蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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154 蒼穹の魔王「BATTLE of ASHIHARA」

央暦1970年4月19日

夷俘島屋岸 中墨家

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 葬儀が終わり。

 荘厳な雰囲気は一変し、場に和やかな空気が漂った。

 

 こういった空気の変わりようは、日本の葬式でも度々起こる事だが───

 今回は人気者がいるので、少々独特だった。

 

「春川殿下っ、お会い出来て光栄です」

 

「はい。私も、お守り下さった方々と所縁(ゆかり)のある方とお会い出来て嬉しいです」

 

 春川親王、現公はあの開会式の式典で素顔を晒してから。

 親王というだけあって男と思われていた彼女は、それまで特別評価は高くはなかった。

 しかしその素顔が知れて以来、人気が急騰したらしい。

 

 可愛いから、という現金な反応と捉えることも出来るが───

 

「やっぱりどういう人相かわかるのも、結構大きいんじゃないかな?」

 

 顔を明かせぬ声も聴かせられぬ指導者よりも、同じ場に立ち顔を見せ教えを説く指導者。

 古今東西、あらゆる指導者とされる人間が実践してきたプロパガンダの初歩だ。

 一理あると、認めてやろう。

 

「認めるにしても、もっと言い方があるだろ……」

 

 この後の行程では、良介達は現公と行動を共にする予定である。

 少なくともこの騒ぎが終わるまでは、移動は叶わない。

 

 ゆきとあくり、それにボスは手洗いに行ってしまった。

 良介、お前は行かなくていいのか?

 

「うーん。不思議と俺様は行かなくても平気なんだ」

 

 ど、どうして?

 

「……そういう運命(元ネタ)だから?」

 

 何を言っているんだ、お前は。

 

 などと、自己批判の精神とどうでもいい事を話していると。

 ふと、良介に接近する気配を感じた。

 

 害意がある気配はなく、千代も反応する気配はない。

 それに───ひとりは小さかった。

 

「あ、あのっ……」

 

 見上げれば、片方は受付をしていた喪主(もしゅ)

 挨拶では中墨武命(たける)と名乗っていた。

 

 もうひとりの、10代にも満たなさそうな少年も喪主関係者に席を並べていたため、中墨家か羅臼(らうす)家の人間だろう。

 言うまでもないが、羅臼家はキンシ機長の家である。

 

「なに?」

 

「チェイスさん、ですかっ?」

 

 他の人間は明らかに良介を避けていたが───

 彼らは違うらしい。

 

「そう呼ばれる事もあるな」

 

「ほっ、本物本物ッ!」

 

「ああ、本物だな」

 

 興奮を隠せない幼い少年に、武命が頷いた。

 喪主を務めている上に、子供のお世話とは。

 

 少年期の良介とは比べ物にならないほど、しっかりした少年である。

 

「喪主の武命と……」

 

「羅臼健堂(けんどう)!」

 

「息子です……キンシ機長の」

 

 葦原基準でも変わった名前である。

 どうやら、健堂は羅臼家の出身のようだ。

 

「なんの用?」

 

「健堂はチェイスさんが政府軍の爆撃機を撃墜した時……

少し離れたところで見ていたんです」

 

「おお……」

 

「凄かった! 空中でドッカーンと爆発して、

破片がキラキラしてた!」

 

 そのキラキラした破片ひとつも、下にあるものを破壊した。

 自分達を害するはずの機体を美しいと評する話は、さほど珍しくない。

 

 例えば第二次大戦中の日本各地は空襲を受けたが、爆撃しているB-29の美しさを綴った記録は多い。

 さらには、B-29の模型もそれなりに売れていたとか。

 

 それをいちいち指摘するほど、良介は幼心にトラウマを植え付ける趣味はない。

 

「そっか……怪我はなかったか?」

 

「全然!」

 

「あの日の記録を見るに、むしろ飛んでいたら……これは、失礼を」

 

 武命は場に相応しくないと気付き、途中で言葉を止めた。

 なるほど、爆撃機の針路上に健堂はいたのか。

 

 葦原で運用されている爆撃機、ヤ11型Bの搭載量は小さめのボディ通りでさほど多くない。

 それでも、投下する爆弾で街を破壊することは出来る。

 

「兄ちゃんは、屋岸の救世主!」

 

「俺が実年齢より見た目が若いのは認めるけど、

もう兄ちゃんって歳じゃないんだけどな……」

 

 そう呼んでいたのは、幼馴染の妹分と───施設のチビどもだ。

 まったく、この家に来てから古い記憶を刺激されっぱなしである。

 

「なんというか、俺の活躍をヨイショしてくれるのは……ありがたいけどさ。

本当にいいのか?」

 

「……わかんないよ、正直」

 

 健堂は先ほどとは打って変わって、沈痛な表情で俯いた。

 

 彼はまだ幼い少年。

 父の死と憧れの人物との遭遇を、頭で処理しきれていないのだろう。

 

「父さんは、誘導弾の破片で死んじゃったって聞いてたけどさ……

でも、誘導弾が当たったら、そのままバラバラになってたんだろ?」

 

 この年頃の少年にしては、語彙が豊富だ。

 良介が武命へ視線をやると───

 

「はい、自分が教えました……」

 

 なるほど、これは武命の見解丸写しというわけだ。

 

 これを言うと自己弁護にしか聞こえないので、絶対に言わないが───

 良介も同じ見解である。

 

 操縦室にミサイルが直撃するか、破片が飛び込むか。

 内部で炸裂すれば、機体の操縦どころではなくなる。

 それは、間違いないはずだ───

 

「かもしれないけど、俺が撃ったミサイルなのは確かだ」

 

「でもでもっ! 誘導弾の破片って……向きが決められるんでしょ?」

 

「指向性弾頭って事か? まあ、その通り。陽光もそうだ」

 

「で、ですよねっ!」

 

 弾頭が炸裂し、生じる破片を正面方向へばら撒く───

 その理屈が100%正しければ、キンシ機長・副機長を襲ったのは敵のミサイルという事になる。

 

 現実にはそう都合よく運ぶとは限らない。

 

「あくまで、なるべく(・・・・)そうなるように設計されてるだけで、

絶対にそうなるわけじゃないんだ。破片のうち一部は正面方向ほどじゃないけど、勢いよく飛ぶ」

 

「でも……」

 

「いや、今回の件にそこはあんまり関係ないんだ。

俺がここに来たのは……ケジメをつけるためなんだ」

 

 例え守るためだとしても、その結果生じた犠牲には向き合わなければならない。

 それが今回、参列した主目的なのだから。

 

「でも、戦争では犠牲は避けられません。

それでも、ですか?」

 

 武命は真正面から良介に問い掛けた。

 だから良介は、真正面から答えた。

 

「ああ。さすがに政府側のにも顔出してたらキリがないけどさ……

お前らだって、親父さんが行っちゃって寂しいだろ?」

 

 ふたりは頷いた。

 それでもなお慕ってくれるのは嬉しいが───

 

 これは恐らく、今良介が顔を出しているからだろう。

 

「でも、僕らはチェイスさんを恨んでません」

 

「ありがとう。でもやっぱり、俺が今ここに居なかったら、

ちょっと変わってると思う。

こういう感情って、ちょっとした積み重ねで変わってくるものだからさ」

 

 ここまで来るとIFの話になってくるため、断言は出来ないが───

 そういうものだと、良介は思っていた。

 

「……そうなのかなぁ?」

 

「単純接触効果ってやつだよ」

 

 視界の隅に、部屋に戻った人影が。

 ペンギン隊のメンバーだ。

 

 現公の方を見れば、遺族の慰問も終わったらしい。

 

「さて。そろそろ、俺たちはお(いとま)するよ」

 

「この後飯食べるって言ってたけど、チェイスさん達来ないの?」

 

「家族水入らずの時間を、邪魔しちゃ悪い。

それに、まだ用事があってさ……」

 

 千代と視線を交わすと、彼女は頷いた。

 やはり移動が近いらしい。

 

 良介は立ち上がると、ペンギン隊メンバーと合流した。

 

「ひとまず、葬式を邪魔する奴は出て来なかったな」

 

「ええ、幸いにも……」

 

「政府の連中も、そこまで無粋じゃないか」

 

 現公側も話が終わり、一同が立ち上がったところであった。

 

「春川殿下ぁっ……」

 

「無理なさらないで、ゆっくりとお立ちください」

 

 足腰の悪いゆかを労わりながら、現公らは座敷を立ち。

 良介らと共に邸宅を後にした。

 

「またねー!」

 

「今度会う時は、空を飛べるようにしまぁす!」

 

 門を出る時、健堂と武命は良介に向かって叫んだ。

 こういう時、どう反応していいのか良介にもわからなかったが───

 

 サムズアップで、彼らに返答した。

 

 が、やはり。

 葦原にサムズアップの習慣はなく、彼らは怪訝な表情を浮かべていた。

 

 それでも、最後に真似したサムズアップを返してくれた。

 

 そんな遺族達を背に、一行はバスへと戻るのだった。

 

「……次は、五稜郭か」

 

「ええ。五稜郭に」

 

 良介が次の予定を呟くと、ゆきが頷いた。

 

 今も現公が住み、葦原連邦軍総司令部のある五稜郭。

 あの城砦に、良介達は用があるのだった。

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