蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年4月30日
道奥藩 智台空港
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
智台空港の駐機場が大騒ぎなのは、滑走路へアプローチする段階でよく見えた。
着陸した機体が向かってくると、整備隊は止まる前にアリの如く機体に集まった。
そして可能な限りの点検を行い、診断を出す。
止まった後も点検は続き、1秒たりとも作業が止まらないのだ。
「まだまだ俺らは休めねぇぞ! こいつらもすぐ飛ぶんだからな!」
これはチェイスが機体を駐機場へやり、風防を開けてすぐ聞こえて来た言葉である。
ジェットエンジンの轟音よりも巨大な怒声が機付長の腹から吐き出されていた。
「機付長! 良介さん来ましたっ!」
「ああ、今行く!」
整備隊の部下に呼び掛けられた機付長はF-2に掛けられたタラップを駆け上がり、コクピットを覗き込んだ。
「機体に不調は?」
「いや、ないよ。忙しそうだな」
「ったりめぇだ。東国地方の解放、それを邪魔されてたまるかよ!」
機付長は東国地方の
そこは地域としては平凡ながら、巨大な鳴田空港を抱える一大航空拠点。
東国地方解放には全土を掌握する必要はなく、重要なエリアを制圧すれば事は片付く。
鳴田藩はその重要なエリアのひとつ。
そして東国地方最大のカギとなる武揚にとっては、喉元の刃。
故郷の解放を前に、機付長もテンションが上がっているのだ。
「900キロと増槽、装備します!」
「おう!」
台車を操縦する整備隊が2000ポンド爆弾とドロップタンクをF-2に装着していく。
このデカブツを抱えて菜戸藩に舞い戻り、敵艦隊に叩き込むのだ。
彼らの後に続いて、F-2専用の燃料を積んだタンカーがやって来た。
「燃料充填始めます!」
「機関砲の残弾はどうだ?」
「ほとんど使ってないから、装填はなくていい!」
「おし!」
機付長が手信号で近寄って来た装填班を追い返した。
ここまでの段階で、停止からの経過時間は約10分。
「各種点検よし! 行って来い!」
「最も高価な部品たる俺様の休憩する時間がないぞ……」
「はっ! お互い様だな!」
「離れてくれ!」
愚痴るチェイスの肩を叩いた機付長は部下と共にF-2から離れ、安全な距離を保った。
あとは、お前と管制次第だぞ。
「ふぅ……こちらペンギン1、発進準備完了。
進入許可願う!」
「こちら智台ATC、了解。誘導路Aへの進入を許可する」
現在、智台空港は連邦空軍の貸し切り状態である。
空港のあらゆる設備が菜戸藩解放のために動いているため、待機時間は発生しなかった。
ATCの案内に従って滑走路前で止まると、ボスと大助の機体が上がる最中であった。
間もなく、隣で機体が止まる気配を感じた。
浅葱色のオロール、竜司の機体だ。
「竜司ちゃん、調子は?」
「良好です。つまり……」
「つまり?」
「あなたがいれば、良2倍です」
「……?」
少しだけチェイスは考えてしまった。
竜司の調子が良好なら、なぜ良が2倍になるのか?
悪い事ではないが───
「ああ……竜司の調子が良好で、良介がいるから
「……ちぇ、チェイス殿っ。その、冗談の解説は……」
「おっと、無粋だったね。ごめん」
普段竜司はジョークを飛ばさないものだから、思い付くのに時間を要してしまった。
正直なところあまりウケないであろう冗談だが、出会った当初と比べれば大きな変化である。
とにかく政府軍を殺す事ばかり考えていた彼女の、ポジティブな変化だ。
「ペンギン1、2。離陸を許可する」
「了解。行こう、竜司ちゃん」
「はいっ」
2000ポンド爆弾4発、SRM4発に加えて胴体下の増槽。
たとえF-2でも、これはかなりギリギリのフライトだ。
しかしそれでも、機体は期待に応えてくれた。
言っておくが、突っ込まないぞ。
お前のジョークのセンスだって、竜司に文句を言えるレベルに達していないではないか。
「ペンギン1、2の離陸を確認、高度制限を解除!
ご武運を祈ります!」
「ありがとう。ペンギン隊、南で集合。
敵艦隊にトドメを刺すぞ!」
「了解!」
今度は
敵艦隊の
ペンギン隊は再び、南を目指した。