蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

207 / 216
201 必至作戦1「BrinkMate」

央暦1970年6月18日

道奥藩 智台空港

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 武揚解放戦第一段階、必至作戦。

 良介ら彰義隊の面々はフライト前に作戦の段取りを再確認すると、駐機場に並ぶそれぞれの乗機へ向かった。

 

 と言いたいところだが、良介は書類の不備の確認のため、少しだけ出発が遅れていた。

 書類に関しては良介の記憶が正しく、書類の方に些細な認識の齟齬があった程度で済んだ。

 

 腕時計の時刻は───フライト開始まで、少しだけ猶予がある。

 

「ようし良介! 今回はよろしくお頼み申すぞ!」

 

 すると、追い抜きざまに背中をバンと叩いてきた奥村睦平。

 彼が繰り出すこの手のコミュ(・・・)には、もう慣れたものだ。

 

「ああ、爺さん。死ぬなら寝床で死ぬんだぞ」

 

「もちろんぢゃ! 何なら、妻を抱きながら逝ってやるわい!」

 

 この場で誰よりも年寄りで、それでいて誰よりも元気な男は部下を伴い、乗機に飛び込んだ。

 

「ふぅ……なんて元気なジジイなんだ。

殺されなきゃ、200歳くらいまで生きてそうだ」

 

 葦原人の平均寿命は80そこそこだ。

 最長年齢は149歳だったか。

 

 これも錬金術の賜物と言いたいところだが───

 おかげで200歳も割とガチでありそうだから困ってしまう。

 

「良介さん。今回もお願いします!」

 

 背後からオメガ隊の敬一と秀彦が語り掛けてきた。

 

 今回オメガ隊は自衛兵装搭載とはいえ、任務はCAS。

 直掩を担当するペンギン隊に守られる立場だ。

 

「よっ。俺様達が直掩だからな、背後は気にしなくてもいいぜ」

 

「いいさ。ペンギンが不甲斐なかったら、俺が援護してやるからな」

 

 秀彦は不敵な笑みを浮かべながら、良介を挑発した。

 彼らオメガは最も消耗激しい部隊ながら、未だ戦意は落ちていないようだった。

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

 互いの拳を合わせると、オメガのふたりは自分達のFS-1へと向かっていった。

 その時には隣にいた気配、良介も気付いていた。

 

「こういうのは、隊長の役割なんじゃないの?」

 

「あいつら、まだ俺の立場に遠慮していてな。

他人行儀が抜けんのだ」

 

 吉宗は少しだけ寂しそうに言った。

 少し前まで幕府のトップ、将軍の兄だったのだ。

 それこそ、次の将軍(・・・・)として担ぎ上げられる気配があったほどに。

 

 遠慮するなと言われても、良介のような無礼者でなければ難しいだろう。

 

「裸踊りでも披露したら、認識を改めるんじゃないの?」

 

「……」

 

 良介が明らかな冗談を披露すると、赫助が尋常でない目で睨みつけた。

 何だかんだ、この男も長い付き合いになるが吉宗の付き人以上の情報が全くない。

 忍者辺りなのかもしれないが、よく分からない奴である。

 

「ふむ、裸踊りか……

武揚の解放が成されれば一つ、舞ってみるかな」

 

「まっ、松平公っ……⁉︎」

 

「えっ、本当にやるの?」

 

 思いがけぬ返答に、赫助と良介はギョッとした表情で吉宗を見てしまった。

 いや、言い出したのはお前だろうが。

 

「ふふふ……さて、どうであろうな?

行くぞ、赫助!」

 

「はっ……して、松平公。

本気でございますか?」

 

「不服か?」

 

「いえっ」

 

 いえって、いえっ、ておい。

 まあ裸踊りはさておき───正直気になるが、さておき。

 

 ペンギン隊の駐機場までやって来ると、ゆきとあくりが待ち構えていた。

 

「良介さんっ、艦隊との合流時刻の件はいかがでしたか?」

 

「問題なし、俺の記憶通り! 全員乗機!」

 

「了解!」

 

「相分かった」

 

 ペンギン隊の面々は自分の乗機へ駆け込むと、ヘルメットを被った。

 チェイスは素早くエンジンの始動手順を進めていると、機付長がタラップを駆け上った。

 

「良介、機体は完璧に整えた。

今までで最高の仕事と言ってもいい」

 

「その言葉、信じるよ!」

 

 JFSから送電されたエンジンが唸りを上げ、呼吸を始めた。

 計器のパネルもピカピカと光って情報を送り込んでくる。

 

「俺らも遅れて千里に向かう!

それまでそいつ(F-2)、壊すんじゃねえぞ!」

 

「繁ちゃんと一緒に待っててくれ!」

 

「ああ……」

 

 タラップを降ると、機付長は自らタラップを取り外した。

 少し間を置いて、騒音の中で彼の声が響いてきた。

 

「待てっ、繁ちゃんだとぉっ⁈」

 

「キャノピー、クリア!」

 

 返事をしようにも、直後風防を封鎖してしまった。

 機付長へ視線を送ると、悔しそうな表情を浮かべながら安全距離まで退避していた。

 

「こちらペンギン1。智台ATC、滑走路進入許可求む」

 

「こちら智台、了解。誘導路8を通り、滑走路に進入せよ」

 

 ペンギン2竜司と並び。

 背後にはペンギン4大助と、オメガ1宗治郎が続く。

 

 指示通り誘導路を通行し、やがて滑走路に到着した。

 動翼の最終点検を済ませ、飛び立つための道に視線をやった。

 

「ペンギン1、及び2。離陸を許可する」

 

 ギアブレーキを解除し、出力を上げていく。

 

「離陸決心速度(V1)、機首上げ速度(VR)……」

 

 操縦桿を引き、機体を地上から解き放つ。

 速度と揚力で飛ぶ金属塊がここに誕生した。

 

「ペンギン1と2の離陸を確認!

行って来い! 蒼穹の魔王!」

 

「おう。ちょっと首都解放してくる」

 

「軽(かる)っ!」

 

 管制からのツッコミを受けながら、進路を南西へ。

 葦原首都、武揚の空へ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。