蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年5月28日
道奥藩 智台空港
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
「良介さんっ! 何故、あのような真似をっ⁉︎」
「なにゆえって、俺がいつもやってる事じゃないか」
格納庫の屋上から降りた良介は、こってりとゆきに絞られていた。
特に意味もなく高所の、それも普通立ち入りが禁じられているような場所にいたのだ。
怒られるのは、至極当然の話である。
むしろ説教しているのが空軍のお偉いさんで、処罰されていない方が驚きだ。
───ふん、俺様は葦原連邦軍ではなく日本航空自衛隊の自衛官だぞ?
連邦軍のお偉いさんに俺を処罰する権限なんてないぜ。
つまらん揚げ足をとるな、現状のお前は私戦行為に走る自衛官失格状態だ。
それに処罰する権限のある人間の99.9%と連絡が取れない現状、連邦軍が事実上の上位者となる。
「良介さんは……いつもあのような真似をっ⁈」
「そりゃ、落ちたら危ないかもしれないけど……
周りの地形を把握するには丁度いいんだよ」
お前はアサシンか?
誰かが足元に藁の山でも敷けば、迷いなく飛び込みそうだ。
いいか、これはネタ振りじゃない。
本当に、やるんじゃないぞ。
「……全く無意味でない行為なのはわかりました」
ゆきよ、わかってはいけないぞ。
志村良介という男は常に、その場しのぎのいい加減な嘘をつくのだ。
「ふっふっふ、わかってくれた?」
「ですが、二度とやらないでくださいっ。
良介さんが慣れていようと、落ちれば死ぬことに変わりはありません!」
「……わかったよ」
ごもっとも。
両手を挙げて降参した良介は、ゆきに連れられてターミナルへ。
「……あの男、例の蒼穹の魔王なんだよな?」
「ああ……合衆国のエラ・アーロンに手を出してたっていうのに。
同じ部隊の女の子にも手を出してるのか?」
ゆきを連れて来た智台空港の職員が、良介に聞こえないように囁き合っていた。
残念ながら、良介は戦闘機乗りにしては地獄耳なのでハッキリと聞いていたが。
「……良介さん。あなたは今や、幕府軍の礎なんです。
居なくなられては……困ります」
幕府軍。
ゆきにとっては今も、葦原連邦軍は大和幕府の軍なのだ。
幕府のトップである将軍という地位は既に廃され、仮のトップである春川親王。
すなわち、現公が次のトップを決めているという時期に。
その指摘を、しておくべきだろう。
「ゆきちゃんはどう思う?」
だから、その指摘をしろと言っているだろうが。
「困ります」
良介はこの質問で、ゆきは困ると思っていた。
だというのに、彼女は即答してみせた。
少しだけ反応の早さに驚いたが、気を取り直して───
「困るだけ?」
だ、だから───認識の齟齬を正せと言っているだろうに。
ゆきを弄ぶのをやめろ。
「……とても、悲しく思います」
すると、ゆきの指が良介の手首を掴んだ。
まるでガラス細工を握るかのように、優しい力加減で。
───あ、あれれ?
な、なんだか思ってたのと違う展開だぞ。
クズ野郎め───
私はお前と同一の存在だ。
私が気付いているということは、お前が気付いているのと一緒。
あまり、ゆきの気持ちを弄ぶんじゃない。
「……」
「……ッッッ⁈」
良介はゆきの手を振り解くと、素早く手を握った。
おい、だから弄ぶなと───
───お互い、長くないかもしれないだろ?
だったら、振り解くのも可哀想じゃないか?
だが───しかし───
ええい、くそ。
なんでお前は決断を迫られると逃げるくせに、迫られないと逆に近くへ寄っていくんだ。
正真正銘のクズムーブではないか。
「嫌だった?」
「……いえ。ですが……」
ゆきは周囲を気にしている様子だ。
空港職員をはじめとした、誰かに見られる状況を気にしているのだろう。
「元から俺たち、
今さらだよ」
「それは……そうですが……
でも……でも……」
「でも?」
「……言葉には、してくれないのですね」
良介は立場を明確にせず、静かに歩いた。
ゆきもまた、それ以上の追求はしなかった。
一方的に握った良介の手を、ゆきは握り返してくれた。