蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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155 蒼穹の魔王「BATTLE of ASHIHARA」

央暦1970年4月19日

夷俘島屋岸 五稜郭

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 五稜郭へ向かうバスは、つつがなく目的地に到着した。

 良介ら連邦空軍と、連邦政府要人達はここでお別れである。

 

「それでは、良介さん。またお会いしましょう」

 

「うん、またね」

 

 現公がバスを降り、次に元将軍大和利信が出入り口に向かう。

 その時、兄である吉宗とは軽く会釈するばかりであった。

 

「……もう会えないかもしれないのに、軽くないか?」

 

 良介は生じた疑問を直接吉宗にぶつけた。

 仮にも兄弟、今でも命懸けで戦っているというのに───

 

 問い掛けられた吉宗は、笑みを浮かべて答えた。

 

「兄弟ってのは、そういうものだ」

 

「なるほど……?」

 

 肉親のいない良介には、その気持ちは理解出来なかった。

 ただ、そういう距離感なのだろう。

 そう理解した良介は、深く尋ねる事はしなかった。

 

 五稜郭の中庭に降り立った良介は、久々に見る軍事要塞に微妙な気分になった。

 前ここに来た時は、悪名高き海底トンネル踏破作戦───酉作戦を呑まされた時なのだから。

 

「うーん……ぶっちゃけ、ここにあまりいい思い出はないな」

 

「へぇ、ここに来た事あったんだ」

 

 独り言に反応したのは、葬式の前後に現公や良介達の写真を散々撮りまくっていた四谷だ。

 さすがに五稜郭内部の帝室専用エリアの取材までは許されなかったらしい。

 

「ああ。俺が松屋隧道突破した作戦あるだろ?

ここであれやらされるのが決まったんだよ」

 

「……え?」

 

 四谷は耳にした言葉を飲み込むのに難儀したのか、しばらく沈黙したのち。

 顔面を硬直させて、改めて尋ねた。

 

「あ、あれ……マジでやってたの?」

 

「うん。防犯カメラの写真だって公開されてただろ?」

 

「いや、普通あんなのプロパガンダの捏造っていうか……

誰も真に受けてないって、普通……」

 

「うーん、至極当然の反応だ……」

 

 戦闘機はトンネルを飛ぶように出来ていない。

 エースコンバットならともかく───いや、ストレンジリアルでも異常行動扱いされていたな。

 

「でもさ、だとしたら松後湾の守りを真正面から崩したって事にならない?」

 

「幕府側が戦艦の三式弾で(なら)してから、悠々占領したって事になってたから」

 

「俺も同じ立場だったら、そっちの説支持しちゃいそうだな……」

 

 上陸前に爆砲撃の雨で地均(じなら)しするのは当然の戦術だ。

 戦術兵器で焦土作戦をするとは普通思わないので、現実味があるのは政府側の主張だろう。

 何なら幕府側の主張には、戦闘機が海底トンネルを突破して防空網を無力化したなんて荒唐無稽な前提があるのだから。

 

「でもさ……それって、自殺するような作戦だよね?」

 

「ああ。そうだね」

 

「だったらなんで幕府……今の連邦に協力してるの?

死んで当然の作戦に駆り出されたんでしょ?」

 

 当然の疑問である。

 なんなら、今でも他にやりようがあるのではないかと良介は思う時がある。

 

 しかし───世界を越える。

 そんな目的を達するためには、一体何をすればいいのか。

 さっぱりわからないから、どうしようもないのだが。

 

「ひとつ。幕府は俺のいた世界に帰れる手段を提示してくれた。

ついさっき、それがどうもやれるかもしれないって話になった」

 

「もうひとつは?」

 

「仲良くなった女の子が増えちゃってさ。

離れるのが惜しくなった」

 

「おい」

 

 真面目に話してくれた四谷には大変申し訳ないのだが、志村良介とはこういう人間である。

 なんなら、前者はそこまで強くないとも言える。

 

「はっはっは、悪い悪い。

でもほら。そうしていたから、四谷ちゃんとも会えただろ?」

 

 良介の悪質な誤魔化しに、四谷はそっぽを向いた。

 

「はぁ……口の減らないヤツ。

あたしよりも記者に向いてるんじゃない?」

 

「どうかな。自分で書く事件より、自分が書かれる事件の方が多くなりそうだ」

 

「ああ、それは確定ね」

 

 などと冗談を言い合っていると、準備は整ったらしい。

 空になったバスが発車し、連邦空軍組は2つに分かれた。

 

 吉宗とボス、あくりは中央の司令部へ。

 良介とゆき、千代に四谷はというと───

 

 明るい司令部とは真逆の方向。

 

 連邦軍は戦闘で捕縛した捕虜を収監するため、夷俘島に3ヶ所の収容所を持っていた。

 その中でも、政治的に重要度の高そうな人物を収監するための施設。

 

 それがここ、五稜郭の地下にあるのだ。

 

「す、すごいセキュリティだ……」

 

「葦原連邦の中枢だかんね〜……

あたしでも、入り込むのは難しい」

 

 自称、葦原一の始末屋である千代にすらそう言わしめる守りだ。

 ある意味、夷俘島で一番安全な場所とも言えるだろう。

 

 重い扉を何枚も通り抜け、階段を下って深淵へと近づく。

 救出や暗殺を遠ざける為に設けられた安全策を、時間を掛けて通り抜け。

 やがて、最奥の3歩手前程度のところまで迫った。

 

 このエリアに収監されている人物こそが、五稜郭へやって来た理由だ。

 

「……確認しました、どうぞ」

 

 看守がロックを解除し、鉄格子の扉が開かれた。

 聞くところによると、このブロックにいるらしいが───

 

 恐らく、この場にいた全員がこの臭いを察知したのだろう。

 ゆきや千代の表情が引き締まった。

 四谷はピンと来ていないのか、怪訝な表情を浮かべた。

 

「うえっ、何この臭い?」

 

 房に収監されている囚人を横目に、ひとつ、ふたつ、みっつ───

 いた。

 

 その少年が良介達の到着に気付くのに、少し時間を要した。

 

「2週間ほど前でしょうか。

突如暴れ出して、意味不明な言葉を叫んでいました。

ですが、ここ数日は無気力になりまして……」

 

 案内の看守は、手元の書類に目をやりながら言った。

 

 監房(かんぼう)の地べたに座り、項垂れる少年。

 世界博覧会会場で良介の暗殺を目論み、失敗し───

 良介がそのまま担いで連れ出した少年であった。

 

 いや、なんでお前ここまで連れて来たの?

 

───放っておけないだろ?

まあ、別の意味で俺の予感は当たってたみたいだけど……

 

 彼が尋常でない(・・・・・)状態なのは、監房を見れば一目瞭然であった。

 壁中にこびりついた、酸化した赤黒い血の拳の跡。

 座り込む少年の目前には血の文字が一言。

 

 たすけて。

 

 本来ならば自殺や事故の恐れが少ない、保護室のような場所に収監するべきだろう。

 それすら難しい状況であったのも、頷ける惨状だった。

 

「なに、これ……」

 

 ほぼ無意識だろうか、四谷がカメラを向けてフラッシュ撮影を行った。

 その光に、少年が反応を示した。

 

「ッ! ガアアアアッ!」

 

 フラッシュを向けた四谷に向かって突進するも、堅い鉄格子に阻まれて動きを止めた。

 果たして彼は、鉄格子がなければ何をするつもりだったのか?

 

「なっ、なに……?」

 

「フラッシュは控えて、刺激するのは良くない」

 

「わ、わかった……」

 

「お前も、落ち着け。もう大丈夫だ……」

 

 歯を剥き出しにして混乱する少年に呼び掛けると───

 その表情に柔らかさと、理性が戻り始めた。

 

 荒い息遣いはそのままで、少年は腰を抜かした。

 

「覚えてる? 俺のこと」

 

 良介は視線を合わせるために屈み、鉄格子越しに語り掛けた。

 しばらく少年は黙っていたが、意を決したように口を開く。

 

「……覚えてる」

 

「世界博覧会会場で何があったのかも?」

 

「……お前を、殺そうとした」

 

「花丸だ」

 

 少なくとも、黙秘を貫くつもりはないらしい。

 状況を整理するため、良介は振り返った。

 

「どう思う?」

 

 この手の事で一番頼れるのは千代だ。

 なんと言っても、彼女はサトリの中でも不特定多数の人間の思考を読めてしまう。

 それはそれで辛いのは間違いないが、その技能を活かせば背景を探れる。

 

「……やっぱり、あの時と全然心境が違う」

 

()き物が落ちた……というか、それ以外も色々落ちちゃったような?」

 

「そうだね、そう評するのが一番近いかな……」

 

 すると、千代はチラリと横目にゆきを見た。

 

 そういえばこの少年の父親は、夷俘海峡で死んだ護衛機のパイロットだったそうだ。

 ゆきはサトリのセンスでそれを知った───らしい。

 父親を殺したのが、ゆき自身だという事も。

 

 詳細を知りたければ直接聞け、そういう意味での視線だろうか。

 

 良介の推測を肯定するかのように、今度はゆきが少年に語り掛けた。

 

「少年、名は?」

 

「……向田(むこうだ)(はじめ)

 

「お父上の名は?」

 

「父も肇だ」

 

 これは恐らく諱の文化が影響している。

 同じ向田肇でも、肇はあくまで仮名に過ぎない。

 彼らにしてみれば、真の名である諱が最も重要なのだ。

 

 なので父・子が絡む私生活では少々不便をするかもしれないが、本人達としてはオーケーなのだ。

 

「では、肇。調子はどうだ?」

 

 それをこの状況で聞くのか?

 とはいうものの、訓練を受けていない人間に尋問らしい尋問を求めるのは難しい。

 

「見てわからない? ……最悪だよ」

 

「だ、だろうな……」

 

 ふと、ゆきの態度が普段と違うことに気付いた。

 どことなく、少し尊大に見えるこの態度は───あくりの真似だろうか?

 

 自分が親を奪ってしまった少年。

 そんな少年に、自分を少しでも偉大な人間に見せようと思っているのだろうか?

 

───ちょっと……推測が雑だな。

 

 まだ情報が少ない、様子を見るとしよう。

 

「では……どのような取り調べを受けた?」

 

 この問いを聞いた看守は、少々不機嫌そうな表情になった。

 葦原連邦になってから、拷問の類は基本的に(・・・・)禁止された。

 自分の仕事に疑いを持たれたのだと思ったのだろう。

 

「話を、聞かれただけ。何故、そのような真似をしたのか……

誰の指示で行ったのか……」

 

 そう、少年───肇の犯行には疑問点があった。

 出入り口で武器の所持をチェックされる世博会場、刃物とはいえ持ち込むのは困難だ。

 

 どうやって、復讐者が会場に刃物を持ち込んだのか?

 連邦が知りたがるのも当然だ、証言次第では葦原政府を責める材料になる。

 

「どう、答えた?」

 

「変わらないよ……父上の仇討ち、裏口から忍び込んだ。

指示した者などいない」

 

 良介は看守に視線をやると、彼は確かに頷いた。

 事前の証言と変化はないらしい。

 

「そうか……やはり、仇討ちなのか。

なら、狙いは私にするべきだったな」

 

「いいや……狙いは魔王ひとりだよ」

 

 すると、肇は良介を見上げた。

 口ぶりとは裏腹に、その視線に害意は感じられなかった。

 そこにあったのは不安だけだった。

 

「……私は、政府軍相手に多大な戦果を挙げた」

 

「ゆ……竜司ちゃん?」

 

 突如、ゆきが自分の戦果を喧伝し出した。

 思わぬ言動に良介は驚き、答えを求めるために一歩踏み出そうとするも───

 千代が手を引き、その歩みを止めた。

 

「蒼穹の魔王ほどではないが、多大な戦果だ。

聞けば政府の側も浅葱(あさぎ)色のオロールと呼んでいると聞く」

 

 何をしたいのか、良介にはさっぱりわからなかった。

 これではただ、「私は凄く強いぞ」と言っているだけだ。

 父親を失って悲しみに暮れている少年にするべき言動ではない。

 

 相変わらず千代には止められているが───

 無理に止めるべきか?

 

「お前の父上は……そんな私相手に、よく戦った」

 

 この一言でようやく、良介はゆきの真意を悟った。

 

 お前の父親は健闘した。

 とても強かったが、相手が少し悪かっただけ。

 ゆきはそう言いたかったのだ。

 

 あくりの真似をした尊大に感じる物言いも、大物感を出したいため。

 不器用な女である。

 

 なんであれ、現代人の価値観からは遠く離れた賞賛だが。

 

「……ありがとうございます」

 

 少年は深々と一礼した。

 しかし、上げられた表情の曇りは晴れなかった。

 

「でも……もう、何もわからないんです」

 

「何がわからないんだ?」

 

「僕は……僕は、向田肇なのか。

父は、本当に夷俘海峡で散ったのかすらも」

 

「えっ?」

 

 良介とゆきは思わぬ言葉をぶつけられて、固まってしまった。

 

 向田肇だと名乗ったのは、自分ではないか。

 それに世博会場では、父上の仇とも言っていた。

 全部、少年自身の発した言葉なのだ。

 

 それが、わからないとはどういう事なのか?

 

「でも、自分で言ったではないですか。

そう……仇だと」

 

「あの時は。でも、時が経ってわからなくなったんです。

僕には向田肇という名と、同じ名を持つ父の存在がある。

そう覚えていても……畏怖の魔王を恨んでいた記憶はないんです」

 

「ま、待って……それは……?」

 

「父上から、出陣の前に(したた)めた文を頂きました。

葦原のために戦う決意と、武士として幕臣達と差し違える結果となっても、

恨みなどない。そのような事が書かれていました」

 

 本人からそう聞いていたとしても、遺族がどう感じるかは別問題だ。

 だから、まだ話に矛盾点は存在しない───

 

「ですので、僕も父が戦いの中で散ったと知って……無念でした。

しかし、それも戦の定め。幕府を、畏怖の魔王を恨みはしません」

 

「では、何故あの時……?」

 

 そこが肝心だ。

 肇は父からの手紙で恨む事はないと聞き、本人もそう努めた。

 

 では、そんな人間がなぜ暗殺を目論んだのか?

 

「記憶にあるのは……強い光です。

暗闇の中で何十時間も縛られ、不意に強い光と言葉を浴びせられる……」

 

「拷問……いや、洗脳か!」

 

 良介の呟きに、千代が頷いた。

 

「おかしいと思ったんだよねぇ……

心を読んでも、会場に至るまでの道筋が途切れ途切れだったんだよ。

裏口から入ったとか言ってるけど、裏口の形全然違ったし……

おかげで、あの時も糸を全く辿れなかった」

 

 サトリが読心能力を利用して尋問をする場合、関連するものを連想させるという。

 

 人間の思考はほとんどが反射で行われ、完璧な制御は難しい。

 だから例えば、銃の入手経路を探りたければ、その銃を見せつければいい。

 あとは勝手に色々教えてくれるとか。

 

 全て千代との雑談で得た知識である。

 まさに回避不能だ。

 

 しかしここに、完璧な回避手段が確立したのだ。

 

「サトリの尋問を回避するには、そもそも記憶がないか……

それっぽい記憶を植え付ければいいって事か」

 

「まさか……こんな手を打ってくるとはねぇ。

神祇官(あいつら)サトリ(あたしら)嫌いなのは知ってたけど」

 

 確かに、サトリは万能に見えてそうでもない。

 あくまで常人よりも勘が良く、心を読める者がいるだけ。

 全知全能ではないのだ。

 

「……だから、僕はもう何もわからないんです。

僕は向田肇なのか、父も肇なのか、夷俘海峡で散ったのか……

何も、何もわからないんです……」

 

 自分が経験していない記憶を植え付けられる。

 そのショックは果たして、どれほどのものなのか。

 

 生まれ育った町の記憶、友人や恋人達との経験、そして胸に内に覚えた感情。

 あらゆる物事に嘘っぽさが生まれ、やがて───

 自分が何者なのかすら、わからなくなるのだろう。

 

 人間の脳など、所詮は電気信号で意識を得ているだけだ。

 それを薬品やら電気ショックやらで刺激すれば、おかしくなる。

 

 向田肇と名乗った少年は、そうして自分を奪われてしまったのだ。

 

 涙を流す少年に、良介は何も出来なかった。

 

 もしかしたら今まで信じてきた自分は、自分ではないかもしれない。

 そうした恐怖に少年は正気を失い、暴れ狂い───

 自分の目前に、助けてと書いたのだ。

 

 何が出来る?

 良介のような、人殺ししか能のない業人(ごうにん)に、何が出来る?

 

 肝心な時に限って、何も出来ない男。

 志村良介は例によって、何も出来ない───

 

「私は! ……私は、サトリだ」

 

 ゆきは違った。

 呼吸を整えてから、彼女は続けた。

 

「人よりも多くを知ることが出来る、サトリだ。

だから……言っただろう? 夷俘海峡のあの空にいた、戦闘機乗り。

彼と君の思念はよく似ている。あの時散ったのは、君のお父上だ」

 

 良介も、彼女との付き合いはまあまあ長くなってきた。

 だからこそわかる。

 

 これは───半分くらいはハッタリだ。

 確証は持てていないが、覚悟を持って発せられた言葉。

 

 だとしても、自分を見失った少年には光明に映ったのだろう。

 

「本当に、本当に、そうなのですか……?」

 

「うむ、間違いない……」

 

 しばらくの間、少年は泣き続けた。

 洗脳や仇討ちのような事情のない、素のままの少年の姿。

 彼が泣き止むまで、ゆきは鉄格子越しにその頭を撫で続けた。

 

 看守が良介に面会時間の限界を、腕時計を指差すことで伝えた。

 それを視線だけで、なんとか黙認してもらい───

 

「もう、大丈夫です」

 

 泣き止んだ少年からは、今までのように不安定な印象は消えていた。

 

「平気か?」

 

「はい……父上を討った相手に慰められるとは、思いもしませんでしたが」

 

「それは……」

 

「わかっています。これも戦場の定め、恨みはありません」

 

 涙の跡が残った顔で、少年は頷いた。

 

 彼の人生は、まだまだ辛いものになるかもしれないが───

 少なくともゆきのおかげで、一歩踏み出す余地が生まれた。

 

「さてと……それで、なんて呼べばいい?」

 

「向田肇で。それ以外に、思い当たる名前がないので」

 

 良介の問いに少年、肇は答えた。

 

 その瞬間に、パシャリ。

 今度はフラッシュを炊かずに、四谷が撮影したのだ。

 

「なーんか、とんでもない話を拾っちゃったなぁ……」

 

「記事は書けそう?」

 

「い、いや……言っちゃ悪いけど、確たる証拠がなさすぎて……

流言飛語(りゅうげんひご)の類で片付けられちゃうかなぁ」

 

 それも当然だ。

 肇は拘束された時にすべてを(・・・・)調べられ、何もない事が確認されている。

 

 だからこそ、タチが悪い。

 洗脳を受けたとする証拠がないのだ。

 

「です、よね……」

 

「安心しろ」

 

 四谷の言葉に肩を落とす肇に、ゆきは語り掛けた。

 

「必ずや政府を打ち倒して……肇に行った蛮行の数々。

世の明るみに出してやる」

 

 と、宣言してみせた。

 

───ちょっと、あくりちゃんの真似から外れてるかな?

 

 言うな、本人も精一杯やっているのだ。

 父を討った強敵から、悪人を打倒する正義の味方の役割を。

 

「……はい!」

 

 肇の表情に初めて、明るい笑みが浮かべられた。

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