蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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74 飛行試験「Vacation」

央暦1969年9月28日

夷俘島 斗米基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 夏が終わり、秋がやって来る。

 日本では忘れられがちだが、夏と冬の間には秋があるのだ。

 

 春と同じく、寒いようで時折暖かい。

 そんなちょうど良い季節のひとつが。

 

「でも、俺らのやる事は変わらない……」

 

 その通り。

 幕府と政府の間で停戦が交わされたが、無期限の戦闘停止である休戦でなければ、戦争が終わる終戦でもない。

 期限の定められた、あくまで一時的な停戦なのだ。

 

 央暦1970年3月から始まる世界博覧会。

 これが9月に閉会し、次の10月には両勢力が戦闘を再開する。

 

 停戦は約1年間に過ぎない。

 それがハッキリしているため、練度の向上に努めなければならないのだ。

 故に、停戦後も良介達彰義隊は毎日のように演習を繰り返していた。

 

 そんなある日。

 ペンギン隊は演習を終えて斗米基地に帰還し、機体を整備隊に預けた。

 

 すると、駐機場に見覚えのある顔が。

 油汚れのこびりついたツナギを身につけて良介を待ち構えていた。

 

「あれれ、エラちゃんじゃないか?」

 

「ちょうどいいところに来たね。今さっき、面白い機体を持ってきたところ」

 

「面白い機体?」

 

 エラの案内で良介とボスはペンギン隊の格納庫へ向かった。

 残念ながら竜司は精神面での不安から静養、あくりは真田藩での行事で現地に戻っていた。

 なので、今のペンギン隊は良介とボスのふたりきりであった。

 

「をををっ⁈ こっ、このシルエットはまさか……!」

 

 機体を目にすると、誰よりも早くボスが気持ちの悪い反応をした。

 

 とはいえ、ボスが驚く気持ちは良介にも理解できた。

 この世界の兵器類はどれも地球で目にしたそれにどこか似ている、奇妙(ストレンジ)なもの。

 そしてこの機体は良介にとっても、馴染み深いそれだったのだから───

 

 単発のエンジンに、特徴的なダブルデルタ翼。

 小型軽量を絵に描いたような機体で、山岳地帯のような狭い土地でも扱いやすそうなこの機体の名は。

 

「ドr……」

 

「YJPS35Aナーガ。それがこの機体の名前」

 

 この機体は現実の機体とは一切関係がない。

 故にこの機体はSAAB社のF35ドラケンとは全く関係がないのだ。

 

「わ、YJPS……なんだか、ややこしい名前だな」

 

「海軍の試作機体だからね。

Yは試作機でJはエンジン方式を表すジェット、Pは役割で戦闘(追撃)機。

Sはメーカー記号、頭文字じゃないのには注意してね」

 

「海軍? 空軍の機体ではないので?」

 

 レトロ・ファイター・マニアであるボスが、珍しく口を挟んだ。

 マニアの血が、現実と似て非なるという状況が我慢ならなかったのだろう。

 

「海軍が小型の軽戦闘機を求めて、新興メーカーが設計したのがこの機体なの。

メーカーは山岳地帯での運用も想定してるって言ってるから、

そういう土地なら、空軍運用もアリだと思う」

 

 機体後部に回ってみると、確かにアレスティング・フックが備えられていた。

 これはF-16やF-2にも採用されている装備だが、海軍機であれば着艦の際必須になる代物である。

 

 良介がエラから紹介されて合衆国の機体に乗ったことは、何度かある。

 しかし今回はかなり特殊だ。

 

 なにせ、ナーガは未だ運用の始まっていない試作機なのだ。

 このパターンは流石に初である。

 

「……この機体に、俺が乗っていいの?」

 

「F-2で得たノウハウが一部詰まってる機体だし……

代替機として、悪くないんじゃない?」

 

 周囲を見渡してみる。

 斗米基地の整備隊に混じり、見覚えのない整備の姿。

 これは恐らく、エラが代表を務めるロング・イラ社の人間だろう。

 

 中でも、遠くで良介の様子を伺う、明らかに堅気ではない皆様。

 彼らの表情は一様にして、ニヤついていた。

 

「エラちゃんって、海軍にもツテが?」

 

「彼らは海軍ではないんだ。今回は海軍に協力している形だね」

 

 フライ・バイ・ワイヤ解析の協力。

 そういえば以前、エラを介して合衆国が依頼していたが、その機会が遂にやってきたのだ。

 

「機体の中身は?」

 

 良介は整備隊に断ってタラップを登ると、機内を一望した。

 

 HUD下部から突き出た操作端末は、良介の記憶にあるドラケンとは大きく異なる。

 どちらかと言うと、F-2の統合操作パネル(ICP)を想起させた。

 

 その右隣には、円形に線の入った計器は───

 

「もしかしてこれ、レーダー警報装置(RWR)?」

 

「正解。F-2のものを解析して、搭載したんだ」

 

 央暦1969年に、RWRは未だ開発されていなかった代物だ。

 西暦1969年には既にあったのだが───それは置いておいて。

 

 まだ電力が供給されていないためなんとも言い難いが、機体に使われている電子機器が明らかに数十年レベルで高度化していた。

 それも、竜司やボスの機体に施した後付けの改造ではなく、設計段階で組み込まれている。

 良介の考えているレベルならば───このYJPS35Aナーガという機体は、とんでもない機体だ。

 

「で、飛ばしてみたい?」

 

 実は一度、良介にも航空自衛隊の航空機に関するテスト行う部隊───飛行開発実験団(飛実団)へ異動が決まりそうになった事があった。

 レッドフラッグ演習での活躍を耳にし、ついでに同乗もした当時の防衛大臣が、担当に話したのだそうだ。

 

 その担当が良介の飛び方を見た途端、話は流れてしまった。

 曰く、『確かに技量は高いが、何をするか読めなさすぎる。機体が壊れる』とのこと。

 とりあえず良介は、当時の大臣に謝った方がいい。

 

───うるさい、機会に恵まれないんだよ。

 

 過ぎたことはともかく、目の前の誘いだ。

 

「……まずは、マニュアルを読まないとな」

 

 例のF-2修復の取引の一環なのだろう。

 ならばこれは、誘いという名の強制だ。

 本来、こういった技術に関してウッキウキになるエラのテンションが低いのが、その証拠である。

 

 エラの差し出した紙束を、良介は受け取った。

 

「ありがとう」

 

「……こっちこそ、ごめんね。こっちのゴタゴタに巻き込んじゃって」

 

「いいさ……どっちにせよ、おニューの機体なんて、ワクワクするだろ?」

 

 誰かに強制されるのは気に入らないが───

 そんな気持ちがあるのは、間違いなく事実であった。

 

 少しだけ気分を取り戻したエラを見送り、良介はナーガのマニュアルに目を通した。

 

 文字は合衆国の公用語、リールランド語。

 既に学習済みで、ある程度の読み書きは出来るようになっていた。

 

「良介」

 

 マニュアルの表紙を開くと、ボスが良介に語り掛けた。

 

「なに?」

 

「そのテストフライト、俺も参加するからな」

 

「なんだ、ハブられてると思ってたの? 最初からそのつもりだったよ。

あんたがいた方が、色々と助かるからさ」

 

 良介の返答にボスは面食らった様子だったが、

 

「なら、いい」

 

 言葉短に答えると、良介の肩越しに彼もナーガのマニュアルを眺めるのであった。

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