蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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210 王手作戦2「StaleMate」

央暦1970年6月18日

鳴田藩 千里基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 千里基地の明かりが視界に入り、ATCに着陸の許可を得ようとしたその時だった。

 

「こちらフツノミタマ!

誰か……どなたか、応答してくださいっ!」

 

 AWACSフツノミタマの通信士、ゆかり上等兵の声だ。

 通信が阻害されていたが、どうやら彼女らと交信可能な距離まで迫っていたようだ。

 

 それにしても───

 彼女はオメガ9の死から通信から遠ざかっていた様子だった。

 だがこの非常時に、自ら奮起して立ち上がったのだろう。

 

「こちらペンギン1。

フツノミタマ、無事でよかった」

 

「チェイスさん……! 今、仮眠中の次郎さんに代わります。

次郎さんっ、次郎さんっ。交信が繋がりました!」

 

「待って……今戻った。ペンギン隊、一体何が起きたんだ⁈

武揚はっ、武揚の解放は……!」

 

 フツノミタマは空中管制機、それも空飛ぶレーダーサイトと呼べる索敵能力付きだ。

 必然的に敵から狙われるため、チェイス達ですら所在を東のどこか程度としか知らない。

 

 歯がゆかったのだろう。

 彼らは武揚が破壊される様子を聞くしかなかったのだから。

 

「ねぇ……頼むから、まず降りさせてくれない?

燃料も、もうビンゴってレベルじゃない」

 

 今のところ、チェイスの操るF-2は重量級グライダーになっていない。

 しかしそれもあと5分程度。

 

 スムーズに着陸が進まなければ、チェイス達は推力抜きでの対処を迫られる。

 

「……済まない、そうしよう。

こちらもしばらくした後、千里基地に帰投する」

 

「あー、武揚の解放は多分出来るけど……大丈夫?

一応まだ千里基地は最前線だぜ?」

 

「詳細は不明だが、何らかの電波干渉によって短波通信が届かない。

真田藩周辺地域との通信が途絶しているんだ。

通信を確立するためには、そこまで行く必要がある」

 

 どうやら、状況はチェイスが想定していた以上に混沌としているらしい。

 真田藩との通信が途絶───

 

 確か新選組と共に、陸軍が武揚に向けて進軍していたはずだ。

 真田藩の藩主、大助の父が率いて。

 

「……父上。みな……」

 

 武揚解放はほぼ成功したようなものだが、父親の無事が確認出来たわけではない。

 やはり、心配だろう。

 

「大丈夫だ、大助。きっとどうにかなってる」

 

「……ああ」

 

 慰めの言葉を掛けると、ペンギン隊は千里基地への進入を始めた。

 

 あの地震で至る箇所に地割れのような跡が見受けられた。

 少なくとも滑走路については基地要員が補修してくれたおかげで、着陸に支障はなかった。

 

 先の戦いで随分と無茶をしたものだが、F-2をはじめペンギン隊機は正常に着陸してみせた。

 

 それが幸運なのは、滑走路脇に退けられたFS-1で明らかだった。

 機体番号は───オメガ2秀彦の機体だった。

 

「ATC、クラッシュした機体のパイロットは?」

 

「無事だ。着陸時にギアが折れてな。

自分の足で機体から降りている、心配するな」

 

「了解、ありがと」

 

 幸いにも、こんな事で命を落とすことはなかったようだ。

 入道のように。

 

 チェイスと竜司は揃って着陸し、駐機場に機体を停めた。

 その瞬間に、整備隊や空軍警備隊───

 様々な空軍職種の兵士に囲まれてしまった。

 

「良介!

武揚は……いや、この浮世はどうなっちまったんだ⁉︎」

 

「空が2回光ったと思ったら、あの地震!

それに今度はここまで聞こえる爆発!

空は真っ黒な雲に覆われちまった!

なあっ、武揚で何が起きたんだ⁈」

 

 皆一様に不安そうな表情を浮かべ、絶叫に近い声で尋ねる。

 その答えを良介に答える権限があるのか?

 

 決号の4番、葦原政府が使用を決定した地震兵器。

 詳細はよくわからないが、東日本大震災や能登半島沖地震に匹敵する強さの地震。

 そいつを任意の場所に起こせる兵器だ。

 

 迎撃は不可能ではないかもしれないが───

 敵にそんなものがあると知れ渡れば、連邦軍の士気は崩壊してしまう。

 

「……それは」

 

「良介さんっ、それは機密です!」

 

 返答に窮していると、機体から降りて来たゆきが叫んだ。

 機密とはまだ決まっていない。

 

 決まっていないが───

 その答えで、納得してくれたのだろう。

 彼らは互いに顔を見合わせて、口々に言った。

 

「ああ、だよな……」

 

「テメェら、なぁに突っ立ってやがる!

邪魔だサボるな仕事しろォ!」

 

 と、そこに機付長がやって来て野次馬達を一掃してしまった。

 立ち去る背中を見送った彼は、タラップを登って告げた。

 

「……この様子じゃ、まだ戦争は終わりそうにねぇな」

 

「ごめん」

 

「謝んな、何ひとつお前に責はねぇよ……お前にはな。

ほら邪魔だ、とっとと降りろ」

 

 ここから先は、彼の領域だ。

 大人しく席を譲った良介はタラップを降り、地面に足をつけた。

 今のところは揺れていない、地面だ。

 

「機付長! あんたもずっと働きっぱなしだ、ちゃんと寝ろよ!」

 

「ああ! オメェらが寝る頃にな!」

 

 この後、彰義隊の面々にはデブリーフィングが待ち受けている。

 そう考えれば───機付長も残業になりそうだ。

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