蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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34 酉作戦:甲「The Demon of the IFu」

央暦1969年6月20日

夷俘島屋岸 五稜郭

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 五稜郭。

 現実の日本に存在する城郭と同じく、5つの(おりめ)───

 つまり上から見れば、五芒星(ごぼうせい)型の堀と堡塁(ほうるい)に囲われた砦である。

 

 この砦は幕府勢力最後の司令部であり、幕府軍最高司令官である征夷大将軍はこの基地に居を構えていた。

 徳川幕府最後の将軍、徳川慶喜は蝦夷の地を踏む前に降伏・謹慎したが───

 葦原新政府の強固で無茶苦茶な要求を鑑みれば、降伏などしようもない。

 

 そんな事をぼうっと考えていると、良介を乗せた車は五稜郭の敷地に入った。

 陸戦はしばらくないと見ているのか、敷地内には対空機関砲や最近合衆国から届いたばかりの地対空ミサイル(SAM)が配備されている。

 

 とはいえ、やはり工作員を警戒しているのか警備は厳重。

 どこを見ても二人一組の歩哨が視界に入り、その目つきや整った歩き方から訓練を受けた精兵なのが見て取れる。

 見えないところでは、装甲車ぐらい待機しているだろう。

 

 なぜ、そのような厳重な警戒態勢を敷かれた大和幕府の中枢に良介がいるのか。

 もちろん、彰義隊隊長として将軍の招きを受けたのだ。

 

 本州への反攻上陸作戦のカギとして。

 

「……強引に従わせてるよそ者をキーマンにするなよ」

 

「しむすけ、独り言は頭の中でやれ」

 

「はいよ」

 

 同乗しているのは良介の上司である鈴木哲也、幕府空軍のトップ松平宗治郎。

 お付き兼運転手の赫助。そして───

 

「しむすけってさ、そんなに普段からブツブツ言ってんの?」

 

「たまーに、思考の整理にさ」

 

 かつて良介を殺しに来た元暗殺者の女の子、千代も助手席にいた。

 現公とお部屋潜入事件の後、彼女は幕府空軍が斗米基地の清掃員として雇用している。

 

 もちろん真に受けるほど、良介も愚かではない。

 きっと何らかの取引を経て、彼女は幕府軍に身を置くことを許されたのだ。

 取引の内容については、本人に尋ねてもはぐらかされてしまうのだが。

 

「思考の整理かぁ……何考えてんの?」

 

「可愛い女の子を、どうやってご飯に誘おうかなぁ、とか」

 

「へっ」

 

 その時、哲也は短く笑った。

 千代はそんな彼の様子を一瞥すると、また良介に視線を戻し───

 

「哲也さんといるとさぁ、間接的にしむすけの考えてる事わかっちゃうね?」

 

「……ちなみに、なんて思ってた?」

 

「千代さんストップ」

 

「『嘘こけ、真面目なこと考えてたくせに』」

 

「おいジジイ、俺様の10メートル以内に近づくな」

 

「俺だって好きで一緒に乗ってるんじゃねえんだよ」

 

 などと笑い合っていると、車が減速して停車した。

 目前にあるのは幕府軍総司令部───かつての五稜郭奉行所であった。

 

「松平公、到着しました」

 

「うむ。さあ、3人とも。公方様の御前だ、礼儀正しく頼むぞ」

 

「おう」

 

「お前が一番不安なんだよなぁ……」

 

 哲也の懸念は当然ながら、この男に言っても詮無きことである。

 

 一行は総司令部の建屋に入り込むと、何重ものチェックを通過し───

 作戦計画室と銘打たれた一室に案内された。

 

 そこは煙草の匂いが漂う軍事施設の中でも、唯一煙臭さが存在しない部屋であった。

 

「幕府空軍総裁、松平宗治郎殿! おなーりー!」

 

 扉に控えた立哨が宣言すると、宗治郎が自分に割り当てられた席に腰掛けた。

 良介をはじめとした、それ以外に席は用意されていない。

 封建制の軍が行う会議だ。身分相応の扱いがなされる、当然の話である。

 

「久しいな、宗治郎。壮健そうで何よりだ」

 

「勿体なきお言葉。幕府の、公方様の勝利のため日々邁進しております」

 

───おお。宗治郎のおっさんがすごく礼儀正しいぞ。

 

 普段は少々偉そうな態度をみせる宗治郎だが───

 やはり葦原の(幕府側の)最上位の人間に対しては、さすがに畏まるらしい。

 

 幕府を統べる征夷大将軍、大和(やまと)利信(としのぶ)

 その封建制の長は、質素でなんて事のない普通の男であった。

 

「して、彼らが件の?」

 

「はっ。異界より召喚されし神兵。志村良介二等空尉と、

鈴木哲也一等空佐でございます」

 

 将軍の視線が良介に向けられた。

 隣で哲也が挙手敬礼をする気配を感じる。

 直後、良介の爪先が踏まれた。

 

 やむなく、良介も続く。

 

「ご紹介にあずかりました! 鈴木哲也一佐、及び志村良介二尉です!」

 

「うむ……屋岸空襲の件と、春川親王殿下の救出。

こちらとしても、改めてお礼申し上げる」

 

「恐縮です!」

 

 恐らく良介が口を挟めないように、哲也が大声を張って返答した。

 実にこの男を理解した行動だ。

 奇行を抑制してくれて、私はとても感謝しているぞ。

 

───ちぇっ、全部実際にやったのは俺なんだぞ?

 

 無礼者は黙れ。

 

「上様! ……もうよろしいでしょう。それよりも、この会議の本題です」

 

 と、将軍と哲也の会話を切ったのは───将軍の脇に座る男。

 葦原のミリタリーマニア向け雑誌を読んで、ちゃんと学習している。

 階級章や徽章までは見えないが、これは陸軍の高級将校の制服だ。

 

 宗治郎と席を並べるのだから、陸軍総裁辺りだと良介は判断した。

 

───なんか、嫌な予感がするぞ。

 

 まあ待て。頭の中とは言え、結論を出すには早計だ。

 もう少し様子を見て判断するべきだろう。

 

「そうだな。……我が幕府軍は、一週間以内に本州への逆襲上陸を計画している」

 

 それぞれのお付きの人が資料を配布する。

 良介ら、おまけの人間にはない。

 あくまで、指示を出す側が知っていればいいという判断なのだろう。

 

 ハッキリと言えば印象は良くない。

 官僚主義的に硬直した軍事組織の特徴の最たるものだ。

 

「この作戦において、最も重要となるのは空軍の航空戦力、

及び海軍の艦艇となります」

 

 照明が落とされ、プロジェクターで将軍の向かいに葦原本州の最北端、先湊海軍基地周辺の地図が投影された。

 ナレーションのお姉さんの解説付きである。

 良介の視線は彼女に向かっていた。

 

「こら」

 

 小声で哲也が囁き、軽く腕を小突いてきた。彼にはお見通しらしい。

 

「一般的には、航空戦力で海軍基地の守備戦力及び停泊中の艦艇を攻撃。

その後、上陸舟艇(しゅうてい)を用いて陸軍が基地を制圧する流れになりますが……」

 

 スライドが切り替わり、地図からレーダーとミサイル発射機らしき写真が表示された。

 

「現地には合衆国の最新防空装備、イーグル・システムが配備され、

攻撃の際には停泊中の艦艇も迎撃に参加すると考えられます」

 

「よく見えないんだけど、誘導方式と速度、射程。それと耐G性能は?」

 

 良介が挙手して質問すると、一斉にその視線が集中した。

 哲也が息を漏らす気配を感じたが、やってしまったものは仕方がない。

 

「下郎がっ、無礼だぞ!」

 

「いやよい。彼は作戦に従事するのだ」

 

「……ふん」

 

 将軍の鶴の一声で場の空気は定まった。

 ナレーションのお姉さん───もしくは、どこかの将校のお姉さんは咳ばらいをすると、良介の質問に答えた。

 

「地対空誘導弾では一般的な電波(レーダー)誘導で、速度はマッハ3、射程は低空で16キロ。

30Gの機動に耐えられるとされます」

 

「レーダー誘導って、セミアクティブ(SARH)? それともアクティブ(ARH)?」

 

「違いがよくわかりませんが、私の言う電波誘導とは、

電波発信機の反射波を受信・誘導するものを指します」

 

 すなわち、それは現代の地対空ミサイルでも一般的な誘導方式、セミ(S)アクティブ(A)レーダー(R)ホーミング(H)を意味する。

 

 ちなみに良介が同時に示したアクティブ(A)レーダー(R)ホーミング(H)はミサイル自身にレーダー発信機を搭載し、着弾直前の誘導を行う方式である。

 こちらはVT信管すら作れないこの世界で普及しているとは思えない。

 

「一応聞くけど、誘導レーダー(イルミネーター)は発射機付属? それとも単品(スタンドアロン)?」

 

「スタンドアロンです。後ほど、配置についてご説明します」

 

 情報を整理しよう。

 

 イーグル・システム、合衆国製の防空システム。

 セミ・アクティブ・レーダー・ホーミングで誘導し、弾体は16キロ先の標的に向かって人間では出来ない挙動をしながら音の3倍のスピードでカッ飛ぶ。

 

 速度面では現代のSAM並だ。

 幕府側も簡単に逆侵攻を企図できないわけである。

 

 少なくとも、幕府側はこの性能のSAMを洋上で受けることになる。

 射程ギリギリで逃げ回る戦法も、守り側が優位な現状では効果的とは言い難い。

 

 弾がなくなるまで死地に突っ込んで、活路を見出すより他ない。

 F-2にはECMがあって射程・精度は大きく下がるだろうが、それでも限度はある。

 

 レーダーの電波を探知して向かっていく対レーダーミサイル抜きの、ベトナム戦争時代のワイルド・ウィーゼル部隊と同じ無茶をするのだ。

 それも、地形の恩恵を一切受けられない洋上で。

 

 イルミネーターや捜索レーダーを破壊するまで、生き延びられるかどうか。

 正直、良介でも自信がなかった。

 

戦闘機乗り(おれら)を殺すには十分な性能だな……ありがとう、凄く参考になったよ」

 

「そう! 極めて困難な戦となるのだ……

だからこそ、我が陸軍はこの作戦を上申する!」

 

 なにやら、陸軍総裁殿に一計があるらしい。

 ナレーションのお姉さんに何事か合図すると、次のスライドに移った。

 

「その……陸軍総裁が上申する作戦は次の通りです。

葦原本州と夷俘島を結ぶ松屋隧道。こちらを戦闘機で踏破し、

松後城に唯一配備されている捜索電探を破壊する……というものです」

 

「馬鹿な! そんなのは自殺行為だ!」

 

 宗治郎が概要を耳にした途端、絶叫した。

 お姉さんの躊躇いがちな口調だけでも、それが無茶な提案なのが予想できた。

 こちらも概要を咀嚼してみよう。

 

 恐らく松屋隧道とは、葦原本州と夷俘島の間にある海底トンネル。

 日本でいう青函トンネルを通って向こう側まで行き、敵のレーダーをぶっ壊してこい。

 というものなのだ。

 

───馬鹿なのかな?

 

 あるいは、断られる前提の提案。

 もしくは、そこで死んでほしいかだ。

 

「陸軍は松屋隧道の詳細な寸法を入手している!

聞くところによれば、神兵の機体は全幅10メートル、

全高5メートルほどと言うではないか! 通れるはず、資料を読まれよ!」

 

 さすがにあれほど衆目に触れれば、寸法くらいのスペックは集められるだろう。

 とはいえ。松屋隧道とやらの寸法はわからないが、不可能ではない程度の大きさはあると見えた。

 

「読むまでもない!

飛行機ってのは空を飛ぶためのものだ、地面を這う車ではない!」

 

「どうせ員数外! 惜しむものでもあるまい!」

 

───せめて本人がいる前で言うなよ。

 

 自衛官として、無茶ぶりを受けるのは慣れっこだが。

 とはいえ使い捨ての消耗品扱いされる謂れはない。

 ここはひとつ、嫌味のひとつでも投げてやろうか───

 

 そう思いながらふと両脇を見ると、良介以上に頭に血が昇った人間が2人いた。

 彼らの手首を掴んで、その足を止めた。

 

「待て待て待てって」

 

「なんで止めるんだ? お前の事なんだぞっ」

 

「だからって、あのおっさんをどうするつもりだよ?」

 

「殺すに決まってるじゃん。他人に死ねって言うんだから当然でしょ?」

 

 宗治郎と陸軍総裁の議論が白熱していて助かった。

 さもなくば、この小さな反乱の種を周囲に気取られていたに違いない。

 

「とにかく、今は抑えて……ね?」

 

 正直な所、良介も頭に来ている所はあった。

 しかし人間、自分以上に取り乱している人間がいるとかえって落ち着くという。

 まさにそれだろう。危うく陸軍総裁暗殺事件を起こすところであった。

 

「では、お主はどうする⁉ 部下の大多数を、

あるいは全員を死なすつもりかッ!」

 

「手段はあるはずだ! このような無体を犯す必要はない!」

 

「ああ、お主は自分の部下がそう死んでおらんからそう言えるのだろう!

だがな!」

 

 その時、良介も会議に出席している閣僚に気づいた。

 先ほど総裁が熱弁している陸軍に、沈黙を守る海軍。

 

 全員がこの戦いで仲間の多くを亡くしている。

 それは数値の問題ではない。この場にいる誰もが身内を失っているのだ。

 

 空軍は逃げ足が速いが、陸軍と海軍は航空優勢を握られれば瞬く間に食い散らかされる側だ。

 実情はどうあれ、痛みの少ない側に怨嗟(えんさ)が向けられている。

 

 これは陸軍総裁ひとりを説き伏せても、恐らく意味がない。

 空軍除いた、幕府軍の総意に等しいのだから。

 

「いいか、葦原への上陸自体が無謀なのだ! 貴様ら空軍が失敗すれば、

海軍の艦艇は危険にさらされ、我が陸軍は無防備な上陸艇で攻撃を受けるのだ!」

 

「だからと言って、これでは貴重な人員の浪費に他ならん!」

 

「半端に作戦を中止して犬死を生むより、ずっとマシだ!

神兵と呼ばれるからには、神業で我らの犠牲を減らしてもらわねばな!」

 

 宗治郎が、空軍が実行を拒絶すれば恐らく本州への反攻上陸すら行われないだろう。

 それほどにも、彼らは身内の死を恐れている。

 多くを失い過ぎて、不毛な死はもうたくさんなのだ。

 

 だから彼らは、手段を択ばない。

 恐らく、宗治郎以上に。

 

「そのびっこ! そいつを消すのに苦労はせん! わかっておるのか、神兵!」

 

 まったく。宗治郎の方がまともに見える状況が来るとは恐れ入った。

 幕府軍は完全に良介の弱点を見抜き、堂々と利用してきた。

 

 せっかくお呼ばれになったのだ。

 ご期待にお応えするべきだ。

 

 哲也と千代が妙な真似をしないように肩を叩くと、良介は卓上に手を置いて閣僚を見やった。

 黙れ、ドン! と言い捨てられるほど、良介は上等な人間ではない。

 

「どうも、神兵です。資料は?」

 

「なに?」

 

「資料。代わりに命張るんだから、情報提供ぐらいはしてくれるんだろ?」

 

 場にいた閣僚は良介の行動を見守るばかりだったが───

 動いたのは将軍だった。

 

 彼はナレーションのお姉さんに視線で合図をやった。

 

 それが将軍であるはずの彼に出来る最大。

 

 困った。

 幕府側には帝どころか、将軍にすら実権がないのか。

 神輿ばかりで真の責任者がいない。本当に困った連中である。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 恐らく、彼女も内心では反対の立場。

 八つ当たりをすべきではない。

 資料を受け取ると、笑みで応える。

 

 ナンパ野郎の時間は終わりだ。哲也を呼び寄せて、資料の文面を共有する。

 全幅・全高20メートル。距離は70キロの直線、両端に上方向の坂あり。

 

 障害物は隔壁が夷俘島側と本州側にひとつずつ。

 夷俘島側は幕府側の支配圏にあるが、本州側はどうにもならない。

 

 列車などこのご時世では通らないのだ。

 奇襲を想定して、普段は閉ざされている可能性が高い。

 

「この隔壁さ、俺を行かせてどうするつもりなの?」

 

「その門は夷俘征討の折に築いた古いもの……今は使われておらん。

酸欠を防ぐために、常に開かれている」

 

 手動で開く木製の門。

 確かに今時使われるとは思えないが、手動で動作するという事は人手さえあれば動くということ。

 懸念事項だ。

 

「しむすけ。本気でやるつもり?」

 

「ああ、俺様はいつだって本気なのだ」

 

 呼んでいなかったが、千代も良介のそばで資料に目を通し始めた。

 彼女の閣僚たちを見る目は、普段の様子とは打って変わって淀んでいたが───

 

「なら、あたしも手伝う。心配してるのって、向こうの門でしょ?

あそこは夷俘島(ここ)に来る前に見た。妨害出来るよ」

 

「……でもさ」

 

「しむすけが日本一の戦闘機乗りなら、あたしは葦原一の始末屋だ。

そのくらい屁でもないよ」

 

 良介の懸念はそこではない。

 千代の生き方はどうであれ、現代日本的には成人を迎えたくらいの女の子だ。

 

 そんな女の子に、命懸けの仕事をさせるのか?

 再び、命を奪う仕事をさせるのか?

 

 千代が哲也へ視線をやり、また良介へ戻す。

 

「そっか。しむすけってこういう時、自分よりあたしの心配するんだ」

 

 他人に性格を把握されると、このようなデメリットがあるとは。

 気恥ずかしいが、少なくともそれが本音である。

 

「あたしはなーんにも考えずに、惰性で仕事をしてきた……だけど、今は違う。

殺ししか能のないあたしでも、誰かを助けるために使いたい。しむすけと一緒」

 

 そうなると、お前が無茶をする必要はないのではないか?

 千代にレーダーを破壊してもらえば、あとはお前がECMを全開にして先湊を空襲すれば危険はぐっと減るはずだ。

 

───ダメだよ。唯一のレーダーなんて、警備が厳重に決まってるだろ?

千代ちゃんを死なせるつもりか? 無粋だから黙ってろよ。

 

 ぐう。

 

───意地張ってぐうの音だけ出すなよ。

 

「……ありがとう、千代ちゃん」

 

「しむすけはさ、あたしの最初の人なんだから。

つまんない死に方はして欲しくないからさ」

 

 それは一応誤解なので、ボスは妙な目で良介を見るのはやめた方がいい。

 誤解は置いておいて、懸念は危険飛行だけになった。

 良介お得意の、アレだけなのだ。

 

「ようし。じゃあ途中で隔壁が閉じて急かされたり、

段違い平行棒とかはなさそうだ」

 

「ベルカじゃねえんだ、んなもんあってたまるかよ」

 

 言うまでもない話だが、歩兵以外に障害はなく、歩兵も至近距離を飛ぶだけで無力化は容易い。

 いくらなんでもそんな閉所に対空機関砲を稼働状態で置くはずがない。

 戦車だって、あの排気量で貴重な空気を汚染されれば、双方困るはずだ。

 

「考えは、まとまったのか?」

 

 陸軍総裁の問いに良介は仲間と共に向かい合った。

 

「……どうせ、嫌だって言わせないつもりなんだろ?」

 

「その通りだ」

 

「どうやら俺の熱心なファン(死を願うやつ)は、どっちにもいるみたいだ……」

 

 戦争に巻き込まれたかと思えば、上司の身柄を人質に戦争への参加を強いられ。

 さらには本当に身に覚えのない恨みを買って、無茶苦茶な危険飛行を強いられる。

 

───ちぇっ。じゃあ今度は、身に覚えのない理由で俺を好きな女の子が

たくさん現れて、モテモテにならないと割に合わないぜ。

 

 そんな状況は天地がひっくり返ってもないだろう。

 

「やるよ。その代わり、妙なマネはするなよ」

 

 泣きわめいて命乞いをするとでも思っていたのだろうか。

 陸軍総裁殿は、つまらなさそうな表情で鼻を鳴らした。

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