聖龍伝説 現政奉還記 創生の章 作:セイントドラゴン・レジェンド
[雨が降り注ぐ中]
ドレフ将校の表側の葬儀が終わって三日後。
赤塚組の母船、百鬼命義はジャッジ・ザ・シティの港に停泊していた。
その船内では、新世代型二次元人たちがぼんやりとした様子で気が抜けていた。
自分たち新世代型二次元人が、聖龍隊の創設者にして鬼神と恐れられている小田原修司のクローンに近い種族だと知って未だにその現状を飲み込めずにいたのだ。
呆然とただイタズラに時が過ぎていくのを呆けている新世代型たちを見て、居た堪れない心境に浸る赤塚組幹部衆のギョロ/ゴマ/チカ子。
だが、イタズラに時が過ぎていくのを見過ごしている新世代型ばかりではなかった。
所は変わってジャッジ・ザ・シティの市役所内。ここで、役所の役員に書類を提出している新世代型の姿が見受けられた。
「……では此処にサインを。あと、此処にも」
「はい……これで良いかしら」
「はい、結構で。ではこれで其方のお二人、パラエムさんとパリヌリさんは正式に人権を取得なさって、その雇い主を貴女ラケージさんとして登録しますね」
役所の役員は笑顔で新世代型のラケージに対応する。
女海賊ラケージは、これを機に両腕である奴隷のパラエムとパリヌリに正式な人権を取得させ、その二人の正式な雇い主として自分を役所に登録提出したのだ。
と、そんな一通りの手続きを終えたラケージと側近二人に声を掛ける男が。
「よっ、手続きご苦労さん」「ああ、なんだ大将か」
声をかけてきた赤塚組頭領大将に、ラケージは返事する。
「これでその二人も奴隷じゃなく、正式な人権を……人としての権利を得た立派なねえちゃん達だ。今までと変わりないだろうが、これからも大事にしてやんな」
「大将、分かってるよ……」
実はラケージにパラエヌとパリエヌの両名の奴隷解除を勧めたのは、他でもない大将本人だったのだ。
大将は義賊と海賊という間柄で、気持ちの良いラケージに奴隷を持って欲しくはなかった。故に、左腕と右腕の二人を奴隷という柵から開放させたのだ。
「パラエヌ、パリエヌ……これでお前さん達の奴隷って言う過去の柵は無くなったぜ。これからは自由に……と、までは行かないかもしれないが、ラケージの元で頑張るんだな」
「ふふ、ありがと大将」
「私たちは今までとは変わらないよ……これからもラケージ様の下で働かせてもらえれば」
「フッ、大した仲だな」
大将がパラエヌとパリエヌ、二人とラケージの間柄の深さに感銘を受けていた時、当のラケージ本人は浮かない顔をしていた。
「? どうしたラケージ、そんな思い詰めた顔しやがって……せっかくの美貌が台無しだぜ」
大将がおちょくると、ラケージはそのまま深刻そうな面持ちで大将に語った。
「いやね、ちょっと……これからの私たちの行く末を考えると、少し億劫でね」
「?」
「……私たち新世代型二次元人が、かの三次元人小田原修司のクローンに近い種族だって知って……もう正直、どうすればいいのか考えちまって……如何に小田原修司が凶暴なだけの三次元人じゃないって、あんたやアッコちゃんから聞かされても……会った事のない三次元人を信頼するってのは正直、難しいよ……」
「ま、まあ、そうだな……確かに。あの修司のクローンだって聞かされたら、不安に思えちまうのも無理はねえな。正直、修司のイメージって余り良くないからな……でもなラケージ、それにパラエヌとパリエヌの二人もよぉく聞いてほしい」
『………………』
「修司は思ったより、怖い奴じゃなかったんだぜ。人情味も溢れていたし、何より困った奴は色んな方法で助けていたっていう気さくな男だったんだ。俺が小学生の頃、それこそ妖魔とか色んな凶暴な敵キャラが蔓延っていたアニメタウンを救うべく聖龍隊を結成させたのも修司本人なんだ。その頃から修司は、人助けのためのに聖龍使いっていうヒーローに変身して戦っていたんだぜ。確かに修司は今では、躊躇わず人を殺傷しちまう人間って思われちまっているけど、本質は心の底から気の良い男だったんだよ」
「そ、そうかい……」
「そうだとも! だから俺は、アッコが惚れ込んだ男として修司を認めた訳なんだよ。アッコと修司の間からは、一線引いてよ……そ、それに。前にも言ったけど、お前さん達はお前さん達、修司とは違う命なんだから、そんなに思い詰める必要はねえんだ。そこんところを理解して欲しいなぁ」
「大将……フ、そうだな。ありがとう」
黙って大将の話に耳を傾ける三人は、大将の話に理解を示し、最終的にラケージは大将に微笑みながら礼を返した。
また所は変わって場所はジャッジ・ザ・シティの軍人墓地。
此処では雨が降りしきる中、傘もささずに一人の女性がある人物の墓地の前に突っ立っていた。
その人物とは新世代型二次元人の一人、琴浦久美子であった。彼女の目の前に立っている墓地は、あのドレフの墓だった。
自分がかつて愛した異性が所属していた新世党を影で操り、最終的には自分たちも含めて利用し尽くして全てを始末しようとしたドレフの所業に怒りを覚えていた久美子。
だが軍政権の独断で、ドレフが裏で新世党を操っていた事実は隠蔽され、彼の死も過去に受けた戦傷が死因であると公表されてしまった。
そして、そのドレフは何も知らない多くの市民達に見送られながら、葬儀が済まされた。
自分たちを利用するだけ利用し、それでも最終的には英雄として葬られたドレフの顛末に納得がいかない久美子。
彼女はその静かな怒りを爆発させるかのように、近くにあった大きな石を持ち上げて、ドレフの墓石を破損させようとした。
が、その時。
「ママーー、こっちだよ! 早く早くーー」
一人の幼い女児が、母親を引き連れてその場にやって来た。久美子は慌てて持ち上げてた石をその辺に放り捨てると、何事も無かったかのようにドレフの墓前に立ち尽くした。
すると女児とその母親が、傘も差さず雨の中を突っ立っている久美子に違和感を覚えて声をかけてきた。
「んーー? おばちゃん、なんで傘さしてないのーー?」
女児の問いに久美子はどう返していいか分からず困惑していると、女児の母親が久美子に訊ねた。
「っ、もしかして……あなたもドレフ将校に由縁のある方ですか?」
「えっ、ええ……そんなところよ」
訊ねられた久美子は挙動不審になりながらも返答した。
すると母親は、ドレフの墓前で弔いの姿勢をすると、その姿勢のまま久美子に語り始めた。
「私……まだ娘がお腹の中にいた頃にドレフ将校に助けてもらったんです。あの時、ドレフ将校が駆け付けてくれなかったらお腹の子も流産していたって医師から言われまして……」
「っ………………」
「……今の私と娘がいるのは、全てドレフ将校のお陰なんです。だから将校から貰い受けたこの命を……未来へと繋げていきたいんです」
「………………!」
母親が向けた満面の笑みが、久美子の心を揺さぶった。
すると其処に女児が、母親に駆け寄って、母から所持してきた花束をドレフの墓前に元気いっぱいに供えた。
「ドレフしょーこー! あたしね! しょうらい、ドレフ将校みたいに誰かを助けるお仕事に就きまーす! だから天国であたしの事、見守っていてね」
「ふふ」
元気いっぱいにドレフの墓前に報告する女児に、母親は微笑むと再び娘と共にドレフの墓にお辞儀をした。
この親子を見て、琴浦久美子は実感した。たとえ、裏で如何なる大悪事を働いていたドレフでも、この親子にとっては本当の英雄だったのだと。そして、この親子の様にドレフを英雄として見る人々が多い事を。彼らの希望を、夢を踏み潰してはいけないのだと。
久美子はドレフへの憎しみを一転させ、底の見えない空虚な思いに駆り立てられるのであった。
[鬼の夢]
いざジャッジ・ザ・シティから出港しようとした聖龍隊と赤塚組。だが、そんな彼らの元に、ある報せが舞い込んできた。
なんと、あの聖龍隊を離反した村田順一率いるスター・コマンドーの軍勢が、再び聖龍隊に戦いを挑んできたのだ。
しかも、今度は本格的な戦闘を仕掛けるつもりらしい。
聖龍隊は一時迷った。元仲間にして、あの小田原修司の愛弟子である村田順一が率いる軍勢と対峙する事に、若干の躊躇いを覚えていたからだ。
だが、スター・コマンドーは着々と戦いの準備を進めているらしく、現政権を保持する為にも聖龍隊はジュン達との決戦に備えなければならなかった。
これらの事情を、聖龍隊は新世代型たちに報告し、理解を深めてもらおうとした。
「……と、いう訳なんだ。ジュンの奴、今度は大所帯を組織してオレたち聖龍隊に戦いを挑んでこようとしていやがる」
「そ、そんな……順一さん達が……」
バーンズから報せを受けて、琴浦春香たち新世代型二次元人たちは戸惑ってしまう。
が、そんな新世代型の中にはジュンと聖龍隊の戦いについて他人事の様に感じる新世代型も。
「へっ、あの村田順一と決戦か……どうぞ、お好きなように。どうせ、俺たち新世代型……鬼のクローンには関係ないだろうよ」
「ちょ、ちょっとレド! バーンズさんたちに失礼だよっ」
自分たちが鬼神のクローンに近い種だと知って、いい加減な気持ちに至ってしまうレドにエイミーが慌てて言い付ける。
だが、聖龍隊と村田順一たち二組の、正直言えば内輪もめに愛想を尽かしていたのはレドだけではなかった。
「まっ、そうだよな……どっちが勝つにしろ、二次元人の現状なんて、そうそうに変わるもんじゃないだろうし……」
「あの村田順一が勝とうが、聖龍隊が勝ち残ろうが俺達の知ったこっちゃない」
時縞ハルトや犬塚キューマたちの不満を目の当たりにし、アッコたち他の聖龍HEADも複雑な心境に駆り立てられる。
すると、そんな各々の不満から愛想を尽かしている新世代型たちに、大将が思わず本音をぶつけてしまう。
「おいッ、テメェらそんな愚痴ばっか言ってんじゃねえぞ! お前たち新世代型こそ、この戦いに大きく影響しちまっているんだからな!」
「え?」
新世代型の蓮城寺べる達が大将の発言に顔を向けると、大将は厳つい顔を更に険しくさせて言った。
「そもそも、聖龍隊と順一たちの決別は現政奉還が切っ掛けだって事を忘れてるんじゃねえよな? 今では、世界各国のあらゆる武人が発起した現政奉還……それを起こしたのは他の誰でもない、お前達と同じ新世代型の足正義輝なんだぞ! 言っちゃぁなんだが、自分たちが全くの無関係だって思い上がるのも大概にしろよな」
『………………!』
「た、大将……! そんな厳しいこと言わないで……」
大将の咄嗟の言動にハッと思い出す新世代型たちは言葉を飲み込み、アッコは大将の言論を制止する。
だが大将はアッコに制止されながらも、残念な現実を新世代型たちに叩き付けた。
「アッコ、この際こいつらにもハッキリ言っておくべきだ! 忘れちまっているとは思うが、足正義輝が平和なご時勢を自らぶっ壊しちまったお陰で、二次元人の信頼はガタ落ち。お前たち新世代型二次元人への危惧も増しているって事を肝に銘じていろッ。もう正直、新世代型がどうとか、二次元人や三次元人なんて関係ない……いま世界に生きている全ての武人が現政奉還で抑え切れない野心を燃やして争い合っている現状だって事を忘れるな!」
大将から言われて、新世代型たちは皆顔を俯かせた。
聖龍隊とスター・コマンドーの離別だけでなく今世界中を混乱に陥れている現政奉還、それを起こしたのは自分たちと同じ新世代型の国連総長足正義輝なのだと思い返され、新世代型たちは一同に失意に駆られた。
「大将、あなたや世間の不満も分かるけど、新世代型たちの気持ちも考えて。みんな自分がクローンに近い種だって知って、まだ困惑しているのよ。ちょっと向こうに行ってて」
アッコは新世代型たちに世の不満をぶつける大将を押し退けながら向こうに行かせると、優しい口調で新世代型たちに語り掛けた。
「ごめんなさい、大将も大将で色々とストレスが溜まっていたのよ……私たちが色んな事を秘密にしていたり、ドレフ将校の真実が公表されなかったりで不満が募っていたのよ……」
「それって大元は、聖龍隊が原因って事じゃないか……」
「! ……そうね、私たちにも原因があるわ。ホントにごめんなさい」
新世代型二次元人の真田幸介の言葉に、アッコは心を痛めたが率直にお詫びの言葉を返す。
するとその時、新世代型二次元人たちを掻き分けて、一人の少女がアッコに声をかけてきた。
「あ、アッコさん……」
「なあに……鹿島、ユノちゃん、だったわよね」
「ユノで良いですよ。こんなに大勢だと、名前を一々覚えてもらうのも一苦労ですね」
声をかけてきた鹿島ユノと良い感じに会話が成立したのを感じ取る両者。するとユノはアッコに唐突に問い掛けてきた。
「アッコさん……アッコさんが知っている小田原修司って、どんな人だったんですか? 私たちが、その小田原修司の遺伝子構造から生まれた二次元人だって知った今だからこそ言える彼の……鬼神と呼ばれていた人の事を改めて教えて欲しいです」
「え!? で、でも急に、突然どうしたの?」
「私……正直、まだ小田原修司のクローンに近いって言われて困惑してます、それはこの場にいる新世代型みんなに言えます。それを踏まえて、聖龍隊の中で誰よりも小田原修司の心に近かったアッコさんに訊ねたいんです……私たちの基になった小田原修司って、どんな人だったんですか」
ユノの切実な問い掛けに、彼女の潤みながらも力強い眼差しに見詰められたアッコは意を決して語り始めた。
「っ……そうね。前々から、みんなに修司の事は話していたけど……修司の遺伝子から生まれ、、修司と深い関わりを持っていると知った今では、改めて話した方がお互いの為に良いかもしれないわね」
『………………………………』
「既に知っての通り、修司は残酷な一面が目立つところが多かったわ。敵には情け容赦なく、平然と斬り捨てて……昔から人を殺傷するのを何とも思わない残忍な気質があったのが印象だった。でもね……修司には叶えたい夢があった。その夢の為にも、修司はただ只管に剣を……刃を振るって、誰よりも多くの血を浴びてきたの」
「夢?」
「そう、修司の夢……それこそ常人が叶えようとしても到底叶えられない底なしの夢。でも、私は好きだったわ、修司の夢」
『………………』
「修司の夢、それは……本当の意味での平等」
「本当の意味での平等?」
薙切えりなたち新世代型一同がアッコが語る修司の夢について唖然としていると、アッコはその訳も含めて語り続けた。
「そう。昔の私は幼くて、全然解っていなかったけど……人間ってのは、やたらと周りの人間や誰かを見下して差別する事で自分に優越感を浸らせる生き物。私たち二次元人にも、魔女が嫌いだの妖怪や人外が怖いだのって差別が目立っているけど……その前から三次元人も、肌や目の色で相手を見下したり軽蔑したりする欠点があった。修司は、そんな差別こそ争いの元凶であり、根本だったと思っていたの。だから、そんな人間の差別する心を修司は誰よりも嫌っていたわ。そして少しでも差別する人の心を消そうと一人奮闘していたのよ」
『………………』
「聖龍隊が種族や人外を問わず、修司や私たちHEADに認められれば入隊できるように、修司は人と人との垣根を無くして世界に本当の平和を築こうとしていたのよ」
「で、でも……
キャサイン・ルースが小田原修司の毛嫌いについて指摘すると、アッコは苦笑いで答えてくれた。
「まあ、修司は確かに
「過大評価?」
「ええ、修司は二次元人は三次元人の手本となるべき高等な種族だって心の底から信じ切っていたの。だから悪い手本になってしまう、それこそ悪人な二次元人や敵キャラをどうしても赦すことが出来なくて
『………………』
悲しげな表情を浮かべる新世代型たちにアッコは語り続ける。
「そして二次元人たちの方も改心する人が少なくなってきた。障がいや能力者や種族を差別する人は増えていき、平気で悪事を働く様な二次元人も増大する一方……修司は怒ると同時に絶望したわ。自分が愛してやまない二次元人が平気で人の心を傷つける存在になってしまったんですもの。だから修司は、そんな二次元人たちを改めるべく
「お、小田原修司が
アッコの話を聞いて新世代型の真鍋義久が驚愕すると、アッコは「ええ、そうよ」と一言返した。
そしてそのままアッコは語り続けた。
「そして二次元人の中には、凶悪な犯罪者になる者から一転、世界中で目撃されているUMAなんかの未確認動物に変異してしまう現象が明らかになって修司も私たちも愕然としたわ。そんな二次元人たちを放っておけば、世界中のマスコミは彼らを標的にしてしまう……そう考えた修司は、そんな二次元人を秘密裏に捕獲して事が公にならないよう政府と密約をしたの」
「そ、その密約が……以前にも聞かせてもらった、コレクション・シークレットなる小田原修司が抱えている機密事項類ですね」
出雲ハルキからの問い掛けに、アッコは素直に答えた。
「ええ、その通り……修司が私たち聖龍HEADにも秘密裏に収集した世界中の機密事項……ジョン・F・ケネディの暗殺からウォーターゲート事件、ダイアナ元英国王妃の死の真相から、日本では三億円強奪事件の真相までかき集めた世界の秘密。これで修司は世界中の国家機関と裏で繋がっていたの……キナ臭い話だけど、修司が抱えている秘密はその大半がこのコレクション・シークレットに関係している秘密だったから、修司や私たち聖龍隊の機密事項を暴こうとしたメディア関係者が蒸発してしまった事も多々あったわ」
『………………!』アッコのこの話を聞いて、新世代型一同は言葉を失った。
するとアッコは新世代型たちにこの話の裏話を付け加えた。
「だけど大元のメディア関係者は、聖龍隊が秘密裏に拘束して、記憶を消す能力者に頼んで記憶をごっそり消してもらったから命まで奪うなんて真似はそうそう無かったから安心して」
(ホッ……)
安堵する新世代型たち。すると最初にアッコに質問した鹿島ユノが問い掛ける。
「ど、どっちにしても……要するに、小田原修司はアッコさんたち聖龍隊の人達が信頼を寄せられる人物なのは確かなんですね?」
このユノからの問い掛けに、アッコは率直な意見で答え返した。
「ええ、そうよ。修司は単に残忍な人間じゃなかった……いつか必ず、この世に生きる全ての心ある人たちが理解し合える……そんな世界を追い求めて努力を惜しまなかった人だからこそ、私や他の聖龍隊は修司を信用できたのよ」
そして最後にアッコは新世代型二次元人たちに語り明かした。
「みんなは誤解しているかもしれないけど、ただ残酷で強いだけの人間に人望が集まる訳じゃないの。その人には、他にも少なからず魅力が存在しているからこそ、多くの人を魅了している……それを忘れないで」
ただ単に強いだけでなく、少なからず他にも周囲の人々を魅了する魅力を持っているからこそ人望が集まるのだと説くアッコの話に、新世代型たちは心を射抜かれた。
するとその時、アッコと新世代型たちが談義している部屋にバーンズが顔を覗かせてきた。
「アッコ、ちょっと話がある……コッチ来てくれねえか」
「ああ、バーンズ……分かったわ、今行く」
アッコはバーンズからの問い掛けに答えると、新世代型たちに愛想を振り撒きながら退室した。
アッコが退室した直後、新世代型と同様にアッコの話に耳を傾けていたプロト世代のギュービッド達は豪く感心した素振りで話し出した。
「へぇ、それにしても……小田原修司って豪くアタイら二次元人のこと気に入ってたんだね。まさか世界中の機密事項をかっぱらってまでも自分の責務を果たそうとするとは……」
「そうですね。世界中の秘密を一人握って、聖龍隊や多くの二次元人たちを守ってくれたなんて……やっぱりアッコさんの言うとおり、小田原修司ってただ残酷な人じゃ無かったって事ですよね!」
「うん、私もただ残酷な武人じゃ無かった気がする……でも、多くの二次元人を守る為に一部の二次元人を処分するやり方は、どうだったのかな……」
ギュービッド/桃花・ブロッサム/チョコの三人に続き、三人と同等にプロト世代の海道ジンがチョコの疑問について語り出す。
「十を守るため一を切り捨てる……ある意味、最も効率的な政治的思想の持ち主だったんだよ、小田原修司は。多くの二次元人を守るため、一部の二次元人を見捨てるしか手段が無かったのかもしれない……」
『………………………………』
海道ジンの話を聞いて、その他の新世代型二次元人たちは悲痛な思いに駆られた。
[自分で在れ]
それから間もなく、聖龍隊から切り出された話を聞いて新世代型/プロト世代の二次元人たちは愕然とした。
なんと、あの村田順一が聖龍隊と決戦を挑む為に各地の武将達に同盟の義を持ちかけていた事が発覚したのだ。
全ては小田原修司が全二次元人を保守する為に施行した
もはやジュンの決意は揺るぎないものへと変わっており、聖龍隊とスター・コマンドーの完全な全面対決は避けられない風潮へと変わっていた。
これを機に、聖龍隊はスター・コマンドーとの完全な決着をつけるべく、総力を整えてジュンとの決戦に挑む決心をした。
「バーンズさん、本当にジュンさんと……スター・コマンドーと本気で戦うんですか?」
「これも天命なのかもしれない……どちらにしろ、もう後戻りはできねえ!」
新世代型の琴浦春香の悲痛な訴えに、バーンズは険しい表情で断言した。
とある港にて。薄暗い曇り空が天に広がっていた。
聖龍隊と赤塚組は此処で新世代型/プロト世代の面々と離別する事を決めた。
これから村田順一率いるスター・コマンドーとの決戦に備えて、着々と軍備を整える聖龍隊を前に新世代型たちは唖然としてしまう。
「……遂に始まっちゃうんだな。聖龍隊とスター・コマンドーとの戦いが……」
「ああ、それもこの前の様な演習染みた生易しい戦いなんかじゃない……正真正銘の戦争が、いま始まろうとしている……」
新世代型の瀬名アラタと星原ヒカルは、暗い気持ちの中、着々と準備を進める聖龍隊の隊士たちを傍観する。
と、そこにメタルバードに変身する前のバーンズが副長であるアッコと共にやってきて話しかけて来た。
「お前達……」「バーンズさん……」
バーンズの呼び掛けに返事する新世代型の神浜コウジ。そんなコウジたち新世代型にバーンズは話した。
「長い間、随分と一緒に旅をしてきたが……ここでお別れだ。オレ達はジュン率いるスター・コマンドーの制圧に向けて出発しようと思う」
「制圧って……! ま、まさか殺しちゃうなんて事ないよな!?」
新世代型の燃堂力が慌てた様子で問うと、バーンズは重く険しい面差しで答えた。
「それは……今のところ、何とも言えない。ジュン達が大人しく投降するか降伏してくれれば手荒な真似はしないんだが……」
「でも! 順一さん達は純一さん達で、自分の信念を貫こうとしているだけなんでしょ!? それなのに……」
信念を貫く者同士の戦いが起きようとしているのを悲観する新世代型の田所恵の訴えに、アッコが悲しい表情と潤んだ瞳で話し始めた。
「私たち、HEADもジュンくん達と戦うのは心から不本意よ……でも、一度施行された排除法を撤廃する事は、同時に多くの二次元人を苦境に追い込んでしまう結果にも発展してしまうのよ……それを止める為にも、私たち聖龍隊が総力を挙げてジュンくん達を止めないと……」
「苦境に追い込むって何なんだよ! もう十分、俺たち二次元人は苦境に立たされているだろッ!
アッコの哀しげな話に、新世代型の真鍋義久がこれ以上の苦境があるのかと切実に訴え返す。それに対してアッコもバーンズも何も反論できなかった。
そして話は新世代型二次元人の始祖、小田原修司にへと矛先が向けられた。
「アッコさんや聖龍隊の話を聞いてみて、確かに小田原修司は完全な悪人でないって事は少し分かったよ……けど、それでもアタイらは残忍性が強かった小田原修司のクローンとして生み出された種族、新世代型二次元人……もう正直、これからどうすれば良いのか分からなくなっちまったよ……」
いつになく弱気な発言をする新世代型の纏流子に続いて、同じく新世代型でマギウスの時縞ハルトが語り始めた。
「もう理不尽な争いや出生にはうんざりするほど設定付けられた……いや、運命付けられた。でも、それ以上にクローンとしてこれからの未来を……先へと進むべき道行きが見えなくなってしまいました。もう、これからどうすれば……」
ハルトに続き、琴浦善三が年長者としての意見を述べる。
「わしらは生まれた時からヨボヨボの爺さんとして生を受けた……じゃから、今さら不遇な運命や生い立ちには残り少ない余生の中で淡く消えて行くじゃろう。だけども、これからの次代を生きる若いもんにとって、小田原修司の代用品とかクローンとかの宿命は余りにも酷じゃ……」
各々の意見や話を聞いて、悲愴感に襲われるアッコ。そんなアッコの傍らでバーンズは一人、寡黙な面立ちで新世代型たちに説き伏せた。
「……お前らは修司か? いや、どう見ても、あの頑固者で仕事一筋の修司には見えない。お前達には修司にはない色が、個性がある。その個性は誰のものでもなく自分のものだ。それを誇りにドンと胸を張って生きていけ!」
唖然とする新世代型に、バーンズは更に告げた。
「確かに修司はお前らの始祖だ。だからといって修司の様になる必要は皆無だ。お前達はお前達の意志で……
「俺たち自身の、意志で……?」
思わず新世代型の真鍋義久が訊き返すと、バーンズは力強く頷いて新世代型を激励した。
バーンズもアッコも、そして聖龍HEADの誰もが新世代型二次元人の個々の意志を尊重していた。
時は過ぎて、聖龍隊がスター・コマンドーとの決戦に向かう直前。
聖龍隊に与する台湾軍が将軍シバ・カァチェンが、別れ際に新世代型たちと最後になるかもしれない話を持ちかけていた。
「……あの、皆々様……今はなんと申し上げれば宜しいのか、皆目検討も付きませぬが…………かの鬼神、小田原修司との親密な間柄、このシバ・カァチェン、恐悦ながら驚かされた次第であります……」
「カァチェンくん、もうそんなに改まる必要はないでしょ? 私たち、もう一緒にいて長いんだから……」
実に畏れ多い言い回しをするカァチェンに、新世代型のイオリ・リン子がもっと友好的に話し合おうと提案すると、カァチェンは改まって返事した。
「いいえ……かの武勇の数々を生み出してきた、あの加賀美殿が最も愛した鬼神小田原修司の遺伝子より生み出された新世代型の皆々様と対話するだけでも……このカァチェン、畏れ多い事であります……」
「か、カァチェン……それはその、やめてくれよ。俺たちだって、正直小田原修司のクローンって思われるだけで後味悪いんだよ……」
カァチェンの言動に、新世代型の幸平城一郎が頭の後ろを掻きながら自分たちの複雑な心境を訴える。
だが、カァチェンは自分の言い回しや口調を変えられないまま、新世代型たちに話し続けた。
「しかし、この出来損ないの武人である私にとって、もはや天上よりも高い地位に上り詰めた鬼神の遺伝子を受け継いだ皆々様と対等に話し合うなど……おこがましいにも程がありますゆえ……」
あくまで小田原修司の遺伝子を受け継ぐ種として自分たちを捉えなくなってしまったカァチェンに、新世代型たちは途方に暮れてしまう。
すると、そんなカァチェンに痺れを切らして、新世代型の無敵ギンジロウが迫った。
「おい、アンタ! 俺たちがクローンと分かった途端、態度を豹変させるのはやめやがれッ」
「っ……!」
「ちょ、ちょっとギンジロウ!?」
「相手はあくまでも国将軍なのよ! ちょっと無礼よっ」
ギンジロウに迫られ驚いてしまうカァチェン。そんなギンジロウを見て慌てる瀬名アラタやキャサリン・ルースの制止も聞かず、ギンジロウはカァチェンに言い付けた。
「確かに俺たちは不服だけど小田原修司のクローンに近い二次元人だよ! でも、それがなんだ! アンタは今まで俺たちを単なる二次元人としてしか見てなかっただろ! たった一つの真実が明らかになっただけで態度を改めるんじゃねえ! 今までどおり、何気なく付き合うって事ができないのかッ」
「! …………」
ギンジロウから指摘され、カァチェンは無言になってしまう。
すると無敵ギンジロウに続いて、
「カァチェン殿……貴殿とは今まで、同じ聖龍隊の加護の下で共に仲良く過ごさせてもらいました。それは最早、単なる二次元人と三次元人の間柄ではない……本当の友情にも近いものだと私は感じ取りました」
「友情……こんな私と……」
「そうです。今まで私たちは聖龍隊の加護の下、アジアの名立たる武将達と出会い、多くの歴戦を重ねつつ……成長できました。その成長の過程で、私たち新世代型は貴方方三次元人の一人でもある小田原修司のクローンである事実に直面しました。それでも聖龍隊は、HEADは私たちを偏見する事無く付き合い続けてくれました。我々は、貴殿とも今までどおり、変わらない間柄でいたいのです」
「そ、そうだよカァチェン! 俺たちがクローンだの、代用品だのって、そんなの関係ねぇ! 俺たちは親友じゃないか!?」
皐月に続いて再び燃堂力がカァチェンに問い掛けると、カァチェンは暗い面差しを変える事無く新世代型たちに返答した。
「ですが……HEADを含めた聖龍隊が、あなた様方に最初から変わらぬ態度を示しているのは……所詮、過去に恩恵を生んでくれた小田原修司のクローンとして……親しみやすい感情があるからではないのですか……」
「そ、それは……」
聖龍HEADが変わらぬ態度で新世代型に接してくれているのは、所詮は新世代型が聖龍隊に大きな恩恵を与えてくれた小田原修司のクローンだったからこそ優しく接してくれていたのではないかと説き返すカァチェンの言葉に、皐月は反論できなかった。
「HEADは……聖龍隊は最初から、あなた方が小田原修司のクローンであると知っていたからこそ、全力であなた方を守ってくれていたのでは無いでしょうか……。過去に恩を感じる小田原修司の血筋を受け継いでいるからこそ、聖龍隊は全力であなた方を補助していたのでは……」
「そ、そんな事あるもんか! 聖龍隊が……アッコさんやバーンズがそんな事でアタイたちを守ってくれていただなんて……」
カァチェンの意見に反論をぶつける纏流子。だがカァチェンの提議は続いた。
「しかし、今の捻り曲がった私の思想からは……聖龍隊はあなた方を小田原修司を反映して生み出された種として捉えているからこそ、今まで謝儀を果たそうと務めていたのだと思ってしまいまする……無論、これは私の勝手な思想……聖龍隊の、HEADの本質は私如きが計れる器量ではありませぬ……」
『………………………………』
カァチェンの提議に何の反論も言えなくなってしまう新世代型たち。
そんな薄暗い雰囲気に差し掛かった丁度その時、出立の合図が鳴り響いた。
「さ、さあ……私たちは私たちで一足先にアニメタウンに帰りましょう! カァチェンさんとは此処でお別れです」
暗い雰囲気をかき消そうと、プロト世代の黒鳥千代子ことチョコがカァチェンと新世代型の間に入る。
そして咄嗟にカァチェンの手を取ると、そのまま握手を交わしたチョコは笑顔でカァチェンに言った。
「カァチェンさん! 長いようで短い間でしたけど……私たちと一緒に行動してくれてありがとうございます! カァチェンさんとの思い出、私は忘れませんよ!」
「黒鳥殿……」
チョコからの感謝の言葉に、カァチェンは心のうちで感激した。
するとチョコはそのまま続いて、カァチェンと新世代型にも握手を交わさせようとした。
「ほ、ほら……」「あ……」
チョコはアニメタウンに居た頃から親しんでいる琴浦春香を無理やり前に出させて、カァチェンと握手を交わさせようとする。
だが握手を交わそうと手を差し伸べる琴浦春香に対して、カァチェンは遠慮しがちな態度で琴浦春香との握手に戸惑ってしまう。彼にとって、もはや新世代型は親しみやすい存在などではなく、誰もが恐れる鬼神の申し子として畏れ慄いていたのだ。
「………………」『………………』
握手を交わそうとはしない、いやできずにいるカァチェンを前に悲愴な面持ちを浮かべる琴浦春香と新世代型たち。
すると、そんな空気を裂こうとチョコが強引に二人の手を取って握手を交わさせた。
「あ!」「あ……!」
チョコの強引な握手に琴浦春香もカァチェンも一驚し戸惑う。
そして両者が握手したのを見届けたチョコは笑顔で言った。
「よし! これで私たちは、これからも変わらず親友同士ですよ!」
「親友……私如きが……」
チョコの発言にカァチェンは戸惑い驚いた。
すると唖然としているカァチェンに、他の新世代型たちも歩み寄って笑顔でカァチェンに声をかけた。
「そうだぜカァチェン! 俺たちが友達なのは変わりっこないだろ!?」
「燃堂殿……!」
「カァチェン、俺たちが何者であろうと、俺たちの関係が変わる訳はないだろ? 昔も今も、俺たちは親友さっ!」
「アラタ殿……!」
燃堂力や瀬名アラタなどの新世代型二次元人の心意気を受けて、カァチェンは心の奥底に微かな灯火が灯ったのを密かに感じていた。
自分たちが何者であろうと関係ない。自分の意志で未来を、先を歩んでいけばいい。
その志を胸に、新世代型二次元人たちはシバ・カァチェンとの友情を変わらず保つ事を彼と約束し、彼を含めた聖龍隊の軍勢を見送った。
今まさに聖龍隊とスター・コマンドーの戦争が始まろうとしている矢先の事であった。
[動き出す武将達]
一方その頃。
聖龍隊が本格的に始動してスター・コマンドーとの戦争に挑もうと出立した頃。
スター・コマンドー陣営では総大将村田順一が同盟の義を持ちかけた武将の到着を今か今かと待ち侘びていた。
「遂に始まるんだ……バーンズさんたちと、本気の戦いが! もう後戻りは出来ない……自分が持つ力を、全てこの拳に捧げる!」
ジュンは己の拳に全神経を注いで、聖龍隊との本気の戦いを覚悟していた。
そんなジュンに仲間達が声をかける。
「ジュン……」
「っ! どうしたルイズ、そんな顔をして……僕たちスター・コマンドーは人々を照らす明星! 暗い顔などしていられないぞ! ハハッ」
「分かっているけどよ……遂に始まっちゃうんだな。アッコさんやセーラー戦士との決戦が……正直、伝説のヒロイン達と戦うのは、今さらながら覚悟が鈍る……」
「そうだな、才人……もちろん、戦えないというならそれでも構わない。無理やり戦いに人を出すのは、それこそ人道に反した行いだ……聖龍隊と戦えないというものが居るなら、この場で僕と離反しても構わない」
「そ、そんな事はないぜジュン! 才人はどうか知らねえが、俺たちはとっくの昔に覚悟は決めている! ジュン、お前と一緒に新しい時代を創ろうって……」
「ありがと、大……でも、聖龍隊と本気で戦うにはそれこそ死力を尽くして全力で挑む必要がある……! 僕はこの拳で、全てを護ろうと決意した……だが、この拳が指し示す時代は所詮、今の時代同様、多くの血と涙で塗り固められるだろう……」
「ジュン……」
「なあに、大丈夫さブロッサム。全ての想いを護ろうと決意した瞬間、同時に全ての業も、罪もこの拳に積み重ねようとも決意したんだ! あの人が……我らが師、小田原修司が己が身に多くの罪を積み重ねてきたように! 僕も同じ罪を背負おうと腹を括った!」
「あの修司と同じく……自分一人で全ての罪を背負い切ろうとしているのかジュン。それは単なる勝手な人間のエゴだ、お前一人で背負い切れる罪じゃない……俺たちも一緒になって、お前が背負う罪を共に背負ってやるよ!」
「ありがとう、ユウ……こうして話していると、昔を思い出すな。君たち二人が勝手に、北の国で殺し屋を殺めて喧嘩別れをした、あの頃を……」
「そうね。ジュンはあの頃から無作為に人の命を奪い取る冷酷な人間じゃなかった……だらかこそ、その隙を突いて多くの悪人がジュンを殺めようとしたけど……同時にジュンは、誰よりも強い武人に成長したのよね」
「そうかな、ニナミ……僕は今でも、昔のままの……のん気な村田順一な気がしてならないよ」
「なあにを言っちゃってんだが。のん気で優し過ぎるだけじゃ、アタイたちは付いていかないよ」
「はは、そうなのかな……薫」
「そうだよっ。ジュンの人一倍、優しい気持ちに私たちは此処までついて来たんだからねっ。ジュンもそういうところが修司さんに似てきちゃってるよ。自分だけで戦っているって気が……」
「ご、ごめんよ、赤ずきん……」
「まっ、ジュンも今じゃスター・コマンドーの軍勢を引っ張られるほどの実力者……ボク達の命を預けているんだから、無闇に負けたりしないでくれよな」
「わ、分かってるよハル……」
「ジュン! あなたは一人で戦っている訳じゃない、私たちも一緒なのを忘れないで! 共に新しい時代を築こうって信念が一緒なのを、忘れないでね……」
「ああ、承知してるよ小夜! 正真正銘、争いの無い時代を築く為……僕に命を預けてくれ!」
「ただ命を預けている訳じゃないぜ。みんなの命は俺たちも全力で護っていくのをお忘れなく」
「ああ、頼りにしてるよ……良守! 時音!」
「戦場を跋扈する進撃隊はボクに任せてくれ! それこそ地を駆ける野犬の如く、駆け抜ける!」
「でも、無理は禁物だよ。セレブナイト」
「接近戦では、僕たちにお任せください! 近寄る兵士は片っ端から打撃の嵐をお見舞いさせますっ!」
「ふふ、君たち二人の格闘術、相も変わらず頼りにしてるよ。兼一、美羽!」
「兼一たちだけじゃない! オレ達も戦場に蔓延る兵士は一人残らず一網打尽にしてやるぜ!」
「ああ、君たちスパイダーライダーズの捕縛力、これからの決戦でも見せてくれ! ハンター・スティールよ!」
と、ジュンが頼もしい仲間達と会話をしていると、そこに颯爽と4人のくノ一たちと地面から闇を吹き出させながら一人の怪しい乙女が現れた。
「ジュン……同盟を持ちかけた軍の中で、私たちと共に戦っても良いという軍の総大将がやって来たわよ」
「うん! 報告ありがとう、ひまわり達!」
「ジュン、私も影ながら監視しているわね。まさかとは思うけど……相手の総大将があなたに対して危害を加えない保障はないから」
「心配してくれてありがとう、マイちゃん……でも、これから共に死地へと赴いてくれる友に対して隠れて様子を見るような真似は控えたい。此処はみんなで、共に戦ってくれる仲間を出迎えようじゃないか!」
こうしてジュンの申し出により、スター・コマンドーの精鋭たちは総出で同盟相手になってくれる軍の総大将を出迎える体制を敷いた。
まず最初にジュンたちの前に馳せ参じてきたのは、長い黒髪のポニーテールが一際輝きを放つ巨剣の使い手。
「村田! 居るか?」
「ナオコ殿、わざわざ来てくれたのか?」
「まあな……で、スター・コマンドーの乙女たちから聴いた件についてだが……私と手を結びたいというのは、本気か?」
「ああ、勿論だ……ナオコ殿、貴方達との絆が欲しい!」
「女地頭の武力が欲しい、の間違いじゃないのか? 男なんて所詮、乙女を利用する事しか考えてないからな」
「………………………………」
「……ま、まあ、マイたちスター・コマンドーの乙女たちが頭を下げてきた位だしな……モンゴル軍を倒すまでなら考えてやらなくもないが……」
「今はそれだけで十分だ……有難う、ナオコ殿」
イン・ナオコの強気な言動にも、ジュンは笑顔を絶やさず接する。
するとナオコに続いて、その場に新しい同盟相手の総大将がやって来た。
「Hey、ジュン! 竜王が直々に馳せ参じたぜ……!」
「これはマァスン殿! よくぞ来てくれた……!」
自らを竜王と自称する漢族の郷士であるデイ・マァスンの到着に喜々とするジュン。
二人は熱い握手を交わすと、マァスンはジュンに申した。
「言っておくが……オレはあんたの下に付く気はない。それだけは覚えておけ」
「もちろんだ。この同盟はあくまでも双方、同等の立場というのが同盟の約定だからな……頼りにしてるぞ、竜王!」
ジュンはマァスンの後ろ肩を強く叩いて自分なりの激励をかける。
すると遅れて到着したマァスンに、ナオコが歩み寄り声をかけてきた。
「随分と出遅れたな、竜王とやら……」
「Ha? アンタは確か、女だけの軍を構成させた……」
「そうだ! イン軍総大将、イン・ナオコ! 世の乙女に変わって、この世の身勝手な男を成敗する
「……へぇ~、あんたが噂に名高い女剣士か。確か、戦に明け暮れすぎて許婚に逃げられたっていう……」
「!!」
「まあ、そんな昔話はよそう。今はジュンと力を合わせて、現政権を保持しようとする聖龍隊をどうにか退かせないと……」
「ひ、一つ聞こう……貴殿は、何ゆえ村田順一と手を組むのだ?」
「? そうだな……一つは、今の聖龍隊じゃ新しい時代を切り拓くのは無理だって判断したからだ。昔からのやり方……鬼神が健在していた頃と何の変わり映えもしない連中が、新しい世を築こうってのが無理な話だ。新時代を切り拓くには、今までとは違った思想を持つ主導者ってのが世に必要だからな」
「その主導者が……村田順一だと自負しているのか?」
「NO、オレがジュンと同盟を結んだのは、あくまで聖龍隊と立ち向かえる力が必要だからだ……本当の主導者、リーダーってのはこのオレ! 独眼竜王以外には居ないだろう?」
「フンッ、男が威張り散らす時代はそれこそ古臭い……真に次の時代が求めているのは、理不尽に苦しめられている女を救済する新たな指導者! そう、乙女の悲しみを理解するこのイン・ナオコだけだ!」
「男だ女だなどと、小せえ事をよくもまあ其処まで言えたもんだぜ。オレは別に女を支配しようとか、苦しめる為に王になろうとしている訳じゃない! 女も男も、全てこの竜王の元で光を……未来を夢見れる時代を築こうとしているのがオレの野望だ!」
「男は所詮、口先ばかり……最初は男女平等だとか抜かして、最後の最後には女を苦しめる政策を行う! 男は所詮、信用できぬ生き物だ!」
「言ってくれるじゃないか、男に逃げられた家事のできない剣士さんよ……!」
「ほほう、乙女を侮辱するその減らず口……この愛剣で斬りおとしてやろうか……!」
と、一触即発になりそうなマァスンとナオコを、ジュンが宥め止めようとする。
「ま、まあまあ二人とも! ここは落ち着いて……せっかく僕たちは種族の垣根を越えて結束しようとしているのに」
漢族/ウィグル族/そして二次元人。三つの種族が垣根を越えて結束しようとしている瞬間に衝突するのは不似合いだと、ジュンは二人の制裁に入る。
そしてジュンは、改めてマァスンとナオコに握手を交わさせると無理やりながらも仲直りさせた。
「さあ! これで口論は終わり! これからは仲良く共闘しよう……」
だが、ジュンによって握手を交わされた両名は、お互いに睨み合いながら握手を交わす手に力を込めて血眼になる。
「ジュンが間に入ってくれなきゃ、テメエなんぞ一瞬で片付けてやる……!」
「男は血の気が多くて仕方が無い……だから争いのない日々が訪れないんだ……!」
「その言葉、そっくりそのままテメエに返してやるよ。熱血女……!」
「はぁ? 誰が熱血漢だと……笑わせてくれる……! 私たちはあくまでジュンの元で同盟を結んだ者同志……偉そうに言えている立場では無かろうに」
「ジュンがナンバー1なら……オレ様がナンバー2だ……!」
「これだから男は……よってたかって順位を付けたがる……!」
血走った眼で口論に成り掛けている二人を、ジュンは慌てて制止する。
「まあまあまあまあ! お二人さん、そう喧嘩腰になるのは、もう止めて止めて……」
こんな二人の様子を見て、スター・コマンドーの精鋭たちは呆れ返ってしまってた。
こんな調子で聖龍隊本隊と同等に戦えるのだろうかと。
と、ジュンはナオコとマァスンを言い包めて宥めていったのだが、その直後、ジュンは二人が自軍の様子を見に行って留守の間、仲間たちに告白した。
「みんな……絆とは本当に強く、得難いものだな」
ジュンの突然の発言にきょとんとするスター・コマンドーの精鋭たち。するとジュンはそんな自分を信じて付き従ってくれている仲間たちに打ち明けた。
「聖龍隊を離れてなお、それなりの勢力として立てるのは……僕を信じ、付いて来てくれた皆のお蔭だ」
自分達が在籍していた聖龍隊を離れても強大な勢力を保てるのは、自分を信じて付いて来てくれた仲間のお蔭だと説くジュンは、更に小難しい顔で語り始めた。
「しかし……まだバーンズさんやアッコさん、そして帝には抗えまい。彼らに打ち勝つ為には、更なる絆が必要だ。だから……僕は各地に同盟を求めた! そして集まってくれたナオコ殿やマァスン殿……険しい道となるだろうが、彼らと共に新しい時代を切り開く! これからも手伝ってくれるか、友よ!」
このジュンの告白に、仲間たちは総出で力強く頷いた。
「あ、当たり前だろジュン!」
「さっきも言ったが、俺たちは既に覚悟を決めている……!」
「ジュンが掲げる絆の力で新しい世界を創生しようと……此処にいるみんなで誓い合ったじゃないか!」
「うん、そうだったな……本当に有難う! 才人、ユウ、兼一、みんな……!」
ジュンは皆に改めて礼を申し上げると、拳を振り翳して提言した。
「行こう……絆こそが人の救いであると示す為に!」
[家族について]
スター・コマンドーが同盟相手のイン・ナオコとデイ・マァスンと会合をしていた頃。
そして聖龍隊がスター・コマンドー制圧に向けて本格的に活動していた真っ只中。
新世代型とプロト世代の面々は聖龍隊が派遣した別動隊によって、護送されていた。
曇天が空を覆い尽くす暗い林間の道を大型の護送車に搭乗して進行していく一団。
皆の気持ちは、空を覆い尽くす曇天のごとく曇り切っていた。
と、そんな暗雲な心境の中で1人座り込む新世代型の琴浦久美子の隣に同じ新世代型のイオリ・リン子が歩み寄り座った。
「隣、いいかしら?」「え、ええ、良いですよ……」
新世代型同士の思考を繋ぐ共有感知が現状では少しばかり治まっている最中、リン子は久美子に断って彼女の隣に敢えて座った。
「……あなた、宇宙ステーションを脱出してから気持ちが暗いけど、娘さんとの関係は大丈夫?」
「ええ、今それを考えているところ……共有感知であの子の、春香の気持ちを知ってから、どう罪滅ぼしすればいいか解らなくて……」
過去に娘の春香を蔑ろにしていた久美子は、共有感知で春香の辛かった心情を改めて思い知らされて、罪悪感と自己嫌悪で身が押し潰されそうな心境に至っていたのだ。
そんな久美子を、同じ母親であるリン子は放っておくことはできず、彼女の優しく問いかけた。
「……あなたは、久美子さんは春香ちゃんとどうしていきたの?」
「そ、それは……今さら、あの子と面と向かって顔を合わすなんて無粋な真似できないし……どう罪滅ぼしすればいいか、正直分からないの」
「そう……でも、顔を合わせにくいってのは春香ちゃんも同じなんじゃないでしょうか」
「はぁ…………」
「親子って、案外似ているところが多いって言いますよ。私もよく、息子と似ているなって言われることが多くて……」
「………………」
「私が言いたいのはですね、久美子さん。親子として、もっと上手く関係を修復させたいって思っているのは相手も同じ、春香ちゃんも同じだって事ですよ」
「は、春香もですか!?」
「ええ、もちろんよ。春香ちゃんだってきっと、お母さんと仲良くなれたら良いなぁって思っているはずです。だって、あんなに優しい女の子なんですもの」
「家の娘を、優しい子だと……思ってくれているのですか?」
「もちろんですとも! ……共有感知を通して知りましたが、春香ちゃん自分の生まれ持った能力で幼いころから不憫な思いをしてきたんですね。そして久美子さん、母親である貴女は、そんな春香ちゃんを庇い切ることが出来ず、守れなかった自責の念で今でも苦しんでいる」
「………………」
「……あっ、ごめんなさい、少し言いすぎました」
「い、いえ、別に大丈夫です…………春香も、昔からこんな気持ちを感じていたんでしょうね」
「え?」
「共有感知で嫌でも周囲の人間に自分の本音が浮き彫りになったり、周りの人間の心境を読み取ってしまう……こんな気が狂いそうな能力があったのに、私はあの子を苦しめてしまった……最低の母親です。もう私は、母親だと名乗る資格はないのかもしれません……」
「そ、そんな事ありません! 私も正直、これから息子や夫と……そして周囲の人々とどう接していいか分からず戸惑ってしまっているんです。自分達が三次元人、小田原修司のクローンだなんて知ってしまった以上、元の生活に戻れるかどうか……」
「フッ、娘や私の設定を酷にしただけじゃなく、種族としても無粋な宿命を背負わせてくれたわよ、創造主たちは……」
と、久美子とリン子が親子談義をしているその時「全くですな」と二人の会話に入ってきた一人の女子が。
女子は二人の会話に割り込んでくると、そのまま久美子とリン子の会話に乱入してきた。
「あ、あなたは……」「皐月ちゃん……」
割り込んできた女子は、同じ新世代型の鬼龍院皐月であった。皐月は二人の会話に割り込んでは、語り始めた。
「別に実の娘を蔑ろにしたり、差別したりしてしまっても大丈夫じゃないですか。大事なのは、それから……いや、これからどうすればいいか。それが大事なんだと思いますよ」
「これからの、事……?」
リン子が皐月の話に訊き返すと、皐月は真剣な顔で語り明かした。
「私や流子の母親なんか、私たちを実験体にしてまで世界を制圧しようとした毒親ですよ。そんな母親に比べたら、実の娘の能力を狂言者扱いする母親の方がまだマシに思えますよ」
「く、比べられちゃう訳なのね……」
久美子は皐月と妹流子の実母の鬼龍院羅暁と比べられた言動に唖然としてしまう。
「ま、私が言いたいのは……死んでしまった新世党の面子とはもう手遅れですが、生き残った我々の間の関係修復は、時間をかければどうにかなると言いたい訳です」
「じ、時間を……」「かけて……」
皐月の言い分に、リン子も久美子も唖然としていると皐月は神妙な顔付きで真面目に語った。
「私も時間をかけてでも良い……離れ離れだった妹の流子と少しずつ姉妹としての絆を取り戻していこうと。母上との関係は、もう死んでしまった以上、取り戻すことは出来ませぬが……妹、流子との絆や繋がりは時間がかかっても良いから取り戻していきたいと思っています! 生きていれば、必ず取り戻せる関係があると……私は信じたいです! 共に生きていれば、取り戻せる何かがあるのを私は信じ抜きたい……!」
「皐月ちゃん……」「………………」
同じ時を共に生きてゆけば、修復できる絆があると信じる皐月の話にリン子も久美子も愕然と言葉を失う。
そして皐月は二人に言い放った。
「どんなに崩れてしまった家族の縁も、少しずつ時間をかければ必ず修復できると……私は信じたい! 貴殿らも共に、家族としての結び付きを修復できるよう努めてみせましょう!」
威風堂々とした物言いで言い放つ皐月の言論に、二人が唖然としていると皐月の背後から美木杉愛九郎がやってきて話を付け足した。
「そうですよ、マダムたち。私たちは今まさに本当の自分を知って、驚き慄いている真っ只中。本当の自分と向き合って生きるのは難しいでしょうが、それを乗り越えた先に本当の未来がやってくるのを信じて今は前に向かって生きましょう! そして同時に家族としての関係も修復できるよう頑張りましょう、ハイっ」
堂々と背広をたたっぴろげて上半身を露出する説き語る美木杉の熱弁に、これまた久美子もリン子も唖然としてしまう。
だが二人だけでなく、同じ護送車の車中に居た新世代型の面々は皐月と美木杉の話に多少の納得をした。
どんな関係であろうとも、生きていけば必ず関係を修復できるのだと信じたい気持ち。
それは家族であろうと親友であろうと、関係を取り戻せたい心持を信じたい気持ちは誰もが一緒だった。
[霧の中の襲撃]
新世代型/プロト世代の面々が聖龍隊の別働隊によって護送されていく中、突然辺りに霧が立ち込めてきた。
「……おやっ? 霧が出てきたな……」
突然辺りに立ち込める霧を視認して新世代型の猿田学が声を発する。
「だんだん濃くなってきたわね……」
次第に色濃く立ち込めてきた濃霧に、美都玲奈たち新世代型は胸中に静かな不安が過ぎった。
そして濃霧が立ち込めてくる中、新世代型やプロト世代の面々が密かな不安を覚え始めた、その時。
近くから金属と金属が激しくぶつかり合う衝撃音が響いてきた。
「? なんだ、この音……」
「金属と金属がぶつかっている様な音だな……」
瀬名アラタや仁科カヅキが激しい物音に微かな聞き覚えを感じていると、直枝理樹がハッとその物音が何なのか思い出した。
「こ、これって……! 剣と剣がぶつかり合う、剣戟の音じゃ……!」
理樹の発言に、周囲の新世代型やプロト世代もハッと思い出した。
今まで幾度もの戦闘を目の当たりにしてきた二次元人たちには、自分達の耳に届く金属音が剣戟の戦闘で生じる衝撃音である事に気が付いた。
しかし、それよりも早く剣戟の物々しい音に気が付いた護送している聖龍隊の隊士たちは、近隣で勃発している戦闘に対して身構えた。
「戦闘! 戦闘だッ! 一般の二次元人たちを警護せよッ」
指揮官である隊士が他の隊士たちに呼び掛ける中、隊士達は二次元人たちを搭乗させている護送車を取り囲んで警護の体制に取り掛かる。
隊士たちに完全包囲されて、しっかりと警護される二次元人たちは速やかに動く隊士の一連の動きを見て愕然とする。
因みに隊士達はこの時、HEADやマン・ヒールズ、ルーキーズと違って未だ新世代型二次元人の真実を知らされていない。
突然の剣戟の音に慌しくなる聖龍隊の隊士たち。すると近くの茂みから無数の人影が一気に雪崩れ込んできた。
「きゃあっ!」
正体不明の人影の雪崩れ込みに悲鳴を上げる能美クドリャフカたち新世代型。
そんな無数の人影に、聖龍隊士が呼び止める。
「だ、誰だ!」
所持している銃器を向けて隊士が問い質そうとすると、濃霧の中から顔を此方に向けたのは何と国連軍の兵士であった。
「こ、国連軍?」「き、貴様らは! 聖龍隊かっ?」
双方共に顔を確認し合って相手が誰なのか察しあう一同。
すると他の近隣の林から続々と国連軍の兵士に混じって囚人服を着た暴徒達が出現した。
「な、何なんだ、こいつ等は!?」
聖龍隊士が問い詰めると、国連軍兵士は戸惑いながら答えた。
「こ、こいつ等は我々が海底監獄インペルダウンに投獄するため護送していた囚人だ! だが、この濃霧の中を得体の知れない武人の襲撃に遭い、全員が逃亡してしまったのだ!」
困惑しながらも訳を語る国連軍兵士の傍らでは、倒した兵士から強奪した武器を乱射して暴徒と化した囚人達が猛威を振るっていた。
「きゃーーはっは! 自由だ自由だ! オマケに武器も手に入ったし、国連軍のクソ兵士どもを嬲り殺してやる!」
奇声を上げながら今まで自分達を縛り上げていた兵士を返り討ちにしようと猛威を振るう狂人の様な囚人たちは、聖龍隊士と彼らが護送する一般二次元人たちにも襲い掛かろうとしてきた。
「こ、このままでは一般人に危険が及ぶ……聖龍隊! 国連軍と共に暴徒達を制圧せよ!」
手を拱いていれば一般二次元人にも危害が及ぶと認識した聖龍隊の上官が告げると、隊士達は指示されたとおりに囚人達の制圧に向かう。
「い、いや! これはあくまでも我ら国連軍の問題……貴様ら聖龍隊の出る幕では……」
「何を言う! もはや管轄の問題ではない! 急ぎ、この場を沈静化しなければ……」
管轄以外にも、何かと聖龍隊と衝突している国連軍にとって彼らの助太刀は余り好ましくなかったのだが、聖龍隊は管轄などの問題などは視野から外して共同で事態の沈静化を進めなければと半ば強引に囚人達を制圧していった。
この聖龍隊の決断と活動を目の当たりにして、新世代型たちも動き出した。
「流石は聖龍隊……あの国連軍とも共闘するとは大した器量だ! よぉし、我々も助太刀するか……」
「あなた達はだめっす! ドレフとの一戦で、生命戦維の力を失ったあんた達はもはや普通の人っす! ここはボク達に任せてほしいっす!」
と、早速聖龍隊に加勢しようと乗り気であった
「クッ……今や生命戦維の無くなった我々は、もはや足手まといか……!」
皐月は戦力として参戦できないもどかしさに悔しさで身震いした。
そんな皐月を尻目に、ガッチャマンクラウズに加勢しようと栗山未来や名瀬兄妹が戦前に飛び出して囚人達と応戦する。
「き、君たち! 危ないから護送車の中に戻ってなさい……!」
「大丈夫です! 私たち、元から戦い慣れていますので……!」
制止する隊士の言葉に耳を傾けながらも、未来たちは各々の能力で囚人達を確固撃破していく。
「このっ、このっ」「ウギャアっ!」
一ノ瀬はじめことG-101の文房具状の飛び道具を受けて気絶していく囚人達。
彼女に続けと、橘清音ことはじめから先輩と呼ばれているG-96は必殺の武器『音叉刀 疾風』で囚人達を挙って斬り捨てる。
炎を操れるガッチャマン枇々木 丈ことG-89はバーニング・ハンマーで暴徒と化す囚人を次々に殴り飛ばしていく。
全ての物体を砂状に分解してしまう能力を持つO・DことG-12は、能力を制御しながら囚人達の隙間を掻い潜って、何とか体術で攻防を展開。
自らの分身を生み出せる宮うつつことG-99は、分身たちと共に華麗な連携技を披露しながら囚人達を迎撃していく。
そんな仲間と共に囚人達を前に怖がりながらも果敢に立ち向かっていく最古参のパイマンことG-3も活躍を見せていく。
コンピューター関連に強い爾乃美家累ことG-100も、苦手な肉弾戦を行って囚人達を制圧していく。
そんな混戦の中で、ガッチャマンクラウズや栗山未来たちが囚人達の暴動に苦戦を強いられている中、なんと囚人達は一瞬の隙をついて聖龍隊の護送車の方へと駆け込んでいってしまう。
「あっ! いけない、皆さんが……!」
非力な二次元人たちが集う護送車の方へと駆け込んでいく囚人達を見て、栗山未来が愕然とする。
「うひゃひゃひゃ! 人質だ、人質を手に入れろッ」
囚人達はどうやら盾としても使える人質を確保しようと護送車に向かったらしい。
そして囚人達が護送車へと駆けつけた、その時。纏流子が護送車の近くで倒れてしまった隊士が帯刀している日本刀を持ち出して向かってくる囚人達に挑みかかった。
「こ、この野郎ッ!」
無我夢中で囚人達に挑みかかる流子を見て、姉の皐月が絶叫する。
「りゅ、流子!!」
そして我も忘れて斬り込んでいった流子は、やはり殺し慣れている囚人達の刃の餌食となって、無数の刃を身体に突き刺される。
皆がその光景に愕然とする中、慌てて駆けつけてきた聖龍隊の隊士が流子に刃物を突き刺している囚人達を切り倒して彼女に歩み寄る。
「君、大丈夫か! しっかりしろ……」
隊士が声をかけると、流子は苦痛に喘ぎながらも平然と返事した。
「あ、ああ……大丈夫、です……」
「き、君……まさか、刃物を突き刺されても死なないのか……!?」
異質なモノを見るような視線が流子に突き刺さり、その情景を目撃する同等の新世代型たちも居た堪れない心境に達した。
しかし聖龍隊の隊士は、真顔で流子に言った。
「……そうか。だが、無理は禁物だ。相手は凶悪な囚人……いくら死なないからって、無茶は感心できない」
「えっ?」
隊士の流子を人として見る眼に、流子本人も周辺の新世代型たちも唖然とした。
すると流子と会話をした隊士は、抱き寄せていた彼女を地面に降ろすと帯刀していた刀を高く振り翳して言い放った。
「我ら、誇り高き聖龍隊! 心正しきモノなら誰であろうと救いの手を差し伸べるサムライの集団! その力、ここに示さんっ!!」
『うおぉぉーーっ!』
一人の隊士の掛け声に反応する様に、他の隊士たちの士気も一気に上昇した。
この光景を目の当たりにした流子や他の二次元人たちが唖然としている中、隊士たちに混じって戦闘していた国連軍上官兵も流子を見下ろす様に告げる。
「ほほう、貴様ら……不死の能力を持っているのか」
「……い、いや違う。全員じゃなく、ごく一部の新世代型にしか、この能力はないんだ」
上官兵からの問い掛けに、流子は正直に自分を含めた一部の新世代型にしか不死の能力は備わってないと答え返す。
すると上官兵は彼女の質問を聞いて、呆気ない態度で申し返した。
「フンッ、今さら不死だとか何だとかで騒ぎおって……不死身なら聖龍隊にもバーンズとかいうフザケタ輩が居るではないか」
「………………」
「それに、我ら国連軍には過去にそのバーンズをも死の淵にまで追い込んだ最強の武人、赤犬元帥が居られている。不死身のバケモノが今さらいくら増えようと、大して珍しくも何ともないわ」
そう流子たち新世代型たちに上官兵が語ると、上官兵もサーベルを戦前に突き向けて言い放った。
「国連軍! 我らも聖龍隊に遅れを取るな! 凶悪かつ非人道的な囚人どもをこの場で処刑しても構わん! 一気に制圧しろ!」
『ハッ!!』
上官兵からの命令に、兵士達は剣を構えたまま返答すると徐々にその数を減らしてきた暴徒の囚人達を一気に制圧していった。
怒号に悲鳴が響き渡る濃霧の中を、聖龍隊と国連軍は微かな明かりと卓越した視力で囚人と味方とを判別しながら斬り続けていく。
その凄まじい状景に、いや戦況に新世代型たちも、加勢に加わろうと爆弾やら何やら準備を進めていたギュービッドたちプロト世代の面々は、全員が唖然と開いた口を開けっ放しにしてしまってた。
と、聖龍隊と国連軍が共闘で逃げ出した囚人達を制圧していると、何やら足元から紫色の不気味な色合いの煙が立ち込めてきた。
「……んっ? なんだコレ……ッ、ぐほっ、ぐほっ……!」
足元から立ち込めてくる紫色の煙に囚人の一人が顔を近付けさせた途端、囚人は突然咳き込みだし、そのまま地面に倒れてしまった。
「な、なんだ! あの煙は……!?」
戦いを傍観していた纏流子が立ちこめてくる紫色の煙を見て一驚すると、そこに国連軍の兵士が加勢してくれた聖龍隊の隊士たちと一般の二次元人たちに駆け寄ってきた。
「は、離れてください! あの紫の霧は毒ガスです!」
「ど、毒ガスだと!?」「!!」
兵士の発した毒ガスの言葉に聖龍隊士も一般二次元人達も驚愕してしまう。
「うわあーーーー…………」
そんな皆が驚愕している最中も、毒ガスはまるで生きているかのように地面を這い回り、囚人達を的確に捉えてその命を奪う。
更に毒ガスと濃霧が重なって更に色濃くなった霧の中から、大きな紫色の水玉が飛んできて囚人に直撃、直撃を喰らった囚人はもがき苦しみながら絶命した。
「こ、コイツは……一体なんなのよ!?」
謎の毒素で次々と目の前で死んでいく囚人達を目撃して、恐怖で涙目になるギュービッドが泣き叫ぶ中、濃霧と毒ガスが重なって色濃くなった霧の中から巨大な人影が現れた。
二次元人一同が、その巨大な人影に脅え切り、縮みこんでしまっていると、国連軍の兵士達が霧の中から現れた巨体に向かって敬礼した。
「逃亡した囚人たちの制圧……ご苦労様であります! マゼラン副所長殿!」
「ふ、副所長……!?」
二次元人たちが敬礼する謎の巨体な人影に、こっそり顔を覗かせて確認すると、霧の中から現れていたのは角の様な装飾をつけた帽子を被っている厳つい大男だった。
「マゼラン副所長、ご苦労様です!」「うむ」
大男は全身から紫色の液体を染み出させながら敬礼する兵士達に返事する。
皆がこのマゼランという大男に注目していると、聖龍隊士が呟いた。
「大監獄インペルダウン副所長のマゼラン……! 何故この様な場に居るのだ……!?」
隊士が発した言葉に、二次元人たちは一驚した。あの新世党の面々を収容していた大監獄インペルダウンの副所長マゼラン、それが目の前の大男だというのだ。
すると一通り全ての逃げ出した囚人たちを自らの毒の能力で制圧したマゼランは、聖龍隊が護送している一般の二次元人たちに気が付いた。
「うむ? 其方の方々は……」
「こ、これはマゼラン副所長殿……彼らは先だってのジャッジ・ザ・シティのテロ事件に巻き込まれた二次元人の方々です、はい」
訊ねてくるマゼランに対して聖龍隊士は軽く動揺しながら返答した。
すると二次元人たちの中から、新世代型の美都玲奈とイオリ・リン子が前に出てきてマゼランに挨拶をする。
「どうも初めまして、マゼランさん」
「私たちは今、聖龍隊の方々に護送してもらっている処でして……」
「うわっ! 美人っ」
挨拶を述べようとする美都玲奈とイオリ・リン子だが、反面マゼランは二人の美貌に心を射抜かれてしまう。
「副所長っ、職務中ですよ!」
美人に目がないマゼランの突然の心変わりに国連軍兵士がツッコム。
「あ、アイツが……大監獄インペルダウンの副所長……マゼラン……!」
話には聞いていたが、拷問などの厳しい端正が常日頃から行われているインペルダウンの副所長を務めているマゼランを目にして、かつての仲間である風陣カイト達を苦しめていたインペルダウンの副所長ということで瀬名アラタ達が険しい目付きでマゼランを睨み付けていた。
そんなアラタ達の眼光に気が付いたのか、マゼランはアラタ達の方に目を向けた。アラタ達は無用な衝突は避けようと、あえてマゼランから目を逸らした。
と、色んな意味で危険視できてしまうマゼランだったが、そんなマゼランは一般二次元人たちを目にして紳士的な態度で振舞った。
「大丈夫でしたかな? 我々が護送中の囚人が逃げ出してしまいまして……怪我人は出ていませんでしょうか?」
「え、ええ、みんな何とか無事のようですわ」
「そうですか、それは良かった」
イオリ・リン子からの返答を聞いて、マゼランはホッと安堵の笑顔を浮かべる。
すると其処に
「貴殿が、かの有名な大監獄インペルダウンの副所長を務めているマゼランとやらか?」
「如何にも……まあ、以前は所長であったが、ある事件の責任を負って降格処分に下って今は副所長を務めさせてもらっている」
「なるほど……それにしても、今この辺りを覆い尽くしていた紫色の、そう毒ガスは……?」
「あの毒ガスは私の体内で精製した強力な毒ガスだ……私の能力は『毒』体内であらゆる種類の毒素を精製して、それを武器に戦う事ができる毒人間……それが私だ」
「毒人間……なるほど」
マゼランからの話を聞いて、心底納得する皐月。先ほど意思がある様に地面を這う毒ガスは、実は生きた人間が自らの体内で精製した故に遠隔操作できるのかと彼女は納得したのだ。
と、マゼランと皐月たち二次元人たちが対談していると其処に一人の小男が歩み寄ってきた。
「マゼラン副所長、どうしたのですか?」
「これは失礼しました、所長……」
「所長?」
厳つい大男のマゼランが頭を下げる小男に注目するギュービッドたち。
皆が注目した小男は、不気味な面妖に、如何にも腹黒そうな面立ちをしている小男であった。
「なんだ、この不気味な如何にも腹黒そうな小男は?」
「ぶっ、不気味で腹黒そうだなんて……子供に言われるなんて、おじさんショック~!」
ギュービッドから見た目の事で言われてしまった小男は悲痛な衝撃を受けてしまう。
すると、そんな悲痛な言葉を浴びせられて落胆してしまう小男に代わって、マゼランが小男を紹介した。
「しょ、紹介が遅れました……コイツ、いやこの人物はハンニャバル。インペルダウンの所長を務めている私の上司です。以前は私の下で働いていた副所長でしたが、降格した私に代わって今では所長に就任したヤル気溢れる人物です。まあ、腹黒そうな見た目とは反して、根っからの好人物です」
「み、見た目に反してって……マゼラン副所長! それは言いすぎマッシュ!」
「は、はは……いや、申し訳ありません、ハンニャバル所長……」
喜怒哀楽様々な感情を見せ合いながら会話するマゼランとハンニャバルのやり取りを前に、二次元人たちは呆然としてしまうばかり。
[黒の斬撃]
と、皆が改めて大監獄所長のハンニャバルと、副所長のマゼランの紹介を聞き終わった丁度その時。
近くで大爆発が起こった。
「!」「な、何事だ!」
二次元人たちやハンニャバル達が一驚して訊ねると、国連軍兵士の一人が報告しに来た。
「報告! 先ほど我々の護送を襲撃した黒い武人が再度襲撃を……! 国連軍兵士では、もはや数える程度しか抗戦できる戦力は残っていませんっ!」
「な、何たる事……! 屈強な国連軍兵士を、こうもあっさりと突破してしまうとは……おのれ、黒武士め!!」
「く、黒武士ですって!?」
ハンニャバルが発した名前に、新世代型たちは愕然とした。タイで遭遇し、自分達に只ならぬ憎悪を向けてきた黒武士が今まさに近くで猛威を振るっているというのだ。
そんな非常事態に並々ならぬ雰囲気の中で臨戦態勢に入る聖龍隊士と、僅かに残った国連軍兵士。
すると、この非常事態に表情を強張らせるハンニャバルに部下のマゼランが言った。
「所長、ここは私が」
「え!? ま、マゼラン……副、所長?」
「先ほど逃がしてしまった囚人達は、全員その場で私の毒素で倒れて生死の境を彷徨っています。黒武士一人如き、私一人で十分……所長は残った戦力と協力して、聖龍隊士と共に一般人の護衛に務めてください」
「ひ、一人で!? で、でも……」
「ご安心を……敵は黒武士一人、おれ一人で十分です……!」
そう所長のハンニャバルに告げると、マゼランは単身濃霧の中に佇んでいる黒武士へと前進した。
マゼランの出撃を見送る二次元人たちであるが、濃霧の中でハッキリと黒武士の姿を捉える事はできなかった。
しかしマゼランは濃霧の中に佇む黒武士の存在をハッキリと捉えて、黒武士に警告を告げた。
「黒武士よ……! 貴様が何処の馬の骨か分からぬが、大人しく投降しろ! このおれにはどうせ敵わないのだからな!」
だが黒武士はマゼランの警告を聞いても尚、投降の意思は示さず、それどころかマゼランに向かって斬撃波を繰り出した。斬撃波は地面を沿ってマゼランに直撃するが、マゼランは自身の能力で作り出した毒の竜「ヒドラ」で斬撃を防いだ。
「……投降の意思はなし、か。仕方があるまい」
マゼランは投降の意思を示さない黒武士に対して、力尽くで制圧しようと毒の攻撃を仕掛けていった。
「
麻痺性の神経毒の塊である三つ首の竜を自在に操り、その竜の口で黒武士を飲み込もうとするが、黒武士は俊敏な動きで
このままでは埒が明かないと思ったマゼランは、ガムを噛む様にしながら口内で毒ガスの塊を作り、それを黒武士目掛けて勢いよく噴き出した。
「毒ガス弾クロロボール!」
催涙くしゃみガスを撒き散らして相手の感覚を刺激するクロロボールを発射したマゼラン。だが黒武士はそれを刀を振り回した際の反動で起こった突風で撥ね返して防いでしまう。
刀を振り回した際の、強力な突風で黒武士の前方の霧が晴れ、観戦していた面々は何が起こったのか解らず困惑してしまう。
「な、なんだマッシュ!」
突然の突風に驚くハンニャバル。だがそんなハンニャバルたちを尻目に、マゼランと黒武士は闘い続けた。
「毒フグ!」
ここでマゼランは大きく息を吸い込んだ後に、勢いよく毒の塊を吐き出した。着弾と同時に周囲に毒液が飛び散るこの攻撃を、黒武士は地を跳ねる形で大きく回避して難を逃れる。
「逃がさん……!」
自分の周囲の雑木林の中を駆け巡りながら攻撃を悉く回避していく黒武士を逃さないと、マゼランは
と、ここで逃げの一手に専念していた黒武士が突如、方向を変えてマゼランに向かって一直線に駆け込んで彼を斬り込もうと襲い掛かってきた。
だがマゼランは自分の周囲に毒の吐息を吐き漏らし、霧状の毒ガスで全身を包み込む。
「あ、あれは! 囚人達を討伐するのに使った……!」
ギュービッドら二次元人達は、凄まじい戦闘で立ちこもって来た霧が晴れていく現況でマゼランが使用した技を見て絶句する。
「
自身の周囲に、まるで蜘蛛の巣のように毒の霧を張り巡らせるマゼラン。そのマゼランに急接近する黒武士。誰もが黒武士がマゼランが仕掛けた
が、黒武士は本来、巻き込まれると視覚や聴覚、運動能力などに深刻な影響を及ぼし、最終的には全身の力が奪われる
「ぐはっ」「マゼラン副所長!」
黒武士に腹部を斬り込まれて血反吐を吐くマゼランを見て絶句するハンニャバル。
皆が黒武士によって切り傷を負わされたマゼランを見て絶句する中、黒武士は平然と立ち尽くし、マゼランを見下ろす。
「ぐはっ……な、何故おれの毒が効かない……! ま、まさか毒に抗体のある奴か……!」
腹部を深く切り込まれながらも、未だ戦意を失っていないマゼラン。そのマゼランに迫る黒武士を見て、見守っていた二次元人たちやハンニャバル達が愕然としていると、マゼラン本人は持てる全ての余力を出し尽くして最大攻撃を仕掛けようとハンニャバルたちに声をかける。
「は、ハンニャバル! おれは今から禁じ手を黒武士にぶつける……! 強力な毒素がそっちに向かう前に、二次元人たちを避難させろッ!」
「で、でも……!」
「グズグズするな! 貴様、それでもおれの後釜で所長に就任した男か!」
マゼランからの指示に戸惑うハンニャバルであったが、マゼランの一喝を受けてハンニャバルは決断した。
「わ、解りましたっシュ! 皆さん、マゼランの強力な禁じ手が迫ってくるでマッシュ! 急いでこの場から離れてください……」
「き、禁じ手!? 一体、どんな技なんだ……?」
「いいから! ここはマゼランの言うとおりにするでマッシュ!!」
戸惑う二次元人たちを強引に誘導しながら、ハンニャバルは兵士と隊士たちと共に一般人たちを現場から遠ざけていく。
(……ま、マゼラン副所長……どうか生き延びて……!)
ハンニャバルは心の内ではマゼランの事を思いながら、現場から撤退していった。
そんなハンニャバル達が撤退するのを視認したマゼランは、再び黒武士と対峙して言い放った。
「く、黒武士よ! 貴様には、おれの最大技を……禁じ手とも言われている、おれの技を受けて果ててもらう!」
するとマゼランは全身から夥しい程の毒液を放出し、その毒液の塊で巨人を作り出すと、その巨人の中に我が身を投入した。そしてマゼラン自身の動きと連動する様に巨人を操った。
「
毒液の塊で構成された巨人を作り出したマゼランは、その巨体で辺りを踏み出していくと、余りにも強力な毒素な為か直接触れてもいない森林にも毒が蝕んでいき、辺りは完全に荒廃した大地へと変貌を遂げてしまう。
ここまで凶悪な猛毒で構成した毒の巨人を作り出したマゼランは、今度は逆に黒武士を見下ろして言った。
「これで終わりだ……!」
次の瞬間、マゼランは黒武士に向けて凶悪な毒素の塊である巨大な拳を振り下ろした。
「地獄の審判!!」
するとそれと同時に黒武士も跳び上がり、マゼランが放った巨大な毒の拳へと斬り込んでいった。
マゼランの地獄の審判と黒武士の黒刀による斬撃、果たしてどちらが勝つのだろうか。
[帝の軍]
一方、マゼランに言われて遠方へと逃げ果せてきた一行は走りながら後ろを振り返った。
すると其処には巨大な毒の巨人と、その周辺の森林が瞬く間に枯れ果てて死滅していく様が視界に飛び込んできた。
「あ、あれは……!」
皆が巨大な毒の巨人に注目していると、その巨人は突如跪いて倒れていくのが目に映った。
「ま、まさか! マゼラン副所長が……!?」
マゼランが作り出した毒の巨人が倒れるのを目の当たりにし、ハンニャバルは愕然とする。
皆が毒の巨人が倒れていくのを目の当たりにして絶句していると、その時、毒の巨人に注目していた皆の背後から悲鳴が聞こえた。
「うぎゃっ」「! な、なに!?」
突然の悲鳴に新世代型の琴浦春香が振り向くと、そこには自分たち一般の二次元人たちを護衛してくれている聖龍隊士と国連軍兵士を取り囲む謎の兵達の姿が。
自分たちを取り囲む兵達を前に、挙動不審になる二次元人たちを横目に、聖龍隊士と国連軍兵士は臨戦態勢を身構える。
「掛かれーーっ!」
すると取り囲む兵達の上官兵が呼び掛けると、兵たちは一気に隊士たちと国連軍兵士に襲い掛かってきた。
「き、来たぞ! 何処の軍か解らぬが、抗戦せよッ」
聖龍隊士の上官兵は、隊士たちに抗戦するよう指示。それに伴い国連軍兵士も謎の兵士達に向かって徹底抗戦を仕掛けていく。
「わ、私も黙っている訳にはいかない……マゼラン副所長が居ない今、私がしっかりしなければ……!」
周りの隊士や兵士達が挙って戦闘を開始しているのを目にしたハンニャバルは、自らも率先して戦わなければと薙刀血吸を振り回して交戦を開始する。
と、隊士や兵士達に任せっきりも申し訳ないとして、先ほども戦闘に参戦したガッチャマンクラウズや栗山未来たちが謎の兵士達に反撃を仕掛けようとした。
が、その反面、何故か兵士達は一般の二次元人たちに攻撃しようとはしなかった。
「! な、なんで!? なんでボクらには攻めて来ないっすか?」
「おかしい、この人たち……私たちには敵意がまるで感じられない」
何ゆえ自分達には敵意を向けてこないのか疑問に感じ入る一ノ瀬はじめと栗山未来の懸念が募る中、謎の兵士たちは二次元人たちを相手にせず聖龍隊の隊士や国連軍の兵士を相手に確固撃破していった。
そんな奇襲に喘ぐ隊士と国連軍兵士であったが、そこにまさかの乱入者が霧の中から奇襲してきた。
それは何と、先ほどまでマゼランと激しい攻防戦を展開していた黒武士本人であった。
なんと黒武士はマゼランを相手に、全く傷を負う事無くマゼランを倒し伏せてしまったのだ。
「な、何たることか! まさかマゼラン副所長が、こうもあっさりと負けてしまうなんて……」
黒武士の来訪に謎の兵士達と攻防を展開していたハンニャバルは目を丸くして驚かされてしまう。
するとあろう事か、黒武士は謎の兵士達と協力して聖龍隊士や国連軍兵士達を撃退し始めた。
「ま、まさか! この兵士たちは黒武士の配下だとでも言うのか!」
謎の兵士達と共闘を始める黒武士を見て、ハンニャバルは絶叫する。
そして黒武士と謎の兵士達の猛攻を受けて、聖龍隊士も国連軍兵士も全滅してしまう最中、インペルダウン所長ハンニャバルだけが現場に立ち尽くしていた。
「ゼェ、ゼェ……」
荒い呼吸をしながら目の前に立ちはだかる黒武士と謎の兵士達を睨み付けるハンニャバル。
「も、もうやめて! ハンニャバルさん……!」
「アンタ、このままじゃ黒武士に殺されちまう……!」
プロト世代のチョコと新世代型の真鍋義久が満身創痍のハンニャバルを制止するが、ハンニャバルは薙刀血吸を振り翳して物申す。
「な、何を言っていらっしゃる。お嬢さん、お坊ちゃん……こんな……こんな、どこぞの
ハンニャバルの言い分に衝撃を受ける二次元人たち。
するとハンニャバルは薙刀血吸の両端についてる刃に火を着火させて、まるでファイヤーダンスを踊る様な勢いで振り回しながら目前の黒武士に言い放った。
「貴様ら
『………………』
「その常識が破れちゃこの世は恐怖のドン底じゃろうがィ!! 逃がさんと言ったら……逃がさん!!」
そしてハンニャバルは火の着いた血吸を振り回して黒武士に迫っていった。
「か弱き庶民の明るい未来を守る為!! ハンニャバル、一世一代の大勝負……見せて差し上げましょう!!」
全ては非力な庶民の平穏な生活と明るい未来を守る為に戦い続けるハンニャバルの意志に、二次元人たちは感極まった。
だが、そんなハンニャバルの覚悟も空しく、黒武士は一太刀のみでハンニャバルの攻撃を弾いては返り討ちにしてしまう。
「うぎゃあッ!」
ハンニャバルに浴びせられた一太刀は、的確に直撃し、ハンニャバルの意識を奪った。
「は、ハンニャバルさん……!」
琴浦春香やチョコ達が倒れたハンニャバルに駆け寄ろうとすると、彼女達の目前に鋭い眼光で見据えてくる黒武士が立ちはだかった。
更に彼女達を含む、全ての居残った一般二次元人たちの周りには、既に謎の兵士達が取り囲んで逃げ道を奪っていた。
「わ……私たちをどうする気ですか……!」
恐れながらもチョコが謎の兵士達に問い質すと、兵の一人がチョコたちに歩み寄ってきた。
チョコ達が警戒しながら見詰めていると、兵士はチョコたちの目の前で跪いた。すると一人の兵士が跪いたのを視認すると、黒武士以外の謎の兵士達全員が一般の二次元人たちに続々と跪いて頭を深々と下げた。
「な、なに……?」
突然前触れも無く頭を垂れ下げて跪く謎の兵士たちに困惑する烏丸さくら。
すると二次元人たちに頭を垂れる兵士たちは、戸惑いを覚える二次元人たちに跪いたまま語り始めた。
「お初にお目にかかり、誠に恐縮の上、怯えさせてしまい申し訳ありませんでした。某たちは此処に居らせられる黒武士殿と協力して、あなた方新世代型の同胞を探し回っておった処です!」
「な、何ですって!?」「貴方達も、新世代型……!?」
兵士の発言に、水戸郁美や茨千里が驚愕する中、兵士は更に衝撃的な真意を述べ出した。
「ははッ、我々は今が浮世を離れた帝・足正義輝公の配下の元、こうしてあなた方を探し回って広い今生の世を駆け巡っていたのです。この黒武士殿も、義輝公に命じられてあなた方を探し回っていたのですぞ!」
「え!! そ、それじゃ、黒武士は貴方達と同じ……帝の、足正公の配下の者だって言う訳ですか!?」
兵士が語った真意を聞いて、新世代型の猪熊陽子たちは一驚した。今まで自分たち新世代型に激しい憎悪を抱いていた印象しか無かった黒武士が、まさか自分たち新世代型の頂点に立つ現政奉還を起こした足正義輝の配下に納まっている事実に衝撃が走った。
そんな黒武士の意外な真相に衝撃が迸る皆々に、帝の兵は絶えず語り続けた。
「我々は帝の命より、あなた方を探して居りました……此処はどうぞ、穏便に我々と共に将軍義輝公の元へと参るよう、推参してきた次第であります」
突然の帝兵からの提言に困惑しかできずにいる新世代型たちに、黒武士は鞘に納めている黒光りの黒刀をチラつかせ、無言の圧力をかけて新世代型たちに自分達に同行するよう威圧する。
「……どうも、此処はノーって言えない状況の様だ」
「で、でもどうする? 今さら帝に会えだなんてさ……いくら同じ新世代型とはいえ、庶民と高貴な方には違いないんだよ」
出雲ハルキからの状況分析に対して、細野サクヤは余りにも身分に差がある格の違いがある将軍と会うのは気が引ける言動をとると……
「……良いじゃない、会ってやろうじゃないの。将軍様と……!」
「えっ?」「べ、べるちゃん!?」
突如将軍と会ってやろうかと発言する蓮城寺べるの言動に、多くの者が一同に愕然とした。
そんな中、べるは思いの丈を全て吐き出して皆の耳に直に訴えかけた。
「一言ぐらい文句言ってやりたいのよ! 私たち新世代型二次元人が色んな連中に捕まって、色んな気味の悪い実験をさせられたり……色んな怖い思いをしてきたり……挙句の果てに私たち新世代型の真実であるクローンの事よ! それもこれも、全て将軍様が現政奉還なんて起こさなければ……私たちは知りたくもなかった事実を知る事も無く、平穏な日常が送れられた筈なのに……っ」
遂には堪えていた想いが爆発し、目からポロポロと涙を零し始める蓮城寺べるの訴えを目の当たりにし、悲愴な心持へと駆り立てられる一同。
そんな蓮城寺べるの涙ながらの訴えを聞いて、他の新世代型たちも腸や心中に溜め込んできた鬱憤を吐き出していった。
「そうだそうだ! 全部、足正義輝が悪い!」
「私たちが平穏な日常を送っていたにも拘らず、その日常を現政奉還だなんて訳の分からない決起で全て台無しにしてしまって……!」
「身勝手にも程がありすぎるぞ、足正義輝! 俺達の日常を返しやがれーーッ!」
誰もが足正義輝の阿鼻雑言を、怒号を吐き出す中、プロト世代のチョコたち三人の少女たちは騒然と化す現場に身が縮みこみ、同じプロト世代の海道ジンは事態の収拾に手がつけられなくなった現状に頭を悩ませていた。
そして、そんな怒号に罵声を吐き散らす新世代型二次元人たちを、黒武士は死んだ魚の様な目で静かに見据えるのであった。
こうして二次元人一行は、傷つき負傷した聖龍隊の隊士と国連軍兵士そしてマゼランやハンニャバルを置いて帝の兵に先導されて歩き出していた。
「……お前らはこの場に残っても良いんだぞ。俺達みたいに新世代型じゃないんだしな」
「此処まで来たら、最後まで付き合うよ」
「わ、私も……この際ですから、将軍様に何で現政奉還なんて起こしたのか訊いてみようと思います! 琴浦さん達を此処まで苦しめておいて、自分だけは高みの見物だなんて趣味が悪いです」
道中、新世代型の真鍋義久はプロト世代のギュービッドやチョコに同行しなくても良いと言うが、ギュービッドとチョコはあくまで自分の意志で皆と最後まで行動させて欲しいと申し出た事で、プロト世代も新世代型たちと同様、将軍の元へと足を向かわせるのだった。
[流れ堕ちる流星]
新世代型たちが帝の兵士によって、黒武士共々剣帝将軍足正義輝の元へと向かっていたその頃。
スター・コマンドー陣営では、ジュン達が今後の自分たちの動きについて略図を用いて作戦を練っていた。
如何に少ない被害で勝利できるか。いや、それよりも少ない被害で本当に聖龍HEADから勝利をもぎ取れるのか未だ確信が揺らいでいたジュンたち。
すると其処に聖龍HEADの偵察を行ってきた先行部隊が帰還して、ジュンに報告する。
「どうしたみんな? 何かあったのか? ……そうか、聖龍隊が動き出したか……」
遂に聖龍隊本隊が自分たちスター・コマンドー陣営を制圧するべく活動し始めた経緯を知って覚悟を決めようとするジュン。
すると其処に漢族筆頭のデイ・マァスンがやってきて、ジュンに話す。
「おい、ジュン……アンタ、どうするつもりだ? 敵は異世界の巨大勢力を誇る国家の軍隊まで借り出せる聖龍HEADだぜ? 言っちゃぁ何だが、今のままではオレ達に勝機はない……」
「ふ、言われなくても解っているさ、マァスン殿」
するとマァスンに続いて同じ同盟相手のイン・ナオコもジュンに申し付けた。
「戦力の差は歴然……しかも、そこに戦乙女として名高い聖龍HEADの女性陣も加われば、戦況は大きく、向こう側に傾くぞ……!」
「それも解っています、ナオコ殿……ですが、最初からバーンズさん達は自分たちを、HEADを戦力として投下しないでしょう。まずは此方の出方を伺って、それで機会を見て自分達も出撃する狙い目でしょう」
「フッ、なあるほど。最強の戦力は最後の最後まで出し惜しむ……それが聖龍隊の戦い方だったな」
「はい、その通りです。マァスン殿!」
「しかしだ……いくらHEADが最初から出ないとはいえ、戦力の差が大きいのは確かな事……私の可憐ななでしこ隊を貸し出すのだから、無闇に傷つけて欲しくはない」
「承知している、ナオコ殿……この決戦で、僕の大一番の……最大の博打が展開される! もはや運にしか頼れない、未来への咆哮……それを轟かせる為に僕はこの戦いに全てを賭けるつもりだ!」
「オォ、gambleか。あんたらしくもない駆け引きだな」
「全てはより多くの人命が……心ある者に同等の未来を差し伸べる為に……!」
と、ジュンはデイ軍のマァスンやイン軍のナオコと対談した後、再び仲間達と対話した。
「みんな……マァスン殿も、ナオコ殿も……実に立派な武人だな!」
「!? なぁに言っちゃってんだ、それはジュンも同じだろう」
仲間の平賀才人の発言にジュンは一応ながら首を傾げるが、ジュンは思い詰めた眼差しで自らの拳を見詰めながら語り始めた。
「ナオコ殿は世の乙女の為に、マァスン殿はこの世の光無き者たちの為に……それらはとても強く、純粋な絆だ……」
『………………』「……ジュン……」
仲間達や婚約者のマイが自問自答に苦しむジュンの心境を察してか、険しい表情を浮かべる。
「だけど僕は、そんな想いをも利用しているのだろうな……未来を……力無き者たちを護る為に……」
ジュンは人々の純粋な思想をも利用してまで戦い、未来を勝ち取り、力無き者たちを護れるのか自問自答を繰り返す。
「……力を覆すものが、仲間という名の力であるのならば……僕の求める絆とは、一体何だ……?」
ジュンは考えに考え、悩みに悩んだ。
「力と、絆……その違いは何処にあるんだ……?」
武力と絆、その違いを未だ見出せていないジュンは、これからの戦いに一抹の不安を覚えていた。
だが、もはや運命の火蓋は切って落とされた。
今ここに、聖龍隊とスター・コマンドーの大一番が始まろうとしていた。
「HEADが、バーンズさん達が動いたという事は……ならば僕も座してはいられないな……バーンズさん達に会いに行こう……僕の答えと、絆を説く為に」
村田順一は自らが問い質す絆のあり方について、その答えを導くべく聖龍隊との戦いに今挑む。