無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ?   作:絆蛙

56 / 62
殺し屋ネロの実力

 

「オールマイトが言ってたんだ……」

 

 

 

 

 

余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって

 

 

 

 

 

困難を前にしても、拳を強く握りながら可能な限り笑顔を作って僕はそう告げた。

笑顔を作るのは人を安心させるためだ。

 

「ハァ……! 良い」

 

僕のその言葉に、ステインは歓喜したような笑みを見せていた。

それが何の意味があるかはどうだっていい。

今は--

 

 

ワン・フォー・オール--フルカウル90%!

 

スパークするように全身から淡い光が発せられ、OFAの力を身に纏う。

 

「……ほう」

 

するとローブを着た男がステインの隣まで歩いて出てきた。

最悪の展開になってしまった。

別に一対一で戦う約束もなければルールもない。

それでもこの展開は避けたかった。

 

「どうする、俺が力を貸そうか」

「必要ない、引っ込んでいろ。俺はこいつを定めなければならん。邪魔をするようなら貴様とて斬る」

「そうか。ターゲットでないならいいが拳王技界という人物は俺に任せてもらうぞ」

「好きにしろ。そういう契約だ」

「!!」

 

界くんがターゲット……?

こいつの狙いは界くんなのか!? なんで!? そもそもこの人は一体……!

 

「さァ、お前はホンモノかそれともニセモノか。俺に示してみせろ!!」

「ッ!」

 

ナイフを投げてきた。

咄嗟に首を逸らして避けるけれどステインは素早い身のこなしで迫ってきている。

考えるのは後だ! 今はここを乗り越える!!

 

直線を避けるように横に避けた僕は黒鞭を両手から伸ばして飯田くんとプロヒーローに巻き付けると引き寄せる。

滑るようにして背後に回り、二人を纏めた場所に降ろすと即座に片足を上げて風圧による妨害をする。

するとステインは距離を離したようで互いに睨み合う形になった。

僕を狙うならまだしも二人を狙う可能性は高い。攻撃よりも守れる範囲にしなきゃ。

 

「冷静に人命救助優先。さらに戦闘力もかなりのもの。ハァ……口先だけの人間など幾らでもいるが、お前は違うようだ」

 

「ならば、これはどうだ?」

 

瞬間、ステインの体がブレて見えた。

地を這って体を左右に振りながら進んでくる。それはまるで蛇のようで、個性によるものではない。

純粋な体術で、極めたらこんなことも出来るのかと驚く。

界くんもそうだけど、この世には個性じゃ測れないものも多すぎる。

だけどここは路地裏。

この狭さと地を這う動きなら、と被害が行かないように一瞬だけ出力を風圧の発生しない14%まで下げて跳躍する。

 

「!」

 

そんな僕に追従するように、ステインもまた飛び上がっていた。

ほぼ垂直に、直角に跳ね上がるステイン。

咄嗟に一瞬だけ視線を下に向けると下には長刀の刃が突き刺さっている。恐らくはあれを足場として利用して跳び跳ねたのだと頭が理解した。

両手に握られるナイフに危機感知が鳴りつつ、拳で空気を殴って距離を稼ぐ。

当然路地裏だから大した移動も出来なければこの速度で背中をぶつけたりしたらダメージは相当なものになる。

そのため、浮遊で速度を下げつつ黒鞭を伸ばして壁に引っ付かせると発勁のチャージ。

 

「これ、で--ぇっ!」

 

壁を蹴り、同時に黒鞭を遠心力として利用して発勁の解放。

僕が自滅するだろうと考えていたのか目を丸くさせていたステインが遅れて反応し、ナイフを交差する。

僕はその上から速度を生かして蹴りを叩き込み、ナイフを砕くと胸部に突き刺さり、そのまま吹き飛ばした。

暗闇の中に飛んでいくステインを見ながら着地すると、油断なく見つめながらローブを着た人物を睨む。

ローブを着た人物はポケットに手を突っ込んだまま体だけを向けてきた。

 

「……一応聴いておこうか。拳王技界という人物は何処にいる?」

「あの話を聞いて、素直に答えると思いますか」

「それもそうだな。ならば……ヒーロー殺しに任せた以上は殺しはしない。ただ居場所は吐いてもらおうか」

 

まず間違いなく界くんはこの場に訪れるはずだ。彼をターゲットにするってことは殺せる算段を持っているかもしれない。

そんなことはさせられない。

どちらにせよ逃がしてはくれないだろう。そもそも逃げる訳には行かないんだ。

この場で全員が助かる道はこの人を倒さなければならない。

何より界くんを殺させるわけにはいかない。

どれだけ通用するか分からなくても、逃げることが不可能なら今やれることは--

 

ワン・フォー・オール 100%!

 

ただ真っ直ぐにぶつかるだけだ!

 

「SMAAAAAAAAAA--」

 

黒鞭で内部から補強しながらオールマイトの一撃を解き放つべく残してあった片足の発勁を解放して急接近した僕は振り絞った拳を一気に突き出す。

その拳は反応出来なかったのか一切動かない真っ直ぐにローブを着た人物へと突き刺さり--直前。

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

「がっ……ぁ!?」

 

僕の拳は突き刺さることはなく。

僕は何らかの力で殴られたかのような痛みとともに壁に背をぶつけ、右肩を抑える。

 

何を、された……!? 攻撃された? どんな個性だ? いや、本当に個性なのか? 僕が知る限り、”気“ではないのは確かだ。

ただ分かるのは気がつけば攻撃されていた。

それも危機感知で()()()()()()()()()()()()()()()()()()レベルの速さということになる。

直前に鳴った危機感知のお陰で体を捻ったために頸動脈は避けられたけど、確実に急所を狙われていた……!

 

「今のを避けるか。その個性は厄介なものだな」

「く……僕に何をした……!」

「教える義理はない」

「だったら!」

 

6th(煙幕)

場を覆う程度の煙を発生させ、視界を遮る。

 

『ダメだ! 彼と同じなら煙幕を張ったとしても--』

(分かってます! どんな能力なのかを確かめるだけです!)

 

六代目に答えながら僕は視界が見えづらい中でバックステップし、エアフォースで数弾空気の玉を射出する。

その際に”変速“を付与。

空気弾の速度を遅くしつつ、僕自身は黒鞭と浮遊を使って煙の外へ離脱。

発勁はまだ貯めることは出来ないけど、体をローブを着た男の方へ向けつつ浮遊で浮いた状態から空気弾が直撃する直前のタイミングを測って空気を蹴って急加速。

体を反転させ、降下かかと落とし。

空気弾の変速を加速させ、背中と前の挟み撃ち。

 

これなら--

 

「ごふ……っ!」

 

そう、思っていたのに。

鳩尾辺りが凄まじい痛みを訴え、壁に埋まってしまう。

煙が晴れると、そこには一切動いていないローブの男が一人。

あの状態を無傷でやり過ごすどころか僕に一方的にダメージを与えた……?

 

「み、緑谷くん……っ!」

 

飯田くんたちの方には特に何も無いみたいだけど、これはまずい。

発勁を使った一撃はあの界くんですら攻撃を受けたほどの速度と威力だぞ。それも通用せず、死角からの挟み撃ちすら通らない。

どんな個性なのか全く分からない! どういう力なんだ!?

 

『来るよ、緑谷くん!』

『小僧、上に行け!』

 

「っ!」

 

黒鞭を伸ばして引っ張るようにして離脱すると、壁が壊れた。

死ぬことはないだろうけれど、間違いなくダメージを負うほどの攻撃だ。

わかってたけど明らかな格上!

だけど背面だろうと正面だろうと攻撃が通じないなら、かっちゃんの動きをイメージして--

 

「DETROIT SMASH!!」

 

加速し、回転しながらギリギリの範囲を狙って拳を振り下ろす。

一歩下がって避けられるが、目的は違う。

狙いは地面であり、そこに拳を打つことで高速で上昇。

塵を巻き起こしながら浮遊で強引に停止しながら空気を蹴ってさらに加速。

相手の横をスレスレで通り過ぎ、手を着いて着地しながら回し蹴りによる一撃を狙う。

 

「いい攻撃だが、残念だったな--」

 

 

 

 

 

 

 

 

()()

 

 

 

「ぐぅううっ……!!」

 

胸に痛みが走る。

肺にまで到達する衝撃に空気が吐き出され、一瞬意識が持っていかれかけた。

でも。

 

「つ、かんだ……ッ!」

「……!」

 

予めそう来ると予測していた僕はローブの男の腕を掴んでいた。

鍛えられているのが分かるくらい握り締めることが出来ないほど硬い。

しかし何の武器も所持してる様子がないことと攻撃の威力から徒手空拳だと予想してたから出来たこと。

こっちは界くんにどれだけ扱かれたと思っているんだ。僕の体には彼の打撃の数々が刻まれている……!

 

「これなら避けられないだろッ!」

 

ワン・フォー・オール 100%!

 

決して手を離さず、脇で掴むようにしながら体重を乗せて浮き、捻るように体を動かして横から強烈な足蹴りを放つ。

回避も拘束を解くことも不可能。

完全に入った--と確信して。

 

「見事だ」

「っ!?」

 

まるで()()()()()()()()()()かのような衝撃が体中に走り、僕の体は放り出された。

不発した足蹴りは空を蹴り、風が巻き上がる。

その影響でローブが取れ、顔が顕になった。

何処か宇宙人じみた外見。紫の肌に丸い耳。琥珀色の瞳。

超常社会となった今では気になるものでも何でもなく、ただ僕は理解が出来ない現象に頭が真っ白になり、受身を取れなかった。

偶然あったゴミ袋の山のお陰で衝撃はある程度殺せたが、あまりものダメージに進むことが出来ず、膝を着いてしまった。

体の節々が痛い。危機感知が反応しないほどの速さと人間の弱点を打つ正確さ。

喉にも攻撃を受けたのか息が出来ず咳き込んでしまう。

鼻から流れてきた血と口元から流れ出た唾液を拭う。

攻撃を避けるということは脅威だと思われているのは間違いない。

でも一方的に攻撃を受けるだけで与えることが出来ない。

こうなったら……使うしかない。

変速で一気に叩き込んで--

 

『なんだ、あれは……?』

「……?」

 

ふと上空を見ると、紫色のエネルギーが星のように落ちながら通り過ぎていった。

ぞく、と寒気を覚え、危機感知が鳴り響く。

 

『避けろ!』

「くっ!?」

 

四代目の言葉に従ってその場を退く。

紫色に染まった刀が空気を斬り、そこから発せられた風圧に吹き飛ぶ。

黒鞭を壁に付着させて耐えて顔を挙げると。

 

「あれは……あの時と同じ……?」

 

居たのはステイン。

赤い瞳。全身が青くなり黒と白のオーラのようなものを身に纏って額にはXのような文字が浮かんでいる。

同じようで、なんだか違う気がする。

 

「いい一撃だった。だがまだ終わっていないぞ」

 

ナイフが飛んできた。

咄嗟に立ち上がり、横に飛んだ僕の方向先にステインが辿り着き、返された長刀を背を曲げることで避ける。

頬を刀が掠め、指先からデラウェアを放つことで距離を稼ぐ。

さっきより数段速い!

まるでUSJの脳無と同じだ! 強さでは圧倒的にそれ以上!!

 

「は……っ!?」

 

油断なく見ていたはずなのに姿がブレ、無意識に両腕に黒鞭を巻き付ける。

斬撃とも呼べる紫のエネルギーが爆発し、後退る。

かかと落としで地面を沈没させ、地面を揺れさせることで動きを僅かに止めた僕は即座に近くの壁を蹴って頭上を取るとステインの後頭部を殴りつけた。

クレーターを生み出し、地面へ倒れ伏すステイン。

右肩を見れば殴った際に避け損ねたのかナイフで斬られた後があり、本当に軽く掠った程度で血が滲んでいる。

戦闘には支障がなく、両手をぶらんとしながら幽汽のように起き上がるステインを睨みつける。

 

「パワーも判断能力も素晴らしい。これからの社会で必要になる人間だ。だからこそ--」

「う……っ!」

 

 

 

生かす価値がある。あいつらと違ってな。

 

 

ステインがナイフを舐めたかと思えば、突如石の様に体が硬直した。

体を動かそうにもビクともしない。

これが飯田くんたちが動けなかった原因か……!

ヒーロー殺しの個性の正体は血を舐める事で対象の動きを止めるもの……!

今判明したところで遅い!

自分を通り過ぎて飯田の方へとステインが向かって行く。

あの凶刃が振り下ろそうとしている。

動け、動け、動け!

今動かなければ僕は死ぬほど後悔する! 目の前で友達がただ殺されてるのを見てるなんて誰が出来る!?

もう木偶の坊じゃないんだ……! 頼む、動け、動いてくれ!!

 

無理にでも動かそうと身体に力を籠めるも、僅かばかり震えるだけで動くまでは至らない。

ここで動かなければ彼らが殺されてしまうと焦りながら何度も力を籠めるけれど意思に反して現実は無常で。

体は一切、動いてくれなかった。

知りたくもなかったことが今更思い知らされる。

これが彼が、界くんが小さい頃に経験したもの。

何も出来ずに両親を殺されたと語った彼の想いが本当の意味で伝わる。

 

「や、めろ……! やめろ! お前の相手は僕だろ、ヒーロー殺し! やめてくれ!」

 

「飯田くん……飯田くん! っくしょう……! う、ごけ……ぇええ!」

 

 

 

 

 

 

じゃあな、正しき社会への供物--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動けない僕は声を挙げることしか出来ず、逆手に持たれた刀が飯田くんの頭に突き刺さる寸前。

()()()()が駆けた。

一つは赤く輝く眩い炎。

ステインに対して放たれたそれはステインが飛び跳ねるようにして避けた。

そして。

 

「どりゃあぁああああ--ッ!!」

 

白い炎がローブを着ていた男を殴り飛ばしていた。

ポケットに突っ込んでいた両腕を交差してガードしたみたいだけど、引き離すことに成功している。

さらに殴った体勢から体を回転させ、空中で飛び上がっているステインに後ろ蹴り。

反応したようで紫色のエネルギーが纏われた長刀と白いオーラが集約された蹴りがぶつかり合い、その余波で周囲の壁にヒビが入っていた。

蹴りの方へ軍杯が上がり、ステインが弾かれるように吹き飛ぶ。

 

やっぱり、来てくれた。全くタイミングが良すぎるよ界くん……!

それにあの炎は間違いない。

あれは……!

 

「次から次へと……ハァ……今日はよく邪魔が入るな」

「今の一撃……速いな」

「緑谷。こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」

「轟くん……!」

 

振り向けば轟くんが手にスマホを持ちながら立っていた。

既に炎と氷を出していて、臨戦状態だ。

 

「おっす、随分と楽しそうだな。俺も混ぜてもらおうか。安心しろ、二人……ついでにそこの人。ここから先は俺たちが引き受ける」

 

そして声に反応して視線を前にすれば界くんは地面に片手を着きながら着地して立ち上がっているところだった。

その背中は僕が知る中で誰よりも頼りになるもので。

まだ何も解決した訳でもないのに僕の心には安心感があった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。