無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
振替休日が終わり、今日は登校日だ。
天気予報にもあった通り雨なのだが、昔は雨粒を避ける特訓もしたっけな、と思いながら傘を差していた。
やろうと思えば別にバリヤーで防げるのだが、そのために消費して授業に響いたら困るので普通にみんなと同じようにしている。
雄英体育祭は外でも大々的にテレビで映されていて、常に上位で立ち回っていたせいで俺も悪目立ちしているようだ。
「かーめーはーめー波ー!」
「きこーほー!」
「すごかったなぁ〜」
ふと振り向くと小学生くらいの子供が俺の技を呼んでいて真似していた。
思わず苦笑する。
ちょっと懐かしいな。俺も師匠のかめはめ波を見たとき真似たことがある。
俺の場合は普通に出ちゃったんだけど、この子たちからは特に感じられない。
俺は元々半分覚醒していた、と言われていたから分かるが、そもそも俺ですら明確に”気“を会得出来る方法は知らない。教えても誰も発現してないし。
せいぜいイメージを伝えるくらいだろう。
自覚する方法は分かるし修行で高めることが出来ることは知っているが、結局個人差が出る。
”個性“と”無個性“の俺じゃ力が違うしな。0と10くらいの差が発現時からあるだろうし、高校生ともなれば0と80くらいはありそうだ。
少なくとも俺はあの時、今まで生きてきて抱いたことがないほどに猛烈な怒りによって感情が爆発して反撃をした。
その後に”圧力“という形で無意識に感じ取っていたみたいだが、それ以外のことはよく分かっていない。
俺だからこそ得られたのか、それとも”無個性“が死にかけて怒りで覚醒するものなのか。
どちらにせよ、やろうと思えば修行で会得できるのだろう。
将来的にはこの世界の人たちも誰もが扱えるようになるかもしれないしな。
失念していた。
いや轟の家に行った時に知名度すげぇなぁと思いはしたが、病院行った時はさほど問題なかったんだ。
だが、まさか電車に乗った時にすぐさま囲まれて話しかけられたり喝采を貰うとは。
握手やサインも要求されたし、サインはないので諦めてもらったが。あと何故か俺の筋肉に触れたがる人が多かったのは何でだ?
上半身裸になったからか?それ以外に理由が見当たらない…!
確かに俺の肉体は見た目に反してのパワーがあるから気になったのかもしれないが…減るもんじゃないからいいけど、老若男女問わずなので女性相手だと反応に困る以外は普通に済ませた。
まぁ俺並に鍛えた人はぶっちゃけこの世界だと居ないとは思う。師匠の修行方法は地球人がやるもんじゃないしな…。
普通、この世界の人たちが至れる発想じゃないし。最低限鍛えることはするが”個性“を鍛えようと思うからな。優先は後者だろう。
それはともかく、なぜバレたのかと考えたが、未だに包帯を巻いてるのもあったからそれで余計にバレた節もあるだろう。
おのれエンデヴァー…!
俺を再びミイラマンにしやがって…!
とまぁ、登校時にそんなことは起きたが概ね問題なかった俺は普通に教室に入った。
出久はまだ来てないようだ。
結構な人が既に居る。
「あっ、拳王技くん---ってどったの!?また包帯巻きになってるじゃん!」
「うわ、ほんとだ!拳王技がそんな怪我負うってヴィランにでも襲われたのか!?」
「何かあったのか!?」
「おはよう、葉隠さん。切島、尾白くん。あとみんな」
クラスに入れば気づいたであろう葉隠さんが真っ先に声を掛けてくれた。
中学では考えられなかったことなので、正直嬉しいといえば嬉しい。
別に人と関わるのが嫌いなわけじゃないからな。
ただ理由を正直に話す訳にはいかない。
「ちょっと新しい修行でやらかして。1週間もあれば治ると思うから気にしないでくれ」
「新しい修行…?」
「100kg以上の重りつけて10倍の重力で特訓。そこから大岩を背中に乗せたりタイヤをキャッチしたり」
「え?」
何もかも嘘は言っていない。
実際には火傷が大半だが、包帯越しなら分かるもんじゃないだろう。
修行について言ったら信じられないものを見るかのような目で見られた。
解せぬ。
葉隠さんは分からないが、騒がしかったクラスが静かになっている。
いやなんでだよ。
「拳王技はどこに向かってるんだ…?」
「そりゃ遥か先?」
「何処だよ」
この宇宙とは別の宇宙にいる人の場所かなぁ、と答えられないので心の中で答えておいた。
師匠は別の宇宙から来たわけだし間違ってないだろう。
度々この宇宙から離れてるみたいだし。
ただ俺のことは見てるらしいから、もしかしたらそういった惑星か能力を持つ人物と一緒にいるのかもしれない。
「振替休日、もしかして全部修行したの?」
「いや昨日だけだよ。ただこれのせいで注目は浴びたな…」
「絶対それじゃないだろ」
「ねー、やっぱ拳王技はめっちゃ話しかけられたんじゃない!?」
「緑谷や爆豪も凄かったけど最後までトップに居たしなー!」
「あーうん。結構話しかけられた。あと何故か体触られまくってたな」
「女子か!また女子にもモテてたのかお前!!」
「男女関係なく触られたぞ」
「ちくしょぉおおおおお!男はともかく女に触られるとか羨ましいぃい!オイラも、オイラも優勝さえしてたら……!!」
「峰田ちゃんは関係なく無理だと思うわ」
「拳王技は体からは考えられないくらい超パワー出せるもんな。そりゃ気になるって!」
「俺は砂藤くんの”個性“もすごいとは思うけどな。使い方変えりゃもっと成長出来るんじゃないのか?」
登校時のことに自然と話がいって、どうやら俺だけでなく他のみんなも注目されたみたいだ。
瀬呂くんはドンマイコールされたらしい。
ドンマイ。
ある意味話題にはなれたからいいんじゃないかな……。何も無いよりかは。
「ちなみに爆豪は?」
「そうなると思ってはよ出たわ」
「その手があったか……っ!!」
俺と同じだったなら俺より先に席に着いてるのはおかしいと思ったのだが、早く出ていたようだ。
雨というのもあって早ければ人は少ないだろうしな。修行のことばかりで俺としたことが頭から抜け落ちてたぜ。
そうこうしてる間に俺のところに挨拶に来た轟と少し親しげに話したら周りに驚かれ、ほぼラスト付近で出久や飯田も来て、一言声を掛けたら飯田は心配はいらないと言ってたが、それ以上話すことはなかった。
予鈴が鳴ったからだ。
しかしあの様子からして信じない方がいいだろう。
俺に兄は居ないが、家族が傷つけられる思いは知っている。
ただ生きてるから、本当に問題ないと言う可能性もあると思うが…。
「おはよう。早速授業始めんぞ。今日のヒーロー情報学はちょっと特別だ」
あ、相澤先生ミイラマン取れてる。
ついに俺が1号になってしまったようだ。
全く嬉しくない。
俺がそんなことを考えていたら、特別という単語に教室内は緊迫した空気になっていた。
「コードネーム、ヒーロー名の考案だ」
胸ふくらむヤツきたああああああ!!!!
相変わらずこのクラスってこういう時は一体感あるよな。
ほとんどの生徒が被ってるし。
その一体感を戦いに持ち込めたらプロでも余裕で通用するのでは…?と思うが、また別なのだろうか。
相澤先生が目を光らせるとすぐに黙り込み---”個性“って便利だなぁ。
「というのも先日話した“プロからのドラフト指名”に関係してくる」
「指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2、3年から……つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い、卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんて事はよくある」
「大人は勝手だ……!」
峰田くんが机を叩いて嘆くように呟いていた。
職業として扱われてるのもあって慈善事業とはいかないのが現実だろう。
ヒーロー飽和社会だし、こう言っちゃアレだがヒーロー候補なんて腐るほど居るからな。雄英以外にも才ある者は居るだろう。
そもそも今のヒーローだってイズクペディア曰く雄英以外のトップヒーローも多いらしいから。
俺は出久たちがここを受けるからここにしただけで強くなれるならどこだって良かったし。
雄英なら他より強い人が集まるかもと思ったのもあるが。
「頂いた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ、んでその指名の集計結果がこうだ」
葉隠さんの言葉に肯定を示した相澤先生は何らかのボタン操作をすると電子黒板にA組の指名件数が表示される。
さて、俺は来てるのか。
もしくは来てないのか。
緑谷出久 4969
爆豪勝己 4956
轟焦凍 3888
拳王技界 10
二人は確定してたから居るだろうなとは分かってたが、俺少なすぎるだろ。
これでも活躍していたはずだが…?俺、将来性ないって言われてる?
上位三人に圧倒的に差をつけられて負けた件について。
それは困るな…俺には師匠を超えるという夢があるんだ。将来性がないと困る。
ちなみに切島くんは4桁近く。上鳴くんはまあ、雷系だからな…そりゃはみんな欲する。3桁いってるし、八百万さんも同様だ。常闇くんや飯田くんもだが、トーナメント参加者はだいたい多い。
そして葉隠さんにも3桁入ってた。
どうやらプロから見ても彼女の”個性“の強み、そして対人戦闘が評価されたのだろう。
教えたのが俺というのが申し訳ないが、それでも評価されたならよかったと思う。
うん、俺の10は目を逸らしておこう。
おかしいな、常に上位だったはずだが…?
俺以外にも2桁はいる。障子くんや尾白くんとか麗日さんとか。麗日さんはほぼ3桁だけど。
ただ俺より下は指名0以外は居ない。
と言ってもクラスの半数以上が指名されてるみたいだけどな。
「ぼ、ぼぼぼ僕が一番…!?」
「ちっ、負けかよ。あと十数人くらい俺に入れろよ!」
「拳王技少なすぎね?」
「緑谷や爆豪や轟は納得出来るけどなぁ…」
「あの!間違いじゃないんですか!?拳王技くん最下位じゃん!絶対可笑しい!」
「たったの10って…」
「拳王技に関しては多くのヒーローが無理と判断したようでな。むしろ片手であんな戦闘をやるようなやつを受け入れる方が難しいという判断なのだろう。経験を積ませようにも逆に受け入れ先が足を引っ張ると思ったらしい。ただ代わりと言っちゃアレだが、トップレベルのヒーローばかり指名が入っている」
「成程。強さ故…か」
「へー」
「拳王技くんはもっと自分のことに興味持って!?」
「よくよく考えたら多いと選びづらいと思って。一人でも指名入ってるだけで十分だよ」
「拳王技らしいな。そのポジティブさ」
何故か当の本人の俺よりも葉隠さんが感情的になってくれていたが、出久や爆豪の件数を見てりゃむしろ少ない方がいいと思った。
それに近いことを言ったら尾白くんが多分褒めてくれた。
というか、そもそもの話。
”無個性“を受け入れようと考えるヒーローも少ないはずだ。
事情を知ってるナガンさんやホークスさんはともかく。
ただぶっちゃけもう一人も予想出来るんだよな。
だって俺のバイト先だろうし。
残りは分からん。
流石にオールマイトは指名しないだろうし。
「しかし例年はもっとバラけるんだがな。今年は三人に偏ったらしい。この結果を踏まえ、指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
「……職場体験?」
俺は先輩から存在を聞いていたため、特に驚きはない。
1週間の間だが、その名の通りヒーロー活動の経験が出来るのだ。
ヴィジランテとして活動してた時は基本ドンパチしてたのとゴミ拾いとかが多かったからな。
バイト先って言ったってライセンスを持ってないからヒーロー活動はしてないし。
事務所の片付けやら書類整理やらの雑用だ。
たまに緊急性のある事件があったら活動してたけど、バイト先のヒーローの許可があったからこそ、だ。
プロの許可無しだと自己防衛でない限り傷つけたりしたらダメだからな。”無個性“だから俺は問題ないが、やりすぎたら結局警察行きだ。
「ああ、お前らはUSJん時、ひと足先にヴィランとの戦闘を経験してしまったが……プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」
「それでヒーロー名か!」
「ガゼン、楽しみになってきたぁ!」
「そういうこと。必要になるからこそ今日付けてもらうが、適当なもん付けちまうと---」
---地獄を見ちゃうよ!!
教室に突如として現れたのは18禁ヒーローミッドナイトだ。
俺は気配で気づいてたが、ヒーロー名か。
ヒーロー名ね……。カメハメハ大王じゃだめかな…ダメか。昔の人物だし。
ちなみに相澤先生はセンスがないとのことでミッドナイト先生に査定をお願いしていたらしい。
あとは任せたと寝袋に入ってた。
それでいいんですか。
センスないのは俺も同じだからなんとも言えないけど。