蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1970年6月19日
鳴田藩 千里基地
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
日が昇る前に、彰義隊の面々は起床した。
昨日の激戦で消耗した身体の回復は追いついていないが、それは敵も同じなのだ。
「うーん、俺はそんな事ないんだけど……」
お前がおかしいだけで、周囲の人間はそれが普通なのだ。
そういうの、本人達に対して言っても嫌味にしかならないからな。
絶対に言うんじゃないぞ。
「わかってるってば……」
普段、この時間帯ならば白んだ東の空に、昇りつつある朝日を拝む事が出来る。
しかし───そこに明らかな光を感じられなかった。
ドス黒い雲。
そこにあるのは水分ではない。
噴火によって舞い散った火山灰だ。
そのせいだろう。
普通の朝が持つ静かな気配とはまた別種の暗さと静寂が、世界を包み込んでいた。
「おはようございます、良介さん」
「ああ、おはよう……」
良介から少し遅れて、竜司が合流してきた。
ちょうどその時、はらりとひとつ。
空から何かが落ちてきた。
それを手のひらで受け止めると───
もちろん、夏の雪などではない。
火山灰だ。
「エンジンへの影響は避けられないな……」
「あいつら……どこまで、災厄を広げれば……っ!」
良介の中に、間違いなく心に引っ掛かった一言がある。
あの神祇官のトップ、伊邪哭國男の演説だ。
この戦争を拡大させた。
戦争の継続者。
蒼穹の魔王によるもの。
良介がいなければ、幕府軍は敗北して葦原内戦は終了しただろう。
もちろん、葦原内戦が極東大戦に発展することもなかった。
真田藩が戦火に巻き込まれることも、恐らくなかった。
そしてこれからも───
「……良介さんっ」
突如、ゆきが良介の進路を塞ぎ、立ち塞がった。
「……どうかした?」
「そんな顔、やめてください」
「……この顔しかないよ。
予備は家に忘れたんだ」
「そういう冗談ではありません。
……ようやく良介さんの事、私もわかるようになりました。
その表情は、変な事を気にしている顔です」
どういう顔だ、それは。
いや───そういう顔をしているのだろう。
「敵の首魁、伊邪哭國男の戯言を気にしているんでしょう?
良介さんは誰であろうと、他人の言葉を聞こうとしますから」
「ああ。良いところだろ?」
「無責任な他責的嘘吐き相手なら、話は別です。
ああいう手合いは、自分の責を他に押し付けます。
際限なく」
「す、凄いこと言うな……」
「事実ですから」
とはいえ───その通りだ。
伊邪哭國男という神祇官のトップはどうも、いい加減で無責任な野郎だ。
確かに良介の存在が幕府を連邦に変え、内戦を拡大させた。
それは事実だ。
しかし
ようするに奴が言いたいのは、お前が抵抗したから犠牲者が増えた。
抵抗しなければ綺麗に事は片付いたのに、というクズ侵略者の自己正当化だ。
そうだ、気にしてはいけない。
帰還という自分勝手な都合もあるが、幕府側への虐殺を葦原政府が目論んでいたのも事実。
それを食い止めたのも、事実なのだ。
「そうだな、事実だ」
「ですから、良介さん……
あなたに、そんな表情は似合いませんよ」
「俺……もしかして、口説かれてる?」
「っ! バカッ!」
ビシッ!
良介の背中を叩いたゆきは、足早に作戦室へ向かってしまった。
「ありがとう! ゆきちゃん!」
その言葉を聞いたゆきは少しだけ歩みを止めたが───
すぐに肩を怒らせながら去って行った。