蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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171 敵艦隊迎撃1「Mission Kill」

「Mission Kill」

央暦1970年4月30日

果ての海 菜戸藩沖

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

「こちら駆逐艦乙月、現在要救助者を収容し搬送中。

しかし、機関の過熱により加速出来ない状況です。

可能ならば、支援を願います」

 

 どこかで聞いた、金髪オールバックで眼鏡をかけて神経質そうな声だが───

 しかし、彼は艦隊の参謀だったはず。

 ならば最前線の駆逐艦に乗艦などしていないはず。

 

「……でもこの声、絶対あいつだよなぁ?」

 

 まあ、回線越しの声など似たようなものになりがちだ。

 きっと他人の空似だろう。

 

 とはいえ、相手が誰であれこの回線は連邦軍共通チャンネルで、駆逐艦乙月は連邦海軍艦。

 状況が許すなら、助けるべきだ。

 

「こちらフツノミタマ、間もなく無線封止解除です。

オメガ隊、電波撹乱弾の発射準備願います」

 

 もちろんそれは、やるべき事をやった後に。

 あるいは、そのついででやるべきだろう。

 

 オメガ隊はペンギン隊に先行して、間もなく海岸線に到達する。

 防風林の陰に隠れるような超低空飛行が終わろうとしていた。

 

「オメガ隊、ウェイポイントに到達!」

 

「オメガ隊、無線封止解除! 撹乱弾投射開始!」

 

 宗治郎の言葉と共に、真正面に大きな電波妨害が発生した。

 彼が搭乗するP/A-51ウォーサンダーがECM攻撃を始めたのだ。

 敵艦艇に探知され、発射されるミサイルを命中させないようにするためだ。

 

「投射完了! 後続の皆、後は頼んだ!」

 

 その後続とはご存じ、ペンギン隊とイグルベ隊である。

 

「ペンギン隊、イグルベ隊! 無線封止解除!

作戦開始!」

 

 チェイス達の両脇を通るように、オメガ隊の面々が撤退を始めた。

 正面にはチャフによる電波妨害エリアが展開され、防風林の先からは発射された敵のSAM。

 

「流れ弾に注意!」

 

 オメガ隊を追っていたSAMがペンギン隊とイグルベ隊を過ぎ去り、林に突っ込み爆炎をあげた。

 チャフの雨の中へ飛び込むと、チェイスは目視で状況把握に努めた。

 

───最優先目標は、SAM搭載艦!

 

 未だSAMの噴射煙をまとう艦艇が4隻。

 北西・北東・南西・南東の四隅に配置されているようだ。

 

 この巡洋艦と駆逐艦のコンビだが、事前情報より少ない。

 距離が遠くて正確な艦影は掴めないが、どこかにまだいるに違いない。

 

 そう例えば、この場に姿が見えない播磨型戦艦の直掩とか。

 だがひとまずは、見えた敵から攻撃だ。

 

「ちぇっ、本命ふたりは重役出勤らしいな」

 

「仕方がない。チェイス、ロケットの発射に集中しろ。

誘導はAWACSが代わりにやってくれる」

 

「その、誘導ロケット弾とやら。本当に当たるのですか?」

 

 竜司の疑問はごもっともだが、試験なしで持ち出したのだから当然だ。

 とはいえ、レーザー誘導自体はそこまで特殊な技術ではない。

 

「簡単だ、竜司。誘導が働かぬようであれば、寄って当てればいい」

 

「確かに、その通りです」

 

 竜司が抱いていた疑念を、大助が脳筋解決してみせた。

 

「それもあり、かな?」

 

 ロケットがちゃんと働くかはさておき、まずは射程圏内まで迫る必要があった。

 誘導させるためには照準ポッドにレーザーを当てさせなければならない。

 

「竜司ちゃん、北西の駆逐艦を」

 

「了解です」

 

「大助は北東の駆逐艦」

 

「相分かった」

 

「ボスは南西の巡洋艦!」

 

「いいだろう。チェイス、お前は?」

 

「南東の一番遠い奴!」

 

 水面に手が届きそうな超低空を飛行し、敵艦艇からの攻撃をかわす。

 敵艦隊外周を遠回りしていては時間が掛かりすぎる。

 

 チェイスは艦隊のど真ん中に飛び込んだ。

 

《敵機、機数8! 艦隊に肉薄します!》

 

《やはり空襲か! 艦対空誘導弾、装填急げ!》

 

《ダメです、全機懐に入り込みました!》

 

《安全距離は意識しなくていい! とにかく撃って奴らを寄せるな!》

 

 レーダー警報装置(RWR)が泣き喚き、前方からの脅威を伝えた。

 そして、曳光弾が前方や真上を過ぎ去る。

 

《あの機影……蒼穹の魔王じゃないのか⁈》

 

《くそったれ……遂に出やがったか!》

 

 敵艦隊の大多数はレーダー照準のない旧式艦。

 最大速力で突っ切れば、そう当たるものではなかった。

 

《敵機、真っ直ぐ長浜に向かいます!》

 

《誘導弾、発射始め! 斉射!》

 

 ミサイル巡洋艦は計3基ものSAMを搭載している。

 頭でっかちのバカみたいなシルエットをしている分、高い防空能力があるのだ。

 

 前甲板から2発のSAMが打ち上げられ、チェイス目掛けて突っ込んできた。

 既に射程圏の懐に飛び込んでいるため、空中で炸裂はしない。

 近接信管がないミサイルならば、回避は容易だ。

 

「ペンギン1、ミサイルです!」

 

 敵ミサイルが黒点となった瞬間、機体を制御して低空でのバレルロールを行った。

 わずかな上昇と旋回、そして降下。

 

 ミサイルは機体の真下を通り抜け、背後で大きな水柱を上げた。

 

《目標健在!》

 

 ミサイル巡洋艦には、2つの弱点があった。

 

 ひとつはレーダーを積むための頭───ブリッジが馬鹿でかいこと。

 もうひとつは近接防空火器となる主砲が船体中央に2つ横並びになっている点だ。

 真後ろからならともかく、艦首方向から迫られるとせっかくの主砲が1基でしか対応出来ないのだ。

 

 もっとも、通常の戦闘ではこのような状況、まずないのだが。

 

「ペンギン1、間もなくロケット弾の射程圏内!」

 

 フツノミタマからの通達に、チェイスは兵装発射ボタンに指を這わせた。

 

「了解、ロケット発射!」

 

 機体を右に傾け、一瞬だけ旋回しながらロケットを放った。

 

「発射確認、誘導……いやこれは……」

 

 間隔を空けながら3発ずつ、計6発放つと接近をやめて東へ離脱する。

 

 直後、左舷側の主砲がチェイスを指向し、発砲した。

 信管は時限信管、発射する際に炸裂する距離を指定するものだ。

 相手は肉薄する前提で設定していたが、そのアテは外れている。

 

《敵機、噴進弾発射……旋回!》

 

《迎撃、当たりません!》

 

《恐れをなして逸ったな、この距離では当たらん! 長距離誘導弾、発射始め!》

 

 旋回して敵艦右舷側へすり抜けようとするチェイスに、巡洋艦は後甲板のSAMを打ち上げた。

 本来なら長距離用のSAMだが、現場にとってはその場にあって使えるものが正義。

 

 F-2のフライバイワイヤが最適な旋回を行なっているため、速度の減速はほとんどない。

 射程圏の内側なので無理に撃っても近接信管は作動せず、被害を受けるとしたら直撃だけ。

 直撃をかわすには十分な速度が出ていたが───機動するまでもなかった。

 

《……⁉︎ 噴進弾、こちらに向かって……!》

 

 巨頭、それに前甲板と後甲板にロケット弾が突き刺さった。

 いずれもミサイルを制御するためのイルミネーターが配置されている箇所だ。

 

 艦本体へのダメージは最小限に違いなかったが、繊細なレーダーともなればそうもいかない。

 チェイスに向かっていたSAMは導き手を失い、海面へと突き刺さった。

 

《被弾、噴進弾と思われます!

ミサイル誘導システムだけを狙った精密攻撃です!》

 

《センサーだけ⁉︎ 噴進弾にそんな事が可能なのか⁈》

 

《僚艦からも被害報告が上がっています!

いずれも、誘導弾のような精度です!》

 

 敵も未知な攻撃を受けて混乱しているらしい。

 残念ながら戦争という奴は、わからん攻撃でハメ倒すのが最も強いのだ。

 

 ただし、今回だけはタイミングが良かった。

 

「こちらフツノミタマ。ペンギン1、誘導が不要なら先に言え」

 

「今回は都合が良かっただけだよ、次は頼むぜ」

 

 そう、今回だけ(・・・・)は無誘導での攻撃である。

 レーザー誘導とはいえど、そこまで正確に複数同時目標の攻撃は出来ない。

 

 放射状に放ったロケットが敵センサーのある場所に命中したのだ。

 成功率五分五分の、実戦にしては危険な賭けだったが。

 

「敵前衛艦隊、全SAM搭載艦の無力化(ミッション・キル)確認!」

 

 危機感を覚えない距離の曳光弾をかわしつつ、チェイスは僚機と合流した。

 

「ペンギン隊、被害状況は?」

 

「2、被弾なし」

 

「3同じく」

 

「4、無傷だ。ちぇいす、お前はどうだ?」

 

「まだ無傷!」

 

 お前の場合、本当にまだ(・・)の可能性があるからタチが悪い。

 チェイスも目視で直接確認したが、ペンギン隊に被害はなさそうだった。

 

「こちらイグルベ1、敵駆逐艦炎上中! 少なくとも艦隊からは脱落だ」

 

 イグルベ隊もロケット弾を用いて攻撃し、駆逐艦を大破させていた。

 小型とはいえ、砲戦すら想定している旧式戦闘艦を70ミリロケットで無力化するのは並大抵ではない。

 

「ペンギン隊、イグルベ隊、敵後衛艦隊の攻撃に移ってください!

精兵隊及び新選組、空域進入を許可します!」

 

「応、片っ端から沈めたるわい!」

 

「了解だ。新選組、敵機をひとつたりとも仲間に寄せるな。

撫で斬りにしろ」

 

 残るは精兵隊や海軍艦艇に任せるべきだ。

 ペンギン隊は秘密兵器を駆使して、重要目標だけ排除するのが役目だ。

 無駄弾を撃つ余裕などないぞ。

 

 なにせこのF-2はストレンジリアル製ではない、フリゲートを2発で沈めるSRMを100発近く積めないのだからな。

 積めるのなら───あの艦隊も単独で殲滅出来るかもしれないが。

 

「ふん、言われなくてもわかってる……

ペンギン隊、南の敵後衛艦隊を攻撃する」

 

「イグルベ隊、追従する。チェイス、敵の攻撃を誘引する必要はあるか?」

 

「下手に出たって、俺があんたらに渡せるものはないぜ?」

 

「友達として、という理由で納得出来ないか?」

 

「最初からそう言えよ、水臭いぜ? 無理しないようにな」

 

「ああ。なるべく死なないつもりだ」

 

 ペンギン隊は東から、イグルベ隊は西から南下。

 

「ああ……くそ、見えてきた」

 

 イグルベ1、カビエシが悪態をついた。

 行儀の良い言動ではないが、チェイスも賛同したくなった。

 

 水平線の辺りにそびえ立つ、馬鹿みたいにデカい2つの巨塔。

 播磨型戦艦、薩摩と肥前だ。

 

 意識が彼女たちに向いていると、塔の根元から煌めく光を見た。

 戦艦の主砲、それが火を吹いたのだ。

 

「ブラスト!」

 

「敵艦隊より飛翔体検知!」

 

「低空に退避!」

 

 ミサイルが飛んで来るにしては、RWRからの警告がない。

 ならば、播磨型2隻からの砲撃だ。

 あまりにも唐突な攻撃に、退避は間に合わないように思えた。

 

 爆発が起きた。

 機体を揺らす衝撃───しかし、違う。

 

 爆発の規模があまりにも小さい。

 いや、通常の砲弾と比べれば圧倒的に巨大なのだが───比較対象が悪い。

 

「ペンギン隊、イグルベ隊、被害状況は⁈」

 

「ペンギン隊は問題なし」

 

「イグルベ同じく!」

 

 もしこれが三式弾ならば、ペンギン隊とイグルベ隊は全滅だ。

 わずか1000(304)フィート(m)高度を下げただけで回避出来るほど、三式弾は甘くない。

 

「三式弾じゃないな……」

 

「弾の温存か、味方の被害を考慮してるのかもしれん」

 

 どちらにせよ町ひとつ消し飛ぶ威力が、家数軒が消し飛ぶ威力になっただけ。

 この世の全てにとって脅威なのは変わらない。

 

「超低空から接近してください! 肉薄すれば、主砲はまず当たりません!」

 

「了解!」

 

 潮を浴びながら、8機は果ての海を進む。

 すると、再びマズルフラッシュが目に入った。

 

 チェイスは彼女達の視界にいない。

 ならば狙いは、前衛艦隊を攻撃する精兵隊と新選組!

 

「精兵隊、新選組! 敵戦艦、主砲発砲!」

 

「着弾予想地点を送ります、退避してください!」

 

「くそっ、戦闘機より先に砲弾かよ!」

 

「鉄之助、黙って退避しろ!」

 

「者ども、散れぃッ!」

 

 通常砲弾を用いたのは、やはり味方への被害を避けるためか。

 三式弾ならば間違いなく、対空目的でも味方に被害が出る。

 

「フツノミタマ、確認だ。播磨型戦艦はSAMを搭載してないんだよね?」

 

「そうだ。50センチ砲を発砲する衝撃にセンサーが耐えられない。

主砲の照準も昔ながらの光学観測によるもの。SAMを打ち上げるなら僚艦だ」

 

 懐に飛び込んでしまえば、SAMも戦艦も脅威として差はなくなる。

 その主砲は威力が強過ぎる故に、味方を巻き込んでしまうからだ。

 

「ペンギン隊、なるべく播磨型に接近しないように。

近接防空火器はレーダー管制されていないが、尋常でない数だ。

そのうえ、対艦ミサイルでも航行能力を奪えない」

 

 播磨型はSAMを搭載していない上、あらゆる火器が光学照準だ。

 精度はレーダー管制されたものと比べれば大きく劣る。

 

 必要以上に近付きさえしなければ、そして必要以上の遠ざからなければ。

 攻撃を受けることはない。

 

「適切な距離感を保てって事だろ?

俺様の得意分野だ」

 

「……嘘つき」

 

 竜司から謎の罵倒を受けつつも、ペンギン隊とイグルベ隊は交戦距離に入った。

 

《敵機、北方より急速接近!》

 

《魔王、その首貰った! 艦対空誘導弾、発射始め!》

 

 RWRが警告音を発する。

 直後、2つの敵艦艇から白煙。

 

「RWR! 全機散開、SAM来るぞ!」

 

 ペンギン隊とイグルベ隊はそれぞれ散開し、攻撃から退避する。

 飛翔するSAMの針路は───言うまでもない。

 

「ペンギン1、イグルベ1! SAMの狙いはあなた達です!」

 

「巡洋艦はチェイス狙いなのか⁈」

 

「ま、先頭を飛んでりゃね!」

 

 チェイスを狙ったのはミサイル巡洋艦。

 今回は満を持して後甲板の長距離SAM、前甲板の中射程SAM2発。

 計3発のSAMをチェイスへと向かわせた。

 

 低空飛行は分の悪い賭けになるが、ミサイル回避の基本だ。

 チャフを散布し、誘導を乱しつつ最大速力でミサイル巡洋艦へ迫る。

 

 ここまで多大な戦果を挙げているチェイスを狙うのは目標として悪くない。

 しかし───彼らは忘れている。

 

 蒼穹の魔王という戦場の伝説。

 これを生み出したのは、チェイスだけではないということを。

 

「……愚かな。何のための複数搭載だ」

 

 大助の駆るYP-27の最大推力はF-2を凌駕する。

 チェイスを追い抜いた大助は先んじてミサイル巡洋艦に迫ると、間に割って入った。

 

「大助!」

 

「問題ない。案ずるな」

 

 敵艦のイルミネーターが捉えた標的が、チェイスから大助に入れ替わった。

 SAMが軌道を変え、彼女へと迫る。

 

 しかし先ほどまでミサイルの狙っていた標的は、座標や速度が大きく違いすぎた。

 3本のSAMは急旋回を迫られ、運動エネルギーを浪費し───

 マッハ2で接近し続ける大助の後方で海面に激突した。

 

 その水飛沫を浴びながら、チェイスが追従する形になった。

 

《誘導弾、命中なし!》

 

《イルミネーターに割って入って、誘導を惑わした……なんという度胸!》

 

《薩摩と肥前以外の各艦へ、SAM搭載艦に迫る敵機を攻撃せよ!

……わかってる! だがミサイル艦は貴重なんだ!》

 

 ミサイル艦が窮状と見たのか、敵艦隊司令が支援要請を飛ばしていた。

 それこそ、チェイス達の思う壺だというのに。

 

「もらったぞ、隙だらけだ!」

 

 駆逐艦にとって、主砲は貴重な攻撃兵器だ。

 甲板要員が操作する機銃や小銃などは、対空火器としては精度火力共に微妙だ。

 

 その主砲を支援に取られて、自衛戦闘が成立するはずがない。

 ボスはこの隙を見抜き、ミサイル巡洋艦後方の旧式駆逐艦の主砲にロケット弾を浴びせた。

 

《駆逐艦薺、主砲2基とも被弾! 攻撃能力低下!》

 

「竜司! 行って来い!」

 

「了解! 竜司、イグルベ隊を攻撃するSAM搭載艦を攻撃します!」

 

 ここで生じた穴に竜司は飛び込んだ。

 艦隊の反対側に位置するミサイル駆逐艦を攻撃するのだ。

 

「噴進弾発射……! 残弾なし、発射機投棄!」

 

 大助が誘導ロケットを放つと、迎撃を避けるために右旋回した。

 

《敵機、噴進弾発射!》

 

《敵機への攻撃中止、噴進弾を迎撃しろ! 誘導弾の恐れあり!》

 

 前衛艦隊から通報で、ミサイル巡洋艦の乗組員は素早く対応した。

 発射母機の大助への攻撃を早々に切り上げ、向かってくるロケットの迎撃にリソースを割り振ったのだ。

 

 ここで不幸だったのが、ミサイル巡洋艦の主砲は舷側の左右両サイドに配置されていたこと。

 右舷側の主砲しか迎撃に参加出来なかったのだ。

 

 そして最大の不幸は、純粋なミサイル巡洋艦として設計されたこと。

 肉薄された場合の防御策が主砲以外になかったのだ。

 

 それでも乗組員は懸命に任務に当たった。

 速射砲の連射能力を活かし、小さなレーダー上の反応を見つけて射撃し。

 見事、向かって来たロケット弾全てを迎撃した。

 

《目標破壊!》

 

《まだだっ、まだ魔王が……!》

 

 迎撃の際に生じた爆煙をかわし、チェイスは巡洋艦に肉薄した。

 

《迎撃しろ!》

 

《ダメです! 砲塔の旋回、間に合いません!》

 

 ロケットを使うまでもなかった。

 GUNで照準し、前艦橋に満遍なく20ミリ砲弾を叩き込む。

 ブリッジを覆うように設置された電子部品が飛散し、マストが折れて倒れ込んだ。

 

《くそっ、冬浜被弾! 機銃掃射でマストが折れた!》

 

《索敵電探、機能停止! 誘導弾、照準出来ません!》

 

《電探が死んだくらいで泣き言を申すな、乗組員(われわれ)は健在だ!

防空指揮所と連携して攻撃を継続せよ!》

 

 ミラーに一瞬だけ、ぎこちない動きをするイルミネーターが映った。

 口だけでなく、レーダーを失っても戦闘を継続するつもりなのだ。

 

「ミサイル巡洋艦、レーダー大破! だけど兵装がまだ生きてる!

油断するな!」

 

「そりゃ、理論上可能だが……くそ、こいつらエイギル艦隊かよ」

 

「レーダーを潰せば、視程距離外への攻撃は不可能だ!

効果は十二分に出ている、攻撃を継続せよ!」

 

 この攻撃はあくまで無力化(ミッション・キル)を目指したもの。

 完全な撃沈を目的としたものではない。

 

 無力化した巡洋艦がSAMを打ち上げてくるかもしれないが、無駄弾を撃つ余裕はなかった。

 竜司の向かった敵ミサイル駆逐艦へ。

 

《味方艦を支援する! 密着して、盾になる勢いで守るぞ!》

 

 敵艦隊が陣形を変え、旧式艦がミサイル艦との距離を縮め始めた。

 自艦の射程距離の短さを鑑みて、とにかくSAM搭載艦を守ろうとし始めたのだ。

 

《こちら薩摩。味方艦へ、我々が出来ることはないか?》

 

《ない! そちらの火器は威力過剰なんだ!

前衛艦隊の支援に集中してくれ!》

 

《こちら戦艦厳島! もう黙っていられない!

我々の35センチ砲ならば被害は抑えられる! 支援砲撃始め!》

 

 ドン!

 先ほどから支援砲撃を続ける播磨型より、比較的劣る砲声。

 

 旧式の戦艦がペンギン隊やイグルベ隊を狙い出したのだ。

 35センチ砲の通常砲弾で。

 

 時折飛んでくる駆逐艦や巡洋艦とは桁違いの炸裂が空中に生じた。

 その周囲には敵艦隊の先鋒へ攻撃中のイグルベ隊がいた。

 

「ぐっ……! イグルベ3、破片を貰った!

主翼に損傷!」

 

《やったぞ、敵機が火を吹いてる!》

 

《当たったのは雑魚だけ、魔王は健在だ。砲撃を続けろ!》

 

 爆発が大きければ、撒き散らされる破片も増える。

 破片が増えるということは、その分命中率も高くなるという事だ。

 

「こちらペンギン2っ、取り巻きが多く攻撃困難!」

 

 竜司の反応へ視線をやると、密集隊形に移った護衛から集中攻撃を受けていた。

 このままでは、攻撃どころか生存すら厳しいだろう。

 

「竜司ちゃん、こっちは東側から攻撃する。そっちは西側から攻撃してくれ。

同時に2方向から攻撃だ」

 

「了解っ、一時離脱します!」

 

「大助、艦隊を突っ切って竜司ちゃんに合流。

ボス、隣は頼んだ」

 

「相分かった」

 

「了解だ……チェイス、大助に無茶言ってないか?」

 

「問題ない……私ならばな」

 

 SAMですらまともに捉えられないような超低空を維持しつつ、大助は宣言通り敵中を突破し始めた。

 

《超低空の機影……速いッ⁈ 砲塔旋回、間に合いません!》

 

《速いだけの敵など放っておけ! 魔王だ、魔王を討ち取れ!

そうすれば戦況が変わるはずだ!》

 

 目標のミサイル駆逐艦の周辺には駆逐艦と巡洋艦が2隻ずつ。

 さらにフリゲートが6隻、護衛についていた。

 

 護衛はいずれもミサイルの運用能力のない、央暦1940年代の艦艇ばかり。

 そんな彼らが身体を張って高価値目標を守っているのだ。

 

「いいガッツだ……フツノミタマ、空対艦ミサイル(ASM)は?」

 

「間もなく誘導圏内……入った!」

 

「了解。データリンク接続!」

 

 ペンギン隊、とりわけチェイスの武器は機体に搭載しているものだけではなかった。

 合衆国が開発した最新鋭のASM、AGM-69だ。

 

 作戦区域外で展開する連邦海軍ゴースト隊他、大型機部隊がこいつを運用しているのだ。

 その破壊力は、巡洋艦を一撃で戦闘不能に追い込むレベル。

 

 本来はミサイル防御(MD)能力を持つSAM搭載艦を全て無力化してから投入するべきだが───

 MD能力持ちは1隻残るばかり、迎撃率は許容範囲だろう。

 なにより、チェイス達が肉薄する猶予が生まれるのだから上々である。

 

《飛翔体を探知……砲弾より大きく、航空機より小さい?

識別! 智台で用いられた空対艦誘導弾!》

 

《奴ら、アレを投入したのか⁈

敵航空機への攻撃中止! 誘導弾の迎撃に注力せよ!》

 

 チェイスに向けられたイルミネーターが遠ざかった。

 AGM-69を探知したミサイル駆逐艦がSAMの狙いを変えたのだ。

 

《秋浜、貴艦は健在か! 暗月に向かう誘導弾を迎撃せよ!》

 

《こちら索敵電探が損傷、視程距離外の照準は不能!》

 

 これが無力化(ミッション・キル)の意義だ。

 最低限の能力はあっても、本来の任務が果たせなくなる状態。

 その場限りの防空戦闘はこなせても、高度な防空能力が失われていればその場に居ないも同然。

 

 傷付ける行為に変わりはないが、戦いはなにも殺す事ばかりではないのだ。

 

エアストライクモード(ASM)だ!」

 

「お前、あれ好きだったもんな!」

 

 ボスと並び、チェイスは敵ミサイル艦を攻撃するコースに乗った。

 敵旧式艦の砲や銃が、続々とふたりを睨み始めた。

 

《弾幕を張れ! 寄せ付けるな!》

 

《あの機影っ、蒼い機体……! 例の魔王じゃないのか⁈》

 

《くそっ、片割れは武揚を攻撃した機体だ!》

 

《どちらも凶兆だ! 撃て!》

 

 陣形外周を守るフリゲート。

 まずはそいつに狙いをつける。

 

「ミサイル1発目、迎撃された」

 

 さすがに亜音速のASMでは、MD能力を持つ艦艇相手に迎撃される可能性は高い。

 しかし、それは対艦攻撃では前提である。

 

 ミサイルはなにも、1発ずつ撃たなければならないというルールはない。

 

「2発目、接近!」

 

「終末誘導開始!」

 

 レーダー波を飛ばし、ミサイルに標的を教え込む。

 ステルス性など意識の外にある旧式フリゲートは、よく電波を反射してくれた。

 

《敵誘導弾、針路変更! これは……狙いは味方艦⁈》

 

 レーダーがなければ、この攻撃の予兆は掴めなかっただろう。

 フリゲートにミサイルが突っ込んだ。

 

 船体中心部に深々と食い込んだミサイルは艦内で炸裂。

 爆圧によって、ブリッジが文字通り破裂した。

 

《フリゲート杉がっ……!》

 

「敵フリゲート沈黙!」

 

「3発目! 続々と来る!」

 

 次郎の報告から、軽口を叩く暇すらないことが伺えた。

 素早くチェイスは2隻目のフリゲートに照準を合わせる。

 

 もちろん、敵も指を咥えて見ているわけではない。

 あらゆる火器を向けて迎撃してくる。

 

 バレルロールで回避すると、風防の真上を76ミリ砲がかすめた。

 

「誘導、外れている!」

 

「わかってる!」

 

 機動を修正し、機首を敵フリゲートに。

 その1秒にも満たない後にミサイルが突き刺さった。

 

「5発目、誘導限界間近!」

 

「合わせた!」

 

 3隻目、東側に展開する最後のフリゲートに直撃した。

 残るは駆逐艦と巡洋艦が1隻ずつ。

 

《なんだっ、魔王の前に展開するフリゲートが壊滅したっ⁈》

 

《撃てっ、とにかく撃て! 次は俺たちなんだぞ!》

 

「こちら竜司、これより突入します!」

 

 大助と合流した竜司が攻撃コースに入った。

 突如としてフリゲートが沈み始めた敵艦隊は動揺しているが、まだ突入には危険が伴う。

 

 チェイスは洋上を漂うフリゲートの残骸を通過し、敵巡洋艦に機首を合わせた。

 

「7発目、AO進入!」

 

「ロック完了!」

 

 しかし、巡洋艦ともなれば一筋縄ではいかない。

 主砲と副砲がチェイスを狙い、目前に爆煙の壁を作り出した。

 まともにぶつかれば、中に含んだ破片によって機体が傷つけられる。

 

「回避!」

 

「うおっと……!」

 

 ボスに合わせて、左右に機体を揺らすクランク機動で壁を避ける。

 これはやむ得ない選択であった。

 

 機動した影響でミサイルは目標を見失い、敵巡洋艦の西方で海面に突っ込んだ。

 

「誘導弾、命中せず!」

 

「だろうな……! 次!」

 

 再び巡洋艦にレーダー波を浴びせるも、向こうは気づいた。

 

《今のは……魔王の動きと誘導弾が連動しているのか?

魔王に攻撃を集中! こちらを向かせるな!》

 

 明らかにチェイスへ向けられる火器が増えた。

 東側の駆逐艦と巡洋艦はもちろん、西側の護衛まで。

 

 あまりの猛攻に、接近は不可能に思えた。

 

「くそっ、攻撃中断! 無理だ!」

 

「対艦誘導弾運用部隊へ、終末誘導は不可能!

発射分は限界まで敵艦へ向けろ、当たらなくてもいい!」

 

 チェイスとASMは連動している。

 誘導機を寄せ付けなければ、ミサイルは当たらない。

 これで向こうは確信しただろう。

 

《魔王が逃げるぞ!》

 

《撃ち続けろ! 2度と攻撃させるな!》

 

《誘導弾の迎撃は?》

 

《続けろ! こっちに向かってる限りは……!》

 

 ASMという秘策のひとつは破られた。

 しかしもう一枚、ペンギン隊の手札にはジョーカーがあった。

 

《敵機2、西より急速接近!》

 

「こちら竜司と大助、突入します!」

 

 竜司と大助のコンビだ。

 AGM-69とチェイスの2つに迎撃リソースを割いた敵は彼女達の肉薄を許してしまった。

 

《まずいっ、飛び込まれた!》

 

《馬鹿野郎! どこ見てやがった!》

 

 先陣を切るのは大助だ。

 彼女の機体はロケット弾を撃ち尽くしていたが───

 GUNの残弾は豊富にあった。

 

「……掃射!」

 

 マッハ2からなおも加速中のYP-27が、行手を阻むフリゲートの主砲に砲弾を浴びせた。

 残骸が砕け、海へ舞い散る。

 

 迎撃網の穴に少し遅れて竜司が飛び込み、2機はさらに奥深くへ突き進んだ。

 

《砲を西の敵に!》

 

《主砲も副砲も、東の魔王に指向しています! 間に合いません!》

 

 目標はもちろん、陣形の中央に位置するミサイル駆逐艦。

 この攻撃の目的は敵防空能力の破壊であり、艦隊そのものの破壊ではないのだから。

 

「……噴進弾発射! 発射機投棄!」

 

「発射確認、誘導開始!」

 

 発射を確認したフツノミタマがデータリンクを介し、ロケット弾の誘導を始める。

 レーザー誘導されたロケットは正確に駆逐艦のブリッジに向かい───

 甲板要員の小銃による迎撃も虚しく、艦橋のレーダー類が砕け散った。

 

 F-2のRWRから、反応がひとつ減った。

 

「命中確認!」

 

「竜司、離脱だ!」

 

「はい!」

 

 大助に追従し、竜司は艦隊から離脱を始めた。

 

 敵艦隊に所属する全てのSAM搭載艦がレーダーを失った。

 防空能力は、ここに消滅した。

 

「ペンギン隊、作戦完了! 作戦区域を離脱せよ!」

 

「了解! イグルベ隊、もう十分だ! 北に向かおう!」

 

「了解だっ!」

 

 チェイスらペンギン隊と共に、敵の攻撃を誘引していたイグルベ隊も西への離脱ルートに入った。

 背後から攻撃を仕掛けてくるとしたら、播磨型をはじめとした戦艦だろう。

 

 しかし彼らの電子機器は極めて古く、主砲も小回りが効かない。

 咄嗟にペンギン隊を狙えと言われても、困難だ。

 

「フツノミタマ! 前衛艦隊の状況は?」

 

「精兵隊の攻撃により壊滅状態!

再攻撃のため、北へ離脱してください!」

 

「了解……次はラウンド2だな」

 

 エースコンバットではないのだから、一度の攻撃で壊滅するほど艦隊はヤワではない。

 ここは一旦後方に戻り、補給を受けて再度攻撃しなくては。

 

 今度こそ、完全破壊(カタストロフィック・キル)するために。

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