蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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58 声東撃西作戦「When the cat's away」

「When the cat's away」

央暦1969年8月14日

北部藩 石射平野

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 果ての雲ではない、単なる雨雲を通り抜けると。

 通信機が既に戦闘を開始している味方の交信をキャッチした。

 

「こちら精兵隊! 敵陣の守りは極めて強固!

近衛軍に被害が出ている!」

 

 仮にも相手は国土の大半を確保している勢力だ。

 やはり、真正面からの戦いでは勝てない。

 

「新選組だ。作戦区域北部で敵部隊と交戦。

現在は補給のため撤収中、敵もまた同じく。

……油断するな、連中は手練だ」

 

 今度は新選組。

 作戦区域の航空優勢は確保出来なかったが、敵部隊に消耗を強いる事には成功したらしい。

 タイミング的には───チェイスらペンギン隊は、帰還中の彼らと遭遇する可能性が高い。

 

「イグルベ中隊がカビエシより報告。間もなく、上巻城に接近する。

幸運を祈ってくれ」

 

 これで、傭兵部隊が陸の増援を押しとどめてくれる。

 まさしく計画通りの、最高のタイミング。

 

 この作戦の成否はまさに、ペンギン隊に懸かっているのだ。

 

「こちら近衛軍第一挺身(ていしん)隊……いまそちらの姿が見えた」

 

 機体を降下させると、今まさに谷へ飛び込まんとする近衛軍の空挺部隊、第一挺身隊のヘリが目に入った。

 タンデムローター、つまり頭と尻に大きな上向きのプロペラ2つを持つ大型のヘリコプター。

 日本でいうチヌークに近いシルエットと能力を持った機体である。

 

 彼らは航空機を殺すことに特化した、この世界で唯一の無人機が待ち受ける谷に飛び込まなくてはならないのだ。

 

「……言うまでもないけど、阻塞(そさい)気球の事だぞ」

 

 多少人が乗っている物も混じっているかもしれないが、事実ではないか。

 低コストで、特定任務の遂行に特化した人の搭乗を必要としない航空機。

 まさに、無人機だ。

 

「はいはい、そうだな。こちらペンギン隊、今そっちの上空を通過する。

谷に入り次第、電子戦(ECM)攻撃を始める。何か言いたいことは?」

 

 この世界の無線通信は、F-2が搭載しているECM能力で簡単に無力化が可能だ。

 しかしそれは、敵だけでなく味方のものも無差別だ。

 故に、連絡があるならばECMの妨害を始める前に通達する必要があるのだ。

 

「そうだな、しっかりと掃除を頼む」

 

「了解、超特急でやっちゃうぜ……ECM電子戦、攻撃開始!」

 

 谷に入ると同時に、チェイスはECM装置を操作して最大限の妨害を開始した。

 これで少なくとも、谷を警備している部隊は無線通信が不能になる。

 

 もしかすれば、レーダーで監視している部隊が異常を報告するかもしれないが。

 別方向から攻撃されている状況では、それどころではないだろう。

 

「頼むぜ、ふたりとも……こんなところで死んだら、家族に返せないぞ」

 

 チェイスは自分のすぐ後ろを飛んでいるであろう、竜司とボスに思いを馳せた。

 谷での気球掃討を終えるまで、無線封止を強いられてしまう。

 

 この外と隔絶された機内では、無線が使えなければコミュニケーションはほぼ不可能。

 ましてや、1秒水平飛行を続けるだけで激突する谷での飛行。

 視線を向ける事すら不可能だった。

 

「さあ、第一村人発見!」

 

 左右に並ぶ頂上の辺りを浮かぶ気球がチェイスの視界に入った。

 聞くところによれば、気球は可燃性ガスで浮遊する所謂ガス気球。

 

 穴が開けば容易に墜落する。

 墜落しなくとも、ガスに引火して爆散する可能性が高い。

 ミサイルを使うまでもなく、GUNで対処可能だった。

 

「ターゲットロック……」

 

 夜間であれば絶望的だが、気球の下にはワイヤーが伸びているのが目視できた。

 これに触れれば、どのような機体も一発アウト。

 

 ほとんど動くことのない相手に本来不要だが、万全を期してチェイスは機体のFCSに最大限のレベルで捕捉させた。

 

 円形の照準器(ピパー)がHUDに浮かび上がり、気球のシルエットと重なった。

 一瞬だけ引き金を絞り、数十発の砲弾を放つ。

 

 曳光弾が球皮(エンベロープ)を貫き、穿たれた穴から空気より軽いガスが抜けていく。

 浮揚する術を失った気球は重力とワイヤーの質量に負け、地面へと引きずり降ろされていった。

 

 もしこの世界の重力にバグでもなければ、これで万事解決である。

 

「まだまだ、たくさんあるぜ」

 

 旋回して岩壁の死角を伺うと、似たような気球が見えるだけでも数十。

 上下左右、様々な位置に確認できた。

 これを一度の航過(フライオーバー)だけで殲滅するのは厳しい。

 

 だからこそ、仲間を信頼する必要があった。

 

 念のため、ある程度の役割分担は決めていた。

 チェイスが最も危険な低空の気球を排除し、二番目に危険な中部をボスが担当。

 最も飛行時間の短い竜司が、上部を漂う気球を狙う事となっていた。

 

 狭い谷を右へ左へと旋回し、球皮に狙いを定める。

 これほど無茶な作戦を実行したのは、やはりチェイス達ぐらいなものだろう。

 あるいは、LRSSGか。

 

「うおっ」

 

 突如、目前で浮力を失った気球の残骸が過ぎ去った。

 もちろん、これに当たってもただでは済まない。

 地面に落ちるその瞬間まで、阻塞気球は脅威であり続けるのだ。

 

 文句を言う余裕も、手段も。

 この空では不足していた。

 

 今は目前の気球を叩き落さなければならない。

 回避のために急減速・旋回した機体を立て直し、チェイスは再び攻撃に戻る。

 

「少なくとも、俺は今ラプター乗りを越えたぞ……」

 

 物は言いようというやつだな。

 気球の撃墜数に限る話ではないか。

 

 そんなバカを話しているよりも、一瞬だけでもミラーを確認しろ。

 岩壁の陰から、後続のヘリが姿を現したぞ。

 

「よし、作戦は進行中だな」

 

 基地や飛行場を制圧するのは、チェイスら航空機には出来ない事だ。

 彼らがいなくては、作戦が前提から崩壊してしまう。

 

 本命の無事を確認し、引き続き安全のために正面に目を凝らす。

 自分が壁に激突するのはもちろん、気球を見逃すのもNGだ。

 

 何かひとつ、集中を欠かせば誰かが死ぬ。

 細心の注意を払い、攻撃しなくては。

 

 少なくともチェイスが8基の気球を撃墜した時、視界の隅を横切る光に気づいた。

 

「くそ、曳光弾だ。地上の歩兵が撃ってきてるな」

 

 その光の大きさと数から、チェイスはこれを歩兵が持つ小銃から放たれたものだと分析した。

 まず当たりっこない速度と距離はあるが、やはり自分を殺し得るものが自分に向かって飛んできているという事実は著しく注意を乱すものである。

 

 たとえ、修羅場を潜り抜けてきた人間でも。

 だからこそ、自分を殺すものに注意を向けてしまう。

 

 チェイスは先ほどのトラブルで部隊の最後尾に位置していたが、前方2機の後方に一本のワイヤーを発見した。

 

「誰かが見落としたな」

 

 犯人探しや、糾弾をしている場合ではない。

 折悪くそれは谷が狭くなっているところに浮かんでいて、ヘリのローターが接触する恐れがあった。

 

 やれるのは、お前しかいないぞ。

 

「わかってるよっ」

 

 さすがのF-2でも、ぴんと張られたワイヤーを捕捉は出来ない。

 漏斗(ファンネル)状の照準器で狙いをつけ、ほぼ目測で地表のワイヤー接続部を狙う。

 

 その周辺には動く人らしきものがあったが、やるしかない。

 接続部周囲に照準を合わせ───発砲。

 

 ガァン! 機体に小さな衝撃と異音が響く。

 

「くそっ!」

 

 マスターコーションは何も言わなかったが、嫌な予感がした。

 

 異音は気になるが、肝心なのは戦果だ。

 ミラー越しに背後の上方を睨むと、ゆっくりと浮かび上がっていく気球の姿が映し出されていた。

 

 想定していた解決ではないが、除外するという目的は果たしている。

 問題は排除されたわけだ。

 

「ふぅ、危なかった……機体に問題はないよな?」

 

 右の隅にある警告灯を一瞥するも、これといった警告はない。

 強いて言うなら、高度に関する警報くらいである。

 

「多分、小銃弾食らったんだよな……

ああ、また機付長にどやされちゃうな」

 

 あの状況を鑑みれば、そう考えるのが妥当だろう。

 速度と固さはあるが、質量とサイズが小さい分、鳥と激突するよりはマシか。

 

 なんにせよ、機体が問題を提起していない以上は問題ないと判断せざるを得ないだろう。

 それよりも今は、地形に激突しないように飛行する方が肝心だ。

 

「わかってる、よっ」

 

 緩やかな右カーブの直後、左に急カーブ。

 どこかで聞いたような初見殺しをいなすと、谷はようやく終わりを告げる。

 

 北部藩の山間部に広がる石射平野。

 そこにはもう、空を遮る阻塞気球の姿はなかった。

 

「無線封止解除! 全機、状況は⁈」

 

 F-2のECMを解除し、周囲に呼びかける。

 

「ペンギン3、健在だ」

 

「ペンギン2。こちらの不手際で、申し訳ございませんっ」

 

 ペンギン2、竜司が言っているのはあの取りこぼした阻塞気球の件だろう。

 今は叱責するべき状況ではない。

 別に、後でするというわけでもないが。

 

「その話はあとにしよう。挺身隊、状況は?」

 

「もういいんだな? 小銃弾が何発か機内を貫通したらしいが、被害なし!

まだまだやったるぞ!」

 

 ヘリパイロットが告げた言葉の背後で、威勢の良い歓声が聞こえてきた。

 どうやら空挺部隊の戦意は全く衰えていないらしい。

 

 彼の意気が挫かれる前に、こちらも任務を果たさなければな。

 

「そうしよう……おっと、RWR」

 

 レーダー警報装置(RWR)が不明な電波放射源を捉えた。

 この状況ならば、敵のレーダー車両と見て間違いなかった。

 

「こちらペンギン1、レーダー波を検知。方位255(西南西)、道を拓くぞ」

 

 レーダー車両が単独で行動しているはずがない。

 周囲には間違いなく対空兵器が稼働状態でいるはず。

 

「チェイス、敵のSAMはこっちを捉えてるはずだ。

目視より早く攻撃を探知できるのはお前だけだ。集中を欠かすなよ」

 

「わかってるよ。こっちが注意を逸らす、攻撃は頼んだ」

 

 防空網破壊、SEAD任務では誰かが囮となってミサイルを誘引し、残りが発射機やレーダー車両を無力化するのが一般的だ。

 残念ながらこの世界に対レーダーミサイルはない。

 目視で対空アセットを発見し、攻撃する必要があった。

 

 レーダー車両と思われる放射源に向かうと、突如別方向から放射源が現れた。

 この走査間隔は間違いなく、ミサイルを誘導するための誘導レーダー(イルミネーター)だ。

 

「SAM来るぞ! 頼んだ!」

 

 方位340(北北西)で白い煙が打ち上げられた。

 あれこそが発射機から打ち上げられた地対空ミサイル(SAM)

 戦闘機はもちろん、ヘリが狙われればひとたまりもない精密誘導兵器だ。

 

 チェイスは急旋回し、北北西の真逆である方位160(南南東)に機首を向けてからチャフを散布した。

 RWRの反応があるのならば、相手は間違いなくレーダー誘導。

 イルミネーターに尻を向け、チャフでレーダー波を乱反射させて誘導を撹乱するのだ。

 

 しかしそれでも、万全の対策ではない。

 ミサイルの挙動を乱しながらも、徐々にその距離は狭まり。

 ブースターでの加速が終わったミサイルがチェイスの背後に迫った。

 

「今だっ」

 

 ただでさえ1000(305)フィート(m)以下の低空で、チェイスはあえて高度を下げた。

 砂利道の砂埃を巻き上げながら地上スレスレを飛行し、チャフを撒いて急上昇。

 

 加速が終わり、慣性で飛翔するしかなくなったミサイルは目標を見失うと同時に、上昇するだけの運動エネルギーを失い。

 耕作中の田んぼに突き刺さり、爆散した。

 

「農家の人ゴメン!」

 

 名も知れぬ農民に謝罪し、ミサイルの飛んできた方向へ視線をやる。

 

 その時には竜司のオロールが光を吐き出し、地上で大爆発が起きていた。

 

「こちら竜司、地対空誘導弾を破壊!」

 

「いいぞ竜司! こちらボス、周囲にSAMの気配はないぞ」

 

 ボスが報告するというのも不思議な気分であったが───

 

 ともかく、後方であるこの土地に防空兵器を割く余力はあまりなかったらしい。

 ペンギン隊は再集結すると、行き掛けの駄賃と言わんばかりに残る捜索レーダーとイルミネーターを破壊。

 目的地である石射飛行場に進路を取った。

 

 そして───F-2のレーダーが機影を探知した。

 

 9つの機影。

 新選組との戦闘で疲弊した、石射飛行場に所属する部隊だ。

 

「レーダーで探知。帰還中の部隊だ」

 

「だまし討ちのようで気に入りませんが……やりましょう」

 

 電子戦攻撃はしていないため、敵も石射飛行場経由でチェイス達の攻撃を悟っているはず。

 既に残弾が尽きているであろう彼らからは、針路を変更する気配が一切なかった。

 

 真正面からぶつかり合う気なのだ。

 

「さあどうする? 連中、結構数が残ってるぞ」

 

「やるしかないだろ? それに、向こうは一度やり合った後……いいハンデだ」

 

 卑劣ではあるが、まだ死ぬわけにはいかない。

 チェイスはミサイルの誘導装置(シーカー)を起動させると、発射準備に入った。

 彼我の距離が縮まり、やがてHMDに敵影のコンテナが投影された。

 

 シーカーにこの目標を指定させ、ロックする。

 やがて、回避のしようがない距離に接近する。

 

 ここでチェイスは仕掛けた。

 

「攻撃開始! ペンギン1、FOX2!」

 

「ペンギン2、撃つ!」

 

「ペンギン3、FOX2!」

 

 F-2の主翼から4発のミサイルが飛翔した。

 これはいまF-2が持つ対空ミサイルのすべてだ。

 

 着弾を見届ける前に、チェイスは常識的な戦術を選んだ。

 ミサイルに尻を向けて逃げ出す。

 いわゆる、ドラッグ機動だ。

 

 ミサイルという優位がある以上、積極的にGUNで戦う必要はない。

 数的優位にある敵の土俵で戦う必要はないのだ。

 

「誘導弾!」

 

「おっと」

 

 戦闘後なので、残弾が尽きている。

 それは楽観的な想像だった。

 

 ミラーに一瞬だけ、明らかに戦闘機よりも速い雲が伸びていた。

 少数、ミサイルを残していた敵機がこちらに向けて撃ってきたのだ。

 

 確認出来たのは2発、チェイスとボスを狙っていると見えた。

 

「エンジンが熱い順か!」

 

 チェイスの乗るF-2はもちろん、ボスが駆るドゥンはF-2のエンジンをコピーしたものを搭載している。

 エンジン出力はこの世界でもトップクラスであると同時に、放つ熱量も大きく変わってくる。

 

 熱を頼りに追尾してくるミサイルは、最も強い熱源を追いかけ始めたのだ。

 

「フレア投下!」

 

 チェイスとボスはほぼ同時に、フレアを放って誘導を撹乱した。

 回避機動の最中、ミラーで真後ろに迫るミサイルを見ることは出来ない。

 構造上、真後ろの視界を確保できないためだ。

 

 故に回避を確認するために視線をやるのだが───

 ミサイル以外のものが、チェイスの目に入ってしまった。

 

 戦闘機だ。

 敵は自らミサイルの懐に飛び込み、回避するというチェイスと同じ戦法を行ったのだ。

 

 ミラーにほんの一瞬だが、炎上して制御を失った機体が複数映り込んだ。

 

「注意してください! 敵機は被害をものともせず突っ込んできます!」

 

 竜司から発せられた警告が、目の錯覚ではないと確信させてくれた。

 ミサイルがほぼ尽きた敵は、一矢報いるために無謀な戦い方をしてきたのだ。

 

「まったく……っ!」

 

 着弾する直前にフレアを投下し、さらに急旋回することで回避に成功した。

 次の問題は、背後に食らいついた敵機だ。

 

「ボスっ、死んだっ?」

 

「生きてる……っ! 背後に食らいつかれた!」

 

 旋回しつつ、機体の真下を過ぎ去る曳光弾をかわす。

 するとチェイスから見て右手側、地球から見て真上の方向を過ぎ去るボスの機体が見えた。

 ボスも敵機を振り払うために、最大出力で旋回を続けているのだ。

 

 形としては、意図せぬうちにチェイスとボスが交差するシザーズ機動を繰り返す形になっていた。

 

「くっ……! こちら竜司! 複数の敵機と交戦中、援護出来ません!」

 

「竜司ちゃんは自分の心配を! 俺らは自分でどうにかする!」

 

 ミサイルの数で優っていても、頭数では不利だったのだ。

 もう少しミサイルで減らし、有利な状況で交戦する予定だったが───

 

 自分のやれる事が、向こうにやれない道理はない。

 チェイスの判断は少々甘かった。

 

「これが一戦交えた後とはなっ。若いっての羨ましいな!」

 

 この状況と性格に似合わぬ軽口を、ボスは叩いてみせた。

 戦闘の興奮がアドレナリンを分泌させ、ハイになっているのだろうか?

 

「言ってる場合かよ、死ぬつもりか?」

 

「チェイス、1秒だけでいい……

3秒後に方位075(東北東)、ピッチマイナス10度で降下しろ!」

 

 あれは単なる諦観の言葉などではない。

 その口調からチェイスは確信した。

 

「頼むぜ!」

 

 上方で旋回するボスを横目に、チェイスは時を待った。

 きっかり3秒後、方位075に合わせると左旋回中に機体を真下に向かってロールさせ。

 機体の姿勢を姿勢指示器(ADI)の暗い方にある10へ合わせた。

 

 ミラーに映っていた敵機が内側にある死角へと消えた。

 完全な真後ろ、照準のど真ん中に捉えられた瞬間だ。

 

 真後ろに喰らい付いて、照準を合わせるのに0.5秒あれば十分だ。

 そのうちの0.4秒が過ぎた直後。

 

 曳光弾の線がミラーを横切り、直後ボスのドゥンが背後を過ぎ去っていった。

 チェイスはボスの成功を確信し、機体を立て直して上昇。

 

 命の恩人を狙う敵の後方に張り付いた。

 

「見事な判断と度胸だけど、残念だったな!」

 

 チェイスの追跡(CHASE)に気付いたのか、敵機はボスの追尾を諦めて急旋回を始めた。

 しかし、この男は非常にしつこい。

 

「チェイス、そいつは任せた! 竜司の支援に向かう!」

 

「頼む!」

 

 機体性能に差があり、かつ戦闘後の消耗。

 彼らは実に健闘したが、残念ながら、世の中頑張れば勝てるわけではない。

 これは戦争に限った話でもないが。

 

「もうちょっと、もうちょっとだ……」

 

 完璧な速度調整で追い抜かず振り切られず、じわじわと距離を縮め。

 やがてしっかりとレーダーロックしたF-2は精密な照準をHMDに投影した。

 

「じゃあな」

 

 ピパーが機体と重なった瞬間、チェイスは発砲した。

 20ミリ砲弾が中心部を貫き、黄色の線を尾翼に持つ敵機は炎上した。

 

「やるな……天晴(あっぱれ)だっ、夷俘の魔物さん達よぉ!」

 

 暗号化されていない平文の通信は、間違いなくチェイスの耳に届いた。

 直後、炎上した敵機は爆散。

 発信源からはノイズが走った。

 

「……竜司ちゃん、今行く!」

 

 死んだ者について、思いを馳せている時間はない。

 チェイスは旋回すると、未だ死闘を繰り広げている仲間へ機体を向けた。

 

 竜司は敵機2機に追尾され、なんとか射線から逃れはしているものの、限界が近づいているように見えた。

 ミサイルでの援護は、あったとしても出来ない。

 

 敵機はGUNの射程距離まで肉薄している。

 ミサイルが炸裂すれば、破片で竜司の機体まで損傷しかねない。

 

 ましてや、ミサイルのシーカーも万能ではない。

 熱源を誤認して彼女を誘導してしまえば目も当てられない事態だ。

 

 こちらも同じく、ガン・ファイトを挑むしかないのだ。

 

「チェイス、竜司に近い方を狙え!

こっちのFCSはポンコツだから、どうなるかわからん!」

 

「わかった、後ろは任せた!」

 

 F-2とリトル・バーグフ───60年代クラスのFCSを比べるのは酷というものだ。

 後列はボスに任せると、チェイスは鋭い機動で敵の間に入り込んだ。

 

 後列の敵は間もなくボスの介入に気付いたのだろう。

 大きく旋回(ブレイク)して列から離れ、列に並ぶのはチェイスと敵機、それに最前の竜司となった。

 

 前方の敵機は竜司を諦める気がないらしく、チェイスが背後についても放れようとはしなかった。

 1機でも撃墜して、一矢報いようという腹づもりだろう。

 

 尾翼に黄色い線───隊長機の証を持つ機体は先ほどチェイスが墜とした。

 先ほどまで見せていた冴え(・・)は、もう彼らから失われたのだろう。

 

「竜司ちゃん、そのままだ……!」

 

「はい、信じていますっ」

 

 その期待に応えなくてはな。

 チェイスが列に加わったと見た竜司は、明らかに無茶な旋回を行った。

 

 大きく敵の射線から外れるも、それも一瞬だけ。

 速度が著しく損なわれ、機動するための運動エネルギーを失う。

 

 失速に近い低速状態になった竜司は、まさに容易い的(シッティング・ダック)に見えた。

 死を覚悟し、武功に焦る者には絶好の機会にしか映らなかっただろう。

 

 隙を晒した敵を突かんとした者は、また同じ程度の隙を晒した。

 ここまでお膳立てされて、チェイスが見逃すはずがなかった。

 

 曳光弾の線が敵機の主翼を薙ぎ、文字通り真っ二つに両断した。

 大きく形状が変化した敵機はあらぬ方向へとロールし、地上へと真っ逆さまに墜落していった。

 

「敵機撃墜。竜司ちゃん、被害は?」

 

「ありません……申し訳ありません、チェイス殿。

先ほどから醜態ばかりで」

 

「お互い様じゃないか。俺だって何度も竜司ちゃんに助けられてるんだ。

そういう順番が来ただけだよ」

 

 竜司の無事を確認すると、ボスの方向へ視線をやる。

 彼の技術について、チェイスは他の誰よりも熟知している。

 

 2度の戦闘で消耗し、かつ統率を欠いた相手の背後を取ったのだ。

 遅れをとるはずがなかった。

 

「ペンギン3、撃墜(スプラッシュ)1(ワン)

 

 ミサイルが敵機を砕いた瞬間を目撃したチェイスは、通信機に向かって告げた。

 

「よし。ひとまず、基地に所属する部隊は片付けたな。

チェイス、空挺の位置を確認しろ」

 

「今やろうとしてたっての……第一挺身隊、状況は?」

 

「こちら第一挺身隊、そちらの姿を目視した!

まさか待機しろなんて言わないよな!

俺らが足を止めるのは基地上空だけだぞ!」

 

 目視距離まで接近しているのならば、急いで基地周辺の対空アセットを排除しなくてはならない。

 確か、この世界で携行式対空ミサイル(MANPADS)を導入している軍隊は極小数。

 合衆国で導入されているが、葦原には未だ輸出が許されていなかったはずだ。

 

 ならば警戒すべきは、対空機関砲(AAA)と歩兵の小火器のみだ。

 

「問題ない、そっちが着く前に大体片付けておく」

 

 空から見れば、大抵の生物は米粒同然。

 牛と牛飼い(カウボーイ)の区別すら不可能だ。

 そんな中でMANPADSを警戒しなくて良いのは、少しだけ落ち着ける話である。

 

「ペンギン1からペンギン隊へ、これより基地守備隊への攻撃に移る。

散開して攻撃だ!」

 

 身重のまま飛ぶのはもう終わりだ。

 そう、今の今までチェイス達は対地攻撃用ロケットを積んだまま空戦をしていたのだ。

 

 石射飛行場へ針路を向けると、基地の数ヶ所から砲弾が打ち上げられ始めた。

 

 曳光弾と、空中炸裂。

 機関砲と高射砲の2種類が確認出来る。

 

「こりゃ、輸送ヘリが食らったらひとたまりもないな……

各機、低空飛行で接近せよ! こっちは戦力の把握に努める!」

 

 チェイスはあえて上昇すると、飛行場全体を見通せる高度に上昇した。

 F-2は4発もの空対艦ミサイル(ASM)を搭載出来る、別名対艦番長の名で知られる機体だ。

 そう、4発だ。6発ではない。

 

 それはともかく、なにも艦艇との戦闘だけを考慮された機体ではない。

 対地攻撃も十分に考慮された機体であり、搭載されたレーダーは地上の捜索において高い適性を持っている。

 

 石射飛行場周辺の地形をマッピングし、さらに目標と思わしき物体がマーキングされた。

 どこを狙えばいいのかわかるというのは、あらゆる攻撃において重要な情報だ。

 

「今、目標データを送った。確認出来る?」

 

「竜司です。今情報を受け取りました……未来の戦闘ですね、これは」

 

「俺も受け取った。問題ない、データリンクは機能してる」

 

 エラをはじめとした合衆国の技術者が血尿を垂れ流しながら分析したデータリンクシステム。

 この世界の電子技術が遠く及ばないせいで送れる情報は限られているが、つい最近地上のマップと目標のデータが送信可能になったのだ。

 

 適合改修を受けた機体は極小数なため、幕府空軍全体に似たような事は出来ないが───

 この戦いを優位に進めることは出来るだろう。

 

「手動照準とはいえ、油断するなよ!」

 

 ボスの叱責と共に、チェイスは滑走路周辺の攻撃を始めた。

 高度3000(915)フィート(m)に降下し、FCSをロケットに変更する。

 

 まず使う事はないと座学で教わったが、当時の教官は異世界転移の可能性が頭になかったらしい。

 もちろん、それが当然である。

 

 FCSのソフトウェアに関しては、既にエラの協力によって現在搭載している70mmロケットの諸元が入力されている。

 つまり、F-2はこの世界で最も精密なロケット爆撃が可能なのだ。

 

 彼我の距離が8000(2500)フィート(m)まで迫ると、HUDのピパーに横線が引かれた。

 これが有効射程圏内を示す表示だ。

 

「ペンギン1、ロケット発射!」

 

 ピパーと目標のコンテナを重ねると、発射。

 細い雲が主翼から伸び、間もなく小さな爆発と大きな爆発が起きた。

 言うまでもなく、後者は砲弾の誘爆によるものである。

 

 息をつく間も無く、機関砲の曳光弾が間近を横切る。

 これでも低空飛行をすることで、飛行場の建屋を盾にして減らしているのだ。

 戦闘機乗りの死因の大多数が対地攻撃によるものというのは、間違いないだろう。

 

 バレルロールを行なって死の光をかわしつつ、HUDの照準器からは意識を外さない。

 機関砲の旋回速度が追いつかない機動を行ったまま距離を縮め、チェイスは素早くロケット弾を速射した。

 

 爆発によって砂塵が舞い上がり、銃撃が止まる。

 AAAの類は、大半が操縦者が剥き出しになっている。

 大爆発も起こさずに静まり返るのはつまり、そういうことだろう。

 

「こちらボス。西側の敵は黙らせたぞ」

 

「竜司です。東側の敵勢力、沈黙しました」

 

 チェイスは滑走路の敵を排除した。

 つまり今のところ、空挺部隊が降下可能になったと言うわけだ。

 

「よし。こちらペンギン隊、安全を確保。挺身隊、暴れて来い!」

 

「第一挺身隊了解! しゃあっ、奥葦原同盟の力、見せてやれ!」

 

 とはいえ、脅威が完全に去ったわけではない。

 装甲車両が空挺部隊の前に立ち塞がった場合には、支援する必要がある。

 

 チェイスは葦原の軍事情勢を正確に把握しているわけではないが、基地守備隊が小銃弾程度には耐えられる装甲車と機関銃を持っているのは、航空自衛隊でもお馴染みなのだから。

 

 小銃弾が届きそうにない高度まで上昇すると、ペンギン隊は旋回を始めた。

 チェイスは高性能なレーダーを活かして航空機の接近を警戒し、ボスと竜司は目視で地上を見守っている。

 

「第一小隊は管制塔に! 第二、第三小隊は格納庫を確保!

第四小隊は着陸地点確保だ!」

 

 上空からでは地上の戦闘を見る事は出来ないが、人対人の激戦になっているのは想像に難くない。

 それはもう、血みどろの戦いなのだろう。

 

「こちら第三小隊ッ、格納庫から装甲車が2両出て来やがった!

ペンギン、なんとかしてくれ!」

 

 チェイスが格納庫へ視線をやると、確かに開かれた正面扉から機関銃を搭載した車両が目視出来た。

 あの格納庫はこれから幕府軍も使う可能性のある代物だ。

 なるべく、破壊したくはない。

 

「チェイス、ここは俺が行こう。軽装甲車なら、こいつの20ミリで対処出来る」

 

 純粋な破壊力ならばロケットが勝るが、破壊は最小限にしなくてはならない。

 竜司のオロールは2基の30ミリ機関砲を搭載している。

 彼女の腕を信じていないわけではないが、最小限の破壊に留めるならば、ここはボスが行くべきだろう。

 

「俺はどうなの?」

 

「自分の乗ってる機体を考えろ。この世界で一番高性能な機体だ」

 

 F-2のFCSならば、格納庫内に立てこもった軽装甲車を狙撃することは容易い。

 しかしそれは、指に刺さったトゲを抜くのに遠隔手術ロボを使うようなもの。

 出来なくもないが、目的に対して性能過剰というやつである。

 

「だよね。ボス、頼んだ」

 

 機体を翻し、ボスの機体が低空へと降りて行った。

 

 もちろん、敵の抵抗はこれだけでは終わらなかった。

 続いて報告がやって来る。

 

「こちら第四小隊っ、補給倉庫からいきなり戦車が出てきた!

戦車だッ! 回転翼機隊、離脱しろ!」

 

「くそ、マジかっ。上昇する!」

 

 味方ヘリが報告を受け、ローターの回転数を上げて急上昇する。

 直後、猛烈な空気の流れが砂塵を巻き上げ、飛行場の一角を破砕した。

 

 補給倉庫と言えば、通常ならば雑多な物品が満載されていて、とても戦車など入る余地がない施設である。

 そこに戦車を詰め込むとくれば、よほど中に収めるものがないと見えた。

 

「ペンギン隊! こっちには対抗手段がない、今回も援護頼む!」

 

 第四小隊の声には、どこか聞き覚えがあった。

 しかし、戦車への攻撃となるといまF-2が持つ兵装では火力不足だ。

 

 センサー類や砲身を破壊して無力化は出来るかもしれないが、完全破壊は厳しい。

 戦車が持つ火器は主砲だけでなく、連装銃───主砲の隣に備わった機関銃に、車長用の対空重機関銃だってある。

 

 さらにそこにいるだけで、移動する歩兵の盾になる。

 戦車は存在そのものが、陸では大きな脅威となるのだ。

 

 ここは、チェイス以外が出た方が良さそうだな。

 

「竜司ちゃん、頼める?」

 

「了解、交戦します……補給倉庫は破壊しても?」

 

「中身次第だけど、なるべく避けて欲しい。これからこっちが使うんだから」

 

 爆発で破壊するロケットは、この状況下では使いづらい。

 だからこそ、竜司のオロールが搭載している30ミリ機関砲が優位に働くのだ。

 

 ボスのドゥンが低空飛行し、まずは車両をひとつ排除。

 

 竜司のオロールは倉庫の屋根ごと機関砲で撃ち抜き、戦車に多少の損傷を負わせた。

 

 今手が空いているのはチェイスひとり。

 二度あることは三度ある、この展開は十分に想像できた。

 

「こちら第一小隊、管制塔前の機関銃陣地から猛攻を受けている!

ペンギン隊、支援求む!」

 

「そう来ると思ったよ。こちらペンギン1、今向かう!」

 

 チェイスは降下して件の管制塔前を睨む。

 そこには土嚢で形成された機関銃陣地が見えた。

 

 FLIRで注視すると、陣地の内側では何かを抱えた人間が管制塔と陣地を往復していた。

 彼らは管制塔に機銃の弾を保管し、簡易的な砦としたのだろう。

 

 管制塔はなくとも、最悪飛行場奪取後の運用に大きな支障はない。

 しかしそれでも、円滑な運用のためには必須だ。

 

 高度を下げ、竜司が攻撃中の補給倉庫の脇を通過する。

 頭の中で管制塔の位置を把握し、攻撃の瞬間だけ姿を晒すよう調整した。

 

 このステルス攻撃(・・・・・・)ならば、機銃陣地の迎撃を受けることはない。

 地上の戦闘が聞こえてきそうな低空を数秒飛行し、格納庫と施設の間を飛び。

 

 あの積み上げられた土嚢が現れた。

 HUDに浮かび上がった対地照準モードのピパーを、陣地に合わせる。

 そして、掃射。

 

 コンクリートが粉砕され、粒子状になったそれが舞い散った。

 続いて迎撃と衝突を避けるため急上昇。

 

 翼のしなるようなハイG機動。

 

 ガッコンッ。

 右の主翼から、凄く嫌な音がした。

 

「警告、右補助翼(エルロン)破損」

 

「おいおい待て待て待て……」

 

 右エルロン、主翼にあるロールのための部品の破損。

 マスターコーションの告げた損傷部位へ視線をやると───確かに。

 右のエルロンは忽然と姿を消していた。

 

「あの時の被弾だよな……」

 

 阻塞気球の接続部分基部の攻撃を行った際、機銃か小銃かで被弾していた。

 それが先ほどの空戦でダメージが蓄積し、先ほどの急上昇で限界を迎えたのだ。

 

 なんにせよ、今は非常事態だぞ。

 最新のフライ・バイ・ワイヤがある程度の損傷を考慮した飛行をしてくれて助かったな。

 さもなくば今頃、お前は地面と一体化していただろう───

 

「こちらペンギン1、チェイス。緊急事態(エマージェンシー)を宣言する」

 

「チェイス殿、状況はっ⁈」

 

「さっき小銃弾を食らった影響で、右エルロンが脱落した。

まだ飛行は出来るけど、戦闘は不能」

 

「チェイス。直掩は俺らに任せて、お前はここに降りろ」

 

 仲間が頼りになって、誠にありがたい限りである。

 明らかに不安定になった機体を操縦し、南へと向かう。

 

「こちら第三小隊! 格納庫の安全を確保!

彰義隊のチェイスへ、滑走路の確認を行うから待っててくれ!」

 

 先ほどチェイスが滑走路周辺で敵対空兵器を破壊しまくった直後だ。

 それはもう、滑走路には残骸やら石ころやら、異物が転がっていることだろう。

 

 エンジンがそれを吸ってしまえば、最悪降りた瞬間に爆散もあり得る。

 飛行機とは、一歩間違えば死ぬ危険な乗り物なのだ。

 

「助かるよ、第三小隊」

 

「気にするな! あんたのやった事と比べれば些事ってモンだ!」

 

 調子に乗るな、志村良介。

 お前がやった事は、彼らからすれば英雄的な行いかもしれない。

 しかし、人間は些細なことで手の平を返す。

 

 他人に対する過剰な期待は、反転した時に最も強い憎悪を生むのだ。

 

「……わかってるよ。ギアダウン、着陸態勢に入る」

 

 ファイナル・アプローチに入り、滑走路を正面に睨む。

 滑走路上では豆粒大の車が南から北へ、すごい速さで走っていた。

 大雑把な確認だが、一秒でも早く着陸しなくてはならない現状では仕方がない。

 

 彼らに致命的な見落としがない事を祈りながら、後輪を接地させる。

 そのまま徐々に減速させていき、前輪も接地。

 

 地上滑走でさらに速度を殺し───やがて、機体は静止した。

 

「ふぅ……こちらペンギン1、着陸に成功した。でも、これからどうするかね?」

 

 F-2のエルロンが破損。

 修復は不可能ではないが、それが可能なのはこの世界最高の知能と錬金術を持つエラにしか出来ない。

 

 つまり、この最前線となった飛行場では無理という事だ。

 この地へ来たのは斗米基地の整備隊だけで、部品まで持ってくる余裕はないのだから。

 

「こちら第一小隊。ペンギン1、管制塔からそちらを視認している。

ひとまず、えーと……適当な誘導路から駐機場へ向かってくれ」

 

 近衛軍の空挺も、ある程度知識のある人員を連れているとはいえ、この飛行場を熟知しているわけではない。

 かなり大雑把な指示に従い、チェイスはF-2を石射飛行場の駐機場まで引っ張って行った。

 

 すると、見覚えのある面々がチェイスを待ち受けていた。

 機体を完全に止めると、機付長がタラップを駆け上ってチェイスに叫んだ。

 

「おい良介っ、無事か⁈」

 

「ああ、俺はね。でもこいつは……ごめん」

 

「このくらい、合衆国の御令嬢から部品を受け取ったらいくらでも直せる。

……最高級の部品は、なかなか替えが利かないからな」

 

 視線を滑走路にやると、燃料に不安のあるボスがドゥンを接地させていた。

 彼も間もなく、こちらへやって来て補給を受ける事だろう。

 

 さて、機体がなくなったと言い訳をしてこの基地に居座るか?

 

「……ここであぐらをかいてたら、女の子に失望されちゃうな」

 

 何か手段を考えなくては。

 チェイスも機付長に続いてF-2から降りると、周囲を見渡した。

 

 すぐ目前には、輸送機も入りそうな格納庫。

 開かれた正面扉にはボスが破壊した軽装甲車。

 その奥の暗がりには、見覚えのあるシルエットが見えた。

 

「……おい、良介。良介っ、どこ行くんだ⁉」

 

「赤の塗料探しといて! それで、あいつの主翼を日の丸に塗り替えて!」

 

 良介の指さす先。

 そこにあったのは、先ほど交戦した敵中隊と同じ機体。

 

 豚の鼻のような、大きなエアインテークを機首に持つ戦闘機。

 

 P-100 サォ・ダール。

 タルワール、葦原でいう旭光を更新する目的で開発された機体だった。

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