蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年5月18日
武揚 武揚空軍基地
葦原政府神祇軍『赤報隊』
川端“ロック”六助
装備を整えた僕たちは、日付が変わる少し前に格納庫へ。
武揚空軍基地に配属された神祇軍の整備隊は、遅い時間だというのに機体を完璧に整えてくれていた。
「みんな、今から兵装の搭載を頼む」
宗吉が僕らを代表して、整備隊に注文した。
蘭とひろは整備隊とちょくちょく喧嘩をしていて、関係が良くない。
「うるさい黙れ」
僕は口を開いていない。
「ああ、宗吉さん。そりゃ構いませんが……
夜間哨戒の予定では?」
「山本神祇大祐は任務のため、後方での勤務となった。
指揮権は赤報隊隊長、川端六助神祇使部に委任されている。
これは川端神祇使部発案の作戦だ」
「そりゃまた唐突だな……了解。何を積みます?」
「陽光2発、それに噴進弾を」
「よし。聞いたな! 始めるぞ!」
機付長の指示で、整備隊が一斉に動き出した。
僕とひろは搭乗機に向かい、エンジンの始動手順を始める。
「おい、ロック。これ完全に命令違反だけど、本当にやるのか?」
隣に座るひろが尋ねる。
僕は今でも安芸藩空軍、神機隊の人間だ。
神祇軍には成り行きで送られただけ。
神祇軍、神祇官が幕府を止めないのであれば僕が止める。
幕府を終わらせると、心に決めてるんだ。
君もそうだろう?
「……ああ。お前なんかよりも強く、心に誓ってる」
心が読めるサトリともなれば、他人の決意を正確に測れるのか?
「……」
いや、ごめん、嫌味を言うべきじゃなかった。
だけど、君にとって幕府は親族の仇であり、名誉を穢した仇敵。
生かしておくわけにはいかない、その決意はわかった。
蒼穹の魔王が言っていたように、君を戦場に置くのは気が進まない。
だけど、その覚悟と決意は戦場に身を置くに足る理由だと僕は思う。
「ふん……当たり前だ」
機体の電子機器に電力が送電され、システムが動き出した。
意識が機体と一体化し、さらにひろとの繋がりが生じる。
「こちら葦原政府空軍第34飛行隊。赤報隊へ、さっき管制から聞いたぞ。
真田藩に攻撃へ向かうそうだな?」
第34飛行隊、この武揚空軍基地に配属された攻撃機部隊だ。
僕達と同じく上からの指示で武揚へ迫る敵の迎撃以外、禁じられている部隊。
「こちら赤報隊、それがどうした?」
「その攻撃、我々も参加する! 仲間がやられているのに、
我らだけ武揚で指を咥えて見ているわけにはいかん!」
どうせ彼らも、このままでは武揚で飼い殺しにされるだけだ。
真田藩の攻撃に参加してもらった方がいいだろう。
「えっ、いいのか⁈」
「かたじけない!
第34飛行隊、これより赤報隊と共に真田藩攻撃に参加する!
兵装を積め! 久々の大暴れといくぞ!」
いつの間にやら、作戦参加機が増えていた。
「お、お前……誰がそいつらの管制すると思ってるんだ?」
攻撃は大規模な方がいい。
幕府軍にとって真田藩は陸路で接続されていない、ほとんど飛び地だ。
真田藩の陸上戦力の増強は難しく、減らせば減らすほど武揚に何かあった時、陸の味方が葦原西部へ脱出できる可能性が増える。
神祇官や軍は、彼らを助けるつもりはないらしいのだから。
「……お前は、よその連中を見捨てないつもりか?」
僕は弱者と敵対者に無慈悲で、かつ無能な幕府とは違う。
そしてきっと……葦原政府とも違う。
葦原政府が前線で戦う人間を切り捨てるというのなら。
今、神祇軍に生じた権力の空白を利用させてもらう。
「ふん。少しは自分の頭で考えるようになったんだな」
僕に軍全体の動きを変える力はない。
でも最前線で出来るなら、やろう。
「燃料、給油終わりました!」
「全兵装、搭載完了!」
整備隊がタラップをのぼり、僕に向かって叫んだ。
準備は整った。
整備隊の安全を確認すると、機体をゆっくりと前進させる。
「お前、また管制との連絡ボクに丸投げする気か……?
あー、こちら赤1。武揚ATC、離陸許可求む」
「赤報隊っ⁈
勘弁してくれよぉ、さっきから無申請の離陸要請がドカドカ来てるんだよっ!」
「無申請の離陸要請ぃ?」
格納庫から外へ出ると……驚いた。
深夜の暗闇に包まれた誘導路には、既に多くの機体が離陸待ちをしていた。
「おおっ、赤い機体! 赤報隊の1番機が出て来た!」
「聞こえるか? こちら第27飛行隊!
赤報隊、俺たちも攻撃に参加する!」
「第37飛行隊同じく! 裏切り者の松代家を二度と立てなくしてやる!」
34飛行隊に続いて、2つも味方航空部隊が。
いずれも兵装を満載して、やる気満々といった様子。
誰も彼もが、命令違反上等の荒くれだ。
「その筆頭が、ボク達だけどな」
僕は上官から指揮権を委任されている。
何も問題はない。
「わぁ。こりゃ、大規模な攻撃になりそうだねぇ」
遅れて出て来た蘭も、この光景には舌を巻いていた。
確かに僕達も苛立ちを募らせてはいたが、ここまで行動する人間がいたとは。
とはいえ、作戦参加機に違いはない。
ひろ、あとは頼んだ。
「面倒な事はぜーんぶボク任せか……はいはい。
ATC、そいつら全員作戦参加機! 許可してヨシ!」
「い、いい加減な……了解。誘導路待機中の航空機へ!
順次離陸を許可する! 後がつかえてる、行くなら早く行け!」
「っしゃあっ! 白1、離陸する!」
滑走路へ出た味方機が、最大出力で飛び立って行く。
順番を待っていては、彼らは先に作戦区域へ向かってしまいそうな興奮ぶりだ。
「おい、27飛行隊! 勝手に作戦区域に行くんじゃないぞ!」
誰かが一緒に飛んで、手綱を握る必要がありそうだ。
僕はカイトの推力偏向ノズルを操作し、
「赤1、離陸する」
「は? お前ちょっ……!」
最大出力、推力増強装置作動。
蒼い焔を両脇のエンジンノズルから迸らせ、カイトは駐機場を滑走。
斜め下を向いたノズルが前進のためだけでなく、上昇する推力をも生んだ。
わずか数十メートルの滑走距離で、カイトは空を走り始めた。
「ヤッホォゥ! あたしもやるぅ!」
「おい蘭、待てっ……!」
「赤報隊、こらっ! 離陸許可は出してない!
……くそっ、統制が崩壊し始めてる! まるで敗戦寸前じゃないか!」
少なくとも、政府軍に武揚を維持する気はない。
武揚と駐留する部隊を生贄に、幕府軍を殲滅するための作戦を企図している。
果たしてその手段が何なのかは、結局わからないけど……
道連れは少ない方がいい。
「第34飛行隊、離陸する!
赤報隊に続け!」
先んじて離陸した味方と合流し、足並みを揃えるため空中待機を始める。
玉のいない見捨てられた武揚を包囲し、詰ます戦力。
そこから歩を早逃げさせるための戦いへ。
ストック不足につき、来週の更新は月曜日の1回のみです
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