蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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169 敵艦隊迎撃1「Mission Kill」

央暦1970年4月30日

真田藩 真田空軍基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 自身の足元に転がってきたボールを受け取ると、渾身の力を込めて蹴り上げる。

 ボールは鋭い機動を描きながら飛翔し、ゴールを守る入道の真横をすり抜けた。

 

 ボォン!

 大きな音を立てて、ボールはコンクリートの隊舎に叩きつけられた。

 

「よーし、ゴールだ!」

 

「うっわ、すげぇな」

 

「慣れればこんな速さで球を蹴れるものなのか?」

 

 フットサル、航空自衛隊を代表する簡易スポーツであり、良介も暇な時は同僚と興じたものだ。

 この世界にフットサルはなかったが、幸いにも錬金術という都合のいい技術があった。

 それっぽいボールをエラに錬成してもらい、隊舎付近でやり始めたのだ。

 

「……私のような世界クラスの錬金術師にボールを錬成してもらえるの。

あなたくらいだよ?」

 

 心底呆れた様子で、駐車場の縁石に腰掛けるエラは言った。

 自分の製作物がどのように使われるのかを見たい、という要望で彼女はフットサルを見学しているのだ。

 

「いやあ、ありがとう。久々にフットサルをやれたぜ」

 

「こういう球技も、たまにはいいな!」

 

「まったくだ。反射神経の、いい鍛錬になる」

 

 良介のフットサルに付き合った鉄之助と入道は、少しだけ荒れた呼吸を整えながら賛同した。

 

「まったく……こういう下らない事に私の技術使うの、今回限りだからね」

 

 という割に、エラの表情はどこか晴れやかに見えた。

 

 戦争という魔物が、すっかり日常に居座った日々。

 そんな中に訪れた、日常という非日常。

 残念ながら、戦争というやつはあっさりとそれを踏み潰してくれるのだ。

 

 プツン。

 拡声器からマイクが入る音が響いた。

 自衛官だけでなく連邦軍人もまた、この音に敏感だった。

 

 良介達は口と足を止めて、拡声器に視線をやった。

 

「彰義隊各員へ。至急、作戦室に集合せよ。以上」

 

 空襲警報は鳴っていないが、召集は掛かる。

 つまり、離れたところで緊急事態が起きたという事だ。

 

「ほら、行っておいで。こいつは私が片付けておくからさ」

 

 フットサルのボールを抱えたエラは、優しく3人に告げた。

 ボールの後片付けは、フットサル後でいつも揉める話題である。

 

「ありがと!」

 

 良介に続いて、鉄之助と入道も会釈して礼を示すと駆け出した。

 誰のものかは定かではないが、命が掛かっている。

 戦争という奴は、それが日常となってしまうのだ。

 

 良介達が作戦室に飛び込んだ頃には、既に真田基地所属の彰義隊全員が揃っていた。

 

「来たな。着席してくれ、それから話す」

 

 良介と鉄之助、入道はそれぞれの部隊で固まっているところへ赴き、腰を下ろす。

 ペンギン隊は今日非番であったため、みんな私服を身につけていた。

 

「悪い、遅れた」

 

「良介さん、鉄之助達と何をしていたんですか……?」

 

「ちょっとスポーツに興じててさ」

 

「フットサルか? ここまで来てお前、好きだなぁ」

 

 ボスはすっかりお見通しらしく、正確に言い当ててみせた。

 そういえばボスはフットサルがあまり好きではなかったように記憶していた。

 誘ったとしても、義足となった彼の足で参加は厳しいだろうが。

 

「色んな筋肉使わないと、鈍っちゃうからな」

 

 壇上に立つ吉宗の視線を感じた。

 そろそろ始めたいという意思表示だろう。

 両手を軽く挙げて、良介は従う意向を見せた。

 

「……皆、緊急事態だ。武揚沖に停泊、防衛していた賊軍第6艦隊が出航。

北東、奥葦原へ向けて移動を開始した」

 

 首都武揚から出撃する敵艦隊。

 間違いなく、月光と菜戸藩奪還を受けての動きだ。

 

 吉宗の言葉と共にスクリーンに菜戸藩周辺の地図が投影され、展開してる第一艦隊の戦力配置図が映し出された。

 

「目的は現在、菜戸藩沿海部に展開する連邦海軍第一艦隊への攻撃だろう。

彼らは先の戦い受けた傷が癒えていないうえ、

自力で撃退したものの空襲を受けている。

状況は(かんば)しくない」

 

 戦力は空母青龍を旗艦とし、播磨型戦艦信濃も同行している。

 さらにミサイル巡洋艦2隻とミサイル駆逐艦4隻。

 旧式の戦艦や巡洋艦、駆逐艦も10隻近くが参加している。

 

 まさに、連邦海軍の総力半分を割いた大艦隊。

 それでもまだ手負いだ。

 

 これだけを見れば状況は優位に思えるが───戦力という奴は比較するものだ。

 

「賊軍の第6艦隊は播磨型戦艦、薩摩と肥前。2隻を抱えている」

 

「あのバカデカい戦艦が2隻……⁉︎」

 

 播磨型は3連装50センチ砲3基を備えた化け物戦艦である。

 この主砲は三式弾を装填可能で、あらゆる目標に対して圧倒的な制圧力を誇る。

 

 播磨型1隻で、松後藩の中枢である先湊の街は消し飛ばされた。

 それだけでなく、京の禁野である嵯峨野(さがの)の森も焼け野原となっている。

 あんな真似が出来る艦艇が2隻、それに艦隊まで伴っているというのだ。

 

「……ヤバくない?」

 

「とてつもなくヤバい。だからこそ、第一艦隊を救わねばならん。

奴らは武揚奪還に必要不可欠だからな」

 

 第一艦隊だけでなく、播磨型戦艦である信濃の主砲は地上軍が支援を求める相手としてこれ以上なく頼れる大砲だ。

 武揚奪還戦では、まさに必要不可欠な存在となるだろう。

 

 戦艦で首都の街を吹っ飛ばすというのも、嫌な話だが。

 

「宗治郎大佐、質問がある。もし播磨型戦艦とやり合うとして、

航空機搭載兵装での装甲貫徹(かんてつ)は困難に思える。何かプランはあるのか?」

 

 珍しくボスが作戦に口を挟んだ。

 とはいえ、良介も同感だった。

 

 戦艦や戦車という奴は、自分が搭載している主砲に耐えられるように設計される。

 つまり、播磨型は最低でも50センチ砲の直撃に耐える装甲を持っているわけだ。

 

 大入道の場合、飛行戦艦と各部品のモジュール化という特殊条件のおかげで2000(900)ポンド(キロ)爆弾が通用した。

 しかしあくまで、これは特殊な条件だった。

 

 海を浮かぶ単純明快な大艦巨砲主義の体現を相手取るならば、また異なってくる。

 航空機が搭載している兵装で、撃沈は困難だ。

 

「正直、不可能だ。だがFCSを破壊しての無力化ならば、恐らく可能だろう。

それでも戦闘続行した場合は信濃の火力に頼る他あるまい」

 

無力化(ミッション・キル)に集中し、撃沈は戦艦任せか……了解だ」

 

 撃沈は諦めて、ミッション・キルを指向する。

 判断としては妥当の極みという奴だろう。

 

「俺からも質問。敵航空機の存在は?」

 

 良介が挙手すると、それも吉宗は答えを用意していた。

 

「可能性としてはあり得る。実際、事前に空襲を仕掛けて来たわけだからな。

航空機単独での撃退は困難と見た今、

艦隊の接敵に合わせて送り込んでくるだろう。

よって今作戦では新選組を直掩とし、ペンギン隊は遊撃として陽光を最大4発。

それ以外の中隊には最低限の自衛装備以外、対空兵装を禁じる」

 

 最低限の自衛装備とは、要するにSRM2発である。

 兵装搭載量が厳しい機体にとってはどちらかに集中したいところだろうが、それで敵機に潜り込まれたらおしまいだ。

 

「また、今作戦では先の智台解放戦で運用した空対艦誘導弾、

AGM-69を使用する。今回の作戦では空軍から何機か運用出来る機体を用意した」

 

「あれ、まだあったんだ?」

 

「少数ながら製造を続けていたのだ。

本当は武揚解放まで温存するつもりだったのだが……こうなってはな」

 

 AGM-69はSAMを改造して造られた、セミアクティブレーダー誘導の対艦ミサイルである。

 データリンクで得た情報を基に中間誘導し、終末誘導は最前線の戦闘機がレーダー照射して行うものだ。

 

 そう、データリンクとレーダー照射が必要となる。

 これは、F-2がなければ使えない兵器のはずだ。

 

「F-2以外でも使える目処立ったの?」

 

「いいや。F-2を使える目処が立ったんだよ」

 

 その言葉と共に作戦室に入って来たのはエラだった。

 今までF-2は武揚解放戦を目安に修理が続けられていたが、想像よりも早い復帰であった。

 

「まだ修理に時間掛かるんじゃなかったの?」

 

「ナーガの修理を一旦止めて、F-2に注力してたんだ。

思ったより壊れてた部品が少なかったからね。今は出撃準備に入ってる」

 

 これは思わぬハプニングというやつだった。

 もちろん、いい意味で。

 

「艦隊とやり合うなら、こいつ以外にないしな。

ありがとう、エラちゃん」

 

「出来れば、無事に持ち帰って来てくれると嬉しいかな。

人も、機体も」

 

「ははは……保証は出来ない」

 

 戦争ともなれば、無事に持ち帰るだけでも一苦労というもの。

 それはエラもわかりきっている話だ。

 彼女は良介の言葉に、嫌味のひとつも返そうとはしなかった。

 

「我ら彰義隊は艦隊決戦に横槍を入れる形で介入する事になる。

菜戸藩領空を超低空で飛行し、敵艦隊左舷側から強襲する」

 

 作戦区域に入る菜戸藩中央部は平坦な低地が多く、隠れられるような山や丘のような地形はない。

 故に、木陰に隠れるような勢いで低空飛行をする必要があった。

 さもなくば、海に着く前にミサイルが飛んでくる。

 

「オメガ隊は先鋒だ。電波撹乱弾頭搭載のロケット弾を搭載し、

敵誘導弾の誘導を妨害。

後続の接近と攻撃を支援せよ」

 

「了解!」

 

 電波撹乱弾頭───ややこしい言い回しだが、結局のところはチャフ弾頭だ。

 炸裂すると周囲に電波を乱反射するアルミ箔が舞い、局所的な電波妨害を起こす。

 敵との間に展開する事で、レーダーを用いた索敵やミサイルの照準を妨害するのだ。

 

「先頭に立ち、敵の目を奪う……最も重要な役目であり、最も危険な役目だ。

オメガ隊の皆、生きて帰るぞ」

 

「……っ! 了解ッ!」

 

 このオメガ隊とは当然、壇上に立つ吉宗も隊長機として含まれている。

 さらに彼が駆るP/A-51には電子戦機の役割もある。

 いざチャフ散布するという時にはECMで電波妨害を行うだろう。

 

 このECMというやつは、実は展開する側はかなり危険な状況となる。

 チャフは電波を乱反射させて妨害するが、ECMは強力な電波を発信することでレーダー波を掻き消す。

 

 強力な電波ということは、レーダーでも強い電波発信源として表示される。

 狙う側からすればよく目立つ。

 そして存在が目障りともなれば、真っ先に狙われるのは言うまでもない。

 

 共に最前で飛び、危険な役割も率先して受け入れる。

 配下として戦う側からすれば、これほど心強い話はないだろう。

 

「ペンギン隊・イグルベ隊はオメガ隊の後続だ。

電波妨害に乗じて肉薄し、敵防空艦を攻撃。防空能力を低減させよ」

 

「宗治郎。F-2なら2000ポンドを4つ積めるけど、どうする?」

 

「貴官には対艦誘導弾の終末誘導を頼みたい。

故に今回は軽量かつ防空艦無力化に十分な70ミリロケットを搭載してくれ」

 

 2000ポンド爆弾ならば、当たりどころ次第で戦艦も仕留められる。

 普通の、戦艦は。

 が、戦いは必ずしも殺すだけ事が重要ではない。

 

 繊細なセンサー、レーダーが戦力の中枢となる防空艦は70ミリロケットや20ミリの機関砲を浴びせるだけで無力化は容易い。

 先ほども触れられたように、あくまでトドメを刺すのは味方艦隊なのだ。

 

「それじゃ、今回の新技術を紹介しよう」

 

 エラがスライドを操作する赫助に合図を送ると、F-2が搭載するFLIR───ではなく照準ポッドが映し出された。

 

異世界(そっち)で運用されてるっていう、誘導型70ミリロケット。

急拵えだけど、それっぽいものをこっちでも作ってみたんだ」

 

「誘導型ロケットって……

この間話したヘルファイア・ジュニア、再現しちゃったのっっっ⁈」

 

「……マジか。まだまだ、この世界の技術を甘く見てたな」

 

 あまりに唐突な報告に、良介とボスは愕然としてしまった。

 

 時折、エラは良介とボスに異世界───つまり我々の世界で運用されている兵器について尋ねていた。

 新しい発想を得たいという名目で、ふたりともまさか実現するとは思っていなかった。

 

 そのうちのひとつこそ、ヘルファイア・ジュニア。

 正式名称先進精密攻撃兵器(APKWS)、米軍が運用するハイドラ70ミリロケットから派生した誘導ロケットである。

 

「現物がないから正確な再現ではないけど、

照準ポッドのレーザー誘導で対象狙わせる事ができる。

これはデータリンクで制御可能だから、

細かい照準はAWACSにやらせればいいよ。

あんな大きい的、そうそう外さないからね」

 

 しれっとAWACSの仕事が増えているが───

 かといって、良介たち現場の戦闘機乗りに迎撃をかわしながらポッドの操作をしろと言われても無理だ。

 

 何のための複座機なのか、という話である。

 この世界では複座の戦闘機があまり一般的な存在ではないため、こういう事になってしまうのだが。

 

「でもデータリンクで制御となると、ラグが大きすぎて対空攻撃は無理だな」

 

「そうだね。そこまで精密な照準を想定したものではないよ」

 

 今回の作戦で想定している的は、水上戦闘艦のブリッジだ。

 高速移動する航空機と比べれば、容易い的に違いない。

 

「ペンギン隊には誘導噴進弾のためにこの照準ポッドを搭載してもらう。

急な事態ゆえ、搭載試験は後回しになったが……

そこは、練度で対応してほしい」

 

「無茶苦茶言うな、おい」

 

「計算では、生半可な事で外れたりはしないよ」

 

 となると約一名、壊しそうな奴がペンギン隊にいるな。

 いつも重力加速度(G)(メーター)の赤いところを振り切っている奴だ。

 

「ま、どっかの誰かさんの機体には特別頑丈にしたから」

 

「どっかの誰かさんね……」

 

 ボスの呟きと共に、作戦室にあった視線が良介へと集中した。

 言わずもがな、というやつである。

 

「わかったわかった、気をつけるよ……」

 

 良介が両手を挙げて降参すると、イグルベ隊の面々から手が挙げられた。

 

「ふむ。でも俺たちにそれはない、という理解でいいかな?」

 

 ペンギン隊と共に飛び込む手筈となっているリックが発言すると、エラは肯定した。

 

「そもそも、あなた達のク連機にデータリンクは積んでないからね。

こっちとしては、積めるかどうかバラして調べてもいいんだけど」

 

「申し訳ないが、それはご容赦願いたい。

こっちにその手の権限はないんでね」

 

 イグルベ隊はエジーレン人民共和国という国から送り出されている。

 国の備品を仮想敵国に調べられたとなれば、彼らの立場は悪くなる。

 

 家族を人質に取られ、他所の紛争への介入を強いられている彼らだ。

 明らかなリスクを許容はしないだろう。

 

「すまない、イグルベ隊。貴官らには、この手の装備を用意出来なかった」

 

「構いません。それで報酬が出るのなら」

 

「ああ。戦って、時々死ぬのが俺らの役目さ」

 

 報酬を送金しなくては、家族に何をされるかわからない。

 そんな背景を持つ連中の、悲壮な覚悟が感じられた。

 

「改めて確認だ。ペンギン隊、イグルベ隊は敵防空艦の防空能力を低減。

続いて直掩として新選組、その後続に精兵隊が作戦区域に突入する。

精兵隊、貴官らの役目は我ら空軍の、いわば本命だ。頼むぞ」

 

「応! お任せあれ!」

 

 精兵隊が駆る颶風(ぐふう)は央暦1940年代に開発されたレシプロ戦闘機───

 つまり、プロペラ機をベースとしたCOIN機である。

 故に速度は遅く、現代戦には対応出来ないように思える。

 

 しかし、対地攻撃であれば遅いというデメリットは薄まる。

 さらに速度の遅さから、艦艇に大打撃を与えられる魚雷も搭載可能なのだ。

 この作戦において、精兵隊は本命なのだ。

 

「爺さん、この間の怪我はもう平気なのか?」

 

 精兵隊は先の月光解放戦において、三式ロケット弾の攻撃を受けていた。

 あの時参加していた大半が戦死し、隊長の睦平は至近弾を受けていたが───

 

「カァッ、こんな状況で寝ておれるか!

見ての通り、全身ピンピンしとるわっ!」

 

 どうやら、杞憂に終わったらしい。

 70代の老人だというのに、元気な事である。

 

───息子の耕作くんは確か、俺と同じぐらいだから……4、50代の時の子?

そりゃ、元気だろ。

 

 ううむ、確かにその年で子を成すのなら元気だろうな。

 

「奥村大佐、その意気だ。この攻撃、一度の攻撃では済まないからな。

道奥藩智台空港を補給基地に設定、既に整備隊を向かわせている。

攻撃終了後は北に針路を取り補給に戻れ」

 

 先の作戦から3日と経っていないというのに、ハードスケジュールな戦いである。

 

「質問は……ないな。では、作戦会議を終了とする。

解散! 空でまた会おう!」

 

 解散が宣言されると、それぞれが素早く行動を始めた。

 危険な空へ、取り戻すために。

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