演奏を終え、段ボールを脱いだ巨漢・後藤ひとりは、目を伏せていた。
「……合わせられなかった……俺のテンポが……魂のビートが……ズレていた……」
控え室には、ライブハウス特有の薄い照明と、微かな湿気と、そして――
「……おつかれ、虹夏。……で、その巨神兵が今日の助っ人?」
しれっとドアを開けて入ってきたのは、青髪ショートにオーバーサイズのパーカー、片手にベースケースをぶら下げたダウナー系の少女だった。
「うんっ! 紹介するね、リョウ! この人が今日のサポートギターの……」
虹夏の言葉が終わる前に、彼女はまじまじとひとりの体を見上げ――そして、ちょっとだけ目を細めた。
「……やばいな。ライブハウスに収まらないタイプのギタリスト……」
「ち、違うっ! ただの高校生だよっ!」
「筋肉量だけで言えば、ベースいらないでしょこのバンド……ドラムまで担当できそう……」
「わたしの立場がなくなるようなこと言わないで~っ」
リョウは静かに、しかし無遠慮に後藤ひとりの目を見つめる。
「……で、どこが恥ずかしかったわけ?」
「観客の視線が……耐えられなかった……」
「そりゃそうだろ。あんな巨体で段ボールかぶってギター弾いてたら、視線を独占しないわけがない。」
「……俺は……隠れたつもりだったんだ……」
「完全に逆効果だったよ」
リョウがぼそっと言った。
「でも……演奏自体はさ、悪くはなかったよ。合わせるのが苦手なだけで、音は真っ直ぐだった」
「……!」
「一人で弾いてたんでしょ? そういう弾き方って、癖強いけど嫌いじゃないよ」
ひとりの目がわずかに潤む。
虹夏が満面の笑みで声を弾ませる。
「そうそう! それでね、名前も面白いの! “後藤ひとり”っていうんだよ!」
リョウが缶ジュースを開けながらこくりと頷く。
「本名が“ひとり”……それもう、あだ名つける必要ないじゃん。“ぼっち”で確定でしょ」
「わたしもそう思って! だから“ぼっちちゃん”って呼ぶことにしたの!」
しばしの沈黙――
後藤ひとりの巨大な身体が小刻みに震え始めた。
「ぼっち……ちゃん……?」
「うん、そう! これから“ぼっちちゃん”!」
「……呼ばれた……」
「え?」
「俺が……“ぼっち”と……呼ばれた……!」
巨大な体躯がガバッと起き上がる。
思わずリョウが一歩下がる。
「ありがとう……!! あだ名……あだ名があるって、こんなに……!! 嬉しいッッ……!!!」
「あ、あ、圧がすごいッ!」
「名前でも肩書きでもない……魂に触れる“呼び名”……! これこそが、バンドの絆……!!」
「ちょっと落ち着いてぼっちちゃん!」
「ぼっち……ちゃん……俺は、もう一人じゃない……!!」
「一人じゃないから“ぼっちちゃん”ってなんか矛盾してない!?」
「矛盾……? いいや、これこそが青春だッ!!」
「あ、また段ボールかぶろうとしてる!!」