無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
駄目だ!
許可しない!!
ヒロアカが大好きなんだ!!
「どりゃああああ!!」
”戦闘力“を最大まで高めた拳はヴィランが貼ったバリアを貫通し、何十人も巻き込んで壁に叩きつけていた。
ちょっとやりすぎたかもしれない。
まぁ死なないようにはしてるから問題ないだろう。流石にそのコントロールが出来なきゃ俺生活出来てないし。
瞬時に宙返りし、爆弾を回避すると飛び膝蹴りで顔面ごと地面に倒し、ライフルの弾を全てキャッチすると落とす。
俺だけなら避けられるが、今倒したやつを殺させる訳にはいかない。
手に普通の丸い”気弾“を生成して投げようとしたところで、即座に後ろに手を向けて放出すると後ろから来ていた異形型のヴィランは吹き飛んでいった。
さっきのヴィランについては意識から外し、俺は感じられる”気“の場所を特定してそこの壁に対して蹴ることで破壊する。
そして。
「く、くそ! 何者だ! 来るんじゃねぇ! 死にてえのか!?」
声の方向を見ると固定砲のようなものに腕を取り付け、砲にはエネルギーが充填されてるのが見える。
一体どこでこんなものを作ったのか。
見た感じ”個性“を増強させる兵器のひとつか? エネルギー量から計算するに、下手したら山を吹っ飛ばすかもしれない。
もし表に流通すりゃとんでもないことになりかねないな。
ここで潰すのが正解だろう。
腕を回しながら歩いていくと、目の前のヴィランは途端に狼狽え始めた。
脅しで使うつもりだっただけで使う覚悟がなかったのだろうな。
「お、おいそれ以上こっちに来るな! こ、この……どうなっても知らねえぞ!!」
標準が俺に合わせられ、ピポポポ……とでも言うようなチャージ音の後に爆発するような音が発せられ、エネルギーの砲撃とも呼べるものが放たれる。
それに対し、俺は片手を前に向けて”気“を集中させる。
この技は初めて使うが、試してみるか。
確か師匠と同じ種族のライバル的存在の人が使ってた---
「ビッグ・バン・アタック」
青い強力なエネルギー弾が掌から放たれ、砲撃とぶつかる。
ぶつかり合った途端、拮抗する---ことなくあっさりと砲撃を押していき、固定砲に直撃して大爆発を引き起こした。
腕で顔を覆いつつ空間を護っていたバリヤーを解除すると、木っ端微塵どころか砲身の丸い部分以外が消し飛んでいてヴィランは吹き飛んだお陰で気絶と出血で済んでいる。
「おーい、大丈夫かい? メテオ」
「ルミリオン。こっちは大丈夫です、今片付きました。そっちは……聞くまでもないか」
「この程度へっちゃらさ! それにしても凄い音だったね! 何の音かと思ったよ!」
「なんかサイコガンっぽいやばそうな兵器がありまして。断然大型でしたが……。とりあえず危険なので消し飛ばしたんですけどバリヤーがなけりゃ直線上のものは消し飛んでたかもしれません。恐らく5kmくらいは」
「そりゃ壊して正解だったかも。欲を言えば証拠は残して欲しかったけど……うん、仕方がない! 目的はあくまでも制圧だからね!」
ルミリオンこと通形先輩と俺は武器を流通している違法組織をぶっ潰す目的で侵入し、見事制圧した。
ロケット砲やら銃やらナイフやら刀やら法律無視なのはさすが違法組織。
それでも制圧出来たけどこの人と組んで勝てないならどうにもならない。それこそ出久や爆豪を引っ張ってこないと。
そんな相手、師匠くらいしかいないだろうけどな。
「それにしてもボスって感じの人は居なかったですね」
「うん。下っ端の組織みたいだ。とにかくサーに報告しに行こう」
「そうしましょうか」
俺は報告のためにルミリオンと一緒に地上へ向かった。
どちらにせよ引っ張っていくには人手が足りないし。
そのまんま直通していいなら真っ直ぐ飛んで持っていくが、建物は崩壊するだろうな。
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ひらひらと落ちる焦げた紙。
誰も気づかない中で一人の少女がそれを拾いあげた。
少女の目はメテオとルミリオンが向かっていった先を見ていて、残念そうなため息を零した。
「出来るなら気づいて欲しかったかな、いくら残党とはいえ君は君の師匠の戦いを知ってる。そんな彼にも深い関わりのある組織なのにね」
少女が炭を払うように叩くと、汚れていた文字が露になる。
そこに書かれたものは、ひとつのロゴ。
「本当に……君は君の師匠とそっくりだよ界くん。本来この世界の中心は君ではないのに、この世界の中心となりつつあるのは君なのだから。だけどそれが君だものね」
紙が握り締められ、くしゃくしゃにすると少女は”気“で燃やして静かにその場から去っていく。
それは気を探知出来るはずの拳王技すら感知出来なかった。
あれから諸々と説明に時間を費やして、僕とオールマイトは界くんのことを話した。
「なんじゃ、その規格外なやつは……本当に”無個性“か? 俺はてっきり増強型だと思ったのだが……それにしてもOFAと渡り合えるのは異常だが、”無個性“がだと? ”個性社会“となった常識がひっくり返かねんぞ……”気“ってのは俺も知らねぇな」
「先生でもですか……。私もアメリカに居た時に聞いた事すらないですし……やはり拳王技少年の言ってた通りなのか……?」
「とんだ問題児が現れたもんだな」
グラントリノからも規格外の判子を押されてしまった。
界くんが使う”気“は僕もちょっとは教えてもらったけど、結局使うことは出来なかった。
界くんと違って僕は肉体が完全に仕上がってなかったのもあるけど。
今も練習する時はある。でも僕の場合、”気“ではなくワン・フォー・オールの方に意識が割かれてしまう。
これは恐らく、界くん自身も言ってた”個性“を得た影響なのだと思う。完全に覚醒している”個性“という力と何も覚醒しておらず、どんなのかすら分からない”気“ならどっちの方が明確に理解できるかなんて問題にすらならない。
いずれは使えるようになりたいけど……そういえば界くんもきっかけがあったとか言ってたっけ。元々彼は半覚醒という形で数年間過ごして体を鍛えてたから僕たちとは違うだろうし。
「どちらにせよ気をつけろよ俊典。そいつの仮説が正しけりゃ……いや脳無ってやつのことを考えればAFOは生きているのは確実だ。いくら学生でありながらお前くらいの強さを持ってるとはいえ、やつならどんな手段を使って狙ってくるか分からん。もしかしたらやつなら”気“ってのを使えるようになってるかもしれんしな」
「存じ上げております。でも彼なら……いいや
「オールマイト……」
「だったらこれ以上話して時間を無駄にするわけにりゃいかんな。緑谷出久---いやヒーロー名は?」
「デクです! 頑張れって感じの……デクです!」
「デクか。なるほどな……いい名じゃねぇか。よし、じゃパトロール行くぞ。お前に教えることははっきり言って俺にはないからな。ひたすら実戦よ。ここには制限時間がなくなったオールマイトや俺がいる。多くを教えることが出来るし修行も出来る。ただいくら強くなろうとも現場はまた別だ」
とにかく”経験“! 分かったならばとっとと準備!
「はっ、はいっ!」
グラントリノに言われ、僕は急いでコスチュームが入ったケースを持ってその場から去っていく。
その通りだ。
ここにはオールマイトの先生をしていた人とNo.1ヒーローがいる。
こんな恵まれた環境で何も得られないはずがない。
追いついたと思った界くんはまだ遠く感じる。だからもっともっと強くなって必ず超える……!
手が届かない範囲じゃない。どこかの僕のためにも、みんなを守れる力を得るために---。
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私が彼を見出した時に比べて、さらに頼もしくなった後継者の背中を私は見送る。
以前にあったはずの傷に触れても痛みはなく、諦めていた食事すら食べれるようになった。
リカバリーガールから念の為に、といきなりガッツリ系を食べることは止められているものの何を食べてもどう動こうと、いくらマッスルフォームを維持しても本当に何も問題なくなった。
心做しかOFAの残り火も一気に増大したような気がして、無理をしなければあと数十年は問題なさそうだが……気のせいだろうか。
「次の芽は確実に伸びている……お前の引退も近いかもしれんな、オールマイト」
同じように見送っていた先生がふとそんなことを告げてきた。
不思議なことに頭の中に過ぎったのは緑谷少年ではなく、拳王技少年だった。
彼は不思議と人を惹きつける。
強くありながらも純粋である少年。
なんでも他の宇宙から来た人に鍛えられたらしいが……緑谷少年や爆豪少年は特に彼の影響を受けている。
彼らだけではない、A組やB組の生徒や関わった学科の生徒に先生までも。
あの体育祭を見た人ならば彼に負けたくない、と対抗心を燃やしただろう。
私も年甲斐もなく彼と戦ってみたいとすら思ってしまった。
本当に不思議な少年だ。
……そういえば数年前、鳴羽田でコスチュームに身を包んで
そういう”個性“だったのだろうが、何故か今頭に浮かんでしまった。
素顔は見られなかったが、子供の体型だったしもしかしたら緑谷少年や拳王技少年と同い歳なのかもしれない。
雄英には来てなかったみたいだが、今もヒーローを目指してるのかな。
「良いことです。私もいつまで居られるか分かりませんし……彼の”予知“通りならば私は……」
「……お前、まさか話してないのか?」
「ええ……まあ」
「ったく。ちゃんと話しとけよ。けどよ、その未来はもう外れたかもな」
かつての
体は治っても、心までは治りはしない。
話すべきだということは分かっているのに、どんな顔をして会えばいいのか私には分からなかった。
彼の言葉は間違ってないというのは理解している。だが私にも譲れない信念があった。
今でも私は私の行動を間違えたとは思っていない。否定する訳にもいかない。
あの時私が動いたから。だからこうして緑谷少年と出会い、拳王技少年と出会い、肉体が治るという今でも信じられない出来事が、奇跡とも言うべきことが起きた。
しかしあれ以降連絡をしてなかったのに突然体が治った……など言えるはずない。
このままでいいとは思ってないが……。
「そうかもしれませんね。少なくとも今は、次世代の若きヒーローたちを正しい道へと導くのが私の、オールマイトがやるべきことです。そして後継者である緑谷少年を立派なヒーローにしてやらねば」
「……そうか。久しぶりに扱きがいがありそうなやつだしな。二人まとめて扱いてやる」
「お、お手柔らかにお願いします先生」
昔の記憶ががが……!
しかし緑谷少年だけに地獄を見させるわけにはいかない。
私も共に逝こう、緑谷少年……!!
それに若い世代に負けてちゃ居られない。私が拳王技少年の壁になってやらねば誰が彼を導けるというのか……!
今日一日の職場体験は終わった。
結局組織ぶっ潰して奉仕活動して、ついでに強盗とテロを起こしてたやつをぶっ飛ばして、と学生らしい職場体験を終えたところでナイトアイに呼ばれた俺は事務所に入った。
別に書類くらいなら手伝えるが、学生という立場から休むように言われてしまっている。
今日は修行しながら大人しく寝るつもりだ。
「早速やるとしよう」
「どうぞ」
というわけで。
ナイトアイの前に立った俺は手を出すと、ナイトアイがその手を掴み、目が変化する。
”個性“を使った影響だ。
俺には頭の中を覗きでもしない限り共有されないのでどんな未来を視ているのか分からない。
ちなみに”一時間の間“その人の未来を視ることが出来るもので、その人の一生分……例えば一年後、二年後、もしくは数分後、などを一時間だけ視ることが出来るというもの。
ぶっちゃけ聞いた時は使いづらそうとは思った。
でも無制限なら無制限でチートだよな、とは思う。
ちなみに俺がこうしている理由は教えて貰っていない。
元々バイトさせてもらう条件として提示されたのが、”個性“を使用させるというもの。
ナイトアイが俺の未来に何かを見出してるのか、それとも俺の未来が悲惨なことになっているのか。
それは未来を視ることが出来ない俺には予想も出来ないけれど、初めて会ったときに”個性“が無意識に発動したらしく、その時に条件を出された。
俺としても未成年が働けるバイトなんて全然ないから助かったが、よほど切羽詰まってるような雰囲気を感じたのもある。
最初は数日。数ヶ月となり、今となっては一年か半年に一回くらいだ。
一体どんな先のものを視てるのやら。
暇なので俺はバブルガールの手伝いをしつつ、やることがなくなったら端で筋トレして待ち、数十分後には休んでもいいと言われたので部屋に戻った。
相変わらずどんなものかは教えてくれないんだよなぁ……。
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界が部屋を去っていくのを見送った後、私はため息を吐いた。
吐かざる得ないだろう。
今でも思い出すことが出来る。
彼と初めて会ったのは彼が中学二年生の頃だ。
ミリオをインターンとして受け入れてパトロールしていた際に悲鳴が聞こえた。
それらを無視するわけには行かず、当然私とミリオは向かったわけだが私たちが見たのは路地裏で数人のヴィランを
そこに居たのは小学生くらいの子供。その子を守るように立っていた男がたった一人で制圧していた。
しかも”個性“を使った形跡はなく、彼は接近する私たちに気づいてこちらを見たとき。
『……やべっ。次からは前を見るようにな。じゃあな!』
一筋の風が吹き、姿を消していた。
遅れて奥に行ったのだと理解した私はミリオに追うように指示を出し、小学校くらいの子供をバブルガールに任せた後に地面に落ちていたものを拾った。
それは彼の生徒手帳。
拳王技界という名前と通っている中学校など。
それらの情報を得たあと、すぐに追い始めた。
私が辿り着いた時には既に”個性“を使いこなしてきていたミリオが少し汚れつつ息切れを起こしていて、界はまだまだ体力があるようだった。
後に聞いた話では鬼ごっこのようなことになり、遊ばれていたらしい。
彼はこの頃から既に規格外の力を持っていたようだった。
私が辿り着いても逃げようとせず、むしろ彼はミリオを見てどこか驚いたように見つめていた。いや口元には笑みが浮かんでいて、嬉しそうにすら見える。
まるで新しい
そこから出方によっては話が出来ると瞬時に理解した私は交渉を持ち掛けるためにどんな”個性“かは分からないが、増強型と見て警戒しながら歩み寄りながら説明する。
事情が聞きたいだけで捕まえるつもりではない、と。
前提として当たり前だ。”個性“を使用して悪意を持って危害を加えたならヴィランとして扱われる。
それならばまだしも、あの様子からしてただ防衛手段として使っただけに過ぎない。
それに本人は実力を理解した上で、立ち向かっていた。
ミリオを息切れさせるほどの実力者が中学生に居るのは予想外ではあったが、歳の割には場数を踏んでいるのは見て分かる。
年齢と立ち振る舞いが一致していないし、こうして説明している間にも一切の警戒を怠わっていない。
隙がない。既に一線級のプロを超越している。
それこそオールマイトを彷彿させる……いや、ファンのお眼鏡を抜きにしても底がしれない。
そう思いつつ、理解してくれた彼の肩を叩いたとき、私の”個性“が
今までになかった”予知“の誤発動。
予想外のことに解除が追いつかず、未来を視ることになったとき、私の頭は真っ白になった。
『??? あの、大丈夫……ですか? 触れてからぼーっとしてますけど何らかの”個性“が原因ですか? それともなにかついてます?』
見ず知らずの私を心配する界だが、私の頭の中はそれどころではなかった。
こんなこと初めてだ。
生まれてこの方、一度も起きたことがない。
私の”個性“は変わらない。変えられない”未来“。
あのオールマイトの悲惨な”未来“を変えるために行動してきた。
だが、なんだこの少年は。
もしかして、彼なのか?
未来を変える鍵は。未来を変えられるとすれば……彼なのか。
拳王技界、彼の未来は---
それから彼を逃すべきではないと私の勘が告げ、彼を雇うことにした。
未成年であるため大したことはしてやれないが金銭面で困っているとのことで労働に応じた報酬を与える、という条件で。
雑用程度ではあるが、事務所の整理など手伝ってもらうことにした。
ただその時に幾度か”未来を視る“というのを加えさせてもらった。
下手をすれば彼の人生を変えてしまうかもしれないことだ。本当ならばもっと他にしてやらねばならない。
だが私にとって、ようやく見えた……いや初めて目にした”希望“。
藁にもすがる思いだった。
手段なんて選んでる暇は無い。これを逃したら私の予知通りになってしまう。
それが嫌で、恐ろしくて。
もしかしたら同様に悲惨な未来が待っているかもしれない。
それを分かってなお、私は彼を利用して試した。
謝って済む話ではないと分かっている。
だが、どうしてもあの未来だけは変えなくちゃならない。例え私が死ぬことになろうとも。
象徴を失えば社会の基盤はあっさりと崩れ去ってしまうだろう。そうなれば待つ未来は世紀末のような世界だ。
正当化するわけではない。
だが私はこの世界の未来のためにたった一人の人間を利用する---
そう、思っていた。
調べたことがある。拳王技界という存在のことを。本人にも話を聞いた。
6歳の頃に両親が他界していること。行方不明になっていた時期があるということ。そこでお世話になった人に鍛えられたということ。”気“なるものの存在。
ただ鍛えたというその人物に関しては調べても見つからなかったし本人も話したくないようだったから聞かなかったが……。
他にも幼馴染がいること。”無個性“だということ。
個性届けや検査結果などを見ても本当にそうなのだろう。
言ってしまえば、生まれが”無個性“という今の世代にとっては世にも珍しい存在だけで平凡な家庭の人間だ。
両親が幼い頃に他界していることから悲しい過去を背負った、とは付くが、特別な何かがあるわけではない。
恐らくその鍛えたという人物の方が特殊な存在だというのは理解出来る。何故ならば界の”気“はその人が半分目覚めていたらしい界を鍛えた結果というのだから。
界については調べたがあくまで情報のみ。実際に見ることも大切で。
関わって行けば行くほど、彼の人となりも見えてくるものだ。
実力は考えるまでもなくよし。知能も問題ないだろう。戦闘においては特に頭の回転が早いようだ。
元気も良くユーモアにも理解がある。
戦いに喜びを見出しているところは少々気がかりだが、どんな時にも笑顔を絶やさず、誰であろうと平等に接し、優しさを振り撒き、手を伸ばそうとする純粋な姿は太陽を思わせる。
私の理想にもピッタリだった。私を含め事務所の者や他の人とも仲は良好でまだヒーローではないというのに人脈も広い。
それこそ、まるで
そんな彼を見ていると変えられない未来など存在しないのではないかと思えてくるようになっていた。
いや、事実
この目で。
何か不思議な力があったわけでもない。何か不思議な能力があったわけでもない。
拳王技界という人間が、ただ未来を変えた。それだけだ。
それが小さな未来だったとしても変わったという事実は変わらない。
もはや利用するなどという気持ちは、何一つなかった。
まだヒーロー候補生でしかない彼を必ず
無論、私が見出したミリオも同様だ。いつかの未来、この二人がヒーローになればオールマイト無き世界ですら……いや、現状よりもさらにより良い未来に出来ると私は信じているからだ。
もし次の象徴を選ぶならば、私は界かミリオを選ぶだろう。
そして初めて視ることになって、もう二年。
今日も彼の未来は、何一つ視えることはなかった。
むしろそれで良いとすら思っている。
彼の未来が白紙であるということは、彼の運命は何一つ決まってないということだ。
変わってないかどうか。それが心配で試しているだけでそれ以外に目的はない。
突然視えることになっていたならば、何かしらの変化があったということになってしまう。それは恐らく、最も最悪な未来になり得る可能性があるということだ。
彼は既に私の大切な仲間の一人なのだから。
しかし不可解なことが一つだけ残っている。
これだけは未だに理解が出来ない。
いや不確定要素とも言うべきものか。
それは。
「サー、また界くんのは視えなかったんですか?」
「ああ。そこに変化はやはりない」
「やっぱり凄いですねぇ。優しいですし文句も全然言わないですし強い! とってもいい子ですもんね。でもどうして界くんだけ見えないんでしょう。
そう、
”気“を扱う特殊な存在ではあるが、まだ界の未来を視ることが出来ないのはそれが妨害してるから……と言われれば相性的な問題だとわかる。
しかしそれを否定する材料が、これだ。
ミリオの未来を少し視たことがある。
パトロールをさせる際に共に行動させ、その時に未来を視た。
映るのは当然ミリオと界のはずだろう。
だが界の存在だけは、視ることはなかった。
そして未来は少し変わった。
私が視た未来とは違い、時間が短縮されていたのだ。
ミリオに話を聞けば、共に行動してヴィランを捕まえたという。
私の視た未来は一度逃走する未来だったというのに、逃走する未来が無くなった。
ミリオだけではない。
バブルガールやセンチピーダー、チームアップしたヒーロー。
数分先の未来だけ視たことはあったが、
本人だけに作用するならばまだしも、他の人の未来に干渉する力はないだろう。
本人もそんな複雑的な力ではなく身体能力の強化やら放出、溜めるなど単純なことを工夫してるだけで特別な能力はないと言っていた。
考えても分からないことだが、そこだけが唯一気がかりなのだ。
「でもでも。うちの事務所に来てくれて大助かりですよ〜。すぐにでもサイドキックとして雇えますよね。気遣いも出来ますし、困ってたらすぐ助けてくれますもん。ただあれだと異性が放っておかないかも」
「……界なら無抵抗になることは無いだろうし実力的にも問題ないだろうが未成年に手を出すなよバブルガール」
「さっ、流石にしませんからね!? 確かに外見も良いですし将来有望ですしときめく時もありますが、私をなんだと思ってるんですかサー!?」
そういえばもうひとつ問題点があったな……。
誰にだって平等ということだ。
平等とは差別もなく、隔てなくすること。等しいということ。
優しいという性格が、
非情になれないわけではなく、悪はしっかりと悪と割り切れているのは救いではあるが。
ただ光は強ければ強いほど人は惹かれる。本能的に”安心感“を求めるからだ。例えば闇が広がる暗い世界に光がなかったとする。
人はまず何を思う?
怖い、見えない、何も分からない。
本能的に人は『未知』を恐れる。不安を感じる。
ならばそこに光が差し込めば?
人は誰だってその光が出口だと、状況を変えられる何かがあるのだと希望を求めるだろう。
安心感とポジティブな感情を与えるものだ。
そして彼は、人を惹きつける。いや惹き付けてしまう。
当人にその目的がなかろうとも。
そして人間というものは面倒臭いのだ。政治だろうとヒーローだろうと変わらない。
嫉妬すれば悪い所を粗探しするしあまりに強い光は時に信者や執着する者を生み出す危険性もある。
「とにかく女性関係は注意せねばな……」
当人が”無個性“で周りに人が居なかった過去や両親を喪って強くなることを目的にしてる点からそういったことに興味があるかどうかは怪しいが、そこで問題があれば色々と面倒なことになる。
恋愛をするなとは言わないが。それに問題があったとしても実力で何でも出来てしまうことだしな。
ただ界の影響を受けたり、彼を好意的に感じる者が多いだろう。無垢な心が真っ直ぐに人の心を魅力するからだ。
年下だろうと同い歳だろうと年上だろうと。
ちょうど、ここのバブルガールのように。
「ちょ、ちょっと待ってください! 違いますから! 何もしませんからね! 手を出したりしませんからね! 聞いてますか!?」
ただ界を見てる限り無関心というか、鈍感なのが心配だな。
何度か協力して事に当たったことはあるが、何人か人の脳を焼いてる所を見たことがある。
ある意味オールマイトに近いというか。
信者やファン、もしくはガチ恋勢というもの。
「あれ? あ、あのサー? 信じてませんよね? その目は絶対信じてませんよね!?」
「高校生に手を出すのは色々と不味いでしょう!? 成人してるならまだしも…ってそこも問題ではありますが! 少なくともまだ何もしませんしするつもりもありませんから!」
やはり光の眩しさに人は敵わないのだろう。
その点は私が守ってやらねばなるまい。バブルガールとも少し離すべきか……?
少なくとも私の目が黒いうちは私のお眼鏡に叶う相手でなければ許さんぞ。
界に相応しい人物を選んだりなどはしないが、もし彼と付き合うならばそれに見合った人物でなければな。
実力に関してははっきり言って彼は規格外だ。既に半年前よりも遥かに強くなってることからまだまだ強くなるだろう。
故に実力とまでは言わないが、波長が合ったり彼を支えられる人物でなければ。
---まあ、私や他のヒーロー、例えば彼と関わることの多いレディ・ナガンやホークスなどを認めさせる者であれば問題はなかろう。
そんな人物、なかなかいないだろうがな。
ああ、それとエンデヴァーもそうかもしれんな。彼も界を認めたことだろう。
もしかしたら私以上に過保護にするかもしれん。
殺し屋の情報を私たちに伝えに来た時にホークスが笑いながら言っていたが、信憑性は高いことだろうしな。
聞いた時は正直、また問題を起こしたのか……と頭が痛くなったが事後処理はしてくれたのは助かったと言える。
大人しくしてる方が界らしくないといえばらしくないので、これもまた彼の良さではあるだろうな。
それはそうともう少しトラブルは避けて欲しいものだ。
まだヒーローでないのだから下手な前科が着くと後々が面倒になる。
特に一番大変なのは女性関係だろうしな。
ヒーローになった後もつけ込んでくるやつが現れる可能性もある。
やはり私が守らねば。