「というわけで、“結束バンド”としての活動、ついに本格始動ってわけだ!」
朝のファミレス。
テーブルに並ぶのはオムライス、ジュース、そして……筋肉。
「……というわけでって言うけど、まだ曲もないし……」
「メンバーも二人しかいないじゃん……」
リョウとぼっちちゃん(後藤ひとり)が、真っ当に指摘を入れる。
だが、虹夏は揺るがない。勢いとテンションが、すべてを凌駕している。
「まずはライブ! それが最初の目標だよ!」
「……ライブ、か」
ぼっちちゃんは拳を握りしめる。
厚い指と、無駄に分厚い腕が、テーブルの上のケチャップボトルを砕きかねない勢いで震えていた。
「観客の前に立つ……光の下に……!! 俺のギターと……筋肉が火を噴く時……!!」
「……というか、火を噴いたら出禁だよ」
「……で、どこでライブやるの?」
リョウの問いに、虹夏は笑顔で答える。
「もちろん、STARRY! わたしの実家だし!」
「そうだったな……。でも、あそこって……ノルマあるんだろ?」
「うん、一人一公演15000円のチケットノルマだよ!」
「高いなおいッッ!!」
※注:巨漢でも金銭感覚は庶民的
「なので、ぼっちちゃんにはまず……STARRYでバイトしてもらいます!」
「……え?」
「え?」
「え?」
三人の声が重なった。
「……いやいやいや、俺に接客とか……」
「むしろ向いてるよ、見た目だけでチンピラとか客引きとか退散してくれるし」
「出オチで防犯になるバイトって初めて聞いた……」
「明日からよろしくね、ぼっちちゃん!」
そして、翌日――
「……いかん……やはり俺は……人間社会の歯車になれん……」
ライブハウスのバイト初日を前に、彼は悩んでいた。
すでに制服Tシャツを着ているが、Lサイズでも全然足りていない。
プリントされた「STARRY」の文字が、胸板のせいで「ST A R Y」になっていた。
「どうすれば……俺は自然体でバイトに溶け込めるのか……」
葛藤の末、彼はある“秘策”を発動する。
翌日、STARRY店内
「えーと、今日から入る新人さんは……どこに……」
スタッフが振り返ったそのとき。
カランコロン、とドアベルが鳴る。
そこに立っていたのは――
タコの着ぐるみだった。
身長195cm。
全身をぬいぐるみ素材で包んだ巨大タコ。
腕が6本に増えているように見えるのは、たぶん肩から吊るされたダミーだ。
足元がスニーカーなのが逆に怖い。
「……お、おはようございます……。新人です……」
「……あ、あなたが……」
「あまり人目につきたくないので……タコとして……働きます……」
「……あの、正体バレバレなんですけど……」
「……」
「ていうか、めちゃくちゃ怖いです」
「……」
「今日、ちょうどキッズライブイベントだったんですよね……」
「……」
「今、子どもが泣いてます」
「……!!」
それでも――
彼は働いた。黙々と、真面目に、筋肉と精神で、全力で。
タコ着ぐるみのまま、物販の整頓をし、ケーブルを巻き、ドリンクを出す。
全ての動きが異様にスローで、かつ全ての動作に**「パワーがありすぎる」**という欠点を抱えながら。
途中、照明用の脚立を一人で担ぎ、片手で天井のLEDを交換したあたりで、
オーナー(虹夏の姉)が小さく「なんか……アリかも……」と呟いたとか、呟かなかったとか。
夜、帰り道
「……人の温かさを……感じた……」
「すっかり“タコの人”として覚えられてたね……」
「だが……明日も俺は、働く……それが“バンドのため”だから……」
「ちゃんとギターも練習してね!」
「もちろんだ……心の筋トレは、毎日欠かさない……!!」
「それギターの話?」
「筋トレの話だ」