無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ?   作:絆蛙

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オリ主の拳王技くんの今の性格や強さを表現するために過去話を書くのはここだと決めてました。
主人公の存在や師匠である孫悟空がどのようにして出会ったのか、そしてなぜ時の界王神たるクロノアを出したのか説得力が出るんじゃないかと。多分。
一話でやるべき内容ではありますけど、彼の根本的な部分を出すのは強さを見てからにして欲しかったという思いがありました。
誰も彼もが強いと評してる彼ですが、本人は自分では弱いと思っている理由など。
何より異物が入り込んだら異物がさらに生まれるのは当然のことなのです。例えば我々が正史と読んでいるドラゴンボールZにおいて人造人間編で19号、20号が異なる存在として生まれたり16号が存在したり、セルが早くに生まれた(正確には別の未来から来た)ように。
その影響がこの世界にどんな影響を齎したのか。






拳王技界:オリジン

 

 

 

 

 

 

”個性“が芽生えるのは4歳から。

それは誰であろうと例に漏れず、病院で”個性“の診断で判明。もしくは突発的に目覚める。

生まれ持った"個性"は個々人のアイデンティティに直結するもので当初診断されていたものとは異なる原理だった、無個性と思いきや特定の条件下でのみ発動するタイプだった、などが後に判明するケースも存在する。

近場の病院で名前を知らないから特徴で上げるが、禿げた医者の人に”無個性“だと伝えられた。

そのことに絶望---なんて全然なく、へえー”無個性“なんだ。とヒーローに興味が全然なかった俺は他人事のように思っていた。

その、帰り道。

 

「ごめんね……”個性“がある子に生まれさせてあげれたらよかったよね…」

「俺達には”個性“があるのに、なんで界には……」

 

どうしてそんな悲しい顔をしてるのだろう。

幼いながらに不思議でしかなかった俺は、両親の手を握っていた。

 

「おれ、全然だいじょぶだよ。べつに、おれは母さんと父さんがいてくれたら、”個性“なんていらないし」

 

そう、心から思ったから伝えると両親は俺を強く抱き締めて泣いていた。

違う、違うんだよ。俺は母さんにも父さんにも笑顔で居て欲しかった。

強がってるわけじゃないんだ。

俺は、ヒーローになりたかったんじゃない。

俺は母さんと父さんが笑顔で幸せになれるように、二人を守りたいから”個性“が欲しかった。

”個性“があれば、守れると思ったから。

幼馴染の一人が、すごい”個性“を持っていたから。

 

 

 

 

 

 

 

いつもボロボロになることが多かった。

”無個性“だということはあっさりと周りにバレてしまい、悪口は全く気にならなかったけど。

いじめられっ子を守ろうとする幼馴染とそんな幼馴染を虐める幼馴染を止める俺、と。いった変な歪な関係性が形成されてしまって、その度に俺は負けていた。

どうやら”個性“があるないとじゃ体の構造が違うらしい。だいたいは体質が合うようになるとか。

多少の反撃は出来ても、勝てはしない。

両親はそんな俺を心配した。

その度に大丈夫だと答えて、ある日。

 

「噂で聞いた話だから…本当かは分からないの。ただもし”個性“が手に入るなら、欲しい?」

「いらない」

 

綺麗なまでに即答だった。

”個性“の発現がしないということは、もう手に入るものではない。

何より全く未練もなかったし、キッパリとヒーローへの道は諦めたのだ。

それで二人が危険な目に遭う、もしくは危険な橋を渡ろうとしてるならいるはずもない。

例えヒーローに憧れてても、俺の返事は変わらない。本当に目指すなら俺は、”無個性“でヒーローになってみせるから。

今は全然、目指すつもりないけど。二人に楽して欲しいし。

 

「…どうして? ”個性“があればヒーローになれるのよ?」

「界はよく、出久くんや勝己くんとヒーローごっこしてるだろ?」

「それでも、いい。おれ、本当になりたいのはみんなを守るヒーローじゃないから。しんだんされたとき、いったけど。ふたりと過ごす時間がすきだから。べつに、いい」

「そっか……」

「……わかった。じゃあ、こうしよう。一緒に鍛えようか。こう見えてもお父さん、強いんだぞ?」

「そーなんだ」

「そ、それだけかあ…」

「うふふ、この子は嘘をつくのが下手だもの。きっとそんなお父さんじゃなくて、普段の方が好きなのよ」

「うん」

「ぉ…おおお、界ぃいい!」

「ぐ、ぐるじい…!」

 

他の人からすれば、きっと変わった子供だったんだろう。

でも両親の心から笑う顔が、何より好きだった。

だから、いつまでもこうして居られたらなんだっていいとずっとずっと思った。

思って、いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”無個性“だと診断されて、多少の差別やらイジメはあったし相変わらず二人の幼馴染の間に挟まるせいで怪我は絶えなかったが、6歳の誕生日を迎えた俺は家族で山登りに来ていた。

ヒーローに全然興味が無い代わりに、俺は自然豊かな場所が一番好きだった。

これに関しては登山が趣味な両親の遺伝かもしれない。

一緒に登って、体力も力もない俺に両親はたまに”個性“を使用して助けてくれた。

特に母親の”個性“は体力を回復させる系統だったから。

そしてテントを貼ったり食事の準備をしたり本を読んだり、父さんと組手をしたり、自然を見たり、川の音や揺れる草木など。

自然を感じながら過ごして、すっかり夜となった頃。

街と違って灯りがない山は夜になったら真っ暗になる。

でも、だからこそ。

家族と一緒に開けた森の中で星を見ると、キラキラと輝く星々が綺麗で、満月も普段暮らす場所で見るより見やすくて、自分が小さく感じて、”無個性“だとか”個性“だなんてちっぽけな問題と思えた。

どんだけ凄くても、この美しさには勝てない。

自然というものに魅了されていた俺にとって、”無個性“なのは苦労するけどそれほど問題ないと思っていたから。

体は少々頑丈だし、同年代においては結構体力も力もある。

 

「おれ、やっぱりいいかなぁ」

「ん〜?」

「なにが?」

 

左右からは最も大切な家族の温もりがあって。

ふと漏れ出た言葉にどう口にすべきか考えて。

 

「うーん…こうしてまた、来れるなら。”個性“とかどうでもいいなぁって」

「界……お前、ほんと強いな! 流石俺たちの息子だ」

「そうね、界は強いわ。とっても、強くて優しい子。自慢の子よ。そのまま大きくなったらモテモテになっちゃいそう」

「あばば」

「ふふふ、じゃあまた来ましょうね。こんな綺麗な景色、いくら見てても飽きないもの---」

 

母親には抱きしめられ、父親にはがしがしと乱暴に髪を掻き乱され、そっちは力が強すぎて頭が揺れていていたけど。

母さんの言葉に俺は笑顔で答えた。

 

 

 

「あれ…?」

「うん?」

「……流れ星、かなあ?」

「そうかも。じゃあお願いこどしなきゃね。界がいつまでも健康でいられますように…って」

「じゃあおれは二人のこと願うよ!」

 

そう、()()()を見た。

あの時、見てしまった。

見たから。

いいや、もっと根本から違う。

俺が誕生日だからと山に行きたいだなんて言わなければ、それよりも前に()()()()()()()()()()---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや……違う。あれは流れ星じゃない!二人とも!」

 

覆い被さるように父さんが俺と母さんを強く押し倒した。

その瞬間、流れ星は近くに落ちて爆発。

けほ、けほ、と煙を吸ってしまって咳き込む俺の背中を母さんが摩ってくれた。

少しずつ、ちょっとずつ風によって煙が晴れていくと、それは()()()()()()()()()とも言うべきものだった。

乗り物が開いた。

白くて丸い、人が乗るような乗り物。

真ん中に赤いガラスだけがある、見たこともない乗り物。

そこから出てきたのは、()()

茶色の猿のような尻尾、だと子供ながらに感じて、次に出てきたのは成人してるであろう男性。

変な鎧みたいなのを着ていて、左右に長く伸びた翼のような肩当てが妙に記憶に残る。

空から降ってきたし、どこかのヒーローなのだろうか。

片耳から伸びる片目を覆う小型の機械は通信機だろうか。あれも見たことがない。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)みたいな、サポートアイテムかもしれない。

 

「…? なんだ?裂け目に呑み込まれたかと思えば…このチンケな星は。チッ、故障か?通信が繋がらん。目的の星でもないみたいだな…このままだと任務に差し替えるぞ……」

 

何かぼそぼそと言っていて、何のことかは分からない。

ただ不思議なことに、逃げなくちゃ行けない気がした。

バレないように、父さんと母さんの手を握って。

 

「…ん!? どういうことだ、スカウターの表示がおかしい…?次々と戦闘力が高まったり減ったり……何人か凄まじい戦闘力を持つものが居るな…ちょうどいい。そこにいるやつで試してみるか」

「…!こいつまさか…やばい!二人とも逃げろ!!」

 

俺達の存在に気づいたのか男は見てくる。

父さんは今まで見たこともないような必死の形相で前に出た。

 

「あなた…っ。すぐにヒーローを呼んでくるから…!」

「…ああ。生きてくれ。いいか、界。本当にやりたいことが出来たならそれをやり遂げるんだ。お前は強い!だから心配はない!」

「とう…さん…?とうさん…!まって、おれは…おれは…!」

 

俺の手は振り払われ、必死に手を伸ばすが子供の手で届くはずもなく、正体不明の人物と対峙する父さんの姿が目に映って。

まるで最期の会話と言わんばかりに、俺に向かってそう微笑む父さんの姿が目に焼き付いた。

俺を抱えて走る母さんに俺は父さんのことを何度も何度も言いながら。

違うんだよ、父さん。俺は強くなんかないんだ。

強いならどうして今、父さんの隣に立てないの? 俺が強ければ、俺がすごく強いヒーローだったなら。

 

そう思って、少しすると”生命エネルギーを纏う個性“を使って応戦したあと、何らかの()()()()()に胸を貫かれた父さんの姿を俺は見てしまった。

血が吹き出て、両膝を着いて倒れ伏す姿に目を見開いて。

考えが、まとまらなくて。現実だと、思えなくて。

 

「あ…ぅっ…!?」

 

すぐに衝撃が体を襲った。

受身を取る技術は学んでいたため、多少のダメージで済んだが母さんの姿を捉えると足から血が出ている。

距離はそんなに離れてない。

山じゃなければ、逃げられたかもしれないのに…。

俺のせいだ……。

 

「かあ、さん……」

「う、うう…に、逃げて、界…!生き延びて……私たちの、分まで……!」

 

ダメだ。

ダメだ。

ダメだダメだダメだ。

汚れることも怪我する可能性も関係なかった。

情けなくても這いつくばって、必死に手を伸ばして、せめて母さんだけは。

母さんだけは俺が父さんの代わりに守らなくちゃ、とその手を掴んで。

 

「おっと」

 

掴め、なかった。

目の前で腕がなくなり、大量の血が降り掛かる。

視界から消えた腕が、ぽと、と音を立てた。

声が聞こえた場所。

位置。

意識が遠くなり。

無意識に視線が辿り、容赦なく、俺の前で。

母さんが殺されていた。

 

「あ……ああ……」

「この程度か。もう少し喚いたり命乞いをする姿が見たかったものだが…順番を間違えたな。先にガキを殺すべきだったか」

 

もうこの男が何を言ってるかどうでもよかった。

動かない父さん。

目の前で殺された母さん。

俺は必死に、母親の体に触れて。

本当に息絶えてしまったのだと、理解してしまった。

 

「ふんっ!」

「が……ッ!?」

 

ショックを受けるより早く、俺の体が吹き飛ぶ。

痛い。苦しい。

なんで死んでない?

加減、されたのか。

ああ、そうだ。俺は脅威でもなんでもないんだ。”無個性“だから。

”個性“がないから。

”個性“があれば。

力があれば守れたのに。守れたはずなのに。

俺は弱いんだ。弱いから、守れない。弱いから何も出来ない。

死にたい。

俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ---。

俺が居なければ俺なんかがこの世界に居なければ母さんも父さんもこいつに殺されなかった。俺を守ろうとしたから殺された。

そして俺は、何も出来ないから殺される。

弱くて何の力もなくて何の脅威もならなくて何も持ってない。

ふつふつ、と怒りが湧いてくる。

 

「目の前で家族を殺されれば泣き叫ぶかと思ったが……思考が追いついてないだけか。普通ならば錯乱するはずなんだがな。心配するな、すぐに両親の元へ連れて行ってやる」

 

死ぬ。

死ぬ。

死ぬのか。それもいいかもしれない。

ヒーローになれず、両親を守れず、仮に”個性“があっても、子供の俺じゃ勝てない。

でも”個性“があればちょっとは嫌がらせ出来たかもしれない。

…ふざけるな。

”無個性“だろうが”個性“だろうが関係ない。

自分の中で、初めての感情が浮かび上がる。

そうだ。

そうだ。

そうだ!!

俺は。

俺はこいつだけは---絶対に許せない。許しちゃおけない。両親を奪ったこいつを、()()!!

その瞬間。

頭の中が、ぷつんと切れたように真っ白になった。

 

「……な、なに……!?立ち上がれないほどには攻撃したはず…しかも急激に戦闘力が……こいつ、まさか()()()()()()()()()()出来るというのか…!?」

「う…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!」

「ぐおっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、男が吹き飛んでいた。

誰か、助けに来てくれたのだろうか。

誰も居ない。

じゃあ一体何が起きたんだろう。体に力が入らない…。というより体力がもうない…?

”個性“の暴走?

ありえない。正真正銘”無個性“だ。仮に”個性“にしたって不可解すぎる上に、6歳で突然目覚めるなんて主人公みたいなことがあるわけがない。

それに自分が何をしたかという状況を理解出来ないのではなく、何をしたのかが分かっていない。

仮に”個性“ならそうなった原因が残ってる可能性が高いから。増強型にせよ、両親の”個性“を考えるなら負荷が掛かって体が耐えきれないはずなんだ。

なら、なぜ。

 

「こ、このガキィ……!! 嬲り殺すだけじゃ気が済まん! どうせこんな星に住む奴らは殺すんだ。絶望というものを見せてやる…!!」

 

動かない体で男を見ると、腹を両手で抑えながら強く睨めつけてくる。

俺が、やったのか……?

 

何が起きたか理解出来て居ない間に、男は殺せるチャンスだというのに何もせず、空を見上げた。

突然の行動に理解できず、思わず視線を向けた。

---満月?

 

一体満月がなんなんだと男を見ると、まるで空に浮かぶ満月に魅入られた様子で、どう見ても正気とは思えなかった。

俺を一切見ることなく、じっと見ている。

俺は必死に、立ち上がろうとしていた。

だって、言われたから。

生きろと。生き延びてと。

”無個性“の俺に出来ることは、それだけだから。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

突然の叫び声に思わず驚いてピク、と体が跳ねる。

無性に嫌な予感を感じた俺は男を見ると。

人の声というよりは野獣の雄叫びをあげる男の体はみしり、と軋みをあげて肥大化する。

膨れ上がった筋肉と毛深くなっていく皮膚。その顔は、猿の様に変化を始めていく。

体格も一回り、二回りと肥大化していき。次第には山をも超えるような人智を変えたサイズへと変貌した。

その姿は、まるで。

 

()()の…ばけもの……?」

 

”個性“にしては異質。

仮に”個性“だとしても父さんや母さんを貫いた”エネルギー“が説明出来ず、俺はあまりの恐怖に立ち上がったばかりだと言うのに尻もちを搗いた。

 

「ひ……っ」

 

ちょっと動いただけで、地震のような揺れ。

木々はあっさりと倒れ、視界から母さんや父さんの姿が見えなくなった。

逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。

怖い。怖い怖い怖い---!

さっきとは何か違う。震えが止まらない。怖くて仕方がない。

失ったショックより両親を殺された怒りと、許せないという気持ちが勝っていたから平気だった。

でも今は、違う。

体の底から震えが止まらなくなって。

それはまるで、蟻が恐竜と対峙したような、本能的な恐怖のように感じられた。

理性がないのか、狙われはしてないようで。

体は逃げようと勝手に動いてくれた。もしかしたら、脳が両親の言葉に従おうと動かしていたのかもしれない。

ゆっくり、ゆっくりと両手と足を必死に動かして下がろうとする。

 

「う…ぎっ……!」

 

ぶんっ、と尻尾が目の前で叩きつけられ、衝撃で吹き飛ぶ。

背中に木が強打し、あまりの痛みに咳き込んだ。

息ができない。

苦しい。直撃もしてないのに。

それに何か、視界が赤くなったような……。

 

「……あ」

 

多分、頭から血が出ていた。

鏡がないから分からない。

当たってすらいないのに、体の何処かが損傷もしたんだとうっすらわかった。

必死に酸素を取り入れながら、木を伝うようにして歩く。ドラミングをしてるから、バレてない。

でも殺される。勝てない。ヒーローを呼ばないと。どうやって。

なんだあれ。あんなの”個性“じゃない。どうしたらいい。

生きなきゃ。殺さなきゃ。無理だ。仇を討たないと。

できるわけがない。

”個性“があれば。

違う。

”個性“にしては強すぎる。それに、感じられる圧力が、数十倍にも上がってる。

…圧力?

どうして俺、そんな単語が……。

今は考えるな。このままなら、何とか…森は慣れてるから。

逃げれる……。

 

「え……」

 

そう、思ったのに。

獲物を見つけたようにぎろり、と俺を捉えた大猿は巨体に似合わない俊敏な動きで頭上を超えて、目の前に着地した。

揺れと、間近で感じられる圧にその場で倒れてしまう。

”格“が違う。

”個性“相手に立ち向かうとは、全く別だった。

文字通りの、怪物。

子供という観点を捨てても、恐怖に支配されてしまう。

 

「グギャアアアアア!」

 

巨大な拳が飛んでくる。

…死ぬ。

今度こそ悟った。

俺が弱いばかりに、助けられた命すら無駄になってしまう。

無駄死になってしまう。

嫌だ。死にたくない。

母さんと父さんの死が無駄になるのが何より嫌だ。

俺は生きて生きて、誇れるようになるまで生きなくちゃダメなのに。

それが、唯一二人に返せることなのに。

死ぬ寸前までも、自分のことでもなく、死にたいというわけでもなく、俺が生きるを願ってくれた。二人の最期のお願いだったのに。

神様…もう”個性“なんてどうでもいい。だからせめて、せめてこの場を打開出来る力を……。

 

「っ、ああああっ!!」

 

無意味だと分かってながらも、俺は恐怖心を押し殺して生きるために立ち向かって。

死を目前として、痛みに堪えるように反射的に目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

何かがぶつかったかのように、音と衝撃波が走り、痛みが一切来ないことに違和感を覚える。

痛く、ない…? それに、なんだろう…とっても温かい……。

まるで両親に抱きしめられてるかのように、安心出来る……。

 

「---よく頑張ったな。すげえぞ、おめえ」

「……え」

 

誰かの声が、聞こえた。

優しさに満ちながらも、力強さと思いやりを感じる。

目を開けた。

ゆっくりと歪む視野が戻っていき、尻尾が見えた。

あの時見た、男の尻尾と同じ猿のような尻尾。

でも恐怖を感じることも危険だと思うことも怖いと思うこともなくて。

オレンジ色のズボン。黒と白のブーツ。()()()()()に結び目のある白色の帯と両腕にはピンク色のリストバンドらしき物。

ツンツンと逆立った独特の黒髪に、背中には()()()が背負われている成人男性が、()()で大猿の拳を受け止めていた。

その姿はまるで、ヒーローみたいで。

助けられたのだと理解出来た。

 

「まだこんなに小せえのに”大猿“に立ち向かおうとするなんてよ。勇気があんだな。しかも自分より遥かに”戦闘力“が高え相手を前にして前に出ようとするなんて生半可な覚悟じゃ出来ることじゃねえぞ」

「あ……あぶない…!」

 

何故かこんな状況なのに俺の方を見ながら褒めてくる男の人に混乱しながらも大猿のもうひとつの手が掴もうと伸ばしてるのが見えた。

どんな”個性“か分からないけど、助けてくれた人まで巻き込みたくない俺は、前に出ようとして。

 

「ふ……だあっ!!」

「う、そ……」

 

あの巨体が、山を超えるような大きさの巨体が、目の前の男の人が動かすだけであっさりと持ち上がって打ち上げられた。

”怪力“じゃ説明出来ない。

直撃せず衝撃だけで俺が死にかけるということは人間じゃ耐えられないほどの威力のはずで。

巨体ということを考えても片手で吹っ飛ばせるものでは無い。

しかも、遥か彼方まで吹っ飛んだ。

多分、雲の上。

何より、感じられる”圧力“が大猿とは比べ物にならない。

 

「まだ来たばかりであんまり分かってねえけど……”気“を見りゃだいたいわかる。すぐに終わらせてやっからそこで待ってろ」

「……あ」

 

ポン、と頭に手を置かれる。

知らない相手だ。見ず知らずの人なのに、俺は不思議と安心が出来てその場で座り込んだ。

そして次の瞬間、男の人が()()()

 

「……!?」

 

目の前で消えた。

怪力だけでなく、そんなことが出来るということは”個性“では無い。

すぐに周りを見渡すと、何か音が聞こえてきて、ふと上空を見ればさっきの大猿が落ちてきていた。

自分からでも落下によるものでもなく、まるで誰かに叩き落とされたような。

 

「よっと」

 

そして男の人はさっきまで居なかったのにいつの間にか居たのか、大猿の落下地点に居て。

片手を頭上に掲げると、大猿の背中を受け止めて落下の衝撃を簡単に殺していた。

しかも、男の人が尻尾の部分に目を向けると、どう言った原理なのか尻尾が吹き飛び、空いている手で黄色いエネルギーを撃つと消し炭にしていた。

ゆっくり、ゆっくりと大猿から人間の形に戻っていく男を道着の男はほい、と軽くその場に投げ捨てる。

 

「ぐ、ぐううう……ば、バカな……」

「おめえ”サイヤ人“だろ? ()()()()()()()()()()()()()()()()の他にオラたち以外にもまだ生き残りがいるとはな…何しに来た?」

「た、頼む……見逃してくれ……お、俺はたまたま迷い込んだだけなんだ…。お、お前も俺と同じ…同胞だろう? な、なら目的も同じはずだ…!他惑星に攻め込み、その星を制圧して異星人に売りつけることを生業とするのが俺たちサイヤ人だろう…!」

「オラは別にそんなの興味ねえよ。それにおめえを助けるかどうかはオラが決めることじゃねえ。あいつ次第だ」

 

何かを話してるかと思えば、また道着の男が消えた。

いや、目の前に居た。俺もいつの間にか尻尾がなくなり、倒れてる男の近くにいる。

もしかして、速すぎて視認出来てないのでは。

たしか、オールマイトがめちゃめちゃ速くて見えないし。

 

「おめえはこいつをどうしたい? 襲われてたのはオラじゃねえからな。あの様子と…消えた”気“から思うに、誰か殺されたんだろ?」

 

そうだ。

どうしてそこまで分かるか分からないけど。

俺の両親はこの男に殺された。俺も死にかけた。

…殺さなくちゃ。許せない。許しちゃダメなんだ。

 

「た、助けてくれ……!俺はまだ死にたくない……!」

 

どの口が言うのか。

もう怒りでダメになってしまいそうだった。

拳を強く握って、復讐相手である男を見て。

俺は、こいつを……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けて、あげてください……」

 

殺せ、なかった。

だってそれは、両親が望んだものじゃなかったから。

殺したいくらいに憎い。でも殺したから両親が帰ってくるわけじゃない。意味無いんだ。

俺の力じゃ殺すことも出来ない。

何より俺の代わりに、道着の男の人に殺させたくない。

もう、十分だ。

見た感じ動けそうにないし、ただ二度と見たくない。

 

「…そっか。本当にいいんだな?」

「はい……」

「分かった。そういうことだ、とっとと自分たちの星に帰れ。もう悪さすんじゃねえぞ」

「あ、ありがとう……ありがとう……」

 

見逃すと分かったからか、男は俯いて震えていた。

死にたくないなら、なんで殺した。

その気持ちが分かるなら、誰かを奪おうとしないはずだ。あんなに惨たらしく、あんな軽薄に。

幼い自分にはその気持ちを上手く表現出来なかったが、ただただ目の前の男に対して殺意が失せ、虚しさというものだけは感じていた。

そして、男は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「などと言うと思ったか! バカめ、死ねえッ!クソガキがああ!」

「!?」

 

俺に手を向けて、エネルギーを放ってきた。

騙された。演技だったのか。

避けようと思っても、反応できない。

死ぬ---!

 

「……は?」

 

けれど、そのエネルギーは近くにいた男の人が握り潰していた。

ポカーンという表現が似合いそうな程に顎が開いて呆然とする男と、展開の切り替えが速すぎて驚きのあまり思考が追いつかない俺だが。

 

「オラにそんな手は通用しねえよ。おめえのようなやつは星の数ほど見てきた」

「く、くそ……!ふざけるな、俺は宇宙最強の戦闘民族だ…! そんな俺がガキに舐められたまま帰れるか!この星を滅ぼしてやる…!!」

「そうか……じゃ、こっから居なくなりゃ出来なくなるな!」

 

そういった道着の男は、一瞬手がブレると手に何らかのリモコンらしきものを持っていた。

 

「!?な、ない…!」

 

倒れ伏せている男が気づいたのか自分の体に触れていた。

道着の男は使い方を知ってるのかリモコンを操作して乗り物を開けると、軽々と男を投げて乗り物を閉じていた。

ドンドン、と叩く音が聞こえる中で、近づいた道着の男は軽々と両手で持つと、体を反らして。

 

「じゃあな! もうこの星に帰ってくんなよ!」

 

ブォーン!と物凄い速度で斜め上に飛んでいく乗り物はどこに行ったか分からない。

少なくとも星になったのは確実だろう。

…視認出来ないくらい速いから本当に生きてるか微妙なところだけど、呆然と眺めてることしか出来なかった。

 

「さて、と…大丈夫だったか?」

 

声を掛けられる。

ちょっと、訛った喋り方。

もう色々と分からないけど、なんとか声を絞り出した。

 

「は、はい……たすけて、くれて…ありがとう、ございました……」

 

助かった。

生き残った。

そう、頭が理解して力が抜けるのではなく現実を直視する。

ふらふらとした足取りで、大猿が暴れた木を退かそうとする。

…通れない。

 

「…っと」

 

木が軽々と退かされ、俺は頭を下げた。

行きたいところがある。

もう、手遅れだと分かってるし見つかるか分からない。

足を動かして、痛む体を強引に動かして。

 

「……かあ、さん……とう、さん……」

 

見つけられたのは、結局荷物だけだった。

今度こそ力が抜けて、両膝が折れる。

喪ったものは帰ってこない。今更になって、両親を喪ったことに悲しみや寂しさ、空虚感、無力感、後悔、絶望。

そういった負の感情が浮かび、俺は必死に涙を堪える。

泣いたらダメなんだ……強い俺で居なくちゃ…父さんがそう言ってくれて……。

 

「そっか……残ってた二つの”気“はおめえの両親だったんか…。オラがもっと早くに()()()()に来て駆けつけてりゃよかったな…すまねえ」

「い…え……だい…じょぶです……」

 

そう、この人は悪くない。

むしろ助けてくれたことに感謝こそすれど、他に何かを言うのは違うんだ。

悪いのは全部、俺だ。

俺が弱いから。強ければ。もっともっと、強かったら……。

 

「今のオラにやれることはねえ……でもよ」

「……あ」

 

ごつん、と俺の額が道着の男のお腹にぶつかった。

抱き寄せられたのだと、ゆっくりと理解する。

暖かい。暖かくて、人の温もりというものが大切な存在を喪ったということをより感じさせて。

必死に抑えて。抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて---

 

「自分の気持ちを無理に押し殺す必要はねえさ。泣きたい時は泣け。オラの体でいいなら貸してやる」

「う……ううぅぅぅ……わああああああ---っ!!」

 

今まで抑えていた感情が一気に決壊した俺は、この日生まれて初めて俺は虐められても悪口を言われようとも泣かなかったのに、大泣きした。

男の人は、見ず知らずの子供が泣きつくのを気にせず、ただ慰めるように静かに背中を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

「ご、ごめんなさい……」

 

あれから少しして、俺は鼻をすすりながら出会ってそんなに経ってなく、助けれてくれた人の体に泣きついたことにちょっとした羞恥心を感じながら少し落ち着きを取り戻した。

泣いたら、少しはマシになって。

 

「気にすんな!オラも大事な人と会ったとき泣いちまったからな。おめえくらいの歳だと仕方ねえさ…」

 

とても優しい目を向けてくれる。

改めて男の人を見ると、体が鍛え抜かれている。

それに見ず知らずの俺に何も求めることもなくて、見返りを求めず助けてくれるような優しさ。

それに思い返せば、簡単に数分前の記憶が蘇る。

俺を助けてくれた人はとてもかっこよくて、とても強くて、何処か穏やかで汚れを感じられず、無邪気のように感じられるけど落ち着きはあって。

今までの喋り方からしても、様子からしても明るい人なんだろうと思った。

圧倒的な強さ。他者に優しく…甘いとも取れるけれど、決して油断はなく、ごく自然な形で。一切の嘘が見られない。

素直で真面目、とでも言うべきなのだろうか。純粋とも言えるかもしれない。

総括すると、穏やかな心を持った強い人。

 

「あの、あなたは……?」

「ああ、そういや名乗ってなかったっけ。オラ、”孫悟空“ってんだ。”カカロット“とも呼ばれることはあるけど、好きなように呼んでくれ」

「悟空さん……おれ、拳王技界って言います…」

「強そうな名前だなあ、よろしくな界!」

「は、はは……おれ、全然ですけど……まもれなかったし……」

 

無力感がすぐにやってくる。

ほんと、何やってたんだろう。

両親を守りたいと思っていたのに、ろくに鍛えもせず”無個性“を言い訳にして。

ちゃんと修行したら、何か出来てたかもしれないのに。

そして、生き残ってしまった。

遺言を守るためにとはいえ、これからどうすればいいのかも分からない。

ただ分かるのは、生きないと。

……強く、なりたいな。

 

「…なあ、おめえは強くなりてえんか?」

「え……っ? ど、どうして…」

「ん〜何となく…な。そう思った気がしてよ」

「……おれ、両親をまもれませんでした」

「うん」

「おれがよわいから…つよくなろうとしなかったから……とうさんも、かあさんも…殺された……だからおれ、もう大切な人を喪いたくない……まもりたいから……つよく、なりたい…でもおれ、”無個性“だから。つよくないから……なにも、できない……」

 

弱音を吐いてしまう。

”個性“が優劣をつけてしまうから、何も出来ない。

”個性“があれば、と思ったことはなかったのに。

今日初めて、”無個性“ということが嫌になった。無力な自分が、嫌いになった。

ああ、また、泣いてしまいそうだ。

 

「……じゃ、オラが修行つけてやる」

「へ……?しゅ…しゅぎょ?で、でもおれ、よわいし……”無個性“だし…」

「そんなことねえさ。その”無個性“ってのが何か分かんねえけど、界は強えぞ? あんな”戦闘力“が大きく離れたやつに立ち向かって、大猿相手に立ち向かおうとして……何より、一瞬だけおめえはとてつもないほどに”気“が上昇してた。

オラも色んなやつを目にしてきたけど、あんとき感じた”気“にオラすげえわくわくしたぞ!こりゃいつか、もっと強くなるってよ!」

「あっ……」

 

ついさっき、聞いた言葉が頭の中で思い返された。

 

界……お前、ほんと強いな! 流石俺たちの息子だ。

 

そうね、界は強いわ。とっても、強くて優しい子。自慢の子供よ。

 

あの乗り物が落ちてくる前に言われた、言葉。

たまたまだと思うけど、俺の目からまた涙が溢れる。

この人も、両親も、俺を高く評価しすぎなんだ。

でも……でも。

…なんだか胸が痛い。

自分の中から消失したはずの思いが、再発したような。

胸の高鳴りが、収まらなくなる。

ああ、そうか。

今、ようやく分かった気がする。

 

「おめえならもっともーっと強くなれる! オラが保証してやる! だからさ、界さえ良けりゃオラに修行つけさせてくんねえか?」

 

そう言って、手を伸ばしてくれる。

俺はきっと、弱いから。

強くなりたいから。

だからこそ、俺を助けてくれた時、この人がヒーローだと感じた。

この人がヒーローみたいだと思って。

この人みたいになりたいと思って。

この人みたいに強くなりたいと思って。

この人に()()()んだろう。

だから。

だからこそ。

その手を、俺は取って。

 

「…っ、お願い……します……!」

「ああ! おめえがどんだけ強くなるか、オラにも想像がつかねえ…くう〜そうと決まれば、今日は休まねえとな。そんで、まずはゆっくりでいい。心の整理をつけるんだ。

そんで前に進む覚悟が出来たら修行してやっからな!」

「は、はい……」

「って、ハハ…その泣き虫なとこは、いつかは治さねえとなあ」

「な、ないでまぜん……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、これが始まりだった。

この時俺は、この人に出会って。

孫悟空というサイヤ人に出会って。

宇宙一強いヒーローに出会って。

憧れて。

”無個性“でもヒーローになると決意して。

大切な家族を喪って。

今度はもう、大切な人を守ると決めて。

俺は、ヒーローの道を目指した。

何より、この人を()()()と誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言い忘れてたけれどこれは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が()()()()()()()になるまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 

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