無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
相澤先生を連れて僕たちが入口に戻ると、13号先生が柱に背中を預けている姿があった。
モヤに巻き込まれなかった人たちも少し居る。
「13号先生!」
「緑谷くん…それに二人とも無事でしたか…! 先輩……イレイザーヘッドは…?」
「両腕が折られて、肘は崩れてて……先生に大怪我を負わせた脳みそヴィランは界くんがいま抑えてて!」
相澤先生を降ろしながら僕は焦りからあまり上手く回らない頭を必死に稼働させて伝えると、手を付きながら立ち上がる13号先生の姿があった。
「分かり、ました…彼は僕が……」
「でも13号先生は災害救助で活躍するヒーローで戦闘は…!」
「それでも僕は…プロヒーローですから。それに…彼のお陰で何とか動ける程度で済みました。委員長に行ってもらったので時間さえ稼げれば……」
背中が削れているにも関わらず動こうとする姿に僕は自然と拳を握っていた。
恐らく13号先生はあのモヤの”個性“で自分のブラックホールが跳ね返ったのだろう。
ワープ前に投げられたのもあって僕には見えていたが、界くんは”気弾“を上空に放ってた。
ワープ前に操作して、防がれた所を13号先生は見ていたからこの場にいるみんなと協力して退けた。だいたいそんな感じのはず。
しかし13号先生は十分怪我している。
界くんの実力はわかっているつもりだ。彼なら負けない。
それでも。
「僕に行かせてください」
「緑谷ちゃん!?」
「本気かお前!?あそこに戻るってことだぞ!? いくら拳王技が強いからといったって……!」
「デクくん!?」
分かってる。分かってるよ、峰田くん。
あの速度は今の僕じゃついていけない。それに界くんと互角くらいの力だった。
でも幼馴染としても、友達としても、彼を一人にはさせたくない。
僕の力じゃどこまで通じるか分からないけど、もしものことがあったら助けるくらいは出来るはずなんだ。
「緑谷くん……ですが…」
「い、いい……13号」
「先輩…?」
「緑谷…あいつは危険だ……”個性“を消しても、素でオールマイトクラスの力がある……」
「……!?」
オールマイトクラス!?
確かにあの脳みそヴィランの速度は凄かったけどそんな相手と界くんは戦ってるのか!? 僕らを逃がすために……!
なら尚更、行かないと……!
「だからといって…放置はできん……。お前らに任せて、見てるのもな…責任は俺が取る。だから俺も一緒に連れていけ」
「相澤先生……」
「”個性“を消すくらいは出来る…それにもしもの時も、お前らよりかは動けるからな」
「……わかりました」
「13号…お前はここに残っている生徒を頼む…他は待機だ。緑谷なら機動力に優れる…逃げるにせよ戦うにせよ、この中なら一番こいつが合理的だ。それに救援はすぐ来るはずだ」
「はい…。緑谷くん、本来は生徒である君に任せることではありませんが……どうか先輩をよろしくお願いします。ただし…絶対に無理をしないこと。勝つのが目的ではなく、生きることが目的…それを忘れないで」
「っ、はい!」
苦渋の決断といった様子で任せられた僕は、フルカウルを発動させる。
ゆっくりしてる暇は無い。いきなり30%で纏う。
「デクくん…絶対無理しないでね…!」
「くっそぉー…先生までも言うなら…緑谷、無茶すんなよ!」
「本当はついていきたいけど、頼んだ!」
「絶対三人で帰ってきて!」
「帰ってくる時は、みんな一緒じゃなきゃ嫌よ」
「気を付けてくれ」
「どうしようもなくなったらすぐに戻ってこいよ!テープを飛ばすから!」
みんなが心配して声を掛けてくれる。
麗日さん。峰田くん。砂藤くん。芦戸さん。梅雨ちゃん。障子くん。瀬呂くん。
本当に良い人たちだ。
僕は協力してもらって相澤先生を背中で背負うと、振り返る。
向かう先は、広場。
「行きます!」
声を掛けて、即座に駆ける。
距離はそれほどないから、僕の速度ならすぐ着く。
広場からはどれほどの戦闘が行われてるか分からないくらい激しい音が響いていて、移動してるのか目視出来る範囲にはいない。
ただ空中に上がって、両手から”気功波“を放ってる姿が見えていたから。
そうして僕は駆けて。
辿り着いた時には土煙が発生していて何も見えなかった。
相澤先生の指示をちゃんと聞いて警戒するようにゆっくりと歩きながら探していると
信じられないものを見た。
僕はきっと、心の中で思っていたんだ。
界くんは昔から強くて、今となってはかっちゃんや轟くんにも勝つほど凄いから誰にも負けないと。
界くんが負けるはずがないと。彼ならどんな相手にも負けないと。
僕にとって、ヒーローのような存在だから。
オールマイトより身近な憧れの人だから。かっちゃんが勝利の権化なら、彼は強さの象徴だったから。
ワンフォーオールを受け継いでもなお、彼に追いつけてないから。
だから彼は、絶対に負けるはずがないって。
そう信じていたから。
確信してたから。
僕は彼の意図を汲んで相澤先生を連れてみんなと戻ったのに。
でも。
だけど。
僕が見たのは。
血の気が引く。
嘘だ。現実だ。
彼が負けるはずがない。気絶している。
きっと作戦だ。
ならなんで動かない。
なんで身動き一つしない。
なんで。
どうして。
目の前の現実を直視しようとせず、これは夢だと。幻だと都合よく認識しようとする頭の中で。
脳みそヴィランが折れてない彼の右腕を
それを見た瞬時-----
「やめろぉおおおおおおお!!」
僕は相澤先生を置いて脳みそヴィランに殴りかかっていた。
ワン・フォー・オール---
------
数が多くて時間がかかったが、問題なく突破した俺と一緒にいた
一番やべぇやつを放っておいたらどうなるか分からない。
危ねぇから来んな、と言ったら、『だったら余計に俺を連れてけ!』と言ってきたからいちいち言い返す時間が勿体ないのもあって俺は広場に辿り着く。
土煙が多くて見づらいが、音が聞こえる。
戦っている音か。どちらにせよ、あのモヤは見えないってことは撤退したか?
来る最中にも轟音は何度か響いていたし、そう考えると界の野郎が既に終わらせたって考えた方が良さそうだな。
「ば、爆豪……おいっ!」
「あ?」
「あれ……やべぇって……!早く、早く行かねぇと…!!」
敵地の可能性があるため、互いにフォロー出来る距離で警戒していたからか近くにいた切島が切羽詰まった様子で俺の肩に手を置かれ、示す場所をみた。
見て、しまった。
胸に紅色の透明の結晶が生え、紫に近い紅色のオーラを発している脳みそヴィラン。
そして。
そんなやつに失神しているのか頭から大量の血を流しながらされるがままに
地面には血溜まりが形成されていて---
おい。ふざけんな…。
テメェ何そんな奴に負けてんだよ…お前を倒すのは俺だろ…!!
そんな間抜け面にやられるようなお前じゃねぇだろ……!!俺に負けてねェのにそんなやつにやられんなよ…!
そして脳みそヴィランが界の右腕を引きちぎろうと引っ張るのが見えたそのとき。
俺の頭の中で何かが切れて、
One For All 100%!
DETROIT---
ハウザー---
SMAAAAAAASH!!
インバクトォォ!!
「ッッ!!かっ…ちゃんっ!!」
やっぱり骨が砕けた…!!
変色してる右腕を意識から強引に逸らし、僕は咄嗟に互いに合わせて放っていたかっちゃんに目を向ける。
「わ…ってらァ!!」
この程度で倒せるヴィランじゃない。
それを知っているからこそ、かっちゃんは籠手のピンを引いて最大火力の爆破を放っていた。
この程度じゃ時間稼ぎにしかならないけど。
「切島ァ!」
「切島くん!」
「「
「お、おう!分かった!!」
僕の全力。
かっちゃんの全力。
それによって何とか吹き飛ばすことに成功したけど、界くんの傷は恐らく大きい。
気になる。確かめたい。
無事なのかどうか知りたい。
だけどこいつは、界くんを失神させるレベル…!!
「目ェ離すなよデク!」
「分かってる!!」
フルカウルを維持しながら吹き飛んだ先でゆっくりと歩いてくる影がある。
姿が見えるようになると、一切の傷がなかった。
100%でも通じなかったことに驚きは無い。
出し惜しみは出来ない。今ここで僕の体がどうなろうと。
「絶対に守る!!」
「っ、来るぞ!」
目を一切離さなかったのに。
僕たちの視界には既に脳みそヴィランは居なかった。
体が、無意識に前に跳ぶ。
その瞬間、後方で凄まじい音と共に衝撃が僕やかっちゃんを吹き飛ばした。
「ぐ……速ぇ!!」
「まともに見えないなら!!」
ワン・フォー・オール100%。
「デラウェア・スマッシュ!」
左手の人差し指で空気の圧を飛ばす。
しかし、既に姿がなかった。
それでいい。
僕たちに動きは読めない。
でも!
『いいか、出久。いくら俺らが肉体を鍛えようと結局生身で”個性“に勝つのは難しい。どういう相手かによるが、超スピードで向かってくる相手なんて目視出来なければ無理だからな』
『うん…それは分かるよ。でも、それなら無理じゃない?』
『俺みたいに”気“を使えれば問題ないが、まだお前には早い。肉体が完成しなきゃ扱えるもんじゃないからな。だからこそ、速度系のヴィランに襲われたと想定しよう。そんな相手に対しては---』
向かう先を予測しろ 特に初見時のみ、だいたいみんな現れる場所は同じだ。
「SMAAASH!!」
「ッダァ!!」
僕は折れた右腕で再び100%を使用し、かっちゃんは両掌から最大出力で背後に爆破していた。
人は簡単に背後を取られると死を覚悟する---界くんの言葉がヒントになってくれた。
衝撃で吹き飛ぶ僕らは転がり、止まるとすぐに顔を挙げる。
「っぱ、全然効いてねェ……舐められてんな」
「うん…あいつなら通り過ぎて僕たちを殴れる。界くんの速度を見てきたからちょっとは反応出来るけど、それまでなんだ」
右腕が途方もなく痛く、これ以上100%を使うのは厳しい。
対して脳みそヴィランは吹き飛びこそすれど、普通に起き上がってきてダメージが通っていない。
だけど僕たちが逃げれば、こいつはみんなを襲う。
そんなことは、させられない。
「緑谷、爆豪! やはり”個性“を消しても効果は無い!無理をせず下がれ!」
「素でこれってか!!」
「分かってます…!でも……僕らが退いたらみんなが危ない…!」
一人でこいつを抑えていた界くんの凄さが改めて分かって、まだ遠く及ばないということが突きつけられる。
違う。
今はそんなことは考えるな。後にしろ…!
思考を切り替え、脳みそヴィランが動く。
ゆっくりと足を踏み込み。
そして。
「消え……!」
「どこに!?」
居なくなった。
慌てて周囲を見渡すと、脳みそヴィランは未だに意識がない界くんの元へ辿り着いており、遅れて気づいた相澤先生が反応したけれど”抹消“が効かない以上異常な身体能力を持つ脳みそヴィランを止める術はない。
その拳が---
「危ねぇ!!」
「やらせるか…!」
「切島くんッ!相澤先生!!」
「クソがァ!!」
硬化した切島くんと足しか使えない相澤先生が咄嗟に攻撃をしたが、脳みそヴィランに振り払うように薙がれて凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
駆けつけようとして、かっちゃんが脳みそヴィランに爆破を与えている。
二人なら大丈夫だと信じ、30%で飛び蹴りを放つと、空振る。
こいつの狙いはさっきからずっと界くんだ! 明らかに自分で動くタイプじゃない!
そういった命令か本能か…!!
「く、……緑谷ァ!!」
「!?」
声に反応して振り向くと、既に拳が目の前にあった。
その拳に、紫に近い紅色のオーラが纏われている。
反応するより早く、死を目の当たりにしたかのように時間がゆっくりに感じられる。
切島くんは血は出ているけど、直接狙われたわけじゃないから軽傷だ。
相澤先生は生身で受けたせいで、意識があるのが不思議なほどだ。
今、界くんを守る人が居ない。
かっちゃんは普段と違う、必死そうな顔でこっちに向かってくるけど。
これは、避けられない。僕ごと界くんを殺そうとしている。
避けたら直撃だ。でももしかしたら、僕が盾になれるかもしれない。
これから来るであろう激痛に、無意識に目を閉じてしまう。
---かっちゃんなら、もっと強くなれる。だからそんな顔しないでよ。
ごめんなさい、オールマイト。僕はオールマイトの”個性“を受け継いだのに何も守れませんでした。
ごめん、界くん。今まで戦い方も体の動かし方も作り方も、全部教えてくれたのに。
僕の夢を、応援してくれたのに。
僕はもう---。
「…ぁが!?」
死のイメージが通り過ぎ、僕の体とかっちゃんや切島くん、相澤先生、動かない界くんの体が持ち上がる。
冷たい、と感じるのと同時に目を開けると、巨大な氷に僕たちの体は運ばれていた。
不意なことに受け身を取れず、僕だけは氷を滑りながら顔から地面にぶつかり、勢いが止まるまで擦れた。
この”個性“は!
「悪い。遅れた」
「キャッチ……!って…うそ……すごい怪我……!?」
痛む顔を動く左手で抑えながら見ると、そこには轟くんと葉隠さんが居た。
界くんは受け止めてくれたらしく、かっちゃんが相澤先生と切島くんを回収して僕と違ってちゃんと着地出来ていた。
「気をつけて! そいつ、パワーもスピードもタフネスも半端ない!」
「だろうな!!」
次々と氷結が生まれ、それを突き抜けてくる脳みそヴィランの突進を、僕らは避ける。
轟くんのお陰で何とか反応出来るレベルにまで速度が落ちているのか! それでも大量の氷結を永続的に出し続けてギリギリ…これを続けても長くは持たない…!
「っ、道理で拳王技がやられてるわけだ…! そいつは大丈夫なのか!?」
「う、うん! 大丈夫、まだ生きてるよ! でも意識がないみたいで……」
「そいつは拳王を狙ってやがる! 透明女は下がってろ!切島は守れ!」
「相澤先生はこれ以上は無理です!休んでてください! こいつは僕らで時間を稼ぎます!!」
「緑谷、お前その腕で…。お前も下がって……」
「ダメだ! さっきだって僕やかっちゃんが全力で足止めしても簡単に抜かれた! 一人が抜けたら崩れる! 大丈夫、まだ左手が残ってる!!」
「余所見すんな半分野郎! 今は集中しろ!」
「わかった。俺が氷結で動きを阻害する」
手短に会話を済ませ、影が動く。
その瞬間、既に生み出された氷が脳みそヴィランの足を固めるが関係ないと言わんばかりに氷を破壊しながら迫ってくる。
オールマイトが来るまで、この三人で持ち堪える……!!
活動限界ギリギリまで動いたらしいけど、オールマイトならきっと…!
「ちくしょう、俺は見てることしか出来ねぇのか……!」
自分がどこにいるのか、分からなかった。
俺は確か、あの変質した脳無と戦おうとして……何も、覚えていない。
どうなったんだろう。ここはどこなんだろう。
辺りを見渡しても、真っ白で何も無い。自分の存在ですら真っ白な世界に溶けてしまいそうだ。
でも俺は戻らなくちゃならない。あの脳無を放っておけばみんなが死ぬ。
オールマイトが来るまで持ち堪えられるかと言われたら、あの強さは厳しいだろう。戦闘向けの”個性“があるプロヒーローが必要だ。
出久や爆豪は問題ないだろうか。葉隠さんは轟と一緒に行動してたから問題ないはずだ。尾白は間に合ったかな…ああ、帰ったらあいつと戦うんだった。飯田は先生たちを呼んでくれたかな…他のみんなは大丈夫かな。相澤先生や13号先生たちはどうなったのかな…。
あの脳無と対峙してなければ問題ないか…。
とにかく俺が戻るまで逃げて欲しい。
そうしたら俺が、あいつを倒して、みんなと、先生と…。
……本当に、そうか?
分かってるんだ。俺じゃ、あの脳無には勝てない。
認めろ。お前は弱い。強くない。
いつもそうだ、強いと思うな。何も覚えてないってことは、俺はやられたんだ。
現実逃避するな。勝てなかったからここにいるんだろ。勝てなかったってことは弱いからだ。
俺が脳無より弱いから負けた。それが結果だ。
ここは何も無い。何も無いってことは俺がどうなったか分かるだろ。
そう思うと、俺の中でピースが埋まっていく。
寸前の記憶。
脳無の攻撃に対し、脳無の腕を全力で折りにいった俺は一撃で意識を失った。
ああ…そうか。
ようやく、分かった。
「くそ……俺は死んだのか……」
両膝を突いて、事実に気づいてしまった。
悔しい気持ちとみんなが心配という思い。
何より、師匠との”約束“を果たせなくなってしまった。不甲斐なさに怒りすら覚える。
結局”無個性“の俺にはヒーローになることも、誰かを守ることも、出来なかったのだろう。
強くなったと思った。
”個性“相手に戦えた。
でもまだ、上には上が居て。
今回の敵がそうだった。自分の力なら何とかなると思って、このザマだ。
師匠がこんな俺を見たら、破門にされるかな。
本当に、情けない。
こんなんじゃもう、師匠に会わせる顔もない…ああ、もう会えないんだっけか。
師匠、こんな不甲斐ない弟子で本当に---
「なに言ってんだ。おめえはまだ死んでねぇぞ、界」
「え?」
ここに居ないはずの声が聞こえて、俺は思わず顔を挙げた。
そんなはずはない。
幻聴だ。
都合のいいように脳が勝手に変換しただけだ。弱った心が、在り処を求めて生み出しただけだ。
そう、思って挙げた先には。
あちこちに飛び跳ねたような独特の黒髪をし、俺よりも身長のある
何より普通の人間にはない
その人物を、俺は一人しか知らない。
「し……師匠!?」
「よっ! 随分と久しぶりだな、界。元気にしてたか?」
俺が驚きのあまり尻もちを搗くのとは違い、師匠はこちらの気も知らず旧友にあったかのような様子で笑顔を作っている。
目の前の人物こそ俺の命の恩人でありながら親代わりの人でもあり、”気“や”武道“を教えてくれた師。
本名は、
そして