蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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66 鉞作戦「Schism」

央暦1969年8月26日

北部藩 石射飛行場

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

「ハード過ぎだろ」

 

 良介は面々が揃った直後、聞こえるように呟いた。

 まだ智台解放から1週間と経たないというのに、もう次の作戦が行われるのだ。

 

 いくら幕府軍は勢いのあるうちに進まなければならないとはいっても、限度がある。

 

「志村二尉、これには事情がある……今はまだ、説明することは出来ないが」

 

 作戦会議直前の不規則発言にも関わらず、宗治郎は微笑みと共に良介をなだめた。

 隣にいる海軍参謀は不機嫌な表情を隠さなかったが。

 

「我々は真田藩を解放する」

 

 スクリーンに映し出されたのは葦原中部、綺麗に巨大な湾の北にある陸地であった。

 この辺りはかつて中葦原と呼ばれた地域で、なんでも戦争の余波で中葦原の大半が消滅したのだとか。

 

「さっ、真田藩んんっ⁈」

 

「おいおい、川口藩を無視するのか⁉」

 

 良介に影響されたのか、誰かが露骨な不規則発言を行った。

 とはいえ、良介も同意見である。

 

 真田藩と川口藩はそれぞれ北東と南西で隣接している。

 さらに、真田藩の中心地である真田城は藩領北東端にほど近い。

 

 増援を送りやすいのは、圧倒的に川口藩である。

 移動を邪魔されるどころか、攻撃の最中に最悪挟み撃ちに遭う恐れがあった。

 

「静粛に! 私の策はその程度、織り込み済みである!」

 

 と、額に青筋を浮かべた海軍参謀が声を荒げた。

 真田城周辺は完全に陸地であり、そこに海軍の策が絡んでくるのは興味深い。

 

「そういうわけだ。ひとまず、作戦について聞いて欲しい」

 

 宗治郎の声で騒ぎは完全に収まり、作戦室に静寂が戻った。

 

「おほん」

 

 海軍参謀が咳払いをひとつ。

 仕切りなおすと、説明を続けた。

 

「真田城は松代山山頂に建つ山城です。西街道を見下ろす絶好の立地にあり、

この城を落とすこと即ち、葦原東西を繋ぐ唯一の陸路を断つと同義」

 

 首都武揚のある東国地方は要塞の如く守りを固めているという。

 しかし、要塞の守りは敵を追い返すものに非ず。

 守りで敵を足止めし、側面から迫る増援で追い返すのだ。

 

 足止めが出来ても増援が来なくなれば、包囲された要塞はいずれ干上がる。

 干上がった要塞の制圧は容易である。

 場合によっては、内側から門を開けてくれる。

 

 真田城は山城で、攻めにくい場所である。

 反面、周囲は峠や山岳地帯となっており、地上戦力が配備できる場所が限定される。

 

 確かに、要塞より補給線の方が攻め落とせる目は大きい。

 問題はこちらにも増援のアテがあると言うことだ。

 

「真田藩には賊軍が落ち目と見て、我らの元鞘に戻ろうとする一派がいます。

そこから情報をいくつか得ることが出来ました」

 

 スライドが切り替わると、真田城周辺の正確な戦力配置図に切り替わった。

 山間部に対空砲や長距離SAM、レーダーまで記されていた。

 

「こちらの情報は裏取り済み、問題なく使えます。

さらに真田藩のみならず、川口藩が庄外空港の戦力も大筋が把握できました」

 

 あまりにも、都合が良すぎる。

 敵の内通があるからと言って、ここまで正確かつ膨大な量の情報が得られるのだろうか?

 

 とはいえ、それを言うと良介もとい、幕府軍の八咫烏という意味不明かつ都合が良すぎる存在が既にいる。

 一体なんなのだ、異世界から突然やってきて敵の戦力中枢ぶっ壊すとか。

 戦争を舐めてるのか?

 

───うるさい、静かにしてろ。

 

「果ての海沿いに相当数の戦力が割かれたうえ、ここ数日は配置転換で手薄。

隅っこを突いてやれば増援を送る余力はなくなります。

今が好機なのです」

 

 とんでもないハードスケジュールの理由は理解できた。

 配置転換で増援も出しづらい今のうちに事を進めなければ、今後困難になるのだ。

 

「我が幕府海軍の空母が川口藩が庄外空港を攻撃。

川口藩に配備された航空戦力を陽動します」

 

「川口藩が陽動に喰らい付いたところで、真田藩の内通者が行動を起こす。

その動きに合わせ、彰義隊は真田城へ。精兵隊は対空兵器の無力化。

ペンギン隊、新選組、イグルベ隊は制空権を確保せよ」

 

「幕府海軍ランサー隊及びヴィクター隊も制空権の確保。

賊軍は葦原東西の陸路を確保するため、

送り込める全ての航空戦力を投入すると思われます。

旗本の名を汚さぬよう、一所懸命(いっしょけんめい)粉骨砕身(ふんこつさいしん)するように」

 

「了解、参謀殿」

 

「努力します」

 

 海軍参謀は腹の立つ物言いをする男だが、意外にもランサーとヴィクターの隊長は不快感を見せずに応答した。

 思えば彼は、智台の戦いではすぐさま対艦戦闘の準備をやめて救助の用意をさせていた。

 存外、見えないところではいいところがある人物なのかもしれない。

 

 周囲を改めて見ると、ゴースト隊の面々は見当たらなかった。

 さすがに哨戒機に空戦の支援をさせるのは危険と判断したのだろう。

 

 しかし、ゴースト隊とは別に意外な人物が良介の目に留まった。

 彼女は確か、斗米基地の管制隊に居たはずだ。

 

「それと、今回の作戦から合衆国より供与された

早期警戒管制機(AWACS)が運用可能になる。符号(コールサイン)はフツノミタマだ」

 

 この視線に気付いたのか、宗治郎が補足した。

 

「フツノミタマには警戒や管制だけでなく、様々なえきすぱーとが搭乗する。

また改修によって……でーたりんく、とやらも搭載している。積極的に活用せよ」

 

 既に彰義隊ではペンギン隊全機及び、各中隊隊長の機体にデータリンク機能が搭載されていた。

 この世界のAWACSは空自のそれよりも性能はずっと低かったが、それでも大きい分F-2よりも細かく広く見える。

 少なくともAWACS───フツノミタマの支援がある限り、レーダーの死角はほぼないと言っていいだろう。

 

「作戦の概要は以上です。質問がある者は……」

 

 挙手した良介に、海軍参謀は視線を送った。

 

「その真田藩の内通者ってのは、どのくらいの規模が?」

 

「旧真田藩空軍予備役頭、松代大助を首魁とする空軍予備役及び、陸軍予備役。

どちらも使えそうな者は正規軍に引き抜かれた影響で少数ですが、

奇襲とこちらの支援があれば真田城を落とせる規模です」

 

───大助、か……

 

 良介と同じ施設で育ち、里親に貰われながらも高校で再会した親友と同じ名である。

 奇妙な偶然の一致から、顔も知らないはずの相手に良介は親近感を覚えていた。

 

「なるほどね」

 

「他に質問がなければ、この場は解散とする」

 

 ブリーフィングが終わり、各々が自分のいるべき場所へ戻っていく。

 彼女がいなくなる前に訪ねる予定だったが───

 どうやら、向こうの方から来てくれたらしい。

 

「斗米基地以来ですね、志村様」

 

「ゆかりちゃん、久しぶりじゃないか」

 

 ゆかり管制兵は丁寧に一礼した。

 彼女は斗米基地の管制隊に務める管制要員であり、良介が政府側から夷俘の魔物と呼ばれる契機となった松屋隧道突破成功の立役者である。

 

「ゆかりちゃんがAWACSに?」

 

「はい。大学で勉強していた地理学を宗治郎様に認めていただき、

この度、警戒機の通信整備員に選ばれたんです」

 

「通信整備員って、確か……」

 

「通信機の整備と使用を担当します。

つまり、作戦中の仕事の大半はお話になりますね」

 

 それならば、基地管制隊出身でも通づるところがあるだろう。

 葦原の地理にも精通しているのだから、作戦区域の情報においても頼りになる存在だ。

 

「またゆかりちゃんの声を聞きながら仕事が出来るのか……楽しみだな」

 

 肝心なのはそこではないだろうに。

 ゆかり管制兵はその言葉に頬を赤らめ、視線を逸らした。

 

「過ぎた、お言葉です……」

 

 不埒な輩が内心でニヨニヨしていると、ゆかり管制兵の背後で睨む存在に気付いた。

 見覚えのない顔だが、階級章から上官(自衛官ではないが)だとわかった。

 

 良介の視線に気付いた彼は不機嫌そうな表情を隠さずに歩み寄ると、表情を崩さぬまま敬礼した。

 

「フツノミタマ兵器管制物頭(ものがしら)物器(ものき)次郎助左衛門(じろうすけざえもん)

 

「物器様」

 

 次郎助z───長いので次郎と省略しよう。

 子供のような背丈と童顔のゆかり管制兵とは裏腹に、長身で精悍な顔立ちをした男である。

 しかしハリのある声色から、良介と同年代か少し下くらいと思える。

 

 なお、物頭とは現場監督くらいの立ち位置である。

 軍隊の階級で言えば、少佐か中佐といったところか。

 幕府は同じ階級でも軍が違えば権限が大きく違うので、とてもややこしいが。

 

「志村様。この方は物器次郎助左衛門様といい、兵器管制……

新たに搭載されたデータリンクの中でも、兵装関連の担当です」

 

 どうやら、しばらくお世話になる人間のひとりらしい。

 向こうが敵対心をむき出しにしているのは気になるが───

 敵ではないのだから、友好的に応対するべきだろう。

 

「これはこれは。俺は志村良介二等空尉。よろしく、物頭」

 

 物頭をしている物器、ややこしい組み合わせだ。

 

「……そちらの機体で運用される陽光の、

オフボアサイト射撃について言いたいことがある」

 

 どうやら、形だけでも馴れ合うつもりはないらしい。

 良介の評判を聞いていれば、そんな態度になるのは当然のことだが。

 

 別に全人類と仲良くなるなどという、小学生じみた夢などお前にはあるまい。

 お望み通り、仕事で終始しようではないか。

 

「ああ……どうぞ」

 

「こちらのレーダーとのデータリンクで、ほぼ常時使用可能になる。

だが、機動力とシーカーの精度に問題がある。

それに元来、陽光はそのような射撃を想定した設計ではない」

 

 中々いい着眼点に思えた。

 確かに陽光のオフボアサイト射撃───正面方向以外への射撃は付け焼き刃だ。

 

 開発者のエラ曰く、改造陽光はHMDで指定した方向へ飛翔するように無理矢理制御させ、シーカーの誘導はその後行うようになっているのだ。

 端的に言って、極めて危険である。

 

 もしシーカーが本来指定した目標より先に、別の熱源を見つけてしまったら?

 それが別の敵機のエンジンならまだよし。

 

 最悪なのは、それが味方機や民間機だった場合だ。

 なにせ、機関砲の赤熱した砲身すら捕捉してしまうほどの感度なのだ。

 

 状況次第では、思わぬ不幸を招きかねない。

 それに、実戦で使うことになった奇襲では1発も当たっていない。

 

「結論を申し上げると、陽光のオフボアサイト射撃とやらは

安易に使用するべきではないと進言しに来た。

いずれ、味方や民間を巻き込みかねない」

 

 エラには悪いが、まったく同意する他ない進言であった。

 

「ああ、同感だ。技術的にも試作品だし、全然当たらないし……

非常用に留めるつもりだ」

 

「なら、いい……ゆかり管制兵、搭乗員会議まで時間がない。

用事を済ませよう」

 

「あっ、そうでした……志村様、先ほど合衆国の

エラ・アーロン様から連絡がありました。

志村様の機体に搭載された電波妨害(ECM)ですが、

影響下でも安定して使用可能な周波数帯を発見したとのことです」

 

 F-2のECMはこの世界屈指の強力な電波を発し、通信やレーダーを妨害する。

 しかしその強さが災いして、味方も妨害してしまうという欠点があった。

 

 もちろん、妨害している周波数帯以外の電波なら使用可能である。

 この解析がようやく終わったのだ。

 

「じゃあ、ECM使い放題か……」

 

「ですが、エラ様からこうも言付かっています。積極的に使っていると、

いずれ政府側も周波数帯を解析してどうにかするから注意するように。

以上です」

 

 政府側とて、伊達に葦原の天下を手中に収めたわけではない。

 それなりの設備があればF-2が妨害する周波数を解析し、いずれ使用可能な周波数帯を見つけ出すだろう。

 

 幕府側は味方にいるから、解析の時間と機会を多く得ることが出来ただけなのだ。

 

「向こうの事を甘く見たことはない……気を付けるよ」

 

「はい……志村様、今回はこれで失礼しますね」

 

「うん。またね、ゆかりちゃん」

 

「……ふん」

 

 次郎はゆかり管制兵を良介から遠ざけるように間に入ると、足早に去っていった。

 

「うーん、相変わらずゆかりちゃんは小動物的な可愛さがあるが、

10年早かったらなぁ……その点に関して物器次郎助左衛門くんは、

誤解をしているように思える」

 

 こら、まとめるべきはそこではないだろう。

 確かに人間関係は大切だが、今まとめるべきは戦闘に関することだ。

 

「ふん……つまり、だ。ECMは使い放題になって、

オフボアサイト射撃は基本使っちゃだめって事だな」

 

 そうなるだろう。

 

 しかし、お前の今の立場で味方殺しでもしようものならどう扱われるか。

 味方殺しを恐れるならば、不確実なオフボアサイト射撃は避けるべきだ。

 

「だろうな……さあて、機体のチェックでもしに行くか」

 

 今のところは、それがいい。

 なにせまた数日中に出撃となるのだ。

 

 政府軍が全力で航空戦力を投入する大空戦を目前としているのだから。

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