蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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24 御料船団救出「FIRST PENGUIN」

 春川親王。

 彼女に関する資料は極めて少ない。

 

 後世の人間はもちろん、大多数の葦原人にとって、男女すらあやふやだった。

 このような事態が発生する理由には、当時も続いていた古くからの慣習がある。

 

 葦原は元来、強力な男系社会であり、家主も男性限定であった。

 

 この慣習にメスが入ったのは央歴1500年代、葦原本州に開かれた魔界の門。そこから現れた魔軍勢力によって、多くの人間が死ぬか無能力者となった。

 特に、戦争では戦力として前線に出る男性の死傷者が多く、武家や公家などの身分を問わず、戦後は後継者を擁立できないという事件が多発した。

 

 養子という選択肢すら(はばか)られるほどの男性不足。

 そこで当時の人々が生み出した解決策は、嫡男(ちゃくなん)や養子の目途が立つまでの間、暫定的に女子を男子と扱う(・・・・・・・・)習慣であった。

 

 幕府朝廷ですら立法もままならず、黙認するしかない混乱の中にあり、法的には存在しない扱いのまま定着した習慣である。

 なにせ1500年代以前の地方では他家の屋敷の寝込みを襲い、一族郎党皆殺し赤子を自分らの子としてきた葦原武士の略奪史から見れば。

 家の中だけで完結する分、葦原の歴史ではまだ穏当な措置なのだ。

 

 故に嫡男不足が致命的な結果に繋がりやすい武家で呼ばれていた“姫武者”、『姫のような武者』という俗語以外に、これを指す言葉は残されなかった。

 

 あくまで暫定的な措置であったが、人の死の影響は数十年、場合によっては世紀をまたぐ。

 流行り病が起きれば姫武者が続出し。

 戦で嫡男が討ち死にすれば姫を姫武者に据え。

 

 という具合で、姫武者の習慣は1970年代まで広がり続け。

 いつしかそういうものとして暫定的な措置ですらなくなり、武士は男だけのものではなくなっていった。

 

 このような背景があって後世の人間、そして当時生きていた大多数の葦原人すら、春川親王の性別を特定できなかったのだ。

 多くの目に留まると、その力が薄れるという風評も相まって、後世に個人を特定可能な写真や絵画すら見つからないのだから。

 

 しかし極東の大破壊後に訪れた、合衆国による統治。

 過去の時代から遠ざかりたかった暫定政府にとって、公開処刑がテレビで中継され、大視聴率を記録したという事実はあまりにも大葦原(・・・)的過ぎた。

 故に後世では当時の映像は修正・破棄され、現状では処刑寸前の拘束される写真しか残されていない。

 

 それすらも、不鮮明で顔すら映っていない代物であった。

 

 彼女の最期は、最後まで自分で何も出来なかったという一言に尽きる。

 大人に命じられるまま帝となり、前線の慰問を行い、命じられるまま撤退し。

 

 内通者によって夷俘島への撤退を察知され、政府軍の攻撃隊によって船団が壊滅。

 その後、航行能力を奪われた特設病院船氷室丸(ひむろまる)は海軍によって拿捕された。

 

 実の弟である弘山親王にもその身柄の確保は伝えられず、確保からひと月後。

 帝なき勅命により、春川親王の銃殺刑は決定された。

 

 記録に残されている春川親王は、ひたすら周囲の大人に翻弄された幼き帝。

 利用され、貶められ、守るべき葦原人にその死を見世物にされた。

 

 ある歴史家は春川親王の最期をこう評した。

 

「春川親王殿下は、葦原の民を強く恨みながら、その生涯を閉ざした事だろう。

葦原人は自分達の関わっている政治や戦争にあまりにも無関心が過ぎ、

その無関心と浅慮によって殺されたのだから」

 

 その真相は、定命の者には定かではないだろう。

 

 そしてこの悲劇も、イレギュラーの登場によって捻じ曲げられた。

 この歴史も分断され、繋がらないのだ。

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