蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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161 中洲作戦「Death from Above」

央暦1970年4月25日

真田藩 真田空軍基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

「良介さん。やはり……」

 

 隣に座るゆきは、良介にそっと囁いた。

 

「ああ、始まるんだろうね」

 

 ペンギン隊、精兵隊、オメガ隊。

 この彰義隊に加えて、連邦海軍の航空隊であるランサー隊とヴィクター隊。

 

 作戦室に呼ばれた顔ぶれを見て、良介はすぐに確信した。

 東国地方奪還作戦、その第一段階が始まるのだ。

 

「諸君、揃っているな」

 

 松平吉宗を先頭に、江夏剛明海軍参謀。

 それと、連邦陸軍の松本柳北(りゅうほく)少佐が作戦室の壇上に立った。

 

 吉宗は作戦室の面々を見渡し───最後に、良介とボスへ視線をやった。

 

───ていうか、お前連邦空軍の要職から降りたんじゃなかったのか?

 

 なんだかんだ、人材不足で戦略・戦術が出来る人間がいないのだろう。

 降格扱いとはいえど、やれる人間がいないのであれば仕方がない。

 とはいえ、政治的に不誠実な事に変わりはないが。

 

「諸君らには東国地方奪還作戦、その第一歩を担ってもらう」

 

 場が騒然とすることはなかった。

 しかし間違いなく、誰もが息や生唾を飲んで緊張を高めたのがわかった。

 

 東国地方───首都武揚奪還が始まるのだから。

 

「だが、此度の作戦における主役は我々空軍ではない……

こちらの松本柳北少佐率いる、連邦陸軍第一戦車隊だ」

 

 紹介された柳北は恭しく会釈し───知り合いの良介に視線を送った。

 良介は満面の笑みで会釈を返す。

 

「今回の作戦では、空海軍の皆様に近接航空支援(CAS)をお願いします」

 

 スクリーンに地図が投影される。

 その地形は道央藩智台のすぐ南の山間部、現在の最前線に当たるエリアだ。

 

作戦区域(AO)はかつての幕府()領である月光。

東の沿海部、菜戸(なと)藩領でも近衛軍による解放が並行して行われます」

 

 月光には葦原の戦国時代を終わらせた、大和幕府初代将軍を祀る神社がある。

 果照宮(かしょうぐう)という、大きな神社だ。

 

「ご存じの通り、政府軍は果照宮に大拠点を築いています。

本作戦は果照宮及び月光を奪還し、東国地方への橋頭保を確保します」

 

 古い時代、神社は一種の砦として機能するように設計されてきた。

 果照宮も例外ではなく、奥葦原と東国地方の境界を睨める位置に立地している。

 

 残念ながら、連邦側は搦め手を選べる状況ではない。

 戦車隊を突っ込ませて、不利なところはCASで打開する。

 真正面から激突するしかなかった。

 

「智台と月光とを繋ぐ月光街道は狭い山間部となる。

作戦の主役は戦車隊だが……鍵を握るのは航空支援だ」

 

 敵が何重もの防御線を築き、さらには進行方向の限られた地形。

 戦車部隊でなければ耐えられない攻勢だ。

 

「作戦は長時間に及ぶと推測される。

よって、智台空港と空母青龍(せいりゅう)を補給拠点とします。

連邦海軍航空隊及びペンギン1は青龍の位置を見失わないように」

 

 思わぬところで自分の名が挙げられ、良介は微妙な表情を浮かべた。

 そう、良介が搭乗する予定のP-98は海軍機であり、青龍に着艦可能なのだ。

 

「覚えることが多いな……」

 

「蒼穹の魔王。あなたにはその名に恥じぬ活躍が求められています。

まさか、出来ないとは申しませんよね?」

 

 剛明中佐がわかりやすく、良介を挑発した。

 まったく、この男は相変わらずである───

 

「期待には応えるよ。だからしっかりサポートしてくれよ?」

 

「ええ。私は責任ある江夏家の武士……

ろくな助けもなく、無理難題を命じはしません」

 

 腹の立つ物言いをする男だが───

 嘘やいい加減な事をする人間でもない。

 

 今までの経験から、それだけは信用できた。

 

「よし。精兵隊はいつも通り、敵の守りを耕してやれ!」

 

「応! お任せあれ!」

 

「オメガ隊は噴進弾(ロケット)投射後は直掩だ!」

 

「了解っ!」

 

「ペンギン隊はいつも通り、柔軟に状況に対応せよ!」

 

「ああ、いつも通りな」

 

 P-98は対地攻撃に不向きな設計だが───

 ほぼ目視照準とはいえ、爆弾やロケットの投射は可能だ。

 レーザー照準のような精密爆撃は不可能だが、指定された地点を吹き飛ばすくらいは出来る。

 

「ヴィクター隊はCASを。ランサー隊はその直接援護。

空軍に遅れをとる事は許しません」

 

「はっ、了解」

 

「元より手を抜く気はありませんよ!」

 

 まるで背伸びする子供を相手するかのように、ランサー隊とヴィクター隊の隊長が応えた。

 

 とても大雑把にそれぞれの役割が周知されると、柳北が最後の締めに入った。

 

「敵が拠点を築いた果照宮ですが……必要であれば破壊もやむなしと、

大和利信元将軍より仰せつかっています」

 

「向こうに利用されている以上、傷つけずに取り返せなどと、無茶は言わん。

きっと、果照大権現(かしょうだいごんげん)様もお許し下さる」

 

 どう考えても仕方のない話のはずでも、時に思わぬ事情でストップがかかることはある。

 今回はきっちり、その懸念点はクリアされていたらしい。

 

「では、開始まで準備を怠らぬように。解散!」

 

 解散が命じられた後も、それぞれの表情から緊張が解れることはなかった。

 

 自分達の首都、象徴を取り戻す。

 その第一歩が始まろうとしているのだから。

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