蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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212 真田藩救出作戦「Grey Devil」

央暦1970年6月19日

鳴田藩 千里基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 日が昇る前に、彰義隊の面々は起床した。

 昨日の激戦で消耗した身体の回復は追いついていないが、それは敵も同じなのだ。

 

「うーん、俺はそんな事ないんだけど……」

 

 お前がおかしいだけで、周囲の人間はそれが普通なのだ。

 そういうの、本人達に対して言っても嫌味にしかならないからな。

 絶対に言うんじゃないぞ。

 

「わかってるってば……」

 

 普段、この時間帯ならば白んだ東の空に、昇りつつある朝日を拝む事が出来る。

 しかし───そこに明らかな光を感じられなかった。

 

 ドス黒い雲。

 そこにあるのは水分ではない。

 噴火によって舞い散った火山灰だ。

 

 そのせいだろう。

 普通の朝が持つ静かな気配とはまた別種の暗さと静寂が、世界を包み込んでいた。

 

「おはようございます、良介さん」

 

「ああ、おはよう……」

 

 良介から少し遅れて、竜司が合流してきた。

 ちょうどその時、はらりとひとつ。

 空から何かが落ちてきた。

 

 それを手のひらで受け止めると───

 もちろん、夏の雪などではない。

 火山灰だ。

 

「エンジンへの影響は避けられないな……」

 

「あいつら……どこまで、災厄を広げれば……っ!」

 

 良介の中に、間違いなく心に引っ掛かった一言がある。

 あの神祇官のトップ、伊邪哭國男の演説だ。

 

 この戦争を拡大させた。

 戦争の継続者。

 蒼穹の魔王によるもの。

 

 良介がいなければ、幕府軍は敗北して葦原内戦は終了しただろう。

 もちろん、葦原内戦が極東大戦に発展することもなかった。

 

 真田藩が戦火に巻き込まれることも、恐らくなかった。

 そしてこれからも───

 

「……良介さんっ」

 

 突如、ゆきが良介の進路を塞ぎ、立ち塞がった。

 

「……どうかした?」

 

「そんな顔、やめてください」

 

「……この顔しかないよ。

予備は家に忘れたんだ」

 

「そういう冗談ではありません。

……ようやく良介さんの事、私もわかるようになりました。

その表情は、変な事を気にしている顔です」

 

 どういう顔だ、それは。

 いや───そういう顔をしているのだろう。

 

「敵の首魁、伊邪哭國男の戯言を気にしているんでしょう?

良介さんは誰であろうと、他人の言葉を聞こうとしますから」

 

「ああ。良いところだろ?」

 

「無責任な他責的嘘吐き相手なら、話は別です。

ああいう手合いは、自分の責を他に押し付けます。

際限なく」

 

「す、凄いこと言うな……」

 

「事実ですから」

 

 とはいえ───その通りだ。

 伊邪哭國男という神祇官のトップはどうも、いい加減で無責任な野郎だ。

 

 確かに良介の存在が幕府を連邦に変え、内戦を拡大させた。

 それは事実だ。

 しかし恣意(しい)的に切り取った事実だ。

 

 ようするに奴が言いたいのは、お前が抵抗したから犠牲者が増えた。

 抵抗しなければ綺麗に事は片付いたのに、というクズ侵略者の自己正当化だ。

 

 そうだ、気にしてはいけない。

 帰還という自分勝手な都合もあるが、幕府側への虐殺を葦原政府が目論んでいたのも事実。

 それを食い止めたのも、事実なのだ。

 

「そうだな、事実だ」

 

「ですから、良介さん……

あなたに、そんな表情は似合いませんよ」

 

「俺……もしかして、口説かれてる?」

 

「っ! バカッ!」

 

 ビシッ!

 良介の背中を叩いたゆきは、足早に作戦室へ向かってしまった。

 

「ありがとう! ゆきちゃん!」

 

 その言葉を聞いたゆきは少しだけ歩みを止めたが───

 すぐに肩を怒らせながら去って行った。

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