蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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91 世博護送作戦「Mind Seeker」

央暦1970年3月13日

京 京電波塔展望室

西国(せいこく)毎朝(まいあさ)新聞社

四谷(よつや)

 

 京の街の至るところで、絶叫とサイレンが響き渡り。

 神聖な、帝一族の禁野となっている森の嵯峨野では黒い煙が立ち昇り、火の手が広がっている。

 

「くそっ、幕府に助けられるとは……お前ら、生きてるか!」

 

「僕は無事です……四谷さんもっ」

 

 私の憧れだった京の洛中は再び、戦火に覆われていた。

 

 そんな景色から、蒼い機体は遠ざかっていく。

 射影機をそのお尻から吐き出す炎に向けて、シャッターを切った。

 

 編集長はこの写真を使った記事に、どんな題をつけるのだろうか?

 

『悪逆非道! 幕府の魔王、京の街を焼く!』

 

 それとも、こうだろうか?

 

『政府軍強し! 畏怖の魔王恐れるに足らず!』

 

 この経験や、この心境を記事に書いても、編集長は通してくれないだろう。

 

 地上から───禁野の嵯峨野からミサイルを打ち上げる、恐らく軍の部隊。

 蒼い機体は味方を攻撃から守りながら、東や南から迫る軍の戦闘機と戦った。

 

 たったひとりで。

 世界が壊れてしまうんじゃないかと思えてしまう、強大な敵を相手にしながら。

 

 それでもなお、戦って。

 そして、何一つ失うことなく勝った。

 

「蒼い機体……すごい。たったひとりなのに……!」

 

 私は京の洛外で育った、なんてことのない小娘。

 戦なんて、幕府と政府を名乗るよそ者が鉄砲抱えてやってるだけ。

 迷惑千万、精々これで稼がせてもらおう。

 

 その程度の理解しかない、遠い世界の話だった。

 

「おい四谷! 耳のついでに頭もおかしくなったか⁉」

 

「え? ああ、はいはい! 無事ですっ」

 

「多分もう、階段で降りても平気だろう。脱出するぞ」

 

「……はい」

 

 すべてのガラスが砕け散った電波塔展示室の窓から、先ほどよりずっと弱い衝撃が伝わってきた。

 京の戦いは終わったけれど、まだ遠くでは続いているのがわかる。

 

 あの蒼い機体は、まだ戦っているのか?

 あるいは、また別の戦いなのか。

 

 自分の身に危険が迫っていたのに、機体が引く雲と物の理(ぶつり)を捻じ曲げる、あの異質な動きが頭から離れない。

 京の街に災禍を振りまいた一端だというのに、故郷を破壊したというのに。

 

 そう、私は。

 私は蒼い機体に心を奪われてしまったのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

 射影機に収めた写真だけでなく、頭に刻み込んだ動きを再生しながら。

 私は無限に続くように思える電波塔の階段を降る。

 

「おいお前ら、ちゃんと写真は撮ったな?

今回は前の戦い(やつ)と違って、最前線で撮れたからな。

きっと売れるぞ……!」

 

 先輩は皮算用をしてほくそ笑んだ。

 私からしても性根の腐りきった男だけれど、スクープをモノにするという根性と熱意は本物だ。

 だけれど同時に、編集長の犬でもある。

 

 私は射影機、射影魔術の増幅装置が吐き出した写真の束から一枚を抜いた。

 個人的に最良の写真、ベストショットだ。

 

 記事に使うのはいいけれど、それを安っぽい記事に飾られたくない。

 この写真には、蒼い機体にはもっと相応しい舞台(きじ)があるはず。

 そう確信した私は、渾身の作品を懐にしまい込んだ。

 

「オタク! ちゃんと何が起きたのか、解説出来るよな!」

 

「で、出来るっちゃ出来ますけど、限界ありますよ!

あんな機動、前代未聞過ぎて……専門家の助言が必要です!」

 

「いらねぇよ専門家なんて!

それっぽい事書けりゃ、それでいいんだよ!」

 

 よくない。

 なにひとつ、よくない。

 

 私がこの報道の職を始めたのは、なんてことはない。

 西国毎朝新聞社の編集部が故郷のすぐ近くにあって、私は村で一番射影魔術がうまくてそれなりに文章も書けるからお呼びが掛かった。

 今この仕事をしている理由は、それだけだった。

 

 つまりド田舎の最低賃金で働き、かつ写真を撮れてさらに売文業出来る程度に文章も書けた。

 それだけの話だった。

 

 新聞社から声の掛かった時は流石に舞い上がってしまったけど。

 結局、現実には面白くない裏があった。

 それを知ってしまってから、仕事に対する熱意は冷めて会社への感謝もなくなってしまった。

 

 だけど、今は違う。

 クソみたいな理由で雇ってくれた件に感謝出来た。

 

 おかげで、私には蒼い機体の魅力を伝えるための手段が身に着いていたのだから。

 新聞記者になって間もない頃の熱意も、私の身体中を巡っていた。

 

「先輩。蒼い機体……幕府の連中って、何しにここへ来たんでしょうか?」

 

「はぁ? そりゃ世博、長坂の世界博覧会だよ!

お前そんな事も知らねぇのか?」

 

「そりゃ私、地元欄担当ですし。外の田舎に興味なんてないですし」

 

「ま、洛外(こうがい)の田舎者に世界なんてわかるわけないわな」

 

 と、洛中出身の先輩は偉そうに言ってきた。

 腹立たしいけど、興味がなかったのは事実なので反論できない。

 

「あそこで幕府の連中が展示会をやるんだ。

連中の抱えてる親王も、なんかやるんだとよ」

 

「へぇ……護衛のためだけに?」

 

「いいや、世博の開会式で神兵が展示飛行するんだよ」

 

 普段は口数が少ない、同期のオタクくんが補足してくれた。

 しかし先輩の言葉を邪魔してしまったので、拳骨を食らった。

 

「あいたっ!」

 

「っせぇッ! 俺が話してるんだから横槍入れんじゃねぇオタク!

……ま、そうらしい。俺知らなかったけど」

 

 なら、殴ることはなかっただろうに。

 

 それにしても、展示飛行とは?

 私にはその程度の知識もなかった。

 

「展示飛行って、何するんですか?」

 

「え? ……そりゃ、飛ぶんだよ。開会式の上空で」

 

「単に飛ぶだけじゃなくて、編隊飛行で部隊ごとの技量を見せたり、

変わった機動をやったりするんだよ……あの機体の展示飛行、凄いだろうなぁ」

……あいたっ!」

 

「目上の言葉遮んじゃねぇ! ボケオタクがよぉっ!」

 

 蒼い機体を、間近に見られる。

 それも、危険もなく安全に。

 

 今まで意識の外にあった世博に、俄然興味が湧いてきた。

 

「先輩ッ! 私、世博の取材行きたいですっ!」

 

「えー……でもお前、地方欄の担当だろ?」

 

「地元欄っ! 京と長坂って、隣同士じゃないですかぁ?」

 

 長坂の空港を探せば、地上にいる蒼い機体を拝めるかもしれない。

 さすがに至近距離まで迫るには工夫がいるけど……どうにかしよう。

 

 それにもしかすれば、蒼い機体のパイロットとも会えるかもしれない。

 こんなにも理由があるなら行くしかない、私の頭にはそれしかなかった。

 

「先輩っ、僕も行きたいですっ! 前々から言ってますけど!」

 

「えー……めんどいんだけど」

 

「先輩様っ! 一生のお願いですからっ!」

 

「僕もお願いですっ!」

 

「えーっ……」

 

 電波塔の階段を降りる間ずっと、私たちは特に尊敬もしていない先輩を拝み倒した。

 すべては、あの蒼い機体とまた出逢うため。

 

 そのためなら頭を下げるくらい、なんてことはなかった。

 

 この心意気の甲斐もあって、私とオタクくんは先輩に編集長と交渉するという言質を得たのだった。




次回の更新は来週の月曜19時です
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