無個性だって必死で努力すりゃヒーローになれるかもよ? 作:絆蛙
無事に合格した俺は修行の影響か100kgじゃ物足りなくなったので60kgの甲羅を背負いながら山を登り、いつものように小屋に入る。
四つの星が描かれたボールに近づき、手を合わせて報告する。
師匠に雄英高校に合格したこと。首席、一位になったことを。
伝えたからと言って師匠が来る訳では無い。師匠がいつ姿を現すかなんていつも分からないのだ。
正直なところ、修行に行き詰まっている。
俺の”切り札“は使うような相手がバイト先以外に居ないのもあるが、雇ってくれている
流石に雄英の試験があったので”気“を増大させる特訓しかして来なかった。そこで使い物にならなくなったら試験に落ちるし。
本当は昔師匠が話してくれた重力室を用意したいのだが、流石にそれは無理なのが悩みどころだ。なんというかサポートアイテム作れる人とかいないだろうか。その辺に天才居たりしないかな…。
このままじゃ俺の強さに限界が来てしまう。俺には『潜在能力』なるものが高く、”気“を扱うことに関しては師匠は自分よりも上手く、昔の仲間を見てるようだと言っていた。
だからこそ諦めて”気“を高めたりコントロールを重点的にしてるのだが。
とにかくやれることをやっていこう。本当に困ったら来てくれる。それが師匠だ。
山を下山し、バイト先にも一応雄英を受かったことを報告しておく。
なんだかんだ、バイト先には世話になってるのだ。
入学式の日。
合格が決まって資料やらなんやらと必要な事項を書いたり忙しかったが、送られてきた雄英の制服を着る。
うーん……。
「よし」
物足りないのでやっぱり20kgのシャツを着てから上に着て、両腕には予備リストバンド。靴はいつもの20kgのブーツ。
やっぱりこれがないと鍛錬にすらならない。
”無個性“の俺は常日頃から修行しなくちゃ追いつけないので、改めて家を出る---前にお腹が空くので特製特大ハンバーガーを持って出る。
すると。
「あ、界くん!」
「おせぇぞ!」
「んぐんぐ…おふぁふいて」
「食べてから喋ってくれないと分からないよ」
「……ごくん。お腹すいて」
「ちゃんと噛めよ……」
幼馴染が二人待ってくれていたらしい。
待たせる訳にはいかないので飲み込み、電車で行く。
本当は走っていきたいところだが、入学式の日くらいはちゃんとすべきだろう。
辿り着くとマンモス校にありがちな校内の案内図を見て、自分たちの教室を目指す。
”気“の探知は知っている”気“なら分かるが、知らないと誰なのか識別するのは無理だし雄英となると強い”気“が多いのは予想出来る。
それに確か、バイト先の先輩やその友人もいるはずだ。探知する必要はないというか、もし探知して察してこられたら一日で有名になりそうなのでやめておこう。
無駄に広い校舎を歩き、辿り着いた先はこれはまた無駄にデカイ教室の扉。
”異形型“が入れるようにしてるのだろう。残念ながらここの三人は”無個性“、”個性発現したて“、”強個性“の発動形しかいないので出番はなさそうである。
……訓練にはありか?
「ぜってーぶら下がろうとすんなよ」
「なんでわかるんだよ」
「そんな顔してたよ…?」
「それどんな顔?」
伊達に10年以上一緒にいるわけではないみたいだ。
いつまでも話してたら仕方が無いので、扉を開ける。
「よし、いちば……ん?」
「……君は!」
ガツガツと急接近してくるのはどこかで見た事のあるメガネの人。
どこだっけ…と思ってると、メガネの人は出久の前で止まって視線が向いている。
ははーん。さては何かやったなお前。いつものナード部分出したか?
「え、ぼ、僕?」
「受験ぶりだな! ぼ……俺は飯田天哉。聡明中学出身だ」
「クソエリートかよ。ぶちのめし甲斐がありそうだな」
「ぶち……!? き、君は初対面の人になんてことを言うんだ。本当にヒーロー志望か!?」
「お前すげぇな…爆豪相手に真正面から言うとは。これが雄英か……!」
「そこじゃないよ!! どこに感心してるの!? ああ、ええと僕は緑谷出久!その、よろしく飯田くん!」
このままでは爆豪が昔に比べたらマイルドになったとはいえ、俺ら以外にも多方面に喧嘩を売るタイプなのでまたそうならないように出久が話を転換していた。
強さに貪欲になってるというか…一体誰のせいなんだ。
「そうか…緑谷くん。君は気づいていたんだな」
「え?」
「あの試験の構造に俺は気づけなかった。不甲斐ないばかりだ。ヒーローを目指してきたというのに0Pだからといった理由で何もせず、それどころか誰よりも真っ直ぐに飛び出した君を止めようとした…。あの場にはライバルでありながら同級生になるかもしれない受験者が居たというのに……!」
どうやら試験の、救助ポイントのことを言っているのだろう。
ああ、多分それ出久気づいてないと思う。というか俺ですら可能性考えてただけであると思ってなかったし。
出久が0P倒したと言ってた時に説明してくれたやつだな
「えっと……それ救助ポイントのことだよね。僕も気づいてなかったよ」
「何っ!? ならばなぜ……!」
「だって、
「だが俺は……!」
「はいっ!」
なんか話が終わらなさそうなので、俺は手を勢いよく叩いた。
---威力が高すぎて破裂したかと錯覚する音が鳴ったが気のせいだ。
「うるせえ!」
「いてっ。はいこの話はおしまいな。そもそもえー…いだくんはヒーローになりにきたんだろ。過ぎたことはもうどうしようもない。これからやっていけばいいしそれを学ぶのがここなんじゃないのか?」
「君は確か…説明の時の……そうだな。確かにその通りだ。失敗はもう取り消すことは出来ない。俺はここで今度こそヒーローとしての在り方を学んでいくとしよう!」
爆豪に叩かれたことは華麗にスルーしてくれて助かった。
それっぽいこと言ったらいだくんの中で解決してくれたし、そろそろ中に入っていい?
「それと俺の名前は飯田だよ。君たちの名前は?」
「そうか、いだくん。俺は拳王技界。こっちはばくろー」
「いや、俺は飯田で…拳王技くんとばくろーくんだな」
「ちげぇわ!誰がばくろーだァ!? 爆豪勝己。いいか爆・豪・勝・己・だ! 間違えんなよクソメガネ!」
俺を殴った仕返しを思い知ったか!
初見の人、なおかつ幼馴染にしか出来ない嫌がらせ成功だ。
「そ、そうだったか。すまない爆豪くん」
「ケッ!」
流石の真面目っぽい彼も自分のミスだからか、口悪いことに関しては今回はスルーしていた。
悪い人じゃなさそうだし、からかいがありそうで面白そうだ。あとはどんな”個性“なのか。戦える日が楽しみだな。
「もうわざとでしょ界くん」
「まあまあ。空気変えたくて」
「もっと違う変え方あったような……」
苦笑する出久に答えつつ、俺たちは席の位置を見てそれぞれ席に着き、荷物を置いたあと自然とまた集まっていた。
既に何人かはいるようだが、ある意味知り合いなのは俺らだけっぽいな。
ただ、なんだあいつ。今いる中で出久や爆豪を除き、一人だけ強い”気“を感じる。半分赤と白の髪の男。
---自然と口角が上がる。
「ど、どうしたんだ拳王技くん。急に笑って何かあったのか!?」
ロボットのように腕を動かすいだくんに思わず笑いそうになる。
なんだその動き。
「あーこれはね」
「癖だ、ほっとけ」
「そ、そうなのか? まぁ人それぞれか……」
「人が急に笑う変人みたいに終わらせるのやめろ。面白そうなやつを見つけてつい笑っただけだ。いだくんが誤解するだろ」
このままでは変なレッテルを貼られかねなかったので口を出した。
爆豪絶対分かって言いやがった。こいつさっきのお返しだろ、相変わらずみみっちいやつだ。
俺はやり返しをやり返しただけなのに。またやり返すぞ。
「待ってくれ。俺は飯田---」
「あれ? そのモサモサ頭は!地味目の!」
いだくんが何か言おうとすると、遮る声が響く。
視線を向ければ、これはまたどこかで見たような女の子が今来たばかりで近づいてきた。
何人かは入ってきているようだが……ちょっと気になるな。
未だにあの、透明の女の子が居ない。見えないけど制服は着てくるだろうから分かるはずだし範囲を絞ってるとはいえ教室内に入ってきたら”気“で分かる。
わざわざ直談判してくれた子だ。報われて欲しいと思うくらいには人間性は持ってるつもりなので、合格してくれてるといいのだが。
まぁB組の方に行ってる可能性は捨てきれないので、会えばお礼言っておこう。
「あ?……あん時の丸顔か」
「ま、丸顔!?丸顔ってなに!!?」
女子にも容赦ないのは流石としか言えないが…特徴で覚えるのは上手いと思う。
確かにこの子、こう言っちゃあれだけど丸顔だ。まんま丸顔だ。
別に太ってるとかじゃなくて。
「あ! そうだ、言い忘れてたけどあの時はありがとう!」
「え?」
「ほら、入試前に僕を浮かせて助けてくれたでしょ?助かったよ!」
「そんな。それを言ったらこっちだってそうだよ!君が居なかったら私あの0Pに潰されてたもん」
「あの時は声が聞こえて咄嗟に……でも恩返しが出来て良かった」
そう言って笑う出久と会話をする丸顔女子を蚊帳の外で眺めてると、気のせいか丸顔の人の顔が赤くなってる気がする。
……風邪?
というかなんで出久は既に二人と接点出来てるんだ。
「あー!!」
見事ポツーンと爆豪と共に置いてかれてると感じたことのある”気“が俺の探知内に入ってきて、遅れて大声が聞こえた。
視線を向ければ、これはまた見事な……怪奇現象。
流石に記憶に深く残ってる。
「あの時の逆立った男の子!やっぱり受かってたんだー! そうだよね、セメントス先生言ってたもん! それにギューン、ドーン!って感じで凄かったもんね! あの時はありがとう。お陰で助かったよ〜!」
「ああ、透明の女の子。そっちも受かってたんだな、おめでとう。こっちの方こそ直談判してくれたってオールマイトから聞いた。必要なかったみたいだけど、気持ちは嬉しかった。ありがとうな」
あの先生セメントスって言うんだ。普通にところ天の助の色違いかと思ってたが、朝から元気一杯な彼女の姿にはちょっと安心する。
負い目を感じてたりとかされても困るし。首席だったから余計に。首席だったから気にしなくていいとかそれはもうただの煽りになる。爆豪にはいいけど、他の人にそれはしない。
それに気持ちは嬉しかったので、ちゃんとお礼を言えてよかった。
「ううん私がそうしたくてしただけだし、空回っちゃったけどね…。でもありがと〜! 一緒のクラスでよかった。これからよろしくね!私は葉隠 透!」
「拳王技 界。よろしく、ところでやっぱり透明なんだな」
目の前の彼女、葉隠さんは怪奇現象、もとい制服が浮いている状態。
初めてあったときは何も見えない状態で服を渡してようやく上半身だけ見えていたが、今回は消えてる部分は少ない。
手と太もも辺りと首から上のみだ。
これなら判別できるな…。
「うん。私の”個性“で。ごめんね、顔見せて挨拶出来たらよかったよね」
「いや”個性“なら仕方ないだろう。それに透明なのはヒーロー向きじゃないか? 技術次第ではトップクラスを狙えるし隠密においてかなり強いぞ。すごい立派な”個性“じゃないか」
「えへへ、そう言われるとなんだか恥ずかしいよぉ」
「あ、それはすまん」
「そこは謝るところじゃないからね!」
嫌な気持ちにさせたかと思って謝ったのだが、違ったらしい。
うーんここは俺の悪い癖だな。どうにも自分が”無個性“なのあって”個性“があるだけで戦闘においてどう使えるか考えて、褒めてしまう。
人にとっては”個性“が嫌いな人もいるかもしれないのに。特に彼女は常時発動系*2の複合”個性“とも取れるものだ。
誰からも顔とか見られないんだから気にしてる場合もあった。
「でもでも、拳王技くんは私を
「ああ…それは……。あの、何で寝袋?」
「え?……わああ!ほんとだ!?」
答えようと思ったら、この場の誰よりも強い”気“を感じ取って視線を向けたら、廊下には寝袋があった。
葉隠さんの大声で気づいたらしく、視線が集まる。
”邪悪な気“は感じない。それどころか”善良な気“だ。
不審者でないんだろうけど不審者だ。
「とりあえず警察」
「やめろ。まったく…」
---お友達ごっこをしたいならよそに行け。ここはヒーロー科だぞ
声の低さや立ち振る舞いからして子供ではない。
そう言って寝袋から出てきたのは黒い服にボサボサ髪をした男の人。布っぽいのをつけている。
完璧に不審者だ。やめろと言われたのでスマホはポケットに入れたが、”気“を感じれなかったら通報していた。
「静かになるまでに5秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
「寝袋は合理的ですか?」
「話進まねぇだろバカ」
「誰がバカだ。一応勉強は出来るだろ」
「……担任の相澤消太だ。よろしくね」
大人ということから先生だと思って敬語には変えたが、やはり担任だったらしい。
寝袋を持ち歩くのは合理的だが、それで移動は合理的じゃないと思う。スルーされたが。
くたびれた人が担任を名乗り教室がザワつく中、先生はそれらを断ち切るようにして懐から何やら取り出す。
雄英の運動着だ。
「早速だが、これを着てグラウンドに出ろ」
『“個性”把握テストぉおおおおお!?』
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」
ほぼみんなが合わせて叫ぶ中、結局名前を聞いてなかった丸顔の人が皆の疑問を聞いてくれたが、一蹴された。
そんな中で先生はボール状の機械を準備しながら、この国の文部科学省がいかに怠慢かを説いていく。
簡単に言えば”個性“禁止の体力テストをして画一的な記録を作ろうとしているが”個性“の成長は当然出来ない。普通の体力テストをしても意味ないとのこと。
こと雄英においてはフル活用した身体テストを行うと。
それから俺に視線が向けられる。
「入試のトップは拳王技だったな。中学の時ソフトボール投げなんぼだった?」
「三年ですか? 0です」
「……爆豪はなんぼだった?」
「67m」
「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい、早よ。思いっ切りな」
本当は俺に投げさすつもりだったらしいが、参考にならなかったのだろう。何も言わずに爆豪に変えて指示すると、爆豪は位置についてストレッチしていた。
「じゃあ、まあ球威に爆風をのせる……」
爆豪は大きく振りかぶると、
「死ねぇ!!!」
物騒な言葉共に爆破の”個性“によって勢いが増したボールが飛んでいく。
おー結構飛んだな。”気“で目を強化しなきゃ見えないところまで飛んで行ったぞ。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地をつくる合理的手段」
そう言って先生は記録計を見せるように向けると、905.2mという値が表示された。
「チッ、まだ弱ぇか……」
「905.2m!?」
「なんだこれ、すげー面白そう!」
「個性思いっきり使えるんだ。流石ヒーロー科!!」
結果に不満そうな爆豪はともかく、他の生徒たちは騒いでいる。
俺と出久は流石だなーみたいな目で見て全然参加できてなかったが。
「面白そう、か」
そして先生が生徒の声を聞いたからか、雰囲気が変化する。
さっきとは全く違う、改めてヒーローと感じさせてくる圧。
「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、
---生徒の如何は
ようこそ、これが
雄英高校ヒーロー科だ
そう、挑戦を叩きつけるように先生は告げた。
ああ、本当に。
なんてことをする。
こんなことがあるなんて、
面白い。それでこそ難関校だ。
「最下位除籍って!!入学初日ですよ!?いや、初日じゃなくても!理不尽すぎる!!!」
「自然災害、大事故、身勝手な敵たち……いつどこから来るか分からない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう
これから3年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。
「“
さて、デモンストレーションは終わり、こっからが本番だ
それを最後に先生の指示に従って”個性“を使った体力テストが始まる。初手は50メートル走だ。
いだくんが走るらしい。
そういえば彼の”個性“はなんだろうか。
その答えは。
50m走を3秒04という記録がすぐに答えてくれた。
なるほど、スピード系か。50mじゃなければもっと出てただろうな。
それから次々と続き---あ、葉隠さんは平均的な記録か。”個性“関係ないから仕方が無い。
そして俺にとって本番と言うべきか。見るのを待っていたと言うべきか。
---出久と爆豪の番だった。