蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1969年5月12日
日本国航空自衛隊第11航空団第114飛行隊
志村“Chase”良介二等空尉
空軍基地というやつは、基本的にどこも大差はない。
だだっ広い滑走路に、隊舎、それと燃料タンク。
だというのに、この斗米基地は異質だった。
基地の正面入り口を多くの人々が囲んでいるのを目にした瞬間、良介はいつもの癖で呟いた。
「うーん。やっぱりこの情勢じゃ反基地派は活発化するだろうなぁ」
「反基地?」
竜司の言葉に、良介は改めて人々へ視線を戻した。
よく見れば、あの人だかりはただ包囲して叫んでいるのではない。列に並んでいるのだ。
「あれ、なんの列?」
「リョースケくん、新聞読んでないの? テレビでもやってたけど」
そう言うと、エラは屋岸新聞と銘打たれた新聞を手渡した。
その一面にはこうあった。
『幕府、彰義隊結成す!』
幕府は賊軍
その範囲は葦原人のみならず、国外の経験者にも呼び掛けている。
結成される隊の名は、『彰義隊』。
揺るぎなき義を持つ者、来れ!
入隊者は旗本の位を有し、賊軍から幕府を守った暁には1人につき20万両=300万マランスドルの報酬を約束する。
兵器類持ち込み大歓迎。多ければ多いほど貢献とみなし報酬は加算される。
「……義とかなんとか言った直後に大金を提示するなよ」
義勇軍のような響きの良さの割に、中身は単なる傭兵募集の案内ではないか。
「とはいえ、国内外で結構応じる声があったの。
ほら来た、エジーレンの傭兵部隊!」
車内にも航空機用高出力エンジンの爆音が轟いてきた。
その方向へ視線をやると、尖り頭の
後に続くのは、対照的に凹んだ頭と垂直尾翼に水平尾翼が食い込んだT字尾翼の後退翼機。
どれも古きソビエトの香りを漂わせるシルエットだ。
「おいおい、MIGが味方かよ……エジーレンってどこ?」
「極西、ユーロネシアの南にあるソウサレス大陸西端。
大地の反対側から三つの海を渡ってきたの」
大地の反対側という表現に疑問が生じたが、ユーロネシアをヨーロッパとすると、アフリカ大陸のような印象を感じた。
「
屋岸空爆が成功してたら、来なかったかもね」
「それさ、政府軍の妨害とかなかったの? 海を越えてきてるわけだし……」
「合衆国と超帝国の領空を通ってきてるの。彼らでも、第三国を経由した
航空機にちょっかいは出せないわ」
「……合衆国はともかく、超帝国も内戦中だろ? 出来るのか?」
「お二方には悪いけど、葦原って近いうちに極東地域共通の脅威になる。
そういう土地に思われてるのよ」
葦原政府のポピュリズム、対外侵略をも辞さない姿勢。
それが天下を取れば、周辺国にとって葦原は有力な仮想敵国となる。
ならば、少しでも政府軍の出血を強いて
どこかで聞いた話だ。あの時は、よその土地で行われたが。
「……ああ、耳が痛い」
「あら。お三方にした方が良かったみたいね」
他国の戦闘機が続々と着陸し、今度は輸送機のような大型機。
かなりの大部隊が介入している様子だった。
「幕府は、こいつらの報酬をしっかり払えるのかね」
「ま、大多数がいなくなると踏んでるんでしょう」
傭兵ともなれば、そうなるか。
空から視線を下ろすと、車は営門の検問に差し掛かっていた。
F-2を載せたトラックが検問を通過し、良介達が乗る車が続く。
「し、失礼。もしや、助手席の方が……?」
担当の警備が田中空軍歩兵に尋ねる。助手席に座る人間といえば───
「俺……だよな?」
「おおっ! あっ、あなたが毘沙門より遣わされた神兵!」
「……はぁ?」
良介の困惑をよそに、警備の叫びを聞いた行列の人々が歓声を上げ始めた。
「なにっ、神兵っ」
「本物なのかっ⁈ 屋岸の救世主っ、幕軍の神兵っ!」
なにか、嫌な予感がした。
本能に従って、渡された新聞の文面に再度目を通す。
編成される彰義隊の隊長には、昨日賊軍が目論んだ屋岸空爆を阻止した救世主。
毘沙門天より遣わされた神兵、“チェイス”が隊を率いる。
大和幕府空軍総裁、松平宗治郎奉行の発表である。
「げげげっ! いつの間にか反撃の狼煙みたいな扱いされてるっ!」
そう。良介はなんだかよくわからんうちに英雄に祭り上げられてしまったのだ。
本名と顔は紙面になかったが、F-2の後に空軍らしからぬパイロットの姿があれば、正体は明らかである。
「し、志村二尉……本当に新聞もテレビもみていなかったのですね」
「俺、本は好きだけど、新聞はなんか嫌いなんだよ。テレビも」
もとより哲也をおいて逃げるつもりは毛頭ないが、これは本格的に逃げ道を塞がれてしまった。
「くそっ、あのジジイめ……そういえば、あいつどこへ行ったんだ?」
「昨日のうちに、乗ってきた機体で斗米に戻っています」
「ふっふっふ。なら闇討ちの機会はまだまだあるな」
「し、志村殿! 我々の上官です、おやめください!」
冗談───冗談の通じない竜司はさておき。
ここまで報じられてしまった以上、色々と後戻りは出来ない。
学生時代の恩師に教わった発想の転換だ。
どんなに辛い状況でも、逆に楽しんでしまおう。
どうにもならないことをクヨクヨウジウジしていたって、仕方のないことだ。
「ふっふっふ……俺様はいずれ、世界を征服する男だ。葦原のひとつくらい、
救ってやろうじゃないか」
「いい啖呵。タナト君みたいで格好いいじゃない」
果たして、自分はどれほど生き残れるか。どれほど自分を保てるか。
表情に浮かべる笑みとはかけ離れた壮絶な覚悟を、良介は内心で固めた。