蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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39 景清作戦「Mighty Wings」

央暦1969年6月28日

夷俘島 斗米空軍基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 朝、起きてみると。千代の姿はなくなっていた。

 ほんの一瞬、良介は彼女の実在を疑ってしまったが、ベッドのシーツに残された真っ黒な煤は、そこにいた人間を物語っていた。

 

「ふぅ……びっくりした。今は何時なんだろう?」

 

 と、時計を探し始めた直後。

 兵舎の外から起床ラッパの音色が響いた。

 

 体内時計と長年の習慣というやつは全く侮れない。

 あれほどの疲労困憊でも、反射的に目覚めてしまうのだから。

 

「それにしても、千代ちゃんは早起きなんだな。俺様よりも早起きだとは」

 

 彼女とて、素人ではない。なるべく睡眠中という無防備な隙を他人に晒したくないのだろう。

 やむなく疲労から良介の隣で寝ることを選んだだけで、本望ではなかったに違いない。

 

「……まあ、元気ならそれでいいや。それよりも、早く準備しないとな」

 

 風呂にも入っていない身体は少々匂いが気になるが───

 幕府軍は朝風呂を浴びさせてくれるような、緩い職場ではない。

 

「……念のために断言しておくが、俺は営内風呂キャン勢ではない。

毎日最低シャワーは浴びているぞ」

 

 何を当たり前のことを言っているんだ、お前は。

 最低限の身なりを整えると、良介は兵舎を出た。

 

 彰義隊の格納庫に到着すると、メンバーの視線が一斉に良介へと向けられた。

 無理もない。帰ってきたら無言で部屋に戻って、それきり出てこなかったのだ。

 

 精神の異常を心配されて当然だ。

 実際、私がいる時点でお前は相当病んでいることだしな。

 

「志村殿っ、お加減は?」

 

 真っ先に駆け寄ってきたのは竜司だった。

 昨日の激戦などなかったかのように、元気いっぱいである。

 

「さすがに、昨日は疲れちゃってさ……俺も歳かな」

 

「私と4つしか違わないのに、馬鹿を言わないでください」

 

「その4年が、結構な差になるもんぢゃよ」

 

 続いて、先の戦闘で複数の艦艇を大破・撃沈する活躍を見せた精兵隊の奥村陸平がやって来た。

 純粋な撃破数では、恐らく良介よりも上だろう。

 

「よっ、功労者」

 

「バカを言うでない。すべてはお主が防空網に穴を空けなければ

出来んかった戦果じゃ。それに……山を盾にするという案。

あれがなければ、三式弾で全滅しておったわい」

 

 良介が発案した地形に隠れるという提案はツクヨミ経由で作戦区域の幕府軍や政府軍に通達され、多くが退避に成功していた。

 

 もちろん、全てではなかった。

 退避に間に合わなかった機体や、それ以前に撃墜され、脱出した搭乗員は全員助からなかった。

 

「儂らが最も撃破した功労者なら、お主は最も多く救った功労者じゃ。

素直に誇っておけ」

 

「それは嬉しいね……素直に」

 

 自衛官だから、というわけではないが。

 殺しの腕を褒められるより、良介としてはそちらの方が嬉しく思えた。

 どちらも、殺していることに変わりはないが。

 

「リョースケくん、ちょっといい?」

 

 話が落ち着いたのを見計らって、エラが輪の中に加わってきた。

 あの作戦直前に亡命を提案してきた彼女だ。

 

 提案の性質上、準備にも危ない橋を渡っていたに違いない。

 その辺りも、謝った方がいいだろう。

 

「あー、エラちゃん……」

 

「まず。機体の被害、目を通しておいて」

 

 彼女が押しつけたのは、F-2の被害についてまとめられたレポートだった。

 被弾した主翼はもちろん、数々の無茶によって悲鳴を上げた部品など、それはもう耳ならぬ目が痛くなる報告の数々であった。

 

 この報告には修理に要する期間も書かれていた。

 

 またしても長くなりそうだ。

 隣に書いてある金額は───意識の外において。

 

「……ごめん」

 

「壊れた機体を直すのは技術屋(わたしたち)の仕事。別に謝る必要なんてない」

 

 しかしこの明らかに感情を抑えている語気から、秘めた感情があるのは明白だった。

 もう一枚、紙をめくると───手書きで書かれた紙が混じっていた。

 

『TONIGHT WAIT YOUR ROOM』

 

 これは日本語、葦原語ではない。

 つたない英語で書かれていた。

 

 そう、彼女は良介と同じような神兵───

 異世界転移した海外の兵士たちと交流していた経験もあるのだ。

 英語も、その時に習得したに違いない。

 

───なるほど、葦原の人々に知られたくない話があるわけか。

 

 亡命話を呑む気はなかったが、一方で幕府を妄信しているわけでもない。

 

 聞く価値はあるだろう。

 そう考え、良介はその紙をそっとポケットにしまった。

 

「わかった?」

 

「わかった」

 

「そう。ならいい。それと、代替機はソージローと話をつけたから。

そっちも目を通した方がいいと思うよ」

 

 詳しいことは今夜、と言いたいのだろう。

 最低限の言葉を交わすと、彼女は足早に格納庫を去った。

 

 助言通り、報告書をめくると───あった。

 

 代替機は単発ひとり乗りの小型戦闘機だった。

 三面図を見るとすごく見覚えのあるダブルデルタ翼機に見えた。

 

「……これ、スカイホークじゃん。トップガンで見たぞ」

 

 違う、よく見ろ。報告書にはロング・イヤ社BT4ガルーダ(Garuda)と書かれている。

 つまり、ダクラス社のA-4スカイホークとは全く関係がないのだ。

 

「そうか、なら問題ないな……別方面の問題が出てるような?」

 

 ガルーダといえば、インドや東南アジアで頻繁に用いられる神話上の生物だ。

 この世界は現実とは似て非なるが、色々と似通った世界。

 偶然の一致だ、気にするな。

 

「この機体なら、先ほどここに運び込まれましたよ」

 

「へぇ……ちょっと見てみるか」

 

 竜司の案内で機体のもとへ向かうと、コクピットには機付長が搭乗していた。

 この機体は幕府・政府共に採用している艦上攻撃機、つまり海軍機だ。

 

 空軍の人間である斗米基地の整備隊にとっては、あまり慣れない機体なのだ。

 機体整備・修理の責任者である彼こそ、機体を隅々まで知らなくてはならなかった。

 

「悪いな。先に乗らせてもらってる」

 

「いいよ、別にその程度は気にしないから」

 

 これから乗る機体だ。情報は少しでも収集しなくてはならない。

 とりあえず、機体の外周をぐるっと回る。

 

 デルタ翼形状の主翼には日本国籍を表す標章、日の丸が描かれていた。

 上はもちろん、下面にもしっかり描かれている。

 

「よしよし、テクスチャの容量には余裕があるみたいだな」

 

「お主は何の心配をしとるんじゃ」

 

 陸平から至極当然のツッコミを受けながら、スカイホーク風のガルーダを眺める。

 

 しかし、日章旗付きのスカイホーク(スカイホークではない)とは。

 一部界隈の趣味人たちが歓喜しそうな絵面である。

 

 では続いて、垂直尾翼を見ると───

 ご丁寧にも良介の所属部隊である114飛行隊のマーク、通称ブサイク・ペンギンが描かれていた。

 

「あれ再現しなくてよくない?」

 

「ダメですよ! あの印は今、幕府軍では八咫烏と呼ばれて人気なんですよ!」

 

「八咫烏って……あれ、そんな大層な生き物じゃないよ。あのブサイク鳥類」

 

「ほう、俺の描いたファースト・ペンギンくんがブサイク鳥類とな?」

 

 竜司との会話中に、乱入者が現れた。

 松葉杖を突いた、良介の上司。114飛行隊隊長、鈴木哲也。

 

 そしてもうひとつの肩書は、114飛行隊部隊章のデザイナーである。

 

「ああ、面倒くさいジジイに絡まれた……」

 

「誰が面倒くさいジジイだ。ならこっちは面倒くさいガキの面倒見てんだよ」

 

「ちぇっ。戻ったらパワハラで訴えてやる」

 

「ああ。やれるモンならな」

 

 こう口では言うものの───

 あの命懸けの作戦から生還して、初の同郷人との再会。

 不本意ながら、嬉しかった。

 

「教官職に就いた感想は?」

 

「ガラじゃねぇな。でも、教育団の苦労はわかるようになった……脚が治り次第、空に舞い戻ってやる」

 

「半年だろ? その前に、俺がこの戦争終わらせちゃうぞ?」

 

「……もうこの脚、ぶった斬って義足になってやろうか」

 

「出来もしないことを言うなよ」

 

 拳を突き合わせると、もう一度ガルーダを見やる。

 114飛行隊の部隊章が引き継がれているのは、まあいい。

 

 それよりも肝心なのは───

 

「シリアルナンバーも合わせる必要はないと思うんだけど……」

 

 シリアルナンバー。

 垂直尾翼に書かれた、機体に割り振られる数字である。

 当然ながらこれは機体を識別するための番号であり、搭乗するパイロットを識別するためのものではない。

 

 尾翼にあるなら機首にもバッチリと、F-2と同じく末尾3桁の565が書かれている。

 ちなみに、565号機のナンバーは63-8565である。

 

「俺もそう思う」

 

「ええ。ですが、志村殿と言ったらこの数字、らしくて」

 

「……エースコンバットじゃないんだぞ」

 

 その話はやめておけ。

 今は機体の把握に努めるべきである。

 

「でもスカイホークに、背中のこぶはなかったような?」

 

「ああ。どっちかっつーと、海兵隊仕様のスカイホーク2、A-4Mっぽいな。見ろ、鼻先に爆撃照準器がくっ付いてる」

 

 機首の先端、レドームの先には、確かに。レンズが鈍い照明に反射していた。

 しかし、だ。

 

「でも仕様書によればこれ、レーザー照準の機能はないっぽいな……」

 

「えっ、ないの⁈」

 

「うん。FLIRと目視爆撃の補助らしい。っていうか、

レーザー照準って使われてるの?」

 

 竜司に尋ねてみると、ふりふりと首を振った。ないらしい。

 

 それも当然だ。

 さもなくば、わざわざ対艦戦闘で至近距離まで接近して爆撃などするはずがない。

 

 あるのなら身を晒すのは照準ポッドを積んだ機体だけで、他は上昇しながら爆弾を遠投するトス爆撃をすればいいのだから。

 

「……なんかトコトン、戦闘機にインファイトを強いられるな」

 

「俺らをここに飛ばした神様ってのがゲーム脳で、

エースコンバットをマジの空戦だと思い込んでるんだろ」

 

 違いない。

 きっと、パイロットが命を削る様をキャッキャしながら観察しているのだろう。

 実に悪趣味な存在である。

 

「おい、志村! とりあえず、こっちに乗ってみろ」

 

 機付長がコクピットから這い出ると、良介を呼びつけた。

 恐らく最低限の手順と機内の特徴を把握したのだろう。

 

 こちらも、これから命を預ける機体になるのだ。

 タラップを登ってコクピットに潜り込む。

 

 その内装は───F-2と比べるのは各方面に無礼だろう。

 蒼鷹や五式打撃戦闘機ほどではないが、計器の多いパネル。

 

 もちろん、MFDなどない。

 画面といえば、中央にFLIRとレーダースコープがあるだけだ。

 

「これはまた……古風だな」

 

「けっ。俺らからすれば、お前らの機体がおかしいんだよ。

あんな薄くて広い画面、合衆国でも無理だかんな」

 

 まだエンジンを始動するわけではないが、仕様書と睨めっこをしながら各スイッチの配置を確認する。

 前線向けに設計された機体であるためか、手順はかなり簡素に出来ていた。

 

「うん。もうちょっとしたら飛ばせるとこまでやれると思う」

 

整備(おれら)としても、こいつはかなり扱いやすい。ただ、気をつけろ。

エンジンにオーグメンター積んでねぇから、

五式やお前の機体ほど無茶な動きは出来ねぇぞ」

 

 もとよりガルーダは攻撃機だ、そこまでの期待はしていない。

 しかし、ついうっかりF-2感覚で飛ばしてしまう恐れは確かにある。

 忘れてはいけないぞ、志村良介。

 

「……ふぅ。それじゃ、俺は装備取ってくるから」

 

 確認を終えると、良介はこの後のフライトに備えて機体から降りた。

 装備とは、F-2に置いてあるヘルメットのことである。

 

 この世界の機体で使えばHMD機能は使えない単なるウェイトと化すが、やはり使い慣れたものの方が良い。

 第一中隊の格納庫を出ようとすると───田中空軍歩兵が良介を待ち構えた。

 

「失礼します、志村さん。お電話が」

 

「……俺に? 誰から?」

 

「自分の口からは、とても……」

 

「〇ォルデモートかな?」

 

 名前を言ってはいけない人間、そんな人物と知り合った覚えはない。

 しかし、田中空軍歩兵が弾かないのならば、それなりの人物なのだろう。

 

 彼を信用して、電話のあるという司令部───

 

「し、司令部までわざわざ行くの⁈」

 

「ええ。機密性の高い通信となるので」

 

「……相手が誰だか、教えてくれない?」

 

「無理です。ですが……お堅いものではないとだけは、自分の立場でも言えます」

 

 ますます謎が深まってしまった。

 機密性の高い通信なのに、お堅いものではない。

 果たして、それはどのような通信なのだろうか?

 

 疑問を胸に司令部へ赴き、案内された部屋に入る。

 すると田中空軍歩兵はすぐさま退散し、良介は電話だけ置かれた不気味な部屋に取り残されてしまった。

 

「……ゲームの実況動画で、こんな部屋見たことあるぞ」

 

 電話線を引っこ抜けば、隠しエンドが流れて元の世界に帰れるか?

 そんな期待は、するだけ無駄だろう。

 

 ジジリリリ。未だに操作がよくわからない黒電話が鳴り響いた。

 しかし受信だけなら簡単だ。ただ、頭上の受話器を取ればいい。

 

 受話器を手に取ると、電話はちりんと名残惜しそうな声で鳴いた。

 

「……もしもし?」

 

「志村様、でしょうか? 私です、現公(ありさと)です」

 

「ああ、現公ちゃん」

 

 流石の良介でも覚えていた。

 千代と初めて会う直前、病院から逃げ出していた家出少女だ。

 

 なにやら大きな時代の潮流に飲まれている彼女を、良介はなんとか支えになりたくて───

 一応下心抜きに連絡先を教えたが、まさか本当に連絡が返ってくるとは。

 

「まさか、本当に電話をくれるとは」

 

「お邪魔、でしたか?」

 

「まさか。とっても嬉しいよ」

 

 仮にも勤務中に、営外の女の子とおしゃべりをするとは───

 このような経験、お前が航空祭の最中にナンパをした時以来ではないか?

 

「で、どうしたの?」

 

「何かの間違いであれば良いのですが……先日、あなたの乗る機体を見ました」

 

「うーん。俺は頻繁に飛んでるからな……」

 

「見てしまったんです。あなたの機体が、松屋隧道の坑口に飛び込む瞬間を」

 

「あっ」

 

 なるほど、作戦中の決定的瞬間を目撃していたわけである。

 それも前代未聞の遂行不可能作戦を。

 

 先湊での戦いは今の所、幕府軍が襲撃して上陸・制圧したという結果だけは報道されていた。

 どのように防空網を破壊したのか、戦闘終了間近に何が起きたのか。

 そこはまだ、報道管制が敷かれていた。

 

 一般人である彼女には、自殺行為としか映っていなかったのだろう。

 

「……まさか、陸軍があのような無体を強いるなんて」

 

「うん、まあ……あれれ?

現公ちゃん、なんで陸軍提案の作戦だって知ってるの?」

 

「ご無事という記事は目にしました。

でも……でももし、志村様に何かあったら……!」

 

───聞いちゃいないな、おい。

 

 とはいえ、彼女は政府側に身柄を狙われるような地位にいる人間。

 親の伝手か何かで、お前の参加した作戦の概要を耳にすることができたのだろう。

 耳にしたところで、実物を目にするまで信じられないだろうが。

 

「とにかく、俺は元気だから安心してくれていいよ」

 

「それではいけないのです。もし軍が、志村様がお優しいのをいい事に、

このような無体を続けさせては……!」

 

 良介の身を案じてくれるのは非常にありがたい。

 しかし一方で、良介とて自衛官、軍人だ。

 少なくともこの葦原に縛られている以上、危険を避けることは出来ない。

 

 それに。陸海軍の上層部と顔を合わせて確信出来た。

 彼らの権力は今や、幕府の長たる将軍すら抑えてしまうほどに拡大している。

 現公がどのような地位にいるとしても、下手な口出しは危険だ。

 

 それこそ、適当な罪状を押しつけて拘禁などしかねない。

 

「現公ちゃん。俺を心配してくれるのはとっても嬉しいよ。ありがとう。

でもさ……たまに、自衛官にもいたんだよ。武器扱える自分が、

世界一偉いんだって誤解する奴。指導者よりも、主君よりも。

口では綺麗事言ってるけど、行動にその性根が表れてる感じの」

 

 この言葉を告げてしばらく、現公から返事はなかった。

 ただわずかに、息を飲むような気配を感じた。

 

「俺の言ってることわかる?」

 

「……はい」

 

「こういうのは、俺みたいなデキる大人に任せてくれよ」

 

「もう、元服は済ませました。私も大人です」

 

「でもまだ日の浅い、大人見習いだろ? ……世の中には、現公ちゃんと違って

人間が出来てない、ガキみたいな大人もいるんだ。そういうやつは、

イジめる隙を見つけたら平気でイジめてくる。だから、気をつけなきゃ」

 

 どこに検閲の耳があるかわからない。

 あったとしたらこの会話はかなりスレスレだが───

 これは彼女を暴走させないための忠告だ。

 

 担当にはお目こぼしを願うしかない。

 

「言っただろ? 俺は、期待してくれる女の子がいる限り、死なないよ」

 

「なら……私は誠心誠意、志村様を期待して、応援いたします」

 

「その声援にバッチリと応えちゃうぜ」

 

 背後で扉の開く気配を感じた。

 視線をやると、田中空軍歩兵であった。

 

 これが潮時だろう。良介も会話の締めに入った。

 

「残念だけど、呼ばれちゃったからさ……また、電話してくれると嬉しいな」

 

「はい……影ながら、応援しております」

 

「それじゃ、またね」

 

「はい、また……」

 

 しばし待ち、向こうの受話器が降りるのを待つが───

 通話が切れた気配がしない。

 

「あれれ? まだ繋がってる?」

 

「あ、はい。まだ繋がっています……志村様が切るのをお待ちしていました」

 

「うーん。なんだか、初めて電話した時みたいだぞ」

 

 まったく、自分の年齢の半分は年下の女の子に気を遣わせるとは。

 小学生がスマホを与えられて、初めて友達と通話をするのとは違うのだ。

 だから良介は、一言だけ告げて締めとした。

 

「正直よくわかってないんだけど、俺も現公ちゃんの事、応援してるから。

またね」

 

「はい、志村様……また……」

 

 向こうに気を遣わせないように、今度は良介の方から受話器を下ろした。

 振り返って田中空軍歩兵の様子を伺うと───

 なにやら、顔面を真っ青にして呆然としていた。

 

「……どうかした?」

 

「いえ……自分は今、志村さんに呆れを通り越して、

敬意に近い感情を抱いています」

 

「……うん?」

 

 何のことやらさっぱりだが、楽しいお喋りの時間は終わりだ。

 自分とボスの安全のため、帰還のため。

 仕事に取り掛からなくては。

 

 田中空軍歩兵による、事実上の監視のもと。

 良介は再び第一中隊の格納庫へと戻っていった。

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