血税~課けた分だけ強くなるTS令嬢~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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10:準備&準備ですわ!

 

 

「……色々試してみたけど、この辺りはしっかりしているというか。ズルは出来ないみたいね。」

 

「残念です……。」

 

 

日も沈みもう外が暗くなって来たころ。ある程度の検証を終わらせた私達は、二人息を吐き出していた。

 

結果から言うと、イザから『徴収した』と判断されたのは金貨0.62枚。彼女が最初から持っていた金額だけだった。父の蒐集品を売ったお金を貸し与えてそこから徴税すると宣言してみたり、イザの人頭税だけ30,000倍くらいに跳ね上げてみたりしたけれど、どれも失敗。というか引き上げた瞬間私にかかる強化倍率がエグイ位に低下して、重力で死にそうになりましたわ。ほんとこのスキル……ッ!

 

 

『血税』

※えー♡ だってズルする人は統治者としても徴税者としてもカスだし、仕方ないよね~♡ やーい、お前の頭カスカス♡ スッカスカで何にもはいってなぁ~い♡ 今回は倍率超低下で許してあげたけど、次そういうズルしようとしたらペナルティで“血”を持って行くから覚悟してよね、ざぁ~こ♡

 

現在の【歳入加護】による強化倍率:1.31

【納税審問】:使用可能

 

 

「……ぶち殺したい。」

 

「お嬢様ッ!?」

 

 

っと、失礼しました。つい自分のスキルに対して殺気を……。こんなものでは先祖の皆様に笑われてしまいますわね。精進しなければ。

 

まぁ私のスキルはこのような形になっています。相変わらず煽られてはいますが、一応強化倍率も適応されて約1.3倍。なんと反応していいのかよく解らない倍率ですが、強くはなっています。軽くこの部屋で剣を振り回してみましたが、いつもよりも軽く。そして強く振ることが出来ました。今ならよく訓練された騎士相手でもタイマンなら楽勝に勝てそうですね。

 

 

「でも600相手に勝ち切れるとは言えないんですよね。1対1を600回繰り返せと言われても、疲労で無理です。単身で持って行けて、死力尽くして100ぐらいでしょうか。」

 

「……あの、スキルの無い一般人レベルのお嬢様がなんで100も持っていけるので? 1.3倍ですよ?」

 

「人間頑張ればなんとかなるのよ?」

 

 

お嬢様が言うのならば実現可能なのでしょうがッ! と言う彼女にそう返す。

 

彼女の言う通り、というか私も自覚していることですが、1.3倍と言うのは誤差とも言っていい数値です。確かに前世の感覚で考えれば、かなりのパワーアップ。握力が急に50㎏から65㎏になるわけですから強化率としてはかなりのものでしょう。しかしここは異世界で、強さの上限がない様な世界。父が小山のような魔物を殴り飛ばしていたことを考えると、未だ雑魚でしかありません。

 

スキル無し状態で農兵10以上の所を、死を覚悟して三桁狙えるようになったのは大きな進歩でしょうが、実際騎士とか常備兵に阻まれて難しそうですからねぇ。やれと言われればそれでもやり遂げてみせますが。

 

 

「とにかく。これ以上家の中でスキルについて頭を捻るのは時間の無駄でしょう。考えるべきは、既に今年いっぱい税を取らないと宣言したこの地で、如何に税を集めるか、です。イザの様に自分から差し出してくれる子がいればいいのですが……。正直、真に信じ切れるのが貴女ぐらいしかいないのよねぇ。」

 

「光栄です!」

 

 

そう言って胸を張るイザに軽く微笑みを送りながら、思考を回す。

 

私に税を支払うために向かってきた時の彼女は、あの時私が剣を落していなければそのまま自分の首を刎ねようとするまでに覚悟が決まっていた。そこまで彼女が覚悟を決めなければいけない程に私がイザを信じ切れなかったのは不徳の致すところだけれど……。我が領民の皆がそうであるとは限りません。というか、絶対に違うでしょう。

 

おそらくイザは、私が『誰にもスキルのことを言うな』と言えば死んでもそれを成し遂げてくれるでしょう。けれど我が家が抱える使用人たち全員がそうであるとは限りませんし、領民も同じです。いくら私が緘口令を敷いたとしても口にしてしまう人はいるでしょうし、脅され情報を吐いてしまう者もいるでしょう。

 

 

「我が家のスキルに関しての情報は死ぬまで秘匿すべき事象です。なにせ完璧な徴税体制さえ整えれば王が常に最強で居続けることが出来る、夢のような血筋が完成します。ですがそこに我が家の名前は残らないでしょうし、発覚した時点で我々ゴトレヒトの人間に『人権』は無くなります。みんな欲しがりますからね。」

 

「あんまり難しい話は分かりませんが……、了解しました! 死んでも言いません!」

 

「えぇ、信頼してるわイザ。……それで、貴女以外に『秘密』を共有しても大丈夫そうな人はいるかしら。その言葉をそのまま採用するわけではないから、参考程度に教えて頂戴。」

 

 

ちょっと頭をかしげながら考え始めるイザ、けれど徐々に顔を顰めていき……、ゆっくりと首を振る彼女。まぁ、でしょうね。前世の娯楽作品のセリフで金は命より価値があると言ってましたし、そもそも必要以上私から徴税を受けたがる人などいません。そして私の秘密を一緒に守ってくれる人も……、そういないでしょう。

 

何せ人には何かしら大切なものがありますから。家族だったり、友だったり。そこに私が入っていない限り、真に信用することは難しいですね。

 

 

「申し訳ありませんお嬢様。私がもっとお嬢様の素晴らしさをみんなに訴えていれば……!」

 

「そういうキャラだった貴女? まぁ今言っても仕方ないわね。イザ、一つ頼まれてくれる?」

 

「……拝命いたします。」

 

 

姿勢を整え、纏う雰囲気を普段のイザではなく、臣下の一人として切り替える彼女。

ゆっくりと頭を下げる配下に、口を開く。

 

 

「ちょっと明日から民の様子を調べてきて頂戴。いつ敵が攻めてくるか解らない以上、対象はこの屋敷がある村だけになるでしょうが……。戦時特例として課税することを視野に入れるわ。皆の反発がどの程度起きるのか、どの程度の額なら彼らが不満を抑え込んでくれるのか。調べてくれる?」

 

 

既に戦争に備え、敵行軍路には罠などを仕掛けています。しかしそれはこれまで私が想定していた敵最大戦力の200に合わせたもの。その3倍の600となるならば、心苦しいですがより民を動員してその数を増やさねばなりません。相手が伯爵家の常備兵を連れているとなれば、質も高めばならないでしょう。

 

その間私はそっちの指揮に掛かり切りになるでしょうし……、どれだけ準備したとしても罠だけで相手を壊走させられるとは思っていません。どこかでぶつかるならば、今の倍率では死しかないでしょう。

 

私の前では言えないことも、同じ民であるイザなら聞き出すことが出来るかもしれません。この戦争に置いて『課税する道理』が通っていて、『私の強さに疑問を思わず』、『民が不満を覚えず快く出してくれる額』。これさえわかれば、私も暴君にならずに済みます。

 

 

「畏まりました。並行して『真にお嬢様に忠を尽くす』人材がいないかの調査も行わせて頂いてよろしいでしょうか。すぐに見つかるとは思いませんが、今後を見据えて。」

 

「そうね。勝てばまだまだ私の治世が続くのだもの。そのように動いて頂戴。」

 

「は! ……それともう一つ、お願いしたいことが。」

 

「何かしら?」

 

「出陣の際には、ぜひ私をお連れください。非力な身ではありますが、一人ぐらいは道連れにし、その後は肉盾として使って頂きたく。『ご当主様』としても、秘を知る者がいなくなった方が都合がよろしいかと。」

 

 

強い覚悟を示す、意思が宿った瞳。

 

……はぁ、ほんと私には過ぎた臣ね。

 

 

「部分的に許可するわ、じゃないと勝手に付いてくるだろうし。ただし勝手に死なないこと。私の僕を名乗りたいのならば、その命の使いどころも私に預けなさいな。」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

翌日、場所は代わり、クレーマン男爵家領地。

 

領主であるオスカーが治める村の一つ、その外縁には数多くの兵たちが集められていた。

 

 

「壮観だな、シュミット。」

 

「まさにその通りかと。」

 

 

その前をゆっくりと馬に乗りながら歩くのが、領主オスカー。その背後に続くのが、騎士シュミット。今回のゴトレヒト領侵攻の総大将と、副将の一人である。

 

彼らが言う通り多くの兵が規律をもって整列し、大将であるオスカーの言葉を今か今かと待っている状況。伯爵家からの戦力を貸与を受けているからこそ出来た、男爵領の徴兵能力を大いに超えた大軍。未だ若く経験の浅い男爵である彼の声が、少し高揚に彩られるのも仕方のないことだろう。

 

しかしその視線は自然と、農兵たちが並ぶ場所に向けられる。

 

 

(ベックが悪いわけではないのだろう。しかしなぜ我が領民はここまでやる気がないものなのか……。)

 

 

そこにいるのは、クレーマン領にて徴兵された農民たち。かなり長期にわたる練兵が行われたのだが、依然としてやる気は全くなく、簡単な指示しか覚えることのできなかった者たちだった。元々ただの農民であり、戦争などやる気はなく、出来るのならばすぐに帰りたいと思っている。

 

どれだけ時間と資材を投入し訓練させようとも限界がある者たちであったが、まだオスカーはそれを理解できていなかった。

 

 

(伯爵殿の兵はその役目を終えれば帰還する手筈となっている。つまり我が家の情報は全て持ち帰られるということだ。義父上とも呼べる方に、『クレーマン家の兵は弱兵のみ』などと報告されてしまえばたまったものではない。)

 

 

貴族たちにとって、弱みを見せると言うことは『いつ攻め滅ぼしてもらっても構いませんよ』という言葉に他ならない。男爵家と伯爵家ならその力の差は歴然。オスカーとしては幾ら数が少なくても、強力なクレーマン家。こちらを切り捨てようとすればその喉元を噛み千切る程度の強さを見せておきたいところだったが、成果を上げることは出来なかった。

 

せめて戦場働きでその力を見せつけるようにしたいところではあるが……。彼は武をもって統治するタイプの貴族ではなく、どちらかと言うと内政寄りの男。自分が戦場に立ち戦火を上げることが出来るとは思っていなかった。貴族としての責任から総大将として同行する気概はあるが、後方に立ち言葉をもって鼓舞すること以外は出来ないと、その役割を理解している。

 

故に。

 

 

「シュミット。ベックには指揮を任せ、君には先鋒を任せたいと思っている。……大丈夫だろうか?」

 

「勿論ですとも若。そしてどうぞただお命じください。我らは若の剣であり盾。道具は道具として使うもの。このような老骨に誉ある一番槍を任せて頂けるのです。必ずゴトレヒトの首を持ち帰ってみせましょう。」

 

「ありがとう。」

 

 

そんな言葉を交わしながら少し馬を進めると、オスカーのもう一人の騎士であるベックの姿が。

 

依然として彼はゴトレヒト対する侵攻を反対する立場であったが、既に進軍の準備は整っている。既にその顔には覚悟が決まっており、どのようにして勝ち、どのようにして犠牲を減らすかに向けられていた。

 

 

「ベック、首尾はどうだ。」

 

「既に準備整っています。それと……。」

 

 

オスカーの方に馬を寄せ、その耳元に手を当てながら小声で話すベック。

 

 

「商人を使って情報を集めさせましたが、既にゴトレヒトは我が家の侵攻に気が付いているとのこと。どうやら街道と森を抜け、あちらの村付近にある平地での決戦を予定しているそうです。麦の供給と資金提供も受けましたので、信用は出来るかと。」

 

「そうか……、では平地での決戦という訳だな。策の選定は任せるぞベック。して、その商人は?」

 

「どうやら『ラーフェル』を名乗る者の小姓のようで。『主人を贔屓にして頂ければ』とのことです。」

 

「なるほど、戦が終われば直接会ってみよう。……とにかくありがとう、ベック。」

 

 

聞き慣れない名前ではあったが、自身の信頼厚い部下であるベックが信用に足る情報だと判断するのならば問題はないと考えるオスカー。

 

その商人が何者なのか、そしてベックが農民の出身の成り上がり故に『騙し合い』に対する能力が低く経験が浅いことを知らない彼は強く頷き、礼ともに『森に囲まれた街道』を抜けた先にある平地での戦闘に意思を向ける。彼がこれまで集めてきた情報にある通り、“これまで”のゴトレヒトの基本方針は領地から出ず防衛を主とするもの。今回もそれと同様だと判断した彼は、一旦ベックを後ろに下がらせ、兵たちの前へと出る。

 

号令だ。

 

 

「諸君ッ! これより、ゴトレヒト家への侵攻を開始するっ! 敵は悪名高いベンツェル・ゴトレヒト! 敵は確かに強大! しかし敢えて言おう! 恐るに足りず! その名は地に落ち、諸君らの勇名が歴史に刻まれるだろう!」

 

「「 「おぉぉぉおおおおお!!!!!」」」

 

 

手を振り上げ、自身に注目を集めさせながら声を張る彼。

 

それに合わせベックが指示を出していた常備兵が声をあげ、それに伯爵家の兵たちも乗る。あまり気合の入っていなかった農兵たちもそれに合わせ声をあげ、ゆっくりとだが確実に士気が上昇していく。そして声が途切れようとした瞬間、騎士ベックによる『行軍開始』の命が下り、全体が進み始める。

 

一定の距離があり、魔物による襲撃の可能性がある領間移動。数日を要する移動と、いつ襲われるか解らないという精神的負荷により目的地に着くころには士気も低下しているだろうが、逆に言えばそこまで持つのは確か。決戦前にもう一度領主が声をあげれば、立ち直させることが出来るレベルといえる。

 

軍の先頭に立つため向かって行ったシュミットと、ゆっくりとだが進み始めた軍を満足そうに眺めるオスカー。しかしその行軍の音とは違う馬の足音を背後に聴き、振り返る彼。

 

そこにいたのは、オスカーの愛する妻であるルイーゼ。

 

 

「オスカー様、お見送りに参りました。」

 

「ルイーゼ!』

 

 

つい頬を緩めながらも、そう答えるオスカー。

 

まだ兵たちの眼があるというのに、抱きしめ合う二人。一瞬ベックが止めようとしたが時すでに遅く、既に口付けまで交わし始めている。命の危険がある故仕方ないと言えど、兵たちの士気の低下は避けられない。けれど彼らはそんなこと考えもつかないかのように、二人だけの空間を作り上げてしまう。

 

 

「やはりルイーゼは心配です。もしものことがあったら……。」

 

「大丈夫だよルイーゼ。クレーマン家の男として、義父上の息子として、そして君の夫として。必ず生きて帰り、勝利を届けて見せるとも。」

 

「……お待ち、しております。」

 

 

 





〇税外小話

「さ、もう遅いから休みましょうイザ。明日からよろしくね?」
「はい、お嬢様!」
「……あと最後に聴きたいのだけど、なんでそんなに覚悟決めちゃってるのかしら? いや私としては嬉しいしありがたいんだけどね? 単純に気になるというか……。」
「それはもちろんお嬢様みたいな素敵な方、他にいらっしゃらないからです! 何度死んで生まれ変わろうともお嬢様に仕えに行きますよ!」
「お、重いわ……。」
「それに……、昔私が失敗して先代様の品を壊してしまったとき。庇ってくださったのがお嬢様です。あの時から私の命は、お嬢様の為に使うと決めてきました。他の方がどう思ってるかは知りませんが、私はこのすべてをお嬢様に捧げます。適切に使い潰して下されば、これに勝る喜びはございません!!!」
「だから重いわ……ッ! 領主としてもっと頑張るから軽くして頂戴ッ!」
「やです!!!!!」

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