聖龍伝説 現政奉還記 創生の章   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 三次元政府に隔離病棟に押し込められ、軟禁された新世代型二次元人たち。そんな彼らは面談も許されず、新世代型を心配する赤塚組やシバ・カァチェンそして親友のプロト世代の四人たち。その間も個室に隔離されている新世代型に闇人は様々な煽り文句を唱える。そんな中、新世代型たちを収容した隔離病棟が襲撃さえ、三次元人の職員は全滅。新世代型達は恐る恐る個室の外に出てみると、彼らを凄腕の殺し屋グービンシーが殺しに掛かってきた。新世代型二次元人達を全て排除するよう依頼されたグービンシーを、新世代型達はどうにか周りに落ちている物で応戦して、辛うじて突破し、グービンシーを気絶させる事に成功。だが、どうにか自分達の命を狙うグー・ビンシーを倒したのも束の間、再び新世代型達は駆け付けた三次元政府の兵士に力尽くで取り押さえられてしまう。その後、三次元政府を退かせ、一時的な自由を得た新世代型達は各々でケジメを着けて聖龍HEADとも和解。だがその夜、そんな新世代型に闇人は真実を教えると唱えながら彼らを聖龍隊基地の一番端っこの地図にも詳細が載っていない区画へと案内した。新世代型が辿り付いたのは、様々な武器に最新鋭の戦闘機や自動車そしてデーモンスーツが収納されたカプセルが置かれている秘密基地だった。此処で新世代型達は小田原修司の記憶を垣間見れるフラッシュバックで過去の記憶を拝見して驚愕した。何故なら世界中に敵を作り、大勢の命を殺傷してきた国際指名手配犯のジャッジ・ザ・デーモン、彼が小田原修司の夜の姿だと知って愕然とする一同。と、そこに駆け付けた聖龍隊の人々からも、新世代型達は鬼の真実を語り明かされた。何故、平和を、穏やな日々を愛する少年が裁きを与える鬼へと変貌したのか。
 今回は、其処から話が始まる。



現政奉還記 創生の章 ジャッジ・ザ・デーモン:ビギンズ

[陽は昇る]

 

 

 陽は必ず昇る。だが昇る瞬間が一番暗い。

 街も同じである。夜が明ける前に暗闇が力無き者を喰らい、貪り尽くす。

 

 いづれ街が……いいや、国にまで発展したアニメタウンが真の脅威に脅かされたとき、今の英雄たちにそれを防ぐ術が行えるだろうか。

 いいや、本当に正義という概念がこの世にあるのだろうか。

 

 英雄は何のために戦う、何のために己の命を犠牲にして戦い続けるのか。

 

 激闘から命辛々生き延び、仲間達と共にアニメタウンという国家建設に力を注ぐ少年、小田原修司は考えに更けていた。

(このままで良いのだろうか。本当に弱者を護る為にはどうしたら良いのだろうか)

 少年は13歳になろうとしている敏感な年頃だった。このまま在り来たりの平穏の中に浸って良いのだろうか。

 そんな考えを続ける内に、少年は決意した。

(……自分を変えよう……)

 少年は自分自身を変える決意を固めた。与えられた平和の中で平穏に生きるのではない、別の道へと突き進む決意を。

 

 時と所は変わって空港。

 少年は己を変えるべく、まずはヒーローの本場ともいえるアメリカに渡米してその地の軍隊で自らを鍛えようと旅立とうとしていた。

 一人、決意を固めた真顔で空港内を歩く少年。

 その少年の死角から、少年を呼ぶ声がした。

「修司!」

 聞き覚えのある少女の声に、少年は振り向いた。

「……アッコか」「修司、ほんとに行っちゃうの?」

 不安と悲しみに満ちた慈愛の表情で問い掛ける少女の言葉に、少年は語り返した。

「ああ、俺自身、もう聖龍使いにはなれない。かといって、このままみんなが取り戻してくれた平和の中で呑気に生きていられるほど楽観的にも成れない」

「……………………」

「アッコ、俺は自分を変えたいんだよ。みんなが今まで自分の力を……いいや、心を変えて成長してきたように俺自身も成長したいんだよ」

「修司……」

「みんなで結成した聖龍隊の基盤を強くするためにも……俺は、己自身を変える必要があるんだ。じゃあな」

 少年を心から慕う少女の不安な瞳に見詰められながら、少年はその場を後にしようとする。

 

 そしてアメリカに向かう便の中で、少年は数日前の聖龍隊の会議を思い返していた。

「俺はアメリカに向かう」「アメリカだと!?」

 激しく動揺し、戸惑う仲間達の前で少年は心中を訴え出した。

「俺の憎悪から生まれた闇人の脅威は去り、聖龍隊も組織として認識され始めた。だからこそ、俺は英雄の組織というものを強化する為にアメリカの軍隊に入隊して、軍の組織としての基盤を学ぼうと思っている。それに、俺自身も今より更に自分を強くさせたい。聖龍使いに変身できなくなった今、与えられた平和の中で穏便に暮らしていくのは忍びない。これは俺自身の為でもある」

 仲間と共に結成した聖龍隊の組織力を強化する為にも、アメリカに渡米して軍隊のノウハウを習得する事で同時に己自身も成長させたいと訴えた少年。

 少年 小田原修司は離陸する便の窓ガラスからアニメタウンを見下ろした。

 自分を理解し、自分を大切に思ってくれた仲間が守る二次元人達の世界。そんな世界を護りたいが為、修司は己自身を変える決意を今ここに固めて旅立つのであった。

 

 この時、小田原修司は若干13歳であった。

 

 

[教えを乞う]

 

 アメリカの少年外人部隊に入隊を許可された小田原修司は、そこで数多くの努力を積み重ねた。

 弱い自分と決別する為に。修司の決意と信念は固かった。

 そんな最中、修司はアメリカ各地の基地を転々としながら、軍の組織としての構成や基盤を学び、さらにはアメリカ各地の英雄達に教えを乞いに向かった。

 

 ゴッサムシティ

 此処では暗黒のスーツに身を纏い、闇から悪を断罪する闇の騎士がいた。

 修司はゴッサムのアパートに、闇の騎士のシンボルを下手糞ながら発光塗料で描いて闇の騎士との接触を試みた。

 すると修司が跪いて静かに待機していると、彼の目の前に蝙蝠の姿を模した騎士が現れた。

「君は、誰だ? どうして私を呼んだ?」

 すると修司は手を合わせ、祈る様に闇の騎士に教えを求めた。

「闇の騎士よ、俺は無力だ……無力で、何も護れない事に恐怖すら感じている。この俺でも成しえる、人々を殺傷する凶悪な人間に鉄槌を下せる方法は無いものか……どうか闇の騎士と呼ばれ、恐れられている貴方から教わりたい」

 すると修司に真剣に問われた闇の騎士は、無表情な面差しで修司の疑問に答えた。

「犯罪者は臆病で迷信深い生き物だ。そいつらを封じ込めるには、恐れの対称になる何かを与える事だ」

「犯罪者は、臆病で迷信深く……恐れの対象になる何か……」

 下を俯いたまま、修司は闇の騎士からの教えを胸に刻み込んだ。

 そして修司は強き意志が発せられる瞳で闇の騎士に礼を述べた。

「お陰で少しばかり自分が進むべき道が見えた気がした。ありがとう……バットマン」

 

 それから修司がやって来たのはニューヨークの高層ビル。その誰も居ない屋上で、修司は発光警棒を振り翳してニューヨークのビルの合間を渡り合う一人のコスチュームを着た青年にサインを送る。

 修司からのサインに気付いたのか、その青年は修司が待機していたビルの屋上に飛び降りると友好的に話し掛けて来た。

「やっ、どうしたんだい? ボクに何か用かい?」

 コスチューム姿の青年が目の前に着地したのを視認すると、修司はまたしても青年に教えを乞う。

「俺は、俺自身の考えと信念でこの世の悪に裁きを下したい。だが、それには経験が余りにも不足している。お願いだ、俺に貴方の教えを伝授して欲しい」

 修司が嘆願すると、青年は修司が本心から人を救いたいと訴えているのを悟って、修司に己の信条を突きつけた。

「良いかい? どんなに優れた能力だろうと、まして権力だろうとどれも同じだ。どれも責任を持って、務めなきゃならない。大いなる力には、大いなる責任が伴う……今のボクに言えるのは、それぐらいだよ」

「大いなる力には、大いなる責任、か……ありがとう、少しだけ前が見えてきた気がするよ」

「君の助けに成れたか解んないけど、また何かあったら呼んで! 貴方の親愛なる隣人のスパイダーマンは誰にとっても味方さ!」

 そう修司に言い残すと、スパイダーマンは蜘蛛の糸を飛ばして自分達がいるビルよりも高い高層ビルの方へと上がっていった。

 

 二人のアメリカヒーローからの教えを受けた事で、少しずつ己の中に居る悪と戦う姿を自覚してきた修司。

 彼は更に、巷を騒がせるウルヴァリンの攻撃力の高いカギ爪を気に入り、上空を飛び交うアイアンマンの様な高度な技術を用いたパワードスーツにも目を付けた。

 修司は己のヒーロー像、いや象徴に対して具体的な姿を何度も思い浮かべては、己が成り得る姿、変わった自身を決めて行った。

 その中でも修司は、己自身に、愛や優しさを受け付けない自分自身に対して恐れを抱いていた。そんな修司は自分自身を恐怖の対象にするべく、この世の生物ではない異質な存在の姿を我が身に反映させようと。

 そして最終的に修司は、以下の様な姿勢で世間を騒がす存在と闘おうと決めた。

 バットマンの闇での戦術と恐怖、スパイダーマンの責任感、パニッシャーの殺戮性、ウルヴァリンの鋭利な爪での攻撃性、アイアンマンの頑丈なスーツ。

 これらを手に入れる為にも、修司はアメリカの軍で様々な特訓を積んで己の経験を蓄積した。

 そして修司は最終的にアメリカで様々な人体実験を志願して己の力を極限まで高めていった。

 

 

[帰還]

 

 そして小田原修司は己の第二の故郷アニメタウンに帰ってきた。

 空港に降り立った修司の許に、彼を愛するアッコが駆け寄り、抱き締めようとする。

 しかし修司は世界の真情を見据えて、この世に正義などの信条が曖昧なものだと周知し、正義を振り翳すものに多少の軽蔑を覚えていた。

 そんな事実も相まって、修司は彼女の想いに応える事が出来ず、結果アッコの横を通り過ぎていってしまう。

 アッコは少し切なくなるが、そんな彼女の心境も気付かないまま修司はバーンズと歩きながら密談した。

「久々だな」

「ああ、ホントに久しぶりだな」

「どうだ、調子は?」

「聖龍隊の方は少しずつだが、隊士の数が増えてきた。それに、お前がいない間もオレがスカウトしてきた連中が何名かいる。これで聖龍隊の戦力も人気度、知名度もグンと上がる」

 そう言ってバーンズが修司に手渡した資料には、【東京ミュウミュウ】と【ぴちぴちピッチ】のキャラ達の詳細が記されていた。

「この女どもが新たな聖龍隊メンバーか……バーンズ、当然ながら一般隊士の入隊も進んでいるんだろうな」

「ああ、サブキャラからモブキャラまで多種多様に受け入れているよ」

「それなら良かった。だが、これから聖龍隊は劇的に変化していく。モブキャラだろうが、容赦なく鍛えて行かなきゃならないし……何より、信頼性が必要不可欠となる」

「人間不信のお前に、簡単に人を信じろって言うのは難しいが……それでも人を信じる心は持て」

「人間と言うのは裏切る生き物だ。簡単に信じろというのは難しい話だ……それに、これから聖龍隊は絶対的に一枚岩でなければ理想的ではない」

「組織を一枚岩にするのは難しい話だぜ。考えたくはないが、裏切りに離反と、そんな問題が起こる可能性だってある」

「そんな事が起こらないよう努めるのが……俺たちの責務だ。気を引き締めて行くぞ、バーンズ」

「はいはいっと……」

「それと、解っていると思うが……」

「解ってるよ。お前がアニメタウンに帰って来たんだ。HEADでの緊急招集で会議を開くんだろ? お前が今後、聖龍隊をどうしたいのかを含めて話し合わないとな」

「そう、それだ。俺が理想とする組織を、何よりも国家を維持し続ける為にも……聖龍隊を必要不可欠な組織にする必要がある」

 温情に話すバーンズに対し、修司は険しい表情のまま語り明かす。

 

 そして修司は副長のバーンズと共に当時の聖龍HEADメンバーと会談を行った。この際、修司は自分が不在の間にアニメタウンを統治する役職である市長の座を腹心のウッズに、聖龍隊を統一させる総長の座をバーンズにと、それぞれ一時的に預かってもらっていたが、アニメタウンに帰還の折りに二人からその地位を返還してもらった。

 こうして挑んだ会議にはアメリカから帰還したばかりの総長小田原修司、副長のバーンズ、参謀総長のジュニア。そして各版権キャラであり、先の大戦で活躍したミラーガールこと加賀美あつこが。そしてセーラー戦士、ナースエンジェル、キューティーハニー、木之元桜、コレクターズ、三人の魔法騎士、最後に最終兵器だったちせの面々が会議に臨んだ。

「……それじゃ、まず最初に……総長に復帰したばかりの義兄さん、いや小田原修司には不在の間にバーンズ副長が聖龍隊傘下に引き入れた新しい仲間と面談してもらう事にする」

「東京ミュウミュウとマーメイドメロディーの面々だな、承知した」

 参謀総長のジュニアが、これから総長の立場に復帰した修司にしてもらう予定を読み綴るが、当の修司は険しい不機嫌そうな面持ちで語るばかり。

 そんな今までとは一線を布いた状態の修司が気になり、当時の聖龍HEADは修司に問い掛けた。

「あ、あの……修司くん? 一体どうしちゃったのかな? 何だかいつにも増して機嫌悪そうだよ……」

 セーラームーンが恐る恐る話し掛けると、修司はその不機嫌そうな面持ちで話し返した。

「機嫌は普通だよ、うさぎ。ただ俺は少し、いやかなり気に入らない事があってな、それを早々に解決したい一心で胸の内が一杯なんだよ」

「な、何なの……その解決したい問題って……?」

 セーラームーンに続き、キューティーハニーが問い掛けると、修司は真顔で答えた。

「それはだ、ハニー……聖龍隊の基盤だよ。俺たちは確かに前の大戦で異次元からの脅威を退かせた実績がある。だが、まだまだ組織としての基盤が弱々しいのが現実だ。世界と渡り合っていくには、それ相応の軍事力と、それを支える基盤が必要な訳だ」

「ほほう、それは……何だか物騒な話だな」

 椅子に腰かけながら、キング・エンディミオンが呟くとそれにも修司は返事した。

「確かに物騒な話だ。だがな、衛。現実と言うのは物語の様に全てが上手くいく様にできちゃいないんだ。いま俺たちが取り込んでいる聖龍隊の隊士や守るべき二次元人の存在を守り続ける為には……かなりの実権と権力が必要なのが必然だ」

「何だか急に、キナ臭い話になってきたわね」

「まあな、コレクターアイ。だが事実だ。これから二次元界は劇的に変化する……三次元人との共生、それに伴う混乱。それらを全て見越した上で行動しない限り、俺たちの未来が切り拓かれる事は無い」

 修司の無表情な口から放たれる一言一句の重さに、当時のHEADは息が詰まる想いだった。

 すると、この修司の発言を聞いてセーラーウラヌスが真顔で問い返した。

「それじゃ修司、君はどんな形で聖龍隊を組織として強めようというのかい?」

「ウラヌス、いい質問だ。まずは今後の部隊構成から言う。これが今までと同じように各版権作品のキャラクター同士で組ませて、作品ごとに聖龍隊の組織の一部にしようという考えだ」

「なるほど、そこは今までと同じで良い訳なのね」

 ウラヌスの質問に答える修司に、セーラーネプチューンも納得する。

 更に修司は己が考える組織強化の案を熱弁していった。

「作品を、部隊として引き入れるだけじゃない。これからは武力もモノを言う時代が、聖龍隊には到来する。俺たち聖龍隊も何らかの形で武力を収集して軍事力を強化させなければ、今後現れる強靭な敵には対抗できない。言っては何だが、みんなが今まで戦ってきた敵とは違う相手が敵となる可能性だって少なからずある」

 このとき修司は口には出さなかったが、敵になる相手を人間と捉えて皆に語った事を仲間達は薄々感付いていた。今まで自分達が守って来た人間が、自分たち聖龍隊の敵になる可能性を修司は示唆した。

 

 それから会議が終わるや否や、修司は自分が不在の間、バーンズがスカウトしてきた新たな聖龍隊メンバー【東京ミュウミュウ】や【マーメイドメロディー】などの面々と対面して、改めて彼女達を聖龍隊の一員として迎え入れた。

 だが、聖龍隊の組織力を強めようと修司達が躍起になっていた最中、二次元人の現状を変えてしまう事件が起こってしまった。

 

 

 

[異常者]

 

 それは二次元界と三次元界が共生の道を探り始めていた最中の出来事。

 二次元世界の社会が広がるにつれ、二次元人による犯罪が増大。様々な版権作品の漫画やアニメが統一された二次元界で、主にモブキャラと呼ばれる脇役達など名の無い二次元人が突如として狂暴化し、同じ二次元人はもちろん三次元人までも無差別に殺傷する事例が続々と報告されてきた。

 聖龍隊は早速、この事件を調べた。

「コイツは……一体どうなっているんだ? 体の一部が怪物みたいに変形している……!」

 暴れ回った二次元人の身体を調べてみると、なんと体の一部が怪人や怪物の様に変形している現象が報告された。

 その他の狂暴化した二次元人を調べてみると、その八割ほどが身体に同様の症状が現れている事が判明した。

 この報告を聞いて、小田原修司は一つの結論に達した。

 三次元人の思想概念を基に生まれては存在する二次元人の精神に、三次元人の憎悪など負の感情が感化され精神的に異状を来たしてしまうと。そして二次元人が古来より持つトランス・フォーメーションすなわち変身能力にも影響が現れ、体の一部分が怪物の様に変形してしまう現象が現れるのだと。

 しかも厄介な事に、精神だけでなく肉体にまでも変異が起きて、奇形のクリーチャー等の怪物に変異すると同時に攻撃性や狂暴性が強まる二次元人も多数報告された。

 後にこの様な突然変異してしまう二次元人を含め、自らの意思で犯罪や陰湿な行為を行う二次元人など創作上の人物達に対し、世間は悪役を意味するヒールと異常者を足し合わせて《異常者(ヒール)》と総称した。

 この異常者(ヒール)の只ならぬ異常発生に、三次元政府は二次元人の人権を尊重してきた小田原修司に解決策を求めた。自分たち三次元人は、二次元人と比べると戦闘力や能力などが著しく低いために。自分達の保身の為に修司に解決案を出させた。

 これにより小田原修司は、三次元人の恐怖を解消する為に考案したのが、異常者(ヒール)と化した二次元人や陰湿なキャラを取り締まる法案を三次元人によって強引に可決された。それは処分という名目の元、現場での死刑も許してしまう《異常者(ヒール)排除法》が制定された。

「ちょっと修司くん! これはやり過ぎよ!」

「同じ二次元人を、私達の手で殺すなんて……辛すぎるよ」

「修司、本気なの!? いくら三次元人の恐怖を取り除くためとはいえ……!」

 龍咲海、木之元桜、アッコの嘆願にも修司は己が作った法案を除外する考えはしなかった。いや、できなかった。

 いま三次元政府の言うがままに政策を行わなければ、二次元人に未来は訪れないと修司は理解していたからだ。

 

 この異常者(ヒール)排除法案可決後、修司は聖龍HEADを集めて仲間一同に伝えた。

「……なんだって!? 俺らがアニメタウンを……国を束ねるって!?」

 修司からの議題を聞いて、バーンズたちHEADは驚かされた。だが修司は己の考えを決して曲げる事なく、皆に語った。

「そうだ。アニメタウンの実質的な権限は俺たち聖龍隊が持つ。市長はタダ、政策の最終決議を考えるだけの御飾りにして、俺らHEADが……いや、聖龍隊が国を束ねて、この国をより良くせねばなるまい」

 修司からの突拍子もない議題を聞かされ、当時の聖龍HEADは唖然とした。

「だ、だけど……まだみんな若く、いや子供だっていうのに……ヒーローヒロインだからって国政を任せてもらえるほど僕らは実績なんかないじゃないか」

 参謀総長のジュニアが心細い真情を話すと、修司は真顔で言った。

「俺はこの街を……アニメタウンを理想の国家だと信じて疑わない。其処でだ、表向きは俺が市長兼聖龍隊総長を務めて、今まで通り政策を行う様な形を取らせてもらう。だが、その実質……聖龍隊とアニメタウンの両方を統治するのはお前達以外いないと思っている。人の苦しみを、痛みを理解しているお前達ならこの理想の国家を任せても良いと思えるんだ……」

「で、でも……そんないきなり、国を束ねろなんて言われても……」

 真顔で語る修司の真意を前に、ちせを始めとする聖龍HEADは戸惑ってしまう。

 だが、修司は語る事を止めず、己の信念を貫き通す。

「もう既にウッズとも話し合って決めた事だ。アニメタウンの政策と聖龍隊と言う軍隊の統治、二つ任せる事にするが、異論は言わせねえぞ」

 己の信念を貫き通す修司の鋭い眼光に見詰められ、HEADは返す言葉を呑み込んでしまう。

「そ、それじゃ……修司くん、あなたは一体なにを務める気なの?」

 戸惑いながらもセーラーマーキュリーが訊ねると、修司は不敵な真顔で答えた。

「時おり、お前達の会議に顔を覘かせてもらうしか出来ねえよ。お前らも知っての通り、俺は既に聖龍使いにも変身できないタダの人間だ。タダの人間には何もできない。此処はタダの人間じゃない、お前らに国を任せて俺は一歩ばかし身を退かせてもらうよ」

 そう話す修司の顔には、若干の寂しさが感じられた。

 聖龍使いに変身して、数多くの戦歴を挙げ、多くの人命を護って来た修司。だが、それも今は昔の話。タダの普通の人間に戻ってしまった修司に、もはや聖龍隊での居場所は無くなったのかもしれないと思慮に耽る聖龍HEAD。

 

 だがこの時、いやこの時より前から修司は並々ならぬ計画があったのを聖龍HEADは知らなかった。

 

 それから聖龍隊は正式に国を、市長である修司と協力しながら束ねる覚悟を決めた。

 これを機に、異常者(ヒール)排除法に基づき多くの異常者(ヒール)が処分された。しかし、また矯正の道に指導する取り組みも行われていった。

 聖龍隊は元敵役、元悪役で構成された特殊部隊マン・ヒールズの結成を決め、過去に異常者(ヒール)認定を受けたキャラクターの矯正に尽力した。

 しかし三次元人からの影響なのか、異常者(ヒール)の数は増大の一歩で、減少する事は少なかった。

 これ等の異常者(ヒール)を始めとする二次元人の問題に対応する為の組織として三次元政府は聖龍隊にその任を負わせた。二次元人による異常者(ヒール)対抗処置、通称異常者(ヒール)ハンターの役職を聖龍隊が請け負う事となる。

 さらに聖龍使いへ変身できなくなった小田原修司は、聖龍隊が異常者(ヒール)や犯罪者達に恐れられる様な組織にしようと、男性隊士を引き連れて異常者(ヒール)化した二次元人の対応や処罰を行った。総長小田原修司の元、多くの異常者(ヒール)が厳格なまでに死刑・処分された。

 だが同時に小田原修司率いる男性隊士とは違い心優しいミラーガールなどの女性隊士は、そんな異常者(ヒール)に襲われ負傷した人々の救済や、異常者(ヒール)の更生そして矯正に尽力を注いだ。

 この時の小田原修司率いる男性隊士たちの振る舞いは、《絆》の御旗を先頭の隊士が掲げる行進から「かの幕末の武士の集い 新選組の如き行進と容赦ない制圧」と世評を受けた。

 多くの聖龍隊が、小田原修司が尽力する非情の正義に懸念を感じる中、その修司の強硬な対抗策に三次元政府は彼ら聖龍隊を信頼する様になっていった。

 だが、三次元政府からの信頼は完全とまではいかず、二次元人への信頼が安定する事はなかった。

 

 

[変わる]

 

 聖龍隊と、彼らが護る二次元界アニメタウンの情勢を、HEADたち二次元人に大方委ねた修司は時間を余していた。

 暇を持て余した彼は、住宅街や障害物を突き進むフリーランニングやアーバンフリークライミングなどをして時間を潰していた。そんな修司を見て、HEADの多くが暇人だなと思い込んでいた。

 だが、その陰で修司は着々とある計画を一人の人物と共に行っていた。

「はぁ、まさかまたしても土の中を掘り進める事になるとは……」

「文句を言うな。今回は俺さまも同乗しているんだ」

「でも操作しているのは私です。修司さまはただ乗っているだけ」

「そういうな。全てはみんなの未来を守る為だ……!」

 小型の掘削機に搭乗して、秘書であり仕事上のパートナーであるウッズと共にアニメタウン郊外の野山その地中を掘り進めていく修司。

 そして二人が掘削機で山中を掘り進めていると、目的の地点に到達した。

「此処だな……」「はい、レーダーでは大きな空間が此処に……」

 修司とウッズが掘削機で掘り進んだ先には。巨大な洞穴が広がっていた。

 広大な洞穴を前に、修司は言った。

「よし、此処に拠点を築こう。聖龍隊とは別の、全く新しい力の拠点を……!」

 それからと言うもの、修司とウッズは時間と暇さえ見つけては洞穴の中を整備し、設備を整えて行った。

 それと同時に、修司は洞穴の崖などを利用して自らの身体能力を鍛え抜いた。

 

 と、修司が鍛錬を積んでいると、其処に設備を整えているウッズが前々から抱えていた疑問を修司に問い掛けた。

「……修司様、貴方はアニメタウンに帰ってくる前から変わりましたね」

「変わったというと?」

「何と言うか、その……大人びた感じというか、風格が見られますと言うか……」

 ウッズが口々に問い掛けると、修司は鍛錬を一旦やめて近くに置いてあるスポーツドリンクに手を伸ばして飲み込むとウッズに己の信条を伝えた。

「ウッズ、お前や聖龍隊の仲間達を失望させたくはないんだが……俺は正義の味方でもなけりゃ、英雄にもなれはしない」

「!?」

 修司の発言にウッズが驚愕していると、修司は更に語り続けた。

「正義とは所詮、曖昧なもの。単なる価値観に過ぎない。時代や立場が違うだけで、正義と言う概念そのものがガラリと変わってしまう。歴史がそう物語っている様に、正義とは曖昧で空虚な言葉なのかもしれない」

「修司様……」

「かつて魔女狩りの名目で多くの人命が奪われた歴史、黒人などの有色人種が奴隷として扱われた歴史、その歴史すらも当時では当たり前の事、正義として扱われた。この様に正義とは歴史によっては大きく変わってしまう価値観と言う名の概念に過ぎない。俺は、そんな曖昧な正義を振り翳す事はできなくなってしまったんだ。世界の真実を目の当たりにしては……」

「そ、それでは……修司様はどの様なヒーロー像で街を、アニメタウンや皆さんをお救いになるので?」

「さっきも言った様に正義とは価値観に過ぎない。そしてヒーローと言うのは、その正義を象徴する様なものだ。俺が成るのは英雄ではない、それとは別に多くを罰し、多くを救済する歪なる存在……人々から恐れられる絶対の恐怖と制裁を象徴するもの……!」

「恐怖と、制裁……ですか」

「そうだ。犯罪者を押さえ付けるのは、建前ばかりの正義ではない。絶対的な恐怖と、己に課せられる罰を与える制裁が不可欠なんだ。ウッズ、俺はもう英雄にはならない。二次元界と三次元界が融合した今、醜い三次元界の影響をモロに受ける二次元界、二つの世界を本当に理想の世界にするには……罪人を容赦なく断罪する恐怖の象徴が必要なんだ」

 目つきを鋭くさせて説く修司は、さらにウッズに説いた。

「今までの聖龍隊の……過去の英雄達が行ってきた正義は一種のエゴだ。無論、俺がこれから行う行為もまたエゴだが、正義の様に曖昧な行為とは一線を布く。正義と言うタダの価値観やエゴに囚われず、己の信念のもと一人だけで闘い続ける未来(みち)を俺は選ぶ」

「……また、自分だけで全てを背負い込む覚悟ですか。一種の悪癖ですよ」

 単身のみで闘う覚悟を決める修司の意気込みに、ウッズは多少ながら呆れてしまう。

 それでも修司は思った。

(そもそも正義ってなんだろうか)

 思春期という敏感な年頃ゆえ、修司の中で正義の価値観と概念が変わり始めていた。彼が少年から大人になる兆しだったのかもしれない。

 

 

 それから現実という闇から産まれた少年は、闇の中で戦うため、闇の中を生き抜くため、恐怖を克服するために青年へと変わって行った。

 思春期と言う変化を過ぎて、青年は己の中の闇に打ち勝つために己を強く変えていった。

 周囲にあるものを上手く使い、身を隠し、敵の目を欺く戦術を磨き。

 邪魔になるだけの独善的な価値観を一切捨て去た。

 怒りや憎しみ、恐れに打ち勝つ事で新たな境地へと己を導いた。

 

 そして修司は、青年は悟った。

 己にとって最大の敵は、己自身だと。

 

 

 

[準備]

 

 青年修司とウッズはそれからも黙々と準備を内密に済ませた。

 修司は遊びと称して、フリーランニングなどの障害物を避けて行く運動で己の体を鍛え、その間ウッズは二次元界の技術を駆使してスーツの開発に取り掛かった。

 デザインは修司と相談した上で決めて、見るも悍ましい異形の存在へと成り変われるスーツの作成に着手する。

「装甲は出来る限り厚く……敵の銃弾をも弾き返せるぐらいにな」

「はい、スーパーロボット、彼らの技術を用いれば開発できると思いますが……」

 修司から時に出される無理難題も、ウッズは二次元界の様々な技術で応えようと開発を進める。

「顔全体が隠れる様なマスクに設計してくれ。顔の一部だけでも正体が判明しちまうプログラムがあるからな」

「顔認証プログラムの事ですね。解りました。顔全体を包み隠す様に、ヘルメットの様なマスクに仕上げます」

「それと声も、声紋認証されない様に何重にもエフェクトをかけてくれ。声だけで正体がバレちゃ、意味ないからな」

「承知しました」

 己の正体を明らかにされない為に施してもらう技術にも、修司は欲張ったが、ウッズはそれらにも応える。

 全ては小田原修司と言う人間が、自分に嘘が付けず、そして何よりも誠実な人柄だったからだ。

 一方の修司自身も、変わりゆく二次元界の世情を注意深く観察しながら行動の機会を待ち侘びていた。

 修司はフランスの小説家ジュール・ベルの言葉を思い出した。「人間が想像できる事は、必ず実現できる」と。人間の想像力は時に、不安や恐怖をも生み出してしまう。二次元界と言う、三次元人の想像が形になってしまう世界との共存は、まさに人間の想像力との戦いでもあった。

 

 また修司は来るべきに備えて、聖龍隊の頭目メンバーである天王はるかに嘆願した。

 それは自動車の運転技術だった。プロのドライバーでもある天王はるかに嘆願した修司は、彼女からの的確な指導の下、見る見る技術を習得していった。

「修司、君はなぜ今になって車の運転を……?」

 はるかが問い掛けると、修司は平然を装い真顔で答えた。

「なぁに、俺もいづれは車でブイブイ言わせたくなる時が来るからな。その日の為にも今から特訓したい気分なのよっ」

「相変わらず、君はせっかちだな」

 早々に運転技術を習得したいと説く修司に、はるかは彼特有のせっかちで急いでしまう悪癖だと主張する。

 そんな中、修司は着々と天王はるかから高度な運転技術を盗み出しながら習得した。

 

 ウッズがスーツ制作に着手している間、修司は当然ながら聖龍隊総長の務めも果たしていた。

 その責務の中で、修司は傷付きながら返って来る仲間を見て思った。例え善意でも、自らを犠牲にする綺麗事は歪だと。しかし、その自己犠牲の精神こそ人命を救済する尊き意志なのだとも改めて自覚した。

 だが軽蔑、差別、侮辱、諍い……世界から見れば些細な悪と醜さが、少年だった青年に悪を決して許さない不屈の精神を与えた。そして……非情の鬼へと、絶対の制裁へと変えていく。

 その心境の中で修司はつくづく思った。万民が幸せになれる世界など、ないのかもしれないと。

 所詮、勝者だけが正義だという考えにも同意せざるを得ない現実に。また「戦争を知らない子供と平和を知らない子供との価値観は違う」現実にも、世界の正義は統一されてない現実に叩きのめされる修司。

 善と悪。その違いは明確な時もあれば、曖昧な時もある。

 法には……人が作り出したルールには限界がある。誰かが法律の枠を打ち破って罪人に制裁を与えなければならない。

 

 それから急速な勢いで修司とウッズは準備を進ませた。

 ありとあらゆる格闘技や術を修司は己の体の叩き込み、ウッズは多くの敵と太刀打ちできるようスーツを制作した。

 そして両足、両腕、胴体、頭部それぞれの部分が完成したのを見越して、修司とウッズは次に武器の製作に取り掛かった。

 鬼の紋章が施された手裏剣の刃を鋭く磨き上げ、頭部の口からは催涙ガスと火炎放射が放せる様に仕上げ、両手の甲からは鋭利なカギ爪が飛び出してくる設計にした。

 そして修司は完成した両足、両腕、胴体、頭部の部分を着衣し、更にそこに手裏剣などの武器を一個一個丁寧に装備していく。

 全てのスーツ部分と武器を装備した修司を見て、ウッズは言葉を失った。

 そして鬼の姿へと変貌した修司は、己に問い掛ける様に言った。

「正義が勝つというのは弱者の幻想 現実は常に強いものだけが生き残る。だから俺は常に生き残る強い残忍な闇へと変わる」

 そういうと鬼へと変わった修司は歩き出し、ウッズと共に地下に設置したエレベーターで最上階まで上がる。

 二人が行き付いたのは、最上階である崖の上の洞穴入り口だった。この全く人目が届かない高所から、鬼になった修司は腕と脚に埋め込んでいる翼を開いて勢いよく崖上から飛び降りた。そして翼で滑空しながら夜の空を自由自在に飛んだ。

 そんな修司を見下ろして、協力者であるウッズは人知れず思い悩んでいた。

 自分だと知られなければ、その多くが残酷な方を選ぶ。それが人間が持つ危険な本性。顔が見えなくなれば、人は悪魔になる……と。

 これは修司だけでなく、多くの英雄にも合致している点だが、ウッズは単身自ら茨の道を突き進む修司を懸念するばかりだった。

 

 その晩の事だった。

 毎度の如くアニメタウンで事件が発生した。

 当時のアニメタウンでは、警察と軍事組織である聖龍隊が協力して事件解決に着手していた。

 だが警察組織は、横から割って入って来た聖龍隊の存在に嫌悪感を示しており、中には己の汚職が暴かれないかと疑心暗鬼に陥る警察関係者もいた。

 そんな状況下でも、聖龍隊隊士と警察は共に事件現場へとやって来た。

 現場は宝石店、強盗らしい。だが現場に駆け付けてみると、其処には異様な光景が広がっていた。

 なんと強盗を働いた犯人達が全員、徹底的に殴り倒されており、その全員が顔の頬にJDの焼き印が押されていたのだ。

 だが盗まれそうになった宝石は全て盗まれておらず、同業者による犯行では無かった。

 と、辺りを見回していた警官が宝石店の屋根に目を向けた瞬間、警官は驚いた。

「わっ!」

 驚いた警官が震える指先を差し、現場の隊士や警官が指先の方に顔を向けると、同じ様に驚愕した。

 なんと真っ赤な瞳を滾らせた、異形の怪物がジッと地上にいる警官や隊士たちを見据えていたのだ。

 顔面の9割以上はあるかと思われる真っ赤な瞳に見詰められ、怯え切る面々。

 するとその異質な存在は、彼らを見据えた直後、夜空の闇へと姿を消していった。

 残された隊士に警官たちは、只々愕然と見上げる事しかできなかったという。

 

 

 

[鬼との初接触]

 

「ほ、本当なんだ! 真っ赤で大きな目をした怪物が、宝石店の上に……」

「はいはい、落ち着いて。聖龍隊隊士ともあろう貴方達が冷静さを欠けてちゃ、意味ないでしょ?」

 強盗が入った宝石店で目撃した異形の怪物の存在を必死に訴える隊士。それにHEADのコレクターアイが対応するが、彼女はもちろん誰もが俄かには信じられないといった心境だった。

 皆が宝石店で目撃された異形の怪物の信憑性よりも、強盗に入った犯人達の現状を確認した。

 犯人達の中には連続で強盗していた者もおり、中には傷害事件なども起こしていたのも確認された。そんな犯人達は揃って全身を痛め付けられており、全治三か月の重傷だった。

 そして何よりも、犯人達の頬に焼き印されたJDの文字に衝撃を受けた一同。

 

 それから世界中の名立たる凶悪事件に、JDの焼き印を押された犯罪者達の報道がよく世間の注目を集めた。

 その世界中の目撃談として、顔全体を覆うほどの大きな紅い眼に、焼け爛れた様な皮膚、頭の上には二本の小さな角らしきシルエットが確認されたという。

 

 この多くの目撃談が報告される異形の存在に対処が追い付かなくなった警察組織が対策に追われる中、聖龍隊は日常の職務に徹していた。

 そんなある晩、バーンズはアニメタウンでも報告されている異形の怪物に興味を持ち、聖龍HEADの仲間達と出動する事にした。

「世間を騒がす異形の怪物だが怪人だが解らないが、ちょいと退治しに行ってくる。修司、お前は行かないのか?」

「タダの人間である俺が行ったって、足手まといになるがオチだ。俺は俺で忙しいし、お前達だけで頑張ってくれ」

 相棒であるバーンズからの誘いに、修司は断った。

 そしてその夜、メタルバードに変身したバーンズはHEADの仲間達とアニメタウンに出て犯罪者や異常者(ヒール)の取り締まりに出かけた。

 一方その頃、修司はアニメタウン基地の各所に仕掛けた秘密の出入り口から皆には知られていない区画に足を踏み入れ、例の鬼のスーツを着衣して夜の街へと飛び出した。

 

 この頃のアニメタウンには多くの異常者(ヒール)認定を受けた凶悪犯が蔓延っていた。

「うははッ、このガイト様に勝てる奴はいないだろッ!」

 ガイト率いるダーク・ラヴァーズが街を荒らし回っている最中、聖龍HEADがその場に駆け付けてガイト達を退かせようと行動を起こそうとしていた。

 が、その矢先。誰もが予想だにしなかった出来事が起こった。

「ぐはッ」

 なんと先陣を切るガイトの腹部に、一体の人影が直撃し、ガイトを悶絶させた上で吹き飛ばされた。

「きゃーー!」「ガイト様ーーっ!」

 腹部に強烈な痛みが伴い、同時に肋骨が何本も折れた衝撃にガイトは完全に気を失っていた。

 そんなガイトの前に現れたのは、世界中で噂になっている異形の怪物。その怪物を一目見て、ダーク・ラヴァーズが恐れを成して即座に攻撃するが、怪物は颯爽と攻撃を回避してダーク・ラヴァーズに反撃する怪物の猛攻に、ダーク・ラヴァーズは戸惑い躊躇う。

 そんな最中に聖龍HEADが駆け付けたのを目視したダーク・ラヴァーズは、気絶したガイトを引き摺って必死に海中へと逃亡。だがHEADが狙いを付けていたのは、彼女らではなく騒動で炎上した街中で、炎の中に立っている異形の怪物だった。

 怪物は噂通り、人型で身長は低いものの、頭には小さな角が二本、顔全体を覆う様な紅い大きな瞳に、焼け爛れた様な網目状の皮膚を持つ異形の怪物だった。

 聖龍HEADは即座に怪人を取り押さえようと陣を構えて取り囲むが、怪人は手から複数の小さな玉を転がした。と、次の瞬間、その玉から煙そして強烈な光が放たれた。

「うわッ」

 強烈な発光で目を閉ざし、さらには煙で視界を奪われた聖龍HEADが戸惑っている最中に怪人はどこぞへと姿を消した。

「ど、何処行った!?」

 メタルバードを初めとする聖龍HEADは怪人の姿を必死に捜し求めた。しかし怪人は既に暗闇の中へと消え失せてしまってた。

 

 それから聖龍隊本部が内蔵されている聖龍隊総本山に帰還する聖龍HEAD。

 其処では既に着替え終わった修司が、好物の炭酸飲料を飲みながらHEADの帰還を待ち侘びていた。

 そして修司も会合して、皆で謎の怪人について語り合った。

「……それで? 例の奇妙な怪物には遭遇したのかい?」

「ああ、お前が呑気にドリンク飲んでいる間に会ったよ。異常者(ヒール)認定を受けていたキャラをアッという間に倒して、それからパッと姿を消しちまった」

 呑気そうに訊ねてくる修司に、バーンズが嫌味混じりの台詞で返答する。

「み、見た感じ怖かった……っ。何だかおバケにも近い感じの怪人でさぁ……」

 身震いしながらセーラームーンが語る。

「あんな異常な怪人は、今まで見たことがないわ。私達が戦ってきた悪役とは一戦をしく異質さを感じるわ……」

 今まで感じたことの無い異質さを怪人から感じられると説くキューティーハニー。

「あれが今、世界中で目撃されている自警団員なのでしょうか? あまり人とも感じられませんでしたわ……」

 世界中で自警活動をしていると報告されているが、その容姿から人とは到底思えないと感じる鳳凰寺風。

「みんな落ち着いて! あんなの……誰かが面白がってスーツを着ているだけの人よ! 怖がる必要なんかないわ!」

 不安がる仲間達に、ミラーガールが怪人は何者かがスーツを着ているだけの人間だと説く中、皆の意見を聞いた修司は皆に問うた。

「まあまあ、今夜は顔だけ見られただけでも良かったんじゃないの? その怪人は犯罪者の前にしか現れないって言うし、顔を見られただけでも儲けモンじゃん。これからタップリその怪人への対策をジックリ考えれば良いじゃん……」

 そう修司が呑気そうに語り終えて再びドリンクに口を付けようとした瞬間、キング・エンディミオンが修司に怒鳴り付けた。

「呑気なこと言っている場合じゃないぞ修司!」

 エンディミオンからの聞き慣れない怒声に、修司は椅子ごと扱けてしまう。そんな修司にエンディミオンは怒鳴り続けた。

「あの怪人が世界でどれだけ横暴な行為をしているか知らない訳はないだろ! 奴は犯罪者だけでなくいじめっ子や不良、それに汚職を働いた警官や役員にまでも手を出しているんだぞ! しかも、その殆どが相手を殺している非道な手段だ……放っておけるか!」

 しかし、このエンディミオンの言動に修司は真顔で返事した。

「それで?」

「?」

「それで? ……その怪物は善良な市民に迷惑を掛けているのかな? 人心や人命は救ってないのかな?」

 真顔で問い返す修司はそのままドリンクを飲み干す。そんな修司の言動に、周りのHEADは唖然とするばかり。

 そして修司は皆にそう言い残すと、立ち上がってその場を後にする。

 そんな修司は立ち去る際、HEAD達に言った。

「世の中、綺麗事ばかりの正論じゃ渡って行けねえよなぁ」

 綺麗事ばかりでは世情を渡れないと告げる修司の一言に、HEADは唖然としてしまう。

 

 それから修司は自分とウッズしか知らない秘密基地に戻ると、そこで先ほどの戦闘で汚れや傷が目立つ様になったデーモンスーツを整備・清掃するウッズに歩み寄り、ウッズに話した。

「やはりアイツらには黙っていた方が良いだろう。世の中の厳しさって奴を、まだ解っちゃいない。もう少し様子を見よう」

 修司からの話に、ウッズは黙然とスーツの整備に専念する。

 ウッズの整備や清掃のお蔭か、スーツ頭部の大きな紅い瞳は煌めいていた。

 

 

 

[悪夢を見た医者]

 

 時と場所は変わって、所は千葉県流山市。

「医療法人社団 宙麦会ひだクリニック」という心療内科が所有する建物で事件は起きた。

「や、やめて……やめてーーーーっ」

 か弱い女性の悲痛な叫び声が無情にも響き渡る中、その女性に怪しげな薬を投薬する医師が不敵な笑みを浮かべる。

 医師の名は肥田裕久(ひだひろひさ)という「ひだクリニック」の院長を務めている医師であった。

 肥田裕久は表向きでは善良な医師を演じていたが、その一方で情状不安定な患者をロクに診察せずに警察に無駄な通報をして出任せな診察をする、医師としてあるまじき男だった。

 しかも肥田は、自分が院長を務めている「ひだクリニック」を拠点に地元の暴力団と結託し、院内を麻薬の隠し貯蔵庫として利用していた。

 それだけではなく、暴力団に麻薬を横流ししていた傍ら、一部の通院患者を自身の欲求や好奇心のはけ口として様々な投薬実験を繰り返していた。

 この非合法な人体実験は日々行われ、その内容は患者に恐怖に似た幻覚を見せて精神を崩壊させるという常軌を逸した実験だった。

 だが、この肥田裕久の悪行は周りの医師や看護師、そして宙麦会など法人会の面々も周知いていたが、面目を守る為に黙認されていた。

 そんないつもと変わらない人体実験を面白おかしく繰り返していた肥田裕久の元に窓ガラスを打ち破って院内に飛び込んできた人影が。

 夜中の丑三つ時、肥田の毎度に及ぶ人体実験を嗅ぎ付けた異形の怪人が院内に急襲しに来たのだ。

 その怪人の悍ましい姿を目撃して、肥田は慌てて外に待機させている暴力団員を呼び付けた。

 だが、室外に出てみると見張りに立てていた暴力団員は全員悉く惨殺されており、誰一人助けはいなかった。

 肥田は院内の警報装置を作動させようとするが、装置は反応しない。よくよく考えてみれば、異形の怪人が院内に飛び込んできた際にも警報装置は作動しなかった。

 そんな困惑する肥田は、怪人に抵抗しようと院内に置かれているメスを握り締めて怪人に襲い掛かった。しかし怪人の装甲が厚かった為にメスは容易く折れてしまい、肥田は愕然と怪人の顔を見詰める。

 と、肥田が怪人の顔を見詰めた瞬間、怪人の大きな顎が開き、開口した部分から霧状の液体が肥田の顔の吹きかけられた。

「うわっ」

 液体が目に入ると同時に強烈な痺れと痛みに襲われる肥田。

 崩れ込む肥田。そんな肥田の首元を左手で掴んだ怪人は、顔に激痛が走る肥田の顔面に己の顔を近づかせて一言言った。

「ジャッジメント」

 そういった怪人の右掌には、赤く燃え上がる様にJDの刻印が熱を持っていた。

 そして赤く熱を持った刻印を、怪人は肥田裕久の左頬に焼き押した。

「うぎゃああぁ~~っ!」

 強烈な熱さと痛みが左頬に走り、悶絶する肥田裕久。

 そんな苦悶する肥田裕久に、怪人は更に容赦なく膝打ちや蹴りを入れて、トドメには眼と左頬に激痛が走る顔に拳を一発入れて、肥田裕久を完全に気絶させた。

 その翌日の事。

 警察への匿名の通報で、警察官達が「ひだクリニック」の中に突入すると、中には惨殺された暴力団員と重傷を負った肥田裕久が発見された。

 更に院内には隠し部屋の出入り口が開いていた事で、その中に捕えられていた多くの肥田裕久の実験の犠牲になった人の衰弱した姿や死体が見付かった。

 隠し部屋の中には、肥田裕久が暴力団に横流ししていた大量の麻薬も発見された事で、肥田裕久の悪事は全て白日の下に晒され、肥田は警察に連行された。その肥田の左頬には一生消えないJDの焼き印が残っていた。

 後日、これらの肥田裕久の悪事を黙認していたクリニック関係者の医師や看護師そして法人会の多くが一斉検挙され、一時期マスコミが徹底して取り上げた。

 しかしマスコミには何故か肥田裕久を襲撃して、彼の悪事を暴いた者について報道規制が布かれた。

 それもその筈、警察は犯罪者を徹底的に痛め付ける鬼の存在を真っ向から否定し、「タダの噂」として問題を片付けようとしていた。

 

 警察関係者が二次元界・三次元界ともに鬼の姿をした怪物を追跡しながらも存在を否定していた頃。

「……警察はどうも、例の鬼の事を公にしたくないみたいだね」

「自分達の仕事が奪われるとでも思っているんだろう。でなければ、自分達の汚職が明るみにされるのを恐れているんだ」

 義兄弟の盃を交えたジュニアと談話する修司。彼はじっと、マスコミが如何に鬼を報道するか観察していた。

「……ジュニア、一緒にニュースを見ているから敢えて言っておく。……マスコミの報道が全て事実だと思わない方が良いぞ」

「解ってるよ。マスコミは注目されたいが為に報道を捏造しているって言いたいんだろ? 気を付けるさ」

 ジュニアの返答を聞いて、修司は更に告げた。

「この世の全ては真実と嘘で塗り固められている。真実を知りたければ、自ずとその真実に歩み寄る事だ」

 そう言うと修司はジュニアを置いてテレビの前から立ち去ってしまう。

 いつもの不信だろうとジュニアが思う中、修司は更に行動に移す。

 

 

 

[政府関係者の目論見]

 

 遂に謎の怪物は世界中の警官達や役人にも目を付けた。

 だが、普通の警官や役人ではなく、その全てが汚職などに手を染めている連中だった。

 異形の怪物を存在しないと公言していた警察関係者や政府関係者は、この怪物の標的が次は自分達であると恐れをなした。

 次々に襲撃される汚職警官や役人。時には高層ビルから突き落とされ、時には脊髄を損傷されて半身不随へと変貌を遂げる者までも続出した。

 この事態に政府は、当初「異常者(ヒール)を代わりに排除してくれる便利な奴」と見做していた怪物の凶行、その矛先が自分達に向けられた事でようやく動き出した。しかし、ジャッジ・ザ・デーモンは警察関係者のOBや重役の犯罪や陰湿な行為にも矛先を向け、惨たらしく殺傷していき、警察の捜査の手も掻い潜っていく。

 それと同時に警察や検察さらには弁護士などの法律家や役人らが犯した罪状を世間に公開するという脅迫で捜査機関に圧力を掛け、、己の裁きを実行し続けていった。

 これにより次第に警察組織の信頼と権威も地に墜ち、警察組織は根本から組織構成を立て直す結果にまで追い詰められる。

 この時、政府は天下りという形で警察庁や警視庁、検察庁に弁護士業界に内閣府調査室の諜報員を潜り込ませて、異形の怪物の行方を密かに追っていた。

 

 犯罪者は法律の下で罰せられるべき。

 そう考えて、その信念の下働く者が警視庁にいた。

 彼の名は真嶋護。現役の警視。彼は異形の怪物に犯罪者である父親を惨殺された加害者家族の元を訪ねて、事情を直接聞きに行った。

「……ですから! あなたのお父さんを殺めた怪物は、私が責任を持って逮捕しますのでご協力を……!」

 真嶋は何度も加害者家族の女性に捜査の依頼を求めた。何故か父親を惨殺された女性は捜査への協力を拒んでいたのだ。

 すると加害者家族の女性は、疲れ切った表情で真嶋に返答した。

「……別に、捕まえる必要はないですよ。私達は救われたんですもの」

「え?」

 女性の発言に驚かされる真嶋。すると次の瞬間、何度も真嶋に捜査の依頼を求められた女性は何かが吹っ切れた様に真嶋に強く訴えた。

「父の……あの男が犯した罪で、私たち家族がどんだけ今つらい思いをしているのか……! あなたに解りますか!? 凶悪犯の子供として、後ろ指を指される日々を過ごす中、そんな凶悪犯と一緒に住み続けた私たち一家の苦渋の日々を……!」

 女性の爆発した想いをマトモに受けた真嶋は動揺してしまうが、女性が次に発言した言葉で真嶋は豹変してしまう。

「父は……あんな男は殺されて良かったのよ! 生きて罰せられるより、死んでくれた方が……私たち親族は心が楽になるの! 生き恥を晒す凶悪犯が身内にいる悍ましさ……あなたには到底理解できないでしょうね!」

 この女性の怒号が、真嶋の中にある信念に傷をつけた。彼もまた凶悪犯の息子で、その父親が改心したのを切っ掛けにまた家族そろって生活できる寸前の所まで行ってた人物だった。

 だが、この女性が発した言葉が、そんな真嶋の信念を傷つけ、侮辱された様に感じられた。

「! ……実の父親が、親が殺されたって言うのに、その態度か!」

 自分の親が殺されても良いという発言をした女性に掴みより、言い寄る真嶋は完全に冷静さを失っていた。

 そんな真嶋と女性の荒ぶる姿がマスコミに激写されてしまった。

 後日、真嶋は警視総監の下に呼ばれた。

「君ねえ、加害者家族に言い寄るなんてマスコミに叩かれちゃ、いい迷惑だよ」

「は、はい……」

「君は以前から政府が立てた異常者(ヒール)排除法案にも反対の意見を口々にしている様だが……困るんだよねぇ、現役の警察官それも警視が問題発言ばっかしちゃって」

「………………」

「……まあ、今回のマスコミでのパッシングで少しは懲りたでしょう? 加害者家族にとって、実行犯は存在しているだけでも苦心。抹消してあげるのが加害者家族にとっても都合が良いって事が。君は昔の……自分の父親とどうも犯罪者を重ね合わせてしまう悪癖が目立つが、今後は注意したまえ。ま、今回は厳重注意と一ヶ月の謹慎で済ますから、行っていいよ」

「………………」

「ん? 返事が聞こえないが」

「……はい」

 警視総監に言われ、真嶋は総監室より退室した。

 真嶋が警視総監室より退室した直後、警視総監の側近が歩み寄り、密談する。

「どうするんですか? あの男を野放しにしていたら、我々が実行に移している異常者(ヒール)排除法案が懸念されます!」

 側近は真嶋護警視を野放しにしている事実を、総監に訴えた。すると総監は涼しげな顔で語り出した。

「大丈夫さ、まだ異常者(ヒール)排除法案はもちろん、異形の怪物に対しても単独で捜査し続けるなら、最終手段で奴を降格させればいい。それよりも例の怪物の情報は得られたか?」

「そ、それが……未だ、目撃情報しか得られず、対した進展はありません……」

「そうか。気を抜くなよ。あの怪物が所有している技術や戦術は、非常に我が国の機関に有効な働きを示す。もし、あの真嶋とかいう警視でも、他の警察が怪物を捕えてもスグに身柄を調査室の方に移させろ。全ての証拠品も押さえてな。それまで私は内閣調査室に戻れない事になっているんだ」

 警視総監は、実は天下りを利用して警視庁に潜入した内閣調査室の人間だった。

「問題はない、あの真嶋も他の警察も文句を言ってきたら、この命令書を出せばいい。この通り法務大臣の許可はとっくに貰っているからな」

 そういって警視総監が机から取り出されたのは、法務大臣からの命令書で「謎の怪人を捕えた後、身柄を直ちに内閣調査室に引き渡すべし」と記されていた。

 二次元界と三次元界の共生により、治安や政権が乱れる一方で、日本の政府機関は異形の怪物が使用している技術や、怪物そのものの高い能力を高く評価し、内閣調査室は警察が怪物を捕縛しても身柄を引き渡す様に仕組んでいるのだった。

 そうとは知らず、その後も真嶋護は異形の怪物を追い続けた。

 

 そんな政府の目論見とは裏腹に、異形の怪物は犯罪や陰湿な行為をする老若男女に次々と制裁していった。

「うわあッ!」

 ある時は犯人の顔に自らの顔を近づけた瞬間、大きな顎を開いて開口部分から強力な酸を吹きかけて犯人を失明に追い詰めたり。

 またある時は罪人の背骨をへし折って、脊髄を損傷させて下半身不随に陥れたり。

 更には両手の甲に装着されている鋭利なカギ爪で心臓を抉り突いたりと、残忍極まる処罰を行い続けた。

 

 世界中で拡散する、この怪物の凶行に警察組織が躍起になる一方、政府機関は怪物が使用する技術や戦術に高い評価を下して、怪物を自分達の手中に納めようと目論んでいた。

 

 

 

[激突]

 

 自らを「裁きの鬼」、「制裁を象徴する鬼」と名乗る異形の怪物の惨状に世界が注目する中、警察組織が見直される事態が起こった。

 それは怪物により、過去の汚職を暴露された現役・引退した警察や検察関係者が次々と怪物に襲撃されて命を落とす惨状からだった。

 警察や検察の悪事は、怪物の制裁と同時にマスコミに流出されてしまい、警察や検察組織の信頼が一気に低迷。遂には信頼と権威も地に堕ち、組織は根本から構成を立て直す顛末となった。

 当初、警察組織は「怪物などタダの噂で実在しない」と言い張っていたが、その怪物により信頼を失墜させられたのだ。

 これに当時より日本政府や天皇陛下と強い繋がりを持っていた小田原修司が、日本の警察組織を立て直す為に二次元人による組織構成にすべきだと主張。当初はこの主張に真っ向から反対した警察などの法務機関だったが、政府や天皇家と繋がりを持っていた小田原修司の意見が尊重され、警察組織は組み直された。

 しかし、当時に全ての法務機関に内閣調査室の息がかかった者が参入したのも事実だった。

 

 同時期、アメリカの法務省やICPOはその謎の怪物と密通していた事がマスコミに流出。

 詳細は不明だが、自分達だけでは解決できない組織ぐるみの犯罪を怪物に依頼した事で、交換条件としてアメリカ政府を通じて怪物の捜査を打ち切る様に世界中の警察組織に圧力とも言える通告がされた。

 こえにマスコミが激しく政府関係者を叩いた。

 そんな報道をテレビで拝見しているバーンズとジュニアは語り合った。

「アメリカも遂に怪物の捜査能力の高さを認めて依頼しちまったか」

「そうだね。怪物の行動は確かに異常だけど、捜査能力や技術の高さは評価されるからね」

 語り合うバーンズとジュニア。

 こうして怪物の捜査はアメリカ政府を通じて、各国の捜査機関とICPOは捜査を打ち切らせる他なかった。

 

 この不測の事態に、遂に日本政府は聖龍隊に嘆願せざるを得なかった。

 捜査が制止させられた中、怪物に対する調査を政府は秘密裏に依頼。

 当時、アニメタウンの政治や法案について多忙だった小田原修司に代わって、副長のバーンズが怪物の内密調査を引き受けた。

 そして聖龍HEADは通報を受けて、怪物退治に乗り出した。

 月がやけに明るく照らす夜中、怪物は殺人を犯した強盗犯が根城にしている廃工場に出没した。

 犯人グループの一人が、堪らず通報した事で聖龍隊は逸早く行動することが出来た。

 しかし廃工場に着いてみると、時既に怪物によって犯人達は徹底的に痛め付けられ、縛り上げられていた。

「クッ、まだ怪物はこの近くにいる筈だ! 全員探せ! ナースエンジェルは隊士たちと此処に残って強盗犯達の治療を……! 一応は詳言を聞いておかないとな」

 メタルバードは仲間達に呼び掛けて、付近の捜索を開始。現場にナースエンジェルと複数の隊士達を残して自らも捜索に乗り出す。

 月夜が煌く中、メタルバードは銀色の目立つ姿で夜空を滑空していた。すると上空を飛行している彼の目に、建物を次々と跳び越えていく人影が目に付いた。

 メタルバードは仲間を呼んで、その建物を跳び越えていく人影を追跡した。

 その人影はまるで暗闇を好むかのように、ちょうど影が差し込む場所で動きを止めるのを視認して、メタルバードも降り立った。

「おい、動くな」

 暗闇の中でメタルバードが人影に向かって声をかけると、影はゆっくりと振り向いた。

 するとメタルバードの目に飛び込んできたのは、大きな紅い瞳をした人型の怪物だった。

「そのデカイ目玉ならオレの容姿もハッキリ見えるだろ。オレが右手をレーザー銃に変形しているのも解る筈だ」

 メタルバードが怪物に銃口を向けたまま月明かりの下に移動させる。

「コッチに来い、ゆっくりとな……」

 怪物は無言のままメタルバードの指示通りに動いて月明かりの下に移動した。

 すると其処にちょうどミラーガールやセーラームーンたち当時のHEADメンバーが集結した。

「メタルバード、大丈夫!?」

「大丈夫だ! ちょうど、この怪物を捕まえるところだ」

 駆け付けたミラーガールが声をかける中、メタルバードは威勢よく返事をする。

 すると無言を貫き通していた怪物は、聖龍隊の頭目である面々を視認して突然語り出した。

「ひゃっひゃっひゃ……これが噂に名高き聖龍隊、その頭目か」

 まるで嘲笑の様に笑い出す怪物の不敵な発言に、聖龍隊はしかめっ面を浮かべる。

「あなた……何者なの!?」

 セーラーマーズが問い詰めると、怪物は両腕をダラ~ンとぶら下げた何とも不可思議な格好で答える。

「俺か? 強いて言うなら、人々に平等な裁きを与える存在、カナ?」

「何が平等よ! 子供や女性、お年寄りまで殺傷する平等がある!?」

 怪物の発言にキューティーハニーが問い返すと、怪物は率直に答えた。

「俺が罰を与えたのは、全て大罪を犯した罪人ばかりだ。全て平等に裁きを与えただけ……」

「相手を殺す事が罰だというの!? そんな正義は認められないわ……!」

 今度はセーラーヴィーナスが問い詰めるが、怪物は平然とした態度で返答する。

「セイギ……? はて、俺は一度も正義を名乗ったつもりはないがな」

「それじゃ、貴様の犯してきた凶行は何だというんだ!」

 怪物の態度にキング・エンディミオンが怒りを露に訴えてくると、怪物は真面目に返答した。

「俺が行ってきた行為は全て平等に制裁してきただけの事……法律と言う、弱者にはまったく無力な決まり事に代わって、この俺自身が法律と言う弱者には全く働かない網目だらけの枠を打ち破って罰を与えていただけだ。そう、弱者をいたぶる非情な人間を罰するだけ。それが俺の使命……」

「例え、あなたが罰を与えた人が酷い人たちだったとしても、やり方が惨すぎる! もっと別のやり方が在った筈よ……!」

 怪物の話にミラーガールが切実に訴えるものの、そんな彼女達の訴えや思想を嘲笑うかのように怪物は笑い飛ばした。

「ひゃはは……! 本当に人を救えない連中が、よく言えたもんだ。お前達が呑気に遊んだり、笑ったりしている間にも、弱者は強者に痛め付けられ、世界の何処かでは犯罪が起きている。正義や理想を掲げるだけの、綺麗事しか言えない連中は何も出来んよっ!」

 この発言に、メタルバードが切れた。

「全員、これ以上話し合っても無駄だ! ……コイツは自分のルールでしか罪人を裁けないらしい」

 しかしこのメタルバードの発言に、怪物は嘲る様に言い返した。

「だって仕方ないじゃん。法律ってのは、所詮権力の強い人間にしか作用されない決まり。本当に罰するべき罪人を処罰する法律は、世界中どこを探したって存在しない。いじめっ子も汚職警官や薄汚い弁護士も……彼らは法律と言う無意味なものに護られてしまっている。だから俺様が代わりに罰しなきゃ、意味ないんだよ。ワカル?」

 この現実を突き付けられた聖龍隊の頭目たちは、異形の怪物に攻撃した。

 

[newpage]

[chapter:怪物の名]

 

 遂に怪物を取り込んだ聖龍隊の頭目たち。

 だが彼女らの猛攻を怪物は俊敏な動きで回避していく。

「ッ……ちょこまかと……!」

 セーラープルートは回避し続ける怪物に苛立ちながら、攻撃を仕掛けていく。が、怪物はそれらの攻撃を全て回避しながら攻めて来る聖龍隊に話しかける。

「お前達も今、まさに罪を重ねている……無益な争いも、また罪だ」

「争い事を……問題を起こしている貴様が言えた義理か!」

 話し掛けて来る怪物に、ジュピターキッドが自慢の鞭を振るう。

「何も俺はあんた達と戦いたくて行動を起こしている訳じゃない。この世の全ての悪に、平等な裁きを与えたいだけなんだ」

「あなたも、そんな悪と同じなのよ!」

「俺は自分を正義とは主張しないが、悪でもない。単なる制裁人だ」

「ヘリクツばっか言わないで! 刑務所が待っているわよ!」

 セーラーマーキュリーとウォーターフェアリーの攻撃を掻い潜りながら、己は善でも無ければ悪でもないと主張する怪物。

「あなたは……そうして一人だけで悪と渡りあっていく気!? それって……」

「寂しい事、とでも言うのか? ミラーガールよ……だが、誰かが悪を罰しなければ世界は変わらない」

 ミラーガールの慈愛に対しても、怪物は素っ気無く返答する。

「この世の中を良くしたい……その為には正攻法ではダメなんだ」

「秩序ある世界には法律が必要だ! たとえ、その法律で私腹を肥やす簾中がいてもな!」

「例えあんた達がそれで良くても……一部の人間が嘆き悲しんでいる情景を俺は見てみぬフリは出来ないんだよ」

 怪物はメタルバードと会話しながら、彼の格闘術を巧みに受け流していく。

「残虐な行為も、卑怯な手段も……時には正攻法になる。それが今の時代、今の世の中だ」

「そんな矛盾、認められない……!」

「認められなくても……それが現実だ」

 ファイト(闘)のカードを使用して怪物と対峙する木之元桜に、怪物は冷然とした現実を突きかける。

 

 と、怪物は唐突に聖龍隊との戦いをやめて一人夜の街並みを眺め始めた。

 突然、動きを止めて街を眺めだした怪物の行為に戸惑う聖龍隊。

 するとい怪物は街を眺めて、こう言った。

「この街は変わってしまった……見えるのは暗闇だけだ」

 聖龍隊は、この怪物の言葉に衝撃を受けた。確かに三次元界と共生する様になってから、二次元界アニメタウンの秩序はガラリと変わって悪くなっていたからだ。

「……チッ、何を言うかと思えば。マイペースな奴だな!」

 そんな怪物の言動に、メタルバードは怪物のマイペース振りに呆れながら怪物に攻撃として拳を打ち込む。しかし怪物はメタルバードの打ち込んだ拳を身を反らして回避して、難なく突破してしまう。

「それじゃ、今夜はあんた達に免じてこの辺で帰るとする。有り難く思え」

「ッ、上から目線が気に入らないわね……!」

 怪物の言動に、龍咲海が怒りの剣を振り翳した瞬間、怪物は手から小さな黒い玉を海の顔面目掛けて投げつけた。すると玉からは粘り気のあるトリモチみたいな物質が飛び出して、海の顔面に張り付いた。

「うわっ!」「う、海ちゃん!」

 顔面にトリモチを投げ付けられた海に、獅堂光が声をかけると怪物が言った。

「大丈夫だ、それは水でよく洗えば落ちる代物だ、安心しろ」

 そういうと怪物は両腕を広げて、自らが着衣しているスーツから翼を突出させて飛び出そうとした。

「ま、待ちなさい! あなたは一体……!?」

 飛び上がりそうな怪物にミラーガールが訊ねると、怪物は大きな紅い瞳を光らせて言った。

「俺は……俺は闇の制裁………………ジャッジ・ザ・デーモン……!」

「ジャッジ・ザ、デーモン……!」

 初めて怪物の名を聞いたミラーガール達は余りの衝撃に言葉を失った。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンと名乗る怪物は、広げた翼を靡かせて、背中のジェットエンジンで暗闇の夜空へと飛び上がった。

「……あ、待ちやがれ!」

 と、ここでメタルバードが逃亡に気がついて、自らも飛行能力で追尾しようとする。

「ちせ! お前も付いて来い! あの怪物はタダモンじゃねえぞ……!」

「は、はい……!」

 メタルバードの指示に、怪物が呟いた様に吐いた名前に愕然としていたちせも飛び上がってメタルバードと共に追跡を開始した。

「ジャッジ・ザ・デーモン……」

 一方、建物の真上に取り残されたミラーガール達は衝撃でその場からしばらく動けなかった。

 

 その傍らで、怪物を追跡するメタルバードとちせ。

 二人は背中のジェットエンジンで飛行する怪物の熱エネルギーを追尾して、何とか暗闇の中でも追跡できる様にしていた。

「ちせ! こうなったら、オレが許可する! あの怪物……ジャッジ・ザ・デーモンに向かって攻撃しろ! 死んじまってもオレが責任を取る……!」

「え! で、でも……」

「早くしろ! そうでないと、この暗闇だ……いつ姿を消されるか解ったもんじゃない」

 メタルバードに急かされて、ちせは戸惑いながらも標準を怪物に向けた。

 そして次の瞬間、怪物に向かってちせは拡散光線を発射した。

 しかし彼女の攻撃に感づいたのか、怪物は飛行しながらちせの光線を回避して飛行を続ける。

 ちせは絶えず光線を発射するが、直撃だけは免れてしまう。

 そんな二人の追跡に対して、怪物は手からまたしても黒い玉を放り出して後ろから付いてくる二人の目前に強烈な発光を曝け出した。

「うわッ」

 強烈な光に二人が目を覆ってしまった瞬間、怪物の姿は忽然と消えてしまってた。

「クソっ……」

 メタルバードがレーダーで感知しようとしても、怪物の姿を捉える事は出来なかった。

 二人が怪物を見失った所は、ちょうどアニメタウンの郊外、聖龍隊総本山の間近だった。

 

 

 

[闇しか見えない青年]

 

 ジャッジ・ザ・デーモンと名乗る怪物を見失ってしまったメタルバードとちせ。

 二人がデーモンを見失って、戸惑っていたその頃。

 総本山の裏手にある秘密の出入り口からデーモンは内部へと帰還し、ウッズの元に帰り着いた。

「お帰りなさいませ、修司様。まさか今夜は皆様方と戦う事になるとは……」

 デーモンスーツ内臓のカメラで、ジャッジ・ザ・デーモンが聖龍隊と激戦を繰り広げた事を周知しているウッズが、デーモンスーツを着衣している修司に歩み寄る。

 するとその時、ジャッジ・ザ・デーモンのスーツを纏っている修司が突然よろめいた。

「修司様!」

 ウッズが慌てて修司に駆け寄ると、デーモンスーツの隙間から大量の血が流れていた。

 実はジャッジ・ザ・デーモンは飛行中、ちせの攻撃を回避した様に見えたが、その実は僅かながらに被弾して胴体に無数の小さな風穴が開いてしまっていたのだ。

 ウッズは急いで修司のデーモンスーツを脱がせると、応急処置として血止めを施した。

 と、そこにバーンズからの招集が無線で掛かって来て、修司も呼ばれる。

 修司はウッズの心配を余所に、傷を受けた胴体に包帯を巻いた状態で仲間の元に向かった。

「よ、お前ら。どうだった? 怪物と戦えて……」

 修司は平然を装いながら激痛を堪えていたが、その反面顔から夥しい程の汗をかいていたのに気付かれてしまう。

「修司、お前どうした? 凄い汗だぞ」

「なに、俺が元々かなりの汗っかきだっていうのは、お前達も知っているだろ」

 修司はバーンズからの問い掛けを受け流しながら話を逸らした。

「そ、それよりも……例の怪物とは対面できたのか?」

 修司が問い掛けると、メタルバードたちは顔を合わせながら語った。

「会ったよ。でも逃げられた」

「バーンズやちせちゃんが追ってくれたけど、それでも逃げられてしまって……」

 デーモンに逃げられた事を残念そうに語るウラヌスとネプチューン。

「あの動き……只者じゃなかったわ。私達の攻撃を幾度と無くかわした身のこなし……」

「相当、鍛えているのでしょう」

 龍咲海と鳳凰寺風がデーモンの手馴れた戦い方を称賛する。

「それで? その怪物の正体は掴めた訳?」

 修司が再び問うと、コレクターユイが返事した。

「ううん、顔は不気味なマスクで覆われていたから解らなかったし、声も声紋認証してみたけど、何重にもエフェクトが掛かっているから判別できなかった」

 残念そうに語るコレクターユイに続いて、ミラーガールが怪物の詳細について修司に話した。

「名前だけは解ったけどね……ジャッジ・ザ・デーモンっていうらしいわ」

「ジャッジ・ザ・デーモン……」

「ええ、見た目は鬼って言うよりも、UMAで有名なチュパカブラみたいな顔していたけど」

「チュパカブラみたいな顔か……なるほどなるほど」

 修司はあくまで第三者からの返答に聞こえるよう、自演していた。

 

 そして聖龍隊は修司に報告した。その間、修司は必死に腹部の傷から生じる激痛に耐え忍んでいた。

 ジャッジ・ザ・デーモンは不足な法に代わって罪人を平等に罰している事実。

 そして、その卓越した戦術に聖龍隊も舌を巻いたと聞かされた。

 だが仲間である聖龍隊の頭目たちの話を聞いた修司は、腹部の激痛に耐えながら彼らに問うた。

「まあ、俺達が掲げる正義も、確かに曖昧な部分があるからな」

「そんな……! 修司、あなたまで言う?」

 修司の発言にミラーガールが返答する。そんな修司は冷めた目で皆の前で言った。

「俺は生まれ付き、人の愛情や優しさが感じられない人間だからな。だから正義が不確かなものだっていう言動には同感だ。正義ってのは所詮、立場で大きく変わっちまう曖昧な大義名分だ。そんな正義に突き動かされて、行動している俺等の方がよっぽど落ち度に思えてくらぁ」

 そんな修司の言動にエンディミオンが皆の働きを蔑ろにされた様に感じ取り、徐に修司に歩み寄って一発殴り飛ばそうとするが其処をセーラームーンによって制止される。

 そんな皆の憤りを尻目に、修司は皆に発した。

「そうそう、俺たち聖龍隊の頭目の名称を考えたんだ。HEAD、つまり聖龍隊の頭目って意味合いで考案したんだが、お前らはこの名称で不満は無いな」

「……ああ、不満は無いよ」

 メタルバード達は修司の態度に若干の不満を感じつつも、HEADという名称に不満はないと返答する。

 そうして皆の返事を聞いた修司は、そそくさとその場から立ち去ってまた一人で行動する素振りを見せ付けた。

 

 修司の単独行動が目立つ日々この頃。修司からHEADの名称を与えられた頭目たちは次第に不満が募っていた。

「修司の奴……自分は何もしていないのに、上から目線が目立ってきてやがる」

「し、しょうがないよ、まもちゃん。修司君はもう聖龍使いに変身できないんだし、多少の事は……」

「でも、一人でのうのうと基地に入り浸っているのはどうも癪に障るわ」

「そ、そんな……ネプチューンまで……」

 エンディミオンやネプチューンの厳しい発言に、セーラームーンは悲観する。

 そんな皆の苦言を耳にし、メタルバードが唱えた。

「闇しか視えない、闇しか捉えられない……いや、闇しか識別できない心。修司はその心しか持っていないのかもな。オレ達の気苦労も、そしてアッコ達の優しさをも感じられない残念な心しか持ち合わせていないのかもしれねえ」

 このメタルバードの発言に、修司に恋心を向けるミラーガールが訴え返した。

「そんな事はないわ……! 修司にも、人の感情を感じられる心が何処かにきっとある筈よ。そう、きっと……」

 悲しげな表情で訴えるミラーガールの真情に、他の聖龍HEADも黙然としてしまう。

 

 

 

[鬼の実体]

 

 修司から正式に聖龍HEADの名称を与えられたHEADは、早速自分達と激戦を繰り広げたジャッジ・ザ・デーモンと自称する怪人の捜査に移った。

 まずバーンズは、デーモンと組み合った時に感じられた格闘術について調べた。

 調査の結果、デーモンはアジア系の武術を中心にシステマという独特の格闘術を用いている事が判明。

 システマはロシアの格闘術で、最小限の動作で敵の急所を捉える格闘術だった。

 バーンズは人間の姿に変身して、システマ協会の代表に聞き込みを行った。

「う~~ん、しかし……システマは既に護身術として軍人だけでなく一般人にも広く流通している格闘術だからね。システマが出来たからってだけで、特定の人物に絞り込む事は難しいよ」

「そうですか、ありがとうございます」

 だが、システマは既に民間人にも多用されている格闘術な為に、人物を特定する事は困難を極めた。

「う~~ん……奴が使った武術で正体を特定するのは無理か」

 人間に変身したバーンズは、別の角度からジャッジ・ザ・デーモンの正体に近付こうと決めた。

 

 その頃、昨夜の戦いの様子を、自分達が装備している小型カメラの映像と、街の監視カメラの映像両方から解析を進めるコレクターユイたち。

「このスーツ、ただのスーツじゃなく一種のパワードスーツみたいな鬼のスーツね。ご丁寧に顔全体が隠されているから特定が難しい」

 映像を解析して、デーモンは正体を特定されない為に顔全体を覆い隠すヘルメットの様なマスクを被っている点にコレクターアイが難色を示す。

「あの言動……間違いないわ。自分の中の不安や自信の無さを隠す為に、わざわざあんな私達の神経を逆撫でする様な言動で話し掛けて来たのよ! そう、まるでスパイダーマンの様に……!」

 コレクターユイたちと共に映像を視聴して、デーモンの言動が自らの不安や自信の無さをひた隠す為の言動だと推測するセーラーマーキュリー。彼女は精神的に不安情状な修司の言動をいつも聴いている為に、若干精神学にも精通していたのだ。

 だが、まさかその修司と、狂気ぶった口調で己の自信の無さを隠しながら戦うジャッジ・ザ・デーモンが共通の存在だと知る由はなかった。

 更に映像を解析して、デーモンが着衣しているデーモンスーツの構造や設計技術を念入りに調査する聖龍HEAD。

「このデーモンスーツ、ウィングスーツの働きもしているな」

「えっ? ウィングスーツって、よく修司さんが趣味で扱っている、あのスーツ?」

「ああ、そうだ。闇夜の夜空を滑空できる様に設計されたスーツらしい。まったく、ウィングスーツなんて一歩待ちがえば死んじまう様な代物、誰か考えたんだろうな」

 映像を見て、デーモンのパワードスーツに組み込まれているのは、上空を高速で飛行できるウィングスーツだと説くエンディミオンにさくらが問い返すと、エンディミオンは下手すれば崖や山に激突して死亡してしまう様なウィングスーツを今の若者が何ゆえ好んでいるのか、その傾向に理解が出来なかった。

 更に街中の建物を軽々と跳んで渡っていくデーモンの姿が納められた映像を見て、ジュニアが分析した。

「これは……フリーランニングだね。街中の障害物を避けて走り回る若者に人気のあるスポーツだ。まあ、下手したら不法侵入で捕まっちゃうけど」

「ジャッジ・ザ・デーモンもフリーランニングをしているのかしら? そもそも、私達よりも年下だったり。あの身長なら有りえるわね」

 ジュニアの分析に対して、アッコはデーモンが実は自分達より年下なのかもしれないと勝手な想像を膨らませる。何故ならジャッジ・ザ・デーモンは160はあるかないかの低身長と映像では分析された。

 そんな所に、またしても暇を持て余した風体を装って修司がやって来た。

「よっ、お前ら。鬼さんの正体は掴めたかい?」

 だが、最近になって益々自分勝手な行動が目立つようになってきた修司に皆は無視を決め込み、その中で唯一アッコが修司に駆け寄り話をした。

「修司! まだまだよ、でも少しずつデーモンの正体に確信が近付いてきたの」

「ほほう、それは良かったじゃないか。今、どの辺まで判明した?」

「うん、デーモンが着ているスーツは、タダのスーツじゃなくて戦闘力を飛躍的に向上させるパワードスーツである事。そのパワードスーツには、修司も良く趣味で着ているウィングスーツが内蔵されている事。デーモンが街中を駆け巡る際に見られる動き方はフリーランニングがベースになっているわ。他にも、自分の中の不安や自信の無さを隠す為に、わざと私達を嘲る態度を示していたらしいわよ」

「へへぇ、精神分析まで済ませたのかい? そりゃ、やっぱり亜美の診断だな。あいつ、最近は精神医学にも適っていると聞いているからな」

 アッコとの会話で、HEADの面々が鬼の正体に確信がついていない現状を知り、心中では安堵する修司。

 

 では此処で改めて、小田原修司の、いいやジャッジ・ザ・デーモンの一晩の様子を見てみよう。

 まず聖龍隊のHEADの大半が寝静まり、夜勤の隊士たちが活動し始めた頃。小田原修司は即座に行動に移す。

 自宅兼市長宅のエレベーターに修司とウッズしか持っていないカードキーを差し込むと、エレベーターは普通の行き方では決して降りない最下層まで降りる。

 そこはなるべく自然の洞穴を利用した湿気の多い危険地帯。だが修司はこの場で、己を鍛え上げるべくフリーランニングやアーバンフリークライミングを自主的に行い、鍛錬を積む事も多い。

 そしてその危険地帯を改造してウッズと共に秘密裏に製作した秘密基地の照明を灯して、修司は光が指し示す方へと歩む。

 其処にはウッズが毎日欠かさず調整してくれているデーモンスーツが保管されており、夜の闇へと意気込む修司はパワードスーツを取り出して身体の各所に装着していく。

 最初に両足を装着し、次に胴体部分のアーマーを装備し、その次は両腕を胴体に接合する様に着衣すると、最後には愛を感じない孤独な青年の素顔を覆い隠すヘルメット状のマスクを頭に覆い被せる。

 次にジャッジ・ザ・デーモンの姿になった修司は、装備を整える。

 磨き上げた鋭利な刃を持つ鬼手裏剣、敵の目を眩ます発光玉や煙幕、その他にも様々な装備を携え、ジャッジ・ザ・デーモンは夜の闇へと繰り出す。

 乗り物にはヘルロードという装甲車両とヘルウィングという戦闘機の二種が存在している。車の運転は、天王はるかからの英才教育で一通り学び、戦闘機の方は何とか独学で学んだ。

 そして夜の街へと繰り出したジャッジ・ザ・デーモンは、熱探知機とレーダーの二つの機能を備えたデーモンビジョンと呼ばれるマスクの大きな紅い瞳で犯罪者の姿を捉える。

 そして街で悪事を働いている者を見つければ、デーモンスーツと連動しているコンピューターから、その犯罪者に関する情報を引き出す。そしてその情報を見合わせた上で、犯罪者に平等な裁きを独断で下すのだ。

 凶悪犯や異常犯罪者ほど、また異常犯罪者のフリをしている悪人ほどジャッジ・ザ・デーモンは死につながる裁きを下す。例え生存しても、正常者としては生きられないよう脊髄を損傷させて下半身不随などに陥らせる。

 この時のジャッジ・ザ・デーモンは躊躇する事無く犯罪者や異常者を殺傷できる非情さを兼ね備えているが、小田原修司自身も可能なら相手を苦しめる行為はしたくなかった。

 だが、彼の信じる仲間、聖龍隊が曖昧な正義を振り翳し、人々の希望である限り、ジャッジ・ザ・デーモンは曖昧で矛盾している正義に代わって裁かれるべき悪人を断罪しするしか聖龍隊と言う希望を保持する事ができなかった。

 

 悪を倒す者が善ではない。正義や善人が悪人を裁く訳では無い。

 所詮はジャッジ・ザ・デーモンも聖龍隊も従来の正義と同じ。暴力、そして武力に動かされている。

 世界を良くする為に腐敗した警察や政府関係者を断罪するジャッジ・ザ・デーモンは常に孤高の中で闘い続けている。

 その闘いは、正義か? それとも暴力衝動か? 自問自答を繰り返しながらジャッジ・ザ・デーモンは毎夜独りで闘い続けている。

 

 

 

[感化される希望]

 

 孤高の断罪人ジャッジ・ザ・デーモンが毎夜犯す殺人や暴力事件を追いながら、デーモンの行方と正体を追い求める聖龍隊。

 HEADがデーモンの正体を暴こうと必死になっている最中、聖龍隊総長の修司は彼らに冷然と告げた。

「犯罪者を裁くのは大義でも無ければ、まして正義でもない。……単なる業だ」

 罪人を裁き、罰を与えるのは大義などではなく単なる業すなわち罪であるとHEADに伝える修司。

 彼の言葉に聖龍HEADは自分達が掲げる正義と言う曖昧な価値観に対して考えさせられる。

 一方で遂にジャッジ・ザ・デーモンの凶行は国際連合も動かし、多忙な中駆け付けた修司と副長のバーンズは国連から冷たくあしらわれた。

「犠牲を払い、戦い続けても……君らは非難の対象だ」

 所詮ヒーローと言う人外的存在が正義を語り、戦い続けても結局は悪者と同じく非難の対象になると国連から告げられた修司とバーンズは只々聞き受けるしかなかった。

 そんな国連からの言葉を聞いて落ち込む聖龍HEADに、修司は励ましに足される言葉を彼らに告げた。

「人間を守るには、人間じゃない力が……存在が必要なんだ」

 力無き者の剣となり盾となる希望は、もはや人間ではない存在が不可欠だと修司から言われる聖龍HEAD。

 自分達は人々の希望であると同時に、人間ではない人外的存在として戦い続ける宿命を負う聖龍HEAD。

 聖龍HEADはジャッジ・ザ・デーモンを追いながら、ジャッジ・ザ・デーモンと関わって行く内に正義と希望の象徴たる自分達と言う存在について深く考えさせられた。

 

 その一方で、アッコは単身修司が心配でしょうがなかった。

 アッコは一人で黙々と趣味に没頭する修司に静かに歩み寄り、話しかける。

「し、修司……」

「なんだアッコか。どうした、この暇人に何か用か?」

「い、いやぁ、用って事でもないんだけど……」

 アッコは勇気を出して修司に問い掛けた。

「あ、あのさ、修司……何だか最近、みんなと距離を置くようになったんじゃない?」

「………………………………」

「修司がさ、現実主義者で曖昧な正義をあまり好んでないってのはよく解ったわ。けれど、せっかく聖龍隊という一つの枠に収まった仲間達を逆撫でする様なこと言うのはないでしょ? 修司もようやくアニメタウンに帰って来られたんだから、みんなと仲良くしましょうよ」

 だが、このアッコの提言に修司は真顔で語った。

「……俺がいない方が、みんなにとっては気楽なのかもしれない」

「え?」

「俺は既に変身もできないタダの真人間だ。そりゃ、Dのパワーで少しは戦える様になってはいるが、暴走してちゃ、何の意味も無い。要するに俺は今のままじゃ、聖龍隊のお荷物って事よ」

「そ、そんなこと……!」

「そんな事ないって言ってくれるのか? でも、俺はそれはそれで自由気ままに生活できるから良いけどよ」

「……修司は、修司は戦えない自分が辛いの?」

「最初はな。だが今では落ち着いて戦況を見届ける腹も決まっている。戦士として、そして弱者を守る者として大切な信条を俺は掲げるつもりだよ」

「大切な、信条……」

 アッコが愕然としていると、修司はアッコの顔に自分の顔を近づけて信条を脳内に叩き込んだ。

「恐れるのは死ぬ事じゃない、失う事だ」

 そう言い終わると、修司は一人でアッコの前から立ち去ってしまう。

 

 一方のジャッジ・ザ・デーモンは毎夜の如く日本やアニメタウンを離れて、海を渡った海外にまで出没していた。

 世界中の金は汚れているという南米ブラジル。

 此処には「ガリンペイロ」という金採掘者、数人のチームで金を探す無法者達が働いていた。

 水銀を使用し、人体に悪影響な採掘を続ける彼らは、森も川も汚し、自然破壊当然の金採掘を続けていた。

 しかしガリンペイロは数が多く、暴動を起こされるのをブラジル政府は非常に恐れているため、むしろ彼らに金採掘の許可証を与えているのが現状。

 そんな南米ブラジルの不法な金採掘所で働く貧しい人々よりも、ジャッジ・ザ・デーモンは私腹を肥やすブラジル政府関係者断罪していった。

 

 また南米ペルー、及び世界各国の金鉱山でも同様の事件が発生していた。

 水銀で妊婦が流産し、多くの死者が出る事態が起こったが、企業側がデモを敢行する市民に発砲した事で争いが激化。

 金の採取に使われる水銀で多くの被害者が出る中、不法な自然破壊・不法な金採掘を、ジャッジ・ザ・デーモンが襲撃して緩和させた。

 

 世界中の悪と、私腹を肥やす権力者達と孤高な闘いを続けるジャッジ・ザ・デーモンは誰の理解も得ず、誰からの支援も得ないまま闘いの中に没頭する。

 そんな心身ともに疲労していくジャッジ・ザ・デーモンを、秘書であるウッズ・J・プラントが助言を掛ける。

「修司様、そんなに気を張り詰めてしまえば御自身が参ってしまいます。少しお休みになっては?」

 だが修司ことジャッジ・ザ・デーモンはウッズに言い返した。

「だがウッズ、俺がこうして一息入れている間にも悪人は……罪人共は多くの罪なき人々を不幸に陥れ、絶望の涙を流させている。私利私欲に溺れた腐敗した警察や政府機関の人間には任せてはいけない善行を……いや、善と悪の狭間で人を裁かなければならない人ならざる者の存在が不可欠なんだ」

 デーモンはウッズに腐敗した警察や政府の人間に出任せな捜査をさせずに、善と悪の境界線の中で犯罪者を裁く人ならざる者の存在が必要不可欠だと説いた。

「修司様、貴方は正義とは立場で簡単に変わってしまう単なる価値観だと認識して忌み嫌っているのは周知しています。でも、そんな修司様でも信じられる正義はあるのですか?」

 ウッズから問い掛けられたジャッジ・ザ・デーモンは、少し考える素振りをするとウッズに返答した。

「もしこの世に本当に正義が存在しているとしたら、それはおそらく真実だろうか」

「真実、ですか……」

「そうだ、真実を追求し、そして白日の下に晒す事が正義なのかもしれないと俺は実感している。だが、時に真実とは惨く悲しいものだ。真実の中には、暴露すれば世界情勢が激変してしまう厄介な真実も多々ある。そんな真実を見極め、公にすべき真実と秘密のままにする真実の二つを見据えなければ、ジャッジ・ザ・デーモンによる制裁は行えん」

「……真実と正義は紙一重、なんですね……」

 ジャッジ・ザ・デーモンからの返答を聞いて、ウッズはその真意を察した。

 

 そんな唯一ジャッジ・ザ・デーモンとしての自分を受け入れて協力してくれるウッズに感謝する暇も無いまま、ジャッジ・ザ・デーモンは夜の街へ世界へと出動するのだった。

 

 ジャッジ・ザ・デーモンが活躍する度に、自分達の正義や理想が護られているのを実感しつつある聖龍HEADは、それでもジャッジ・ザ・デーモンの非情なる制裁を止めようと躍起になっていた。

 しかしデーモンと抵抗すればするほど、自分達の正義が如何に乏しく無力なものかを痛感される聖龍隊は次第に落胆していった。

 そんな聖龍HEADに修司は助言どころか、デーモンと同じく厳しい現実をHEADに突き付けるばかり。

 修司の言動に怒りが上り詰めるエンディミオンや他の聖龍HEADだったが、現実を厳しくも的確に捉えている修司の言葉に同意せざるを得なかった。

 激動する時代、変わり続ける世界情勢。二次元界と三次元界が融合した事で混乱が起きてしまう世界にHEADはまだまだ適応しきれなかった。

 そんな中で現実的な視野で自分達に悪態をつく修司と罪人を裁くジャッジ・ザ・デーモンの存在に、聖龍HEADは感化されるのだった。

 

 小田原修司から、そして密かにジャッジ・ザ・デーモンからも希望だと認識される聖龍HEADは今後、激動する世界情勢に適応できるのだろうか。

 そして彼らが理想であり希望である限り、小田原修司もジャッジ・ザ・デーモンの呪縛から逃れられない。

 

 

 

[動き出した悪夢]

 

 遭遇すれば忽ち激戦を繰り広げるか、追走劇に発展してしまうジャッジ・ザ・デーモンとの攻防に聖龍隊全体が悩まされていた頃。

 アニメタウンで事件が発生した。ジャッジ・ザ・デーモンによって居場所を失った犯罪者達が密かにアニメタウンに集結しているという情報が入った。

 聖龍HEADは直ちに犯罪者達が蔓延っている現場を突き詰めて、計画を未然に防ごうと躍起になっていた。

 無論、そんな聖龍HEADの行動を無線を傍受していた小田原修司いやジャッジ・ザ・デーモンの知る由となる。

 聖龍隊はアニメタウン全域に行き渡らせた隊士からの通達で、犯罪者達が何処に集っているのかスグに特定できた。

 聖龍隊は早速、その現場に駆けつけ、外部から内部へと密かに侵入。中の様子を探りながら建物内を突き進んでいった。

 が、そんな聖龍隊の行動を上空のヘルウィングから建物に侵入した聖龍HEADの様子を見守っていた。

 同時にデーモンは彼らが使用している無線機までも傍受して、彼らの話を盗み聞きしながら無事に事が終わる事を祈っていた。

 

 聖龍HEADが建物内に侵入してみると、其処には多くの電動車椅子で何かの研究や作業をしている人物が目立った。

「な、なに此処? 障害者専門の工場な訳、ないわよね……」

 室内で作業する人々を見て、キューティーハニーも同行するミラーガールも顔を見合わせる。

 と、その時だった。室内を見張る二人の真後ろから謎のガスが吹き付けられ、ミラーガールもキューティーハニーも気を失ってしまう。

 同じ頃、別の出入り口から進入した木之元桜とナースエンジェルが潜入した所にも、不覚にも真後ろから謎のガスを浴びせられて少女二人は気絶してしまう。

 四人が目覚めてみると、周りには厳つい顔の車椅子の男達が群がって完全に逃げ場を無くされていた状態が。しかも四人の腕は後ろ手に縛られてしまってた。

「こ、これは……!」

 ミラーガールが顔を上げて、何とか周りを見渡そうとしている所に、部屋の奥から一人の真っ黒い不気味なオバケみたいなマスクを被った人間がやって来た。

「あらら、これは……最近の犯罪者はマスクを付けるのが流行りなのかしら?」

 縛り上げられているにも関わらず、強気な姿勢を崩さないキューティーハニーの言動に、マスク姿の男は不敵な微笑を発しながら四人に歩み寄る。

「フフ、フッフッフッフ……遂に捕えたぞ、自分を正義だと思い込んでいる重症患者、ヒロインを……!」

 この黒マスクの発言にミラーガールが反論する。

「はぁ? 何を言ってるのあなた。私達が重症患者って、そんな訳ないでしょ……」

「静かにしろ! この異常者共め……!」

 ミラーガールが反論を言っている途中で怒鳴り散らしてくる黒マスクの男は、怒りで身震いしながら四人のヒロインの前で告げた。

「毎度毎度そうだった……頭の可笑しい、キチガイ共が私の前にやって来てナオセナオセと壊れたスピーカーの様に殺到してくる。そんなキチガイばかりを相手にしていれば、私の医者としての知数が落ち込んでしまう! そんなに頭が可笑しいなら、トコトン発狂させてやる……!!」

 狂気染みた発言を申す黒マスクの言動を前に、黙って話を聞き入る四人だったが、そんな中でナースエンジェルがマスクの言動を聞いて彼の正体にピンと来た。

「ま、まさかあなた……刑務所から脱走中の肥田裕久(ひだひろひさ)!」

 ナースエンジェルの発言に他の三人は愕然としてしまう。いくら患者の精神を可笑しくさせていた暴力団と麻薬のやり取りをしていた肥田裕久が、まさか二次元界にいるとは思いも寄らなかったからだ。

 すると不気味な黒マスクを被る肥田裕久(ひだひろひさ)は、狂狂しく四人に告げた。

「此処にいる者たちが何者か解るかね? ……私と同じ、ジャッジ・ザ・デーモンによって全てを奪われた者たちだ。多くが半身不随という障害者に、欠陥品にされてもう自由が制限された者たちなのだ! 今、我々はジャッジ・ザ・デーモンを……ゆくゆくは彼を生み出したこのアニメタウンに恐怖を齎す為に研究を進めているところだ」

 ジャッジ・ザ・デーモンを生み出したのは二次元界だと説く肥田裕久(ひだひろひさ)の暴言に、木之元桜は問い返す。

「な、なんでジャッジ・ザ・デーモンが二次元界生まれだと……二次元人だと決め付けるの?」

「なんでだと!? お前たち二次元人は我ら三次元人の思想概念から生まれる存在ではないか! 人を殴りたい、思いっきり人を殺してみたいという思想概念が、あのジャッジ・ザ・デーモンを生み出した以外、考えられん!」

 そして肥田裕久(ひだひろひさ)は一本の注射器を取り出すと、徐に縛り上げられている四人のヒロイン達の元へと歩み寄ってきた。

「ウフフ……人々の思想概念から生まれた人ならざる者が、どんな恐怖を醸し出してくれるか見物じゃわい」

 そういって肥田裕久(ひだひろひさ)はミラーガールの前まで歩み寄ると彼女の絹の様に白くて柔らかい腕に注射器を打ち込もうとする。

「安心しろ……これは私が作った中でも特性の恐怖を呼び起こす悪夢の薬だ。これで君も私たちと同じ、精神的異常者だよ」

 と、肥田裕久(ひだひろひさ)がミラーガールの腕に注射器を打とうとしたその瞬間。

 天井のガラスを打ち破って外部からジャッジ・ザ・デーモン本人が内部に突入した。

 デーモンが内部に飛び込んだのを視認したメタルバードも、仲間の救出と共にジャッジ・ザ・デーモンの摘発を狙っていた。

 一方のジャッジ・ザ・デーモンは強力な武器を搭載している電動車椅子を乗り回す犯罪者達の猛攻を掻い潜り、全員を強引に武装されてる電動車椅子から降ろして暴力を振るって畳み掛ける。

 その最中に肥田裕久(ひだひろひさ)は卑怯にも一人だけで逃げ出そうとその場を立ち去ろうとする。が、その目前でジャッジ・ザ・デーモンに捕まり何度も暴力を振るわれて昏睡状態に陥った。

 大方の敵を全て残忍な暴力で解決したジャッジ・ザ・デーモンはスグに捕まっている四人の元に歩み寄った。

「お前達、大丈夫か?」

 敢えてロボットの様な言い方でヒロイン達に問い掛けるジャッジ・ザ・デーモンだったが、彼の目に予想外の光景が飛び込んだ。

「み、ミラーガール!」

 なんとジャッジ・ザ・デーモンが突入する寸前のところで、肥田裕久(ひだひろひさ)は薬をミラーガールに投薬した直後だった。

「ううっ……」

 恐怖と言う幻覚を見ているのか、ミラーガールは酷くうなされていた。

「チッ、厄介な事を……!」

 苛立つジャッジ・ザ・デーモンは、四人を縛り上げる縄を手裏剣の刃で切り裂くと、ミラーガールを抱き抱えて自分が突入してきた屋根から外に戻ろうとする。

「ま、待って! 私が治療を……!」

 外に飛び出そうとするデーモンをナースエンジェルが呼び止めるが、ジャッジ・ザ・デーモンは彼女に強く異議を唱えた。

「打たれた薬は外傷とか、あんたが治せる治療外の範囲だ! 急がないと、恐怖で心拍数が上がって最悪の場合心臓が止まる!」

 ジャッジ・ザ・デーモンから言われた事実に愕然とする三人。するとジャッジ・ザ・デーモンは上空に待機させているヘルウィングに彼女を乗せて自らも運転席に搭乗した。

 外に待機していたメタルバードは、ミラーガールを連れて行ったのに加えてジャッジ・ザ・デーモンの行方を追う為に、事件現場の検証はジュニアに任せて自分は単身デーモンとミラーガールの追跡に勤しんだ。

 

 ヘルウィングの中では、ジャッジ・ザ・デーモンは必死に意識を保持させようとミラーガールに呼びかけていた。

「ミラーガール! ミラーガール! ミラーガール!」

 本気で彼女の安否を気にして必死に名前を呼び掛け続けるジャッジ・ザ・デーモン。

 そんな彼の必死の看病など知る由も無いメタルバードは、追跡を続行していた。

(チッ、こんな時に……!)

 急いでデーモンの秘密の隠れ家に連れて行き、救急治療を行わせなければならないミラーガールの安否を気にするが、メタルバードの追跡は収まる事は無かった。

 ジャッジ・ザ・デーモンはメタルバードの追跡を逃れる為に、最終手段に打って出た。それはヘルウィングに搭載されているミサイルを小田原修司の自宅すなわち自分の家に発射して、メタルバードがミサイルに気を取られている内に急いでミラーガールを運び込もうとする危険な策だった。

 だがやらなければミラーガールの意識は低迷する一方であり、修司自身もメタルバードがミサイルをどうにか破壊して近隣住民に被害が出ない様にしてくれる事を信じてミサイルを発射した。

「うわっ、マジかよ!」

 ミサイルを撃って来たジャッジ・ザ・デーモンの戦闘機に驚き慌てふためくメタルバード。するとそのミサイルが相棒である修司の家に向かっているのが確認された。

「おいおいっ、よりにも寄って修司の家かよ! チクショーー」

 メタルバードはこの緊急事態に、追跡を断念せざるを得ず、旋回してミサイルの方へと飛来していった。そしてミサイルが修司がいるかもしれない市長宅に直撃する寸前に破壊できた事で、ミサイル爆破の際に飛び散る破片での被害も少なからず抑えられた。

 

 一方、メタルバードの追跡を逃れて、デーモンの基地に戻った矢先、ミラーガールの意識がフッと飛んだ。

「アッコ!!」

 意識を完全に失ったミラーガールを直視して彼女の本名を叫ぶジャッジ・ザ・デーモン。

 そして戦闘機は基地に着陸して、その傍らでデーモンからの連絡を受けていたウッズが用意していた担架に彼女を乗せて治療室へと運んだ。

 幸いにも、以前から肥田裕久(ひだひろひさ)が調合した恐怖を見るという薬を調査していたウッズには、その薬やガスの効果的な治療薬がスグに精製できた為にミラーガールは助かった。

 それからジャッジ・ザ・デーモンは意識が安定し眠りに就いたミラーガールをヘルウィングで移送して、聖龍隊の基地前にそっと寝かして置いた。

 

 一方、肥田裕久(ひだひろひさ)達が研究を行っていた場所からは、アニメタウン全域に流れる水道管が露出しているのが発見され、ジュニアは恐れた。

 肥田裕久(ひだひろひさ)たち犯罪者たちが調合した薬が水道管に流されているのかと。

 だが尋問の結果、意外な事実が判明した。確かに犯罪者グループは水道管に大量の薬を散布したと供述したが、その薬は全て霧状で人体に入らないと効果を現さない薬品だった。

 

 しかしこの時、本当にアニメタウンを脅かす驚異を聖龍HEADはもちろんジャッジ・ザ・デーモンも気付いてはいなかった。

 

 

 

[衝突]

 

 ミラーガールこと加賀美あつこの命をどうにか救えたジャッジ・ザ・デーモンこと小田原修司は長かった夜を越えた。

 そして明朝、寝ぼけ眼で食卓に下りて、一人でシリアルを食していると其処に秘書であり唯一自分の裏の事業を手伝ってくれているウッズが不満そうな顔でやって来た。

「おはようございます。今朝の新聞を見ましたか?」

「おはよう……いや、見てないな」

 修司がウッズに返事すると、ウッズは持ってきた新聞を修司の前に投げ出した。

 修司は新聞に目を通してみると、記事には昨晩の事が書かれていた。「アニメタウン上空でミサイル発射!?」「ジャッジ・ザ・デーモン戦闘機でミサイルを使用」など、昨晩の修司の荒事について記されていた。

「……なんでミサイルなんか街中で使ったんです? 下手したら罪もない人々に被害が出ていたところですよ?」

「昨日はしょうがなかったんだよ。バーンズの追跡を逃れる為には、あれぐらいしないと……」

「もしミサイルが誤爆して、民間人の家を吹き飛ばしていたら? ミサイルの破片が民間人に被弾したら……考えなかったんですか?」

「そこまで考えが追いつかなかったんだよ。急だったからな……」

「修司様、貴方はもっと良く考えて行動するべきです! イタズラに市民の生活を脅かす為にジャッジ・ザ・デーモンになっている訳ではないでしょ!」

 ウッズの説教に修司はシリアルを食べながら一言。

「…………済まなかった…………」

 素直に自分の非を謝罪する修司に、ウッズも少しばかり冷静になる。

「お分かりになられた様で良かったです。ジャッジ・ザ・デーモンは人々の生活を陰ながら護る存在であって、脅かすものではない……そうでしたよね?」

「ああ……」

「……修司様、なぜ私が貴方に協力してジャッジ・ザ・デーモンの支援にも回っていると思いますか? それは現実的に聖龍隊の正義だけでは多くを救えないからこそ、その穴埋めをする今までの正義とは全く違う抑制力が必要だから。そう貴方に説かれて支援しているんです。そのジャッジ・ザ・デーモンが罪なき人々を危険に陥れる真似だけは決してしないでくださいね」

「解ったよ、ウッズ……」

 ウッズの説教を聞いた修司は、空になった皿を置いたまま立ち上がり、着替えをして聖龍隊本部に向かった。

 

 ウッズの説教を存分に聞いた修司は、無愛想な面構えでいつもの如く聖龍隊本部に入った。

 そして修司はHEADが会談している所に顔を突っ込んだ。

「おはよう諸君。昨日の晩はやけに忙しかったようだな」

「ええ、あなたが遊び回っている間にね」

「口が尖ってきたな、愛」

 顔を突っ込んだ矢先に尖った口を向けてくるコレクターアイに修司は真顔で返事した。

「新聞見たぞ。ジャッジ・ザ・デーモンと空中戦をしたらしいな」

「ああ、あの野郎……市街地でミサイルなんかぶっ放して下手したらお前とウッズが寝ている市長宅を吹き飛ばしていたところだ」

「でも、お前なら簡単にミサイルを止められた筈だろ? 俺がこうして生きているのが何よりの証拠だ」

「へっ、まあな」

 修司とバーンズが何気ない会話をしていた時、修司はある事に気付いた。

「ん、そういえばアッコの姿が見えねえが……」

 この修司の疑問にナースエンジェルが答えた。

「アッコさんは今、治療室で休んでいるわ。昨晩、肥田裕久(ひだひろひさ)に薬を打たれてまだ昏迷しているの」

「そうか……」

 昨晩の秘密基地での治療には間違いなかったものの、未だアッコは意識が消耗している現状に修司は内心動揺した。

「アッコちゃんが大変な目に遭ったって言うのに、何とも思わないの? 修司くん」

 そんな無愛想で気持ちを表に出さない修司に、セーラームーンが膨れっ面で反論。しかし修司は表情を崩さず、冷然と言い返した。

「戦士と言うのは常に、命懸けで戦いに挑まなければならない。それが常識だ」

「戦士は消耗品だって言いたい訳?」

 セーラーマーキュリーが鋭い視線で問い返すと、修司は真顔で答える。

「そうとは言わん。だが命を懸けて戦わなければ、敵から大事な市民は護れん」

「私たちは敵と戦っている訳ではないわ。同じ人を制止しているだけよ」

 修司の言動にキューティーハニーが睨む様に反論すると、修司は涼しげな顔で言った。

「俺たちが今、戦っている相手はかつての様な怪人や怪物などではない。同じ人間だ。人間とは罪を犯し、私利私欲を貪る生き物だ。その生き物を抑制する為にも聖龍隊は戦い続けなければならない」

「そ、そんな……!」

 修司の冷然な言動に獅堂光が愕然とするが、修司の言論は止まらない。

「俺達が……いや、お前達が掲げている正義は所詮は矛盾の塊だ。だが、矛盾を超えてこそ人の世は存在する。人の世こそ矛盾で成り立っている。そんな世だからこそ、お前達の正義では万民は護れないのかもしれん」

 と、修司が言論を語っていると、遂に我慢できなくなったキング・エンディミオンが立ち上がり、修司に歩み寄る。

 そしてエンディミオンは、地場衛は修司を殴り飛ばした。

「ッ!」「まもちゃん!」

 殴り飛ばされる修司を見て、セーラームーンも他の聖龍HEADも一驚した。

 そしてバーンズが興奮する衛を宥め止めようと背後から押さえ付けるが、衛は押さえられながらも修司に怒鳴った。

「……解っているさ。俺達が掲げている正義がどんだけ無力で、現実には通じないか……! だけどな! うさぎやみんなの……努力して成し得ようとする正義まで馬鹿にする権利はお前には無い!!」

 衛の苦言に、セーラームーンも他の聖龍HEADも沈黙した。

 そして殴り飛ばされた修司は、自分の口から零れる血を手で拭うと衛に嫌味を言った。

「人を殴る術を……傷付ける術を忘れちゃいなみたいだな。結構な事だ……その調子で護るべき人間もぶっ飛ばして、聖龍隊の権威を保持しろや」

 この修司の冷遇した言葉に、その場の全員が衝撃を受けた。

 そして修司はその場を立ち去ろうとした、その時。

 修司が去ろうとした部屋の入り口の前にアッコが暗黙した顔で突っ立っていた。彼女は今の修司の話を聞いていたのだ。

 そして皆の期待や努力を否定した修司に、アッコは思わず顔を叩いてしまう。

 顔を叩かれて唖然とする修司、顔を叩いてしまい無言になるアッコ。両者は互いに言葉を交わす事無く、修司はその場から立ち去ってしまった。

 

 それから数日後。

 HEADとの衝突以来、彼女らと会話する事が無くなってしまった修司は一人黙々と市長としての仕事に従事していた。無論、ジャッジ・ザ・デーモンとしての責務を行いながら。

 と、そんな市長宅に深夜遅く来訪者が。この時、市長宅にいたのは修司とウッズだけだで、ウッズの息子にして修司の義兄弟であるジュニアは聖龍隊本部で勤務していた。

「こんな遅くに誰でしょう……?」

 ウッズは来訪者の姿をインターホンのカメラで確認してみると、玄関前にいたのはあの地場衛だった。

(衛さん……こんな遅くに! ひょっとして修司様と喧嘩した事で話に来てくれたのかもしれませんね)

 息子のジュニアより、数日前の発端を聞いていたウッズ。このところ誰とも会話をしなくなった修司の現状に頭を悩ませていた彼だったが、地場衛の来訪に期待が高まった。

「はいはーい、いま開けますから……」

 そう言って玄関の鍵を開けてドアを開けるウッズ。だが、次の瞬間。

「ッ!」

 なんとドアを開いたと同時に、地場衛がウッズを鈍器の様なもので殴り付けて押し倒してしまった。

 倒れながらウッズが目を凝らして見てみると、それは衛ではなく衛のコスプレをしていた見知らぬ男性だった。

 しかもその男性に続いて、続々と家に男達が雪崩れ込んできて、市長室にいる修司目掛けて前進していった。

 だが、部屋の外から感じる殺気に気付いて、戦闘態勢に入る修司は男達を迎撃する。

 男達と凌ぎ合いの乱闘を繰り広げ、傷付きながらも戦い続ける修司。

 ようやく全ての男達を叩きのめした修司は、まだ意識のある男の胸倉を掴んで尋問し始めた。

「テメェらは何者だ?」

 すると男は正直に吐いた。

「わ、我々はアルカイダ! 異形の者たちが住む、この街に報復しに来たのだ! 小田原修司……二次元人というバケモノを護ろうとする貴様にも、アッラーの神々の罰を与える……!」

「罰なんかどうでもいい? 貴様らだな、この街に肥田裕久(ひだひろひさ)なんていう狂人や三次元界の悪党どもを入り込ませ、街の水道管に薬を撒き散らしたのは……!」

「解っているようだな……! 今夜、この街は罰を受ける! 偉大なるアッラーの神々からの罰が……!」

「けっ、狂人が……!」

 修司はイスラム系のテロリストを狂人呼ばわりした上で、テロリストの頭に強烈な頭突きを喰らわして気絶させる。

 そんな修司は乱闘の中で傷付き消耗してしまい、その場に座り込んでしまう。

(い、行かねえと……街が、アニメタウンが……!)

 愛する二次元人たちが住むアニメタウンの危機に、修司は立ち上がり、制裁の鬼へと変わる為に動こうとする。しかし頭を強く殴られていた為に思う様に動く事が出来なかった。

 そんな修司の元に、先ほどテロリストに強打されたウッズが歩み寄り、修司の肩を担いでエレベーターまで運ぼうとする。

「う、ウッズ……お前も頭をやられたというのに……」

 修司が言うと、ウッズは頭から流血しながら修司に言った。

「貴方を放っては置けません……故に、私だけでも貴方を裏切る訳には行きません」

 修司を担ぎながら、ウッズは彼と共にエレベーターに乗り込み、地下へと移動してジャッジ・ザ・デーモンの秘密基地へと移動した。

 

 

 

[アニメタウンの同時多発テロ]

 

 そしてその晩、事件は起きた。

 前々よりアニメタウンに潜入していたイスラム系テロリスト達が行動を発起した。

 彼らは超音波による水道管破裂を引き起こし、水道の水を霧状に散布して水に溶け込ませている薬を街にばら撒いた。

 それによって街は肥田裕久(ひだひろひさ)が調合した恐怖の幻覚剤で混乱に陥った。

 更に街の至る所で暴動が起き、その影ではイスラム系テロリスト達が暗躍していた。

 その暴動が起こった区域に在る刑務所から、テロリスト達は街を混乱させる為に囚人達を解き放つ。その中には投獄され、三次元界に移送される直前の肥田裕久(ひだひろひさ)も居た。

「持ってきてやったぞ。これで思うがままに恐怖をばら撒け」

 テロリストが投獄されてる肥田裕久(ひだひろひさ)に投げ渡したのは、肥田が大事に所持していた黒い端切れで作られたマスクだった。肥田裕久(ひだひろひさ)は黒いマスクを被り、混乱に喘ぐアニメタウンに飛び出して、市民を恐怖に陥れる。

 更に悪い報告が聖龍HEADに届いた。旅客機が一機、イスラム系テロリストに占拠され、それがアニメタウン目掛けて飛行していると言う。

 テロリストの狙いは一目瞭然だった。アニメタウンに旅客機を撃墜させて、9・11のテロ事件と同様の惨劇を引き起こす算段だった。

 

 この状況下に、HEADは深く落胆していた。

 人を信じ、人を疑わずに、人の良心ばかり見てきた彼らが行ってきた正義は、非情な人間の本質で見るも無残に打ち砕かれてしまった。

 自分達の正義の無力さゆえに護るべき街をアニメタウンを護れず、混乱と恐怖に陥れられ、今その街に悲劇と言う名の旅客機が迫っていた。

 この現状に打ちひしがれ、絶望するHEADの元にあの鬼が姿を現した。

「まだ終わってはいない。まだ人々を護れる」

 打ちひしがれる聖龍HEADの前に忽然と姿を現したジャッジ・ザ・デーモンの言葉に、キング・エンディミオンが怒声を吐く。

「何が終わってない、だ。お前なんかに何が分かる……!」

 するとデーモンは手に持っていたジュラルミンケースを渡しながらHEADに言った。

「分かる。お前達は如何なる絶望に陥っても、決して諦めないという事を……」

 デーモンの言葉を聞きながら、バーンズが渡されたジュラルミンケースを開けてみると、中には数本の薬品が詰まった注射器が納められていた。

「こいつは……!」

 バーンズが驚く中、デーモンが返答する。

「それは肥田裕久(ひだひろひさ)が調合した薬の解毒剤だ。恐怖を呼び起こす薬が体内に入る前に自らの体に注射すれば効力がある。ただし大量には精製できなかった、お前達HEADの分だけで精一杯だった」

「わ、私達だけの……? でも、なんで……」

 ナースエンジェルが問い返すと、ジャッジ・ザ・デーモンは静かに語り返した。

「お前達は俺とは違う……この街の、アニメタウンの……いいや、世界の希望たる存在だ。お前達が諦めずに戦い続ければ、自ずと希望が現れる事だろう」

 ジャッジ・ザ・デーモンから世界の希望であると説かれたHEADは、今まで見た事のないジャッジ・ザ・デーモンの言動に驚かされた。

 そしてHEADに解毒剤を渡したジャッジ・ザ・デーモンは振り返ってそのままその場を立ち去ろうとする。

「待って! あなたは何処に……?」

 ミラーガールが自分達に解毒剤を渡したジャッジ・ザ・デーモンに駆け寄り、問い掛けると鬼は立ち止まり答えた。

「俺はアニメタウンに飛来してくる旅客機をどうにかする。最悪の事態は避けねばなるまい……その間、街はお前達に任せる。一人でも多くの弱者を救済しろ」

「あなたは……あなたは、一人で敵の懐に飛び込もうっていうの? 無謀すぎる……!」

「今まで俺がやってきた事と同じだ……誰かがやらなければ、多くは救えない。なに、死ぬつもりはない」

「恐くないの? ……死ぬ事が恐くないの?」

 ミラーガールが悲痛な面持ちで問い掛けると、ジャッジ・ザ・デーモンは彼女に顔を合わせて唱えた。

「恐れるのは死にあらず……失う事のみだ」

「!!」

 この言葉を聞いたミラーガールは全身に衝撃が走った。以前、ジャッジ・ザ・デーモンと同じ言葉を彼女は想い人から聞かされていたからだ。

 そしてその瞬間、ミラーガールは鬼の素顔と真情を悟った。

「あ……あ……」

 余りの衝撃で後ろによろめいてしまうミラーガールを、バーンズたちHEADが慌てて支えた。

「あ、アッコ……!?」

 突然よろめいてしまうミラーガールを前に、不思議がるバーンズたち。

 するとジャッジ・ザ・デーモンは目前のHEADたちに向かって、語り明かした。

「俺は……お前達の様にはなれない。だが……お前達を生かす事ぐらいはできる……!」

 次の瞬間、ジャッジ・ザ・デーモンは背面から建物の上より飛び降りて、空中で体勢を立て直すと翼を広げて滑空し、混乱に喘ぐ街の中に突っ込んでいった。

 

 夜の街は既に、肥田裕久(ひだひろひさ)が調合した恐怖薬の影響で市民が全員、恐怖と混乱に喘いでいた。

 その夜の街の上空を滑空するジャッジ・ザ・デーモンの恐ろしい姿を目視して、市民は余計恐怖を感じずには要られなかった。

 こうしてアニメタウンの人々は、一夜にしてジャッジ・ザ・デーモンの恐ろしさを脳裏に刻む事となった。

 

 その頃、ジャッジ・ザ・デーモンから渡された解毒剤を注射して混乱に喘ぐアニメタウンに出撃していった聖龍HEADは、事態の収拾に全力を尽くしながらもミラーガールから言伝された真実に葛藤していた。

「くそ……クソッ。なんで気付かなかった……!」

 いつも自分達を陰ながら見守り、時には悪態にも近い現実を衝いてきた、相棒や悪友にも近い青年の真実に今まで気付かなかった自分達の腑抜けさにバーンズもその他のHEADも己に苛立ちを感じていた。

 現実と言う闇の中で生まれ育ち、障害ゆえに永遠にその闇から抜け出せず、闇の中からでしか戦えない青年の真実を。もう一つの顔を知って、苦悩する聖龍HEAD。

 そんなHEADの前に、あの恐ろしいマスクを被ってテロリストから渡された銃を乱射して市民に恐怖を与えている肥田裕久(ひだひろひさ)が現れた。

「肥田!」

 肥田裕久(ひだひろひさ)を見つけて声を挙げるセーラージュピター。すると肥田裕久(ひだひろひさ)は空に向かって銃を乱射しながらセーラージュピターに言い返した。

「違う! 私はナイトメアだ!」

 自らをナイトメア(悪夢)と自称するまで狂気に染め上がった肥田裕久(ひだひろひさ)の暴挙を前にして、セーラージュピターは最早話し合いでは解決できないと見た。

 そしてセーラージュピターは今でも上空で旅客機を何とかしようと善戦しているジャッジ・ザ・デーモンの事を、友の事を思いながらナイトメアに突っ込んだ。ナイトメアはセーラージュピターに銃弾を浴びせようと発砲するが、ジュピターはこれを素早く回避し、ナイトメアに急接近。そして強烈な電撃をナイトメアに放った。

「うぎゃあああああああ!!」

 電撃を浴びて絶叫するナイトメア。そして電撃による火花が原因か、ナイトメアが被っているマスクが燃え出し、ナイトメアは電撃の次に灼熱の業火に包まれた。

「うおおおおおおおおお!!」

 熱さの余り、混乱して逃げ惑う人々の群集の中を駆け出すナイトメア。そのまま悪夢は群衆の中に姿を消してしまった。

 

 

 

[占領された機内の中で]

 

 その頃、ジャッジ・ザ・デーモンはヘルウィングで旅客機に接近していた。

 機内には多くの市民が残っているが、時間が余りにも無い為、ジャッジ・ザ・デーモンは非常手段に打って出た。

 それは旅客機のドアに小型ミサイルを撃ち込んで、強引に中に侵入する算段だった。

 ジャッジ・ザ・デーモンはミサイルを発射し、旅客機のドアだけを打ち破った。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンはヘルウィングから飛び出すと、スーツに収納されている翼で滑空して吹き飛ばした扉に向かって飛んだ。

 旅客機内に進入したジャッジ・ザ・デーモンは翼を再びスーツに収納すると機内を進んだ。

 するとほぼ全ての席に乗客が乗っているのが確認できたが、何故か乗客を見張るテロリストの姿が視認できなかった。

 ジャッジ・ザ・デーモンは乗客も救うべく、急いで制圧されているであろう運転席の方へと駆け出した。すると、そんな駆け出すジャッジ・ザ・デーモンの姿を認識した乗客が鋭利な刃物を持ち出した。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンが運転席に向かう途中、なんと全ての乗客がジャッジ・ザ・デーモンに向かって襲い掛かってきた。

 驚くジャッジ・ザ・デーモン、彼が目を凝らしてみると、なんと全ての乗客の頬にはJDの焼印が。乗客の正体はテロリストに唆されて旅客機に乗り込んだ、過去にジャッジ・ザ・デーモンに罰せられた悪党達だった。

 悪党達はジャッジ・ザ・デーモンに全てを奪われた腹いせとして、彼に鋭利な刃物で滅多刺ししてきた。が、防弾防刃効果のあるデーモンスーツを貫通することは無く、ジャッジ・ザ・デーモンは自分の不手際で生かしてしまってた悪党達に反撃すると同時に死を与えていった。

 ジャッジ・ザ・デーモンの両腕から突出した鋭利な鉄の爪で刺殺される者もいれば、心臓を切り裂かれて絶命する悪党も居た。

 多勢に無勢の独りでの戦いで満身創痍になりながらも、ジャッジ・ザ・デーモンは乗客に扮した悪党達を全て惨殺していった。

 と、ここで一人の悪党が旅客機内に備えられている消火器でジャッジ・ザ・デーモンの顔面を思いっきり殴り付けて、大きな紅い目の部分が崩落してしまった。これにより素顔の一部分が露出したが、ジャッジ・ザ・デーモンは怯まずに応戦し続ける。

「! お、お前は!」

 中には大きな目が無くなった事で露出した顔を見て、小田原修司だと気付く悪党もいたが、そんな悪党も含めてジャッジ・ザ・デーモンは惨殺していった。

 

 そして全ての乗客に扮した悪党達を惨殺し、大量の返り血を浴びたジャッジ・ザ・デーモンは運転席へと急いだ。

 すると道中、既に悪党やテロリスト達に殺された乗務員の哀しい死体が確認された。

 これに怒りを露にするジャッジ・ザ・デーモンの前に先導者が立ちはだかった。

「其処を退け!」「此処は通さんぞ……小田原修司め!」

 ジャッジ・ザ・デーモンが先導者に退くよう警告を促すが、先導者は露出した顔の一部から正体を判別して一向に退こうとはしない。

「なぜ平気で人を殺せる?」

「俺はこいつ等の……悪党の命に守る価値があるとは到底思えない。故に殺してコイツらの罪を断罪してやっているだけだ」

 先導者の問い掛けにジャッジ・ザ・デーモンは睨み付けながら答えると、今度は逆にジャッジ・ザ・デーモンが先導者に問うた。

「なぜアニメタウンを襲う……!」

「何故じゃと? フン、貴様がいい例じゃ。我らイスラムを滅ぼす元凶がいづれ二次元人どもに導かれて現れる……小田原修司、貴様も国連に在籍していた頃に我らイスラムを攻撃してくれたな! 貴様の様な破壊者を導く二次元人どもは、アメリカ兵以上に危険な存在! 排除しなければならない……!」

「その為に……また9・11の悲劇を繰り返そうというのか。二次元人を葬る為に!」

 ジャッジ・ザ・デーモンの奥底に、怒りが積み重なってきた。そんなジャッジ・ザ・デーモンに先導者は唱えた。

「貴様こそ何故戦い続ける……! 貴様の制裁は、例え人を救えても何の感謝もされないのだぞ! 己が英雄だと、正義の味方と勘違いするのも大概にしろ!」

 すると、この先導者の言い分に対し、ジャッジ・ザ・デーモンは力強く唱えた。

「俺は何も……自分を正義の味方でも無けりゃ、英雄とも名乗ってはいない。ただ、己が信じる二次元人(もの)の為に戦い続けているだけだ……! 俺は迷わない、目の前に倒すべき敵がいるなら……容赦なく倒すだけだ!」

 己の力強い信条を唱えたジャッジ・ザ・デーモンは、両手から鋭利な鉄の爪を出して戦意を示した。

 そしてイスラム系テロリストの先導者とジャッジ・ザ・デーモンは戦闘を始めた。

 先導者が鉈状の刃物で斬り付けて来る中、ジャッジ・ザ・デーモンは鉄の爪でその刃を受け止める。先ほどの激しい乱闘でデーモンスーツは草臥れて、防刃効果が薄れてしまってた。

 激しい攻防戦を展開するジャッジ・ザ・デーモンと先導者。先導者は歳を取っていたが、かなりの手馴れだった。

 その為、僅かな隙をついてジャッジ・ザ・デーモンの浮き彫りになった頬の皮膚に切り込みを入れる先導者。ジャッジ・ザ・デーモンは顔の傷など気にせず、闘い続けた。

 そしてそのまま押し合いを続けながら、両者は運転席に突入。そこでジャッジ・ザ・デーモンが見たのは、既にテロリストに殺されていたパイロット達だった。

 旅客機の中に、もはや救うべき命はないと判断したジャッジ・ザ・デーモン。そんな彼の顔を先導者はパイロットの血で赤く染まった機材に押し付けた。この時、ジャッジ・ザ・デーモンは先導者に気付かれないよう、旅客機の端末に遠隔操作用の小さな機材を挿入した。

 乱闘は更に続き、ジャッジ・ザ・デーモンと先導者の闘いは苛烈を増した。

 そんな中、ジャッジ・ザ・デーモンは遂に先導者を追い詰めるが、先導者は不敵な笑みを浮かべてジャッジ・ザ・デーモンに言った。

「わ、ワシを殺してもこの旅客機は止まらん! この旅客機は最先端のコンピューターで飛行する最新機! 既に軌道をアニメタウンに向けて設定している、もう誰にも旅客機を止める事はできん!」

 そんな先導者の戯言を聞きながら、ジャッジ・ザ・デーモンは同時に無線から伝わってくる話にも耳を通していた。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンは先導者に言った。

「確かに墜落までは止められなかった。だが此方が遠隔操作した事で旅客機はアニメタウンの郊外に落ちるよう軌道を逸らせた。お前の目論みは叶わない」

 そう冷然と先導者に告げたジャッジ・ザ・デーモンに、先導者は言い返した。

「た、例え……今回免れたとしても、またワシに成り変わり二次元人どもを……偽りの理想を掲げる愚か者共を滅ぼす輩が現れるぞ!」

 先導者の言葉に、ジャッジ・ザ・デーモンは毅然とした態度で申した。

「お前達が……世界の誰かが二次元人の理想を否定しようとも、いつか必ず彼らが平和を、理想を叶えてくれると俺は信じてる」

 そういうとジャッジ・ザ・デーモンは先導者を置いてその場から立ち去ろうとする。

「わ、ワシを殺さないのか!?」

 先導者が問い掛けると、ジャッジ・ザ・デーモンは答えた。

「お前は殺す価値も無ければ……助ける価値も無いという事だ」

 そう言い終るとジャッジ・ザ・デーモンは駆け出し、落下寸前の旅客機から脱出しようとする。

 機内に取り残された先導者は、懐から十字架を取り出して、口元に添えると静かに唱えた。

「アッラーの神々よ……! いつか必ず、制裁の鬼を……そして世界を混沌に導く二次元人を、打ち滅ぼしてくだされ……!」

 そのまま旅客機は聖龍隊総本山の麓に落下、大爆発を引き起こして辺りを火の海にした。

 

 アニメタウンの混乱をどうにか一定まで鎮められた聖龍HEADは、急いで旅客機落下地点の間近まで駆けつける。

 だが辺りは火の海で、生存者が見当たらない現状にHEADは茫然とした。

 旅客機墜落を阻止しようとしたジャッジ・ザ・デーモンの姿も確認できなかった事で、HEADはジャッジ・ザ・デーモンも旅客機の墜落に巻き込まれたのではないかと不安に駆られる。

 そんな皆以上に、胸中に不安を募らせるミラーガールが悲痛な面立ちで墜落現場を離れたところから直視していると、夜空の闇の中からその者は現れた。

 暗闇同様、漆黒の姿で現れたその人影にミラーガールも他の聖龍HEADも目を輝かせた。

 夜空より現れた漆黒の異形、ジャッジ・ザ・デーモンはミラーガール達の前に降り立つと砕かれた瞳から力強い素顔を曝して言い放った。

「戻ってきたぞ……!」

 そうHEADの皆に告げたジャッジ・ザ・デーモンは、視線を逸らす事無く直視したままミラーガールや聖龍HEADの横を通り過ぎていく。

 そして遠隔操作で現場まで無人で走らせた専用車両ヘルロードに飛び乗って、搭乗するとそのまま闇の中へと颯爽と去っていってしまった。

 そんなジャッジ・ザ・デーモンが運転するヘルロードと行き違いになる聖龍隊軍用車両が、ヘルロードに気付きながらもHEADの元まで辿り着くと彼らに問うた。

「じゃ、ジャッジ・ザ・デーモンは……!?」

 HEADに問い掛ける一般隊士のウェルズに木之本桃矢/月野進悟/森谷賞の四人に、メタルバードが口を開いた。

 

「鬼は…………去っていったよ」

 

 

 

[夜は明けても、また夜は来る]

 

 同時多発テロが起きた夜が明けた明朝。

 イスラム系テロリスト達が占領した航空機が墜落した聖龍総本山の麓、その無数の残骸が散らばる赤茶色の大地の上で。

 顔に傷を負った小田原修司が秘書であるウッズと共に現状を見分しに来た。

 修司は昨晩、墜落した旅客機から単身脱出した後に墜落した旅客機の残骸の中を無造作に歩いていると、其処に真実を知った聖龍HEADがやって来た。彼らは皆、疲れ切った顔付きで残骸の中を歩く修司に目を向けた。

「修司様」

 ウッズに声を掛けられ、修司はようやくHEADの方へ顔を向けて彼らの存在に気付く。

 そしてHEADの一人であるアッコが修司の方に歩み寄り、彼に話し掛ける。

「修司……」「アッコか……」

 向き合う二人、アッコは涙を流しながら修司に問うた。

「修司……何故、あなたはいつも一人で勝手に行動するの? 何故、自分だけで戦おうとするの?」

 このアッコの悲しげな問い掛けに、修司は無表情な顔で答えた。

「俺が生まれた時から欠けた心を、協調性が皆無な心で生まれたのは知っているだろ? そんな男は単独行動がお似合いさ」

「………………」

「俺を軽蔑するなら好きに思え。だが、この理不尽な現実の中でお前達が理想と言う名の正義を振り翳す以上、俺も立ち止まる事はできない」

「分かってるわ。私達の正義が不十分で、全ての人を救済できない欠けた正義なのは……だから私も決めた」

 そういうとアッコは修司を抱きしめて、彼の耳元で力強く囁いた。

「私達も戦い続ける、あなたがジャッジ・ザ・デーモンでなくなる日まで……!」

 しかし修司はスグにアッコを引き離して、彼女に言った。

「それは不可能だ、アッコ。この世に正義が……人々が理想と言う正義を、曖昧な正義を求める限り……俺の闘いは終わりはしない。そう、永遠に」

 そうアッコに言い残して、修司はアッコに背を向けて再び残骸の中を徘徊し出す。

 もう修司は、昔の想い人である修司は帰ってこないと解ったアッコは無力な自分自身の正義や理想を嘆き、悲しみの涙を鏡の様な綺麗な瞳からポロポロと零していった。そんなアッコを聖龍HEADの女性陣達は悲痛な想いで見据える事しかできなかった。

 そして女性陣と同じく、ジュニアや地場衛も修司とアッコを、共存できない二つの信念を悲愴な面立ちで見据えた。

 HEADの皆が各々と、修司とアッコを見据えている中、バーンズだけが相棒である修司に駆け寄り、彼に話し掛ける。

「修司!」

 バーンズの声に修司は立ち止まり、彼はバーンズの話に耳を傾ける。

「修司、お前はこれからも鬼として……異形の存在としてのか独りだけで悪と闘うつもりか? 自分を犠牲にして孤独に立ち向かい続ける気か……」

「俺は生まれた時から独りだ。闇の心、欠けた心を持った俺は孤独の中でもがくしか未来はない。なら、もがき続けながらもお前らを真似て人助けしてやるよ」

 修司の返答を聞いたバーンズは、いつになく真面目な顔で言い放った。

「だが、これだけは忘れないでくれ! お前は決して独りなんかじゃない、オレ達がついていると!」

 しかしこのバーンズの返答に、修司は冷めきった態度で言い返す。

「……だけどなバーンズ、俺達の正義が、いや信念が交わる事は決してない。いや、あってはいけないんだ」

 修司は自分が掲げる非情の制裁と、聖龍隊が掲げる理想の正義が交わる事は、聖龍隊や二次元人の為には決してあってはいけないと説き返した。

 そしてバーンズと一しきり会話した修司は、再びウッズと残骸の中を歩き出した。

 

 正義を通せば法に触れる、なら法に触れずに正義が出来るのか?

 悪法も法なら正義も法の枠から離れる。異常者(ヒール)排除法案が悪法かどうかは、今のところ誰にも分からないまま。

 正しいだけでは正義は行えない、故に正義は幻の様なもの。

 

 それから世界中の政府機関は、ジャッジ・ザ・デーモンという強力な駒を手に入れる為、自国の警察組織に諜報機関の要員を潜り込ませて、ジャッジ・ザ・デーモンの入手を試みる活動を密かに行った。

「……アニメタウンは、聖龍隊はどうなったのかね?」

「はい、どうにか街の混乱は抑え切る事には成功しました。ですが今でも症状に苦しむ一般人も多く、誰もがあの恐怖を目の当たりにしたそうです……」

「ジャッジ・ザ・デーモンか……奴の姿を見て、恐怖に駆られる市民が続出している様なら、二次元人もいつかは大人しくなってくれるかもしれない」

「そうですが……あのような大事、とても聖龍隊だけで収拾できるとは到底思えません! やはり聖龍HEADとデーモンは裏で協力関係を結んでいるのでは……」

「証拠も無いのに、そんなこと言っちゃ、君もあの真嶋とか言う偏屈なのと一緒にされちゃうよ。聖龍隊が裏でデーモンと密通していたのは、少し考え物だが、同時にジャッジ・ザ・デーモンが此方に渡る機会が増えたと考えれば特じゃないか」

「は、はぁ……」

「我々はこれからも変わる事無くジャッジ・ザ・デーモンを追い詰め、最終的には国家の為に捕捉せねばならないのだからね」

「そうですね……ところで総監殿、例の真嶋警視はどうなりましたか?」

「ああ、彼はね……前に会議の時に、彼の父親の事を喋っちゃっただけなんだ。それだけで周りはドン引き、一気に真嶋護の信頼は失墜したよ。君が総監室に来る前、真嶋は呆気なく辞表を出して警視庁から抜け出てくれたよ。いや、まったく何も解っちゃいない現役の警視なんか邪魔なだけだったが、上手く身を引いてくれたのが幸いだったよ」

 内閣調査室の要因として警視総監の地位にも潜り込んだ総監の綿密な企てによって、真嶋護は警視庁から離脱せざるしか出来なかった。

 

 そして世界中には多くのデーモン難民が増大し、ジャッジ・ザ・デーモンに社会的信頼または脊髄負傷による半身麻痺での障害者が急増した事で、多くの失業者が行き場を失った。

 その失業者の殆どは、裏で血生臭い汚職や事件を働いて私利私欲を貪っていた外道ばかりだったので、マスコミもようやく彼らの顛末を面白おかしく書き記して晒し者にした。

 しかし世界には未だジャッジ・ザ・デーモンの力を、恐怖を必要としている弱者が星の数ほどいる。権力者や有力者などの報道に埋もれた真実を嗅ぎ付け、ジャッジ・ザ・デーモンはもみ消されそうになる犯罪や事件を浮き彫りにさせる為にも毎夜罪人を断罪しているのである。

 こうして世界はジャッジ・ザ・デーモンを必要としていく激動の流れへと変わっていった。

 

 アニメタウンを襲った同時テロの傷跡が聖龍隊の労力で何とか癒されていく中、アニメタウンのとある建物の上にバーンズを筆頭とする聖龍HEADが小田原修司を除いて駆けつけた、

 HEADが駆け付けたのとは反対の方向からは、今夜も大きな紅い瞳を光らせる異形の怪物ジャッジ・ザ・デーモンが現れた。

 そしてHEADとデーモンが歩み寄り、互いに対峙し合うと無口なデーモンに代わり、バーンズが哀しげな真顔で語り始めた。

「……お前のやり方には未だ納得できないが、皮肉にもお前のお蔭でこの街も、このアニメタウンを取り巻く現状も良くなっていく一方だ。汚職警官や役人は成りを潜め、犯罪者や異常者(ヒール)達もお前を恐れて行動を起こしにくくなった」

「………………………………」

「……だが、それでも犯罪の増加は増える一方だ。テロ事件の晩に、刑務所を脱走した囚人の半数が未だ行方不明。あのナイトメアも姿を晦ましたままだ。それにもう一つ、気になる奴が現れた。最初はネットでしか確認されなかった狂言者と思われていたんだが、実際に二件の殺人と強盗を起こしていた。現場には、このカードが置かれていた」

 バーンズはジャッジ・ザ・デーモンに一枚のカードを手渡した。それを見たデーモンは一言。

「Fか」

 カードに一文字、「F」と施されているだけのカードを見て、デーモンは自分なりの見解を立てた。

「F、か……顔や表面を意味するFaceにも捉えられるし……嘘、偽りを意味するFakeにも捉えられるが……まあいい、調べてみよう」

 デーモンはバーンズから受け取ったカードを仕舞うと、夜の街へと立ち去ろうとする。

 そんなデーモンに、バーンズが言う。

「お前はこれからも闘い続ける気か? オレ達とは違う道で悪と闘い続ける気なのか?」

 するとデーモンはバーンズの質問に答えた。

「これが俺の選んだ道……俺の覚悟と信念の表れだ」

 そう答えると、デーモンは夜の闇へと飛んで行った。

 

 そこに二人の会話を黙然と見守っていた他の聖龍HEADが歩んできて、アッコがバーンズの傍らで言った。

「修司は……ジャッジ・ザ・デーモンは私達とは別の正義を歩んでしまったのね」

 だが、そのアッコの言葉にバーンズが口を出した。

「奴はヒーローじゃない。ヒーローと言う曖昧な正義を振り翳すチンケな存在じゃない。何より正義でもない。沈黙の守護者、オレ達を見張り続ける監視者、闇の制裁、眼を光らせる番人……闇であり制裁である異形の存在…………ジャッジ・ザ・デーモン」

 

 その異形の怪物は決して英雄などではない。

 黙然の守護者、人々を見守る監視者、目を光らせる番人。

 闇であり、制裁であり、弱者を救済する者。

 自問自答を繰り返し、罪人を裁きながら同時に己自身も裁く異形の怪物。

 迷いながらも己の信念を貫き通し、世界の裏社会と闘い続ける。

 

 誰からもヒーローと、英雄と扱われず、蔑ろにされながらも、己の信念を貫いて闘い続ける異形の存在。

 

 本当の伝説は、ここから始まる。

 

 

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