無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
---”全力“で倒す!
「おいおい…本気で言ってるのか? この脳無を倒すだって? 不意をついただけのくせに大した自信だな」
「本気以外にあるわけないだろうが。そろそろ
「何言って……」
その瞬間、黒いモヤが手だらけの男の傍に現れた。
「死柄木弔」
「…黒霧。どうした?13号は」
「散らし損ねた生徒が居まして…一人逃げられました。あの目の前の生徒のせいで少々苦戦してしまい…13号は動けない程度にしか削れず…」
「黒霧、お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ。さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ……でもまぁ……」
やはり”気“が一瞬で移動したから気づいたが、黒いモヤ。黒霧とやらと死柄木弔というやつは俺の前で喋っている。
ゲームオーバー? なんだ、こいつ…やっぱり”気“と似た印象を抱く。13号先生はどうなった?
”気“は無事だ。少し弱ってるが、あの感じからして生死に関わるほどではない。純粋に相性で負けたのだろう。
彼女は戦闘系のヒーローでは無いらしいし…それでも、こいつらは。
こいつらだけは、絶対……!!
「平和の象徴としての矜持ってのを折るためにも一人くらいは殺っておかないとなぁ?脳無!」
「!?」
瞬間、砲弾でも撃ったのではないかと錯覚するほどの音と速度で脳無と呼ばれた脳みそヴィランが向かってきた。
咄嗟に両腕を交差して防御しながら後ろへ飛ぶが、衝撃で吹き飛ばされる。
しかしすぐに駆け出していた。
出久たちの方に死柄木弔が向かっていたからだ。
「ちっ、邪魔だッ!」
駆け出したものの、残っていたチンピラのようなヴィランが向かってきたため、滑るように素早く移動しながら肘で鳩尾を狙い、次々とダウンさせて跳躍する。
空中から見下ろしているおかげで見えたのは
それから。
フルカウルを纏って殴りかかっている出久の姿。
「かっこいいなぁ……イレイザー…っ!?」
「SMASH!!」
そんな出久の攻撃を、脳無が死柄木弔を守るように代わり攻撃を受けていた。
出久の”個性“によって衝撃波が発生したというのに、ビクともしていない。
「効いて……」
「スマッシュって…オールマイトのフォロワーか? いい動きだが---」
「出久!」
「デラウェア・スマッシュ!!」
「ぐぁっ!?」
瞬時に把握した出久が着地した空気圧を飛ばしてくれ、俺はそれを斜め横に弾く。
脳無を中心にすると目の前に出久。側面に俺。背後に死柄木弔と三角形を描いてるため、当然斜め横に弾けば直撃するのは死柄木弔。
顔に直撃したようで顔についていた手が落ち、素顔が顕になる。
額から目元に刻まれた年齢不相応な皺に削げてカサカサに乾いたような唇や右目と左の口元に残る傷跡。何かを憎むような、鋭い赤い目。
異様な外見は見る者に悍ましさを感じさせるが、全身に7対14本の
狙い通り事が運び、俺は脳無を速攻で水難ゾーンに向けてトーキックで蹴り飛ばした。
「っ、三人とも目を閉じろ!相澤先生を頼んだぞ!!」
出来る限り大声で叫び、頷いたのが見えた。
A組ならば俺の意図を理解出来るはずだと信じ、瞬時に両方の手を開いた形で、手のひらを自分側に向けて左右から額に翳す。
「太陽拳!!」
「うおっ!?」
「ぐっ、光が……!?」
俺を中心に眩い光が発せられ、音が響く。
”気“が遠ざかっていき、太陽拳の効力が切れる頃には相澤先生も出久たちもいない。
---界くん!気をつけて!
そんな声だけが、去り際に聞こえていた。
「妙な”個性“を使うガキだな…あのスピードといい、光に関する”個性“か?なんでもいいか…脳無!!」
いつの間にか手を拾っていた死柄木弔から近い答えを出てきたことに内心で驚きつつ、水面に吹き飛ばしたはずなのに脳無がブレたかと錯覚するほどの速さで向かってくる。
俺は”気“のオーラを纏い、脳無の拳に合わせてぶつかる。衝撃波が生み出され、地面が削れた。
剛腕でのラリアットを躱し、腹部を殴る。
ドゴッ!!といった音が響き、俺は蹴り飛ばす。
吹き飛んでいく姿を見ながらも、違和感を覚える。
なんだ? さっきもそうだが、何かおかしい……何が……。
「ッ!だりゃあ!!」
咄嗟に攻撃をしゃがんで避け、胸に拳をぶつける。
しかし。
「! やっぱり…効いて、ない……!?」
「そいつの“個性”はショック吸収。打撃は効かない」
打撃が効かない…?
太陽拳は効いていたように見える。つまりこいつに有効なのは!
「だったらこれでどうだ!!」
手のひらに気弾を生成し、直接腹部にぶつけ、離れる。
あまりに大きすぎて俺の身長だと顔に届かない。
だからこそ、一番当てやすい腹に気弾をぶつけた。
「残念。そいつは“複数個性”持ちだ」
ムカつくくらい、子供が与えられたおもちゃを自慢するかのようにニヤニヤと笑いながら死柄木は言ってきた。
見れば俺の気弾を受けた部分は焦げていたのに回復しており、”個性“によるものだろう。
推測するに。
「…超再生?」
「鋭いな。コイツは素でオールマイト並の
道理でパワーが凄まじいわけだ。しかしこいつは
なら殺しても、俺が罰に問われることは無い。
俺は距離を離しながら片手を頭上に掲げ、”気“をカッター状に練り上げる。
「気円斬!!」
投げた円盤の光弾は凄まじい切れ味を誇り、脳無の上半身と下半身を真っ二つにする。
気円斬はそのまま消失し、脳無の体は、再生した。
予想通り、これでもダメか…!
「おい、今の脳無じゃなかったら死んでたぜ?だけど、これで分かったんじゃないか? 勝てないってことが。大人しくしてたら痛みを感じさせず殺してやるよ」
「そうだな……だいたい理解した。こいつには俺は”本気“を出せるってことが!!」
両拳を腰に添え、体内の”気“を爆発的に上昇させる。
白いオーラが体を纏い、俺は”気“を限界まで引き上げた。
今まで爆豪や出久、雄英に入ってからも一度も出したことがない、正真正銘の全力。
今出せる、俺の全て。幼い頃からやってきた修行の成果。
「全開で行くぞッ!!」
「……!脳無!」
片手を薙ぐようにして気弾を放つ。
脳無が死柄木弔の前に出て、黒霧はモヤにして避けたが真正面から脳無の拳と打ち合い---殴り飛ばす。
「な……っ!?」
「脳無を正面から殴り飛ばした!?」
「よーい---」
吹き飛ばした脳無が飛び出てくる。
しゃがみ、クラウチングスタートのポーズを取った俺は、地面を全力で蹴った。
「ドン!」
高速で駆けた俺は脳無の顔面に肘打ちし、振るわれた腕を着地して回避。
すぐさま連続で数発蹴り、下から腹部を殴るとくの字に曲げる。
そのまま高く跳び上がり、体を逸らすようにしながら両手を嘴のような形を作りつつ、即座にエネルギーを凝縮。
「かめはめ---波ァ!!」
脳無に向けて容赦なく破壊のエネルギーを与える。
さらに両手に気弾を生成すると、そのまんま脳無に向けて降下しながら気弾を直接与え、頭を掴んで膝蹴り。
空中で両脚で頭を挟むようにしながら後ろへ投げ飛ばし、右、左、右、下、左、と連続で遠心力を生かした蹴りを与え。
「どりゃああああ!!」
一気に空中に蹴り飛ばした。
いくら”個性“が複数あろうとあいつは空を飛べない。
瞬時に”舞空術“を使用して接近。
落ちながら反撃してくる脳無の拳を逸らし、片手で殴り、逸らし、蹴り、避け、殴り、蹴り、そういったラッシュの後、足技で叩き落とす。
着地。
「本当に頑丈だな!!」
すぐに向かってくる脳無と掴み合いになる。
俺は脳無の手を
離さない。
直ぐに持ち上げて叩きつけ、勢いを殺さず反対側へまた反対側へと数回叩きつけると、その場で高速回転しながら投げ飛ばす。
錐揉み状に回転する脳無に追いつき、容赦なく頭を踏み潰した。
”超再生“の影響で回復されるが、バク転で距離を離すと拳をギリギリのところで首を逸らして避けて胸を数発打つ。
そして左から蹴ろうとしてきた脳無の脚を右脚で相殺すると、一気に力を込めて地面にバウンドさせる。
「こいつで……どうだ!!」
そして右拳に”気“を集め、全力の一撃が脳無の頬を打ち、顔面を粉砕しながら吹っ飛ばした。
「は…?なんだよ……なんなんだよお前は!!なぜ当たらない!なぜ打ち合える!?無名のガキに!プロヒーローでもないやつに!オールマイト並のスペックだぞ!?」
「オールマイト並、か……」
「お前、どんな”個性“を持っている…!こいつは対平和の象徴の兵器だ!ふざけるな…ふざけるなよチートがァ……!!立て、脳無!まだやれるだろ!黒霧!こいつだけは絶対にここで仕留める!三人で殺すぞ!!」
「ええ、我々にとっても脅威。この男は危険すぎる…!」
「……!」
まるで癇癪を起こした
脳無が来る。
”気“を感じる。
後ろ。
ぐるり、手を回転させて離させ、
「消えた…!?」
「こっちだ!!」
「何…!?」
一番厄介な黒霧とやらのモヤに覆われてない部分を蹴り上げ、死柄木弔が手を前に出して触れようとしてくる。
体勢の悪い状態で回避するのは難しく、俺は---
「ゲームオーバーだ……!」
脳無の背後に現れ、体を抱きながら地面に叩きつけようとして、消えた。
”舞空術“で浮いたが、真下にはワームホールが発生している。
黒霧の仕業か。
「どうなってる…!? 今確かに触れたはず……なのに、なんで!!」
「さぁ、な!!」
「分身した!? 手段は選んでる暇はないようですね…!ワープゲートでそのまま引き裂く!」
相手には複数の俺がいるように見えるが、そういうわけではない。
ワープゲートに吸い込まれた全ての俺はその場におらず、脳無の腕をもう一本へし折る。
「バカな、どこから……!?」
「そいつを掴め!!」
超再生によるゴリ押しで掴みに来た脳無は、空振る。そしてまたへし折る。
今度は足を掛け、宙に浮かして腹部を殴りながら地面に叩きつけると、轟音とともに穴が空く。
”個性“が触れることが条件らしい死柄木弔が手を伸ばしてきたが、腕を引き、通り過ぎた。
「なに……がぁっ!?」
移動と停止を超スピードで繰り返すことで敵の眼に残像を映し翻弄する技。
『残像拳』。それらを複数生み出す『多重残像拳』。
それが俺が使用した『小技』であり、死柄木弔に対しては見えない速度で殴っただけ。
流石に人間相手だから脳無のような一撃は出せないが、十分な威力を誇るようで膝を突いていた。
「死柄木弔!この……!」
「遅い!!」
気弾を放出。
回避するようにモヤを展開したが、明らかに実体と証明している首部分を蹴り飛ばした。
「んで……なんでなんでなんでなんでなんでだ!!ただのガキに!ガキ一人になんで脳無も!黒霧の”個性“も!何もかも通じない!?」
「分からないのか?確かに脳無は強い。ただそいつは、そいつ自身に意思がねぇ。あくまで身体能力が高いだけで
全力を維持している俺の”気“がさらに膨らむ。
自分の限界を、超えていく。
その感情は。
ただひとつ。
「よくも相澤先生をあれほど傷つけて!13号先生を傷つけて!みんなを傷つけて! 俺は怒った…怒ったぞ!だぁああああ!!」
丸めた身体を思いっきり大の字に広げると同時に”気“がさらに爆発的に上がったのを感じ取った。
それだけで死柄木弔も黒霧も少し吹き飛び、脳無は数歩後退させていた。
「こいつでトドメだ!」
瞬時に脳無の目の前に現れた俺は顔面を鷲掴みし、相澤先生にそのままやろうとしたことをまんまやり返す。
「これは相澤先生の分!」
両手で持ち上げ、空へと回すように投げると気功波で背中を爆発させる。
「これは13号先生の分!」
跳躍し、全力で50発以上の殴打を与えると再び両拳を腰に添えて気を溜めると、かかと落としで蹴り落としながら両腕を頭上に掲げて両手に”気“を集める。
「そしてこれは! この場にいるみんなの分だ!!」
”気“が凝縮された黄色いエネルギーが両手に形成され、体を反りながら力強く一気に両手を地面に向けて放つと、放たれた気功波が空中にいる脳無を巻き込みながら地面で大爆発を引き起こした。
「ぐううっ……!?」
「なんて、威力……!!」
爆風によって吹き飛ぶ姿を見ながら俺はゆっくりと降下し、脳無の”気“を探知していた。
どうやら”超再生“と”ショック吸収“の限界が来たようだ。
しかし”気“をだいぶ消費した。これ以上の戦闘は、かなり厳しい。脳無が二体じゃなくてよかった。こいつ、何故か”気“が全然減らなかった。
終わって思ったのだが、あの時拳を振り抜いた際に一度”気“が一気に消えた。
なのに回復して、まるで、
「死柄木弔…脳無が完全に停止しました……」
「は、はは……なんだよ、このクソゲーは。聞いてないぞ…ラスボスが来るより早く潰された…。こんなバケモノがいるなんて誰が想像出来る…!脳無も脳無だ、ドクターめ……何が傑作品だ……とんだガラクタじゃないか……!ああ、ムカつく。ムカつくなぁ…!!」
まだ来るのかと、構えると死柄木弔は脱力したように俯いた。
俺の周囲にまだ”気“はない。
狙うとしたら俺だ。もう常時維持するパターンでは半分くらいの”戦闘力”しか出ないが、瞬間的になら可能だ。
一撃で、落とせる。
「完全にゲームオーバーだな…オールマイトが来ても何も出来ない…帰るか、黒霧」
「はい……おや?」
「……!!」
帰るという言葉を聞いて警戒しつつも様子見をしていたら俺の中で、今まで以上の警報が鳴る。
やばい。
何か、とんでもない”気“が発生している。今まで感じたことがない。この総量は、俺を
発生源は……脳無!
「あ? っんだよ、脳無。まだ動けるのかよ。”先生“が何か仕込んでいたか?」
「---ア……」
「脳無が声を……?」
死柄木弔も黒霧も、まるで知らないと言わんばかりの反応。
俺には、分かっていた。
脳無の”気“が変質し、”邪悪な気“に変化していく。
そしてそれは、見た目にも生まれた。
「アアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛!!!!!」
脳無の
爆発的に上昇した”気“によって俺や死柄木弔、黒霧すら吹き飛ばされた。
俺は数十歩後退程度で済んだが、二人は転ぶほどの衝撃。
「おいおい何だこれは!?本当にガラクタ掴ませたんじゃないだろうな…!? まぁいい、なんであれ復活したなら」
「早く逃げろ!!」
「あ?」
俺の警告は遅く、脳無は既に死柄木弔に
その、拳を向けて。
「…!おい、脳無!相手が違う!お前の相手は俺じゃない!」
気弾を放って無理矢理妨害したが、死柄木弔の言葉が聞こえていない。
暴走か? このままじゃ無差別に暴れるぞ、こいつ!
どうする、俺の全力はもう出せない。でもこいつを抑えられるのはこの場にいる中では俺だけだ。オールマイトはまだか?
”気“を探ってもまだ来ない。
あと一分。二分。三分? 十分?
こんなのオールマイトじゃなきゃ止められなくないか!?ヒーローに詳しくないから知らないけど! 早く来てくれ!!
「どうなって……っ!?」
「死柄木弔!!」
考えてるうちに、俺を無視して死柄木弔に殴りかかっていた。
対オールマイトの脳無と言われてるだけあって、反応が出来ていない。
あの一撃は、死ぬ。
「退けっ!!」
「!?」
咄嗟に割り込んだ俺は死柄木弔を蹴り飛ばし、”異質な気“を纏っている拳に対し左腕で”気“を纏って防御---。
「が……あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
激痛に顔を顰めるが、地面に気弾を放って煙幕を放つと、ついでに近くにいる黒霧を遥か遠くへ蹴り飛ばして無事な右手で気弾を連射すると、自爆覚悟の気功波を放って爆発で吹き飛んだ。
煙幕目的で、数弾周囲に撃ち込んで土煙を発生させる。
「お前……なんで……」
「明らかに異常事態だ。ヴィランだとか言ってる場合じゃない。お前が制御してるんだろ、何故聞かない?」
「…分かんねぇ。少なくとも脳無は目の前のやつを敵と認識している…か、自我を持って命令してた俺を狙ったか…どこか不具合が生じたか…」
「分かってないの使うなよ…。止められないってことか。あんな邪悪なオーラ出すような”個性“は?」
「ない。あったらお前を殺すために使わせてる」
「それもそうだな…一応言っとくぞ。こいつ、さっきの脳無より強い。防御しても腕折れた」
「……マジかよ…」
信じられないものを見るかのように、死柄木弔は見てくる。
正確には手で顔が見えないのだが。
いや、そっちじゃなくて向こう。俺を見てどうするんだこいつ。
「とにかく手を取れ。そんで、逃げろ。ヒーローとして見逃すのは良くないことだが、ぶっちゃけ庇いながら勝てる相手じゃない」
「何を言ってる…?俺はヴィランだぞ? すぐにでもお前を殺せる。今手を出せば、死ぬぞ。放っておけば仲間割れに出来たってのに……」
「別に助けたくて助けるわけじゃない。たまたまそうなっただけだ。それにお前はヴィランにならなくてもいいだろ。俺と来て高め合おうぜ。お前、すげえ強えだろ? お前はまだ、
ヴィランとはなぜ話してるのかは自分でも謎だが。
笑顔が自然と零れて、手を差し伸べていた。
死柄木弔。こいつの”気“は完全に”悪“に染まり切っていない。
それになんだか、最初に感じた時から思っていたことがある。
こいつは、もしかしたら
それはきっと。
「お前は…誰も助けてくれなかったんだろ?」
「っ!?」
「図星か」
「…ああ、そうだ!!!俺には誰も助けなんて来なかった!誰も来てくれなかった!誰も手を差し伸べてくれなかった!先生が、先生だけが救いだった!!」
あの日、あの時。
師匠に助けてもらえなかった、俺なんだろう。
師匠がいるから、俺はいる。師匠がいるから、ヒーローの道を歩めている。
こいつが悪いんじゃないんだ。”気“に純粋な部分があるのは、そういうことだろう。こいつの裏にいるやつが、”先生“とやらが原因なんだ。
だからこそ、手を向けていた死柄木弔の手を、俺は
「!?」
四本。掴もうとしたら何故か指が一本離れている。
もしかして”個性“が原因か。それがお前の”個性“なのか。
こいつは、誰とも触れ合えなかったんじゃないか?
意味が分からない。
脳無を倒すこの雄英生徒も。
突然暴走した脳無も。
そんな脳無から”ヴィラン“である俺を助けるのも。
なぜ俺に触れようとしたのか。
何故敵である俺に手を伸ばすのかも。
分からない。分からないことだらけだ。
分からないのに、なんだよ…これ。
俺の”個性“なら五本触れれば壊せるのに。
崩壊させられるのに。
いずれ脅威になるこいつを、殺せるのに。
触れたくない、なんて思ってしまうのは、どうしてなんだ。
こいつは、こいつは……似ている気がする。
俺のようで、俺じゃない。
嗚呼…そうか。こいつは
だから不思議と、出会ったばかりなのに感情が伝わってくる。昔救われなかった俺に、見て見ぬふりされた俺に、手を伸ばしてくれる
この一時的な安堵も、結局は無くなる。恨みが消えねぇ……。考えるだけで溢れてく…。
ヘラヘラ笑って全部救った気でいるオールマイトも、あいつが守った物を、全部全部壊したくなる。
あの姿を思い浮かべるだけで、虫唾が走る。
「お前……甘いやつだな」
「初めて言われたよ」
無理くり手を離させて。吹っ飛んで行った黒霧の元へ行く。
こいつといれば、俺がおかしくなりそうだ。
ただ自分の中に、
「今回は見逃してやるよ、ヒーロー。じゃあな。ただ---」
次は殺す。
帰るために指示を出してワープゲートに入りながら俺は最後に憎たらしいくらいに。
まるで心から
「受けて立つ」
そう言った余計なお節介をしてきやがった
死柄木弔と黒霧は完全に逃げたらしい。
これバレたら凶悪犯見逃したことでヒーローになれなくなるんだろうなぁ…。そんときはそんときでいいか。
別に師匠との”約束“を果たすことが出来るのってヒーローじゃなくてもいいし。ただの憧れだからな。
いやでも、正直あいつら居たら俺やここの人達が全員殺されるから弁明は聞いて欲しいところだが。
それに逃がした事実を知るのは死柄木弔のみだ。土煙貼ってたから黒霧には見えてないし結構遠くに蹴り飛ばしたから聴こえてもないだろう。蹴り飛ばしたってことは攻撃だし。
ナイスだ、何も考えずに行動した一分前の俺。
死柄木弔がチクったら詰むけど、その時はどうしようもないな。諦めよう。
というかそもそも俺も生き残れるか分からないからな。だからどうにかして帰ってもらった。
言い訳っぽくなるが、帰ってもらえなかったら死んでただろう。
流石にこの状況で3対1は負けるしA組全滅の危機でもある。
「さぁ……来いよ。最初から全力全開だ!!」
”気“を最大限まで引き上げた俺は、大見得を切ったのもあり爆煙から出てきた変異した脳無と対峙して。
カウンター気味の攻撃で片腕を破壊するのに成功したものの。
いくら”戦闘力“が低下していたとはいえ。