蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年4月25日
真田藩 真田空軍基地
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
「良介さん。やはり……」
隣に座るゆきは、良介にそっと囁いた。
「ああ、始まるんだろうね」
ペンギン隊、精兵隊、オメガ隊。
この彰義隊に加えて、連邦海軍の航空隊であるランサー隊とヴィクター隊。
作戦室に呼ばれた顔ぶれを見て、良介はすぐに確信した。
東国地方奪還作戦、その第一段階が始まるのだ。
「諸君、揃っているな」
松平吉宗を先頭に、江夏剛明海軍参謀。
それと、連邦陸軍の松本
吉宗は作戦室の面々を見渡し───最後に、良介とボスへ視線をやった。
───ていうか、お前連邦空軍の要職から降りたんじゃなかったのか?
なんだかんだ、人材不足で戦略・戦術が出来る人間がいないのだろう。
降格扱いとはいえど、やれる人間がいないのであれば仕方がない。
とはいえ、政治的に不誠実な事に変わりはないが。
「諸君らには東国地方奪還作戦、その第一歩を担ってもらう」
場が騒然とすることはなかった。
しかし間違いなく、誰もが息や生唾を飲んで緊張を高めたのがわかった。
東国地方───首都武揚奪還が始まるのだから。
「だが、此度の作戦における主役は我々空軍ではない……
こちらの松本柳北少佐率いる、連邦陸軍第一戦車隊だ」
紹介された柳北は恭しく会釈し───知り合いの良介に視線を送った。
良介は満面の笑みで会釈を返す。
「今回の作戦では、空海軍の皆様に
スクリーンに地図が投影される。
その地形は道央藩智台のすぐ南の山間部、現在の最前線に当たるエリアだ。
「
東の沿海部、
月光には葦原の戦国時代を終わらせた、大和幕府初代将軍を祀る神社がある。
「ご存じの通り、政府軍は果照宮に大拠点を築いています。
本作戦は果照宮及び月光を奪還し、東国地方への橋頭保を確保します」
古い時代、神社は一種の砦として機能するように設計されてきた。
果照宮も例外ではなく、奥葦原と東国地方の境界を睨める位置に立地している。
残念ながら、連邦側は搦め手を選べる状況ではない。
戦車隊を突っ込ませて、不利なところはCASで打開する。
真正面から激突するしかなかった。
「智台と月光とを繋ぐ月光街道は狭い山間部となる。
作戦の主役は戦車隊だが……鍵を握るのは航空支援だ」
敵が何重もの防御線を築き、さらには進行方向の限られた地形。
戦車部隊でなければ耐えられない攻勢だ。
「作戦は長時間に及ぶと推測される。
よって、智台空港と空母
連邦海軍航空隊及びペンギン1は青龍の位置を見失わないように」
思わぬところで自分の名が挙げられ、良介は微妙な表情を浮かべた。
そう、良介が搭乗する予定のP-98は海軍機であり、青龍に着艦可能なのだ。
「覚えることが多いな……」
「蒼穹の魔王。あなたにはその名に恥じぬ活躍が求められています。
まさか、出来ないとは申しませんよね?」
剛明中佐がわかりやすく、良介を挑発した。
まったく、この男は相変わらずである───
「期待には応えるよ。だからしっかりサポートしてくれよ?」
「ええ。私は責任ある江夏家の武士……
ろくな助けもなく、無理難題を命じはしません」
腹の立つ物言いをする男だが───
嘘やいい加減な事をする人間でもない。
今までの経験から、それだけは信用できた。
「よし。精兵隊はいつも通り、敵の守りを耕してやれ!」
「応! お任せあれ!」
「オメガ隊は
「了解っ!」
「ペンギン隊はいつも通り、柔軟に状況に対応せよ!」
「ああ、いつも通りな」
P-98は対地攻撃に不向きな設計だが───
ほぼ目視照準とはいえ、爆弾やロケットの投射は可能だ。
レーザー照準のような精密爆撃は不可能だが、指定された地点を吹き飛ばすくらいは出来る。
「ヴィクター隊はCASを。ランサー隊はその直接援護。
空軍に遅れをとる事は許しません」
「はっ、了解」
「元より手を抜く気はありませんよ!」
まるで背伸びする子供を相手するかのように、ランサー隊とヴィクター隊の隊長が応えた。
とても大雑把にそれぞれの役割が周知されると、柳北が最後の締めに入った。
「敵が拠点を築いた果照宮ですが……必要であれば破壊もやむなしと、
大和利信元将軍より仰せつかっています」
「向こうに利用されている以上、傷つけずに取り返せなどと、無茶は言わん。
きっと、
どう考えても仕方のない話のはずでも、時に思わぬ事情でストップがかかることはある。
今回はきっちり、その懸念点はクリアされていたらしい。
「では、開始まで準備を怠らぬように。解散!」
解散が命じられた後も、それぞれの表情から緊張が解れることはなかった。
自分達の首都、象徴を取り戻す。
その第一歩が始まろうとしているのだから。