蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年6月18日
鳴田藩 千里基地
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
王手作戦に参加し、無事千里に辿り着いた彰義隊隊員。
そして無断で参加した新選組、連邦軍に途中参加した政府空軍第19飛行隊。
出来る限りの人員が、千里基地司令部に到着した。
第19飛行隊は出自が出自なので、両手を拘束された上に警備隊ふたりが同行する
「なあっ、あんた。あんたが蒼穹の魔王なんだよな⁈」
警備隊に制止されながらも、例の彼が良介に語り掛けた。
既に席に着いている面々を見るに、消去法で辿り着いた答えらしい。
「ああ、らしいね」
「……新聞に載ってたのと、全然違うじゃねぇか」
「写真
「はっ! 言うねぇ」
「ほら、座れ!」
これで満足したのか、19飛行隊の男は大人しく腰掛けた。
続いて、良介達も席につき───
壇上に立つ吉宗と視線を交わした。
「悪いね、遅くなって」
「気にするな……ひとまず、王手作戦の成功を宣言する」
首都、武揚の解放はほぼ成った。
だと言うのに、誰ひとりとして歓声を上げなかった。
当然だ。
得られたのは無数の犠牲者。
そして傷ついた首都だけなのだから。
その上に築かれた勝利など、虚しいだけだ。
「それで? 宗治郎、これからどうするんだ?」
「……夷俘島の司令部は協議中だとしている」
「だろうな……」
地震兵器。
誰もそんなものを想定出来るはずがなく、加えて偶発的に発生した活火山の破局噴火だ。
何もかも、制御も予測も出来ない。
「……宗治郎。真田の状況はどうなっている?」
ここであくりが吉宗に問いかけた。
先に帰投し、情報を得ている彼なら真田藩の状況を把握しているのではないか。
そう思ったのだろう。
「それについては、先ほどフツノミタマが千里基地周辺に到達。
今真田藩との通信を中継してくれる」
「……松平公、来ました!」
赫助の言葉を聞くに、噂をすればなんとやらというやつらしい。
テレビ通信が機能し、映像が映し出された。
暗くてハッキリしないが、内装を見るに───
どうやら、エラの乗る輸送機から中継されている様子だった。
「ようやく繋がった……! ねえ、そっちの被害は?」
「ミス・アーロン。我らの被害は幸いにも少数で済んだ。
だが……武揚及び、東国地方の被害は甚大だ」
「……まさか、マウント・ホーライまで噴火するとはね。
それはともかく、真田藩軍の被害は甚大だ」
「なっ……! どういう事だっ⁉︎」
「あっ、あくりちゃんっ! 落ち着けっ!
エラちゃんは何も悪い事はしてないんだぞぉっ!」
身を乗り出して尋ねるあくりを、良介は咄嗟に制止した。
こんなことをしても、テレビ通信相手に意味はない。
猛烈な力を何とか抑え、興奮に怒る肩の緊張をほぐす為に軽く叩いた。
「フーッ、フーッ……」
「どうぞ、続けてエラちゃん」
「
緊張に強張ったあくりの筋肉が、震えた。
歯を食いしばり、表情は不安に満ちていた。
しかしそれでも───彼女は答えから逃げなかった。
「ガバメント・アーミーの残存戦力は撤退を始めた。
この連中は逃げ道に西街道を選んでいた。
だから、そこに展開していたサナダ・ドメイン・アーミーは壊滅した。
トップのプリンスも、消息が掴めない。
サナダ・ドメインに逃げ込んだ連中は、そのまま各地を攻撃している」
「……!」
嫌な予感はしていた。
負けた部隊が何をするか?
武揚に散らばり、都市ゲリラ戦を始めるかもしれない。
あるいは残存戦力をまとめて、武揚のどこかに拠点を築くのもあり得た。
しかし最も順当なのは───
わかりやすい逃げ道に殺到する事だ。
真田藩への空爆が成功し、弱体化しているのは政府軍も知っていたはず。
そうなると、なぜ鳴田藩からの侵攻前に地上侵攻しなかったのかという謎が生じるが───
死に物狂いで撤退を試みる武揚の政府陸軍戦力とぶつかれば、踏み潰されるのは言うまでもない。
「……何故だっ、何故だァッ!」
今度の乱心は尋常ではないぞ。
良介は素早くあくりの両肩を掴み、体重を駆使して暴走を食い止めた。
「合衆国のっ! お前は父上の真上にいたのだろう!
敵を殺すための武器もあった! それなのにっ、何故……ッ!」
「一応反論させてもらうと、このガンシップに積める弾薬は多い。
だけれど、正規軍の車両部隊を殲滅するに足る量はないんだ。
全弾撃ち尽くしても、敵はまだまだいた」
ガンシップ、AC-130のような機体ということか。
あれは一種の、
真っ当な防空兵器が相手では、一方的に叩きのめされる兵器。
相応の設備を持つ防空陣地にとっては、火力と図体の大きい的である。
もちろん、その真っ当な装備がない相手には
まさに、雑魚専なのだ。
「……新選組ィッ! お前らがっ、お前らが持ち場を離れなければッ!」
最大限努力した。
その言葉を信じたのか、あくりは次に新選組を狙った。
彼女の発する怒声は、先ほどよりも明らかに弱々しくなっていた。
「……そりゃ、そうなんだけどよ」
「鉄之助」
バツの悪さで歯切れの悪い鉄之助を、新選組の長である歳三が制した。
そして、あくりに歩み寄る。
「言ったはずだ……罰は甘んじて受けると。
だが……ここまで大きな罪になるとはな」
全ての責は自分にある。
どのような罰も受けよう。
潔い、肯定の言葉だ。
だとしても、大多数の人間にとっては納得に足る言葉にならない。
常人ならば罵声を浴びせるだろう。
良介も恐らく、例外ではない。
だというのに───
「くっ……うっ……うああああああっ!」
松代あくりは、新選組をそれ以上責めなかった。
その潔さと助けられた恩もあり、責められなかったのだ。
しかしこの辛い現実を受け止めきれず、泣き叫んだ。
人目も
原隊、六文銭。
実の父親。
そして真田藩の領地領民。
彼女はほとんど全てを失ってしまったのだ。
多くを犠牲にしてまで守ったものを。
良介にその資格が、果たしてあるのだろうか?
わからない。
わからないが───
涙に濡れるあくりの頭を、良介はそっと抱いた。
すると彼女の両腕は良介の背に回り、胸の内でさらに大きく叫んだ。
今この瞬間は真田藩藩主の娘、空戦姫ではない。
ただの松代あくりであった。
このままあくりは、戻れないかもしれない。
だが───まだ、終わっていないのだ。
「宗治郎、早速で悪いんだけど次の作戦を具申する!」
「……」
「聞こう」
「真田藩で戦闘中の友軍を救援する作戦だ!
あっちにはそれなりの設備があるから、真田空軍基地で補給も出来る!
で、真田藩各地の敵勢力を一掃する! ……これでどう?」
作戦室の視線を一斉に集めたのを確認し、最後に良介は自分の胸にすがり付くあくりを見下ろした。
しばしの沈黙の後、隣の気配が挙手する気配を感じた。
「空知竜司飛行隊士、志村二尉の作戦案に賛同します!」
吉宗に向かって宣言すると、ゆきは良介に向けて笑みを浮かべた。
続けて、反対側の隣でも挙手の気配。
「新選組、山義歳三。
武士の義によって、志村良介二尉の作戦に賛同する」
「あっ。鉄之助と、ほか新選組隊士も良介に賛成!」
「おい、勝手に決めるなよ!
……隊長の意見なら賛成するけどさ」
精兵隊の席で、ひとつの拳が上がった。
「精兵隊。奥村睦平以下、全員が賛成ぢゃ。
他の連中は勘弁してやってくれ、六十肩がな……
それにしても、まったく。老人を過労死させるつもりか?」
「無理に参加しろなんて言ってないぜ?」
「抜かせ! 対地攻撃で一番の戦果を持っとる精兵は儂らぢゃ!
儂ら抜きで出来ると思うでないぞ!」
その通り、彰義隊の中で───
いや、連邦空軍の中でも対地攻撃で一番の成果を上げているのは精兵隊だ。
彼らが参加してくれるのであれば、心強い。
「第19飛行隊、話はさっきから聞いている!
出来れば、俺もその戦いに参加させて欲しい!
……出来る身分とは思えないけどな」
挙手出来ない代わりに立ち上がろうとした19飛行隊の男は、警備隊に着席を強いられた。
彼が実際に参加出来るかは───かなり怪しい。
「オメガ2、秀彦。隊長、俺は良介の具申に賛成する」
「3、敬一! 僕もでっす!」
オメガ隊からも、次々に手が上がっていく。
彼らの中で最後に残されたのは、吉宗と赫助だけであった。
「まったく……お前ら全員、ペンギン隊の隊員だったか?」
「申し訳ない。だが俺は……己の良心に従って発言している」
「僕ら、軍人としては新米なんで!」
明らかな反抗の言葉に、吉宗と赫助は笑みを浮かべた。
「やれやれ……赫助、お前はどうする?」
「松平公の御心のままに……出来るのなら、速やかにお願いします」
「わかったよ。これでいいな?」
吉宗が挙手すると、赫助もそれに倣った。
こうして、作戦室にいる戦闘機乗りの全員が賛同する事となった。
まごう事なき満場一致というやつだ。
「というわけで、ミス・アーロン。
我々は明朝、真田藩の救援に向かう」
「そう……じゃあ、宗治郎。頼みがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「25ミリ……は葦原にないから、
これから送るレシピの
それと40ミリと105ミリ砲弾! 集められるだけ集めて!
今そっちに向かってるから、そこで補給する!
合衆国海軍の連中にも、これから参加を打診する!」
真田藩各地が攻撃を受けている。
ならば当然、真田空軍基地が攻撃を受けているのは自明だ。
エラが乗る機体も、着陸出来ないような状況だったのだろう。
それはともかく、今重要なのは───
最前線にいる葦原連邦空軍、そして合衆国が真田藩の救援に頷いた事だ。
「……良介」
気付けば、あくりの涙は収まっていた。
まだ顔は胸の内にあるため、その表情は窺えない。
「どうかした?」
「いいのだろうか……我が真田藩は、今でこそ連邦の側にいる。
しかし、一度はかつての幕府に刃を向けた身だ」
真田藩は葦原内戦において、政府側に寝返っている。
この裏切りのせいで、幕府軍に多くの被害が出た。
それはもう、どうしようもない事実だ。
しかし───やはり、事情というものがあったのだ。
生き延びるための。
「正直、俺はもちろん空軍や合衆国も、
真田藩の裏切りで受けた直接的な被害がほとんどない。
だから、ちょっと
「……」
「だけど、今は仲間だ。あくりちゃんも、真田藩も。
それに武揚の奪還も真田藩の存在がなければ達成出来なかった。
結果がアレだったけど……それも、事実だ」
良介の言葉に、あくりは静かに耳を傾けていた。
聞き終えた彼女はそっと良介のそばから離れ、席を立った。
「連邦空軍、そして合衆国の各位……かたじけない!
このご恩は決して忘れない! 真田藩の……
いや、松代あくりとして! 心より感謝申し上げる!」
深く、あくりはこの場の面々に一礼した。
「よし、決まりだ! さあ、明日に備えて全員休むように!
整備隊の皆には少し悪いがな!」
整備隊はただでさえ残業確定なのに、明日の朝から戦闘なのだ。
それはもう、過去一番で過酷な一晩になるだろう。
ここは土下座の熟達者として、あくりに助言出来ることがお前にもあるだろう?
「あくりちゃん」
「……なんだ?」
「整備隊のみんなってさ、洋菓子が好きなんだぜ。
知ってた?」
良介の言葉に、少しだけあくりはきょとんとした表情を見せたが───
すぐに意味を理解して、笑みを浮かべた。
「耳寄りな情報だ」
「……それって、私も必要になりますか?」
「いいツテを知ってるんだ、明日の出撃前に紹介するよ」
ペンギン隊の3人はひとまず、兵舎へと向かった。
明日の出撃、仲間の故郷を救う戦いのために。