蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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21 彰義隊腕試し「RED FLAG」

央暦1969年5月13日

夷俘(いふ)島 松後藩空軍斗米基地

日本国航空自衛隊第11航空団第114飛行隊

志村“Chase”良介二等空尉

 

 初の演習で勝手に大暴れしたチェイスは命じられた通り、叱られた悪ガキの如くというかそのものの状態で帰路についた。

 

「うーん、初めての機体ではっちゃけ過ぎたかな?」

 

「はっちゃける、で片づけられないでしょう。あれは……」

 

 疲労の色が濃く出ている竜司から苦言を呈されながらも、果ての海から斗米上空へ。

 市街地を飛び越えて、続いて広い農業地帯に。そのど真ん中に斗米基地があった。

 

「こちら第1飛行隊チェイス、着陸の許可を求む」

 

「こちら斗米基地ATC、貴機の姿を目視した。着陸を許可する」

 

 この機体で着陸するのは初めてだが、問題はない。フラップとエアブレーキを展開して速度を落とし───

 

「あ、あれれ?」

 

 エアブレーキを展開させているはずだが、機能しない。

 

「どうしました?」

 

「……エアブレーキが開かない」

 

 ガコガコと真後ろから作動音が聞こえる。

 どうやら竜司の方でも作動を試みているらしいが───機能している気配はない。

 

「……脱落は、していないと思います」

 

「やっぱり、展開しながら12G掛けたのがまずかったかな?」

 

「いい事はないでしょうね……」

 

 これは困った。エアブレーキ抜きでも着陸は不可能ではないが、万全の状態ではなくなってしまった。

 航空機というやつは基本的に万全の状態で飛行することを想定している。何かひとつ欠けると、その性能は大きく制限されてしまう。

 

 そしてパイロットの死因には少なからず着陸時の事故があり、着陸そのものの難易度も飛行スキルの中ではかなりの技量を要するものに分類されるのだ。

 初飛行の着陸でこのハンデは、かなり困る。

 

 計器の燃料系に視線をやる。さすがに早退しただけあって、斗米の市街地を遊覧飛行しても有り余るほどの残量はある。

 これは冗談ではない。着陸失敗した瞬間に燃料があると、火災や爆発が起きて被害が拡大する恐れがあるのだ。

 

 もちろん、そんな状況で遊覧飛行をするわけがなく。燃料をタンクから捨てて減らすのが一般的だ。

 

「いったん、着陸を中止して燃料を投棄しよう」

 

「いえ、私が着陸させます。空力ブレーキなしでも問題ありません」

 

「本当に?」

 

「はい。山義隊長から機体不調時の着陸も叩き込まれました」

 

 竜司は聞くところによると、元は飛行学校の生徒ながら軍に徴発された新米だ。正規のカリキュラムは未修得のはず。

 しかし、仮にもあの遭遇戦や爆撃機迎撃で活躍し、あの見事な編隊飛行を組める新選組に所属していた人間。

 ならば腕自体の保証は十分ではないか?

 

 チェイスは自分の勘を信じることにした。

 

「わかった、頼むよ教官(・・)。ユー・ハブ・コントロール」

 

「機体操縦、受領しました」

 

 操縦桿を手放し、機体の制御を後席の竜司に委ねる。

 こうなると、チェイスのやるべきことは彼女が操縦に専念できるように、それ以外のすべてを担当することだった。

 

 通信機で管制塔に再度呼びかける。

 

「こちらチェイス、機体にトラブル発生。エアブレーキ不調、

現在熟練者が操縦中」

 

「こちら管制、状況は了解した。着陸は可能か?」

 

「もちろん。ただ念のため、消防の準備を頼む」

 

「了解、幸運を祈る」

 

 さて、あとは竜司次第である。

 彼女の表情を伺う事は構造上不可能。

 しかし、パニックを起こしている様子は感じられない。

 

 結論を述べると、彼女はフラップと出力の調整のみで完璧に着陸してみせた。

 あまりにも見事な接地で、途中で消防車が接近を中止したほどである。

 

「ナイスランディング! 命拾いしたよ」

 

「訓練の賜物です」

 

 そのまま竜司の操縦のもと機体は駐機場まで戻り、無事着陸は完了した。

 タラップを降り、竜司と握手を交わす。

 

「本当にごめん。俺の無茶で迷惑掛けて」

 

「……迷惑には目を(つむ)ります。大元は私のためを思ってしてくれた無茶ですから」

 

 そう言うと、竜司は顎で注意を促した。

 その先には、凄い表情をした幕府空軍斗米基地整備隊の皆々様がいた。

 竜司に許してもらえても、整備の方々はどうだろうか。

 

「……俺って、給料出るのかな?」

 

「それは、なんとも……。チェイス、いや志村殿。私は葦原人です」

 

「それはわかってるよ」

 

「いえ。本当に生まれは葦原なのです。ですが同時に、

父がリールランド人であるのも事実です」

 

 ハーフ───おっと、最近はなにやらこの名称を避ける時代であったか。

 だが、伝わりやすいのだから仕方がない。

 彼女、空知竜司はリールランド人と葦原人のハーフなのだ。

 

「異国の歴史なので、私も詳しくは存じ上げませんが……リールランド神聖国は

かつて、南の暗黒……ソウサレス大陸に多くの植民地を持ち、

多くの奴隷を生み出しました」

 

 北の住民が南下して他人の土地に踏み入り、人や物を収奪していく。

 それを、国家戦略として当然の如く行う。

 どうやら分断された星の異世界にも、血も涙もないような歴史はあったらしい。

 

「俺の世界にも、似たような事はあったよ。俺の知る限り、

その後の禍根は数世紀経っても残り続けてる」

 

「……やはり。父の、先祖の責は負うべきなのでしょうか」

 

連座(れんざ)なんざクソくらえだ」

 

 連座、あるいは縁座。

 罪人当人だけでなく、その家族や親族にまで罪に問うという前時代的な悪習。

 良介の知る限り、江戸幕府の時代にもあった刑罰だ。

 

 ならばこの葦原の、封建制の長たる大和幕府の法にもあるのだろう。

 

「竜司ちゃんは葦原で生まれて、リールランドとやらの政策になんて

これっぽっちも関わっちゃいない。見た事もない故郷の罪だ。

なのに、そいつらと特徴が同じってだけで、とやかく言われるのか?

……そんなの、ただの八つ当たりじゃないか」

 

「そう……あんたの言う通り、これじゃただの八つ当たりだな」

 

 黒い肌をしたカビエシ───リックがヘルメットを担いだまま良介たちに語り掛けた。

 

「リック。悪いけど、これは俺の本心だ」

 

「文句が言いたいわけじゃない。あんたの言う事は間違いなく正しい……

そこの、竜司に罪なんてない。血で罪を決めるのは、馬鹿げてる」

 

 その言葉を告げるリックの表情には、悲痛な色が浮かんでいた。

 彼の背負う歴史にはきっと、言葉だけでは表し切れない大きなものがあるのだろう。

 しかし、だからといってこの戦いに支障をきたすのは困る。

 

「じゃあ、竜司ちゃんと仲良くしてくれるか?」

 

「ああ。部下にも命じておく。傭兵は信用と契約で生きてる。

口約束でも、契約は契約だからな……」

 

 リックは去り際に、気まずそうにしている竜司のもとで立ち止まった。

 今さら殴り合いをするわけもなく、静かに謝罪した。

 

「さっきは悪かったな、リュージ」

 

 基地の片隅へ消えていくリックの背中には、悔しさとは程遠い、深い悲しみが浮かんでいた。

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