血税~課けた分だけ強くなるTS令嬢~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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4:不穏ですわね!

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。み、見苦しい所を見せてしまいましたね、ラーフェル殿。いくらか包みますので、今日のことは忘れてくださる?」

 

「い、いえいえ。私は今ちょうどこの場に到着した身なれば。決してそのようなことは。」

 

「お気遣いに感謝しますわ。」

 

 

何とか息を整えながら、目の前の彼にそう謝ります。

 

やり手の商人に弱み、錯乱した姿を見られるなど貴族以前に人として色々まずい状態ですが、本人がそう言うのです。信じるしかありません。

 

……未だ怒りで沸騰しそうですが、思考を纏めましょう。

 

 

「ラーフェル殿。再度の確認なのですが、この品の所有権は現在私にあるということでよろしいですわね?」

 

「もちろんでございます。先代のベンツェル様がご購入され、ギーベリナ様が相続された品でございます。如何様にもお使いください。」

 

「ふむ……。」

 

 

私に美への審美眼などありませんが、素人目で見てもこの象牙多層球の出来は大変素晴らしいと感じています。そして前世の記憶で見た同様の品が文化財として保護されているというのも。明らかに東洋の文化圏の品なため、西洋の文化圏に近しいものを持つこの辺りでは受け入れられない可能性もありますが……。この商人が『秘宝』と称し、途轍もない値段を付けるのも理解できないわけではありません。

 

……そも私が父のコレクションを査定させようと考えたのは、売却し資金をかき集め、可能であれば王家や伯爵家に品を送ることで保護を賜る事です。

 

 

「使えますわね。これは売るよりも、贈った方がいい品です。正直手元に置いておきたい気持ちもありますが、我が家で万全の保護が出来るとは思えません。……ラーフェル殿、王家への伝手はお持ちですか?」

 

「お、王家でございますか? 申し訳ございません、自身のような小童な商人にそのようなものは……。」

 

「貴方が小童ならそこらの商人は赤子以下でしょうに。……では私の名代としてこちらを献上しに行く、というのはいかが?」

 

 

一瞬だが、彼の眼が変わる。すぐに張り付けたような笑みに戻るが……。ふふ、やはり良い商人の様ですね。

 

この世界における身分の差は、かなり大きいです。おそらく眼前の商人は私、いやこの周辺の男爵家全てを合わせても勝てない程の経済力を持っているでしょうが、それでも貴族に頭を下げなければなりません。身分の差というのは力の差であり、この世界では『暴力』と『権威』の差。いくら金を持っていたとしても、切り殺されれば終わりなのですから。

 

故に一介の商人が、王家と伝手を作ろうとするにはかなりの手順と運が必要になります。今持っていないとなれば……、十分な『対価』となるはず。

 

 

「わがゴトレヒト家は男爵家なれど、建国以前からの歴史ある家です。流石に上位貴族の皆様の様にはいかないでしょうが……、同じ男爵家の中では、扱いは各段に上でしょう。父の功績も、ある事ですし。」

 

「えぇ、その通りかと。」

 

「これは他言無用でお願いしたいのですが、以前から自身は『現状』を気に病んでおりましたの。折角の機会です、陛下からのお言葉を賜えれば……、素晴らしいとは思いません?」

 

 

私は戦力、もしくは上からの保護が欲しい。けれど絶対に、その理由が『私がスキルを使いこなせず弱体化している』とバレてはいけない。領民、周囲の貴族、もちろん眼前の商人にもです。

 

けれど単に戦力が欲しいと言っても、変な邪推をされてしまうだけ。

 

ならば最初から、それらしい理由を付けてしまえばいいのです。

 

『周りの男爵家ウザいからしばいて統一したいんよ。でも他のお偉いさんからちょっかいかけられるの嫌だからさ。一番偉い王様に許可取って来てくれない? ついでに兵力も借りれたら借りといて?』という話。

 

おそらく今の私、わる~い顔をしているのだとは思いますが……。眼前の彼も、大分笑顔の仮面がはがれかけていますわね。お目々の奥に強い理性、明らかに損得勘定が始まっています。

 

 

「いかがでしょう。私は父のような美に理解ある人間ではありませんが、その意義は理解できます。今すぐにとは言いませんが、『掃除』し終わればある程度の商いは確約致しましょう。……あぁもちろん、貴方が私の興味を引く品を用意できるならですが。」

 

 

さて、どう動くのでしょうね?

 

私も、貴族の娘です。絶対に明言せず、相手に邪推させてことを動かす手法は父の暴力によって学んでいます。彼もそれを理解しているでしょうが、今私達がいる場所は、我が家の屋敷。既に彼は、受け入れる以外の手段はありません。

 

何せもしこの話が彼の邪推通りであれば、断った瞬間に情報漏洩を避けるために処刑です。彼の視線の先にいる私は、この領地に限りますが司法も立法も行政も担う女なのですから。

 

ですがそれは、彼も理解しているでしょうから返答は確実にYES。

 

問題は、その後。話を受けると言った後で裏切られるか否か。

 

 

(実際に攻め込む気など毛頭ありません、戦など資源の浪費に他なりませんもの。もし私がスキルを扱えるようになり、独力で敵軍を滅することが出来たとしてもそれは同じ。)

 

 

貴族が動かす兵には常備兵や騎士もいますが、基本は農兵です。領民を徴兵し無理矢理戦わせる。そして常備兵よりも『安い』農兵は、一番最初に浪費されます。戦争になれば、私は彼らを殺さねばならないでしょう。

 

領民からすれば、自身の親や息子や友を惨殺した化け物。戦に勝利し領地を吸収したとしても、統治を受け入れてもらえるかどうか。もっと言えばしっかりと税を納めてくれるかどうか未知数です。なにせ少しでもちょろまかされれば私は死ぬかもしれないのですから。

 

故に、戦争は不利益しか生みません。みな平等に尊い命が無暗に失われるのならば、しない方がいい。

 

おそらく彼、ラーフェル殿にはいずれ話が違うと文句を言われるでしょうが、その時はなにか他の利を提示し、補完してやるしかありません。騙すことになるのは忍びありませんが、この一年。この一年凌げなければ終わり。

 

出来ることは、全てしませんと。

 

 

「……畏まりました。このラーフェル、全力でギーベリナ様のお手伝いをさせて頂きます。」

 

「ふふ、良い返事が聞けて何よりです。」

 

「では早速、お耳に入れたいことが。」

 

 

そういうと、再度懐から何かを取り出す彼。

 

これは……、市場に関する資料? 小分けですが結構な量の麦が隣の領に流れているようですが……。

 

まさか。

 

 

「はい。おそらく先代様の訃報より以前に、動いている者がございます。まずはその対処を、なさるべきかと。」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……。」

 

「お、お嬢様。お茶のお代わりはいかがでしょう?」

 

「……あぁイザ。ありがとう。お願いするわ。それと、さっきは急に呼び出したみたいでごめんなさいね?」

 

「いえ! お嬢様の為ならいつでも! たとえ火の中水の中ってやつです!」

 

 

父の負の遺産のせいで発狂してしまった私を止めるために、急遽呼び戻されたらしいイザに礼を言いながら、彼女が茶を入れるのを眺めます。何度も見て来たその動作、彼女の動きに合わせるようゆっくりと呼吸を続ければ、自然と落ち着きが戻ってきます。

 

そうです。いくら状況が最悪でも、最後まで足掻かなければならないのですから。

 

冷静に物事を俯瞰し、列挙していくべきでしょう。

 

湧き上がる感情を大きく呼吸し続けることで抑えながら、思考を整えていきます。今私がいるのは、先ほどまであの商人、ラーフェルがいたこの応接室。彼に査定を任せている間に、私は彼が用意していたらしい資料に目を通していました。

 

 

(まず、この情報の正確性。)

 

 

他の使用人を走らせ何人かの商人から情報を買い取りましたが、ラーフェル殿が提出した情報達は、かなり詳細なものであることが判明しています。おそらくですが、父が存命であれば売りつけるか献上しようと思い、用意していたものなのでしょう。

 

そして私に『問いかけられた』ことを機に提出し、私がこの『苦難』をどうしのぐかを、見ようとしている。真に自分にとって利益になるか、試すおつもりの様ですね。

 

……商人としては、逆に信用できます。ならばこちらは、利用するだけです。

 

 

(して穀物の動きですが……、西に動いている。私と同じように若い男爵。確かクレーマン家でしたか。)

 

 

森や魔物の生活圏に囲まれているせいであまりそのような気はしませんが、地図上はお隣と呼んで差支えの無い家が、クレーマン家です。

 

特に親交もなく、周辺を取りまとめる伯爵様が開かれたパーティにお呼ばれし、そこで顔を合わせた程度。それ以外には……、あちらの代替わりの際にお祝いの手紙を送ったくらいだったでしょうか? 3年ほど前、私がせっかく入学できた王都の貴族学校から退学する羽目になり、父に押し付けられた最初の仕事がそれだったはずです。なのでよく覚えています。

 

そんな敵となるかもしれない男爵家の規模としては村が二つ。我が家よりも小さい領土ですが……、一切油断できません。

 

何せ彼らは、小規模ながらダンジョンを保有しているのですから。

 

 

(ダンジョン、前世の創作の世界で見たものとほぼ同じ。魔物が出る迷宮。昔なれば少し潜ってみたいなどと言えたでしょうが、今は一切笑えません。)

 

 

あまり旨味の無いダンジョンらしいですが、小規模で管理しやすいが故に冒険者組合が支部を設置。初心者用のダンジョンとして管理しているそうです。そしてそんな冒険者たち、『外部からやって来る消費者』がいる限り、需要が生まれ経済が育ちます。資金力の差は、明白でしょう。

 

そして何より、ダンジョンがあると言うことは、冒険者たちが素材を取って来ると言うことです。

 

 

(非常に、厄介。)

 

 

ゴブリンのようなその胸に埋まる魔石しか旨味がない魔物もいますが、硬い毛皮や角を武器や防具に加工できる魔物もいます。小規模と聞きますのでそれほど良い素材になる魔物がいるとは思えませんが……、冒険者組合が支部を設置していると言うことは、少額でも資金になるということ。彼らは慈善団体ではありません、つまり何かの素材として成立しているのです。

 

その素材が武器防具になるかどうかまでは知りませんが、どちらにしろ厄介なことには変わりありません。素材が武器になるのであれば買い上げて兵を武装させれますし、ならなくても単純な経済力で装備を整えることができます。

 

しっかりと武装した常備兵や騎士たち。1対1ならまだしも、囲まれれば今の私では手も足も出ない戦力。そしてもし相手が農兵にまで装備を与えられるほど準備を整えていたとすれば……。

 

 

(村一つ、後のことを考えず搔き集めて50程。つまり合わせて最大で100の敵。……父が死ぬ前から準備していたと言うことは、全てに武装させていたり、新しく他の兵力を雇い上げていても可笑しくありません。)

 

 

父は文字通り、化け物でした。単なる兵士100程度では止めることすら不可能です。それはあちらも、理解しているはず。つまりひっくり返せる何かをもって、彼らは攻めてくるということ。あちらが途轍もない愚か者で父の強さを知らずに攻めて来たという可能性もありますが、それでも待っているのは敗北しかありません。

 

何せこちらの戦力は、私一人なのですから。

 

 

(今から傭兵を雇おうにも、市場の動きを見る限り猶予は多くても一月。その間に打ち勝てる傭兵団を見つけて雇い入れるのは……。どう考えても無理ですわね。)

 

 

傭兵団もお金がなければ生きていけません。父という最大の個がいた我が領土では、どれだけ自分たちを売り込もうとも傭兵の求め手などいなかったでしょう。つまりもっと、他の場所に行っているということ。真面な移動手段が馬しかないこの世界では、猶予までに間に合わせることは難しい。

 

それに傭兵と言ってもただの盗賊崩れである可能性もありますから、真に信用できる者たちを見つけられる可能性はより減るでしょう。

 

……う~む、やっぱ詰んでますわね、コレ。

 

 

「……よし。出来ましたお嬢様!」

 

「えぇ、ありがとう。頂くわ。」

 

 

一旦思考を止め、イザにそう返しながら茶を受け取り、口にします。

 

あぁ、良い香り。

 

なにも考えず、ずっとお茶を楽しめるような生活が出来ればよかったんですけどねぇ。

 

 

「本当に、どうしましょうかしら。」

 

「?」

 

 

つい、口から漏れ出てしまいます。

 

いつ攻めてこられるか解らず、そして攻められれば終わる。タイムリミットも一月と短く、打てる手も少ない。ふふ、思ったより追い込まれてますわね、私。

 

……一応、手段を択ばなければ打開策はあるのです。

 

現在発令している免税を取りやめ、父と同じ税率を掛ける。そうすれば一族のスキルである『血税』が動き始め、あの化け物のような力を誇った父と同じ強さを手に入れることが出来るでしょう。脱税も、あのラーフェルから金貨百枚ほど借り受けてスキルにつぎ込めば機能し、対処できるはず。

 

さすれば、数百程度の軍勢など怖くはありません。

 

そもそもの規模が小さいですから、訓練された兵ではなく農兵がメインの軍勢でしょうしね。父ならば、苦労せず倒せてしまうでしょう。

 

けれどそれをすれば、私の思い描く領主から一気に遠のくことになります。そして領民から得たこれまでの支持を失い、今後信用されなくなる可能性が高いです。

 

 

(しかも脱税されると私が死ぬかもしれない、というデメリットもありますし。)

 

 

なので納税させる、『血税』に頼るというのは本当に最後の手段です。

 

と、なれば……。

 

王家に助けを求めるには、少々距離があり過ぎます。王都から我が男爵領はちょうど往復で二月程度。馬の消耗を考えずに走り続けて、その速度です。ですが盗賊に襲われたり、魔物に襲われたり、道中他の貴族家にちょっかいを掛けられる可能性を考えると、どう足掻いても間に合いません。

 

残るのは、王家よりも近場の、伯爵家。こちらなら、どれだけ妨害に合っても往復2週間。

 

 

「確実に支援を勝ち取るために、色々用意する必要がありますわね。……そして、あちらの情報も搔き集め『こちらを攻められない』状況を生み出さなくては。情報戦ですわね。」

 

 

父が暴力犯だったことからご理解されている方もいるかもしれませんが、私もあまり小難しいことを考えるのは得意ではありません。情報戦や頭脳戦、出来るのであれば他の者に任せてしまいたい。けれど今ここでしなければ死ぬという状況で、何もせず見ているだけなど出来るはずもないでしょう。

 

免税を取っ払うのは、相手が我が領に攻め込んできたのを確認してからでも可能です。ですが伯爵家に助けを求め、相手の意欲を削ぐのは今しかできません。

 

 

(他領へ情報を流すのならば、使うのは商人。私に協力すると明言したラーフェルを扱き使うのは前提として、より多くの商人を引き込まなければなりません。虚偽の情報を持たし、あちらを混乱させる。そしてその隙に伯爵家まで飛び、交渉をして戦力と共に帰って来る。)

 

 

「……詳細は進めながら詰めていくことにしましょうか。イザ!」

 

「はい! なんでもお申し付けください!」

 

「片っ端から商人を呼んできてください! ラーフェル殿もコレクションの査定が終わればすぐにッ!」

 

 





〇税外小話

「あ、そうだ。伯爵家に行くのなら旅準備をしなければなりませんわね。イザはもう行ってしまいましたし……。誰か!」
「ここに。」
「……は、早いですわね。ちょっと伯爵様にお目通りしに行く必要がありそうなの。準備を整えてくれる?」
「かしこまりました。野営道具と1週間分の食料、金銭に謁見用のドレスをご用意させて頂きます。帰りの食料などは手間をおかけしますが、あちらでお買い求めください。移動は馬でよろしいでしょうか?」
「えぇ、一番速い子をお願い。」
「でしたら最近調教を終わらせた若い馬がおりますので、そちらを。……それとお嬢様、先代様がコレクション蒐集の為に置いてあった資金ですが、少々心もとなくなってまいりました。」
「今年一年免税したらちょっと領地が傾くかも、って話でしょう? まぁそもそもウチ裕福じゃありませんものね。ま、父のアレを売って補うから安心しなさいな! ……それと、今後も諌言お願いね?」
「御意に。」

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