蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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47 景清作戦「Mighty Wings」

央暦1969年7月9日

夷俘島 斗米空軍基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

「志村ァ……お前、遂ッにやりやがったな……!」

 

「あはは……」

 

 良介は機付長からの詰問を、曖昧な笑みで誤魔化した。

 全損したものを修理など出来ようもないが、それでも彼らが手塩を掛けて手入れした装備。

 

 それをぶっ壊した張本人が、いけしゃあしゃあとやってくれば怒りもしよう。

 

「……まあ、一番高い部品が帰ってきたから、良しとしてやる」

 

「え?」

 

 どんなガミガミが飛んで来るのかと思えばあっさりと終わってしまい、良介は肩透かしを食らってしまった。

 

「でも確かに、切り替えは大切だ。壊れてしまったものは仕方がない」

 

「だからって、壊していいわけじゃねぇからな!」

 

 ほーら、怒られた。

 

 機付長の発言はもっともである。

 機体ひとつでも、お前の給料1000年分以上の代物だ。

 無闇矢鱈に損耗してはならないのだ───

 

「それで? また五式に乗るしかないの?」

 

「いや、お前の機体が思った以上に早く直りそうだ。

合衆国のオールド・ミスに感謝しろ」

 

「エラちゃんね……工房にいる?」

 

「ああ……あのお方をちゃん付けで呼ぶの、お前ぐらいだぞ?」

 

「やっぱり、畏れ多かったり?」

 

「工学以外でも、色んな学問の生き字引だからな」

 

 思えば、ガルーダを融通してくれたのもエラに他ならない。

 機付長に会釈すると、良介は斗米基地に建てられたエラの工房へと向かった。

 

 工房。

 彼女の施設はそう呼ぶのが正式らしいが、研究しているものがものだけに、外観も中身も斗米基地にある他の軍事施設と大差はなかった。

 今回、大扉が開いているのが気になったが───

 

 この程度の疑問は些細なもの。

 厳重なチェックを経てかまぼこ型の工房に入ると、エラは中央のすぐ目立つ場所にいた。

 なにやら、小さなエンジンを睨んでいるが───

 

「ふっふっふ、いたづらの時間だ……」

 

 やめておけばよいものを。良介は足音を忍ばせて、こっそりとエラの背後に忍び寄った。

 それで、忍び寄ったらどうするつもりだ?

 

───どうしよう。考えてなかった。

 

 と、無計画なまま手が届く距離まで接近し。

 無防備な肩にでも触れてやろうかと手を伸ばす。

 

「リョースケくん、これつけて」

 

 指先が触れる直前、良介の視界をイヤーマフが覆った。

 

「ギョッ⁉ き、気づいてたのか」

 

「これ! つけないと鼓膜破れるよ」

 

「鼓膜って……おい待てッ!」

 

「イグニッション!」

 

 目前のエンジンを見て、即座に良介は意味を理解した。

 咄嗟にイヤーマフを身に着けた直後、ごうという爆音が工房中に広がる。

 彼女はエンジンの起動実験をしていたのだ。

 

 それもこのエンジン、明らかに小さいが見覚えがあった。

 

「あっ、F-2のエンジン!」

 

「そう! 試しにミニチュアを錬成してみたの!

このまま実寸大錬成してもよさそう!」

 

 頭の中で予想していた懸念が当たってしまった。

 天才がF-2のリバースエンジニアリングをほぼ完了させてしまったのだ。

 

 戦闘機にとって、エンジンはもっとも重要な構成パーツのひとつだ。

 さらに胴体や主翼が再生産可能なのは既知の事実。

 

 さすがに中身となるアビオニクスのような電子機器。

 こちらのプログラムはともかく、物自体の複製は即座には不可能という話だったが───

 

 稼働可能なミニチュアを生産できるのだ。

 F-2を丸々再現とはいかずとも、エンジンを別の機体に組み込む程度ならば早晩可能になるだろう。

 もちろんそれは、今搭載しているF-2のエンジンに何かあっても、替えが利くという事でもあるが。

 

「イヒさんごめん!」

 

 エンジンの開発・生産を行ってくれた会社にこっそりと謝罪し、景気よく吹いて土ぼこりを外に巻き上げる姿を眺めた。

 この人すら容易に吹き飛ばしかねない、莫大な出力を生じさせるエンジンを良介の腕ひとつで調整しているのだ。

 

 いやはや、恐ろしい話である。

 

 しばらくエンジンの噴射が続いていたが、やがて出力は下がり。

 間もなくして完全に停止した。

 

「どうでしょう、エラさん!」

 

「いいよ、想定通りの出来栄え。本社に送って精査させて」

 

「わかりました!」

 

 エラが事実上持つ会社、ロング・イラ社の社員がミニチュアエンジンを重機で運び出していく。

 果たして、この世界にどれほどの影響が出るのか。

 それはまだ、わからない。

 

「さて、夷俘の魔物さん。死んだ感想は?」

 

「二度と御免だね」

 

「私もあなた向けの機体をねじ込むこれからを考えたら、二度と御免だね」

 

「……悪かったって」

 

「あなたが帰ってきたから良しとしてあげる。ひとまず、お茶でも飲む?」

 

 美少女───失礼、美女とのお茶は名誉である。

 お誘いに乗って、良介は工房の片隅に配置された畳敷きの空間に向かった。

 

 履き物を脱ぎ、段を上がる。

 

「合衆国でも、畳って普通なの?」

 

「合衆国って、名前の通り色んな地域・国の集まりだから

一概には言えないんだけど……どの州でも一般的じゃないね。

畳は葦原独自の文化だよ」

 

「じゃあ、なんでわざわざ用意したの?」

 

「楽だから」

 

 そう言うと、エラはゴロンとその場で横になった。

 

「パヴィートラム地方だと、土間に板張って寝るんだけど……

狭いわ固いわで、昔から嫌いだったの」

 

「パヴィートラム……合衆国のある地域だっけ」

 

 良介も両足を伸ばして、エラの部下が用意してくれた茶を一口含んだ。

 これは葦原で仕入れた緑茶だろう。

 日本の煎茶と味に差はない、慣れ親しんだ味であった。

 

「エルフ……耳長の住んでるところでも変わらないの?」

 

「私の若い頃は接触がなかったけれど、生活様式に大差はなかったね。

あ、それと。大樹の上に住んでるわけじゃないからね」

 

「誰もそんな事は聞いてないだろ?」

 

 とはいえ。

 エルフが木の上に住んでいるというイメージは、正直良介も持っていた。

 果たして、このイメージはどこからやって来たものだろうか。

 

 茶をしばきながら思案を巡らせていると、エラの視線を感じた。

 

「少し外のアイデアを取り込みたいんだけど、何か面白い話ない?」

 

「面白い、ねぇ……」

 

 以前、F-2に搭載する三連ミサイルパイロンは実装済み。

 ミサイルなどのソフトウェアに関しては、時折話しているが実装は極めて困難と聞いている。

 

 それらを踏まえるとなると、次は───

 

「うーん。例えば、超音速状態になると動翼使った制御は難しくなるだろう?」

 

「空気力学的には、限界があると認めざるを得ないね」

 

「だから、エンジンノズルにパドルを取り付けて推力を偏向させる。

それで、超音速状態や空気密度の低い高高度でも機動出来るってのがあるんだ」

 

 エラがこの世界でトップクラスの天才というのは、恐らく事実だ。

 なにせ、この程度のヒントを与えるだけでも彼女はとんでもない正解を引き寄せてしまう。

 

「……推力の向き自体を変えれば、機動性が発揮できる」

 

 彼女が持たないのは大筋のイメージだけで、詳細を詰める作業は脳内だけでビシビシ進んでしまうのだ。

 

「……リールランドが推力偏向で垂直離着陸(VTOL)やってたっけ。

あんな発展性のないギチギチ設計は参考にならないけど……」

 

 推力偏向によるVTOLといえば、現実でいうハリアーが該当する。

 胴体両側面のエンジンノズルから生じる推力で飛ぶ機体だが───

 今それは関係がない。

 

「パドル、パドルかぁ……強度の問題があるけど、確かにクリアできれば……」

 

 良介は一度も口にしたことはないが、錬金術で錬成される物質は、かなり高品質なものが多い。

 エラ曰く錬成する人間、錬金術師の才覚が強く求められるとの事だが、彼女が錬成するのなら───強度問題は恐らくクリアできるだろう。

 なにせ、ヤスリで削った粉から、F-2のボディに使われている素材を正確に解析・再現した実績があるのだから。

 

「うん。今回の案件が終わったら、試してみようかな」

 

 メモにアイデアを記入し終えたエラは、寝転がったまま良介を向いた。

 ドレスがシワになりそうな動きだったが、恐らくその辺りも錬金術でどうにかなっているのだろう。

 

「ちなみに、今回の案件って?」

 

「あなたの機体、F-2に積んであったエンジンの再現。

実証機このために組むのも面倒だから、

物は良かったけど出力不足で本社で埃かぶってた機体と、

あとリトル・バーグフにも組み込んでみようかなって思ってるの」

 

「リトル・バーグフ……五式戦闘打撃機、あのF-5もどきか」

 

 そこまで言って、ふと良介は気付いてしまった。

 F-5っぽい機体のエンジンを強化する。

 

「……どっかで聞いたような話だぞ」

 

「バーグフには大き過ぎるエンジンだから、単発化しなきゃね」

 

 エンジンが強化・単発化されたF-5。

 

 あの時代の機体が大好物な哲也が聞けば、涙を流して乗りたがったことだろう。

 

 哲也。

 その名前を想起して、良介は彼の安否に思いを馳せた。

 

 果たして、これから彼はどうなるのか。

 良介の予想が正しければ───

 

 日本に帰れば、彼は2度と空を飛べなくなるだろう。

 

 暗いことを考えても、栓のないこと。

 それよりも、もう少し建設的なことを考えるべきだ。

 

「……それもそうだな。エラちゃん! このあとヒマ?」

 

 だからといって、ナンパをしろとは言っていないぞ。

 

「ええ。もう……あ、待った。ひとつだけ、忘れてた」

 

 すると、ゴロンと一回転して、エラは茶室の隅っこに置かれた大きな釜に這いずりながら向かった。

 これは錬金釜と呼ばれるもので、錬金術の基礎的な器具らしい。

 

「どうかした?」

 

「あなたの上司(・・)から依頼。可動機構に魔力不使用の、特上の義足を

造らないといけないの。時間掛かるから、お茶したいなら他の人を誘って」

 

 そんな事を言われて、はいそうですかと言えるほど、良介は冷酷になれなかった。

 

「……手伝える事があるなら、手伝うよ」

 

「とりあえず素材箱取って。金属系と樹脂系、それと媒体6-4を」

 

「オツケイ」

 

 果たして、彼の決断が吉と出るか凶と出るか。

 その答えを確かめるためにも、良介はエラの手伝いに時間を費やすことにした。

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