蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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188 必至作戦1「BrinkMate」

央暦1970年5月19日

鳴田藩 千里空軍基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 日が登って間もなくの、千里空軍基地作戦室。

 良介らペンギン隊に、近衛軍の代表として耕作をはじめとした小隊長3名。

 それに、防御線を破って千里基地までやって来た第一戦車隊の隊長、松本柳北が集った。

 

 緊急の要件とのことで、テレビ通話が真田基地から要請されていた。

 

「真田が奇襲をっ?」

 

「……正直、今更奇襲された事に驚きを感じます。

今までの攻撃はむしろ、手ぬるいものばかりでしたので」

 

 まさに、衝撃的な報告であった。

 真田空軍基地が奇襲を受け、駐留する航空機部隊及び地上部隊が甚大な被害を受けたという。

 近衛軍の小隊長たちは驚いた様子だが、一方中央軍のキャリアが長い柳北に驚いた様子はなかった。

 

 あの土地は武揚包囲網の中心となっていたが、連邦支配領とは陸路で接続されていない。

 地上戦力も比較的貧弱で、武揚包囲網の中では最も破るのが容易い穴のはずだ。

 これは将校の教育を受けた人間ならば、容易く至る結論だ。

 

 故に、合衆国ロング・イラ社の輸送機で車両類を輸送していたのだが───

 

「完ッ全にやられた……ウチの輸送機は格納庫の2機以外は全滅。

生き残りもニコイチで何とか動かせそうな惨状だ。

基地直掩のマチェット隊も機体全喪失したし……

それにサナダクランの、シックス・コインズだっけ? 全滅したよ」

 

 ビデオ通話でエラは良介達にそう語った。

 彼女には悪いが、良介にはもっと心配な状態の女の子がいた。

 この懸念の正否はすぐに出た。

 

「おおっと」

 

「あくりさんっ、お気を確かにっ」

 

 報告を耳にしたあくりは膝から崩れ落ちたのだ。

 咄嗟に良介とゆきが両脇を抱えて、何とか転倒だけは避けた。

 

 その身を粉にして守り続けてきた松代家の領土、真田藩。

 領土の中心部を破壊され尽くしたのだ、ショックは並大抵のものではない。

 

 しかし何よりも───シックス・コインズ。

 つまり、六文銭の全滅だ。

 

 あくりの原隊である六文銭は真田藩解放戦で3人を喪っていた。

 残っていた2人は連邦空軍の一般部隊に属していたが───

 一晩のうちに、六文銭はあくりひとりになってしまったのだ。

 

「真田の地がっ、六文銭がっ……」

 

 やはり、我々の思っていた通りだったな。

 あくりは冷静沈着な武人と振る舞っていたが───

 決して、超人然としたメンタルの持ち主ではない。

 

 慣れ親しんだ故郷を破壊されれば、仲間達を喪えば。

 強く動揺し、ショックを受ける。

 人間なのだ、間違いなく。

 

「あくりちゃん、平気か?」

 

「平気……? 平気な、ものかっ」

 

 真っ青な顔をしたあくりは、語り掛けた良介を睨みつけた。

 叫ぼうにも腹から出て来たのは、掠れ声ばかり。

 

 良介とゆきはあくりを抱えたまま、何とか立ち上がらせるが───

 まだ正気に戻ったとは言い難い状態だ。

 

 質問を出来る状態にないと見た良介は、あくりに代わって続けた。

 彼女を励ませるか───地獄の底に突き落とすか。

 そのどちらかの賭けのような、しかしいずれ知らなくてはならない情報だ。

 

「真田源幸(もとゆき)……藩主の状況は?」

 

「……!」

 

 あくりの身体が震え上がった。

 彼女の脳裏に間違いなくあったであろう、しかし切り出せなかったであろう質問。

 

「それはご安心。真田城周辺は眼中に在らず、という感じだったからね。

本人が陣頭に立って、事後処理にあたってるよ」

 

 最悪な情報だらけだった中で、ようやく喜べる話が出て来た。

 良介は伏せていたあくりの顔を覗き込んだ。

 

「……ふぅ。ひとまず不幸中の幸いって奴だな、あくりちゃん」

 

「ああ……!」

 

 肉親の無事。

 良介がその安堵を知る術はないのだが───

 

 死を知って喜ぶほど、松代家の関係は破綻していない。

 あのふたりを見ていれば、それは確信出来た。

 

 もちろん、領民が多くを失っている状況だ。

 素直に喜ぶわけにもいかなかったが。

 

「でも、これからどうするんだ?

真田藩が甚大な被害を受けたら、武揚包囲網に穴が空くんじゃ?」

 

 真田藩と他の連邦支配領は陸路で接続されていない。

 そのため、陸上戦力の増強には空路が必須。

 

 空路、航空輸送での増強も可能には可能だが、効率がよろしくない。

 これを機に政府軍が侵攻を始めれば、真田藩はあっという間に陥落してしまう。

 

「武揚の陸上部隊が上崎へ出張ってくる気配はないね。

ずっと武揚を守り続けてる」

 

「……絶対にチャンスなのに、なんで攻め込まないんだろう?

こっちにとっては好都合だけどさ」

 

「はい……頷きたくはありませんが、攻めるには絶好の機会のはず。

賊軍といえど、意図が理解出来ません」

 

 ゆきも自分が抱く怒りに勝るほど、疑問に感じている様子だった。

 政府側の行動には不可解な点が頻繁に見受けられたが、今回は格別だ。

 

「そうですね。今までもそうですが、この機会に至っても攻めないのは……

政治的な問題か、何らかの意図を感じます」

 

 柳北は眼鏡を煌めかせながら言った。

 肝心なその理由が見えてこないのが、不気味というより他なかったが。

 

合衆国(こっち)も正直、よくわかってないんだ。

西海道で繋がってる良州藩は静かで越境する気配なし。

そのさらに西にある中葦原山脈を、まとまった数の軍が越える動きもない。

驚いたことに、西国から攻めるという案もないみたいなんだ。

普段ならこういう事、CIGが報告を上げるところなんだけど……」

 

 その続きは、あまり楽しい話ではなさそうだ。

 

「最近、武揚に潜伏しているCIGのエージェントが狩られてる」

 

 最悪な情報である。

 葦原諸勢力よりも手慣れている(・・・・・・)合衆国の諜報機関。

 そこのエージェントが、次々に摘発されているのだ。

 

「……サトリの能力を駆使してるのかな?」

 

「エージェントには特殊な精神防御(プロテクト)を施してる。

そう簡単に破れるはずがない」

 

 エラはそう言うが───技術というやつは進歩するものである。

 サトリの読心から守るための技術があれば、サトリの力を強化する技術もあっていいはず。

 あるいは───

 

「もっと単純に……例えば、指示者(ハンドラー)が割れたんじゃ?」

 

 指示を出す側へ送る通信には基本的にラジオ電波が用いられ、その傍受自体は文字通りラジオさえあれば可能だ。

 しかし暗号には乱数列(ワンタイムパッド)が用いられるため、傍受したところで内容の解読は困難。

 理論上、今も昔も解読は不可能とされる技術である。

 

 一方、相手は人の心を読めるサトリを広く運用している組織。

 暗号を解読出来ずとも、解読した人間の頭を読めばいい。

 

 そのプロテクトやらがあったとしても、指示役が手足となるエージェントと連絡を取る必要はある。

 ハンドラーさえ割れていれば、監視して泳がせるだけで勝手にCIGエージェントの疑い濃厚な人物を教えてくれるわけだ。

 馬鹿正直に一から割り出すより、ずっと簡単だ。

 

「……あいつら、肝心なところでナメプしてしくじるからね。

私の管轄外だけど、当局の知り合いに話してみるよ」

 

 良介は視線をあくりに戻した。

 ペンギン隊の責任者として離席するわけにはいかず、動揺したあくりはゆきに任せて椅子に座らせていた。

 彼女は少しマシな状態になったが───落ち着くまでに時間は要するだろう。

 

 柳北が真田藩の連邦陸軍と話し始めたのを頃合いと見て、良介はあくりに歩み寄った。

 

「あくりちゃん、平気?」

 

「……すまない。平静を欠いた」

 

「故郷と家族同然の人たちを傷つけられたんだ。

取り乱すのは当然だよ……俺が同じ立場だったら、暴れてる」

 

 安心させるため、良介は静かに微笑んだ。

 

「手間を掛けさせたな。私はもう、平気だ」

 

「そっか、ならよかったよ。

真田藩への移動は、何とか司令部に掛け合ってみるよ」

 

 彼女が抱く動揺は並大抵のものではない。

 戦時下とはいえ、現地へ赴きたいと考えるのは当然。

 薄くなった空の守りを固めるという名目で、ペンギン隊は真田基地へ戻れるかもしれない。

 

「不要だ。(わたくし)事で作戦を歪めるわけにはいかん」

 

「え? でもさ……」

 

「良介……これは戦だ。私情で動けば、多くが死ぬ。

死ぬべきでない者も、死ぬはずではなかった者もな」

 

 なんと強いのだろうか。

 あるいは、度を超えた頑固か。

 

 あくりの言葉は確かに正論だが、大した時間を経ていないというのに、こうも澱みなく言ってのけるとは。

 その真っ直ぐな瞳で言われては、これ以上の言葉は無粋でしかなかった。

 

「わかった。だから、あくりちゃん」

 

「なんだ?」

 

「絶対に生きて、真田藩に帰ろう」

 

「ああ……無論だ」

 

 あくりは静かに頷いた。

 傍に立つゆきへ、ふと視線を向けると───

 

 彼女の表情に、不和を感じた。

 

「ゆきちゃん、どうかした?」

 

「い、いえっ。良介さんの仰る通りです」

 

 良介は時折、妙に気を使い過ぎることがある。

 ボスの負傷も相まって、張り詰めすぎたのだろう。

 

「よし。ひとまず、武揚解放を終わらせてからだ。

みんな、あともう一踏ん張りだ」

 

 ペンギン隊の面々は互いに頷き合い、その決意を固めた。

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