蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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174 敵艦隊迎撃2「Catastrophic Kill」

央暦1970年4月30日

道奥藩 智台空港

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 派手な戦闘を繰り広げた足では、真田藩まで帰ることは出来ない。

 補給基地となっていた智台空港まで戻ると、例によって駐機場に人だかりが出来ていた。

 

 整備隊の手によって掛けられたタラップを降っていると───

 フラッシュ。

 

「……俺が失明したらどうするんだ?」

 

「この程度で人間の目は失明しないって」

 

 四谷が不意打ち気味に射影機で良介を撮影したのだ。

 きっと彼女は、整備隊に同乗させてもらって智台まで来たのだろう。

 

「なんで急に俺を撮るんだ? いつもは撮れって言っても嫌がるのに」

 

「あんたは人と……とりわけ女の子と話してると顔がたるむの。

一番絵になる表情は、無意識の時じゃないとね」

 

「ふん、失礼な記者だ」

 

 とはいえ、女の前では鼻の下を伸ばしているのは周知の事実ではないか。

 彼女には利己的な目的があるとはいえ、お前を最もまともに見えるタイミングを追求してくれているのだ。

 感謝するべきではないか?

 

───ふん、最良の俺様は俺自身が決めるのだ。

 

 こぢんまりとした記者から視線を逸らすと、彰義隊の見知った顔が並んでいた。

 

「ゆきちゃん、無事だった?」

 

 ボス、それにゆき。

 彼女の足が揃っている辺り、どうやら無事にここまで戻る事が出来たらしい。

 

「はい。幸いにも、あの後ここまで帰還出来ました」

 

「怪我も……なさそうだね」

 

「……はい」

 

 何か言いたげな表情、それに気が重そうな色が加わっているとなれば察しはつく。

 ボスに視線で合図を送られずともだ。

 

「ゆきちゃん。おかげで俺達は無事帰れたよ。ありがとう」

 

「ですが……私は結局、足を引っ張っています」

 

「そんな事はない。

あの時だって、2対4であくりちゃんと一緒に踏みとどまったじゃないか。

それを無傷で耐え抜いたんだ。今回の作戦は、ゆきちゃんの活躍が大きいよ」

 

 それは実際その通りだろう。

 あの一撃離脱を駆使する高速機を相手に、チェイスとボスに攻撃させず自身も耐え抜いたのだ。

 

「攻撃を受けたのは、間違いなく判断ミスだ。

だけど深追いは俺やボスでもやらかし得る」

 

「ああ」

 

 ボスは静かに頷いた。

 

 間違いなく、ゆきは連邦空軍の中でも上澄だ。

 反省すべきところは反省すべきだが、かといってやり過ぎも毒である。

 

「……はい」

 

 少しだけ、彼女の表情が晴れた。

 詳しくは、このあとのデブリーフィングで詰めることになるが。

 

「志村二尉、聞いたぞ。遂に播磨型を仕留めたんだな」

 

「いつかやると思ってましたよ!」

 

 宗治郎とオメガ隊の面々が、話の切れ目と見て入り込んできた。

 やはり───見知った顔がいくつか見当たらない。

 

「3人やられた。低空だったから、脱出も無理だった」

 

 良介の視線に気付いた秀彦は、静かに補足した。

 

「……そっか」

 

 こちらとて、この戦いで政府海軍の人員を相当数殺したのだ。

 能動的に殺しておいて、やり返されたら恨むような無様を晒したくはない。

 お互い様なのだ、戦争での殺し合いは。

 

「それでも、ペンギン隊は欠員なし!

流石ですよ! 蒼穹の魔王とその部下は!」

 

「ペンギン隊だけじゃない。オメガ隊も、精兵隊も、新選組も。

みんなあってどうにかなったんだ……ほら、デブリ行くぞ」

 

「あっ、はいっす!」

 

 敬一の素朴な言葉に率直な返答をすると、良介はデブリーフィングに参加するため歩き出した。

 確か、ターミナルの会議室で行うという話だったか。

 

 駐機場からターミナルまで結構な距離があるので、車両を使っての移動となる。

 ペンギン隊はあくりと合流すると、6人乗りの汎用車両に乗り込んだ。

 

 運転手は、ご無沙汰であった田中空軍歩兵であった。

 

「お久しぶりです、良介さん」

 

「あれれ、田中くんじゃないか。

最近見なかったけど、何してたんだ?」

 

「少し、東国地方の調査に」

 

 田中空軍歩兵の所属は旧幕府軍における改方(あらためかた)───連邦軍における空軍憲兵である。

 しかしその役職の実情は諜報、防諜に近い役割である。

 

 かなり長い間姿を見なかったが、なるほど。

 彼は敵地へ潜入して情報を収集していたらしい。

 

 良介はボスに助手席を譲ると、ゆきやあくりと共に後部座席に腰を下ろした。

 そこは座席と呼ぶには色々なものが足りなかった。

 たとえば、座席のクッションやベルトである。

 

 なにせ後部座席は本来荷台で、座席は対面型の折り畳み式シートなのだ。

 良介的に女の子と顔を合わせて座れるのは行幸だが、そのメリットを奈落の外へ突き落とすレベルの乗り心地なのだ。

 そして、ベルトがないのでひっくり返ったら放り出される運命だ。

 

 片足を義足とするボスを、そんな場所に座らせるわけにはいかない。

 女の子とくっ付きたいという理由も多分にあったが、一応これが良介の本心である。

 

「……考えてみたら、サトリなんてのがいるこの世界で、

スパイってよく成立するな」

 

「完璧ではありませんが、サトリに読まれにくい心構えがあるのです。

大半のサトリが読めるのは心の表層のみ。知られたくない事は

心の奥底に仕舞い込めば、彼らとて読めないのです」

 

「うーん。やっぱりサトリの能力ってのも、

万能ではないんだな……」

 

「とはいえ、心構えが出来ぬ者もおりますし、

ふとした拍子に本心が漏れることもあります。

故にサトリは長い間冷遇され、あらゆる要職から遠ざけられ───

場所によっては疑いだけで死罪となったのです」

 

 良介も歴史書で何度か、それらしい記述を目にしていた。

 その者にはサトリの気配があり、恐れをなした時の支配者が首を()ねた───

 といった記述だ。

 

 痛くもない腹を探られるのは、誰しも嫌がる。

 他人の生殺与奪権を握っている権力者は、それを強く恐れるのだろう。

 

 もっとも、サトリの側も好き好んで他人の心を読んでいるわけではない。

 千代という実例が、それを証明していた。

 良介の対面で表情を固くするゆきも、その一例だ。

 

「……酷い話だ。内心の自由は大事だけど、それだけで殺すなんて。

だけど、要職から遠ざけられてたんだよな?

どうして今の時代じゃ、千代ちゃんが春川親王の護衛を任されてるんだ?」

 

「単純に、時の流れがサトリの恐ろしさと禁忌(タブー)感を忘れさせたんですよ。

ですから、世界各国が忘れられたサトリの技術を掘り起こし、

制御しようとしています。

中には人工的に、後天的にサトリの能力を発現させる研究までされています」

 

「……超能力者研究か。どこも、人の考えることは変わらないな」

 

「タチが悪いのは、この世界(ここ)じゃ実在するってことだ」

 

 ボスは正面を見据えながら吐き捨てた。

 我々の世界では科学に基づく超能力者研究は、どこか半信半疑なところがあった。

 

 ところが魔法やら超能力者、果ては神様まで実在が広く確認されているこの世界。

 研究にかかる熱量は尋常ではないだろう。

 善くも、悪くもだ。

 

「千代さんは、そういった研究の被験者……

という話は、もうお聞きになりましたか?」

 

「ああ、聞いてるよ」

 

「自分も風の噂で聞いた程度ですが……

どうも彼女、その人工サトリの祖となる方みたいで」

 

「人工サトリの祖?」

 

「人工サトリは葦原で確認された中で、最も強力なサトリから得た情報を基にし、

再現するという計画だったそうです」

 

 言われてみれば、千代は葦原一の始末屋を自称していた。

 同時に葦原で最も優れたサトリである───という旨の発言もあったかもしれない。

 

「千代ちゃんって、実は凄い人だったり?」

 

「ええ。だからこそ、葦原政府……神祇官は恐れたのです。

天賦の才を持つ、制御出来ない個人を」

 

 実際、千代の口ぶりでは自分が葦原政府に嫌われている事を自覚し、彼女自身も反感を抱いているように感じられた。

 自分から望んだ境遇ではないため、そうなるのも無理のない話だ。

 

「でも、人工サトリなら……」

 

「ええ。志願者から選抜するので、彼らの懸念を解消出来ます」

 

 先天的な才能であれば、どんな人間に宿るかわからない。

 しかし後天的に発現させるのなら、ある程度人を選べる。

 

 サトリを制御するのであれば、人工的な発現は必須というわけだ。

 

「もちろんこれは、幕府や政府が考えついたアプローチのひとつです。

サトリそのものの人格矯正(・・・・)も研究されていました」

 

人格矯正(じんかくきょうせい)……洗脳かぁ。

一応聞くけど葦原以外でも、研究されてるの?」

 

「無論です。サトリの制御に関して調べているのは葦原だけではありません。

合衆国では軍民共に脳神経の診察や治療に利用し、

リールランドでは群衆整理に活用しているとの情報。

そしてクルーヴィナ連邦では……皆様もお気付きでしょう。

サトリ能力の妨害が研究され、実戦に投入されています」

 

 ゆきの視線が運転席へ向けられた。

 サトリであるゆきは、戦闘中に敵から向けられる感情を掴む事が出来る。

 それを活用して目標の選定や攻撃の回避に役立てているのだ。

 

 しかしそれが、最近通じない敵が現れた。

 そのことごとくが例のクルーヴィナ連邦の機体に乗り、手足の如く操る熟練のパイロット。

 関連を感じるのが当然というものだ。

 

「田中くん的に、やっぱりク連はこの戦争に介入してると?」

 

「政治的事情の問題で、連邦政府はク連の中立を尊重しています。

ですが、実情では兵器・人員を政府側に送り込んでいると見ています」

 

 だろうな。

 リールランドと違って、中立を気取っている理由も想像出来た。

 

「で、中立という事になってるから、合衆国の領空や領海も通過出来ると」

 

「葦原の南方、西国地方や筑紫、御代では食料不足による飢饉が起きています。

その人道物資という体で、ク連から何隻もの船が貨物を降ろしています。

つまり……そういう体裁を保っています」

 

 国際法や国際関係を、利益のため最大限活用するという方針だ。

 もちろん、内心では興味がないので真っ向から反する行為もすると。

 どこかで聞いたようなスタンスで、実に腹の立つ話である。

 

「……なぜ、合衆国はク連の通行を許可するのです。

そんなの、利敵行為ではありませんかっ」

 

 荒い呼吸を抑えながら、ゆきが憤慨した。

 この場にいる誰に怒っても、それは八つ当たりに過ぎない。

 それを理解しているからこそ、彼女は拳の振り下ろす先が見当たらないのだ。

 

「エラちゃんに聞くのが一番だと思うけど……

合衆国には合衆国の理由があるんだよ」

 

「理由⁈ 合衆国は我々と同盟を組みたいのでしょう⁉︎

なのに、なぜこのような利敵行為を……

こんなもの、味方のフリをした敵ではありませんか!」

 

 ゆきの発言はごもっともだ。

 同盟相手の敵が戦力を増強する。

 それを黙認しているのは、正しく利敵行為だ。

 

 エラがこの場にいたら、絶対に否定するだろう。

 しかし彼女がこの場にない以上、良介が情報の断片から話を分析するしかなかった。

 

「これは俺の推測になっちゃうんだけど……まず酷い話から。

合衆国と葦原は別の国だ。優先順位は下がるよ」

 

「……」

 

「あれれ? 怒らないの?」

 

「酷い話から、なのでしょう? 酷くない話を聞いてから、判断します」

 

 それは、ゆきが理性的になったためか。

 あるいは───良介を信じてくれているためか。

 いちいいt答えを聞くべき状況ではない。

 

「じゃあ、ちょっと酷くない話。

合衆国は既にリールランドと超帝国と戦争状態だ。

この状況でク連ともやり合うハメになったら、タダじゃ済まないだろ?」

 

 マランス合衆国は極東の覇権国家である。

 しかし覇権国家といえど、無敵ではない。

 

 1つの覇権国家と、2つの覇権国家。

 戦えばどちらが勝つか、優位かは論じるまでもない。

 この混乱で合衆国が倒れては、元も子もないのだ。

 

「で、合衆国がボロボロになって。それで止まるとは思えない。

次は葦原(こっち)に3勢力が押し寄せてくるぜ」

 

「……それよりは、マシという事ですか?」

 

「そうだね。だから、ちょっと酷くない話なんだ」

 

 積極介入と比べれば、コッソリと中途半端な介入の方がマシ。

 もっとも、ク連としても現段階では極東へ深く踏み込みたくないというのが本音なのだろう。

 だからこんな、半端な手段で介入しているのだ。

 

「合衆国は極西のならず者国家を止める防波堤みたいなものだよ。

崩れたら、大波が押し寄せてくるぜ」

 

「私も、良介に同意しよう」

 

 良介の隣で静かに耳を傾けていたあくりも頷いた。

 

「合衆国は鎖国の葦原が持つ、数少ない貿易相手だ。

しかし、あくまで商いの関係。同じ旗の下に集う仲間ではない。

関係がある以上、それなりの力添えは求められるが、

過剰な協力は求めるべきではない。無能()と舐められる」

 

 同盟こそ結んでいるが、おんぶ抱っこの関係ではいけない。

 面倒事全てを押し付けていれば何も出来ない上下関係の下っ端と侮られ、それをしない優しい相手だとしてもいずれ見限られる。

 そう、そういうところも我々は学んでいた。

 

「合衆国は手一杯だから、我々でどうにかしなくてはならないと」

 

「そういうこと。合衆国はデカいところだけど、無敵じゃないんだ」

 

 良介は自分で言っておいて非常に思い当たるところにぶち当たって、少しだけ眩暈がした。

 

 そう、合衆国はデカいところだけど無敵ではないのだ。

 それを前提にしても、色々思うところはあるが。

 

「では、ク連に話を戻しましょうか」

 

 田中空軍歩兵は目的地のターミナルを見ながら、静かに語った。

 

「彼らの動きですが……兵器人員を供給しているのは政府軍だけではありません。

葦原政府から離反の動きのある地域にも送り込んでいます」

 

「旧唐津藩、みたいな?」

 

「仰る通りで」

 

 唐津藩、岸岳茂実(しげさね)の出身地域。

 彼女は世界博覧会から撤退する民間機や貨客船を守るため、ク連製の巨大表面効果機を持ち出した。

 

 唐津藩とクルーヴィナ連邦の関係は明白だった。

 

「現在旧唐津藩地域に所属している各軍の部隊は政府軍からの命令を無視。

政府軍が我々にかかり切りなのをいい事に、他地域からの移動を制限しながらも

合衆国や超帝国相手をはじめとした貿易拠点として着実に利益を上げ、

同時に守りを固めています」

 

「鎖国はガン無視?」

 

「ガン無視です」

 

「政府としては攻め込む気配を見せないから無視、ってところかな。

……ちなみに、唐津藩がク連製兵器拡散の拠点になってたり?」

 

「それはありません。唐津藩は独立志向を見せていますが、

同時に売国奴と扱われないようにうまく立ち回っています」

 

「うーん、さすが茂実さん。凄い切れ者だ」

 

「……岸岳茂実とお知り合いで?」

 

「うん、世界博覧会でちょっとね」

 

 背後からでも、彼が眉間を揉んだのがわかった。

 

「岸岳茂実……(かれ)はかつての唐津藩藩主、現唐津地域の顔役となっている

岸岳茂時(しげとき)の一人息子にして、唐津空軍の司令官を務めています」

 

 茂実は明らかに女性だが、葦原では武士は皆男でなくてはならないという建前(・・)がある。

 しかし古い時代、男女比が壊れかけた葦原では家の取り潰しを避けるため、娘を息子と偽る習慣が出来た。

 なので、公衆の場では男性扱いなのだ。

 

「へぇ、凄い大出世だな」

 

「唐津藩の時代から、彼は藩海軍の中では事実上の司令官でした。

そう考えれば、政府軍での扱いは不服だったのでしょう」

 

「そういえば、唐津藩海軍って運用してるのは空軍機だよな?

なのに海軍なの?」

 

「むしろ、藩が空軍を持ったのはつい最近の事なんです。

それ以前は藩陸軍か、藩海軍の管轄。

唐津藩は後者の扱いが続いているというだけの話です」

 

 考えてもみれば、名目上は独立国扱いとなる藩という区分だが、日本で言えば都道府県程度の経済規模。

 軍隊を持てるだけでも相当なもの、空軍という第3の軍隊を持つ余力のある都道府県など、せいぜい東京都ぐらいだ。

 

 思わぬタイミングで、唐津藩に抱いた素朴な疑問が解消された。

 

 ではせっかくの機会だ、肝心な疑問を解消しようではないか。

 良介は田中空軍歩兵に、重要な話題をぶつけた。

 

「それでさ、唐津藩は敵なの?」

 

「……彼らは葦原連邦と葦原政府。双方と距離を置いています」

 

 中立という立場は、双方から敵とみなされる───

 つまり、両方から殴られる恐れのある立ち位置だ。

 

 ただでさえ気に入らねぇスカした奴扱いされるのに、どちらかへの肩入れがあると見なされれば。

 それはもう、純然たる叩き潰すべき敵となる。

 

 もし唐津藩の独立に世界博覧会での一件があるとするなら、政府側への接近は論外。

 では、連邦に接近するのかという話になると───

 

 結局のところ、唐津藩は純然たる政府側支配地域である筑紫(つくし)の北西部に位置している。

 政府側と敵対すれば、例え外国からの庇護があったとしても四方八方からタコ殴りだ。

 

 唐津藩にどのような意図があるにしても、葦原他勢力との接近は避けるだろう。

 

「綱渡りな……」

 

「それほどまでに、政府側に与したくないって事だろうな。

ま、武装中立ってのはそういうもんだ……

こういう立ち回りが出来るだけ、まだマシな情勢だが」

 

 ボスは背もたれに上体を預けながら伸びをした。

 

 我々の世界では、中立の立場を捨てる国がグッと増えた。

 理性のない相手に、中立という看板や開戦による経済的損失は無意味。

 誰もが目を逸らしてきた事実が、改めて明らかになったためだ。

 

 葦原では───葦原政府は危険な兆候こそ多いが、理性を感じられる動きはある。

 周辺諸外国は本当に危険な兆候を発する国家を知らないだけだ。

 

 だからまだ、外国の圧力と経済的損失は通用する。

 あくまでまだ、だが。

 

「少なくとも、今は味方じゃないわけか」

 

「……どうでしょう。今も将来も、味方になどなるつもりはないのでは?」

 

 ゆきの言葉に、良介は視線をやった。

 疑問や推測という体で発せられた言葉だが───

 彼女の口調に、どことなく確信を感じたのだ。

 

「というと?」

 

 良介が問いを最後まで発する前に影が差し、車が揺れた。

 ターミナルに到着したのだ。

 

「さあ皆、急ぎ会議室に集合だ!

なるべく早くここを去らねば、空港業務の迷惑だからな!」

 

 すぐ後ろに続く車に乗っていた吉宗が叫ぶ。

 

 空港のみならず、道奥藩智台は現在、連邦軍の主たる物流拠点となっている。

 主に果ての海沿いを進軍する陸・海軍の拠点であり、毎日のように輸送機が行き交っている。

 

 そこを貸し切って彰義隊の補給基地にしたのだ。

 空港としては、余計な業務が増えて辟易(へきえき)していることだろう。

 

「おっと、行かなきゃな」

 

 結局、ゆきから疑問の答えを得る間はなく。

 一同は会議室でのデブリーフィングに挑むのだった。

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