無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ?   作:絆蛙

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緑谷出久:オリジン

 

 

 

 

 

 

---僕には二人の幼なじみがいる。

一人はかっちゃん。

爆破っていう強力な”個性“で自尊心が強く天才肌だけど本人も努力を怠らない上に僕にとって画面の向こう側の英雄(オールマイト)よりも身近な凄い人。

もう一人は界くん。

同じ”無個性“なのに強くて、かっこよくて、優しくて、どんな相手にも引かず立ち向かって。

密かにオールマイトに近いくらい憧れを抱いている()()()()()()()()()()だ。

今でも昔のことは思い出せる。

 

---諦めた方がいいね。

 

それが、最初の挫折だった。

僕は、“無個性”だった。

目指す先への導は全て消え去り。目指す資格すら失った。

齢4歳にして知った社会の現実。夢は幻へ。

”個性“の発現はそれぞれ差はあるものの、だいたい4歳にして発現する。僕にはそれがなかった。

僕らの世代で、”無個性“は絶滅危惧種とされるほどに少ない。でも僕は、該当してしまった。

 

---ちょーかっこいい、ひーろーさ。

 

---ぼくも、なれるかなぁ??

 

---ごめんね出久……!ごめんねぇ……!!

 

お母さんは泣いていた。

僕に”個性“がなかったから。僕にはヒーローになる資格がなかったから。

それでも、それでも僕はオールマイトが人を救う姿に憧憬を抱いて。

憧れは、ずっとずっと自分の心の奥に残り続けていた。

 

 

 

 

 

 

『酷いよかっちゃん!!!泣いてるだろ……?これ以上は……』

『僕が許さないぞ!!!』

木偶の坊(むこせー)の癖にヒーロー気取りか。デク!!』

 

震える手を握りしめてそういった僕の後ろには、目元を泣きはらしてうずくまっている、同い年くらいの子どもが一人居た。

相手は三人で僕は”無個性“で怖くて足ががくがくしていて、情けなくも目から涙は止まらなくて。

でもヒーローなら泣いている子供は無視しないから。怖くても立ちはだかって。

BOMB!!

けど爆破する手にビビってしまって、そんな僕が三人に勝てるはずもなく。

幼いながらに無理だと理解したとき---

 

『……ッ!』

 

そんな僕の前に見知った一人の男の子が立ち、突然の乱入に驚きながらもかっちゃんの掌から起きた爆破が顔面に叩き込まれていた。

 

『いっ…つつ。ばくごー、もうおわりだ。いい個性あるのに、暴力なんてもったいねーだろ。これでおわりってことに』

『うるせぇ!邪魔すんな!デク同様お前もおんなじだ!』

『いってぇえええ! やったな、二度もやったなお前! だったらてっていこうせんだおらァ!!』

 

僕を置いて、気がつけば男の子---幼なじみの界くんが同じ”無個性“でありながらもかっちゃん相手に勇敢に立ち向かって、僕はただ見てることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

結局界くんは三人には勝てなくてボコボコにされてしまったけど、僕もいじめられていた子も無傷で僕は無力感から涙を流していた。

 

『ご、ごめんね…界くん……』

『いてて……いや、おれこそ…かっこわるいよなぁ……はは、やっぱ”個性“ってすげーや。すごいな、いずくは』

 

理由は分かっていた。

彼は僕たちを守るために体を張ったから。今日だけじゃない。

いつも彼は、みんなが”個性“が発現する前から助けてくれていた。

 

『そんなこと……』

『なにいってんだよ、すごいじゃん』

『え…?』

『俺ら、”無個性“だろ。でもそんなお前が守ろうとしたから俺はお前を守ろうとした。結果はこれだけどさ…立ち向かおうとするのはすごいことなんだ。人のためにじぶんよりも強いあいてに立ち向かってまもろうとすることができる…。だからすごい!』

 

そう言ってボロボロでもにっと笑顔を浮かべる彼は、僕なんかよりも全然ヒーローらしくて。

 

『すごいな…界くんの方が……立派に、ずっとヒーローだよ』

『おれきょーみないし。ヒーローってのはつよさだけじゃないとおもうな。でも…いずく。じぶんでみとめられないなら、俺がいうよ。今日のいずくは立派なヒーローだったって! いずくならいつかヒーローになれる!ぜったい!』

 

言い淀むわけでもなく、確信を持って変わらず笑顔な彼はボロボロでもかっこよかった。

彼にとってその言葉は、何気ないものだったかもしれない。

でもこの時の僕にとって、その言葉がどれだけ救いでどれだけ嬉しくて。”無個性“だと分かっていても断言してくれたのが、どれほどの思いだったか。

みんながなれないとみんなが諦めるように言ってくる中で、誰も肯定してくれなかった中で僕にとってヒーローだった彼にそう言って貰えたことに、自然と涙が溢れてきて。

 

『え?え? ご、ごごめん! きょ、きょうみないの悪かった? きょうみあるから! ヒーロー知らないけどいずくは応援するから!』

 

見当違いのことでオロオロする彼に何かを返す余裕もなくただその場で泣いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも今の僕が彼を尊敬してる部分はそこだけじゃなかった。

大きくなれば関係性も体も色々と変化は起きる。今の僕たちがいるのは彼のお陰と言っても過言では無い。

僕が何かを言う資格も語る資格もないけれど小学生になってある()()をきっかけに彼は徐々に強くなっていた。

肉体面でも精神面でも。遥か遠くへ。

ヒーローに興味がなかった彼はヒーローになると幼い子供のような輝いた目で決意していたのだ。

『俺もヒーローになる』と。

眩しいと思った。

その心が。塞ぎ込んでもおかしくないのに前に進む心の強さが。

それを見ていたら、界くんならヒーローになれるかもなんて言ってしまって。

 

『何言ってるんだよ出久。お前もヒーローになるんだろ。俺はお前がヒーローになれるって確信してる。だから一緒になろうぜ、ヒーローにさ。”無個性“だろうが関係ない。なりたくなったならそんなの目指すしかないだろ!』

 

彼は変わらずそうやって僕を引っ張ってくれて、彼の言葉に僕の中で燻っていた熱が一気に溢れ出て、僕は遅れて彼と一緒に体を鍛えることになった。

それから辛くてしんどくて、死ぬんじゃないかと思うくらい地獄の特訓をして、成長を感じる喜びを知って、幼稚園の頃と変わらずいじめっ子いじめられ子の関係だったかっちゃんと殴り合って(仲直りして)、いつの間にか高め合う関係性に変化して、幼馴染で親友でライバルの関係に変わって。

だけど僕の中では、いつまでも憧れだった。

だから僕はずっと追い続ける。

”無個性“だと分かってもヒーローになれると言ってくれ、僕にヒーローになるための道を示してくれる彼を。ヒーローの背を。

憧れだけじゃなくて、追いつくために。今も前に居る彼がヒーローになれると言ってくれた言葉に応えるために。

ただ僕は会ったことがないけど、()()という人物は気になる。

少なくとも幼なじみの僕やかっちゃんから見ても、変化したのはその師匠との出会いだ。

結局のところ、僕の幼馴染二人がすごくて、彼らに追いつくのは中々に大変だということだ。

 

 

 

 

 

 

 

---中学からの帰り道。

僕は幼なじみと別れて一人で帰っていた。

今日は訓練を禁じられてしまったので、することは出来ない。

かっちゃんに怒られながら心配されたくないし、ああ見えて界くんは怒ると怖い。

仕方がないので頭の中でシミュレーションをすることにする。

 

「もし”個性“有りでかっちゃんと組手をすることになったらまず間違いなく初撃は右手の大振り。となると懐に潜り込んで投げ技? いやけどかっちゃんのことだから地面に叩きつけるより早く勢いを利用されるかもしれない。まず初撃は肝心だ。僕にとってその一撃が勝利の分け目といっても過言じゃない。

だってかっちゃんの”個性“は掌の汗腺からニトロのような汗を出す事ができ、それを爆発させる。つまり動けば動くほど汗をかいて”個性“が強くなるから長期戦は不利になってしまう。出来るなら短期戦で決着をつけたいところだけど考えてパターンを読む僕と違って見て動ける人だ。アドリブで対応出来るように訓練はしてるとはいえ、生半可な攻撃は絶対通らない。それどころか反撃をもらってしまう。それほど天性のセンスが厄介だな…。

何度も見てきたけど本当に界くんはどうなってるんだ? あれで本気じゃないのにかっちゃんに勝ってるし”個性“がなければ僕も勝ってるとはいえギリギリだから安心なんて出来ないしもっと強くなる必要はあるけど、一日で強くなれるほど僕は天才でもなんでもない。出来るのはただひたすらに反復と状況分析。

大丈夫、僕にはちょうど参考になる幼馴染が二人いる。彼らの動きをよく見て学び、僕のスタイルに合わせていけば---」

 

頭の中で戦うイメージをしながらブツブツと傍に誰か居たらドン引きしそうな状況だが、高架下に入ったところなので誰も居ない。

街中じゃなかったのが救いだろうか。

 

『Mサイズの、隠れ蓑』

 

瞬間。

秒速で距離を取った。

さっきまで自分が居た位置には何らかの液状が出てきて、あのまま居たら呑み込まれていたに違いない。

 

(なんだ…ヴィラン!? ヘドロ、そういう”個性“か!)

 

僕は界くんやかっちゃんと組手してきたのもあり、すぐに臨戦態勢に入ると手のようなものを伸ばしてきたヘドロを避ける。

 

(まずい! 僕の場合は近接攻撃! いくら避けられるからと言って余裕があるわけじゃないしいつここを誰が通るか分からない! それにあまり時間をかけすぎたらこいつが諦めてどこかに行く可能性もある。そうなると被害が出てしまう! 考えろ…考えろ! 界くんならどうする? 僕はまだ彼が言っていた『気』を扱うことは出来ない。カバンの中身! ノートやボールペンはあっても体は流動体だ。ヘドロに効きそうなものは…いや待てよ。よく見たらこいつは全身ヘドロなわけじゃない。つまり攻撃が通るのは…!)

 

「ここ!」

 

焦れったくなったのか飛び込んできたヴィランを避けるようにバックステップし、僕は脱いでいた靴を()()を狙って投げる。

狙い通り目を閉じた! 瞬目反射…人は物が近づけば無意識に閉じる!

油断するな、緑谷出久! 倒した訳でもない。僕じゃ勝てない! 誰かヒーローを…ここじゃ呼べないか!だったら僕が頼りにできるのは界くんかかっちゃんしかいない! ひとまず逃げながら電話を---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だ少年ッ!」

 

 

 

 

 

 

何度も何度も、聴いたことがある声が聞こえるのと同時にマンホールが弾かれたような音が響く。

まさか、と思って振り返るとそこには。

 

 

 

 

 

 

私が、来た。

 

 

 

 

 

 

そうして彼は拳ひとつで起こした風圧によってヘドロを散らした。

けれど僕はヴィランのことよりも目の前のことが衝撃だった。

見間違えるはずがない。ずっとずっと見てきたから。

ずっと憧れてきたから。

その姿を。目に焼き付けるほどに見たから。

そこに居たのは。

 

「お……オール、マイトォ!!!!!!」

 

No.1ヒーローにして、平和の象徴。

生きる伝説とも言うべき存在、オールマイトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風圧でヴィランを撃破したオールマイトがペットボトルにぶち込んだあと。

 

「よく頑張ったな、少年」

「ありがとうございます!!あ、あの!サインください!!!」

「イイヨ!!!!」

 

憧れの存在に出会ってしまったのもあり、冷静な判断が失いかけつつあった僕は残った理性でヒーローノートを取り出してサインをお願いすると、彼はサインをくれた。

ああ、やっぱりすごいなぁオールマイト。生だとやっぱり画風が違う!

それにファンサービスもばっちりだ。そうだどうしようかっちゃんや界くんの分ももらった方がいいかな!?

 

「さて、私は---」

「あ、あの!聞きたいことが!!!」

「済まないが、時間が無くてね」

 

忙しいのは分かっている。

だけど、だけど僕は。

 

「それでは、今後とも……!」

「応援、宜しくっ!!!!!---ってぇ!熱狂がすぎるぞ!!!少年!離したまえ!!」

「今離したら死んじゃいます!!!」

「確かに!!!!」

 

鍛えていたおかげで咄嗟に反応してオールマイトにしがみつくことが出来たが、映像で見るよりも凄い速度に落とされないよう僕は必死に落ちないように力を入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、もう。私はマジで時間が無いので、これで!」

「待って!!」

 

オールマイトにビルの屋上に降ろしてもらった僕はすぐにでも何処かに行こうとするオールマイトを必死に止めようとする。

 

「No!待たない!!!」

「じゃあ、聞いてください!!! 一つだけ、たった一つだけずっと聞きたかったことが!」

 

そう、聞きたかったのだ。

憧れの人に。No.1ヒーローに。

会えたら。こんな奇跡二度もないから。昔から思っていたことを、僕は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「“個性“がなくても、ヒーローはできますか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“無個性“でも、ヒーローになれますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで判決を言い渡される罪人のような緊張感と共に、僕は彼の言葉を待っていた。

言葉が届いたのか、”無個性“という珍しさからか、オールマイトは止まってくれて---少しして、煙が発生したかと思えば骸骨になった。

 

「オ、オオオオオオ!!!萎んでる!?偽物!?」

「私はオールマイコポォ」

 

予想外の出来事に信じられないものを目にしたかのように驚愕していると、目の前の痩男が血を吐く。

 

「プールでよく腹筋に力を入れ続けている人がいるだろう? アレだ」

「ウソだーーー!!!」

 

突然のカミングアウトに混乱する。

筋骨隆々でどんなに困難な状況でも不敵に笑い、数多くのヴィランを退治してきた平和の象徴、オールマイトの正体がまさかこんな長身痩躯の、幽鬼的な男性とは夢にも思わなかった。

だけど声質も同じで目の前で起きたことは現実で。

彼は、オールマイトは語ってくれた。

 

 

 

 

 

5年前の、恐ろしい敵のこと。

 

 

 

 

 

呼吸器官半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴したこと。

 

 

 

 

 

 

一日約3時間しか活動出来ず、全盛期より衰えていること。

 

 

 

 

 

平和の象徴の、矜恃

 

 

 

 

「プロはいつだって命懸けだよ。力がなくても成り立つなんて、とてもじゃないが私からは言えないね」

 

オールマイトから提示された答えは『No』だった。

現実的な答え。プロ視点からした現実的な答えだった。

特に、数多くのヴィランと敵対してきたオールマイトからの言葉はどんな言葉よりも重たくて。

 

「夢見ることは悪いことじゃない。だが……相応の現実も見なくてはな」

 

分かっていたことだった。

そうだ、周りからもずっと言われてきたじゃないか。

”無個性“じゃヒーローにはなれないって。

ただ今更、本当の現実を思い知らされただけで、だからもう現実を直視して---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出久はヒーローになれる。誰が否定しようとも俺だけはそう言ってやる!』

 

 

 

「っ、それでもッ!!」

 

俯いた顔を挙げる。

言わなくちゃ。伝えなくちゃダメだ。ここで引いたら僕は、ヒーローになれない!

 

「僕はヒーローになりたい!この"夢"を諦めたくない! だから体を鍛えて、追い続けて、憧れてしまったから、なりたくなったなら目指すしかないからッ!」

 

 

僕は絶対”ヒーロー“になります!あなたみたいな”最高のヒーロー“に!

 

 

 

真っ直ぐな目を向ける。

目を逸らさない。

オールマイトに覚悟を示すように。

 

「……少年、君の歩く道は茨の道だぞ」

「憧れは…止められませんから」

「そうか……ならばもう私からこれ以上そのことを言うことはないな。でもいつか力が及ばず、”個性“がないことに後悔する日が来るかもしれない。”無個性“じゃなければと自分を呪う日が来るかもしれない。ヒーローを目指すなら途中で折れそうになるかもしれない」

「それでも、そうまでして目指すというなら折れてくれるなよ!少年!!」

 

 

 

オールマイトからの答えは確かに『No』ではあった。

しかし、それでもオールマイトは夢を完全に否定することはしなかった。努力を、今までの行動を否定しなかった。

なれると言ってはくれなかったけれど。

否定せず、応援してくれたのはこれで三人目だった。

今の僕には、充分すぎる贈り物だ。”個性“がなくたって。”無個性“でも。

必ず。絶対に。

 

「ありがとうございますッッ!!」

「HAHAHAHAHAHA! 期待しているぞ、少年! 次会うときはヒーローであることを願っているよ!」

 

そう言ってオールマイトが階段から降りていくのを見送る。

 

「ヒーローになるんだ……絶対に」

 

昔と違って筋力がついた掌を見つめ、握り締める。

僕はまだまだ弱い。オールマイトの言った通り、このままじゃ成り立たない。

だから強くなるんだ。せめて心だけは、強く在って、折れないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その、帰り際だった。

 

 

 

 

商店街の方で妙に騒がしく、炎が上がっていて破壊音が響く。

どのヒーローが現場にいるんだろう。状況は?

そういった好奇心もあり、近づいてみると。

僕は信じられないものを見た。

あれは。あのヴィランは。

---先程僕を襲ってきたヘドロヴィランだった。

 

(そ、そんな……さっきオールマイトが捕まえてたはず…!ま、まさか逃げられた……!?)

 

まさかの事態に動揺しながらも自分が取れることは何かないかと必死に考える。

しかしながら有効的な手段も無く相性問題で棒立ちになるヒーロー達。

観客気分で野次を飛ばす一般大衆達。

それに僕自身も避けるので精一杯だったヘドロヴィランに対する有効打は何一つない。

 

「あ……」

 

顔が見えた。

思い起こされるのは今日の学校の出来事。

 

『どんだけ鍛えたって”無個性“だろ?』

 

他の人と何ら変わらず、”無個性“だろと言っていた同級生だ。

”個性“は確か、吐炎。

口から炎を吐き出す”個性“で、ふとした時に制御が出来なくなると悩み言を漏らしていた。日常生活でもくしゃみや咳で炎が出てしまうと。

でも、だけど大丈夫。少ししたら、もう少ししたらきっとプロが。対処出来る誰かが。

 

 

絶対に来てくれるから。

誰が---誰が、来てくれる…?

あんなに苦しそうなのにそれまで持つか?

…僕は”無個性“だ。

 

何も出来ない。何もしてあげられない。

やっぱりヒーローになるには。

ヒーローを目指す上で必要なのは。

 

 

 

 

そんな無力感に苛まれながら視線を向けた時、彼は。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の顔は。

 

 

 

 

 

 

 

助けを求めているように見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、僕は考えていたことも考えることもせず体が勝手に駆け出して。

 

 

 

 

 

 

「う……うおおおおおおお!!!!」

「バカ!止まれ!!!!」

 

ヒーローたちの制止を無視して、ヘドロヴィランの唯一の弱点である目を狙い、カバンを投げつけた。

なんの力もない。打算もない。ここから先のことは全部考えてない。

 

『ギッ!?』

 

怯んだ。

その一瞬を逃さず彼の目の前まで来て、その手を、掴んだ。

 

 

「もう、もう大丈夫!」

 

それでも。

誰かが動かないと何も変えられないから。

なにより。

なんで、と言っている気がした彼に。

目で訴えかけてくる彼に。

 

 

「だって君が、助けを求める顔してたから」

 

僕は身近な憧れのヒーローと遠い憧れのヒーローのように笑うと、彼は涙を流していた。

 

 

『グ……この、あん時のガキィ!!」

「!まず……」

「相変わらず無茶をするな…出久はさ。けど」

 

炎が来る!

そう思ったとき、上空から声が聞こえて、僕は安心していた。

なぜなら。

 

「やっぱヒーローだよ、だから俺はお前を応援する。その道を、こいつなんかに止めさせるかっての!!」

 

僕の幼馴染が、目の前に居たからだ。

恐らく人混みを無視するためマンションから跳躍して一飛びできたのだろう。

 

「界くん!そいつ物理効かない!」

「つまり内部なら通せるわけだ!」

 

腕に白いオーラのようなものを纏った界くんは、同級生に当たらないようヘドロの額に向かって拳を突き出し、炎を突破しながら殴り飛ばしていた。

ヘドロの部分だけが外れ、すぐにまた取り憑こうとする。

 

「俺もまだまだだな…一撃で倒せないなんてさ。けど、お前なら分かってるだろ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪」

 

同時に。

爆発音が背後から響き、界くんの目を見て僕は僕の行動を取る。

僕一人ならなにもできない。

だけど!

 

 

「---閃光弾(スタングレネード)ッ!」

 

ヘドロのみを狙ったかっちゃんの眩い光が怯ませ、僕は同級生の手を掴んだ。

そして。

 

「もう一発!」

 

今度は左腕に同じものを纏った界くんが拳を振るうと、同時に僕は引き抜く。

勢い余って後ろに倒れてしまったが、助け出せた。

これなら!

 

『舐めるなぁ!!!』

「! まだ耐えるか! なら、か---!?」

 

向かってくるヘドロヴィランに、界くんが腰を落とす。

全身にオーラが纏わりつき、両手を前方に突き出すと両掌を鳥の(くちばし)の様な形に取り、手前に構えている。

何をするつもりなのかと思っていると。

 

「情けない! 君に諭しておいて、己が実践しないとは…!」

「え、は? オールマ……」

「プロはいつだって命懸け!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DETROIT SMASH!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巻き起こる暴風。

走る抜ける衝撃。

上昇気流すら発生させ、天候をも変える一撃が、オールマイトの存在が全てを終わらせた。

一番近くに居た界くんだけが吹き飛びそうになっていたが、咄嗟にかっちゃんが掴んだおかげで無事で。

その後、僕らはプロヒーローに叱られることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が前に出る必要は無かったんだ!!!」

「は?」

「ふざけんなよ……!!」

 

プロヒーローの言葉に界くんとかっちゃんがキレたように反論していた。

 

「確かに俺たちはヒーローじゃない…! だからといって指をくわえて眺めていたやつらがこいつにそれを言える立場か!? プロでヒーローなんだろ。ヒーローが助けなきゃ誰が人を助ける!? 下手に飛び出して被害が増えるのはそうかもしれない。だとしても、もし出久が出なければどうなっていた!? あの子は死んでいたかもしれない!」

「デクの野郎が手を伸ばした時、アイツは救われたような顔をしてやがった! 相性が悪いだ向いてないだ、んなのでヒーローが務まんなら警察官にでもなってりゃいいだろーが!」

「無個性でなんの力も持たない出久が飛び出したから、結果的に俺らが飛び出した! 最初に言う言葉はもっと他にあるだろ!」

 

おおよそ子供とは思えない圧で強い言葉を吐く二人に僕はどうしたらいいか分からずオロオロとする。

それどころか、界くんの圧にプロヒーローが圧倒されているように見える。

そうだった。今じゃ全然明るくて忘れそうになるけど界くんにとっては……。

 

「二人とも、その辺にしておいてくれ」

「オールマイト…」

「…こんちは。まぁオールマイトが言うならやめときます。結果的に俺もオールマイトに助けられたし」

 

オールマイトが止めてくれたお陰で収まったみたいで、僕はガチギレ寸前だった彼の顔色を窺うと、苦笑したのち、自分の頬を殴って吹っ飛んでいた。

ええ…?

 

「すみません、言いすぎました。プロにはプロの判断があったはず。学生である俺が口出すのは間違いでした」

 

冷静になったのか戻ってきて頭を下げて謝っている。

あまりに奇抜な行動に全員戸惑うどころか、オールマイトですら困惑していた。

 

「いや…頭を上げてくれ。あそこで走り出したのは彼だけだった。君の言葉も間違っちゃいない。

本来はヒーローである我々がああするべきだったんだ。最初に話すことを間違っていたな。

本当にすまない。そしてありがとう、我々の代わりにあの子の命を救ってくれて」

「…へッ!? い、いえいえ僕も身勝手に飛び込んでしまったといいますか体が勝手に動いていたといいますか…と、とにかく勝手なことをしたのはこっちなのでその、すみません!」

「勝手に動いていた…か。そうか。それはいい。

そうだ、もう一人の子は派手な”個性“で分かりやすかったがヘドロヴィランを吹き飛ばすほどの攻撃…君は?」

「”無個性“ですけど」

「…え?」

 

界くんのカミングアウトに信じられないものを見たかのように知り合いである僕の方やかっちゃんに目を向けてくる。

すみません、本当なんです。

僕とかっちゃんは目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから警察の事情聴取から解放されて、助けられたことに感謝されて、僕と界くんとかっちゃんは帰路に着いていた。

そういえばどうしてふたりは来れたんだろうと思って聞いてみると。

 

「あんだけ騒ぎになってりゃ何かがあったくらい分かる」

「ああ。強い”気“が集まって動いてなかったからな。それに他に比べて強い気なのに弱ってて…あれなんだったんだ?」

 

かっちゃんはともかく、やっぱり気というのはよく分からなかった。

でもそれ、多分オールマイトだよね。秘密にするように言われてるから言えないけど、そんなこともわかるんだ。

『気』は僕や自然の中にもあるらしいし、個性じゃないとは言ってたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人と別れて少ししたあとの事だった。

 

「私が来たァ!!!」

「オールマイト!? さっきまで取材に」

「抜けるなんてわけないさ! なぜなら私はオールマイグフォア!!!」

「ォアアー!!!」

 

いつの間にか目の前に現れたオールマイトに驚くと、オールマイトはまた身体が萎み、口から血を吹き出した。

しかしオールマイトは口元を拭うと、言葉を続ける。

 

「少年、礼と訂正、そして提案をしに来たんだ」

「え……?」

 

オールマイトが何を言いたいのか僕は分からなかった。

提案とはどういうことか。礼とは。訂正とはどのことなのか。

 

「君がいなければ……君の身の上を聞いていなければ、覚悟を目にしてなければ、私は…口先だけのニセ筋になるところだった! ありがとう!!」

「そんな……そもそも僕のせいですし、なにより……”無個性“の僕が出しゃばったから……」

 

そうだ、僕がオールマイトにしがみつかなければヘドロヴィランが抜け出すことはなかった。

結局僕は界くんとかっちゃんが居なければただ邪魔をしただけだった。

それどころか最悪死んでいた。

 

「そうさ!」

「あの場の誰でもない小心者で”無個性“の君だったから!! 私は動かされた!! トップヒーローは学生時代から逸話を残している……彼らの多くが話をこう結ぶ!」

 

 

 

 

 

 

”考えるよりも先に体が動いていた“と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……グッ……」

 

 

 

僕は、どうしてか母の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

「君も、そうだったんだろう!?」

 

 

 

 

「うん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

違うんだ、お母さん。あのとき。

僕が言って欲しかった言葉は、

欲しかったのは---

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はヒーローになれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

架空(ゆめ)は現実へ。

 

 

言い忘れてたけどこれは、

 

 

僕らが最高のヒーローになるまでの物語だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------

 

 

 

 

 

 

「君なら私の『力』、受け継ぐに値する!!」

「……え?」

「HAHAHAHA、なんて顔してるんだ、君は。礼と訂正。そして提案があると言っただろう? これはその提案の部分さ。要するに、私の力を君が受け取ってみないかという話さ!!」

 

オールマイトの言葉が、僕にはよく分からない。

力? 受け継ぐ? 受け取る?

何を言っているんだ、オールマイト。

顔に出ていたのか、オールマイトは話してくれる。

今まで”明かされたことの無い個性“のことを

 

「私の”個性“は、聖火の如く歴代の継承者によって受け継がれてきた物なんだよ。そして次は、君の番という事さ」

「受け継がれてきた…もの……!?」

個性(ちから)を譲渡する個性(ちから)! それが私の受け継いだ”個性“! 冠された名は一人はみんなのために(ワン・フォー・オール)

一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い、次へ。そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた---力の結晶!!」

「そんな大層なもの何で………なんで僕に、そこまで---」

「”無個性“で只のヒーロー好きな君はあの場で誰よりもヒーローだった! …元々後継は探していたのだ。そして君になら渡して良いと思ったのさ!! …まあ、しかし君次第だけどね!  どうする?」

 

話が大きすぎて整理するのに時間がかかる。

でも、だけどここまで言ってもらえて。僕なんかに大事な秘密まで晒してくれて。…あるか? 断る理由なんて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「---あ」

 

僕の脳裏に浮かぶのは、同じ”無個性“で幼馴染である界くんのことだった。

僕が受け継ぐよりも、彼が受け継いだ方がいいんじゃないか。

僕よりも強くて、ヒーローらしいのに。

 

「何か…悩み事でもあるのかい?」

「えっと……その、僕の幼馴染にも”無個性“がいまして…」

「なんと…」

「オールマイトも見たと思いますけど、僕を助けてくれた男の子がそうなんです。なのに僕だけが”個性“を貰うなんて……」

「ああ、あの少年か…確かに彼も勇敢だったが…。だが! 私が見初めたのは君なんだ、少年。無論、私は君の意思を尊重するが…これは君の勇気が掴み取ったチャンスだということを忘れないでくれ」

 

僕が掴み取ったチャンス…。

彼やかっちゃんに追いつくには確かに貰った方がいい。憧れの人に認めてもらえるなんて光栄な事だ。

でもやっぱり、僕の頭には界くんのことがチラついてしまって。

そんな時、彼の言葉が脳裏を過ぎった。

 

 

 

 

 

 

『お前もヒーローになるんだろ』

 

 

 

 

 

 

そうだった。

本当に彼はどこまでも僕の中でヒーローらしい。

そうだろ!うじうじ悩む必要なんてなかったんだ。

このことを知ったら怒るかもしれない。失望されるかもしれない。

だけど僕が二人に並ぶには、二人を超えるには今のままじゃダメなんだ。

ごめん、界くん。

それでも僕は、僕は---!

 

 

 

「お願い…します!」

「そう言ってくれると信じていたぜ、少年!」

 

 

”個性“を受け取ることを、承諾した。

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