無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ?   作:絆蛙

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継承と個性の使い方

けれど、オールマイトの力を受け継ぐのはそんな生易しいものじゃない---

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだったんだけれど。

 

「---これは。驚いたな」

 

オールマイトは思っていなかったのか表情にもモロに出て驚いていた。

 

()()()()()()()。筋肉の量、付き方、全てが聖火を受け継ぐに値するレベルにまで至っている。……一体何をしたんだい?」

「えっと…界くん、前言った幼馴染と小学生の頃から鍛えてたので…」

「そうか…君は素晴らしい友人に出逢えたみたいだな」

「はい!」

 

僕は恵まれていると自覚はしている。

かっちゃんは天才肌で学べることも多いし、僕一人じゃきっと心のどこかで諦めてたかもしれないけど界くんが居てくれたから体を鍛えて今日ここまでヒーローを目指そうと頑張って来られた。

だからこそ、きっと僕が返せるのは僕自身がヒーローになることなんだと思っている。あのときなれると言ってくれた君が、僕をヒーローにしてくれたんだと言えるように。

 

 

「さて、本当は体作りから始めるところだったんだけどね。既に完成されてるなら話は早い」

 

話しを戻すように、オールマイトは自分の髪をひと房ちぎったかと思うと。

 

「食え」

「へあ?」

 

予想だにしてなかったとんでもない爆弾発言をしてきた。

 

「そうhair!!じゃなくてだね」

「いやそんなつもりはなかったんですが!?」

「まぁなんだ。DNAを取り込むことが“個性”の継承に必要でね」

「な、成程……」

 

もっとこう、特殊な何かがあるのかと思ってたけど、個性のことを考えればDNAが必要なのも納得出来る…。

仕方がない。

オールマイトに血を流させる訳にもいかないし、憧れの人といえど髪を食べるのは抵抗があったけど、覚悟を決めて。髪を食む。

 

うえ、うあああああああ……その形容のしがたい……。

 

「これが馴染めば君には“個性”が発現する」

「これで……“個性”が……」

 

すぐに使えるようになるわけじゃないみたいだけど、実感が全くない。

発現したら実感が湧くのかな?

 

「これを渡す上で、君に何よりも心に置いて欲しいことがある」

「---はい」

「君の今までの積み重ねが、努力が、その連なりがこれを齎らしたんだ。力を偶然得たのと授けられたのではその本質が全然違う!

肝に銘じておきな。これは---君自身が『勝ち取った』力だ。

「……はいっ!」

「うむ、いい返事だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから僕は二人に”個性が発現した“ことを伝えた。

特に界くんには後ろめたさがあって、何言われてもいい覚悟をしていた。

していた、んだけど。

 

「個性が今更発現しただ!? いや、今更テメェがそんな現実逃避するはずがねェか……なら本当なんだろうよ」

「そ、そんなにあっさりでいいの?」

「ハッ、関係ねぇな。”無個性”にしろ“個性”持ちにしろ、俺の夢は揺るがねえ---俺はてめえらを超えてオールマイトをも超えるNo.1になる。”個性“が出たならそんなてめぇを踏み台にするだけだ」

「かっちゃん……ありがとう」

「別に礼を言われることでもねぇだろ。それよりアイツにも話しとけよ」

「うん、分かってる。ちょっと怖いけど向き合わなきゃだから」

「…そーかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「”個性“が発現した? そうか、よかったな出久」

「…え?」

「なんだよその顔」

「いや、そのあっさりだなって思って」

「別に”個性“が発現しようと”無個性“だろうと俺たちの関係性は変わらないだろ。俺はお前がヒーローになるって確信してる。もしかして俺のこと気にしてるのか?」

「……だって、僕だけが」

「はぁ…いいか俺は”無個性“でもヒーローになる。ならお前は発現した力を上手く使って、なってみせろ。俺は最初からそのつもりだったし、発現したならそれはめでたいことだろ? むしろそんなことで気を遣うようならいくら出久でも殴るぞ」

「それに知ってるだろ、俺は強いヤツと戦うのが」

()()()()()()…でしょ?」

「そういうことだ。お前がその分強くなるなら、俺もさらに強くなれるしな。WinWinの関係ってわけだ」

 

本当に敵わないな、と思いながらも、僕は僕が思っているよりも彼は強いのだと改めて思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

そして当然、このことはお母さんにも伝える必要があるわけで。

 

「出久ぅ……良かったねぇ。良かった……!! 私、変わらず応援するから! 出久がヒーローになれるように…!」

「…うん!」

 

母は泣いて喜んでくれた。

釣られて泣きそうになったけど、笑顔で答えた。

そういえば母さんは僕に対する悩みや罪悪感を抱え続けた結果、太ってしまった時期がある。

今となれば懐かしい話だが、界くんのお陰でヒーローを目指す決断をして決意を話したことがあり、いつの間にか昔の体型に戻っている。

同じように前に進む、と言ってくれてあの日は二人で泣いたっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから僕は二人とは訓練する日が減り、オールマイトと共に発現した”個性“を扱う特訓を始めた。

手始めに多古場海浜公園の掃除。

大量の漂着物をいい事に、不法投棄の温床と化したゴミの山を水平線が見えるように綺麗にするのが第一歩とのこと。

ヒーロー活動にも繋がるし、個性の制御にも繋がる。

が、問題はひとつあった。

---オールマイトは天才だった。

それもあり、僕は初日そうそうOFAを100%で発動してしまって腕がバキバキになった。

その腕は珍しくドン引きした界くんが”気を分け与える“?ってことをしてくれて体力を無理やりあげることで擬似的に回復速度を上げた…らしい。

それで数日で治ったけど。

オールマイトに調整の仕方を聞いても、全然無理だった。一緒に頭を悩ませることになってしまい、解決出来る気がしなかった。

このままでは、まずい。流石にまた折るわけにはいかない。

 

「で、俺のところに来たと。いやなんでそうなった?」

「ご、ごめん」

 

山奥で特訓してると聞いていたので僕は界くんの元へ訪れていた。もちろんオールマイトのことは伏せて。

オールマイトはなにか探しておくとは言ってくれたけど、僕の方でも動くべきだと思って、僕の中で頼れるのはかっちゃんか界くんしか居なかったからだ。

それにかっちゃんは身体能力の強化であるワンフォーオールとは違うだろうから。

 

「俺”個性“の感覚とか分からないが……ひとまず実戦形式でやって見るか。もしかしたら人に向かって放てば無意識にセーブするかもしれない。出久の肉体ですら折れる超パワーって思うと一度受けてみるのも面白そうだしな」

「なるほど……確かにそれは一理あるかも。でもその、流石にそれは面白いで済まないような…危なくない?」

「だからといって何もしなければそのうち腕が壊れるぞ。バキバキに折れただろ? 俺としてもそれでお前が雄英落ちたら引子さんに顔合わせづらくなるし、この前泣いてただろ」

「う……そう言われると何も言えなくなるよ」

「だろ。と…流石に普段よりも重い攻撃が飛んでくるならこれは外すか」

 

そう言って彼は両手足につけているバンド---1つ20kgの重りを落としていた。

そう、界くんは毎度重りをつけて生活しているだけでなく訓練の時も外さない。

実際につけてみたことはあるが、全然動けなかったしちぎれるかと思った。そんなの常日頃からしてたら周りからバケモノとか言われるよ…。

ちなみにシャツも20kgらしい。

流石の僕もそこまでは無理だ。OFAを制御出来れば問題なくなると思うけど…。

 

「久しぶりに外すと軽いもんだな。よし、早速始めるか。構えろよ、出久」

「い、いきなり!?」

「行くぞ!」

「うわ、はやっ!?」

 

咄嗟に反応した僕は両腕をクロスするが、一撃殴られただけで距離を引き離され、地面には擦れた後が残っている。

重い。

重い一撃だ。これが今の界くんの実力。だけどまだ追いつけないわけじゃない!

OFAはまだ使わない。僕自身の力がどこまで通用するか確かめる機会だ!

 

笑みを浮かべる界くんに僕は地面を蹴り、勢いをそのままに足を伸ばして蹴りを放つ。

しゃがまれて避けられたが、すぐに片足で勢いを殺しつつ回し蹴り。

衝撃音が走り、音に反応したのか鳥が飛んでいくのが見えた。

けれど。

僕の攻撃は片手で受け止められている。

 

「まだまだ!」

 

サマーソルトするように片方の足を動かせば界くんは離すことで避け、僕は低い姿勢のまま拳を腹部に向けて放つ。

加減のない本気の一撃。

直撃するより早くに腕を掴まれ、背面に投げ飛ばされる。

地面に叩きつけられることを諦めながら受け身を取り、投げ飛ばされた際に掴み返していた手を引っ張る。

手繰り寄せると、そのまんま頭突きを---拘束が解かれ、避けられた。

右横から向かってくる片足。腕を立てることで顔に対する直撃を避け、転がるようにして距離を稼ぎながら立ち上がると、頭を下げる。

ぶん、と空気を蹴る音が聞こえ、反撃しようと拳を握りしめると、僕はすぐに下がった。

土煙が舞う。

あの体勢でかかと落としをするなんて、反撃する隙すらくれない。

今までとは段違いに速いんだ。それに僕に分析する暇がない!

 

土煙の中から駆けてきた。

右フックを腕で防ぎ、鳩尾を狙ってくる左拳を足で防御。

瞬時に右拳が胸に放たれ、片手で逸らすように弾きながら横に逸れる。

次は足!

予想通り回し蹴り。

 

「がっ……!?」

 

わかっていたのに、速度が僕の想定を超えてきた。

横腹に直撃してしまった僕は吹き飛ばされ、木に背を打つ。

なんて威力! なんて速さ!

 

「!?」

 

痛みに耐えながら前を見れば、既に蹴りが飛んできている。

咄嗟に体を倒して避けると、通り過ぎた背中に向かって後ろ蹴りする。

入った、と確信したけど、足の甲の部分に手をついた彼の手によって地面に落とされ、木を蹴って反転したボレーキックを横に転がって避ける。

地面が没落するほどの威力。

 

「攻めてこないと何も出来ないぞ!」

 

起き上がる僕に界くんはそう言いながら一発一発か重いだけでなく速い殴打をラッシュしてくる。

必死にそれらを見極め、避けたり防いだりしていると速度がだんだんと上がっていき、避けきれず掠る回数も増えてきて。

 

「しまっ」

「遅い!」

 

服を掴まれ、手繰り寄せられた僕の胸に溜められた拳が突き刺さった。

反動で吹き飛ばされ、ごろごろと転がりながら咳き込む。

手が汚れることも気にせず、唇を噛み締めながら立ち上がる。

息が荒い。酸素を取らないと。あのラッシュでかなり集中力も持っていかれた。

余裕のない僕と違って、界くんは汗すらかいてない。

なのに追撃もせず真っ直ぐに僕を見つめてくるだけだ。

何かを、期待するように。

ああ、本当にズルいな。そんな目を向けてきたらどうするかなんてよく分かっているくせに。

 

「っ、ふぅ……」

 

落ち着け、落ち着け。

元々僕は彼に実力が及んでないのは知っている。自覚している。

そんな中で冷静をかいたら、絶対に勝てない。まだ今の僕じゃ重りを付けた彼に防戦一方になるだけだけど。

それでも!

 

「ただ負けるだけは嫌なんだッ!」

 

駆ける。

駆け出す。

やることなんて決まっている。ただの一撃じゃ届かない。

オールマイトが言っていた。

僕が勝ち取った力と。

ならば、この力を!

 

「君に並べるように、僕は僕の力を!」

 

腕が壊れないイメージ!

ワン・フォー・オール---

 

「DETROIT---」

 

右腕に熱が溜まっていき、赤い亀裂のような光が浮かび上がる。

目の前の界くんの口角が上がる。さっきの応酬よりも、今日の組手の時からずっと浮かべてる笑みよりも今まで以上の深い笑み。

受けて立つと言わんばかりの、笑み。

 

 

「SMAAAAAAAASH!!!!」

 

そうして僕は真っ直ぐに拳を振り抜くと、彼は両手で受け止めていた。

瞬間、拳から放たれた衝撃が僕と界くんを吹き飛ばし、途端に腕に痛みが走って顔を顰める。

 

「っ、また…っ、これは……!?」

 

骨が折れていない。

正確には、ワン・フォー・オールの部分にだけ彼が纏う白いオーラが纏わりついていて、僕は腕が無事な理由を察した。

僕が拳をぶつける前に僕に付与して守ったのか!?

ならワン・フォー・オールの全力!オールマイトの一撃…!

それじゃあ界くんは!?

 

 

 

 

 

慌てながら吹き飛んだ先に向かって駆け出しながら声を掛ける。

力は発揮したのは間違いない。僕の一撃で木々は倒れているし穴を空けられたかのようになっている。

腕の感覚から直撃したことも。

 

「っ、つつ……は、はは…はははは!!」

 

声が聞こえて向かうと、岩の壁にめり込んでいる界くんが居て、頭から血を流しながらも笑っていた。

 

「ご、ごめんっ!大丈夫!?」

「あー負けた負けた! こりゃ俺の完敗だ。ぜんっぜん腕が動かねえ、く、ふはははっ!」

 

僕の心配を他所に、心底楽しそうに笑う彼に僕は困惑するしか無かった。

平気そうなのは安心出来るんだけど……オールマイトの一撃と同じはずなのに無事なのはなんというか、やっぱりまだまだ遠いんだと感じさせられる。

 

「ふー、笑った笑った。で、やっぱり無理だったみたいだな」

「え、やっぱりって…分かってたの?」

「そんな簡単にセーブ出来たら苦労しないだろ」

 

理由を言われて確かにとは思う。

そもそもオールマイトの力なんだ。元々”無個性“だった僕には”個性“を扱うことに慣れていない。かっちゃんやオールマイトのような天才じゃないし本当は幼少の頃から使い方を学んでいくんだから。

 

「だから僕を守ってくれたんだ…」

「ああ、”気“の流れが右腕に集中していたからな。けど過剰すぎた。腕がまた折れると思ったから咄嗟に付与したんだけど、その”個性“どうなってる? 結構多めに付与したのに、貫通しただろ。多分ヒビ入ってるんじゃないか?」

「そこまでわかるんだね…うん、折れるよりマシだけど多分ヒビ入ってるかも」

「じゃあ病院行こう。今日はやめだ」

 

僕の考えていた以上に界くんは理解しているようだった。

しかし、彼が言う”気“というのは本当に様々なことに応用が効いて便利に思える。

それがあるからかっちゃんとも互角に渡るどころか、互いに本気の組手では勝ち越してるらしいけど。

 

「それは賛成だけど、ひとついい?」

「ん?」

「界くんなら本当は避けられたはずなのに…どうして? 負けたって言ってたけど、実際には…」

「おっと、結果が全てだ。俺は負けて、お前は勝った。普通喜ぶところだろ?初めて俺に勝てたんだ。そんな疑問は必要ないぞ」

 

初めて勝った。

そう言われても喜べるものじゃない。

あまりにもハンデを貰いすぎている。僕は知っている。彼なら避けることが出来たことを。

真正面から受ける意味なんてなかったのに。

 

「確かに出久の言うように避けることは出来た。でも避けちゃ意味が無い。どれほどの力か受けてみたかったし、観察するためには避けない方が分かりやすかった。それに勘違いするなよ、出久。俺は手加減はしてない。全力でぶつかったというのは事実だ。あのままお前の一撃を殺す気だった。でも俺は組手の範囲内で本気を出して、負けた」

 

 

 

---誇れ、爆豪に勝つ俺にお前は勝った。戦えるんだ。ヒーローになれるんだ。

 

 

 

 

その言葉が耳に入った途端、形容出来ない感覚が自分の中で生まれた。

認められたという嬉しさ。勝つ、喜び。届かない悔しさ。

何より昔から変わらない信頼に胸が熱くなる。

胸だけじゃなく、目頭まで。

 

 

 

「ま、その力を制御出来ればだけどな。普通に生身の人間にやってみろ、正直俺じゃなかったら死んでるぞ」

「っ、はは…そうだね」

 

オールマイトの一撃なんだけどなぁ、と内心で思いながら片腕が折れるだけで済んでいる彼に自然と笑みが生まれる。

僕はスタートラインに立てただけだ。これからこの力を制御出来なければ、本物のヒーローにはなれない。

一撃放てば戦闘不能になるなんて、仮にヴィランを倒せても誰かを救えないんだ。

 

「どちらにせよ今日は出来ないからな。俺もお前も無理したら雄英受験すら出来なくなる。いくらまだ10ヶ月あるとはいえな。完治したら制御に挑んでみよう。”気“の流れさえ読めればいけるかもしれない」

「本当に頼りになるなぁ…」

「それはそうと抜いてくれないか? 壊したら出られるけど流石に危ない」

「あ、うん。分かった」

 

思ったより深く埋まっちゃったみたいで引き抜くのに少し時間を要したが、僕たちは病院に行って処置してもらった。

なんでも知り合いのヒーローからの伝手で治療して貰えるようになっているらしい。

いつの間にヒーローと出会ったんだろう?それにどんなヒーローなのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから。

 

 

 

「ぬあああ加減しろぉおおお!!」

 

腕が治ってないのに戦う羽目になり、かっちゃんにやられた界くんが理不尽にも全力でやれと言われてキレたり。

 

 

 

 

 

 

 

「やばい!」

「流れが強すぎるな、もっと減らせ」

 

ワンフォーオールの暴発前に弾くことで暴発を避けるというゴリ押しをされたり。

 

 

 

 

 

 

 

「しゃあねえ。だったらゲーセンで勝負しろ」

「よし出久。やってやれ」

「僕より上手いよね!?」

 

いつものように組手するのではなく意地でもやらないと言い張る界くんに別のことで勝負を挑むかっちゃんに巻き込まれたり。

 

 

 

 

 

「今日は遊園地!戦いは禁じる!」

「遊び殺すぞ!」

「遊び殺す!?」

 

 

 

くじ引きで当たったとかで強引に連れていかれたり。

 

 

 

「いつまで寝てんだごらぁ!」

「休む時は徹底だ!」

「一日は流石に長いよ!」

 

 

何故か一日中寝ようとする界くんを無理やり起こしたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?なんか違う?」

「あ? そこはこの公式を使うってんだよ」

「ああ、確かに。この範囲は苦手だ…」

「界くんは別に点数や要領は悪くないのに、苦手なところはほんとに弱いよね」

「まぁ模試では合格ライン余裕だったけど、みんな不得意はあるでしょ」

 

学生の本分である勉強はもちろんした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と三ヶ月が経ち。

僕は今日もオールマイトに見守られながら掃除をしていた。

まだワン・フォー・オールの制御は出来ていない。

一度でも出来るようになれば微調整は出来るようになるとオールマイトにも界くんにも言われたけど、僕の器が持たないのが100%で”個性“を使用しないのが0%なら、極端にどちらかにしか出来ていない。

ひとまずは”個性“は使わず、体を鍛えることにした。

けど、なんというか……余裕になってしまっている。オールマイトが上に乗っていても運べてしまうし、何か方法を考えないと…奉仕活動も兼ねてるから、そこはいいけど。

と、休憩を言い渡されたので僕は飲み物を貰って口に含む。

まだまだ完全には片付かない。もう少しかかりそうだ。

 

「あれ? 出久…と、そっちは?」

「え…か、界くん!?どうしてここに!?」

 

そう思ってたら、ラフな格好をしている界くんが居た。

手にはコンビニの袋。買い物帰りだろうか。

 

「うん? 緑谷少年、彼は?」

「えっと、僕の幼馴染で……」

「拳王技界です。どうも。呼ぶ時はどちらでも」

「ああ、君が……そうか。わかったよ拳王技少年」

 

オールマイトも自己紹介を来てピンと来たらしい。

前に鍛えていたことを説明したからだろう。

ちなみに今はマッスルフォーム---ヒーロー活動中の状態じゃないので、オールマイトとは気づいてないみたいだ。

そもそも界くん、他のヒーローには興味が全然無いから…。

 

「?」

「ああ、私は八木という者だ。緑谷少年の手伝いをしていてね、親切なおじさんと思ってくれればいいさ」

「お…八木さんはおじさんじゃありません!」

「よく分からないけど…なるほど。ここの片付けをしているのか。確かに腕だけでなく足や腰も使うか…それにヒーローらしい奉仕活動にも繋がる」

 

思わずオールマイトはおじさんじゃないことを否定してしまったけど、彼はここで何をしているのか、理由までも推察していた。

 

「君は……緑谷少年と鍛えてるだけあるようだね。それどころか緑谷少年よりも仕上がっている。それにここを掃除している理由までも当てて見せた」

「はあ。まあ出久より早く鍛えてるので」

「ちなみにいつからか聞いてもいいのかな?」

「6歳ですかね」

「そうか6歳…6歳!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

八木、もといオールマイトは目の前の彼に心底驚く。

 

緑谷少年から話は聞いていた。

同じ”無個性“であったと。

自分がヒーローの夢を諦めず体を鍛えてきたのは彼が導いてくれたからだと。

見たことは一度ある。

ヘドロヴィラン事件の時、プロヒーローですら相性によっては苦戦するであろうヘドロを強引に引き離すほどのパワー。

友のために動ける、彼もまたヒーローになれる素質を秘めた少年だと。

私はてっきり、最初見た時は増強型と思っていた。しかし彼の口から言っていたが”無個性“だとは夢にも思わなかった。

あの時は制限時間も近く、見る余裕がなかったがこうやって彼の肉体を見ると、努力を積み重ねてきたのが分かる。

それこそ、血が滲むほど…いや言葉では表せないほどに。まるで修羅場を潜ってきたかのようだ。

長いことヒーローをしてきたが、彼からは武闘家ヒーローに似た雰囲気を感じる。

聞いてみれば、体を鍛え始めたのは6歳だという。

6歳となればまだ小学生になり始めたばかりじゃないか。

ただでさえ私の頃よりも”無個性“は少なく、今となっては迫害すらされるほどと聞いたことがある。

周りから色々と言われてきただろうに……ここまでやり遂げるなんて、生半可な気持ちでは到底できない。

緑谷少年が尊敬している理由が分かった気がするよ。

 

「そういえば…八木さん…でいいのかな。出久の”個性“については?」

「ああ、知っているとも。まだ扱いきれないと相談されたことがあってね。私の方でも考えてみたのだが、私は自分の”個性“は最初から使えていたからどうアドバイスすればいいか」

「…なるほど。”気“は強いのに弱まっている気がする。まるであの日の……」

「…き?」

「ああ、いえこちらの話です」

 

どうして突然『き』なるものを言ったのかは分からないが、私が聞くわけにはいかないだろう。

私にもそうだが、誰にだって秘密はある。

私は自分がオールマイトだと明かしてないのだから。なのに私だけ全部を聞こうとするのは虫がいい話だ。

 

「まぁいいか。それより出久。ほら」

「え? うっ……!?」

 

そんなことを考えていたら、彼は両手に着けているリストバンドを緑谷少年に投げていた。

あまりに突然の行動に瞬きすると、リストバンドを受け取った緑谷少年の体が地面に吸い寄せられるかのように倒れかけ、重心が傾いているように見えた。

 

「緑谷少年!?」

「だ、だい……じょぶです……!」

 

ただのリストバンドなのに、緑谷少年は汗をかいている。

まるで、重たいものを持っているかのように。

 

「拳王技少年、一体何を……」

「いや、遠目で見た時に出久が余裕そうに見えたので。20kg…ああ、ふたつで40kgですけど、リストバンド着けたら特訓になるかなぁと」

 

!!?

今、彼は40kgと言ったのか?

え? 彼って”無個性“なんだよね? あんなボールを渡すように軽々と片手で投げて? 緑谷少年ですら重たそうにしているものを?

 

「あ、あり…がとう」

「どうする? 必要ならまだあるけど」

「い、いいよ! そ、それより界くんはいいの?」

「ああ、俺は修行事情でしばらく付けるつもりないからな。どうせ置いておくくらいなら誰かが使った方がいい。俺は両足とシャツで十分だ。いざとなれば60kgの重り背負うし」

 

ちょっと待って。

なんかとんでもないこと言ってる気がするんだけど。

もしかして同じものを身に着けてる? あれ20kgだと考えて、拳王技少年の体重を考えれば100kg以上の負荷がかかっているんじゃ……。それにそこから60kgの重りって普通は動けなくなるぞ。

いくら全盛期の私でもあれを着けて活動はしたことがないのだが…。

 

「”個性“は急いだってどうしようもない。怪我したら元も子もないし、またゆっくりやっていこう。とりあえず居ても邪魔になるだろうから俺は行くよ。

八木さん。補導されないように見てくれてるんでしょうけど出久のことは頼みます…それでは」

「あ、ああ」

 

重りをつけているとは思えないほど自然な姿勢で走っていく姿を何とか返しつつ見届けると、私は緑谷少年を見てこう言わざる得なかった。

 

「…本当に”無個性“なんだよね?」

「…はい。その、師匠?という方からもらったとかなんとか…普段の日常から着けるように言われたらしくて、中学に入る前にはもう80kgはいつも身につけてました……」

「……そ、そうか」

 

どうやら彼は私の想像以上に体を鍛えていたらしい。

その師匠なるお方のお陰で彼は強くなったのだろう。それにしては、過酷に思えてしまうが……いや違うな。

時代は違えど私には分かる。

”無個性“だからこそ、彼は努力を惜しむ訳にはいかなかったのだ。

ヒーローになるために。何倍も努力しなければならなかった。

拳王技少年。もし私が緑谷少年と出会っていなければ、彼もまた後継者候補の一人だっただろう。

今の私には何も授けてやれないが、”オールマイトとして“彼を応援するとしよう。

それに緑谷少年の幼馴染で、同じくヒーローを目指しているなら……彼は必ず()()

その時を楽しみにしておこう。

あの様子だと彼なら心配する必要はない。ならば、私は今の後継者である緑谷少年の育成に集中しなければ。

ただ彼、もうあそこまで来たら”個性“いらないんじゃないかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトから個性を授かって半年。

 

「行くよ、かっちゃん!」

「来いやデク!!」

 

ワンフォーオール、10%!!

 

僕は無事にワンフォーオールの制御に成功していた。

たまに覗きに来るようになった界くんとオールマイトを交えてあれやこれやと話し合ってトライアンドエラーを繰り返し、最終的には界くんが”流れ“を見つけ、オールマイトがそれを参考にイメージを取り入れるというアイデアから成功し、あとは僕がその感覚を体に覚えさせたのだ。

一度成功したからか界くんも力の具合を把握出来たらしく、教えてくれたのも大きい。

何はともあれ、ようやく僕は”個性“をちゃんと使えるようになった。

だからといって---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「甘ぇ!」

「うわあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい威力だけど、遅い」

「ぐえっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう簡単に勝たせてくれる幼馴染ではないのだ。

確かに”個性“を制御出来るようになったが、二人もその間に強くなっている。

何より必殺の一撃が使えるようになっただけだ。

 

「あと半年で受験なのに…このままじゃ……」

「実技が何か不明だもんな。その力ならプロヒーロー相手でなければ初見殺しでいけそうだけど」

「そもそも”個性“が使えるようになったからといって、デクには機動力がねぇ。あからさまに狙っていますと言いたげに拳を構えてりゃ、俺や拳王に通じねェんだよ。そこにさえ注意しときゃ避けようも防ぎようもある」

「あと発生までのラグだな。

お前の”個性“の流れはこんな風に左右で使う際にも、右から左。左から右に対して猶予がある。しかも足にやれば、今度は拳に付与するまでの時間があるからこそ、扱いきれていない。爆豪みたいに幼少から使えて、手足のように自由に出来るならまだしもな」

 

白いオーラを発生させた界くんが僕がどんなふうに使っているのか分かりやすく右腕に宿したあと左腕に移し、足に移し、と実践しながら教えてくれる。

確かに見ていると、1秒以上や長いともっとかかっている。

 

「他にもデクはオールマイトじゃねぇだろ。その戦い方はお前には合ってないんだよ」

「僕には合っていない…?」

「イメージを固め、出力をコントロールし、それを体にリンクさせる。何が言いたいかというと、それらは()()なんだ。俺みたいに一瞬で拳に全ての力を注げるわけじゃないなら余計にな」

 

瞬時に白いオーラが右腕に集中すると、白いオーラの質量が大きくなっているように見える。

それから、オーラは全身に行き渡っていた。

 

「俺は威力を高める際に集中こそするが、基本的には”気“を()()に纏って定着させている。そうなれば、どうなる?」

 

全身に纏えばどうなるか。

普通に考えるならエネルギーを巡り合わせることで出力を維持して、必要に応じて……。

 

「あっ!」

「気づいたか?」

「そうか。そうだったんだ。僕は一つ一つの動作を丁寧にやりすぎていた…!」

 

オールマイトは出力をコントロールこそすれば、その力をすぐに引き出せる。

対して僕は自分の出せる出力に抑えてコントロール。必要に応じてイメージし、その部位に付与、放つという手順を踏んでいる。

彼らが言いたいのは、それらは回りくどいということ。

 

「必要に応じてスイッチを切り替えてたら二手三手に反応が遅れるのは当然のこと! だったら一部じゃなく、最初から全身に行き渡るようにすれば……ッ!」

 

両足を重心を落とし全身に力を入れる。

赤い亀裂の光が全身に浮かび上がり、熱が満遍なく伝わってゆく。

部分的じゃない。

全身に巡らせることで常時普遍的な身体強化に!

名付けるなら、OFA---

 

 

 

 

 

 

 

「フルカウル……!!」

 

10%!

 

「チッ、自分なりの答えを見つけたか」

「なんだ、強くなった方がいいだろ。それとも、まさか負けると思ったか?」

「は?勝つわクソ逆立ち髪が!」

「そうかそうか。お前にだけは言われたくねぇよツンツン頭」

「あ゛あ゛っ゛!? そっち出ろや!」

「ああ、やってやる!」

「ま、待って待って。なんで二人が白熱してるの!? 普通ここは僕が試すところじゃ…」

「「だったら早くしろ!!」」

「なんで二人して怒るのさ!?」

 

 

 

 

 

結局二人と戦って、僕はフルカウルを身につけても負けた。自分なりのスタイルを見つけただけでぶっつけ本番だったから乱れることがあった。

その隙を突かれてしまった。

その後は二人が”個性“と”気“を使用して組手するという珍しく本気のぶつかり合いがあり、僕しかいないからか周りの被害を考えずに暴れるせいで僕は流れ弾をフルカウルで避けるので精一杯だった。

なんというか、組手するよりフルカウルの練習になった気がするのは気のせいかな…。

何はともあれ、新しいスタイルを手に入れた僕は界くんにその状態に慣れるように言い渡され、目標が決まった。

というのも、慣れるのと慣れないのでは体力や集中力の消耗が違うらしく、すぐに出力を強化するよりも安定性を強めた方が後々出力を上げても問題なくなるとのこと。それを怠れば出力を優先しても乱れて使い物にならないと。

もしヴィラン相手だったりヒーロー活動中に使えなくなってしまったら意味が無いし、今の10%を安定して使えるようにする方が確実なのもあって納得だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は流れ---

 

ついに。

 

ついにこの日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英入試当日。

 

 

 

 

 

 

僕の、僕たちの将来が掛かったといっても過言ではなく、運命を決める試験の日。

”個性“を使えるようになった。

フルカウルを物にした。

勉強も怠らなかった。

入試の前の三日間、しっかりと休んだ。

出来ることは全部終えた。抜かりなく、やった。

あとはただ、それらをぶつけるだけだ。

雄英に合格するために、僕たちは来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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