無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
今日の朝にようやく包帯が取れたので完全復活。
現在は職場体験三日目の夕方。
すっかりと太陽が沈みつつある頃、ねじれ先輩とパトロールをしているが何も見つけられない。
ここまで来たら何らかの作為を感じる。
まるで
ただ、その何かが分からない。
俺やねじれ先輩に問題があるんじゃなく、なんというか、こう……
自分でも突拍子もないことは理解しているのだが、そう思ってしまった。
こう言っちゃアレだが、俺たちの探知範囲はかなりのものだと思う。
なのに見つけられるのはせいぜいチンピラや小物程度のヴィランだ。
当然悪いことをしていたら拘束はさせてもらうが……。
真実は謎のままなので、俺たちに出来るのは結局んところ動くしかない。
ただ通形先輩やナイトアイたちすら見つけてないらしいしなぁ。
このまま見つけられるのだろうか? いっそのこと、俺が”気“を解放したら来たりとかない?
ヒーロー殺しの犯行の傾向から人気のない路地裏とかじゃないか、と考えて探ったりしたが、変なやつらに絡まれただけだったし。
とりあえずねじれ先輩目的っぽかったので、ぶっ飛ばした。目を引く容姿ってのも大変なんだなぁとつい他人事のように思ってしまったけど。
というか、ねじれ先輩モテても可笑しくないはずなんだけどな、恋人とか居ないらしいし。ヒーロー目指す以上恋愛はちょっと難しいとは思うけど、告白されたりとかなかったのだろうか。
まぁ俺にどうこう出来る権利は無いからそれを知ったところで意味無いけど。
俺的には知り合いが幸せになれるならどの道を行こうともどうでもいい。
話は逸れたが見つからないまま夜になりつつあるので、俺は大通りの端でぼけーっとしているとふよふよとねじれ先輩が降りてきた。
空から偵察していたのだ。
俺は免許がないのでダメだが、ねじれ先輩はあるため”個性“の使用が出来る。
まあ、俺は”個性“じゃないから対象外ではあるんだけどややこしいことを避けるために緊急事態でなければやるつもりはない。
「こっちもダメ。全然見つかんないね〜」
「やっぱりそうですよね。こっちも”気“は感じれません。俺より扱えてる可能性はありますけど……とにかく合流しません?」
「だね。通形やリューキュウたちが何か見つけてるかも!」
「じゃあ、そういうことで。それとお腹空いたので待ってる間に一人で食べちゃったんですけど、ねじれ先輩の分も買ってきてるのでどうぞ」
「わあ、ありがとう!でも一緒に食べたかったな〜」
「お腹は全然空いてるのでもう一度買ってきたら……食べれますけど。合流したいので、また明日ですかね」
流石にここで大量に食事する訳にはいかないから、せいぜい揚げ物3つと串肉40本とおにぎり6個くらいしか食べれていない。
今回は職場体験の報酬としてナイトアイから予め資金を貰ってたのでお金もあったことだし。
本来なら貰えはしないのだが、職場体験なのにプロと変わらない仕事をしているからだろうな。
貰えるものは有難く頂く。
「あ! じゃあ、こうしよ! はい、あーん!」
袋の中から串肉を取り出したねじれ先輩は俺に向けてきた。
確かに何か食べたら一緒に食べたことになるだろう。
しかし俺の”気“で活力はどうにかなるとはいえ、お腹が空いて力が出ない可能性もある。
「流石にそれは……ねじれ先輩の分が無くなるので」
「あーん」
「あの……いや、その」
「あーん」
全然取り合ってくれない。
それどころか、大通りな上に目立つねじれ先輩の影響か周囲から責めるような言葉が聞こえてきた。
付き合ってないです。誤解です。
そう口にしたかったが、前代未聞の3人優勝ということを成し遂げた影響もあって俺のことに気づく人も増えてきたため、俺は諦めた。
「もぐ……」
一つ食べると、ねじれ先輩は満足そうな笑顔を浮かべ、妙な気恥しさを覚える。
なんだこれ。
とにかく彼女の手を引き、俺はこの場から離れた。
背後からよくやった彼氏だの彼女を大切にしろよだの野次馬の声は無視した。
普通に祝うとかいい人たちかよ。
ちょっと休憩と食事タイムに入り、ゴミを袋の中に入れ込むとゴミ箱にちゃんと入れる。
無論分別はしてある。ヒーロー候補がそれをしなきゃ一番ダメだからな。
自然を守らねば。
俺も自然にはお世話になっている。
「改めて行きましょうか」
「うん! お腹も膨れて準備万端!」
「ナイトアイや通形先輩たちも合流ポイントに向かってるらしいです。なので俺達も--」
そこへ、と口にしようとしたところで、俺は妙な感覚に身を包まれた。
それはねじれ先輩も同様だったようで、彼女の端正な顔が一気にヒーローの顔に変化していた。
爆発音が耳に伝わり、俺とねじれ先輩は同じ方角を見た。
強大な”気“が一気に増え、以前感じたことのある妙な気配も感じられる。
「この”気“……脳無か? ただ感じたことの無いのがいくつかある……”気“自体は並のヒーロー以下のものだが……」
「これが脳無? 確かに変な感じ、不思議。ヴィラン連合が関わってるってことだよね」
「そうなりますね。とにかく脳無がUSJと同じ個体なら保須市が危ない。行きましょう」
「賛成! それに何か分かるかも!」
ナイトアイに連絡し、俺は戦闘の許可を貰う。
それと同時に、俺とねじれ先輩は一気に加速した。
すぐに開けた場所に着いた俺とねじれ先輩だが、俺は目の前の光景に驚愕していた。
バカな、こいつらがこの世界に存在しているはずがない……!
どういうことだ、どうなっている……!?
あれは間違いない!
あいつらは--
栽培マン……!
そう、師匠の世界に存在していた敵。
フリーザ軍やサイヤ人の携帯用戦闘生物で、小さな球根を土に植えて水をかけると誕生し、植えた者の命令に従って闘う。
いわゆる植物に近い生命体。
小さな外見だからと無礼ると痛い目に遭うどころか死に直面する可能性すらある。
だが本来の栽培マンは緑のはず。
ここにいるのは水色やオレンジ色といった見たこともないやつらばかりだ。
”戦闘力“もそれほどない。
だとしたって、なぜこの世界に……?
「界くん加勢に行くよ!」
「! 分かりました、俺は向こう側の援護に行きます!」
今は考えたって仕方ない。
ねじれ先輩に言われて、俺は駆け出すと女性ヒーローに背後から飛びかかっていた栽培マンの顔面を蹴り飛ばす。
蹴り一発で頭部が破裂し、体液を浴びたくないのでバリヤーで防ぐ。
「君は……!?」
「気をつけてください! こいつらは植物が生命体になったようなもので人じゃない! 意識を完全に奪うかトドメを刺さないと自爆してきます!」
「自爆!?」
「マジか……!」
「人員を割きたいところだけど、あいつが……!」
栽培マンの脅威は知識として知っている俺は大声で伝えながら気弾で栽培マンの気弾を相殺し、頭部を開いて飛ばしてきた溶解液を全面バリヤーで防ぐ。
俺だけなら避けられるが、そうは出来ない。
ひとまず一般人は既に避難済みか。ここに残っているヒーローは優秀らしい。
それに栽培マンに意識が向いていたが、脳無も居る。
相変わらず脳みそは剥き出しだけど。こうやって見ると気持ち悪いな。
そんな脳無が俺に目を向け、向かってきた。
「危ない!」
誰かが声を挙げたが、俺は無視して背面の、オレンジ色の栽培マンに肘打ちし、頭部を掴んで地面に叩きつける。
そして脳無が手にハリネズミのような棘を生やして俺に突き刺そうとしてきたが、脳無は俺に攻撃する前に吹き飛んでいった。
俺の目の前で黄色のエネルギーが通り過ぎていく。
「大切な後輩に手は出させないよ?」
浮きながらこっちにきたねじれ先輩に視線を向けると、彼女は俺の隣に降りてきた。
「流石です」
「そういう界くんこそ、私が助けるって信じてくれてたでしょ?」
「ねじれ先輩の実力は知ってますから。俺が警戒しなくていいほど、背中を預けても問題ないって」
「ふんふん、そっかそっか」
なんだか機嫌が良さそうだ。
とにかくぱぱっとこいつらを倒していかないとな。
「ここは俺たちが引き受けます。皆さんは他のところに行ってください!」
「二人で!?そんな無茶な……っ!」
「大丈夫です。ここに固まっているより他に対処が間に合ってない場所に行ってくれた方が助かりますから。ここは私と彼だけで十分!」
まだ学生というのと、二人で残ると言っているのもあるのだろう。
渋るヒーローたちに、仕方ないと俺は自身の気を解放して、両手を腰に添える。
ねじれ先輩にアイコンタクトを取ると、彼女は気づいたように頷いた。
こういう場合、説得出来ないなら最も簡単な説得方法が実は一つだけある。
それは。
かめはめ波ァー!!
俺のかめはめ波にねじれ先輩の波動のエネルギーが纏わりつき、普段よりも素早くかめはめ波が向かっていく。
抵抗するように栽培マンの群れが気功波を撃ったようだが、無駄だ。
あっさりとかめはめ波は全てを打ち消して栽培マンの群れと脳無に直撃し、いつも以上の爆発を引き起こした。
「任せてくれませんか?」
『………』
それは、実力を示すことである。
言葉で分かって貰えないなら、任せても大丈夫なのだと示せばいいだけの話だ。
群れを蹴散らしたのを見てか俄然としているが、すぐに状況を思い返したらしい。
指揮を取っていた人が代表してか、口を開く。
「こ、ここは任せてもいいかな? 私たちは他のところに援護に行くよ」
「任せてください」
「うん、任せて! そっちも気をつけてくださいね」
撤収するように数人のヒーローは全員火が上がっている別の場所に向かって走っていく姿を俺たちは見送ると、改めて敵と向き合う。
「さて、これで巻き込む心配は無くなりましたね。そしてやっと、お出ましってところかな」
「みたいだね。どうしよっか?」
群れの中にあった、唯一凄まじい”戦闘力“を誇る”気“を持つ存在を俺とねじれ先輩は既に感じ取っていた。
脳無が特殊能力特化ならば、こっちは俺同様に身体能力特化とも言えるだろう。
銀と黒の栽培マン。
やっぱり見たことがない。ただ普通の栽培マンの数倍は強いってことだけは分かる。
脳無に関しては棘を地面から生やしまくって助かったみたいだが、片腕は消し飛んでいた。
どうやらUSJの個体と違い、超再生は持っていないようだった。
これなら界王拳を使うまでもないな。
「とにかく栽培マンは俺が---おっ!?」
「あ、界くん。こっちは任せてー!」
言葉にするより早く栽培マンが俺に向かって突進してきた。
真正面から受け止め、ねじれ先輩と引き離されてしまったが、彼女の声に手を挙げて答えると、栽培マンの頭部を掴んで空中に投げる。
『ギィッ!?』
栽培マンが空中で静止すると、両手から大量の蔓を伸ばしてきた。
空中で避けると、追尾してきたので手刀に白いオーラを纏わせ、擬似的に手を刀と同等の切れ味にすると次々と切り落とす。
なかなかの速さで強さだ。体育祭で成長してなかったら危うかったかもしれない。
戦闘力的には5000以上。
だが。
「今の俺の相手にはならねえぞ?」
瞬時に頭上を取った俺は栽培マンの後頭部を蹴り飛ばし、追いついて地面に蹴り飛ばす。
バウンドして飛んでいく栽培マンの背面へ回り、腰を掴んで後方へブリッジするように反り投げる、いわゆるジャーマンスープレックス。
轟音を立て、土煙が発生する。
離脱するように転がり、振り向いた先には頭からアスファルトに突き刺さる姿があり、足がぴくぴくと痙攣を起こしている。
両手を腰部に添え、”気“を全開した。
「波ッ!」
『ギィエーッ!』
そして省略したかめはめ波が抜け出した栽培マンを呑み込み、絶命したのを感じ取る。
流石に倍以上の戦闘力を持つ俺の相手にはならない。
仮に俺より強くとも、俺には引き上げる方法があるからな。界王拳を使ってなお超えられたならどうしようもないが。
にしたって、栽培マン……それも俺が知る個体よりも強いのはどういうことだ? 色もそうだが、戦闘力があまりに高すぎる。師匠の世界の栽培マンはせいぜい1200程度だ。
そもそも栽培マンにあのような蔓鞭を飛ばす能力は備わっていない。
確か土地の影響を受けるんだったか。
ならこの世界における、”個性“が影響を与えたものなのか……? 世界そのものが、影響を与えた……? だとしたって何故?
考えられるとしたら師匠が話していたセルや別の未来の存在。
本来存在し得ない存在……。何かを排除しようとした……とかか?
いや、まさか。
そんな存在し得ない存在なんて居ないだろう。誰にだって生きる権利が存在する。生まれた時から。
唯一該当するのはこの世界の住人じゃない師匠だけど、あの人はあの人で特別な存在らしいから無関係だろう。というか関係あったとしたら栽培マンがここに居るのが謎すぎる。
普通はここではなく、師匠の元に現れるはずなのだから。
「……と」
今は考えてる暇じゃなかったんだった。
とにかくねじれ先輩の元に行こう。
といっても心配は全くしてないが--
「やべっ!?」
視線を向けた瞬間に攻撃動作が見えた俺は咄嗟に身を屈めると、頭上に巨大なドリルの形を作ったエネルギーが通り過ぎていき、脳無の胴体が貫通していた。
それはもう、綺麗な風穴。
腹から胸にかけてまで風穴を開けられた脳無は地面に落ち、子供が見たら泣きそうなくらいグロいので気功波で消滅させる。
いや、殺意高すぎるんですけど。
ロボットアニメでやりそうな技だな……。こういう相手には有効っちゃ有効だけど……開発したのは彼女だよな。
誰にやるつもりだったんだろう。
もしかして俺か? 俺なのか……? ねじれ先輩を怒らせるようなことを俺はしたのか……!?
「どしたの? 頭打っちゃった? それとも怪我しちゃった!?」
「あ、いえそこはノーダメなので大丈夫です」
ずいっ、と嘘のような速さで接近してきたねじれ先輩に心配させまいと即答で返すと、ほっとしたようだった。
まぁどれだけ差があろうと戦いってのは何があるか分からないからな。かつての師匠の仲間が栽培マンの自爆にやられてしまったように、本当に何があるのか分からないのが戦闘だ。
「ねじれ先輩もお疲れ様です」
「うん、余裕! さっきの脳無ね、もう一個は反射だったみたい」
「反射か……まるで俺とねじれ先輩の戦い方を知ってるみたいな組み合わせでしたね」
「近距離だと針。中距離から遠距離だと反射。攻撃力は高い身体能力を活かして……って感じ。でもその割には界くんだったらすぐ倒せたし、私の波動も全然反射出来てなかったよ?」
「じゃあ偶然か……」
オールマイトが言っていたAFOなら、体育祭で俺たちの戦いを知ったなら相応に対策をしてると見るべきだ。
オールマイトがあそこまで警戒する相手がこの程度で終わらせるか?
いや、そうは思えない。
俺に対する対策をするならもっとしっかりしてきてもおかしくは無いだろう。
俺が過大評価してるだけって線もあるが、俺の性格上過去の出来事もあって楽観的な思考より悲観的な思考になりがちだ。
これは慢心しないために直すつもりはないが、俺だけでもまだ何かあると見た方がいいな。
「界くん界くん」
「え、はい?」
「スマホ! 鳴ってたよ。ナイトアイからかも」
「ありがとうございます。確認します」
「警戒は任せて」
考え事をしていたから気づかなかったらしい。
俺はスマホを取り出すと、特にセキリュティをしてないのですぐに画面が開かれる。
メッセージアプリを既読すると、ナイトアイからではなく出久から何か来ていた。
「……なんだこれ」
表示されていたのは位置情報らしきものだ。
なんだこれ。
こんな嫌がらせみたいなことを爆豪ならまだしも出久は絶対にしないはずだ。
つまりここになにかあるってわけか。
しかも文章がないということは緊急性が高い。
……どうやら合流は無理そうだな。目的は今決まった。
出久と合流する。
「ねじれ先輩。同級生から位置情報だけ送られてきたんですけど、どう思います?」
「普通に考えるなら、緊急性の連絡じゃないかな? 文章を打つ時間がなかったんだと思う」
「ですよね。俺の予想ならそこにヒーロー殺しか例の殺し屋がいるんじゃないかと」
「じゃあ早く行かなきゃだね!」
「はい。早速--ッ! この”気“はまた脳無か!?」
「ちょっと離れた方が良さそう!」
一応報連相して目的を決めたら高速接近してくる気配に俺たちは気づき、俺はねじれ先輩の手を引っ張って引き寄せると界王拳を使って一気に下がる。
すると先程まで居た位置に爆発が起き、粉塵が舞う。
さっきのやつらとは比べ物にならない気だ。
不気味というか、気持ち悪い感じがする。
警戒しながら見つめていると次第に姿が見えるようになってきた。
黒い肌に筋肉隆々な肉体。
USJの時の個体よりも二回りほど大きい。
『お……オマエタチ……ツヨイ、ナ』
「!?」
「あれ? 喋った?」
さっきのやつもだが、はっきり言って人形のような存在でしかなかった。
だというのにこいつには明確な意思が存在しているように感じられる。
あれが試験体だったにせよ、意思があると面倒なことになる。あれは意思がなかったから弱かった。
あまりに成長が早すぎる。
俺の周りでもそうだが……。
『オレトタタカエ!』
「普段なら歓迎だが今はその時間が無いんだよ!」
出久の実力で位置情報を全体に送るほどの緊急性。
すぐに向かうためにも向かって拳を振るう脳無に地面を蹴って加速し、真正面からストレートパンチをぶつける。
拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が発生する。
「こいつ、技術はないがパワーだけなら俺と同じくらいか……!」
『オマエ……イイ! ソノチカラ、ヨコセ!』
「!?」
唐突に口が蝦蟇口のように横に広がり、さらに大きく開かれる。
さながら捕食しようとしてきているかのようだ。
個性か?
ぶっちゃけ気持ち悪い!!
「界くん!」
抵抗せず、身を屈める。
ねじれ先輩の波動が脳無を引き離していくが、人が飲み物を飲み込む時のような音が響いている。
「これ、吸収されてる!!」
「なら--波ッ!」
かめはめ波を放ち、脳無を大きく吹き飛ばした。
恐らく一つ目の個性は吸収。残りは何なのかは分からないが、少なくとも今まで感じた気の中でこの脳無が一番強いようだ。
「大丈夫だった?」
「ええ、助かりました。ねじれ先輩こそ活力大丈夫ですか?」
「全然大丈夫だよ、ありがと!」
余力はまだまだあるものの、この脳無を放っていくわけにはいかない。
あれで絶命したとは思ってないが--
「あれは……」
煙が晴れると、脳無は口に何かを咥えていた。
それは俺が倒したはずの黒い栽培マン。
何をするつもりだと見ていると、軽く上に投げたかと思えば大きな口でそのまま呑み込んでいた。
「悪食なやつだな」
「仲間ってわけじゃないんだ……」
各々素直な感想を呑気に述べてしまったが、栽培マンを食らった脳無に変化が起きた。
たたでさえ大きな巨体がさらに大きくなり、気が一気に高まる。
やはりあれは吸収か。それを自身の力にする……ってところか。
食べられなくて良かった。
「勝てはしますけど時間かかりそうですね……」
「行って、界くん。ここは私が引き受けるよ」
「いいんですか? ぶっちゃけ今のあいつ、結構強いですよ。俺が界王拳使わなきゃ勝てないくらいには」
「本気の界くんほどじゃないし大丈夫。君に置いていかれないよう、私もずっと頑張ってきたんだよ?」
「ねじれ先輩……」
この人たちが異常なくらい強くなってるのは分かる。
強さとしては俺に近いだろう。
半覚醒しつつあるねじれ先輩に関しては俺が本気を出しても勝てるかどうかといったくらいの差しかない。
だがかめはめ波と波動を受けて損傷すらしてないところから見るに、アレは”超再生“持ちだ。
「信じて」
「……あいつは超再生で回復出来ると思います。気をつけて」
心配ではあるが、きっと信じることも大切なのだろう。
ヒーローとしては先輩のねじれ先輩ならちゃんと実力を理解して言っているはずだ。
任せても大丈夫だろう、と俺は大人しく彼女に従うことにする。
「了解! そっちも気をつけて!」
「はい。じゃあ……あとはお願いします。このお礼は必ず。俺に出来ることならなんでもするので!」
そうと決まれば俺は気を放出して白いオーラを身に纏うと僅かに宙に浮いて加速する。
そんな俺の前に脳無が立ち塞がる。
『ニガ、サナイ』
「悪いな、通らせてもらう」
先程よりも速い拳。
まず間違いなく拳を合わせたら俺が負けるだろうが、真っ直ぐに突き進む。
「どこを見てるの? 相手は私だよっ!」
脳無の背後に回っていたねじれ先輩が波動を宿した両手を薙ぐように動かして脳無にゼロ距離でぶつけて吹き飛ばしている。
俺はそのまま横を通り抜け、音速の壁を突破した。
「もう見えなくなっちゃった。流石界くん」
「それにしても、何でも、かあ……ふふ、ごめんね。これは絶対負けられなくなっちゃったみたい。悪いけど加減は出来ないよ?」
人気のない路地裏。
そこには四人の男性が居た。
ボロボロの格好に赤いマフラーと目元を隠す布のマスク、全身の刃物を携帯している男性。
メディアでも取り上げられている件のヒーロー殺し、ステイン。
闇に紛れて見えづらいが、ローブを着た一人の男性。
倒れている一人の男性が一人。
そして白いフルアーマーのコスチュームを身にまとった子供--飯田。
偶然だった。
彼は職場体験で保須市で活動しているプロヒーロー“マニュアル”にお世話になっていた。
しかしながら本来の目的の職場体験のためにマニュアルから学ぼうという考えではなく、兄に大怪我を負わせたステインへの復讐。
ステインは各地で被害を出しているが毎回四名以上という決まりがあり、まだインゲニウムしか襲っていない為にまだ保須市で活動しているだろうと踏んで職場体験先に選んだのだ。
執念の結果か探していたステインを発見する事が出来た。
それも今にも凶刃をプロヒーローに振るわんとしていた矢先に。
だが当然、相手はヒーロー殺しと呼ばれるほどのネームド。
不意をついた一撃は反撃を受け、ヘルメットがなければ顔に傷が入っていただろう。
それほどに見事な一撃で、現にヘルメットは吹き飛んでしまったようで素顔が顕になっている。
その顔はあまりに憎悪に染まった顔でステイン以外視界に入っていないようで--
「あァッ!!!」
飯田はステインに向かい、全力で蹴りを放つ。
しかしそれはいとも容易く避けられてしまい、空を切った。
「インゲニウム……ハァ……兄弟か。やつは伝聞のため生かした。お前は--」
空中で体を翻すステインはそのまま、飯田の右の二の腕を蹴る。
足先には鋭いスパイクがついており、飯田それに引き裂かれて出血した。
それに怯む飯田に空いた足で頭を蹴り、地に倒れさせてさらに頭を踏みつけた。
「弱いな」
瞬時に刀を逆手持ちにして、左腕を突き刺す。
血が噴き出てることから、アーマーの関節部を狙ったことは容易に分かる。
「お前も、お前の兄も弱い。贋物だからだ」
「黙れ悪党……!!」
飯田の頭を踏みつけ、腕を指すヒーロー殺し。血を流すためにあえてボロボロにしている刀の刃が、より強く痛みを伝える。
だが自分の状態よりも内に秘めた思いを爆発させるかのように強い語気で飯田は言葉を続ける。
脊髄損傷で下半身麻痺。飯田の兄はヒーロー活動はもう適わないと。
兄は多くの人を救け、導いてきた立派なヒーローなんだと。
「お前が潰していい理由なんてないんだ……! 僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんだ!!」
頭の中には憧れの兄の姿が思い浮かんでいた。
たくさんの人間のためになることに喜んで、誰よりもヒーローだった兄の姿。
怒りに任せて言葉が口から出る。
「殺してやる!!!」
「あいつをまず救けろよ」
ヒーロー殺しから言われた言葉に、飯田の声が止まる。
言われて今、気づいたのだ。
今の飯田はただ己の復讐のために力を振るおうとする--それはヴィランとどう違いがあるか。
人を助けるのがヒーローならば、殺すために戦うのはヒーローでは無いだろう。無論、不殺を貫くなど到底無理な話で殺さなければならない時だってあるかもしれないが、それとこれとでは似ているようで話が違う。
間違いなく今の彼は、ヒーローでは無くなっていた。
「自らを顧みず他を救い出せ。己のために力を振るうな。目先の憎しみに囚われ私欲を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ……ハァ……だから、死ぬんだ」
刀に付いた血を舐めると、飯田は急に体が麻痺したかのように動かなくなった。
指一本動くことすら出来ず、倒れ伏せたまま何も出来ない。
「じゃあな、正しき社会への供物」
「黙れ……黙れ!!!」
脳裏によぎるのは、兄の言葉。
天哉が憧れるっつーことは俺、すげえヒーローなのかもな!! ハハッ
涙が止まらない。仇も取れずに、ここで自分の命さえ終わるのか。
何もすることが出来ずあっさりやられて、ただの犬死になるのか、と。
それでも飯田は言わずには居られなかった。
例え死ぬことになったとしても--
「何を言ったっておまえは、兄を傷つけた犯罪者だ!!!」
自身の憧れだった兄がたった一人の悪人のせいでヒーロー生命を終わらされてしまったことに対する怒りだけは。
そうして一人のヒーロー候補生の、飯田の命が終わろうとした時--
SMAAAAAAASH!
まるで台風の如き風圧がステインを弾き飛ばし、すぐに何者かが傍に降りてくる。
その声を。
その言葉を。
誰がよく言っているのかを飯田は知っていた。
「緑谷……くん……!?」
「助けに来たよ、飯田くん!」
------
考えすぎかもしれないし確証も無かった。
”もしかして“で話しただけで本当にこの現場に遭遇するとは僕も思ってなかった。
でも動かずにはいられなかった。
ヒーロー殺しが現れた街で、脳無が暴れていた。もう一体のモンスターはよく分からないけど。
でも協力していたってことは恐らく味方。
そしてヒーロー殺しが現れた街にわざわざ脳無が居たということは
そうなれば脳無がいるこの場所にはヒーロー殺しがいる可能性がある。
じゃあ、飯田くんがプロヒーローのマニュアルの元にいなかったのは、ヒーロー殺しを見つけてしまったからではないか、って。
そしてそれは--
「ビンゴだ」
キッ、とステインを睨む。
ワイドショーで、ヒーロー殺しの被害者6割が人気のない街の死角で発見されていたことを僕は見ていた。
故に、騒ぎの中心からノーマルヒーローマニュアルの事務所までの周辺路地裏を虱潰しに探してここへ辿り着いた。
辿り着いた、けれど……!!
「動ける!? 大通りに出よう、プロの応援が必要だ!」
僕が一番警戒してるのはステイン--ではなく、その後ろ。
ローブに身を包んだ人物だった。
あいつは、やばい。僕の”危機感知“が界くん以上に警報を鳴らしている……!!
『分かってはいるだろうが、
『確実に一撃を与えられるタイミングで使うべきだ』
『少なくとも相手はこちらの手札に気づいていない。そこを上手く利用しよう』
『そうだね。それに彼からは君の友人の、拳王技くんに似た力を感じる』
二代目と三代目、四代目と初代の声が聞こえる。
界くんと同じ……つまり、”気“を扱える人物。
初代だけじゃなく、他の継承者の方々も警戒を促すレベルだ。
今の僕でも、勝てない。それどころか下手をすれば界くんを超えてるかもしれない。そうなれば僕と彼が協力する必要がある。
せめてかっちゃんが居れば。
『この場で扱える”個性“も限られているが、逆に言えば俺の力ならこの空間でも有利に立ち回れる!』
『OFAに万縄の黒鞭と私の”浮遊“を使えば機動力は負けないはずだ』
『彼と同じなら煙を発生させるのは逆効果になりかねないし、俺も賛成だ』
だけど。
視線を動かせば、一人のプロヒーローがいる。
飯田くんの言葉やワイドショーの解説者が推察していたことを考えるに斬ることが条件かもしれない。
飯田くんの一人なら抱えて逃げれたかもしれないけど、二人となれば厳しい。
「緑谷くん……手を、出すな……! 君は関係ないだろ!!」
聴こえてきた言葉に僕は思わず振り返った。
飯田くんの顔は見た事もないくらい憎悪に染まっていて、僕の知っている飯田くんとは全く別人のように思えるほどだった。
「なに……言ってんだよ……!」
「仲間が"救けに来た"……いい台詞じゃないか」
ユラ、と僕たちを見定めしていたであろうステインが立ち上がると僕を真っ直ぐに見てきた。
「だが俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然--」
弱い方が淘汰される訳だが。さァ、どうする
ゾワ、と背に冷たいものが走る。
今までのやつらとは違う殺人者の眼。
悪意に晒されたことはあれど、僕は本気で殺し合いというものをしたことが無い。
これが、殺気。
勝てるかどうかは分からない。今出来るのは位置情報を送る程度だ。
グラントリノやオールマイトがいつ来るか。本当はそっちに送りたかったけど駆けつけられるか分からない。
なら送れる人が多く、なおかつ僕が一番頼れる人に届けば、と。
届かなかったとしてせめて誰かが応援に来てくれればいい。
それまで身動きが取れない二人を守りながら、僕一人で時間を稼ぐ。
可能ならば。
ヒーロー殺しと奥の人を、退ける!
「やめろ!! 逃げろ! 言ったろ! 君には関係ないんだから!!」
「そんなこと言ったらヒーローは何も出来ないじゃないか!!」
言いたいことは沢山あった。
この状況、界くんなら。かっちゃんなら。
絶対に逃げることなんてしない。
僕が憧れたヒーローは人を見捨てるヒーローでもない。
言いたいことは全部胸にしまって、後にする。一つだけ伝えることにする。
「オールマイトが言ってたんだ……」
余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって
困難を前にしても、拳を強く握りながら可能な限り笑顔を作って僕はそう告げた。