蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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50 鷹狩作戦「Stowaway」

央暦1969年7月30日

夷俘島 斗米空軍基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 斗米基地の作戦室には、基地司令の宗治郎と山義歳三をはじめとした新選組の面々。

 そして、空知竜司と鈴木哲也。

 見慣れた新しいメンツを加えたペンギン中隊も着席していた。

 

「しむすけ、遅いぞ」

 

「ごめんごめん、大事な用事があってさ」

 

「……また、女性絡みでしょう?」

 

「ひ、人聞きが悪いな。ただお手伝いをしてたんだよ」

 

「否定出来てないぞ」

 

 良介は会釈してペンギン中隊2名のそばに着席すると、司令官に向けて続きを促した。

 

「よし。それでは、本作戦の概要を説明する」

 

 部屋の照明が落とされると、奥葦原南東の地図が映し出された。

 そこは政府側支配地域、前線から遠く離れた後方である。

 

「幕府軍の面々も知っての通り、奥葦原は山岳地帯が多く陸路での大規模輸送は困難を極める」

 

 我々からすれば、東北の道路事情と重ねればわかりやすいだろう。

 奥葦原は奥葦原山脈によって東西が分断され、さらに高原地帯も多く輸送に関しては苦労しそうな地形をしている。

 山間の盆地を通ろうにも、どこかで険しい山が輸送路を寸断する。

 

 もちろん、幕府はかつて輸送目的でも利用可能な高架道路を整備していた。

 しかし幕府軍撤退の折に爆破され、奥葦原軽視の傾向のある政府の下では復興も行われず、未だ瓦礫の山である。

 さぞ、現地の人々は迷惑をしているだろう。

 

「故に、賊軍は海路を中心に輸送網を構築していたが、先の先湊陥落を機に海軍が輸送網を攻撃。その規模は目に見えて縮小している」

 

 幕府海軍は潜水艦を用いて輸送船団を攻撃し、潜水艦を攻撃する哨戒機は空母艦載機が追い払うという運用をしていた。

 どうも政府軍主力は西南、合衆国との国境に貼り付けているらしく、幕府側は数が少ない二線級の部隊を対峙させていた。

 

 内戦は間もなく終わり、次が来る。

 そういう事なのだろう。事情は変わりつつあったが。

 

「これに業を煮やした賊軍は西南から戦力を引き抜き、後に到着する部隊のために輸送機を用いた大規模輸送を行っている。我々は、そこを突く!」

 

 空路を用いた大規模輸送は、ハッキリ言って現実的ではない。

 陸路と違って、航空機の操縦には高等技術が必須。トラックを運転出来ればどうにかなる手軽さがない。

 海路は空路と同じく、特定の立地でなければ輸送不能な点は同じだが、一度に運べる荷物の量が桁違いだ。

 

 空路の場合、一度の輸送量が少なく、従事出来る人間の絶対数が少なくなる。

 大真面目に陸路や海路と同じ量を運ぼうとすると、従事する要員の負担が半端ではないのだ。

 

 燃料と部品の不安がほぼ存在しないこの世界ならではの強行軍。

 さぞ、輸送機のパイロットと整備隊は疲労困憊しているだろう。

 

「ねえ、その情報確かなの? 空路で大規模輸送って、現実的じゃないと思うんだけど?」

 

 良介が挙手して尋ねると、新選組の一部が「話をややこしくするな」と言わんばかりに渋顔を浮かべた。

 一方の宗治郎は頷いた。

 

「いい着目点だ……賊軍、政府と名乗る連中は夷俘での戦況が芳しくないと知れ渡り、民のために具体的な解決策の提示を迫られた。故にこれは、報道されている解決策となる」

 

「なるほど、政治マターね。どうも、理解した」

 

 政府側の意思決定層がどのような顔ぶれかは良介も詳しく存じ上げないが、いかにもな「素人の思いついたスゴい解決」感の正体を掴めた。

 

 機械は良くとも人には良くない。

 突くまでもなく、自然崩壊するかもしれない。

 空輸は下の状況をある程度無視出来る利点はあるが、万能ではないのだ。

 

「この作戦の肝は、補給線のみにあらず。そういうわけか」

 

 新選組隊長、歳三は静かに頷いた。

 すると、新選組の面々は感心したように続いて頷いた。

 

 彼らは夷俘飛行学校から引き抜かれた元学生、だったか。

 歳三は教官も務めていたという話なので、彼個人に心服しているのだろう。

 

「さて、疑問を解消したところで詳細に移る。賊軍は物資収束拠点を道奥(どうおう)智台(ちだい)に設置した。そこへ葦原各地から物資を集め、小規模飛行場への空輸や、困難なチリの拠点には空中投下を行っている」

 

 道奥藩といえば奥葦原の南端。

 葦原首都武陽(ぶよう)のある東国地方の目と鼻の先である。

 

 そこは文字通り最前線から遠く離れた後方。

 いくら政府側が幕府に対して大した戦力を割いていないとしても、まともな手段では到達することすら困難だ。

 

「待った! どうやってそこまで行くつもりなんだ? 前線を突破しろなんて言わないよな?」

 

 たとえ海側を迂回するにしても、葦原海側は超帝国を睨む政府海軍艦が哨戒している。

 果ての海はあの嵐雲が常時漂う危険地帯だが────

 

「……あ、果ての海か」

 

「その通り。果ての海は度々雲の壁からはぐれた雲が漂う危険地帯。賊軍の海軍戦力は極少数だ」

 

 宗治郎の自信満々な発言を聞いて、新選組の面々は騒然となった。

 当然だ。果ての海にそびえ立つ雲の壁は、最大風速100メートルにもなる危険な嵐だ。

 近づくだけでも、危険なフライトになる。

 

 しかしここにふたり、例外がいる。

 

「鎮まれ! ……俺は、あの雲を飛んだことがある。彰義隊隊長、チェイスが穿った雲の穴をな」

 

 歳三の低音ながらよく通る声で、新選組の新米たちが静まり返った。

 春川親王を救助した際、戦闘に参加した新選組隊長の逸話は様々なメディアで報じられていた。

 本人が口にして、彼らも思い出したのだろう。

 

「俺たちも……果ての雲を、抜けるのか?」

 

「そうだ。果ての海からはぐれた雲に隠れ、敵の封鎖(Blockade)を迂回し、攻撃する。貴官らも、立派な幕府軍……彰義隊の一員だ。世界初の、果てを飛び抜けて戦った武士になるのだ」

 

「おおっ!」

 

 宗治郎の発破で、若造たちは色めき立った。

 厳密には、雲を抜けたうえで戦ったのは良介ら三名だが───あれは突発的な戦闘で、作戦として遂行されたものではない。

 少し怪しいが、間違いではないだろう。

 

「幕府軍の八咫烏……第一中隊が君たちを導く先導となる」

 

 すると、一同の視線が一斉に良介らへ向けられる。

 望んでいるわけではないが、反攻作戦の礎になってしまったのだ。

 

「ふふん、俺様に任せておけ」

 

 前線の指揮官がビクビクしているよりも、堂々としていた方が従う側としては安心できるだろう。

 良介はわざとらしく胸を張って宣言すると───

 

「おおおおっ!」

 

 どっと場が沸き上がり、割れんばかりの歓声が上がった。

 

「……こ、ここまで盛り上がるもんか?」

 

「当たり前だ。こいつらはまだ100時間も飛んでない新米揃いなんだ」

 

 最近まで新選組隊員の教官をしていた哲也は、良介の呟きに付け加えた。

 空自の場合、戦闘機乗りは1年間で約140時間飛ぶとされている。

 総飛行時間100時間未満ならば、まだ戦闘機乗りどころか訓練生としても未熟だ。

 

 実戦経験者だとしても、不安が多いに違いない。

 

「志村殿。あなたは今や、幕府にとっての希望なのです。自覚は湧きましたか?」

 

 追い打ちと言わんばかりに、もうひとりの新米(・・)である竜司もそう告げた。

 彼女は良介の飛び方に追従できる数少ないひとりだったが、彼女も同じく100時間に届くか届かないか程度の新入りなのだ。

 

「総員、鎮まれ!」

 

 盛り上がっていた新米たちを歳三が一喝する。

 崩壊したクラスと違い、彼らは一瞬で口を閉ざして居住まいを正した。

 

「諸君。盛り上がるのは結構だが、もう少しだけ話を聞いて欲しい」

 

 そう、まだまだブリーフィングは終わっていない。

 移動手段が明示されただけで、現地で何を狙うべきかの詳細が聞けていないのだ。

 

「現地で狙うべき主な目標は葦原で一般的な11式輸送機……それに、かつて幕府軍が運用し、賊軍が鹵獲運用している130式輸送機『パラシュラーマ』だ」

 

 スクリーンに映し出されたのは、双発の輸送機───政府軍が運用していた爆撃機の基となった機体だろう。

 もうひとつはC-130とよく似た4発の輸送機だった。

 

「パラシュラーマは11式より胴体が太い上に、4つの原動機(エンジン)を持ち搭載量・速度共に優れた合衆国製の機体だ。敵輸送網の破壊という今作戦の主旨として、この機体の撃破を最優先せよ」

 

 パラシュラーマは高性能な代わりに自重も重く、離着陸できる滑走路は軍用に設計されたものに限られていた。

 かつては幕府軍が持っていたものだが、敵が使う以上は優先的に排除するのもやむなしという考え方だろう。

 

「この他、少数ながら直掩機や迎撃機の存在も想定される。第一中隊『ペンギン』はこの戦力に対応。第二中隊『新選組』は輸送機の排除を優先せよ」

 

 幕府軍の戦闘能力トップクラスのペンギンを直掩に当たらせ、新米揃いの新選組には攻撃能力皆無の輸送機攻撃を命じる。

 無抵抗なのをいい事に人殺しの経験を積ませるようで良介の気は乗らなかったが、戦争である以上はやむを得なかった。

 

 ここで殺さなければ、後々積み荷に自分や仲間が殺されるのだ。

 

「また、今作戦には早期警戒(AEW)機の代替として幕府海軍所属機も参加する。こちらは自衛用に最低限の武装を装備する予定だが、任務の性質上積極的な参加は不能だ。留意するように」

 

 幕府海軍所属機で武装できる機体といえば───

 先湊攻略戦にも参加した、あのF-4に似た機体だろう。

 F-4とはいっても可変翼を搭載した、なんだかすごく変な機体だが。

 

「現地の状況が不鮮明な以上、こちらからの支援はほぼ不可能で、臨機応変に対応してもらう必要がある。各員の武運を祈る、以上。……質問がある者は挙手せよ」

 

 今まで散々良介が突っ込みを入れてきた以上、疑問点を持つ者はいなかった。

 

「よろしい。決行は3日後、8月2日とする。詳細は追って知らせる。解散」

 

 この作戦室の中で暇をしているのは、良介ひとりくらいなもの。

 ぞろぞろと人々が退出していく中、思考の中にあった疑問が口からこぼれ出た。

 

「……敵支配地域に密航(Stowaway)して抵抗できない輸送機を叩き落す、か」

 

「やはり、気が乗りませんか?」

 

 新選組に続いて退室しようとしていた竜司が足を止め、振り返った。

 誰かに聞かせるつもりのない独り言だったが、聞かれてしまった以上は仕方がない。

 

「ボイコットするわけじゃないから、心配しなくても大丈夫だよ」

 

「志村殿なら……抵抗できない相手を攻撃するのを、嫌がると思いましたから」

 

 彼女は再び戻ると、良介の隣に腰掛けた。

 あまりこの手の話を深くするつもりはなかったが、逃げるのもおかしな話だ。

 

 女好きが服を着て歩いている良介にしては珍しく、気後れしながら竜司と視線を合わせた。

 

「輸送だって戦争の一手段。やる事はちゃんとやるよ」

 

「はい、存じています。志村殿は割り切れると。ですが……心を痛めるのは、また別の話です。あなたは優しい方ですから」

 

 やはり、真面目な雰囲気は苦手だ。

 

 確かに竜司の指摘は事実なのだろう。

 しかしそれをされると良介は───恥ずかしくなってしまうのだ。

 

「もしかして俺、口説かれてる?」

 

「もう! またそうやって誤魔化して……恥ずかしいのでしょうから、手短にお話しします。おひとりで、抱え込み過ぎないでください。微力ながら、私たちもいるのですから」

 

 まったく。彼女は本気でお前の事を心配しているのだ。

 日本一のナンパ野郎が、女の子を不安にさせていいと思っているのか?

 

───うるさいな、わかってるよ。

 

 彼女の心遣いに報いるためにも、良介は笑顔で立ち上がった。

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