蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年5月16日
真田藩 真田空軍基地
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
出撃2日前。
良介達は練度維持のために最前線の真田藩ながら、訓練は続けていた。
その訓練を終えた更衣室だった。
「なあ、良介。知ってるか?」
「なんだよ?」
着替える最中、新選組の鉄之助が話し掛けて来た。
彼は元から人懐っこい男ではあったが、歳三が揉め始めても距離感が変わらない、数少ない新選組隊士であった。
「俺らってさ、彰義隊の3バカって呼ばれてるらしいぜ?」
「3バカ? 良介と、鉄之助。3人目は誰だ?」
そばで着替えていた入道が尋ねると、鉄之助は無言で彼の禿頭を指差した。
「おい、お前らと一緒にするな。俺はバカじゃないぞ」
自認は冷静な新選組の頭脳を気取ってそうな入道は表情を歪めて否定した。
「ふん、俺様もそうだ。そもそも、歳が全然違うではないか」
一応年長として、良介もキッパリと否定した。
「……え? 良介っていくつなんだ?」
「28……いや、29」
「はぁっ⁉︎ 三十路間近でお前、それだったのか⁉︎」
入道は
三十路間近のいー歳こいてナンパ野郎を自称し、実践している精神年齢14歳児。
驚かれるのは当然の話である。
「へぇ……良介って顔は若いんだな」
「ふふん。鉄之助、意外とわかってるじゃないか」
「精神年齢が顔に表れてるだけじゃないのか」
「入道。俺は今、お前に今後一切頭髪が生えない呪いを掛けたぞ」
「残念、俺は10代の頃からこんなだ」
「エリートハゲめ」
装備を納めていると、鉄之助のラジオから聞こえてくる声に意識が向いた。
「続いての報道です。
我らが連邦海軍は先日、果ての海を北上する賊軍と交戦しました。
播磨型戦艦2隻を擁する大艦隊に、連邦海軍第一艦隊は窮地に陥りました」
「この間の戦いだ」
「ああ。良介が播磨型を沈めたやつだな」
「あれは偶然だっての。狙って出来るわけないだろ?」
作戦や戦闘の結果は軍や政府が公開したものでない限り、公開は違法だ。
そのため、報道されるまでラグがあるのだ。
聞くところによれば、負け続けな政府側でのラグはこの比ではないそうだ。
恐らく政府側占領地域では、あの戦いの結果は報道されないだろう。
「しかし、そこに現れたのが連邦空軍第1航空団彰義隊。
中でも蒼穹の魔王率いるペンギン隊は一次攻撃で
ミサイル駆逐艦、ミサイル巡洋艦を3隻ずつ、計6隻を無力化する大金星」
「……これ、誇張じゃないんだよな?」
「ああ、誇張じゃないよ。
竜司ちゃんとか、ウィングマンの戦果も含まれてるけど」
「竜司かぁ……あいつも遠い存在になっちゃったなぁ」
「防空艦を失い、無防備となった賊軍の艦隊。
第一艦隊は体勢を整え、ペンギン隊と共に敵艦隊向け突入」
「……新選組は触れられないのか?
お前ら凄い活躍してなかったっけ?」
新選組はあの戦いにおいて、良介らが補給する間の直掩を担当していた。
攻撃機8編隊、直掩機複数を相手に被害皆無で撃退している。
あの戦いの成功には、間違いなく新選組の功績があった。
「そりゃ死ぬほど頑張ったけど……無理があるぜ」
「お前の戦功と比べちゃな……」
「ペンギン隊の攻撃は、播磨型戦艦肥前の煙突と艦橋に命中。
航行能力と射撃能力を奪いました」
「あれれ? あの時の相手って薩摩だったような?」
「昔からここの局、軍事関係はいい加減なんだよ」
「賊軍艦隊、もはやこれまで。しかし匪賊は見苦しくも最後の抵抗に出ます。
砲雷戦に突入した第一艦隊を、味方艦隊諸共三式弾で滅ぼさんとしたのです」
「この時って、もう爆弾なかったんだよな?」
「ああ、なかったよ。SRMとGUNだけ」
「なんでそれで播磨型が沈むんだよ……
全長550メートル、排水量60万トンの世界最大の戦艦だぞ?」
「本当だよ」
「しかしここで来るは蒼穹の魔王。三式弾を撃ち込まんとする
肥前の装填した三式弾を破壊し、見事
「……この攻撃止めた時、大助と一緒だったぞ」
「大助って、真田藩藩主の息子さん?
それ初めて聞いたぞ?」
「お前以外眼中にないんだろうな……
放送局も連邦政府から渡された原稿を読んでるだけだろうしな」
という具合に、連邦で報道される良介の活躍には誇張は少ない。
が、なんか絶妙に外して欲しくない、嫌なところがズレているのだ。
「うーん、他部隊の存在が透明化されているな……
海軍なんて途中でフェードアウトしてるし」
「そんなだから、お前の実在を信じてない奴がいるんだろうさ。
複数人の活躍をひとりにまとめたと思われるからな」
戦闘機が戦艦を沈める事は出来ない。
ましてや、その戦艦が世界最大であればなおのこと。
大きさを見ればそんな事は一目瞭然であり、誰もがそう思うのは事実。
なんかやっちゃった良介自身ですら、その見解は変わっていないのだ。
「俺だって、こんな真似してる奴がいるって言われても信じないぞ」
「良介よぉ、自分が信じなかったら誰が信じるんだよ?」
「俺たちは直に見てるから、
ただでさえ、お前が葦原の英雄なんて信じたくないというのに」
とてもひどい言われようである。
それでも無理矢理戦闘に参加させている側のセリフなのか?
というのは、葦原連邦の一兵士に過ぎないふたりに言うのは酷というもの。
彼らは肩を並べて戦う戦友であり、戦いを強いている訳ではないのだ。
「ちぇっ、何度も助けてやったのに失礼な連中だ」
「ははっ。お前自身が失礼な奴だしな!」
「上官どころか、松平公にタメ口利くのはお前くらいだよ」
「うーん、事実なので否定出来ない……」
冗談混じりの談笑をしていると、新しい気配が更衣室に入って来た。
最近どことなく、冗談の通じなさそうな殺気を放つ男。
新選組隊長、山義歳三中佐。
そして彼を特に敬愛している新選組隊士だった。
更衣室にやって来た歳三達は、良介と
「おい、鉄之助と入道」
取り巻きのひとりが呼び掛けた。
呼び掛けるだけで、特に何かをしろと命じはしないが───
これは皆まで言わせるな、というやつだろう。
ようするに、良介らペンギン隊とつるむな。
そう言いたいのだ。
「なんだよ?」
「……言いたい事があるなら、はっきり言った方がいいぞ」
歳三が軍と揉めているのは周知の事実。
彼を敬愛している連中にとって、揉めている相手は敵に等しいのだ。
「だから、だな。お前ら……」
良介からすればあまりにも自分が薄過ぎるが───
いちいち本人に向けて言うほど、良介も鬼畜や子供ではなかった。
それに───
「よせ、一郎」
何より歳三自身が、そういうのを望んでいないように見えたのだ。
「ですが、山義隊長……」
「何も悪くないんだ……良介は」
それだけ告げると、歳三は自分のロッカーへと向かっていった。
少ない数の取り巻きが良介へ嫌な視線を向けるも───
話はひとまず、終わった。
「……ま、山義隊長もああ言ってる事だし。
気にすんな」
「あいつらも悪い奴らじゃないんだ。でも、新選組にも色々いる。
……色々な」
新選組も自衛隊も、聖人君子や神兵の集まりではない。
あくまで軍隊、人の集まりに過ぎない。
色々な人間がいて、個々人の信条や思想がある。
全てをひとつの側面だけで断ずる事は出来ないのだ。
「わかってるって。
掃いて捨てるほどいたからな」
そう、色々な人間がいるのだ。
「腹減ったー。今日の飯ってなんだ?」
「給養員の
「またか。ま、真田藩の名産品だからな」
「いいじゃん、俺は好きだぜ? 肉が柔らかくて」
イナゴというのは、我々の知るイナゴとは違う。
稲を好んで食べる、葦原湾で獲れる魚である。
この性質から稲を釣り餌に釣り上げられるため、この名がついたのだとか。
「夷俘島北部で獲れる魚は……肉の硬い魚が多いんだっけ?」
「ああ、コゲウオってんだ。焔の世が近いからかな、
鱗が焦げたような模様なんだ。肉はなんか、刺身でも干し肉食うような感じ」
「生魚でジャーキーって、味がそんなに硬いのに泳げるのか……?」
その肉質や味の微妙さから、夷俘島北部以外では食されず、良介も見た事がなかった。
気になると言えば気になるが───
一種のゲテモノとしての興味となってしまうだろう。
「地元じゃ誰もお勧めしないよ。
網に勝手に引っかかるから、アホみたいに安いけど」
「俺も一度食ったけど、二度目はいらないな」
そんなこんなで。
良介ら3人は食堂へと向かうのだった。