無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ?   作:絆蛙

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奥の手

 

師匠との会話を終えた俺は無事に現実世界に戻ってこられた。

夢の中で戦況を知っていたのもあり、起き上がるのと同時に瞬時に脳無の攻撃を無事な右手で受け止める。

痛みが麻痺してるのかそれとも”気“を纏ってるからか。

どちらでもいい。

今は自分が死ぬとわかってながらも、庇おうとしてくれた彼女を。守ってくれたみんなを安心させるべきだ。

 

「もう、大丈夫だよ、葉隠さん」

 

出来る限り安心させるように笑顔で、優しく声を掛ける。

力を入れようとする脳無に対し、俺は一歩も足が動くことは無い。

この場にいるみんなの”気“を感じる。

 

「遅くなって悪かった。出久。爆豪。轟。切島くん。相澤先生。そして葉隠さん。お陰で……死なずに戻ってこられた」

 

相澤先生の”気“がかなり弱ってるが、他に酷いのは出久だ。

脳無がひたすら俺を狙おうとしてなければ、既にここのみんなは死の瀬戸際に立たされていたかもしれない。

だからこそ。

 

 

 

状況は夢の中で見た。あとは俺がなんとかする

 

 

 

押し込もうとしてくる脳無を蹴り飛ばし、10mほど引き離す。

改めて、自分の体を確かめた。

ごふ、とちょっとした動きで鮮赤色の血を吐いてしまった。赤黒ではないから喀血。肺や気管支、そういった呼吸器のどこかをやられたのかもしれない。久し…いや修行でよくやってたから全然久しぶりでもない。臓器破裂してない分マシだ。

しかし頭はくらくらする。左腕は、”気“で補強しても治療しないと動きそうにない。

視界は血のせいかちょっと見づらいし呼吸もしづらい。

ゆっくりとしていたら俺は倒れるだろう。

応急処置をされてるとはいえ、長くは持たない。

ひとまず、邪魔になりかねない道着もアンダーシャツも脱ぎ捨てながら歩いていく。

距離はだいたい、3m。

 

「か、界…くん……」

「おせェ…よ……!」

「一人は…無茶だろ……」

「そこで見ていてくれ。長くはかからない---30秒で倒す」

 

無理して起き上がろうとする三人に声を掛けて、脳無を睨みつける。

師匠は言った。

オラを信じろ、と。なら俺は信じるだけだ。

いつだって俺は、そうしてきたから。

 

「っすぅ………ハアアァァァァ……!!」

 

足を開き、深く腰を据える。

これにより丹田からの力を全身に送り届けやすくし、力の流れをスムーズにする。

解放しろ、出し切れ、もっと深くに潜れ、引き出せ!認めてくれた。やれると言ってくれた。

そんな師匠の言葉に答えるためにも。俺を守るためにボロボロになってまで時間を稼いでくれたみんなのために。みんなを守るために。

爆発させろ!!

 

俺の”気“が上がっていく。

半分。八割。さっきの全力---そして。

その先へ。

”気“のオーラが、一気に跳ね上がる。

まだだ。倒せるほどの”気“じゃ足りない。時間をかけないような強さが必要だ。

まだ、伸ばす!!

先へ、もっと先の世界へ!

 

 

 

 

---ヒーローとして失格だと言われた。

ヒーローを目指す上で使う場面は限られていた。

ヒーローを目指すなら、まだまだ使えないと思っていた。

大事な時に動けないヒーローは使い物にならないと言われた。

問題ない時に鍛錬を続けて、伸ばした。限界を超える手っ取り早い技を。

 

でも今は仲間がいる。

今ここで出して、一気に片をつける。あとは考える必要はない。

敵は一体。

それにそうしなければこの体じゃ倒し切る前に限界が訪れるから。

俺の”奥の手“。”切り札“。

”気“を身体の奥深くからくみ上げると同時に、それをひとつの流れに乗せ、一気に爆発させる。

その技は、”奥義“ともされ、師匠に教えられた俺が持ちうる最高の技。

”気“のコントロールに優れる俺だからこそ、習得出来た技。

使用者の”戦闘力“を()()にも引き上げる、その技の名前は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

界 王 拳 ! !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”気“のエネルギーが具現化された白いオーラとは異なり、上書きされるように赤い色を発し、炎のように赤く燃え上がる。

オーラの激しさを一気に増した。

”気“の暴風とも言うべきものが荒れ狂い、両足に力を入れた瞬間、俺は脳無の背後へ回っていた。

 

「30秒で倒す!」

 

界王拳。

通常時に使用した倍率は、1.5倍。今回使用したのは2倍。

すなわち今の俺の”戦闘力“をそのまま×2する技。

理論としては体中の”気“を一度にコントロールし、”気“を体中に浸透させ筋繊維や気脈なんかを増強、増幅させるモノ。うまくいけば(りき)もスピードも破壊力も防御力も全部何倍にも上がる分、習得が何より難しい。

より簡単に言うなら、リミッターの解除。火事場の馬鹿力を自ら出すのと似たようなもの。

 

振り向きながら腕を振るう脳無の腕を避け、強く握りしめた拳を振り抜く。

誰にも被害を出さないように空中へと殴り飛ばした俺はすぐに接近。

ボロボロな肉体が反応に追いつかないため、0().()1()()()()()()()()()しながら攻撃を回避しつつ反撃をしていくが、頭突きを受けて吹き飛ばされる。体が鈍い。

なら。

さらに()()()()()

 

三倍界王拳ッ!!

 

血を吐く。

一気に加速し、目の前に向かった俺は左足で蹴り飛ばし、すぐさま背面に回って両足を上げて打ち上げる。

さらに連続で足を動かし、足刀部で胸部を数十発蹴ると回転しながら右の回し蹴り、左の回し蹴り、正面。

それから高く浮くとドリルのように回転していく。

両掌で防御されているが、関係ない。一直線に落下して水面に落とし、顔面を右手で掴むと強く叩きつける。

”超再生“と共に殴られ、吹き飛びながら回転して底を蹴り、消失している赤いオーラを再び発生させながら”気“をより強く注いで加速して拳を突き出すと一気に突き進む。

水中から出てきて、ドームの天井ギリギリで弾かれてしまい、赤いオーラを右拳に纏う俺と紫に近い紅色のオーラを纏った脳無の拳が空中で何度もぶつかり合う。

何度かのぶつかり合いのあとに、今度はこっちが折った。

 

 

「だあああああぁぁぁ!!」

 

折れてないもう片方の腕に両足を巻き付けて回転しながら捻じ曲げ、その場でバタ足のように連続で蹴りを加える。

脳無の肉体を利用し、蹴るように後方回転した俺は右手をボールを掴むような手で突き出し、腰部に添えながらエネルギーを集中させる。

 

「これで終わらせる!三倍界王拳のッ!!かめはめ波だ!!

 

体外へ放出される”気“が破壊エネルギーを手の中に形成し、青の丸いエネルギーとして凝縮される。

 

「か……め……は……め……!!」

 

まだ足りない。

より込め、いつも以上のエネルギーを集める。

それどころか、俺は残る”気“全てを注ぎ込んでいき。

 

「波ーーーーッ!!」

 

一気に片手を突き出す。

すると通常時のかめはめ波よりもさらに膨大な破壊エネルギーの三倍界王拳かめはめ波が脳無へと放たれ、あまりの出力に吹き飛ばないよう”舞空術“でその場に停止する。

直撃した。

いや、していない。

 

「ぐ、ぐぐぐ……っ!がふ……っ…!!」

 

俺のかめはめ波が受け止められてるような感覚がある。

いつもは両手で撃つ。今回は左腕が使えないレベルまで折れているせいで片手で撃つ羽目になっているが、エネルギー効率も威力も片手だと落ちる。

当たり前だ。片手で同じ威力が出せるなら片手ともう一本の手。別々で撃った方が強いことになってしまう。

片手だと威力が減るから、両手でちゃんとエネルギーを溜めて撃つのがかめはめ波。

だからこそ、今回撃っている三倍界王拳かめはめ波は威力が下がっていて押し切れてない。

それに体の負荷に俺が耐えきれていない。

元々の肉体がボロボロすぎて、その状態で負荷のかかる技を使ってるから”気“じゃ抑え切れてないんだ。

本来なら、もっと上げられるのに。

20秒。

甘く見積もりすぎていた。

想像以上に俺の体はダメージを負いすぎていて、瞼が今にでも閉じてしまいそうになる。

あとちょっと…あとちょっとなんだ。持ってくれ、俺の体!

酷使しすぎてるのは自覚している。でも超えろ、肉体の限界を! 出し切れ、これが正真正銘最後の力なんだろ! ここで負けたら全滅だ。もう俺も立ち上がれない。”気“も既に肉体もボロボロだから。

だから、もっと先へ、その先へ!!

さらに向こう側に!!

 

Plus・Ultra(限界突破)だぁあああああああ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四倍だぁああーーーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

残る”気“を全消費するどころか、無理くり捻り出した俺の”気“はさらに上昇。

界王拳かめはめ波は一回り大きなエネルギーへと肥大化し、脳無を呑み込む。

パリーン、とガラスが割れるような音が聞こえ、かめはめ波はドームを貫き、空の彼方まで吹っ飛んでいく。

 

「ハァッ……ハァッ……や、やってやったぞ……!う、ぐぅぅっ……!」

 

脳無が消し飛んだのか吹き飛んだのかそれは定かでは無いが”気“を全て消費したことにより、”界王拳“が強制的に解除される。

その瞬間、途方もない激痛とともに指一本動かす力すらない俺は”舞空術“を維持出来ずに落ちていく。

あー…落下は死ぬかもしれない。

でも、師匠。俺勝ちました。師匠を信じて、壁を超えたからちょっとの倍率の界王拳でも勝てました。

見てくれたかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫ッ! 何故って? 私が---むむ…!?拳王技少年!!」

 

ドアが壊れる音が聞こえ、最後に見えたのは大遅刻したNO.1ヒーローの姿だった。

正直もう少し早く来て欲しかったとは思ったが、オールマイトが来たなら他のみんなは大丈夫だろう。

あの野郎、人が気絶してる合間に散々体を痛めつけやがって。俺が睡眠中も”気“を纏うことを習慣にしてなかったら本当に死んでた。

お陰で”界王拳“という奥の手を見せる羽目になったし。これ、多分全身の骨逝ったな。

まぁ…いいか。生きてるなら、なんだって。

そうして、とっくに限界を迎えていた俺は、あっさりと意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

凄い、戦いだった。

”気“のオーラによって赤く染まった界くんは脳無と互角以上、いや圧倒していたんだと思う。

僕には音だけしか聞こえなくて、唯一見えたのは最後の一撃だった。

途方もない威力を出して脳無を吹き飛ばした姿。

その姿に僕はオールマイトを重ねていた。

分かってたけど、本当に強いや…。僕らが三人がかりでも相手にされなかった相手に体もボロボロなのに一人で倒してしまうなんて。

……悔しい。

僕がもっと強ければ。

僕にもっと力があれば。

彼を一人で戦わせずに済んだ。

壁を見た気がする。途方もなく、高い壁。

今のままじゃ何年かかっても追いつけない。強くなろう。

彼の隣に並べるくらい、もっと強く。

ワンフォーオールをもっと使えるようになって、もっともっと。

絶対に、追いつく。

 

そんな深い決意をしながら空中から落ちてくる界くんを受け止めようと立ち上がろうとするが、無理をしすぎた反動か戦いを終えたからか、僕は両腕の激痛に意識を失う。

その前に、オールマイトが見えた気がして。

もう大丈夫なんだと。界くんも無事助けられるだろうと心から安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

見ていることしか出来なかった。

界の野郎が強ぇことは知っていた。

だけど、ここまでとは思わなかった。

赤く染まったかと思えば、見えない速さで脳みそヴィランを吹き飛ばしやがった。

それだけじゃねぇ。その前だって、明らかに脳みそヴィランを上回っていたように思える。

長期戦を避けたくてあの”技“を使ったようにも。

追いついてきたと思っていた。

俺はやっとその段階まで登りつめたんだと。

違った。

全然違ったんだ。

界は遥か先に行ってやがった。あの勝ち方がオールマイトみたいだって思っちまった。

ふざけんな…今までずっと加減してやがったのか。”かめはめ波“って技を隠してたわけじゃなく、本当の実力まで。戦闘訓練の時すら、まだ上を隠していたのか。

追いついたとおもったらまた突き放しやがる…!

 

何よりも、あいつのことよりも、自分に苛立つ。

任せることしか出来なかったことに。動きが見えなかったことに。音しか聞こえなかったことに。

あの力を今まで見せなかったってことは、俺はそうさせるまで強くなれていなかったことだ。

これじゃあ、追いつくどころがアイツの後ろで置いてかれるばかりじゃねェか……。

…まだだ。

あの時に挫折を知った。だから俺はまだ諦めてねぇぞ。

お前がどんだけ高い壁にいるか、お陰で分かった。

俺はもっともっと強くなる。強くなって、全力を出したあいつをぶっ殺す。参ったというまで爆破してやる。

だから、オールマイト。

そいつをぜってぇ殺させんなよ…! 遅刻した分、動けねぇ俺らの分まで守り…やがれ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------

 

強いやつだとは思っていた。

個性把握テストでは”増強型“と思っていたら”無個性“だと知って驚いたが、雄英に入学したということは並外れた努力の成果なのだろうと。

何処か飄々としていて、どんなときも余裕を感じさせるところがあった。

クソ親父とは違う、何処かオールマイトを思わせるような強者の雰囲気。

最初に感じた印象は、それだった。

戦闘訓練では自分ならいい勝負が出来るという驕りと。こいつに勝たなければナンバーワンにはなれないという確信があったから戦った。

その結果、負けた。

あんなに地獄みたいな日々を過ごしたのに、全然届かなかった。

そして今の戦いを見て思った。

こいつは、拳王技は俺らより遥か先の世界にいると。

悔しいが、俺にはあの脳みそヴィランを倒すことも互角に渡り合うことも出来なかったんだ。

だが、拳王技は互角どころか圧倒して倒した。

俺はこいつに、勝てるのか…? 右の、右だけで。母さんの力だけで…本当に勝てるのか……?

違ぇ。勝たなくちゃならねぇんだ。自分は客観的に見ても強いと思っていたのは本当のことだ。

でも今は、下だと分かった。

クソ親父を否定するには、こいつを超えなきゃならない。

次戦うとき……こいつを絶対倒す。

そうしないと俺は、あいつの言いなりになっちまう……!! 絶対左は使わねえ。使わずして勝つ。

”推薦“だの”個性“なんて関係ない。

拳王技は、俺が絶対に倒さなければならない。

だからこそ、今よりもっと強くならなくちゃ勝てねえ。

もっと母さんの”個性“を高める。

もっと氷を出せるようにする。

より速く、硬く、強く。

そのうえで、絶対勝ってやる。

お前には悪いが、俺は俺のためにお前を超えるぞ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

オールマイト先生が空中から落ちていく拳王技くんを一瞬で受け止めると気がつけば私たちの傍に居た。

両腕で抱えられてる拳王技くんは生きてるのか分からないほど身動きひとつせず、全身の力が抜け切っている。

 

(拳王技少年…!ここに来る前に見えたのはやはり君のだったか…!こんなにボロボロになるまで戦って……すまない。私がもっと制限時間に気をつけていれば……ッ!!)

 

オールマイト先生はじっと拳王技くんを見つめると、すぐに状況を把握するように周囲を見て、相澤先生やついさっき意識の無くなった緑谷くんやこの場にいるみんなの怪我や具合などを確認しながら何があったのかを聞いていた。

それから少しして飯田くんが多くのプロヒーローの先生方と共に駆けつけてくれた。

先生方はすぐにバラバラになって迅速に動き出し、まだ行方が分からないクラスメイト達の捜索や、周囲の状況確認、ヴィラン残党の制圧に向かっていき、治療の必要な人たち以外は全員USJ入口に集まっている。

 

「17、18、19……両腕重傷の彼と緊急搬送された彼を除いて……ほぼ全員無事か」

 

塚内さんという刑事さんによって安否確認が行われる中で、そこに拳王技くんは居ない。

みんなが無事だったのは良かったけど、あの脳みそヴィランとの戦いの渦中にいた私と爆豪くん、轟くん、切島くんは会話に入れなかった。

緑谷くんも拳王技くんも運ばれちゃって、特に拳王技くんに関しては目の前で死にかけていたのを目撃したから、会話出来る余裕もない。

 

「とりあえず生徒らは教室へ戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」

「刑事さん、相澤先生は……」

 

声をかけてくれる刑事に、梅雨ちゃんが相澤先生のことを問いかけていた。

ヴィランに襲われたという事実もクラスメイトが病院に運ばれたということもあって、暗い顔をしているのが大半で、かくいう私もさすがに明るくいられない。

 

「イレイザーヘッドは目立つ怪我は両腕粉砕骨折くらいで、裂傷や打撲などは複数あるが後遺症は残らないらしい。13号は背中の裂傷こそあるが、命に別状はなくすぐに復帰出来るとのこと」

 

先生たちが無事ということに、私を含めてひとまず安心する。

けれど。

私は聞き出せずに居た。聞かなくちゃならないことが怖くて。

 

「あのデクくん…」

「緑谷くんは!? それに…」

「界のやつは、どうなんだ」

 

そんな思いなんて知るはずもなく、爆豪くんが聞いてしまっていた。

本当は私よりも爆豪くんの方が辛いはずなのに。

幼馴染の二人が運ばれてしまって、その辛さは私じゃ計り知れない。

…そうだ、私がこんなんじゃダメだ。

 

「拳王技くんは…無事なんですか?」

「…緑谷くん”は“保健室の治療で間に合うみたいだ」

「デクくん…よかった…」

「そうですか…!しかし、”は“っていうのどういう…」

「彼、拳王技くん…と言ったかな。正直なところ、まだ予断を許さない状況だ。リカバリーガールの”個性“を使おうにも彼の体力が回復していない。何をどうすればそうなるのか、まるで体力そのものを使い切ったような状態で…残酷なことを言うようだが…時間と医術による治療をしていくしかない。無論、今も懸命に治療しているようだが…」

「そんな……!」

「拳王技くん……」

 

そのことを聞いた私たちは青ざめていた。

予断を許さない状況。

それを意味することは、助からない可能性もあるということ。

 

「そうか……確か”気“は体力って言ってたから…だから消費してるのか。くそ…俺もついて行ってれば……!」

「尾白さん……私たちは貴方が来て下さらなければどうなっていたか分かりませんでしたわ」

「そうだって…」

「そ、それにさ!あの拳王技だぜ? きっと…」

 

尾白くんは拳王技くんが山岳ゾーンに行って欲しいと伝えられて分かれたというのは聞いていた。

それが正解だったから、悪くない。”個性“の影響で人質にされてた上鳴くんを助けたみたいだし。

ううん、今回のことは誰も悪くない。

大丈夫。

大丈夫。

拳王技くんが強いのは入試の時からずっと見てきたもん。私が大丈夫だって信じなきゃ、無事だって思わなきゃ本当に助からないかもしれない。

それに拳王技くんが言うには、”気“は体力と同じらしい。彼は私たちを守るために、あの脳みそヴィランを倒すために全部を出したんだ…だけど同じように自然に回復するって言ってたから”個性“による回復も危篤な状態さえ脱すれば可能になるかも…。

 

「……ざけんなよ……ッ!!」

 

そう、自分を鼓舞しながら私は血が出るんじゃないかって位拳を握りしめて歯ぎしりして、悔しそうに顔を歪める爆豪くんに声を掛けることは出来なかった。

---爆豪くんにとって、拳王技くんは”特別“なんだろうな、とその姿を見て思った。

私は…どうだろう?

どうかなんて、関係ないか。友達を心配だって思うのは当然だもんね。

それに、それに私まだ教えてもらってないよ。

今度は何も出来ないままじゃなくて、ちょっとでも役に立ちたいから。

だから…もうこんなことにならないために、教えてよ拳王技くん。

絶対無事じゃないと…怒るからね。私も、みんなも、待ってるから。

それにまた助けてくれたお礼も言わなくちゃならないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

黒霧のワープゲートで戻ってきた俺は自分の手を見ていた。

あいつ、名前聞くのを忘れたな…。

あのイカれた強さをした雄英生徒に手を握られて、何でか助けられて。

意味分からないやつだ。自分が死ぬ可能性の方が高かったはずなのに。

それに、最後の笑み。

殺すって言ってる奴に大胆不敵に笑うバカなんてふつー居ねぇだろ。

 

『その様子だと失敗したようだね、弔』

「先生……」

『それで、どうじゃった? ワシと先生の共作、脳無は』

「どうもこうもねぇよ…暴走したぞ。危うく殺されるところだった。そのせいで撤退だ。暴走前も一人のガキにあしらわれた」

『何じゃと!?オールマイト並のパワーにしたと言うのに……ただの学生に? 何より脳無が暴走……?そんなはずは……』

「……そういえば他に一人、やけに動きのいい生徒が居たな。オールマイトのフォロワーっぽいやつ」

『へぇ…… しかし、悔やんでも仕方ない。今回だって全てが無駄だったってわけじゃないさ。精鋭を集めよう。ゆっくり時間を掛けて』

 

我々は動けない。だから---

 

 

死柄木弔、次こそ君という恐怖を世に知らしめろ。

 

 

 

……不思議だ。前ほど心に響かない。

アイツの顔が頭に浮かぶ。

遊び相手を得たような子供のようでありながら挑戦的な笑みを浮かべてきた逆立った黒髪のガキ。

俺の中で別の感情が生まれた気がした。

それはなんなのか分からない。

でもまぁ……アイツは俺の獲物だ。誰にも渡さねえ。例えそれが”先生“だろうと。オールマイトだろうと。

だれであっても。

それだけは今の俺でもわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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