蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年6月18日
鳴田藩 千里基地
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
千里基地の明かりが視界に入り、ATCに着陸の許可を得ようとしたその時だった。
「こちらフツノミタマ!
誰か……どなたか、応答してくださいっ!」
AWACSフツノミタマの通信士、ゆかり上等兵の声だ。
通信が阻害されていたが、どうやら彼女らと交信可能な距離まで迫っていたようだ。
それにしても───
彼女はオメガ9の死から通信から遠ざかっていた様子だった。
だがこの非常時に、自ら奮起して立ち上がったのだろう。
「こちらペンギン1。
フツノミタマ、無事でよかった」
「チェイスさん……! 今、仮眠中の次郎さんに代わります。
次郎さんっ、次郎さんっ。交信が繋がりました!」
「待って……今戻った。ペンギン隊、一体何が起きたんだ⁈
武揚はっ、武揚の解放は……!」
フツノミタマは空中管制機、それも空飛ぶレーダーサイトと呼べる索敵能力付きだ。
必然的に敵から狙われるため、チェイス達ですら所在を東のどこか程度としか知らない。
歯がゆかったのだろう。
彼らは武揚が破壊される様子を聞くしかなかったのだから。
「ねぇ……頼むから、まず降りさせてくれない?
燃料も、もうビンゴってレベルじゃない」
今のところ、チェイスの操るF-2は重量級グライダーになっていない。
しかしそれもあと5分程度。
スムーズに着陸が進まなければ、チェイス達は推力抜きでの対処を迫られる。
「……済まない、そうしよう。
こちらもしばらくした後、千里基地に帰投する」
「あー、武揚の解放は多分出来るけど……大丈夫?
一応まだ千里基地は最前線だぜ?」
「詳細は不明だが、何らかの電波干渉によって短波通信が届かない。
真田藩周辺地域との通信が途絶しているんだ。
通信を確立するためには、そこまで行く必要がある」
どうやら、状況はチェイスが想定していた以上に混沌としているらしい。
真田藩との通信が途絶───
確か新選組と共に、陸軍が武揚に向けて進軍していたはずだ。
真田藩の藩主、大助の父が率いて。
「……父上。みな……」
武揚解放はほぼ成功したようなものだが、父親の無事が確認出来たわけではない。
やはり、心配だろう。
「大丈夫だ、大助。きっとどうにかなってる」
「……ああ」
慰めの言葉を掛けると、ペンギン隊は千里基地への進入を始めた。
あの地震で至る箇所に地割れのような跡が見受けられた。
少なくとも滑走路については基地要員が補修してくれたおかげで、着陸に支障はなかった。
先の戦いで随分と無茶をしたものだが、F-2をはじめペンギン隊機は正常に着陸してみせた。
それが幸運なのは、滑走路脇に退けられたFS-1で明らかだった。
機体番号は───オメガ2秀彦の機体だった。
「ATC、クラッシュした機体のパイロットは?」
「無事だ。着陸時にギアが折れてな。
自分の足で機体から降りている、心配するな」
「了解、ありがと」
幸いにも、こんな事で命を落とすことはなかったようだ。
入道のように。
チェイスと竜司は揃って着陸し、駐機場に機体を停めた。
その瞬間に、整備隊や空軍警備隊───
様々な空軍職種の兵士に囲まれてしまった。
「良介!
武揚は……いや、この浮世はどうなっちまったんだ⁉︎」
「空が2回光ったと思ったら、あの地震!
それに今度はここまで聞こえる爆発!
空は真っ黒な雲に覆われちまった!
なあっ、武揚で何が起きたんだ⁈」
皆一様に不安そうな表情を浮かべ、絶叫に近い声で尋ねる。
その答えを良介に答える権限があるのか?
決号の4番、葦原政府が使用を決定した地震兵器。
詳細はよくわからないが、東日本大震災や能登半島沖地震に匹敵する強さの地震。
そいつを任意の場所に起こせる兵器だ。
迎撃は不可能ではないかもしれないが───
敵にそんなものがあると知れ渡れば、連邦軍の士気は崩壊してしまう。
「……それは」
「良介さんっ、それは機密です!」
返答に窮していると、機体から降りて来たゆきが叫んだ。
機密とはまだ決まっていない。
決まっていないが───
その答えで、納得してくれたのだろう。
彼らは互いに顔を見合わせて、口々に言った。
「ああ、だよな……」
「テメェら、なぁに突っ立ってやがる!
邪魔だサボるな仕事しろォ!」
と、そこに機付長がやって来て野次馬達を一掃してしまった。
立ち去る背中を見送った彼は、タラップを登って告げた。
「……この様子じゃ、まだ戦争は終わりそうにねぇな」
「ごめん」
「謝んな、何ひとつお前に責はねぇよ……お前にはな。
ほら邪魔だ、とっとと降りろ」
ここから先は、彼の領域だ。
大人しく席を譲った良介はタラップを降り、地面に足をつけた。
今のところは揺れていない、地面だ。
「機付長! あんたもずっと働きっぱなしだ、ちゃんと寝ろよ!」
「ああ! オメェらが寝る頃にな!」
この後、彰義隊の面々にはデブリーフィングが待ち受けている。
そう考えれば───機付長も残業になりそうだ。