蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~ 作:サークル『熊の巣穴』
央暦1969年8月19日
北部藩 石射飛行場
葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
奥葦原にいる航空戦力の大半が、この小さな石射飛行場に集まっていた。
この航空戦力とは、空軍に留まらない。
海軍の陸上機や、空母艦載機まで。
小さな飛行場の格納庫はほとんど満載となり、少なくない数が外の駐機場に留められた。
考えるまでもなく、この奥葦原での戦況を決定づける作戦が行われようとしているのだ。
そして最も広い空間となる第一中隊の格納庫にて、その作戦会議が行われようとしていた。
「2日後、道央藩智台の奪還作戦を執り行う」
海軍参謀の言葉に、小さなどよめきが起こった。
奪還する場所、智台に関しては妥当だ。
道央藩は先の戦いで幕府勢力圏に入った北部藩と接しており、かつ智台は果ての海に面しているとはいえ大きな港町であるため海軍戦力の拠点にもなる。
動揺しているのは、2日後という短い期間だ。
戦略だけでなく、空海の異なる2軍の共同作戦をたったの2日で準備しろと言うのだ。
現場は誰だって困る。
上層部の人間ですら、恐らく困っていただろう。
「現在、賊軍どもが智台に奥葦原奪還と輸送網防衛のため
戦力を集結させており、戦艦
スクリーンに映し出されたのは、地上から隠し撮りされたと思わしき巨大な戦艦とその周囲を守るように停泊する防空巡洋艦の姿だった。
「美作に関して、空軍には経験者も多いでしょう。先の先湊奪還の際、
三式弾を用いて基地を焼け野原にした
忘れるはずもない。
6回の、核と見紛うほどの巨大な爆発を起こして海軍基地と周囲の街まで吹き飛ばした最悪の艦だ。
ついにあの同型艦と、真っ向から戦うのだ。
「念のため、播磨型について説明しましょう。
播磨型は50センチ3連装の主砲3基を備えた我が葦原の主力戦艦でした。
しかし、地方を任された馬鹿どもが賊軍に迎合し、
飛騨と
───戦艦の大半が反乱起こすって、どういう状況だよ?
呆れてしまうほどひどい状況だが、これが唯一の味方なのだから仕方がない。
「現在、飛騨は賊軍のハエ共に沈められ……お恥ずかしながら、
我が海軍の戦艦は信濃ばかりとなっています。
ですが、この作戦には信濃にも活躍してもらいます」
スクリーンの表示が地図に切り替わり、彰義隊をはじめとする航空機部隊は北から南下。
信濃をはじめとした幕府海軍第8艦隊は果ての海を南下し、沖合から砲撃等の支援を行うとされていた。
「我が第8艦隊は信濃を旗艦とし、
航空部隊の攻撃で弱った智台駐留艦隊を撃滅します」
あくまで、航空機部隊は露払い。
主力は海軍の艦艇で、とどめを刺すという事だ。
確かに、航空機の火力では戦艦や巡洋艦を撃沈させるのは極めて困難。
航空爆弾をうまく使えば確かに沈めることは出来るが、危険を伴う。
しかし、
とはいえ、その前提があったとしても。
「2日でこの連携は厳しくない?」
良介がわかるような声量で問い掛けると、海軍参謀のメガネがきらりと光った。
「……彰義隊隊長ですね。お噂はかねがね。ご不明な点につきましては、
これより説明するところだったのです。黙って、聞くように」
陰険そうなメガネの男は、腹の立つ口調と嘲笑をもって返答した。
実に、腹の立つ野郎である。
「これは、単なる無謀な自殺作戦ではありません。
達成可能と判断可能な、相応の根拠があります」
スライドが切り替えられ、スクリーンに映し出されたのは味気ない、いかにもな公文書であった。
内容は───簡単に述べれば、輸送の成果や効率である。
「賊軍は我が幕府海軍の潜水艦隊と空母の通商破壊により、
非効率的な空輸を強いられている。
そして空輸には燃料のような液体を大量に運ぶのは不向き……
あなた方にわかるよう噛み砕いて説明するなら、
智台に駐留する艦隊は、燃料が不足しているのです」
───最後の一行だけで充分だろ、おい。
もちろん、そこまで噛み砕かれなくとも資料を一瞥すれば主旨は理解できる。
武装などで重くなる軍艦が燃料をドカ食いするのは常というもの。
燃料がなければ任務に支障が出るのは当然であり、肝心なタイミングで動かすために節制も強いられる。
機関始動には燃料だけでなく、多くの時間が必要となるのも忘れてはいけない。
哨戒が減り、戦闘態勢で待機すらままならない敵。
奇襲に最適な条件が集まっているわけだ。
「それに加えて、我々には新兵器があります」
海軍参謀がスライドを切り替えると、その姿がスクリーンに現れた。
「新兵器は2つあります。ひとつは電波撹乱弾頭を搭載した127ミリロケット。
もうひとつは、
「空対艦、誘導弾っ⁈」
「まさか、対艦誘導弾を航空機に積むのか⁉」
ずっと脇に控えていたエラの意味を、良介はようやく理解した。
合衆国が空対艦誘導弾、すなわち対艦ミサイルを開発し、幕府軍に融通したのだ。
問題はそこではない。
この世界の電子機器は性能以上に小型化が進んでいない。
故に、ミサイルを追尾させるための
実際、スクリーンの
戦闘機に搭載するのは現実的には思えない。
「質問がありそうだから、開発責任者たる私が答えてあげる」
遂に、控えていたエラが壇上に立ち、解説を始めた。
「ロケットの電波撹乱弾……大袈裟な言い方だけど、これは要するにチャフ弾頭。
これを使って敵の索敵・迎撃を撹乱して、攻撃隊の生存率を上げるという寸法。
それに、攻撃隊後方から接近する
チャフ、アルミ箔を大量にばら撒くそれは、光だけでなくレーダー波も乱反射させる。
レーダー誘導ミサイルの典型的な
待ち構える敵へ突撃する作戦の性質上、ロケットの弾頭に搭載するのは妥当な判断に思えた。
もっとも、上手くいくかは別問題である。
「そしてこのAGM-69
全体的に大型化して炸薬量とブースターの推進剤も増量。
誘導方式には中間誘導に指令誘導を追加して終末誘導にベースのSARHを用いる。
……終末誘導絡み以外は、ほぼ別物だね。
この大きさだから搭載可能な機体は限られているし、誘導装置は到底積めない。
だけど、あなた達にはそれが可能な機体がある」
すると、エラは明確に良介へと視線をやった。
やや遅れて、他の面々も良介を見た。
「神兵のF-2……彼の機体にはセンサーが得た情報を共有する能力がある」
「……そうか。後方から飛んでくるミサイルでも、
F-2がデータリンクすれば誘導できるのか」
「その通りです。今回の作戦、我が幕府海軍の哨戒隊ゴーストには、
この誘導弾の運用及び中間誘導も担って頂きます」
ここで幕府海軍の陸上機がいる意味が明かされた。
この陸上機とはいわゆる対潜哨戒機であり、潜水艦を探知・撃沈することが主任務である。
当然戦闘機よりもずっと図体が大きく、それに伴って兵装の搭載量や電子機器の性能も上だ。
そして図体が大きい分、敵に狙われれば戦闘機以上に
「無論、哨戒機では敵前まで迫る事は叶いません。ゴースト隊には誘導弾発射後は
後方で旋回、空飛ぶ電探として前線の支援をして頂きます。
故に……誠に遺憾ながら、終末誘導は八咫烏に導いてもらうより他ありません」
「この秘密兵器頼みの作戦だから、漏れる前にやらなきゃいけないのか」
良介の独り言に反応して、海軍参謀の眼鏡が光り輝いた。
「話を戻しましょう。これが2日の期限の理由です。
賊軍に作戦と新兵器の存在が知れ渡り、対策されれば容易に失敗する。
故に、最低限の情報共有と準備期間で挑まねばならないのです」
言い分は理解出来た。
真正面からのぶつかり合いを繰り返せるほど、幕府軍に余力はない。
奇襲に失敗すれば、次はないのだ。
「海空連合攻撃隊は石射から南下し、智台へ接近。
敵艦隊にある程度の損害を与えた後、第8艦隊が突入。
智台を占拠する賊軍どもへ引導を渡します。
作戦開始時刻は
作戦の概要は以上です。質問がある者は挙手しなさい」
間髪入れず、良介は挙手した。
しつこい奴だと思っているのだろうが、自分から言った手前、拒否する事はできない。
海軍参謀は少し不機嫌そうに言った。
「どうぞ、彰義隊隊長」
「空軍総裁と、彰義隊のメンバーが見当たらないんだけど。
海軍参謀ともなれば、知ってるんじゃない?」
この場にいない彰義隊のメンバーは、竜司含めた新選組平隊士以外の全て。
哲也はもちろん、新選組隊長の山義。
さらに精兵隊とイグルベ傭兵隊に至っては一人残らずいないのだ。
関係者に尋ねても、要領を得ないあやふやな返事ばかり。
ここに良介はよからぬ雰囲気を察知したのだ。
この質問は不安を募らせるも、幕府軍の内部で地位の低い彼らの代わりに行ったものであった。
「ほう、あなたがご存知ないとは……存外、信用がないのですね」
「それは知ってる。で、どうなんだ?」
「単純な話。我々がやっているのは、結局のところ殺し合い。
他人には言い難い作戦が進行しているものです。
まさか、
皆まで言わずともご理解頂けるでしょう」
作戦を外部に漏らさないようにするのは、軍人として当然であろう。
良介ですら、幕府軍の内情を他人に漏らした事はない。
なら、別の作戦に従事するのならば黙っているのは当然だ。
これで竜司をはじめとした新選組隊士は納得したのだろう。
それぞれが固かった表情を和らげていた。
「ああ、悪かった。無関係な質問で」
「ええ。今後は謹んで頂きたい」
海軍参謀は周囲を見渡して他に挙手がないことを確認すると、供を連れて静かに去っていった。