蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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166 中洲作戦「Death from Above」

央暦1970年4月28日

真田藩 真田空軍基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 作戦室の窓はカーテンが閉め切られ、薄暗いなかで映写機から投影されるガンカメラの画像が壇上の人物を照らしていた。

 

「……随分と大所帯だね」

 

 壇上に立つひとり、エラ・アーロンは良介達を見ると、呆れたような口調で告げた。

 

「熱烈なファンが多くてね」

 

「誰がファンだ。俺らのお目当ては大入道だけさ」

 

 新選組の入道が、ダジャレのつもりだったのだろう。

 俺という言葉を強調しながら言った。

 結果はド滑りである。

 

「新選組その他の諸君。済まないがこれから機密を扱うため、席を外して欲しい」

 

 秘密主義でお堅い連邦軍の中でも話の分かる方である吉宗だが、今回ばかりは頷かなかった。

 

 そっと横目で歳三の表情を確かめると───

 彼の視線は一点に向けられていた。

 

 スクリーンに投影されている対象、大入道に。

 

 ともあれ、機密指定とあれば仕方がない。

 吉宗の口調からも、この対応が本意ではない事は伝わる。

 

「悪い、歳三」

 

「……気にするな。皆、鍛錬に戻ろう」

 

 新選組ほか、大入道の話を聞きに来た者達は踵を返していった。

 後味の悪い対応だが、これは仕方がない。

 連邦軍は葦原の軍隊であって、趣味者のサークル活動ではないのだから。

 

 作戦室の顔ぶれを見ると、暗がりに睦平の姿が見つかった。

 他の精兵隊の顔ぶれは大きく減っていたが───

 全滅だけはしなかったらしい。

 

「あれれ、睦平の爺さんじゃないか。無事だったのか」

 

「……ふん、幸いにもな。

じゃが他の死に損ないが何人か、行くべきところへ逝きおったわ」

 

 言葉遣いこそ軽いものだが、その口調には痛々しさがあった。

 内心ではやはり、辛いのだろう。

 

「とはいえ若造、礼を言うぞ。

お前さんの助言でなんとか、儂らは命を繋げたわい」

 

「よくぞ殺してくれたって言われるより、ずっと嬉しいよ」

 

 睦平に会釈すると、良介らペンギン隊の面々も着席した。

 ざっと見るに、デブリーフィングを始めるための顔ぶれは集まっただろう。

 

「これで、全員だな」

 

 吉宗の言葉に、壇上の人間が頷いた。

 

「皆の者。思わぬ乱入がやって来たが、よくやってくれた!

連邦陸軍からの報告により、月光市街地及び果照宮の制圧は進行中。

抵抗は極めて軽微とのことだ」

 

 司令官は自分の策に執着し、頼みの綱であった大入道の失敗を悟ると、引き継ぎさえロクにせず単独で逃亡。

 現場の士気が崩れて当然の顛末である。

 

「また同時並行して行われた菜戸藩での任務だが……

直接援護にあたっていた航空機部隊は壊滅した」

 

「なにぃっ⁈」

 

「そんなっ……それでは、我らの戦いはっ……!」

 

 陸平とゆきが驚愕の声を上げた。

 まさか自分達が文字通り命を削って敵の領土を削ったというのに、もう片方が失敗しては意味がない。

 

 良介は自分の世界で起きている(・・・・・)戦史で、そういうものだと理解していた。

 血を流し、死体を積み上げながらも取り返した土地が、数分後にはまた敵のものになる。

 

 そう、よくある話だ。

 しかし、話というやつは最後まで聞かなければわからない。

 

「皆、落ち着け。直掩機が壊滅しただけで、

近衛軍が遂行した地上の作戦自体は成功している」

 

「そ、そうでしたか……」

 

「まったく、脅かさんで下さい」

 

 新米のゆきはともかく、陸平が取り乱すのは───

 冷静に考えれば不思議な話ではない。

 

 陸平は彰義隊の中でも数少ない、冬天軍閥との戦いを経た実戦経験者だ。

 しかしあの戦いは夷俘島の南西部という局所的なものに終わっている。

 葦原の中でも最年長クラスのベテランパイロットである陸平も、陣地を獲ったり獲られたりという領土の奪い合いは初めての経験なのだ。

 

「わかり切ってた情報はそこそこにして……こいつの問題だ」

 

 エラは指示棒を手にすると、スクリーンの大入道を指した。

 対空迎撃中の大入道を喫水線近くから撮影したこの画像は、ゆきのオロールから撮影されたものだろう。

 データリンクを介して、フツノミタマが受け取ったものに違いない。

 

「やっぱり、リールランドが卸したものに手が加わってる。

後部主砲を取り外して、対空ミサイルや戦術ロケット発射器に換装……

それと、機関にも手が入ってそうだね。

浮遊用魔導エンジンと、前進用ジェットエンジンのノズルが増えてる」

 

 スライドが切り替わり、ゆきが撮影した画像と、距離の遠い大入道の画像が並べられた。

 後者は───下の街並みで思い出した、長坂の世博展示飛行の時のものだ。

 そこにエラが指示棒の先端に取り付けられたマーカーで印をつけていく。

 

「ペンギン隊は世界博覧会の展示飛行で、こいつと遭遇してたよね」

 

「ああ。でも、思い返してみれば甲板の様子が全然違うな」

 

「そう……中心部の対空火器が増設されてる」

 

 高度1万(3050)フィート(メートル)、富士山の頂上並みの高度を飛行する事が多い大入道。

 飛行的にはもう少し高い高度を飛ぶと効率が良いのだが、それは難しい。

 

 1万フィートは、人間が設備・装備抜きで活動出来るギリギリの高度。

 ダメージコントロールや兵装の装填のため、上甲板(そと)で活動する人間は必須だ。

 

 そういった人員のことを考えなければ、あれはもっと高く、速く飛べるらしい。

 実際、100ノットの高速飛行をしている際は上甲板の人員は収容しているとか。

 

 話を対空火器に戻そう。

 増設されたのは砲塔型の機銃で、申し訳程度の防御能力を持っている。

 

 高速飛行に耐え、かつ増加した重量や空気抵抗を加味しても、元のカタログスペック100ノットを維持している。

 大した改修だ、戦闘機ですら兵装を搭載すると速度性能が著しく下がるというのに。

 

「葦原の工業力を甘く見てたわけじゃないけど……想像以上の重武装だ。

改修じゃなく、もはや発展型と見た方が良さそうだ」

 

「ですが、世博の時と違い過ぎます。

一体、どのような手段で改修を隠したのでしょう?」

 

「その答えを知るために、もっと解像度の高い画像が欲しいな……」

 

 敵に戦力や弱点を把握されないように隠すのは、戦いの常道だ。

 しかし今回の場合はどうやってそれを伏せたのか。

 

 良介には、ひとつの推論があった。

 

「こっちの世界には、スタンダード・フレックスってコンセプトがあってさ」

 

「ああ、アレか……確かにそれならあり得るな」

 

 ボスもその単語を聞いて、良介の推測を理解してくれた。

 

「……合衆国(わたしたち)も知らない技術だ、聞こう」

 

 過去に合衆国に神兵が来たらしいが、どうやら海軍関係の技術は伝来しなかったらしい。

 それも当然だ、スタンダード・フレックスは現状デンマーク海軍での採用に留まるコンセプト。

 米海軍も沿海域戦闘艦(LCS)で似たようなコンセプトを採用したがポシャり───

 

 つまりまあ、マイナー技術である。

 良介が読んだ書籍においても、そのような扱いを受けていた。

 

「そう難しい話じゃなくて、任務に応じて兵装や装備を換装出来るように

各パーツをモジュール化してるんだ。

元の海軍はあんまり懐事情が良くないから、

艦艇1つで色んな任務をこなせるようにさ」

 

「……モジュール化されているなら、単なる蓋にすることも出来ると」

 

「ただ、こいつが採用されてたのは精々フリゲート。

戦艦クラスの大型艦艇で採用するには……どうなんだろうね?」

 

 スタンダード・フレックス規格のモジュールは15トンの小型クレーンで換装可能という話だ。

 しかし戦艦で運用する装備ともなれば───ガントリークレーンばりのデカブツが必要だろう。

 

「興味深いね……でも、その案は私も腑に落ちるものがある」

 

「ふふん、世界一のメカニックお墨付きか」

 

「というのも、リョースケ。あなたのやった事なんだけど……」

 

 スライドが切り替わり、先ほどよりも酷く劣った画質の画像に切り替わった。

 これはP-98のガンカメラ、大入道の主砲周辺に爆弾を投下した際のものだ。

 

「いくら2000(900)ポンド(キロ)でも、あの速度があっても。

ゴライアス級の装甲に食い込むのは無理だ。文字通り弾き返される」

 

 実は良介も内心でそのような懸念はあった。

 航空爆弾を用いた対艦攻撃には大まかに2つある。

 

 ひとつは単純な船体に対する直接攻撃。

 船体に爆弾を直接ぶつけて、その爆発でダメージを与える。

 

 もうひとつは至近距離の海中に爆弾を落とし、爆圧で装甲の薄い喫水線下にダメージを与えるもの。

 現代ではそれを発展させたクイック・シンクなるものがあるが───

 あれはミサイルで無力化した大型艦にトドメを刺すもの、今回の例とは少し違うだろう。

 

 大入道に後者は通用しない。

 船体底部が最も重装甲というバカみてーな特徴を持ち、そもそも海ではなく空が大入道の舞台なのだから。

 

 航空爆弾を船体に直接叩きつけても、弾き返されて無力化されるのではないか。

 一か八かの賭けだったが、それに勝ったのだ。

 

 内心で少しだけ疑問に思っていたが───

 

「でも、各部位……それこそ、主砲もモジュール化されてたら」

 

「兵装周辺は思ってた以上に装甲が薄い……という事になる。

飛行戦艦だから、魚雷や爆弾のような大質量兵器を叩き込まれる余地がない。

そんな油断をしてたんだろうね」

 

 航空機が搭載可能な、例えば空対空ミサイル(AAM)としよう。

 葦原で一般的なAAM、陽光の弾頭重量は9キロ未満。

 

 さらに陽光の信管は申し訳程度の精度とはいえ、仮にも近接信管。

 破片をばら撒いて機体を損傷させるもので、直撃ほどの威力はない。

 故に、装甲目標に対する攻撃力はぐぐっと低下する。

 

 直撃を想定するにしても、ペンギン隊の他の面々が搭載していた70ミリロケットが精々。

 あれの弾頭重量は陽光よりずっと少なく、直撃させても大した被害はない。

 

 まさか、無誘導自由落下しかない航空爆弾。

 それもクソ重い900キロの大型を叩きつけられるとは、夢にも思ってなかったのだろう。

 

 空という地の利を前に、大入道は大質量兵器の脅威から離れていたのだ。

 多少装甲を薄くして汎用性、火力偏重にしたくなる気持ちもわからんでもない。

 

 だが今回、良介がその脅威を直接叩きつけたのだ。

 

「大入道は、懐に潜り込めば倒せない敵じゃない……」

 

「向こうも目が覚める思いだろうな」

 

 ゆきの呟きに、ボスが同調した。

 しかしこの教訓を得たのは連邦軍だけでなく、政府軍も同じだ。

 

 自身の最高戦力に泥を塗られたのだ。

 今回のような雑運用はしなくなる。

 

「だが、油断するな。向こうだってそれを知ったんだ。

護衛抜きでノコノコと出て来るような絶好の機会、もう来ないだろうな」

 

「とはいえ、しばらくあいつらが邪魔出来なくなったのは朗報だよ。

武揚奪還にも口出しは出来ない」

 

 良介の爆撃により、前甲板の主砲2基は損傷。

 それだけでなくFCSやレーダー類も損傷した可能性がある。

 これだけのダメージを受けては、しばらく前線に出てこないだろう。

 

「うむ……奴らのいない武揚、攻略難易度は著しく低下する」

 

 吉宗は感慨深い様子で頷いた。

 大入道の大暴れは、幕府軍の面々のトラウマ(PTSD)だ。

 前線にいなくなるという情報だけでも、心理的負担は大いに軽くなる。

 

「それで宗治郎、いつ武揚に乗り込むの?」

 

「それはもう少し掛かるな……

俺たちはまだ、東国地方の玄関口に入っただけだからな」

 

 東国地方は奥葦原ほどの面積や起伏はないが、決して小さな土地ではない。

 そして、守りも尋常ではない。

 このまま快進撃で首都解放、とはいかないだろう。

 

「ひとまず諸君。改めて、此度の活躍は誠に大義であった。

我らの葦原を取り戻すため、今日は休み英気を養って欲しい。

すぐにでも貴官らの働きが必要になるのだからな……解散!」

 

「……えっ?」

 

 ゆきの呟きをよそにこの場は解散となり、それぞれが行きたいところへと向かっていく。

 

「ふぅ……それにしても、腹が減ったな」

 

「では、食堂へ参るか」

 

「う、うん……」

 

 良介が独り言を漏らすと、あくりが反応した。

 

 数日前の一件以来、彼女との距離感は大きく変化してしまった。

 いや───厳密には、彼女の方が距離感を改めたというべきだろう。

 

 凛として寡黙なところに変化はないが、明らかに良介に対して積極的に絡むようになってきた。

 自分の心にある感情(こい)を自覚して───行動に反映されるようになったのだろう。

 

 良介はなるべく、以前と変わらないように接している。

 嬉しい事は間違いないが───部隊を預かっている身の上で、依怙贔屓(えこひいき)はよろしくない。

 

 この男の場合、それ以前の問題のような気もするが。

 

「ゆき、お前も来るといい。おめがの連中も、食堂に来るだろうからな」

 

「えっ」

 

 とはいえ、過剰な心配はしていなかった。

 松代あくりは何も変わっていないのだから。

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