無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
現状報告になりますが、多分次から投稿速度落ちるかも。ちょっとスランプ気味に陥ってます
校長室に呼ばれた俺はやらかしたから…ではなく仙豆についての説明だった。
校長に説明し、オールマイトの怪我を治したことを話して、他言無用だと言われたくらいで感謝をされただけだった。
あとから知っている出久や爆豪にも口止めが掛かるらしい。
ただ仙豆のことを話してた時に校長の顔がちょっと面白いことになってたのは秘密。
医療技術に革命どころか全て吹っ飛ぶからな。
豆一個で病気以外なら基本はなんでも治るんだぞ。古傷は治らないけど、大変なことになる。
数が限られてる関係なく、一粒あるだけで知られたら俺が狙われる危険性もある、ということで出来る限り使用はしないように強く言われたが。
そう言われても、もし俺の知り合いが使わなければ死ぬ状況とかだったら俺は迷いなく使うけどな。
…残り2粒しかないという不安要素はあるけど。
とにかくオールマイトが治った。
それでいいだろう。
話を聞いたら体の調子も良くて、朝に食べたご飯が今までで一番美味しく感じたと笑顔で答えてたし、よほど嬉しかったのだろうな。弁当も見せられた。
俺の腹が空くのでやめてくださいとは言った。
やっぱり人間、ちゃんとした食事しなきゃな。
ただ一応念の為にバランス考えた方がいいですよ、とは追加で言っといた。
とまぁそれ以外には特に何事も無かったので置いておいて。
いよいよ今日は職場体験当日。
悩みに悩んでいたら、俺はバイト先から呼ばれたのでバイト先にした。
強制ではなく、もし決まってないならと言われたので、決まってなかったから選んだ。
俺もやりやすいし、先輩も居るだろうからな。メッセージは交わしてるけど、そろそろ会いたいし。
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように。じゃあ行け」
駅前で解散だ。
ここから先はそれぞれのヒーロー事務所に向かう。
今回、修繕されたコスチュームを持ってるので俺もある。
まぁ俺の場合はデザイン以外特に何もなくて、本当にただの服だからそんなに時間が掛かってなかったりするが。
サポートアイテムを否定するわけじゃないが、俺はこの身ひとつで十分なのだ。防具としての役割なんていらん。そもそも”気“が防具みたいなもんだしな。じゃあそれをサポートする機能つけりゃいいって話なんだけど、そんな甘いことしてたら一生師匠に追いつけるかよ。
これからもしあるとしたら、せいぜい武器をひとつ持つ程度だろうか。
ヴィジランテの頃に使ってたのしかないし、残念ながら新しく作ろうと考えてるのは未完成なので持ってないけど。
元は神の道具だっけ、この世界の技術は相当あると思うが、どこまで再現出来るか…。
「拳王技」
「轟か」
出久が飯田に話しかけてるのを傍目で見つつ、話しかけてきた轟に返事をする。
「途中まで一緒に行かないか?」
「いいぞ、お前エンデヴァーのとこだもんな」
「ああ。お前がくれたきっかけを無駄にしたくねぇからな。拳王技にも来てたろ、エンデヴァーのところにしなかったのか?」
「いやぁ、流石にやりづれえから」
「そうか……」
なんだか残念そうにしている。
悪いけどバイト先にはお世話になってるからそっち優先なんだ。それにホークスさんやナガンさんに頼まれたことも、そこなら見つかる可能性が高いからな。
「拳王技くん!」
「お、葉隠さん。もう行ってるかと思ってた」
「もう少しで行くよ。だから伝えておきたいなって」
「ん?」
轟と話してると、少し駆け足気味に葉隠さんが来た。
伝えたいこととは。
「拳王技くんとは実力が大きく離れてる。それは私だけじゃなくて、きっとみんなも。だから私、職場体験で少しでも追いつけるように頑張る!…それを伝えておきたかったんだ」
「…そっか。葉隠さんはちゃんと努力が出来る人だ。職場体験とはいえプロの仕事を見られるからな。貴重な時間になる。俺は近くにはいられないけど、応援してるよ」
「ありがと!それでね、職場体験が終わったら成果を見て欲しいな!と思いまして……」
「そんなことでいいのか?そりゃ俺は良いというか、むしろ俺は嬉しいから喜んで引き受けるが…」
「本当?じゃあ空けといて!」
「ああ、わかった。期待してるよ」
「!う、うん!」
なんだか声音が上がってる気がする。
表情が見えないから分からないが、不快な思いをさせたわけではないようだ。
彼女の成長が楽しみなのは事実だしな。これでも面倒見はいい方だぞ。
じゃなきゃ出久をずっと鍛えたりなんかしてないし。
むしろ俺が断ると思ったのだろうか? 少しでも彼女が強くなれば俺も参考に出来るかもしれないし、良い人には報われて欲しいと思うのが人間ってもんだろう。
いや知らないけどな。
あくまで主観だし…。
「…二人は仲、いいな」
「そっ、そうかな?」
「そりゃ入学してから今日まで友達だからな。正直出久や爆豪を除いたら一番話してるかも」
「うん…友達だからね!まだ!二人を除いたら私が一番…そうなんだ……」
「葉隠さん?」
「な、なんでもない!」
何か言ったような気がしたが、流石に聞き取れなかった。
声が小さかったし、聞いて欲しくない言葉だったかもしれない。
あとちょっと言葉おかしかったような。
あえて追求しない方が正しい選択か。
「そういや戦闘訓練でも一緒だったな」
「そういうことだ。他の同級生よりも関わる時間は長いからその分仲良くなれる。雄英の人たちっていい人ばっかだしな」
「ああ、俺も頑張ろう」
「何をだよ」
「拳王技くん…もしかして轟くんまで……?」
「ちょっと待て葉隠さん。何を言いたいのか俺には全く分からない」
見えないというのに不思議と抗議な目を向けられてる気がする。
轟までってなんの事だ。
それに轟はマジで何を頑張るんだ。
修行のことか?そうだと思いたい。
むしろそれ以外だと思いつかない。
「それより時間平気か?」
「ヤバっ!じゃ、二人とも行ってくるね、お互い頑張ろ!」
「おう」
「一週間は短いようで長いから無理せずにね」
時間の方を告げると確認した後に電車の時間が近いことに気づいたようで別れ際に一言交わし、恐らく手を振っている葉隠さんに手を振り返した。
「俺らも行くか」
「そうだな」
彼女を見送った後、いつまでもここに居たって仕方がないので俺と轟は互いのヒーローの事務所に行くまでの少しの間、一緒に行動した。
みんなや轟と別れた俺はバッグから取り出した重力発生装置を”気“で補給しつつ発動させて歩いていた。
掛かる負荷が修行に持ってこいだ。地面に足を着いたら壊れるからバレない程度にちょっぴり浮いている。
範囲に関してはバリヤーを応用し、自分だけを覆うことで範囲も同じく狭めた。
これ、結構消費するからあんまりバリヤーって展開するもんじゃないんだけど。
安全第一だ。他の人巻き込む訳には行かないしな。
その状態でしばらく歩く…というよりかは浮きながら移動し、事務所の前に着いたら解除して着地する。
雄英に入ってからは来たことないし、久しぶりだな。
三ヶ月ぶりくらいか?みんな元気にしてるかな、元気だろうな。
ということで早速鍵を開けて事務所に入った。
入って最初に目に入ってきたのは大量の書類を抱えている一人の女性だ。青い肌とショートカットの青髪が特徴の女性。
彼女は俺に気づいたようで、顔を明るくした。
「あ、界くん!いらっしゃい」
「お久しぶりです、バブルガール」
「うん、久しぶりね。サー!界くん来ましたよー!」
「ああ、少し待っていてくれ」
俺に話しかけてくれた女性は泡田薫子ことバブルガール。
”個性“はバブルで性格は頗る明るい。
そして書類を物凄いスピードで片付けてるのはメガネにスーツと一見普通のサラリーマンにしか見えない男性。
サー・ナイトアイ。
オールマイトの元サイドキックであり、今では独立して事務所を構えている。そして俺のバイト先であり、今日からお世話になる事務所だ。
ちなみにバブルガールはサイドキックで、あと二人いる。
待ってる間、そこに向かった。
「センチピーダーも元気そうで」
「やあ、界くん。君の方は…聞くまでもないか。活躍は耳にしてるよ」
ムカデの”個性“で体もそれっぽい。
人型にした感じだ。
「雄英体育祭見たよ〜私は会場で!界くんすごい目立ってたね!それに以前来た時とは比べ物にならないくらい強くなっててびっくりしたなあ。それに他の人たちも凄かったし一年生で界くんと戦えるくらい強い人もいるなんて思わなかったよ」
「ありがとうございます。でも3年の部に行ってたのでは?」
「うん、だから最初は中継の方で見てたんだ」
「ああ、なるほど。そういえば通形先輩は?」
「ミリオくんは---」
俺の探知内に新たな反応があり、視線を向ける。
そのタイミングで。
「ジャジャーン!久しぶり、界くん!」
目の前から生えてきた。
文字通り、生えてきた。
地面から。
驚きは一切ないが、俺以外にやると心臓に悪すぎる。俺でも”気“を感じれなかったらぶん殴ってる。
「通形先輩。どうも」
「たはー、その顔、気づいてたって顔だね!」
「まぁ思い切り”気“を感じたので…」
「くそー俺もまだまだって感じか!でも本当に久しぶりだよね!」
「そうですね、入学してからは会ってませんでしたし…USJの際はご心配おかけしてすみませんでした」
「いいっていいって!ただ波動さんも環も会いたがってたよ!」
「二人にも謝らないとなぁ…」
この人は通形ミリオ先輩。ヒーロー名はルミリオン。
実力はとんでもなく高く、今感じられる”気“も相当なものだ。”個性“に関しても強くはあるけど使いづらかったので一緒に対策考えてたらなんかとんでもない方向に行った人。
ちなみに俺はこの人にあまり勝てたことがない。”気“を使えるようになったらどうなるんだ…?
といっても俺が成長する前だから今は分からないが…。
あーというか通形先輩も炎が宿ったみたいな感覚あったとか言ってたっけ。
…そもそも最後に会った時より遥かに強くなっている気がする。やっぱバフ掛かってるよな。
何よりこの感じ、この人もアレだな…出久と爆豪と同じじゃねーか。
予想の通りなら”同化“したんだろうな。
条件は知らんけど。
「全員揃ったようだな」
話してるとナイトアイも終えたようで、一声でみんなが視線を移して雑談が中断される。
ここから先は仕事の話だ。
「まず界。他に指名もあっただろう。来てもらって悪かったな」
「いえ、特に決めてませんでしたしナイトアイなら
「流石だ。話が早い。これから私たちはある人物を探っていく。まだ不明なことばかりだが、先日監視カメラに残っていたデータを取り寄せてもらった」
そう言うや否や、センチピーダーにデータの入ったSDカードを渡すと再生を始めた。
映像を覗き込むと、一人の男性が一瞬にして複数の人間をダウン…いや、殺していた。
ホークスさんやナガンさんが言ってた殺し屋だ。
「何か見えたか?」
「いや全く。監視カメラの映像がどうのじゃなく、まず
「マジか、界くんですら見えないって相当ヤバくないですか?」
オールマイトの攻撃すら見えると言うのに、そんな俺が目視を一切出来ない。俺が見えなかったのは師匠やその知り合いを除けば体育祭の出久が初めてだ。
それも成長した今の俺なら見えるだろうが、そんな俺が見えないってことは今の出久や今の俺を上回る強さがある可能性が高い。それも、下手をすれば20倍を使っても。
直接見たら変わるかもしれないが、これが”個性“に依るものなのかはたまた別の力を使っているのか。
「ただホークスさんやナガンさんは”気“を使ってるかもしれない…とは言ってましたね。会ってみなきゃ判断出来ませんが」
「そうだ。だからこそ調べなければならない。今は表立った行動をしてないようだが、もしこれほどの力が持つ者が表に出てこればどうなる?オールマイトが築いた平和はあっさり崩れるだろう。基盤が崩れてしまえば雪崩の如く崩れてゆく。それは何としても防がねばならん」
「ですがサー。何処にいるか分からないと厳しいのでは?もしかして既に予知を?」
「いい質問だ。その通りだ。この相手はヒーロー殺しと共に居た…つまり」
「保須か……」
首肯されるが、保須となると頭に浮かぶものがある。
ヒーロー殺しの存在。
職場体験先。
「界くん?何かあったのかい?」
「…いえ同級生がそこに居るので。マニュアル事務所のところに行ったみたいですけど」
「なら大丈夫じゃないかな?緊急性があるならともかく、自ら戦いに行くことはないと思うし…」
「そうだといいですが」
バブルガールの言葉は確かに正しいだろう。
ヒーロー殺しによって多くのヒーローが被害に遭っている。実力によほどの自信が無い限り探ろうとは思わないだろう。
だがもし飯田が復讐心に囚われてるならば…必ず動きかねない。
だからといって何の資格もない俺には対策の仕様がないが。俺が許可されてるのも殺し屋に対してだろうしな。
「正確な場所は?」
「そこまでは分かっていない。だが、保須ということさえ分かっているならば十分見つけられる可能性があるだろう」
「全国探すよりかはそうか…」
そこまで現実は甘くなかったらしい。
そもそもナイトアイの”個性“は予知だが、自分がこの未来を視たい!と思って視ることが出来る力じゃない。
本人を直接視ることが出来たら別だが、恐らく別のヴィランか被害者でも視たときに一部視えたのだろう。
俺や通形先輩とかの未来を見りゃ一発なんだけどな。
「何より今回の案件は私たち以外にもいる。ヒーロー殺しの方はエンデヴァーが名乗りを挙げたみたいでな」
「へえ、エンデヴァーが」
あの人、やる気満々なんだなぁ。
ま、実力は問題ないだろうしそれならヒーロー殺しのことは任せても良さそうだ。今のエンデヴァーならヒーロー殺しにバグか脳無ん時みたいな状態になってない限りは圧勝出来るだろうしな。
あの状態になられたら分からないがエンデヴァーなら向こうが急激に強くなっても確実に勝てるだろう。むしろ今のエンデヴァーで勝てなかったら俺でも勝てないだろうしな。
問題は他のヒーローが遭遇しないか、だ。
出来るなら最悪なことになる前に見つけて欲しいものだ。
俺は俺で殺し屋ってのが”気“を使えるんだとしたら俺が止めなくちゃならない。俺以外が扱えない”気“が扱えるような人物となると関連性を感じてしまうからだ。
考えたくはないが…
特にサイヤ人に会ったことがあるのは俺だけだ。そう考えれてしまう。
とにかく今日は初日なのもあって別の案件らしく、明日から保須に行くらしい。
今日のはパトロールとぶっ飛ばせばいいやつらしいな。簡単で助かる。
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一方で。
「よく来てくれた、焦凍」
「ああ…世話になる」
拳王技と分かれた轟は自身の父でありながらNo.2であるエンデヴァーの元へ赴いていた。
しかしエンデヴァーはやけに周囲に視線を巡らせ、難しい顔をしていた。
普段からは考えられない様子に訝しげにしつつ轟が聞くと。
「……どうした?」
「いや…拳王技は来てないのかと思ってな。指名したはずなんだが」
「別んとこ行った」
どうやら拳王技を探していたらしく、隠すことでもないので素直に話す。
するとエンデヴァーの炎が揺らいで。
「何故だ拳王技ィイイイイイ!」
「確かに残念だが別に強制じゃねえだろ……」
暑苦しいほどに炎が噴き荒れていた。
半ば呆れつつそう返した轟は悪くないだろう。
そもそも前もって知っているはずだが、サプライズでも期待していたのだろうか。
割とやりかねない性格ではあるが、真面目な時は真面目なのでそんなことをするはずがない。
ちなみに同時刻、拳王技は普通にくしゃみしていた。
みんなと分かれた僕は新幹線に乗り、45分ほど。
寂れた事務所の前に僕は居た。
年季が入ってるからか、かなりボロい。本当にここなのか?と確認するけど、あっている。
というか確認するまでもない。
なぜならここに来たのは僕だけじゃなく---
「さ、さささささあ、い、いいいい行こうか。み、緑谷少年ンンン!」
---オールマイトも居るからだ。
何故か震えてる。滅茶苦茶震えてるし普段のオールマイトから想像もつかない姿だ。
レアすぎる。
一体何者なんだ…グラントリノ…!
「あ、あの…だ、大丈夫ですか?」
「だ、だだ大丈夫さ。これはそう、武者震いってやつだから!」
ちなみにオールマイトは既に治っているため、マッスルフォームの活動時間は数時間から無制限になった。
そのため普段の姿で居てもいいけど、移動にならないからとここに来る前まではトゥルーフォームだった。
それでも以前のようなガリガリなオールマイトじゃなく、ある程度肉もついててちょっと改善されてる。
どうやら界くんが与えた”仙豆“は想像以上に効力があるものだったらしい。
このまま行けばオールマイトも普通の人と同じ体になれるだろう。
本当にすごいな、界くん。
貰い物とは言ってたけどこんな貴重な物を自分のために使わず誰かのために迷いなく使える人はそんなに多くないと思う。
しかも見返りを求めず、オールマイトを気遣って戦って欲しいと言っただけ。
…まぁ、自分と本気で戦って欲しいというのは本音なんだろうな。
そんなことを考えてる間にオールマイトは深呼吸して少し落ち着いたようで、震えは収まったみたいだった。
なんだかすごく緊張してくるぞ…。ワン・フォー・オールのことも知ってるらしいけど、一体どんな人だろうか。
オールマイトの師匠だからかなり年輩の方だと思うけど…。
「緑谷少年、準備はいいかい?」
「は、はい!」
オールマイトに返事をし、いざ僕たちはグラントリノの事務所へと---
「し、死んでるぅ!?昼ドラみたいになってる!?」
「生きとる!」
「生きてた!!」
「ぐ、ぐぐぐグググラントリノ!ほ、ほほ本日からお世話になります!」
「誰だ君は!?」
「雄英から来ました緑谷出久です!」
「俊典です、先生。八木俊典です!」
「誰だ君は!!」
「先生!!八木俊典です!」
「雄英から来ました緑谷出久です!」
「誰だ君は!」
「せんせーい!?」
立ち上がったのを見たら分かったけど、よく見たらケチャップとソーセージだ、あれ。
ということはからかってるのだろう。
それに界くんのお陰で分かるけど、この人の立ち振る舞いから感じられるのは強者のそれだ。
この人、かなり強い…!
「ま、冗談はさておいて、よく来たな俊典」
「あ、ご冗談だったんですね」
「そしてそこの男が、お前の選んだ9代目か。俺ァもう一人も指名したはずだが、やっぱ来なかったか」
「はい、緑谷出久と申します」
僕は失礼のないよう深々とお辞儀する。
言ってるのは界くんのことだろう。界くんは何処に行くのか聞いたんだけど、バイト先としか答えてくれなかった。
「も、申し訳ありません。その、拳王技少年には断られてしまいまして…」
「興味本位で呼んだだけだ、気にするな俊典。それより俺はグラントリノ。オールマイトの先生をやっておった。一年だけだけどな」
そう言って笑うグラントリノは立ち振る舞いから、おとぼけは口だけだなと分かる。
「体育祭見たぜ。ワン・フォー・オールをものにしてるどころか発現した歴代の”個性“も使いこなしてるってな」
「…!知ってるんですね」
「俊典から聞いたんだよ。こいつが連絡を寄越さないからこっちからな」
「そ、その件はとても反省しております…」
オールマイトの先生だ。
話すのも当然というべきか。それにしてもオールマイトが恐れるほどには思えないけど……。
「んじゃ試してみるか…!」
「緑谷少年!!」
「……!」
その瞬間、グラントリノが視界から消えた。
咄嗟にカバンを投げ捨て、僕は一気に後ろへ跳ぶ。
コスチュームを着てる時間はない。
先程僕が居た位置にグラントリノの蹴りが突き刺さっている。
「先生!何を……」
「邪魔するなよ、俊典。テレビで見たけど、実際に体感しておきたい。歴代の力はなしだ、小僧。ワン・フォー・オール。そして自分の”力“だけで俺に示してみろ」
部屋の空気が一気に重たくなる。
これはグラントリノからの試練ってことか。
僕がワン・フォー・オールを受け継ぐのに真に正しいのか、彼なりに試したいといったところなのかも。
…確かにそうだ。テレビで見たならグラントリノは界くんのことを知ってるはず。
それにわざわざ界くんにも指名してるんだ。
客観的に見たら界くんの方が適任だろう。
なら僕は僕なりにグラントリノに認めて貰わなくちゃならない。
オールマイトの秘密を知る人に…!
「その顔は覚悟を決めたみたいだな」
「ええ、いつでも……!」
ファイティングポーズを取ることで準備が出来たことを知らせると、グラントリノが跳び上がった。
どんな”個性“かは分からないけど、間違いなく機動力特化!
ワン・フォー・オールの許容範囲ギリギリを使えば簡単に捕まえられるだろうけれど---。
「っ!」
「ほぉ……これを避けるか。ならまだまだスピードを上げるぞ!」
跳んできたグラントリノの突進を半身をズラして避けると、グラントリノは縦横無尽に跳び跳ねていた。
目を忙しなく動かしながら動きを読み、攻撃を次々と避けていく。
界くんほど速くはないけどだんだんと速度が上がっていく…!
屋内、そしてこの年季の入った事務所で許容範囲ギリギリのワン・フォー・オールは危険すぎる。
なら、ワン・フォー・オール・フルカウル---
「5%!」
衝撃波も危険なため、あくまで身体能力が少し強化される程度の出力にした僕は冷静にグラントリノの動きを目で追い、タイミングを計ってグラントリノの両脇をキャッチした。
「っ!? ……まさか俺がこうも簡単にとっ捕まるとはな……しかも建物に被害が行かぬよう抑えたな?」
「はい。壊してはいけない建物と想定して動いたので…」
「状況把握だけでなく、”個性“のコントロールもよぅできとる! 俺の”個性“を瞬時に把握と分析もしてるし、その判断も速い!出力の方は何処まで引き出せる?」
「えっと、歴代の”個性“を抜いてなら、80%ほどでしょうか。”黒鞭“を用いれば体育祭で引き出した力---150%までは可能だと思います」
「80!こりゃとんでもない逸材を拾ってきたな。して、150ってのはどういうことだ?」
「これは幼馴染が出した仮説なので僕もまだ本当かは分かってないんですが……」
僕の身に起きた現象について僕はグラントリノと向かい合って話した。
界くん曰く別の宇宙の僕、つまり並行世界の僕と今の僕が”OFA“の中、夢として出会い、同化したことで出力が一気に跳ね上がったこと。
同時に”OFA“の出力が限界を突破したのではないか、ということ。
最大出力が何処まで行けるかは分からないものの、”個性覚醒“によるものではないかということ。
「なるほどな…ひとまずそこは置いとくとして俊典とは随分戦い方が違う。俊典に教わったのか?」
「あー…いえ、その、さっき言った幼馴染…界くんに戦い方を教わって。幼馴染ではありますけど、僕の師匠みたいなものといいますか…」
「ほお…つまり、なんだ?その界ってやつがお前さんをここまで強くしただけで俊典のやつは何もしてなかった、と?」
目の前にいるグラントリノから感じられる圧がさっきと比べ物にならなくなっていき、冷や汗をかく。
失言したかもしれない。
と、とにかくオールマイトのためにもフォローを…!
「で、でもデトロイトスマッシュやテキサススマッシュとかはオールマイトから---」
「そりゃただの見取り稽古だろうが」
「う……っ!」
「まぁ…俊典のやつには後で説教しとく」
ご、ごめんなさい、オールマイト…!僕は無力です…!
実際にフルカウルや出力の操作も界くんが居なければ僕は”同化“前は使えなかったと思うし…。
オールマイトはその、天才というか感覚すぎて…。
「だ、大丈夫かい?緑谷少年!」
「オールマイト。その、ごめんなさい……色々と」
走って駆け寄ってくるオールマイトに僕は誤魔化すこともフォローすることも出来なかったことに謝ると、オールマイトは不思議そうにしていた。
「?なんの事か分からないが、先生も人が悪い。いくら本気でないとはいえ、突然あのようなことを…!」
「試すにはちょうどよかったろ。それより良い後継者を選んだな俊典」
「え、ええ。自慢の後継者です。私からも報告がありまして…」
「何の連絡もしなかったお前がわざわざ俺の元に来るほどだ。余程のことがあったんだろ?」
オールマイトが僕についてきた理由は二つある。
ひとつは僕のこと。もうひとつは、オールマイト自身のことを先生であるグラントリノに話すためだった。
「はい。私の怪我についてなのですが……」
「…まさか、悪化したのか?」
話を切り出すオールマイトに険しい表情を浮かべるグラントリノだったが、それにしては縮こまるオールマイトの様子に違和感を覚えたのだろう。
オールマイトを見つめて。
「あの、その…」
「なんだ、歯切れが悪いな。ずっとその状態ってことはマシになったのか?」
「……治りました。その、完全に元通りに」
「……は?」
オールマイトが服を捲って見せた既にない怪我と言葉に信じられないものをみたかのように愕然とし、顎が外れるんじゃないかというくらい口を開いたグラントリノ。
僕は説明が大変になるなぁと何処か他人事のような考えつつグラントリノの顎が心配だった。