蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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194 必至作戦1「BrinkMate」

央暦1970年5月28日

道奥藩 智台空港

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

「良介さんっ! 何故、あのような真似をっ⁉︎」

 

「なにゆえって、俺がいつもやってる事じゃないか」

 

 格納庫の屋上から降りた良介は、こってりとゆきに絞られていた。

 特に意味もなく高所の、それも普通立ち入りが禁じられているような場所にいたのだ。

 怒られるのは、至極当然の話である。

 

 むしろ説教しているのが空軍のお偉いさんで、処罰されていない方が驚きだ。

 

───ふん、俺様は葦原連邦軍ではなく日本航空自衛隊の自衛官だぞ?

連邦軍のお偉いさんに俺を処罰する権限なんてないぜ。

 

 つまらん揚げ足をとるな、現状のお前は私戦行為に走る自衛官失格状態だ。

 それに処罰する権限のある人間の99.9%と連絡が取れない現状、連邦軍が事実上の上位者となる。

 

「良介さんは……いつもあのような真似をっ⁈」

 

「そりゃ、落ちたら危ないかもしれないけど……

周りの地形を把握するには丁度いいんだよ」

 

 お前はアサシンか?

 誰かが足元に藁の山でも敷けば、迷いなく飛び込みそうだ。

 

 いいか、これはネタ振りじゃない。

 本当に、やるんじゃないぞ。

 

「……全く無意味でない行為なのはわかりました」

 

 ゆきよ、わかってはいけないぞ。

 志村良介という男は常に、その場しのぎのいい加減な嘘をつくのだ。

 

「ふっふっふ、わかってくれた?」

 

「ですが、二度とやらないでくださいっ。

良介さんが慣れていようと、落ちれば死ぬことに変わりはありません!」

 

「……わかったよ」

 

 ごもっとも。

 両手を挙げて降参した良介は、ゆきに連れられてターミナルへ。

 

「……あの男、例の蒼穹の魔王なんだよな?」

 

「ああ……合衆国のエラ・アーロンに手を出してたっていうのに。

同じ部隊の女の子にも手を出してるのか?」

 

 ゆきを連れて来た智台空港の職員が、良介に聞こえないように囁き合っていた。

 残念ながら、良介は戦闘機乗りにしては地獄耳なのでハッキリと聞いていたが。

 

「……良介さん。あなたは今や、幕府軍の礎なんです。

居なくなられては……困ります」

 

 幕府軍。

 ゆきにとっては今も、葦原連邦軍は大和幕府の軍なのだ。

 

 幕府のトップである将軍という地位は既に廃され、仮のトップである春川親王。

 すなわち、現公が次のトップを決めているという時期に。

 

 その指摘を、しておくべきだろう。

 

「ゆきちゃんはどう思う?」

 

 だから、その指摘をしろと言っているだろうが。

 

「困ります」

 

 良介はこの質問で、ゆきは困ると思っていた。

 だというのに、彼女は即答してみせた。

 少しだけ反応の早さに驚いたが、気を取り直して───

 

「困るだけ?」

 

 だ、だから───認識の齟齬を正せと言っているだろうに。

 ゆきを弄ぶのをやめろ。

 

「……とても、悲しく思います」

 

 すると、ゆきの指が良介の手首を掴んだ。

 まるでガラス細工を握るかのように、優しい力加減で。

 

───あ、あれれ?

な、なんだか思ってたのと違う展開だぞ。

 

 クズ野郎め───

 私はお前と同一の存在だ。

 私が気付いているということは、お前が気付いているのと一緒。

 

 あまり、ゆきの気持ちを弄ぶんじゃない。

 

「……」

 

「……ッッッ⁈」

 

 良介はゆきの手を振り解くと、素早く手を握った。

 おい、だから弄ぶなと───

 

───お互い、長くないかもしれないだろ?

だったら、振り解くのも可哀想じゃないか?

 

 だが───しかし───

 ええい、くそ。

 

 なんでお前は決断を迫られると逃げるくせに、迫られないと逆に近くへ寄っていくんだ。

 正真正銘のクズムーブではないか。

 

「嫌だった?」

 

「……いえ。ですが……」

 

 ゆきは周囲を気にしている様子だ。

 空港職員をはじめとした、誰かに見られる状況を気にしているのだろう。

 

「元から俺たち、葦原(ここ)じゃ有名人だろ?

今さらだよ」

 

「それは……そうですが……

でも……でも……」

 

「でも?」

 

「……言葉には、してくれないのですね」

 

 良介は立場を明確にせず、静かに歩いた。

 ゆきもまた、それ以上の追求はしなかった。

 

 一方的に握った良介の手を、ゆきは握り返してくれた。

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