悪辣だ……

ひとまず、空港北部の目標をマークした」

 

 フツノミタマにデータリンクを介して座標データが送信され、それをマップ上に表示する情報として各機に送信される。

 ナーガのMFDにも、敵地上目標のデータが現れた。

 

「敵戦力の情報を各機に送信した。ペンギン隊、イグルベ隊。

敵地上戦力との交戦を許可する。

民間への被害は最小限に留めるように」

 

 フツノミタマの次郎から交戦許可が降りた。

 今この戦場での最上位は彼である。

 

「イグルベ了解。お上品に稼ぐぞ」

 

「ペンギン隊、予定通りに攻撃開始!」

 

 ペンギンとイグルベの8機が反転し、急降下を始める。

 敵にSAMや高度なFCSを搭載したAAAがない以上、素早く行動すれば安全だ。

 何より、こちらにはAGMがある。

 

 しかし幹線道路上は熱源が多く、熱源誘導のAGM-1は危険だ。

 ひとまずあちらは放置し、ペンギン隊は空港北部に展開する対空陣地に狙いをつけた。

 

 空港敷地沿いの道路や、民家の庭。

 民間施設に軍事兵器が食い込んだ、日常と非日常の入り混じる空間。

 それを破壊するために。

 

安全装置(マスターアーム)解除(オン)。ペンギン1、ライフル!」

 

 シーカー画面の照準と白く強調表示される敵テクニカルのエンジンを合わせ、ミサイルを発射する。

 機体から解き放たれたミサイルは白線を空に引きながら疾走し、道路のど真ん中へと向かっていく。

 

「ペンギン2、撃つ!」

 

「ペンギン3ライフル!」

 

「ぺんぎん4、撃つ」

 

 ウィングマンも続いて目標に向けてミサイルを放ち、迎撃に備えて離脱を開始する。

 マズルフラッシュや曳光弾が煌めく事はなく───爆発と衝撃が街に響き渡った。

 

 すると、フツノミタマが傍受した敵通信をチェイスのナーガに送ってきた。

 

《爆撃! 爆撃を受けた!》

 

《上空に敵……⁈ くそっ、軍は何をしてる!

ここは政府の支配圏ど真ん中だぞ!》

 

《至急至急! こちら民防2-7、戦闘機から攻撃を受けています!

至急救援を!》

 

 現場では攻撃されて困惑の空気が漂っているらしい。

 自分たちは最前線ではなく、後方の楽な仕事だけが任務。

 そう言われて来ていたのだろう。

 

 応戦にしてはかなり遅れているが、迎撃の砲火が打ち上げられ始めた。

 

「対空砲火だ。喰らうなよ」

 

 日中の明るさでは、対空砲弾といえど曳光弾の目視は意外と難しい。

 しかし、ペンギン隊屈指の視力を持つ大助は一瞬で見抜いてみせた。

 

 敵の迎撃を分散させるため、ペンギン隊は散開した。

 

《小銃でもなんでもいい、奴らを追い払え!》

 

《ですが、相手は誘導弾を撃ってきます!

こっちにも誘導弾がないと!》

 

《ないは工夫がないと捉えよ!

増援が来るまで遠ざければいい!》

 

 空港の民間機を守るために来ているのに、空港敷地内に入っては意味がない。

 チェイスは西に離脱すると、空港北の対空陣地から距離を取った。

 

 敵は滅茶苦茶に乱射している。

 対空砲は砲身を旋回させながら発砲しているのか、チェイスのはるか後方、地上の民家付近で炸裂させていた。

 

 破片が降り注ぐだけでなく、中には建屋に砲弾が直撃した家もあった。

 

「民家に敵砲弾が直撃! こりゃ、手早く済ませないと民間の被害が広がるぞ」

 

 ともかく、敵対空砲は時限信管の調整がうまくいっていないのは明らかだ。

 チェイスはナーガを上昇させると、宙返りの要領で再び対空陣地にミサイルのシーカーを向けた。

 

 白んだ画面に、曳光弾の白点がチラつく。

 対空砲のシルエットに照準を合わせると、発射直前になって突如爆散した。

 ボスがAGMを放って破壊したのだ。

 

「ボスがAAAを破壊」

 

 破壊された対空砲の傍には、半分だけの(・・・・・)人型の熱源が横たわっていた。

 視線を逸らすかのようにシーカーを操作し、背の低いビルの屋上に設置されたAAAを睨む。

 

「……」

 

 何を躊躇っている、撃て。

 兵器だけを破壊出来るほどAGMは器用な代物ではない、それは認める。

 だが撃たなければ、味方が死ぬのだ。

 

 チェイスはシーカーを操作してテクニカルを捕捉、発射。

 さらにもう一両に向けて発射。

 

 離脱───しない。

 フルスロットルで降下して小さな雑居ビル屋上目掛け、低空飛行のまま突き進む。

 

「チェイスやめろっ、ここでGUNは無茶だ!」

 

《敵機低空っ、急速接近!》

 

《撃てないっ、巻き添えが!》

 

《言ってる場合か、卑怯者を撃て!》

 

 砲弾が空気の層をぶち破る音が、風防越しに響く。

 旋回しながら連射する対空砲の弾はチェイスに当たらず、放物線を描いて後方の市街地に落ちていく。

 自爆用の時限信管が着弾後わずかに遅れて、民家や道路に突き刺さった状態で炸裂する。

 

 そう、お前のミスだ。

 お前は結局自分の手を汚したくないがために、自己満足のために背後に住む人々を巻き込んだのだ。

 

《来るっ……!》

 

 GUNで掃射し、屋上の対空砲をパーツ毎にバラバラに砕いた。

 過ぎ去った際の風圧によって、その残骸は真下の民間防衛隊の連中に降り注ぐ。

 

「凄いっ……ペンギン1が対空砲を破壊!

民間施設の被害は最小限!」

 

「馬鹿野郎っ! チェイス、死ぬつもりか⁈」

 

 ボスの叱責に、流石のチェイスも返す言葉が見つからなかった。

 今回、敵対空砲の旋回がわずかに間に合っていなかっただけで、ほんの0.1秒未満のズレがあれば喰らっていた。

 

「ペンギン1、先ほどの命令を訂正する。

民間施設の被害は……誤爆でなければいい」

 

「いや、フツノミタマ。気にしなくていい。

もうしない、大丈夫だ」

 

 次郎は自分の発した命令が原因で、チェイスが今回の無茶をしたのだと誤解したのだろう。

 違う、この男は自分の手を汚したくなかっただけだ。

 流石の馬鹿も、無意味な自己保身は反省している。

 

「ぺんぎん4、空対地誘導弾欠乏」

 

 黙々と地上目標を破壊していた大助は、真っ先にAGMを切らした。

 地上から立ち上った土煙に続いて、ボスも。

 

「ペンギン3、AGMなし」

 

「ペンギン2同じく」

 

 チェイスの抱えるAGMは残り3発。

 しかし、事前の偵察で発見した標的はこれで全てであった。

 

「空港北部の敵戦力はこれで最後だ」

 

「こちらカビエシ、こっちも空港東部の主要目標を排除した」

 

 折よく、イグルベ隊も攻撃完了の報告を飛ばした。

 あとは長坂空港の民間機次第だ。

 

「了解。こちら葦原連邦空軍、AWACSフツノミタマ。

長坂空港周辺の脅威は排除した。民間機の離陸急げ!」

 

「長坂空港了解……! ネヴォフロート398便、誘導路1に入れ!」

 

 ATCの指示でクルーヴィナ連邦の民間機が誘導路に向かって動き出した。

 

 その間にも、敵が出て来ない保証はない。

 ペンギン隊とイグルベ隊は警戒を続ける。

 

「電探に感あり!」

 

 報告を上げたのは、フツノミタマだった。

 地上戦力ではなく航空機だ。

 

「高度5000(1524)フィート(m)、方位200(南南西)、機数6!

IFF信号、遠狭(とおさ)藩空軍!」

 

 遠狭藩といえば、葦原本州に西と北を囲われた御代の南部に位置する藩だ。

 言うまでもなく政府軍の支配下にある地域だが───

 

 今回の騒動では、政府か反乱のどちら側に立つのか。

 それは明らかにしていなかったはずだ。

 

《こちら第42飛行隊。

これより長坂を攻撃する敵勢力と交戦する!》

 

《幕府め! 諸外国の民間機が集まる機に乗じて攻撃とは!》

 

《言っても栓なきことだ。墜とすぞ!》

 

 誤解───いや、葦原政府のプロパガンダを真に受けているのだろう。

 対話で解決のならば、そうしたいところだが───

 

「向こうはやる気のようだな。ならば、刃を交える他あるまい」

 

 大助は静かに、正論を説いた。

 

「だろうな。ペンギン隊、迎撃する」

 

 連邦と政府の停戦は正式に終了している。

 戦いを止める理由など、元からないのだ。

 

 ペンギン隊は編隊を組むと、敵飛行隊と真正面から向き合った。

 

「ペンギン1、AGMの投棄を勧める」

 

 交戦までもう間もなくというタイミングで、カビエシが具申した。

 確かにAGMは半分に減ったとはいえ、ナーガにとってはまあまあなウェイトである。

 

「間もなくAOに精兵隊が到着します。

地上は彼らに任せてください」

 

 ゆかりはチェイスの脳内にある疑念を察したのか、静かに説明した。

 ならば、遠慮は無用───と言いたいが、この男はダメだった。

 

「いや、地上は工場や民家だらけだ。

ここで落とすわけにはいかないな」

 

 誠に遺憾ながら、その通りだ。

 通常ならば信管が不活性化したAGMを投棄しても爆発はしないだろうが───

 

 この世界の機械の信頼性はそこまで高くない。

 地上で爆発でもされれば、目覚めは最悪だ。

 ただでさえ数百キロの物体が落下しただけでも迷惑だというのに。

 

「イグルベ1了解、サポートする」

 

 どうやら、皆理解してくれたらしい。

 カビエシは余計な言葉を付け足さずに肯定した。

 

 とはいえ、だ。

 敵は6、こちらは8。

 対地戦闘用の装備に加えて体力の消耗もあるが、数的には優位なのだ。

 

「せめて、撃墜なしで終わることを祈ろう」

 

 陽光に魔力を送り込み、シーカーの人工生物を覚醒させる。

 間もなくして、機体のシステムが敵機を捕捉した不快なトーンを響かせた。

 

「ペンギン1、FOX2!」

 

 チェイスが今の今まで避けてきた、市街地での空戦が始まった。

 

 白い尾を引く矢が2方向から伸び、互いに向かって突き進む。

 

「ペンギン1! 敵誘導弾は全てお前狙いだ!」

 

 攻撃を誘引するため、先頭を飛んでいるのだから当然だ。

 最大出力のまま引き付け───ここだ。

 

 言葉では言い表せない瞬間を悟ると、チェイスはエンジン出力を下げてオーグメンターの炎を消した。

 機体が帯びる熱を大きく減らし、ミサイルの道標を大気に隠すのだ。

 

 そして連続するバレルロールとフレアの投下を組み合わせ、ミサイルを混乱させる。

 最後に急上昇を加えて上空へミサイルを誘うと、空を切った6つのミサイルは虚空で自爆した。

 

「ペンギン1、ミサイルを回避!」

 

「見事だ魔王っ、腕は衰えていないなっ!」

 

 彰義隊の放った8発のうち、竜司とイグルベ2オリのミサイルが敵機に命中した。

 1つは翼に穴を空けられて脱出し、もう1つはコクピットを失って墜落を始めた。

 

 どちらも、街に向けて墜ちていく。

 

《こちら長坂200! 空戦で色んなものが落ちてくる!

……くそっ、戦闘機!》

 

《至急至急! 戦闘機の残骸が団地に墜落、一部が崩壊!

確認出来ているだけでも2桁は死傷者が出ている!》

 

───ああっ、くそ。

 

 10年前。

 学生時代の良介は、街の空を見上げながら呑気に日常を謳歌していた。

 

 それが今やどうだ。

 街の空を穢し、日常を破壊する魔王だ。

 

「チェイス! 下を気にしてる場合じゃないぞっ!

生き延びる事を考えろ!」

 

「……」

 

 ボスの叱責に、チェイスは状況に改めて集中した。

 敵は4機に減り、こちらは8機から変わっていない。

 優位は開き、あとは包囲を狭めていくだけ。

 

《相手の腕が良すぎるっ、彰義隊か⁈》

 

《敵編隊のひとつはク連で統一!

武揚を攻撃した傭兵部隊だ!》

 

 チェイスは上空から戦況を見渡し、イグルベ隊の包囲から逃れんと上昇を始めた敵機に狙いをつけた。

 反転して降下し、加速しながら機動を合わせる。

 

《ダメだ聡太っ、上空にも敵が!》

 

《ああ、くそっ!》

 

 30ミリ機関砲が背中に穴を穿ち、機内に収められているケーブルやパネルをぶち撒けた。

 一瞬のうちに火のついた機体からパイロットが脱出し、炎上する機体は錐揉み降下しながら空中分解した。

 

《あの浅葱色の機体っ、肝心なところでかわされる……っ!》

 

《浅葱色のオロール……奴ら、魔王の部隊じゃないか⁈

こんなところで何してやがるっ……!》

 

 残る3機もペンギン隊の連携を前に、手も足も出ていない。

 竜司の機動は当たりそうで当たらない、もう少し続ければボロを出すはず。

 そんなもう少しという欲を煽り、警戒を乱す。

 

 そこに、ボスと大助が迫る。

 P-20の大出力かつ軽快な機動で考えられない角度から攻撃され、YP-27の高速飛行からの一撃離脱戦法は報告する暇すら与えない。

 

 ペンギン隊はこの葦原内戦において最も過酷な作戦に従事し、かつ未だ欠けたことのない部隊。

 既に並大抵の政府側の部隊では相手にならなかった。

 

「今ので敵機は最後だ」

 

「ああ……」

 

 カビエシの報告を受けて、チェイスは眼下に広がる市街地に視線をやった。

 制御不能となった戦闘機や流れ弾、それだけでなく爆散しながらも炎上し続けた残骸。

 

 地上に落ちたソラノカケラは、多くの被害を生み出していた。

 

《長坂022! 2丁目の工場で火災発生! 火消しを送れ!

あそこは化学物質を扱う工場だぞっ!》

 

《ダメだ、どの火消しも出払ってる!

消火が追いつかない!》

 

《長坂410、脱出した軍の飛行士が市民に襲われている!

幕府だと勘違いされてるんだ! 手がつけられん、増援求む!

……止めろ! 車に乗せるつもりだ!》

 

 もし撃墜されて、あの街に降下していたらどうなっていたことか。

 明るい想像は浮かばない。

 そんな想像を出来るような事など、一度たりともしていないが。

 

「こちら睦平ぢゃ。長坂空港周辺の脅威はひとまず掃討したぞ」

 

 精兵隊が空港周辺の安全を確保したらしい。

 あの機体は爆弾やロケットだけでなく、機銃(・・)も標準装備している。

 精密な攻撃が必要な状況でも、的確に戦力だけを叩くことが出来ただろう。

 

「ペンギン1、状況に変化があるまで空港周辺で哨戒飛行せよ。

照準ポッドで地上に変化があるか偵察するんだ」

 

「……ああ、了解」

 

 チェイスは自分で思っていた以上に、うまく声が出せなかったことに驚いてしまった。

 動揺を隠しているつもりだったが───どうやらこの状況は精神的に来たようだ。

 

 敵を殺す事自体、今でも思うところはなかったが───

 民間人、民間施設への被害ともなると、どうやら別らしい。

 

「チェイス殿……」

 

 やはり、通信機越しでも悟られてしまったらしい。

 竜司が名を呼び掛けてきたが、用件を告げることもなく黙ってしまった。

 

 誰だって、こんな状態の男に掛ける言葉など見つかるはずがない。

 

「こちらペンギン3。フツノミタマ、今度から地上の交信はペンギン1に流すな」

 

 不意にボスがAWACSへ要請した。

 地上の軍警察と思わしき交信はAWACSが傍受・複合化した通信である。

 それをチェイスが戦況の分析や把握のために流しているものだ。

 

 地上の被害に関しては、チェイスが個人的に送るように頼んでいた。

 己を律するには、己の行いを知らなくてはならないためだ。

 

「フツノミタマだ、了解した。

今後はペンギン1へ流す情報は厳選する」

 

「あー、フツノミタマ。そんなに気にしなくても……」

 

「坊主。自分の行いを、罪を知るのは悪いことではない。

ぢゃがな、それで心を壊しては元も子もない」

 

 チェイスが口を挟もうとしたところ、睦平がそれを否定した。

 そうやって甘やかせば、この男はどこまでも付け上がるというのに。

 

「心配するでない。お主はお主が思っている以上に真っ当ぢゃ。

お主が変わらぬのであれば、道を違えることはなかろうて」

 

「だからぁ、あんたらは俺の事を買いかぶり過ぎだよ。

油断あればすぐ、どうしようもない事をする。

きっと自認じゃ変わってなくても、すぐ魔王みたいな真似するぜ?」

 

「そうなりそうな時は、お主の仲間(ウィングマン)が止めてくれる。

違うかの?」

 

 チェイスは照準ポッドの画面から一瞬だけ視線を外し、左右に視線を向けた。

 ペンギン2竜司。

 ペンギン3ボス、ペンギン4大助。

 

 彼ら彼女らは、道を違えた時にどうするか?

 お前は一緒になって悪逆非道ぱーちーに参加すると思っているのか?

 

───わからない……

竜司ちゃんや大助はもちろん、ボスだって時々俺のことわかってないし。

 

「イグルベ1からペンギン1へ。

チェイス、お前は全ての評価が甘いように見えてその実、

自己評価だけでなく他人の評価も厳し過ぎる。

ここまで共に戦った仲間だ、もっと信じろ。

他人の全てを知るのは困難だが、

全てを知らずとも道を違えた時に止めることは出来る」

 

 傭兵にまで、そう言われてしまうとは。

 確かにチェイス、志村良介は常に厳しく評価せねば取り返しのつかないところまで堕落するどうしようもない奴だ。

 しかし───3人(ウィングマン)は違う。

 

 後見人を名乗る男から受けた、あの孤独から20年以上経ったのだ。

 いい加減、本当に信用出来る人間と会えた事を認めるべきなのかもしれない。

 10年前の時点で認めるべきだったというのに。

 

「……ペンギン隊へ。もし俺が変わったら、叩き落としていいぞ」

 

「ぺんぎん4。一撃で首を落とす」

 

「ペンギン3了解。お前の上司として、遠慮は一切しないぞ」

 

「ペンギン2です。大丈夫ですよ、そんな事は起こりません」

 

 お前がおかしな事を始めても、周囲は遠慮なく止めてくれそうだ。

 少々手段が過激で、口頭での注意が一切なさそうな感じなのが気になるが。

 

「なるほど。俺は一切油断しないけど……わかった。

少しだけ、知的好奇心を抑えるよ」

 

 視線を画面から外して周囲をうかがう。

 長坂空港の滑走路から、クルーヴィナ連邦の機体が離陸した。

 

「こちらネヴォ・フロート398便、葦原連邦空軍機へ。

多大な奉仕と支援、心より感謝する」

 

「こちらペンギン1。次降りた時に言ってくれ、本番はここからだぜ」

 

「その心配はない、ここから先は安全だ」

 

 ネヴォ・フロートはクルーヴィナ連邦の国営航空キャリアである。

 これが民間の航空キャリアであれば感謝の言葉と捉えるのだが───

 どうにも、何らかの確信があるように思えてならなかった。

 

 離陸したク連機は脚を納めて離脱の針路をとった。

 

「作戦参加中の各機へ。作戦第一段階の成功を宣言する」

 

 戦闘機が急行してきて襲いかかる恐れはあるが、地上に関してはそうもいかない。

 離陸に関しては、成功である。

 

「ペンギン1と精兵隊は方位045(北東)へ向かえ、連邦海軍の空母が待機している。

他の彰義隊機は葦原海に出てから真田空軍基地に帰還せよ」

 

「休む間もなしか……了解。

ペンギン隊のみんな、また後で」

 

「まったく……隊長機ひとりで空母に着艦、即出撃とはな。

ちぇいす、死ぬなよ。我々もすぐ戻る」

 

 大助の挨拶と共に、ペンギン隊の面々は離脱した。

 あの3人の機体は燃料に余裕がなく、すぐにでも帰らなければ燃料がもたない。

 それはチェイスの方も変わりはないのだが。

 

「さあて、ナーガの初着艦だ……今度こそ、上手くやらないとな」

 

 着艦を想定した陸での着陸は何度かやった。

 今度こそ、大丈夫だろう。

 

 チェイスは針路を北東に取り、次なる戦いが待つ空母へと機体を向けた。

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