蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年6月15日
道奥藩 智台空港
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
智台空港や千里基地に迫る敵を撃退する日々。
例によって、良介達が司令部となっている会議室に呼ばれたのは唐突だった。
この空港に詰めている彰義隊の人間が、一度に集められたのだ。
内容は明らかだった。
「3日後、6月18日。武揚解放作戦を実行する!」
「……!」
緊張感を孕んだ声色で、吉宗は告げた。
同時に生唾を飲む音が複数、どこかから聞こえて来た。
当然だ、奪われた葦原の首都を取り戻す戦い。
その実行と参加が確実になったのだから。
良介は事前に作戦の段取りを聞いていたが、ゆきやあくりをはじめとした、他の人間には伏せられていたのだから。
この秘密主義には、サトリという目や耳どころか、手すら必要としないスパイ技術の存在がある。
知る人が多ければ多いほど、セキュリティーホールは通常以上に大きくなる。
サトリの能力で思考が読めない良介は、その数少ない例外なのだ。
「作戦は必至作戦及び、王手作戦とする。
必至作戦第1段階では浦浜へ侵攻する地上部隊の援護。
第2段階では、武揚湾へ進出する海軍の支援を行う」
必至作戦と王手作戦。
作戦は王手作戦ひとつのはず、ふたつあるとは聞いていない。
例によって、良介は口を挟んだ。
「あれれ、なんか段取り変わった?」
「武揚解放前哨戦を必至作戦。武揚城及び北条区解放を王手作戦に分けただけだ。
実際の段取りに変更はない」
「一番大事なところの名義を変えたわけか」
「そういう事だ」
そんな行為に
これもまた、プロパガンダの一種。
劇的な作戦を劇的に成功させれば、戦後の政治に使える。
そう考えた者が、連邦軍の司令部にいるのだろう。
この辺りの正誤を決められるほど、良介は偉くない。
気を取り直して、赫助がスライドを挿入して必至作戦に必要な地図を表示させた。
浦浜、武揚東に位置する鳴田藩の都市部だ。
「オメガ隊、精兵隊。貴官らは浦浜に侵攻する味方地上部隊の航空支援だ。
オメガ隊は先行して敵防空陣地を攻撃。SAM、対空砲を優先的に排除せよ。
防空兵器排除後、精兵隊と共に榴弾砲やロケット砲のような長距離兵器を攻撃だ」
何をするにしても、CASをするためには対空兵器を破壊しなくてはならない。
精兵隊の攻撃は強力だが、同時に対空兵器に対しては脆弱なのだから。
「ペンギン隊、貴官らは洋上で空中待機。
武揚空軍基地から発進するであろう、敵戦闘機部隊の排除。
直接援護だ」
武揚湾で待機している海軍艦艇が間に合う可能性は、あまり高くない。
となると注目すべきは戦闘機だ。
オメガ隊がSEADを行うとなれば、向かって来るのは戦闘機だ。
防空網を破壊している間、良介らペンギン隊が敵戦闘機を迎え撃つのだ。
「了解……」
「それと! 武揚周辺には厳重な防空網が構築されていると思われる!」
良介が口を挟む前に、吉宗は先手を打った。
赫助がスライドを変えて、赤いエリアが付け足された画像を投影させた。
「詳細はわかっていないが、このスライドに表示した区域への進入を禁じる。
踏み込もうものなら戦闘機・ミサイル・高射砲・機銃……
あらゆる兵器に狙われると思え!」
危険区域とされたのは、武揚全域。
そのエリアに踏み込もうものなら、全力で迎撃されるという事だろう。
つまり、進入禁止エリアというわけだ。
現実はエースコンバットと違うので、機体はすぐには曲がれない。
空戦中に油断していると、あっという間に進入してしまう。
「志村二尉、質問は?」
「いや。今解消された」
「よし」
良介がこの世界に来て、既に一年が経過している。
吉宗も扱いに慣れてきたと言ったところか。
「陸軍の動きはこうだ。
浦浜へ進軍し、敵防御線へ攻撃を開始する。
この時点でオメガ隊のSEADが完了し、
精兵隊が敵長距離兵器への攻撃を開始している必要がある。
さもなくば、陸軍は一方的に蹂躙されるからな」
長距離の行軍で疲れ果てた連邦軍と、時折跳ねっ返りが出るものの基本的に待ち構えていた政府軍。
後者が優位にあるのは明白だ。
航空優勢を確保しなければ、陸軍は容易く撃退されてしまうだろう。
首都攻略戦においても、連邦軍は綱渡りを強いられているのだ。
「オメガ隊、精兵隊の支援を受けた陸軍が浦浜駅周辺を奪還すれば作戦は成功。
空軍の一般部隊が引き継ぎ、彰義隊各部隊は千里基地で補給と整備を受ける。
続いて、作戦の第2段階へ移る手筈だ」
詳細は陸軍の動き次第となるため、聞いているだけでは大雑把な内容にならざるを得ない。
とはいえ、元帥自ら指揮を取る戦闘だ。
妙な動きや不手際は、そう多くないだろう。
「葦原の興廃、この一戦にあり!
皆、よろしく頼む! 以上、解散!」
ここに至って、長ったらしい言葉は不要と判断したのだろう。
吉宗は手短な締めの言葉を告げると、ブリーフィングを終わらせた。
葦原内戦の趨勢を決する戦いだ。
ここで負けるようでは、京へ進む事もままならない。
志村良介にとっても、今後の命運を決める大勝負。
負ける訳にはいかない。
良介は自分の左右に視線をやった。
左のゆきが力強く頷き。
右のあくりもまた、静かに頷く。
「よし。やるか」
「はいっ!」
「うむ」
ふたりの仲間の返事を受け、良介達は席を立った。