蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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199 必至作戦1「BrinkMate」

央暦1970年6月15日

道奥藩 智台空港

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 智台空港や千里基地に迫る敵を撃退する日々。

 例によって、良介達が司令部となっている会議室に呼ばれたのは唐突だった。

 

 この空港に詰めている彰義隊の人間が、一度に集められたのだ。

 内容は明らかだった。

 

「3日後、6月18日。武揚解放作戦を実行する!」

 

「……!」

 

 緊張感を孕んだ声色で、吉宗は告げた。

 同時に生唾を飲む音が複数、どこかから聞こえて来た。

 

 当然だ、奪われた葦原の首都を取り戻す戦い。

 その実行と参加が確実になったのだから。

 

 良介は事前に作戦の段取りを聞いていたが、ゆきやあくりをはじめとした、他の人間には伏せられていたのだから。

 この秘密主義には、サトリという目や耳どころか、手すら必要としないスパイ技術の存在がある。

 

 知る人が多ければ多いほど、セキュリティーホールは通常以上に大きくなる。

 サトリの能力で思考が読めない良介は、その数少ない例外なのだ。

 

「作戦は必至作戦及び、王手作戦とする。

必至作戦第1段階では浦浜へ侵攻する地上部隊の援護。

第2段階では、武揚湾へ進出する海軍の支援を行う」

 

 必至作戦と王手作戦。

 作戦は王手作戦ひとつのはず、ふたつあるとは聞いていない。

 例によって、良介は口を挟んだ。

 

「あれれ、なんか段取り変わった?」

 

「武揚解放前哨戦を必至作戦。武揚城及び北条区解放を王手作戦に分けただけだ。

実際の段取りに変更はない」

 

「一番大事なところの名義を変えたわけか」

 

「そういう事だ」

 

 そんな行為に戦術的(タクティカル)優位性(アドバンテージ)などないのだが───

 これもまた、プロパガンダの一種。

 

 劇的な作戦を劇的に成功させれば、戦後の政治に使える。

 そう考えた者が、連邦軍の司令部にいるのだろう。

 この辺りの正誤を決められるほど、良介は偉くない。

 

 気を取り直して、赫助がスライドを挿入して必至作戦に必要な地図を表示させた。

 浦浜、武揚東に位置する鳴田藩の都市部だ。

 

「オメガ隊、精兵隊。貴官らは浦浜に侵攻する味方地上部隊の航空支援だ。

オメガ隊は先行して敵防空陣地を攻撃。SAM、対空砲を優先的に排除せよ。

防空兵器排除後、精兵隊と共に榴弾砲やロケット砲のような長距離兵器を攻撃だ」

 

 何をするにしても、CASをするためには対空兵器を破壊しなくてはならない。

 精兵隊の攻撃は強力だが、同時に対空兵器に対しては脆弱なのだから。

 

「ペンギン隊、貴官らは洋上で空中待機。

武揚空軍基地から発進するであろう、敵戦闘機部隊の排除。

直接援護だ」

 

 武揚湾で待機している海軍艦艇が間に合う可能性は、あまり高くない。

 となると注目すべきは戦闘機だ。

 

 オメガ隊がSEADを行うとなれば、向かって来るのは戦闘機だ。

 防空網を破壊している間、良介らペンギン隊が敵戦闘機を迎え撃つのだ。

 

「了解……」

 

「それと! 武揚周辺には厳重な防空網が構築されていると思われる!」

 

 良介が口を挟む前に、吉宗は先手を打った。

 赫助がスライドを変えて、赤いエリアが付け足された画像を投影させた。

 

「詳細はわかっていないが、このスライドに表示した区域への進入を禁じる。

踏み込もうものなら戦闘機・ミサイル・高射砲・機銃……

あらゆる兵器に狙われると思え!」

 

 危険区域とされたのは、武揚全域。

 そのエリアに踏み込もうものなら、全力で迎撃されるという事だろう。

 つまり、進入禁止エリアというわけだ。

 

 現実はエースコンバットと違うので、機体はすぐには曲がれない。

 空戦中に油断していると、あっという間に進入してしまう。

 

「志村二尉、質問は?」

 

「いや。今解消された」

 

「よし」

 

 良介がこの世界に来て、既に一年が経過している。

 吉宗も扱いに慣れてきたと言ったところか。

 

「陸軍の動きはこうだ。

浦浜へ進軍し、敵防御線へ攻撃を開始する。

この時点でオメガ隊のSEADが完了し、

精兵隊が敵長距離兵器への攻撃を開始している必要がある。

さもなくば、陸軍は一方的に蹂躙されるからな」

 

 長距離の行軍で疲れ果てた連邦軍と、時折跳ねっ返りが出るものの基本的に待ち構えていた政府軍。

 後者が優位にあるのは明白だ。

 

 航空優勢を確保しなければ、陸軍は容易く撃退されてしまうだろう。

 首都攻略戦においても、連邦軍は綱渡りを強いられているのだ。

 

「オメガ隊、精兵隊の支援を受けた陸軍が浦浜駅周辺を奪還すれば作戦は成功。

空軍の一般部隊が引き継ぎ、彰義隊各部隊は千里基地で補給と整備を受ける。

続いて、作戦の第2段階へ移る手筈だ」

 

 詳細は陸軍の動き次第となるため、聞いているだけでは大雑把な内容にならざるを得ない。

 とはいえ、元帥自ら指揮を取る戦闘だ。

 妙な動きや不手際は、そう多くないだろう。

 

「葦原の興廃、この一戦にあり!

皆、よろしく頼む! 以上、解散!」

 

 ここに至って、長ったらしい言葉は不要と判断したのだろう。

 吉宗は手短な締めの言葉を告げると、ブリーフィングを終わらせた。

 

 葦原内戦の趨勢を決する戦いだ。

 ここで負けるようでは、京へ進む事もままならない。

 

 志村良介にとっても、今後の命運を決める大勝負。

 負ける訳にはいかない。

 

 良介は自分の左右に視線をやった。

 

 左のゆきが力強く頷き。

 右のあくりもまた、静かに頷く。

 

「よし。やるか」

 

「はいっ!」

 

「うむ」

 

 ふたりの仲間の返事を受け、良介達は席を立った。

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