無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
「ヴ、ヴィラン!?」
「バカだろ!ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「13号先生、侵入者用のセンサーは?」
「もちろんありますが……」
「現れたのがここだけか、学校全体に出たのかは分からねぇ。だがセンサーが反応しねぇなら、それをできる奴がいるってことだろ。校舎から遠い隔離空間、そこへ俺たちのクラスが入る時間割、バカだがアホじゃねぇよ。これは何かの目的があって周到に計画された奇襲ってことだ」
轟が冷静に分析する。
同じ意見だ。オールマイトが言っていた本当の意味もこれだろう。チンピラみたいなヴィランもどきや本当のヴィランと戦ったことはあるが、こんな大人数は流石にない。
果たして俺の”気“が持つかどうか。
何より、”気“の性質から一人…と言えるか分からないが、
「13号、避難開始! 学校に連絡を試せ。電波系の妨害が考えられる。上鳴。お前も“個性”で連絡を試せ」
「っス!」
相澤先生が13号先生と上鳴君に指示を出しながら、ゴーグルを装着していた。
その指示の正確さは、プロヒーローなのだと改めて思わされる。
そんな中、出久は臨戦態勢に入った相澤に声をかけていた。
「待ってください! あの数じゃいくら個性を消すっていっても……!
イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛。正面戦闘は……!」
「いいか、緑谷。覚えとけ。一芸だけじゃヒーローは務まらん」
「っし、行く---」
「おいそこのバカ。さらっと行こうとするな」
「ぐえっ!?」
準備体操をしながら会話の流れを見ていた俺は終えたので突撃しようとしたら、相澤先生の捕縛布が首に掛かった。
え、硬い。普通に死ぬ。
「でも先生。俺なら……」
「なおさらお前が
「先生!」
背後に投げ出され、13号先生に受け止められるが相澤先生が一人で向かっていった。
俺もすぐに追おうとする。
「大丈夫です。相澤さんに任せましょう! 避難しますよ!」
13号先生が止めてきて、それでも悩んだが相澤先生の言葉で思い止まる。
俺はヴィランと交戦した経験がある。しかし普通はない。
この中であるのは、ヘドロヴィラン事件で出久と爆豪、小学生の頃に
つまりその経験があるからこそ、自分の代わりに守れってことなんだろう。
でもあの脳みそが見えてる大男は、何かがやばい。
連れられる形で戦闘を見ているが、先生は異形型だけは消せないみたいだ。
あの様子なら問題ないだろうけど…仕方がない。俺は俺の役目を果たそう。
13号先生にもう大丈夫だと伝える。
関係ないけど、この人女性だったのか……いやそうじゃなくて。
「分かりました。皆さんこちらへ!」
13号先生が先頭に躍り出て、誘導を開始する。
みんなも従って入口に走っていくが---”気“を感じた。
来る。
「させませんよ」
出入口を塞ぐように黒いモヤが生まれ、靄が集まり形を成す。
不定形な顔貌に目が開き、言葉を発する。
「初めまして、我々は
「出久、爆豪!合わせろ!」
「っえっ!?」
「わーってら!!」
「三人とも!?」
何か喋ってるが、いちいち待つ必要なんてない。13号先生には悪いが、先制攻撃に限る。
”気“を解放。
慌ててフルカウルを纏う出久が並走してきて、爆豪は即座に加速していた。
狙う先は霧に覆われている部分。
同じく把握しているからか、俺の蹴りと出久の拳、爆豪の爆破が吹き飛ばしていた。
「ぐぅ……!生徒とはいえ流石雄英の生徒…!しかし、私の役目は……!あなたたちを散らして、なぶりごろす!!!!」
「三人とも下がりなさい!」
俺たち三人の攻撃を受けても耐えきったらしく、黒いモヤが一気に広がった。
---やらかした。一撃で決めるつもりだったが、これは避けられない。それに前に出すぎたせいで他の人たちを守るのを二手遅れる。
”個性“を見るに死ぬようなものではないが、とりあえず出久を背後に投げ飛ばし、俺は呑み込まれる前に気弾を上空に放ち、転送寸前で操作して。
「! あの状況で狙ってくるとは……!」
どうやら、何らかの手段で防がれてしまったようだ。
最後の抵抗も虚しく、ヒントになってくれればと思いながら俺の視界は完全に真っ暗に染まった。
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視界が戻ると、空中から落とされていた。
何が嬲り殺すだよ、普通に落下死するだろ。
”舞空術“を使用してゆっくりと落ちていくと、見知った顔があったので加速し、その手を掴んだ。
「うお…! 拳王技か!」
「おっす、まさか一緒とはな尾白くん」
俺たちは火災エリアに落とされてしまったようで、とりあえず威力を弱めた片手かめはめ波で目の前の火を消すとそこへ着地する。
「助かったよ」
「いや尾白くんなら行けただろ? 見た感じ武術習ってるみたいだしな」
「まぁね。でも助かったのは事実だしそういう拳王技も同じだろ? あと、呼び捨てでいいよ」
「そうか、分かった尾白。俺は師匠との実戦で得ただけでプロから習ったわけじゃないんだ。尾白はプロかなんかに?」
「いや俺は祖父の代から続く格闘家の家系の出身なんだ」
「家がそうだからか。なるほど…じゃ、無事に帰ったら俺と戦ってくれよ」
「戦うのが好きなんだな、拳王技」
「師匠の影響でな。試合形式なら好きだぞ。ただ---こういった命がかかった戦いにワクワクするほど非常識では無い」
尾白の背後を襲ってきたナタを持つチンピラの風貌をしたヴィランに気弾を撃ち、背後では倒れる音が聞こえて、背中合わせになる。
「そうか。じゃあそのためにもここを潜り抜けないとな!」
「ああ、一緒に行くぜ!」
不思議なことに彼とちゃんと話すのは初めてだが、格闘家と武道家という似た共通点があるからか俺と尾白はすぐに打ち解けて即席とは思えない連携プレイで向かってくるヴィランと戦っていく。
一人一人の力は大したことは無い。まともに訓練も受けてないような、力を誇示したいだけの集まりなのだろう。
じゃなきゃ学生の俺たちがまともに戦えるはずがない。
「な、なんだこのガキ!?」
「道着を狙え!」
「こいつに集中しろ!」
「だりゃあっ!」
「ハァッ!」
矢を放ってきたり、衝撃を放ってきたり、パワー重視や肉体を変化させたりしてくる様々なヴィランがいるが、狙ってくるのは好都合。
軽々避けつつ遠距離は俺が殴り蹴りで潰し、尾白が尻尾を使った連撃と足技で倒している。
いいなぁ、尻尾。くそ!俺にも生えろ!!何とかして生やせないか!?こう、何か巨大ハサミかなんかで引っ張って!
出来るなら、いや絶対茶色の猿みたいな尻尾がいい!! むしろそれ以外いらない!!
「ど、どうしたんだ?拳王技」
「尻尾触らせろ」
「本当にどうした!?」
多分”あの日“を除いて今日ほど”個性“が羨ましいと思ったことも欲しいと思ったこともない気がする。
謎の敗北感に苛まれながら、俺は怒り…いや、悔しみのかめはめ波を放った。
戦闘不能レベルの出力で。
しかしそれでもまだ多い。
「まだまだ”気“を感じる。体力はいけるか?」
「当然!」
「うし、もういっちょやってやるか!」
すぐに終わらせて皆の元に向かわないと。
頼むから無事で居てくれよ相澤先生、みんな……!!
あっ、爆豪と出久、それに轟は問題なくいけるか…。
「う、うわぁぁああ!?」
幼馴染ということもあって何も伝えられなくても咄嗟に何とかなったけど、僕たちは黒いモヤの影響で別のところに落とされていた。
空中に。
やばいやばいやばい!下は水面だ!いくらワンフォーオールとはいえ水中の中は分が悪い!
それにこの人数!かなりのヴィランがいるぞ!?
「くっ……!」
水中に沈んだ僕は即座にフルカウルを20%で維持。
「おーきたきた!」
即座に目を向けると、水中に特化した”異形型“のヴィランが来る。
サメ? 悪いけど、相手にしてる暇は無い!
両手の拳をハンマーのように勢いよく叩きつけ、開いた口を無理矢理戻させると、水面に上がるために泳いでいく。
思ったより深く沈んでる! まず…!?
「緑谷ちゃん!」
細長い何かが僕を攫い、簡単に水難ゾーンの中心に浮かぶ船に乗せられた。
こんなことが出来るのは”蛙“の個性を持つ彼女しかいない。
「ゲホッ、ゲホッ、蛙水さん!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
なんか一緒に来てる峰田くんが叩きつけられたけど、どうやらワープさせられたのはこの三人みたいだ。
とにかく情報を整理するために僕らは話し合う。
「しかし大変なことになったわね」
「あのモヤの言葉から考えるに、カリキュラムが割れてた……! 単純に考えれば先日のマスコミ乱入は情報を得る為に奴らが仕組んだってことだ。轟君がいったように……虎視眈々と準備を進めてたんだ」
「でもよ!オールマイトがきたらあんな奴らけっちょんけちょんだぜ」
「峰田ちゃん。
「大丈夫!」
あす…梅雨ちゃんの言葉はきっと間違ってないんだと思う。
でも知ってるんだ。オールマイトなら、界くんなら。
こういう時ほど、
震える手を無理矢理にでも握って、覚悟を決める。
「とにかく僕らがやることはここを突破すること。救助を待ってても戦況は傾かない。何より僕たちが無事ならもしオールマイトが来ても戦いやすくなる」
「だ、だけどよ相手はヴィランだぜ!? お前怖くないのかよ!?」
「怖いさ…! でも僕たちはヒーローの卵なんだ。いつかは乗り越えなくちゃならない。僕たち以外にも戦ってる! だから僕たちも同じだ。戦って、勝つ!」
「んのヤロォ!! 殺してやる!!」
「ガキどもが!!」
「時間が無いか…!二人とも、”個性“を教えて欲しい。ここを乗り越えるには二人の力も必要だから」
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倒壊エリアでは。
「邪魔だボケェ!!」
「おお、口は悪いけどさすが爆豪!」
「一言余計だわクソ髪!とっとと終わらせて広場行くぞ!」
「 広場? っと、避難じゃないのか!?」
あの中にいた
界のやつがあいつを見てたつーことは一番やべぇのはそいつだ。
他の奴らが何処にいるか俺らには分からない以上、誰からも目に届く中央に一度向かった方がいい。
「なるほどな!頭いいんだな爆豪!」
「ったりめえだろうが!」
界や出久も同じ考えなはず。
そう考えた俺は、切島っていったか。
そいつと共にヴィランをあっさりと制圧した。
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土砂ゾーンでは。
「しっかりしろよ……大人だろ。俺の知ってるやつはこれくらい防いで見せたぞ」
「轟くん強すぎ…!」
「……! 葉隠、いたのか…」
氷結で地面を凍らせ、ヴィランを拘束した俺は誰かいるとは思わなくて驚く。
どうやら一緒に飛ばされていたみたいだ。
「あ、巻き込まれたりはしてないから大丈夫だからね!」
「そうか、ならよかった。とりあえず俺はこいつから話を聞き出す」
「おっけー!私警戒しとく!」
”個性“が戦闘向きじゃないが、戦闘訓練の動きと今もシャドーしてる所を見る限り大丈夫だろう。
拳王技ばかりに目がいっていたとはいえ、不意に脳を揺さぶられる攻撃がどんなものか身をもって経験してる。
とにかくやるべきことをした方がいい。
見た限りじゃ本当に危なそうなのは数人程度。脅してでも聞き出す。
「てぇーい!」
前から来たヴィランを凍らせ、聞こえた後ろを見ると一人のヴィランが伸びていた。
こっちに向かってピースサインしてきているが…どうやら問題なさそうだな。
それにしても葉隠、成長してないか? 実力がそうというわけではなく、まるで目指すべき場所を見つけたように、
拳王技のやつ、何したんだ…。
「私の“個性”はカエルっぽいことならだいたい出来るわ。跳んだり舌も伸びるし身体も引っ付く。胃袋を出せるし、弱毒性の粘液も出るわ」
「分泌……!」
「後半二つはほぼ役に立たないし忘れて良いかも」
「あ、オイラの“個性”はもぎもぎ。もぎるとくっつく。超くっつく。もぎったそばから生えてくるけどもぎりすぎると血が出る。おれには弾く」
「くっつく…?それってどれくらい?」
「調子良ければ1日!!」
「それはいい”個性“だ!峰田くんがいたら、誰も怪我せず突破できるかも!二人とも、ちょっと待って!」
瞬時に頭の中で作戦を立てる。
この三人の”個性“なら、やれる!
あとは僕のフルカウルを---
「行くよ、二人とも!」
「お、おう!!」
「ケロ!!」
作戦を伝えた僕は見えるように登って立ち上がると、フルカウルを纏う。作戦は至ってシンプルだ。あす…梅雨ちゃんをここにワープさせたということは”個性“を知らない。
なら!
瞬間出力でなく、常時30%へ---!
「DELAWARE SMASH!!」
30%の力でデコピンの要領で衝撃波を放つ。
発生した衝撃波が水面に影響を及ばす。
水は強い衝撃を一転に与えればその衝撃は拡散し、再び中心に収束する。
小さな渦潮となった。
それから跳躍した梅雨ちゃんに回収され、僕の役目は、一旦終わりだ。
「(畜生!怖いくせに!オイラが居たら誰も怪我しないだって!?オイラはお前らと違ってモテたいがためにヒーロー目指してるただのエロガキだぞ!?)でも……でもよ…!」
そんな姿を見せられたら。
いい”個性“なんて言われてしまって。
頼りにされたら。
「(怖いと思っても…足が竦むような状態でも動くなんて、そうしようと思うなんて……緑谷、お前
頭からもぎりまくって水面に投げる。
シンプルなもの。もぎって、投げるだけ。
それでもそれは
「うお!?なんだコイツ!!」
「くっついて離れやしねえ!くそ!お前ら来るな!!」
「てめぇこそ来んな!!おい!!!まて!!!」
初見において最も驚異になりかねないものだ。
「(そうだよな、モテたいだとか、そんなことよりも前に。もっと前に、かっけぇヒーローになりたかったから!!お前も、”無個性“でトップになった拳王技も!オイラからしたら、眩しいくらいにカッケーんだよ!!だから---)負けねぇように、せめてかっこ悪いやつにはなりたくねえ!!」
モギモギが、ヴィランを一箇所にまとめて固めた。
「一網打尽。すごいわ……!二人とも!!」
こうして僕たちは、水難ゾーンを突破した。
そして出口を目指して動いたとき、中央広場で見たのは。
見えたのは。
肘が崩壊し両腕を折られている先生を抱え、背を向けている界くんの姿だった。
「デヤアアアアア!!」
残り一人をショルダータックルで吹っ飛ばし、”気“を最小限に抑えると俺はひとまず何かと関わりがある葉隠さんの”気“を探った。
場所は土砂ゾーンか。轟もいるし、そっちに向かおう。
情報整理したい。
とりあえず一番まずそうなのは…山岳ゾーンか?
「拳王技!」
「尾白、とりあえず”気“を探った。他のみんなは無事だ。13号先生も相澤先生もな」
「そうか、よかった……俺たちはどうする? 分かれた方がいいよな?」
「ああ、とりあえず俺は轟……っ!?」
「…何かあったのか?」
変化を感じた。
どうやら、時間は無いみたいだ。このままじゃ、やばい。
「……相澤先生の”気“が弱まってる。飯田がここに居ないから多分助けを求めに行ったんだと思う。13号先生は無事みたいだが…苦戦してるみたいだ」
「……!まずい状況だな……!」
「尾白、とりあえず隣の一番近い山岳ゾーンに行ってくれ。あっちだけ数が減る速度が遅い。出久のところには蛙水さんと峰田くんがいるし爆豪のところには切島くん。轟のところには葉隠さんがいるから問題ない。あと青山は向こう側にいるみたいだからついでに連れていってやってくれ」
「わかった…本当、頼りになるよ」
「そんなことはないが…時間が無い。頼んだぞ、尾白!」
「ああ、任せてくれ!気をつけろよ!」
「そっちもな!」
必要な情報だけを伝えた俺と尾白は手を打ち合わせ、互いに向かうべき場所へ向かう。
”舞空術“で宙に浮き、”気“を解放。
建物を無視し、一気に加速する。
そして、数秒もかからず。
倒れ伏す相澤先生。
押さえつけている、脳みそヴィラン。
頭を掴み。
叩きつけようとして。
俺は相澤先生を奪い去っていた。
「……は?」
脳みそヴィランに目を向けず、手がいっぱいついてるやつの反応も無視して、俺は先生の姿を見る。
肘が崩れ、両腕は折られ、満身創痍の姿。
重なる、その姿に。
「おい……」
自分でもびっくりするほどまでに、低い声が出た。
持っていたマントを脱ぎ、そこへ先生をゆっくりと寝かせる。
酷い怪我だ。もう少し遅れていたら、と思うとゾッとする。
「け、拳王技……に、逃げろ……!」
「先生休んでいてくれ。こいつは。こいつだけは」
---”全力“で倒す!
振り向いた俺は右拳を腰にあてがい、腰を落として指二本を曲げた構えを取り、体内の”気“を引き上げた