聖龍伝説 現政奉還記 創生の章   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 己の信念に従い、世界に秘められる巨悪と一人闘い続けようと決意する小田原修司。彼はアメリカのヒーロー達より、教えやその戦術を独学で会得し、聖龍使いに代わる己の新たな姿を具現化した。それこそ、大きな紅い目に網目状の皮膚に全身を覆われ、小さな角が二つ頭にある異質な漆黒の存在ジャッジ・ザ・デーモンであった。二次元界で得られる最新の技術で製作されたスーツを着用し、ジャッジ・ザ・デーモンとなって世界中で数々の凶悪犯罪を犯す人間を殺傷していくジャッジ・ザ・デーモン。そんなジャッジ・ザ・デーモンの闇からの制裁に対して自分達が掲げる夢と希望に溢れたせ正義とは真逆である現状に、聖龍隊は真っ向からジャッジ・ザ・デーモンを否定すると同時に衝突。だが、そんな中アニメタウンを同時多発テロが襲い、人々はナイトメアが精製した恐怖ガスでパニックに陥ってしまう。そんな絶望下の中、ジャッジ・ザ・デーモンは悲観する聖龍隊に恐怖ガスに対抗できる解毒剤を渡して彼らに「どんな時だろうと、希望は消えない」と告げ、更にミラーガールには己が真情にする言葉「恐れるのは死にあらず、失う事のみ」と伝えるジャッジ・ザ・デーモン。そしてデーモンのこの言葉を以前、修司よりも聞いたミラーガールは、修司とデーモンが同一人物である事に気付き愕然とする。そして恐怖で混乱に陥る街中で横暴の限りを尽くしていたナイトメアは聖龍隊の攻撃を受けて、そのまま闇夜へと姿を晦ましてしまう。一方でジャッジ・ザ・デーモンは占領された旅客機に突入して、内部に乗客として紛れ込んでいた多くの犯罪者達を一掃した上で、テロの先導者と直接対決。苦闘の末に勝ち、旅客機も軌道を変えて墜落地点をアニメタウン郊外に逸らしたジャッジ・ザ・デーモンは、先導者を残して退却。こうしてアニメタウンを襲った数々の犯罪者は続々と摘発され、汚職警官や役人もナリを潜めるようになった。だが三次元界と共存の道を探り始めていたアニメタウンにまたしても危機が。犯罪現場にFのカードを残す異常犯罪者が出現したと言うのだ。ジャッジ・ザ・デーモンはこの事実を聖龍隊副長バーンズより伝え聞いて、捜査に乗り出した。
 今回は以前の話をバーンズや真嶋護から伝え聞いて、愕然とする新世代型たちやプロト世代達に語り終わった時から話は始まる。



現政奉還記 創生の章 ジャッジ・ザ・デーモン:Fの謀

[昔を語られて……]

 

 バーンズを中心に旧聖龍HEADから、如何にして小田原修司が裁きの鬼ジャッジ・ザ・デーモンへと変貌したのか。その詳細を聞いて愕然とする新世代型たち。

 理想と言う名の正義だけでは護れない弱き存在を護る為、夢と希望を象徴する聖龍隊に成り代わり犯罪者を抑制する恐怖へと変貌し、世界とアニメタウンを飛び回り悪とたった一人で立ち向かった青年の昔話を聞いて、初耳の新世代型にプロト世代そして真嶋護は衝撃が走った。

 

 修司の過去と実情を聞いて、初耳の面々は一同に愕然とした。

「そ、そんな過去が小田原修司に……聖龍隊の皆さんは経験したんですね」

「確かに夢と希望だけで人を救えるかって聞かされたら、悩ましいものね……」

「ぶっ魂消たな。まさか、あのジャッジ・ザ・デーモンの正体が小田原修司だったとは……!」

 初めて小田原修司とジャッジ・ザ・デーモンそして聖龍隊の過去を聞かされたプロト世代のチョコと桃花は居た堪れない心境に至る一方で、ギュービッドは正体を聞かされて呆気に取られてた。

「罪人を恐怖で抑制する……完全に善なのか悩ましいモノですね。正義は曖昧という彼の、小田原修司の言い分にも考えさせられます」

「修司は他人からの愛情にを感じられないが故に、恐怖でしか人を絶対的に抑制できないと思っていたんだ。そんな中で組織の運営に異常者への対処も、アイツを変えちまったんだ」

 恐怖と言う抑制力で犯罪率を抑えこみ、小田原修司が言い残した正義は曖昧と言う言葉に考えさせられるプロト世代の海道ジンに、昔を語ったバーンズは愛情を感じられない修司ならではの思考があったと説明する。

「平和を護る為に非常になっていく修司さんが何とも悲しいです……正義に絶対はないように、修司さんは幅広い分野の悪を裁いていたんですね」

「そうだ、正義に絶対はない。だからこそ、警察や政府も変わってしまったし、真嶋も最終的に組織から追い出されちまったんだ」

 新世代型の一条蛍の悲痛な納得に、バーンズは正義が絶対でないが為に多くの現状が変わってしまった事を改めて説いた。

「国家や世界がジャッジ・ザ・デーモンの行動で変化していったんですね。アニメタウンが変わったという修司さんの言葉には衝撃を受けました。昔から一人で何もかも背負う気質だったんですね」

「世界が激変していく中、国自体も変わっちまったんだ。もう全ての責や業を抱え込むのは、修司の悪癖だな。修司曰く、誰かが罪人を抑制する恐怖を担わなければ、立場の弱い人間を護る事はできなかったんだろう」

 新世代型の星原ヒカルの問い掛けにも、バーンズは的確に説き返した。

「人間を護るには、人間ではない力が必要……聖龍隊にとって、いいや、能力者達にとっては一つの救いかもしれませんね」

「何が善で何が悪か……この先、誰にも分らないでしょうね」

「善悪の基準は、結局は人が決めたものだ。誰にもその境界線を決める事は、永遠にできないのかもしれない……」

 能力者にとって救いか宿命か分からない修司の言葉に新世代型の室戸大智と御舟百合子が唱えると、バーンズはその答えが未来永劫人間には出せないのかもしれないと残念そうに説き返す。

「肥田智久……ナイトメアの誕生には、アニメタウン滅亡の陰に潜んでいたんですね」

「そんな中、聖龍隊の正義を修司さんは否定し続けた……本当に弱者を護れる正義は存在しないからって」

「あの頃のオレたち聖龍隊は、一つの正義に固執し過ぎていた。だからこそ修司はオレ達の正義を非難したんだ」

 ナイトメアこと肥田智久の誕生、そしてその陰で暗躍していたイスラム系テロリスト達。そんな敵たちを相手にするには一つの正義だけでは不十分だと説いた修司の真情をバーンズは出雲ハルキやキャサリン・ルースら新世代型たちに語り明かす。

「自分の信念のもと、戦い続けたんですね……そして世界はジャッジ・ザ・デーモンを求めるようになった……」

「奴は正義の味方でも無けりゃ、自分を英雄とも名乗った事はあれから一度もなかった。そして聖龍隊が希望と正義を掲げられるよう、修司はアニメタウンの同時テロ以降も恐怖の制裁を罪人達に下し続けた……」

 大切な人々に代わり、聖龍隊が希望と理想を掲げ続けられるよう自ずと闇の制裁を執行していく修司ことジャッジ・ザ・デーモンの実情をバーンズは瀬名アラタたち新世代型に話した。

 そして最後に、バーンズは新世代型を初めとする修司がジャッジ・ザ・デーモンだった事実を初めて聞く面々に語り明かした。

「オレ達に、アイツを……修司を止める権限は無い。アイツを裁きの鬼に……ジャッジ・ザ・デーモンにまで導かせたのは、結局はオレたち二次元人なんだからな」

 バーンズは人を導く役目を担う自分たち二次元人を護る為にジャッジ・ザ・デーモンとなった修司の行動を制止する権限は、自分たち二次元人には無いと主張。

 このバーンズの主張に、修司を始祖に持つ新世代型たちも、過去にジャッジ・ザ・デーモンと接触したSAOにAWにマギカ組の三組は愕然とし、警視庁を追われた真嶋護は蒼然とした。

 

 小田原修司ことジャッジ・ザ・デーモンと、その正体を知りながらも制止する権限が無かったと主張する聖龍隊の実情を知って衝撃を隠せない真嶋護を横目に、プロト世代の海道ジンがバーンズに訊ねた。

「……話の最後に出てきた、Fのカードを残していく犯罪者って、まさか……」

 海道ジンからの問い掛けにバーンズは表情を険しくさせて語り返した。

「ああ、あの男だよ。あいつは、二次元界と三次元界が融合して、互いに共生の道を探り始めていた頃に最初はネット犯罪でしかその片鱗を見せてなかったが、ジャッジ・ザ・デーモンの出没以降、現実の世界にも現れる様になったんだ……」

 

 バーンズはそのまま皆に語り明かした。

 先ほどのジャッジ・ザ・デーモンの活躍後の、彼の、小田原修司の動向。

 そしてFを象った犯罪者が二次元界に齎した悲劇の数々と死闘を。

 

 

 

[悪夢と恐怖と自警団]

 

 夢と希望の街、だが昼夜が一転すれば犯罪と欲望が渦巻く街アニメタウン。

 この街から、世界のありとあらゆる悪と命懸けで闘おうとする一人の男がいた。

 

 2001年、10月に時は遡る。

 とあるアニメタウンの立体駐車場にて。

 ヤクザとある取引を行おうと、顔に異様な黒いマスクを被った男が現れた。

 すると駐車場に複数の車がやって来て、マスク男の周りに停車する。

 車内から続々と取引を行うヤクザが出てきて、マスク男と取引を行う。

「久しぶりだな……まさかアニメタウンで取引を行うとはな」

「ふふふ、灯台下暗しというではないか」

 ヤクザの筆頭たる男がマスク男に問い掛けると、マスク男は不敵に笑う。

 マスク男の本名は肥田智久、別名ナイトメアという。ナイトメアは自ら調合した違法ドラッグの取引を、肥田智久時代から培ってきた交友関係から知り合ったヤクザと行って生計を立てていた。

 しかし、そんなナイトメアが調合した薬にヤクザ筆頭が文句を言う。

「だけどな、肥田……」

「肥田ではない、ナイトメアだ!」

「そうだったな、ナイトメア……あんたが作る商品なんだが、使った奴が精神異常をきたしてキチガイになっちまうって苦情が殺到しているんだが」

 この筆頭のいう事に、ナイトメアは不気味なマスク顔を筆頭に歩み寄せて言い切った。

「私が作った薬で快楽を得られるが……それで最後まで極楽にいられるとは言っていない」

「チッ、狂人が……」

 調合した麻薬で快楽は得られるが、それが最後まで続かないと説くナイトメア。それに対してヤクザ筆頭は顔を歪ませる。

 そんな自らが精製した恐怖ガスを元に調合した麻薬を売買取引していく一方、ヤクザは一つの懸念を脳裏に潜めていた。

「ところで、聖龍隊……それにジャッジ・ザ・デーモンは大丈夫だろうな?」

「毎回、アニメタウンで取引しているくせに、臆病なものだ」

「仕方ないだろ! 奴らは人間じゃない、あの能力はバケモノだ! それにジャッジ・ザ・デーモンの容赦のなさには警戒しねえと……!」

「そんなに心配なら、早々と取引を済ませてこの場から立ち去ろうではないか。その方がお互いの為だ」

 ヤクザ筆頭とナイトメアが懸念し合っていると、ヤクザとナイトメアの取引現場に接近する無数の人影が。

「! 誰だ!?」

 ヤクザの一人が蠢く人影に気付いて、携帯していた銃を向けた瞬間、その人影たちは駐車場に駐車されている車体の陰から飛び出して装備している銃をナイトメアとヤクザ達に向けて乱射。

「ッ! 聖龍隊か!?」

 ヤクザの筆頭が、突然の銃撃を仕掛けてきた聖龍隊を視認して車体の陰に潜む一方、同じく車体の陰に逃げ込んだナイトメアが告げる。

「違う……単なるコスプレマニア共だ」

 ナイトメアの言うとおり、突如としてヤクザ達を奇襲してきたのは聖龍隊のヒーローヒロインにコスプレしている一般市民だった。

 最近になって、聖龍隊やジャッジ・ザ・デーモンに感化された市民がコスプレに扮しての自警団活動を行っているのが社会問題と化していた。

「怯むな、撃て撃て! 相手はタダの自警団だ!」

 そんな偽聖龍隊の銃撃に応戦するヤクザ達。

 と、其処に。立体駐車場を駆け上って銃撃戦が展開されている階層に向かってくるアクセル音にヤクザの筆頭が気付いた。

「? 今度はなんだ?」

 明らかに自分達の方に向かってくる車の音に、動揺するヤクザ筆頭とは反対に、ナイトメアが冷静に告げた。

「今度は……本物らしいな」

 そうナイトメアが呟いた次の瞬間、銃撃戦を展開する偽聖龍隊とヤクザの間に黒い車体が銃弾を弾き返しながら突っ込んできた。

「あ、あれは……!」「アイツが来た……!」

 驚愕する筆頭とは反対に、ナイトメアは冷静に状況を静観する。

 そして黒い車体の戸が開き、銃弾が飛び交う中に平然と姿を見せる異形の存在にヤクザ達も偽聖龍隊も驚愕した。

「ジャッジ・ザ・デーモン!!」

 頭に二本の小さな角、焼け爛れたような網目状の皮膚、紅くて大きな瞳。罪人に容赦ない鉄槌を、裁きを与える異形の存在ジャッジ・ザ・デーモンが罪人たちの前に姿を現したのだ。

 自らが運転する特製の車体から飛び出したジャッジ・ザ・デーモンは、特製のかく乱装置を車内から持ち出すとそれを起動。偽聖龍隊とヤクザ達が使用する銃器を全て無力化させてしまう。

 ヤクザと偽聖龍隊が戸惑っているところに、ジャッジ・ザ・デーモンは双方に遠投武器を投げ付けて更に戦況をかく乱。そのままヤクザも偽聖龍隊も痛め付けて行く。

「うぎゃっ!」「このっ……!」

 ジャッジ・ザ・デーモンの拳で吹き飛ばされるもの、ナイフを取り出してデーモンを切り裂こうとするヤクザ。戦況はたった一人の鬼の乱入で混戦していた。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンは偽聖龍隊を全て気絶させ、ヤクザ達も徹底的に痛め付けて行くと、今度は残った自分達の番だと自覚した筆頭とナイトメアは急いで車の中に逃げ込んで、車を走らせた。

「逃げるぞ!」

 ナイトメアの怒号が響く中、ヤクザの車は発進し、立体駐車場から逃げ去ろうとする。

 この時、ジャッジ・ザ・デーモンは粗方のヤクザを殴り倒し、偽聖龍隊も縛り上げたところだった。

 しかしジャッジ・ザ・デーモンは慌てることなく、立体駐車場の出入り口真上の塀に待機した。

(まだだ……まだ早すぎる……)

 ジャッジ・ザ・デーモンは頭の中で時が来るのを耐え忍んだ。

 そしてナイトメアとヤクザ筆頭が乗る車が立体駐車場から出ようとした瞬間、ジャッジ・ザ・デーモンは五階の階層から飛び降りた。

 飛び降りたジャッジ・ザ・デーモンはそのまま立体駐車場から抜け出そうとしたナイトメアと筆頭が搭乗する車の屋根に着地した。

「ぐおっ」

 頭上からへこんだボンネットに頭を押し付けられて悶絶するナイトメアと筆頭。

 するとジャッジ・ザ・デーモンは地面に降りて、自慢の強力で二人が搭乗する車の車窓を突き破って車内からまず強引にヤクザ筆頭を引きずり出す。

「ジャッジメント」

 ジャッジ・ザ・デーモンは左手でヤクザ筆頭の首元を掴んで離さないでいると、反対側の右手の平に施しているJDの焼き印を筆頭の頬に押し当て、強烈な激痛を与える。

「うぎゃあああッ!!」

 夜闇に断末魔が響く中、ジャッジ・ザ・デーモンは次に車内からナイトメアを引きずり出して彼を殴り付けようとする。

「お前は……お前は、自分が正しい行為をしていると思っているのか? 全てを暴力で片づけようとする、その狂暴な意思が正しいと自負しているのか……!」

 殴り付けようとした矢先、ナイトメアから告げられた台詞に、ジャッジ・ザ・デーモンは「いや、正しいとは思っていない。そもそも裁きに絶対はないからな」と突っぱね返すと、ナイトメアの顔面に思いっきり拳を入れた。

 

 それからジャッジ・ザ・デーモンは徒歩で気絶させたヤクザ筆頭とナイトメアを引きずりながら五階まで戻ると、最初に縛り上げたヤクザや偽聖龍隊と共に二人も縛り上げた。

 すると縛り上げられている最中に気が付いたナイトメアが、またしてもジャッジ・ザ・デーモンに問う。

「貴様も所詮は……狂人に変わりない」

 これに対しジャッジ・ザ・デーモンは「ああ、お前と同じだ」とナイトメアに突き返す。

 と、今度はヤクザ達と共に縛り上げられている偽聖龍隊のコスプレイヤー達がジャッジ・ザ・デーモンに言う。

「わ、私たちはタダ手伝おうとしただけよ!」

「そ、そうだ! 我々は別に悪い事をしようとした訳ではない……」

 セーラームーンとタキシード仮面のコスプレをしている男女の言い分に、ジャッジ・ザ・デーモンは冷然と反論する。

「そういうのをなんて言うか知ってるか? ……お節介っていうんだよ」

 そう偽聖龍隊からなる自警団に告げたジャッジ・ザ・デーモンは、自らが乗り回す黒い車体に飛び乗って再び闇夜へと姿を消していった。

 

 この世に悪がある限り、ジャッジ・ザ・デーモンは闇夜より現れる。

 そう、今夜も……!

 

 

[激動する世界と修司の動向]

 

 ナイトメアとヤクザの麻薬取引を阻止したジャッジ・ザ・デーモン。同時に偽聖龍隊に扮して面白半分に自警活動をしていた市民も捕縛した彼は、自慢の愛車ジャッジモービルでアニメタウン郊外に在る秘密基地に帰還した。

 秘密基地に帰還すると、基地内を清掃・整備していた秘書のウッズがお迎えする。

「お帰りなさいませ、修司様」

 ジャッジモービルが基地内の駐車場に停車すると、車内からジャッジ・ザ・デーモンが飛び降りて来て、ウッズの元に歩み寄りながら彼に問い掛ける。

「聖龍隊には通告しているか? 立体駐車場でヤクザとナイトメア、それに偽聖龍隊に扮した自警団が縛り上げられていると」

「はい、既に通達しておきました」

 ウッズの返事を聞くと、ジャッジ・ザ・デーモンは己が被る頭部の部分を両手で挟み込む様に押さえると、ヘルメット状の頭部部分を自ら外して素顔を晒した。

 

 昼の顔は、アニメタウン市長にして聖龍隊総長、小田原修司

 だが、夜の顔は ジャッジ・ザ・デーモン。

 そんな二重の生活を続けながら、悪を断罪する小田原修司はデーモンスーツを外して涼しむ。

「ふぅ、やはりマスクにスーツは熱気がこもるな。暑くて叶わねえ」

「はは、暑がりですからね、修司さまは」

 時は10月だというのに真夏の様に暑がる修司を見て、ウッズは微笑む。

 すると修司が涼しんでいるところに、ウッズとは別の人物がやって来てジャッジ・ザ・デーモンの職務から帰って来たばかりの修司に声を掛ける。

「今夜もまた暴力に勤しんできた訳か、修司」

 半ば修司に対して皮肉混じりの台詞を吐きかけるその人物は、聖龍隊副長にして表側の修司の相棒であるバーンズだった。

 裁きの鬼として、己の職務と責務なんだと信念を貫く修司に対して未だ懸念を示していたバーンズからの冷やかしに、修司は無愛想な真顔で返答した。

「制裁な。無意味な暴力は戦争やイジメと何ら変わりない」

「お前のその制裁と言う名の暴力に意味はあるのか? ……さっき現場に駆け付けた隊士から聞いたが、ナイトメアやヤクザだけでなく一般人にも手を挙げたようだな」

「一応、自警団気取りのコスプレイヤー達には手を抜いて痛め付けておいた。お前らだって、自分のフリして自警活動をやられてちゃ、困りもんだろ?」

「確かにそうだが……お前だって自警団と何ら変わりはない」

「それはお互い様……俺が自警団って言うなら、英雄と名乗っているこの二次元界の連中全員が自警団さ」

「………………………………」

 相方の修司の台詞にバーンズは呆れて何も言い返せなかった。

 

 バーンズたち聖龍隊の頭目HEADが、小田原修司とジャッジ・ザ・デーモンが同一人物だと知ったのはまだまだ最近になってから。

 友である小田原修司がジャッジ・ザ・デーモンという非情の存在へと成り代わってしまったのは、大半が自分たち二次元人や世界の多くの弱者たちの為だと知って、聖龍HEADは修司のジャッジ・ザ・デーモン活動に対してあまり強く非難する事ができなくなってしまってた。

 

 と、ここでバーンズは改めてスーツが納められている装置に歩み寄って、デーモンスーツを凝視してみる。

「知世や天王財閥の金を使って、こんなおっかねえスーツを作っちまっていたとは……知世がしったら嘆くぞ」

「これは非力な俺が罪人を断罪する為にこしらえたスーツだ。頭の角はアンテナを担っていて、この秘密基地からの通信が傍受できる様になっている。紅くて大きな目はレーダービジョンになっていて、敵の熱を感知して闇夜の中でも的確な居場所を特定できる」

 修司がデーモンスーツの鬼の角に似せたアンテナと紅い大きな瞳に模したレーダービジョンについてバーンズに説明すると、続いて焼け爛れたような皮膚感についても説き始めた。

「網目状の皮膚にも意味がある。この網目は防刃効果を強めていて、敵からの刃物攻撃を粗方防ぐ効果がある」

「へっ、なんだか……胴体は服の無いフレディ、頭だけはUMAのチュパカブラみたいな見た目なのにな」

 修司の説明を聞いて、バーンズは胴体はホラー映画で有名な殺人鬼フレディの様な焼け爛れた皮膚、そして頭部は未確認生物のチュパカブラの様に大きな紅い瞳だなと嫌味混じりの台詞を吐く。

「……で、肝心の攻撃性能はどうなんだっけ?」

 バーンズがデーモンスーツに備えられている攻撃方法について訊くと、修司は今や正体を明かしている腹心のバーンズにデーモンの攻撃手段を教えた。

「知っての通り、デーモンの両手の甲からは鋭利な爪が飛び出して敵を刺し貫く事も切り裂く事も容易い。駆動すれば開く口からは、硫酸・催涙液・火炎放射器が使い分けできる。武器は手裏剣などをベースとした飛び道具が主流だ」

「鋭利な爪って、完全にウルヴァリンが元ネタだな。後の戦法はまんまバットマンだし……」

 このバーンズの言葉に、修司は真剣な顔で言った。

「アメリカの英雄達は、シンプルだがどれも使い勝手のいい戦術を備えている。俺は、そんな戦術を学んで参考にしたまでだ」

「だがバットマンは人は殺さねえぞ……お前と違ってな」

 バーンズの台詞に修司は何も言い返さなかった。

 

 すると其処にバーンズ以外の聖龍HEADがやって来て、修司とバーンズの元に歩み寄って来た。

 修司とバーンズ以外の聖龍HEAD。修司の義兄弟にしてウッズの一人息子、聖龍隊参謀総長のジュピターキッドことジュニア・J・プラント。修司がジャッジ・ザ・デーモンだとHEADの中で誰よりも早く気付いたミラーガールこと加賀美あつこ。水を自在に操作できる異世界の妖精王女ウォーターフェアリーことアプリコット。更にセーラームーンを筆頭としたセーラー戦士達にキューティーハニー、ナースエンジェルに木之元桜、魔法騎士の三人にコレクターズ、そして最終兵器だった少女ちせ。

 名立たる聖龍HEADが一堂に集まった展開に、修司は冷然とした面差しで問い掛けた。

「どうしたんだい、皆さんお揃いで。こんな血生臭い鬼の棲家に来たって、何のいいこともないよ」

「そう言わないで。私たちは私達で、修司を心配しているんだから」

 冷やかす言動をする修司の発言に、アッコが複雑な心境で言い返す。

 しかしそんな彼女に修司は真顔で言った。

「俺の心配よりも、不完全な正義を続けている自分達を心配しろ」

「このヤロ、アッコが一番心配してくれているんだぞ」

 修司の発言にキング・エンディミオンが立腹しながら反論する。

 と、此処で修司は立ち上がり、英雄たちの方に歩み寄りながら彼らに訊ねた。

「そういえば、HEADで話し合いするんだったな。それでわざわざ血生臭い棲家に来た訳か」

「そうだよ。お前みたいなのでも一応は総長だしな。声かけに来てやっているのを有りがたく思え」

「へいへい」

 嫌味タップリの言葉で訊ねてくる修司に怒り心頭で返答するエンディミオンに、修司は軽く返事をする。

 そして修司は、聖龍隊総長としての漆黒の軍服を羽織ると、HEADと共に移動して彼らと会議に勤しんだ。

 

 議題は激動する世界情勢下の中で、聖龍隊がどう活動していくかだった。

 9・11を境に世界中で様々なテロが勃発。多くの一般市民が巻き込まれ、大衆はテロへの恐怖に駆り立てられていた。

 更に過激派テロリストにアラブ系だけでなく、国籍・人種ともに不明の《ブラッディ・ドラゴン(血塗れの竜)》と名乗る若い総帥が率いる《革命軍士》と呼ばれる謎の反世界思想のテロリストが登場。世界各地ではもちろん異世界の国々でもテロを引き起こし、世界情勢を著しく混乱させていた。

 アラブ系テロリストに加わり革命軍士の頻繁に起こす過激テロに世界中の人々が脅える中、その混乱に乗じてか《アメリカ炭疽菌事件》など凶悪な犯罪行為も世界基準で増大し、問題は拡大していく一方。

 この混乱の渦中で国際連合は、これらの問題を解決する為に小田原修司が二次元界で考案した異常者(ヒール)排除法を世界基準で大々的に可決する事を決定した。アメリカ/イギリス/日本など多くの発展国は合法的に異常者(ヒール)排除法を法案として可決し、排除法案を基にそれまでの法律も大々的に変更して国の法案に組み込んだ。

 異常者(ヒール)排除法を国の法律に組み込んだ事で凶悪な犯罪者やテロリストも異常者(ヒール)と認定され人権剥奪および財産の9割を没収する法案を実行していく。

 

「……テロリストが減るどころか、増える一方ね」

「革命軍士、か……テロリストって自由を望むってイメージがあるけど、今のテロはどうも……」

 セーラーマーキュリーとキューティーハニーが突如現れた革命軍士に懸念を募らせていると、修司が二人に言った。

「お前ら、今の時代テロリストは自由や権限を求めてテロを起こしている訳じゃないと思うぞ……純粋に、人命を奪い、混乱を招くのを面白がっているだけだと俺は認識している」

 自由や権限を求めるテロリストは時代が変わり、今では混乱や破壊行動を中心に行っている組織が目立っていると修司は唱える。

 

 それからも会議は続いた。

 異常者(ヒール)と認定された罪人から押収した財産により国の財政は安定した事で国家予算も赤字が消滅していく傾向が示された事から、更に多くの国々が異常者(ヒール)排除法を自分達の国でも採用していく様になる。

 その一方でアメリカは軍によるアフガニスタン侵攻を開始。

 更に小田原修司がイギリスの情勢を見本にアニメタウンで既に実行していた犯罪防止策の一環である監視カメラの大規模な増設が世界情勢的にも認可され、日本やアメリカなどの大国は異常者(ヒール)から没収した財源で都市や町のあらゆる所に監視カメラを設置し、常に凶悪犯罪やテロの警戒を強めていくと同時に多大な監視社会が世界規模で布かれていった。

 世界の人々がテロはもちろん頻発する凶悪犯罪にも脅えていく中、軍や警察機構によるテロリストや犯罪者を一括して異常者(ヒール)として絶対的に処分していく方向に進んでいく。

 

異常者(ヒール)排除法が、まさか世界規模で拡散するとは思わなかったわ」

「修司、まさか君は……世界情勢が排除法に頼らざるを得ないという展開を読んでいたんじゃないのかい?」

 セーラーヴィーナスの呆れ顔に続いて訊ねるセーラーウラヌスの問い掛けに、修司は真顔で答えた。

「別に、読んでいた訳じゃない。だが、世界情勢がここまでテロリストなどの悪党に煮え湯を飲まされている現状に、政府のお偉いさん方も排除法の正しい使い道を理解したらしいな」

 排除法をテロリストや悪人への制裁の方法に世界が使い始めた現状を、修司は毒舌混じりの言い分で唱える。

 すると世界規模で異常者(ヒール)排除法が施行されたのに対してアッコが修司に苦笑いで話し掛けた。

「で、でも……排除法が施行されれば、私たちヒーローの活動も少なくなるし、ジャッジ・ザ・デーモンも出動する機会が少なくなるから結果オーライじゃない? 修司もこの前、テロで恐怖を感じている人たちの前で法案の拡散を促す演説もやった事だし! アレはカッコ良かったわよ」

 

 実はこの会議が行われる数日前。

 人々がテロと凶悪犯罪に恐怖を募らせている中、そんな人々へ激励するかの如く小田原修司が世界の人々に向けて大々的に対異常者(ヒール)への法案拡散を奨励する演説を始める。

 小田原修司の凄まじい言動と立ち振る舞いから人々は心の底から勇気付けられ、凶悪なテロや犯罪への徹底的な抵抗の意思に賛同していった。

 

「アレにはうさぎも驚いたわよ。人前で話すのが苦手だと思っていた修司くんが、まさかあんなに演説が上手いなんてね」

「一応、あの演説も歴史上の人物を模して特訓した。……あのアドルフ・ヒトラーの演説を参考にしてな」

 修司の演説力の高さを称賛するセーラームーンだが、修司はその演説の参考にした歴史上の人物として名を挙げたヒトラーの名を聞いて皆は唖然とした。

「だ、だけど修司くん……悪い人たちを罰する為に異常者(ヒール)排除法を持ち出すのは構わないけど、それでも学校や会社での陰湿なイジメも異常者(ヒール)認定するべきだって言うのは、少し言い過ぎなんじゃないかな?」

 獅堂光からの問い掛けに、修司は険しい面持ちで答えた。

「いいや、悪は……腐った性根は元から絶たなければいけない。イジメという悪も、根底から排除すべきだ」

 修司の意志は強かった。

 事実、後に学校や会社でのイジメなど陰湿な悪行も異常者(ヒール)認定すべきだという小田原修司の発言から、大衆は多勢に無勢の勢いでイジメなど今までの法律では裁けなかった陰湿な人間も同様に異常者(ヒール)として人権を剥奪し排除していく傾向が、日本を中心に世界規模で拡散していった。

 この勢いに当時の教育庁や教育委員会もイジメによる問題が拡大し校内での問題拡大などを恐れて、イジメっ子やイジメを隠蔽した教育者たちも容赦なく排除していき、軍や警察に連絡して合法的に処刑してもらう様に至る。

 

「……イジメッ子まで虐殺してしまう法案は、少し考えものよ。そもそも、悪い人たちを改心させる前に殺しちゃうのはどうなの?」

 コレクターユイからの問い掛けに、修司は真顔で話した。

「この世が少しでも汚れ無き世界へと変わる為の法案だ。罪を犯した命を罰するのに、抵抗なんか感じる方がおかしい」

 罪人の命を奪う事に躊躇いを感じる方がおかしいと唱える修司の言動に、聖龍HEADは愕然とする者もいれば呆れてしまう者までもいた。

 

 更にHEADはその後も、日本の隣国でもあるアジア一の独裁国家《北の国》が、同時多発テロの流れで密かに過激な行動を示す様になっていく事に懸念を示す議論も討論された。

 

 

[傍観者効果]

 

 その翌月の12月1日

 日本の皇室で愛子内親王、通称《愛子様》が御生誕。

 この祝福すべき日に、小田原修司を筆頭とした聖龍HEADは皇室に赴き、愛子様生誕の祝いの品を多く持参して皇族の方々と面会した。

 そしてHEADは御親族である皇太子殿下や雅子様、今上天王に愛子様誕生の祝福を申し述べた。

 皇族との繋がりを大切にする事で、聖龍隊と二次元人の権限を保持しようとする小田原修司の魂胆があった。

 

 そんな中でも人々が異常者(ヒール)に変貌する二次元人や同族に恐れを感じていた最中、事件は起きた。

 2002年10月12日、バリ島で爆破テロが勃発し、190人以上が死亡する。

 人々のテロリストを含む異常者(ヒール)への恐怖と懸念が一層強まるこの事件に、小田原修司は奔走した。

 強大な混乱はより一層と事件の引き金になる事を、修司は、ジャッジ・ザ・デーモンは周知していたからだ。

 

 2003年2月18日

 大韓民国で地下鉄放火事件、大邱地下鉄放火事件が発生。192人が死亡、148人が負傷する大惨事となった。

 この放火を起こした犯人は責任能力が低下しているという事で本来は死刑の所を無期懲役に減刑されて服役。

 だが服役中、収監されてた獄中に忍び込んだジャッジ・ザ・デーモンに特殊な精神崩壊を伴う恐怖心を増大させる薬物を投与され乱心。

 その後、恐怖心に支配された精神状態が発端で心臓発作を起こし3月2日に死亡が確認された。

 この時、ジャッジ・ザ・デーモンが使用した薬物は、あのナイトメアが過去に製造・使用していた恐怖ガスと同剤である事にHEADは後々知った。

 罪人を虐殺する事にも反対するHEADだったが、それと同時にあのナイトメアが人々を恐怖に齎す為に作ったガスをデーモンが使用した事にも猛反発。

 そんな中、ジャッジ・ザ・デーモンは「責任能力が低下しているのなら、罪は消えるのか?」と疑問を投げ掛け、更に恐怖ガス使用に際しては「犯罪者が作った代物は、時として制裁に有効な働きを齎してくれる便利な品だ」として、それからも犯罪者と対峙する際には恐怖ガスを度々使用していたという。

 

 更にジャッジ・ザ・デーモンの凶行は続いた。

 2003年3月21日~29日、神奈川連続通り魔事件で4人の人間が死傷。

 5人目の被害者に犯人の牙が襲い掛かる直前、ジャッジ・ザ・デーモンが犯人の前に現れ3本の鋭利な爪により顎から頭部を貫き、犯人は絶命する。

 このジャッジ・ザ・デーモンの凶行に世論は賛否評論巻き起こったが、当のデーモン本人は全く気にしなかったという。

 全ては、人を殺傷しても何とも思わない小田原修司の非情さゆえだった。

 

 更にその年の7月1日。

 長崎男児誘拐殺人事件が発生し、逮捕された少年はアスペルガー症候群と認定され投獄。

 だが獄中に侵入したジャッジ・ザ・デーモンにより睡眠薬と特殊な機械を使っての安楽死により命を絶たれる。

 ジャッジ・ザ・デーモンは加害者が障害者と言う点を考慮し、安楽剤を用いた処罰を執行したと後に聖龍HEADに語ったという。

 しかしジャッジ・ザ・デーモンの制裁はこれで終わった訳ではなかった。

 少年の母親など加害者家族の身勝手な振る舞いと自分の子供が起こした事件に対して一切の責任を感じてない傾向が目立った一件。更に被害者家族への形だけの真摯さのない虚構の謝罪から、ジャッジ・ザ・デーモンは加害者家族にも少年以上の制裁を与える事を決意する。

 ジャッジ・ザ・デーモンは深夜に加害者少年の自宅に侵入し、少年の両親を双方ともに体を切り刻み、虫の息となった所を自宅の外壁に鉄製の釘で両腕を打ち付けて、そのまま出血多量で死亡するまで放置した。

 この身勝手な加害者家族が惨たらしい死体としてマスコミや近隣住民に明るみになったのは、翌朝の事だった。

 だがジャッジ・ザ・デーモンはこの惨状に多大な遺憾を示した。

 それは深夜、自分が襲撃し、散々に痛め付けた上で家の外壁に打ち付けて放置した加害者家族の悲痛な叫び声や助けを求める声に、近隣住民は全く気にしなかった事だ。

 近隣住民も、加害者家族への偏見から彼らの救いを求める悲痛な声を無視していたらしいが、それでも深夜に泣き叫ぶ声に全く無関心だった事にジャッジ・ザ・デーモンは違和感を感じた。

 ジャッジ・ザ・デーモンは虚構の謝罪しかしなかった加害者家族が苦痛で表情を歪め、必死に助けを求める様を遠くから観察しながら、この惨状に一つの問題を脳裏に浮かべていた。

 それは「傍観者効果」と呼ばれる、ジャッジ・ザ・デーモンの中では人の心に潜む悪心の根源の一つだと自負している現象だった。

 

「傍観者効果」

 それは集団心理の一つであり、ある事件に対して、自分以外に傍観者がいる時に率先して行動を起こさない心理である。傍観者が多いほど、その効果は高いという。

 イジメや迫害、それに伴う横暴や事件に対して第三者達が敢えて傍観に徹するこの行為に対して、ジャッジ・ザ・デーモンは心の中で悲嘆していた。

 この「傍観者効果」を解決するには。

 人間の心理そのものを消したり改造することはまず無理であるから、この傍観者効果によって助けなかった人間を非難するのではなく、傍観者効果が発動してしまわないような社会システムを作ることが重要になってくる。

 ジャッジ・ザ・デーモンは多くの悲劇を生み出しかねないこの集団心理現象を、いつの日か根絶できる社会にする為にも努めなければならないと強く自負した。

 

 そしてアニメタウン郊外にある聖龍総本山の裏手に在るジャッジ・ザ・デーモン秘密基地にて。

 長崎男児誘拐殺人事件の加害者家族を惨殺した晩、ジャッジ・ザ・デーモンは「傍観者効果」について深く考え込んでいた。

 そんなジャッジ・ザ・デーモンにウッズが心配して声を掛けてきた。

「修司様、今夜はどうされました? お疲れでしょうか……」

「ウッズか、いや、俺は疲れてなどいない。ただ考えているんだ、何故この世の中が理不尽かつ不条理なのかを……」

「現実は冷たく、理不尽で不条理だと納得しているからこそ、貴方は裁きの鬼へと変貌したのでしょう」

「そうだ、俺はそんな醜い現実を少しでも変えるべく裁きの鬼へと己を変えた。……だが、理不尽な社会のルールの根底を……犯罪や悪事を見て見ぬフリをする社会を、俺は変えられるのか自信が無くなって来た……」

 傍観者効果を間近で感じ取ったジャッジ・ザ・デーモンは、その確かな自信や意志が揺らいでしまうほど、社会を変えようという己の信念が霞んでしまってた。

 そんな自信を損失してしまうジャッジ・ザ・デーモンに、ウッズは言葉を掛ける。

「……確かに、人ひとりが世界や社会の現状を変えるのは非常に難しいものです。ですが、時間をかけて少しずつ変えていければ、自ずと道は見えてくるのではないでしょうか」

「時間をかけて少しずつ、か……だが、その間にも悲劇に嘆く者が現れ続ける。英雄や救世主では救い切れない犠牲者が星の数ほど出てくる」

「だからこそ、そんな英雄や救世主にはできない救済を……制裁を与えなければならない存在が必要不可欠になるのです。私は修司様を見て、如何にアニメタウンが……そして世界がジャッジ・ザ・デーモンを必要としているか、今ではよく解ります。例え、血塗れの残虐性高い凄惨な存在だとしても、その行為でどれだけの人々が救われているのか御理解しています」

「………………」

「いつの日かジャッジ・ザ・デーモンが……そして英雄達が必要のないぐらい、平和で誰もが手に手を取って助け合える世界を築く為にも諦めてはいけません。もう、修司様は後戻りできない領域まで、踏み込んでしまったんですよ」

 ウッズからの激励の言葉の数々に、ジャッジ・ザ・デーモンは思い悩むのを止めた。

 今は悩むよりも行動あるのみ。行動しなければ世界や社会は変えられない。そう自分に言い聞かせるジャッジ・ザ・デーモンだった。

 

 

 

[欠けた心を持つが故に]

 

 テロリストを含む異常者(ヒール)に対する大衆の恐怖心に加え、ジャッジ・ザ・デーモンが行う数々の凄惨な制裁に聖龍HEADは当然ながら戸惑いを覚えた。

「修司……毎度の事だが、お前の犯罪者に対する制裁は少し酷くないか?」

 腹心の友であるバーンズからの問い掛けに、デーモンスーツを磨く小田原修司は無愛想な面構えで答えた。

「人々は、いや世界は今や異常者(ヒール)への恐怖心で頭が一杯だ。そんな中でも狂気的犯罪が絶える事は無い。全ての罪人には平等に罰を、制裁を与えねば世界を良くする事はできない」

「世界を良くしたいお前の考えは立派だよ。だが、お前の……ジャッジ・ザ・デーモンの制裁で世界が本当に良くなるのか、オレたちHEADは考えている。世界が変わらなければ、お前のしている行為はタダの虐殺だ」

「………………」

「……修司、お前が世界をより良く変えたいが為に……そしてオレたち二次元人の存在保持の為に陰ながら凄惨な行為を続けているのは解ってる。だけどな、お前自身の人の心をもっと大切にしてくれ」

「……俺自身に、心はない。それはお前も解っているだろ」

「……修司……」

「俺の心は生まれた時から欠けている、いわば欠陥品だ。そんな心に正義だの理想だのと言う感情を注いでもスグに零れちまうのがオチだ。欠損した心を持つ俺には、非情な制裁を象徴する恐ろしい存在がお似合いさ」

「修司……」

 自らを「欠けた心を持つ者」として忌み嫌う修司の言動に、バーンズは悲愴な面持ちで何も言い返せなくなってしまう。

 

 修司がデーモンスーツの整備を終えると、修司とバーンズは二人でジャッジ・ザ・デーモンの秘密基地を見て回る事に。

「確か、ジャッジ・ザ・デーモンの愛機で……ヘルウィングとヘルロードだったっけ」

 バーンズが基地内に在るジャッジ・ザ・デーモンの愛機である戦闘機と自家用車を指して訊ねると、修司が答えた。

「いいや、地獄の、という名前はちょっとイメージに合わないかと思って変えた。ステルス小型戦闘機はジャッジウィング、ターボエンジン付きの車はジャッジモービルと改めて命名した上で改良した」

「って、まんまバットマンじゃねえか。お前さん、ジャッジ・ザ・デーモンのイメージがそのまんまバットマンに近いんじゃないか?」

「そうかもな。バットマンは闇の正義を司り、俺は闇からの制裁をモットーにしているからな。凶悪犯を殺すか叩きのめすかの決定的な違いはあるがな」

「そうだな。と、いうか、このジャッジウィングにジャッジモービル、まさかSRMの技術を勝手に応用しているんじゃないだろうな」

「勝手に技術を拝借して悪いと思うが、ウッズが丹精込めて製造してくれた大事な機体だ。このジャッジウィングで世界中を飛び回り、世界の巨悪と闘い……またある時はジャッジモービルで地上を駆け抜けて悪が暗躍する場に真っ先に駆け付けるのが、俺の考えだ」

「ウッズもよくお前の企み……いや、言い方が悪かった。考えに賛同してくれたな。せっかくの天才的頭脳を、ジャッジ・ザ・デーモンの技術とアニメタウンの運営に回してばっかでよ」

「ウッズにはいつも苦労かけさせて悪いと思っている。だが、奴の献身的な協力があってこそ、ジャッジ・ザ・デーモンは本当の弱者救済という制裁を続けられるんだ」

「お前はヒーローじゃないとはいえ、協力者が必要不可欠なのはやっぱヒーローと変わらねえな。……ヒーローも、一人だけじゃ戦えないからな」

 漆黒の機体と車体を見て、修司とバーンズは語らい合う。

「……ところで前々から気になっていたんだが、お前が敢えて生かしている犯罪者の顔に焼き付けられたJDの焼き印って何の意味で付けているんだ? そもそも、どうやってデーモンスーツで焼き印してるんだ?」

「ああ、あれか。焼き印をする焼き鏝は、デーモンスーツの右手の平に印判があって、それを特殊な赤外線で熱してから顔に押し当てるんだ。罪人が一生、自分が犯した罪を忘れないよう、特殊な赤外線で骨まで焼き付けるから、どんな外科手術でも消せない焼き印仕様になっている。本当に消したければ骨を削るしかないが、そんな整形手術バカ高いし、骨を削れば顔が醜く変形しちまうから、所詮罪人共は一生罪の意識から逃れられないって寸法よ」

「……やる事がエグイな、お前……」

 ジャッジ・ザ・デーモンが罪人に押し当てる焼き印の惨たらしさに、バーンズは呆気に取られてしまう。

 

 それからもジャッジ・ザ・デーモンは弱者救済の為に尽力し続けた。

 

 2003年7月18日

 元衆議院議員の辻元清美が秘書給与詐欺容疑で逮捕。

 この逮捕の背景にはジャッジ・ザ・デーモンが暗躍していた可能性があると報道機関は取り上げた。

 

 2003年7月25日

 渋谷連続通り魔事件で5人が軽傷。

 その数週間後に犯人が重傷を負った上に顔の頬に《JD》の文字の焼き鏝を当てられた状態で、警察署の屋上から麻製の袋に詰められた状態で吊るされているのを警察官が発見し、そのまま逮捕。

 体に幾つも見られる切り傷や殴打の痕跡、そして何より頬に焼き付けられた《JD》のイニシャルから犯人を暴行し警察署に吊るしたのはジャッジ・ザ・デーモンであると安易に予想できた。

 

 2003年8月18日

 埼玉県にて熊谷男女4人殺傷事件が発生。

 この際、事件を起こし殺人を行った通称Oは警察よりも先にジャッジ・ザ・デーモンに発見され、デーモンと所持していた刃物で格闘した末に、デーモンに殺された。

 そして殺人幇助・殺人未遂幇助の罪に問われる事となってた少女と少年はジャッジ・ザ・デーモンに制裁の名目で体中を殴打され、重傷を負うものの命までは取られなかった。

 その後、二人の少女と少年はジャッジ・ザ・デーモンに制裁を加えられた後、デーモン自らが最寄りの警察署に2人を連行し署の入り口前に揃って投げ捨てられた事で事件の詳細な事柄が判明した。

 この際、少女と少年の頬にはジャッジ・ザ・デーモンが自ら制裁を加えた証として例の如く《JD》の焼き印が顔の頬に押し当てられてた。

 未成年の少年少女にも容赦のない制裁を与えるジャッジ・ザ・デーモンの心の闇を周知している聖龍HEADの心境は複雑なものだった。

 

 2003年9月16日

 愛知県名古屋市東区で起こった運送会社「軽急便」の賃金不払いに抗議した当時52歳の男が、大曾根駅前の第一大曾根駅前ビルの本社・名古屋支店に侵入し、店内にガソリンを撒いて当時41歳の支店長を人質に立てこもる事件が発生。

 警察の説得にも応じず、更に特殊部隊SATに待機命令を出したのだが、現場となっていた店内には揮発したガソリンが充満していたため、犯人の制圧に銃器や閃光弾が使用できず立ち往生していた。

 だが密かに本社内部に侵入したジャッジ・ザ・デーモンが犯人の男に忍び寄り、適格に相手の急所を殴打し男を気絶させ、誰一人の犠牲者も出さずに事件は幕を下ろした。

 犯人を取り押さえたジャッジ・ザ・デーモンは警察が突入する前に気絶してる犯人を拘束し、人質とされてた支店長の身柄を解放させ、支店長を自力でビルから脱出させる。ビルから出てきた支店長の告発で既に犯人が取り押さえられ、警察ジャッジ・ザ・デーモンが駆け付けては単身で事件を解決させた事を把握した。

 このジャッジ・ザ・デーモンの活躍に、マスコミは大々的に取り上げ、新聞の見出しには「ジャッジ・ザ・デーモン 自警団かヒーローか?」と報じた。

 しかし当然の事ながら、己を英雄視しないジャッジ・ザ・デーモンからしてみれば、有難迷惑な報道だった。

 

 こうして欠けた心を持つが故に、闇の制裁を与えて行くジャッジ・ザ・デーモンの凶行にはバーンズ達HEADも悩みの種だった。

 

 

 

[北朝鮮の解放を兆しに]

 

 それから間もなく。

 修司と聖龍隊が世界的に多大な働きを起こした。

 それは2003年10月から、翌年の3月までの間。

 アニメタウンに密かに潜入した北朝鮮のスパイが発端となり、聖龍隊は北朝鮮へ進攻する事が決議された。

 拉致被害に核問題など、世界的に見ても数々の問題を抱えている北朝鮮を放置する事は、許されないとして聖龍隊は発起した。

 だが、それらは表向きで、裏では世界各国が北朝鮮への進攻を失敗して、聖龍隊の国際的権限が弱まる事を期待していた。一方で小田原修司は、北朝鮮解放と言う大義名分の元に聖龍隊を世界的に活躍させる事で多くの二次元人の存在価値を世間に評価してもらおうと言う魂胆があった。

 そんな世界と小田原修司の思惑が入り混じる中、聖龍隊は遂に北朝鮮を解放に導いた。

 思惑が外れて裏では愕然とする世界に反して、己の思惑通りに事が進んで内心喜ぶ修司。

 そしてこの活躍を果たして、聖龍隊は天皇家から直々に名誉勲章を授与され、さらに天皇家直属の皇軍の地位も与えられた事から、聖龍隊の権威は絶対的なものとなった。

 同時に天皇家から北朝鮮解放に基づく働きから、以前より小田原修司に嘆願されていた「アニメタウンの国家としての認定」が認められた事で、事実上アニメタウンは日本から独立した国家として認可された。

 そして同時期、小田原修司は北朝鮮解放に多大な功績を挙げた聖龍隊隊士、村田順一を始めとする複数の部隊を評価し、複数の部隊を従えて行動した村田順一の指導力を改めて彼に複数の部隊を率いる総合部隊の隊長、通称総部隊長の役職を与え、その総合部隊の名に《スター・コマンドー》通称:流星の総合部隊としての地位と権限を与えた。

 更に小田原修司は、日夜活動する聖龍隊に成り変わり、スター・コマンドーに皇軍としての活躍の場を、地位を譲渡した。これによりスター・コマンドーは皇軍としても働くように至った。

 

 その後、小田原修司の名声と権威も飛躍的に上昇し、小田原修司は世界に向けて「未だ世界に蔓延る凶悪なテロや犯罪を断固として処罰しなければならない!」と公言し、その際の小田原修司の熱弁に世間の人々は心酔していった。

 北朝鮮での功績を収めた聖龍隊を指揮していた小田原修司はその後、陰湿な犯罪を隠ぺいしてきた事もある国政や警察機関などの法律関係の機関は元より、医療ミスが多発していた医療機関までも掌握し、人命や罪を裁かなければならない地位を得ているのに関わらず、その人命を奪ったり犯罪を犯した警察や法律機関に医療機関の人間も重役問わず逮捕されて投獄され、または異常者(ヒール)として人権や所有財産の大半を没収する武力行使を用いた強制的な悪人の排除にも力を注ぐ。この時の修司は、例の如くジャッジ・ザ・デーモンとしての活躍と併合して様々な機関を己の監視下に置いた。

 

 また、世界各地で頻繁に起こる爆破テロや凶悪犯罪に対抗する政策として小田原修司が考案したのが《将軍制度》なる法案が国連に認可された。これは県や州などの地域及び国ごとに法務機関や武力の権限を纏め上げる将軍と呼ばれる地位を与えた人物を据え置く政策であった。この小田原修司が発案した政策を国際連合は高く評価しては早速世界中の国家や軍関係者に、この法案を取り入れるよう指示を告げる。この時の国際連合は、兼ねてより強化された傭兵小田原修司の存在と彼が指揮する聖龍隊の北の国解放の戦果によって、どの国よりも高い権威を持ち合わさっていた。

 この将軍制度で日本では国の武力や政界を束ねる国将軍や、県の治安維持に全身誠意を持って尽くす県将軍を据え置いた。この際、北の国での多大な戦果を称えて北海道の県将軍には聖龍HEADのちせを。沖縄の県将軍にはスター・コマンドーの音無小夜が職務を請け負った。

 一方で世界でも国ごとに将軍を据え置き、武力の統治や治安維持に全力を注ぐ国将軍や、アジアやヨーロッパなど州そのものを指揮する州将軍も健在させた。一部の例外として、アジアやヨーロッパにも領土があるロシアは国将軍と州将軍が合致した地位を与えられ、またアメリカの方では南北に跨るアメリカ大陸の広さからそれぞれカナダ・アメリカを拠点とする北アメリカ将軍と、南アメリカの将軍2名を据え置いた。そして広大な領土と多くの州が点在しているアメリカ本土は、アメリカ内の州将軍は日本でいう所の県将軍と同じ地位である。

 また過去の功績や実力で、州将軍と国将軍を兼任する軍人も世界では少なくなかった。

 県将軍→国将軍→州将軍の順で地位の高さが変わる訳だが、日本と独立したアニメタウンの国将軍は表向きは小田原修司が請け負う事と相成った。だが当初より国連に身柄を預けてた事情とジャッジ・ザ・デーモンの職務などが重なって、表向きの職務を腹心であるバーンズとウッズにそれぞれ武力の維持とアニメタウンの政策を任せっきりにしていたという。

 

 そんな中、ジャッジ・ザ・デーモンの機動力の高さが評価される事件が発生した。

 2004年5月18日

 千葉県松戸市と栃木県宇都宮市で立て続けに2件の立てこもり事件が発生。

 松戸の事件は午前11時半頃に発生、約12時間後の同日11時30分頃に犯人の男が何者かに襲撃され気絶。その間、人質となっていた流山市在住の男性は解放され、犯人は気絶したまま人質強要処罰法違反で現行犯逮捕された。

 一方の宇都宮の立てこもり事件は約44時間後の5月20午前5時40分頃に犯人の暴力団組員の男と人質であった女性が拳銃自殺を図ろうとした所に漆黒の紅く大きな目玉の怪人が現れ、二人を一撃で気絶させる。後に警察に拘束された二人の話では「お互いに拳銃自殺を図ろうとしてた所に、全身が黒い上に毛細血管の様な網目が目立つ不気味な風貌の紅くて大きな目玉が特徴的な怪人が現れ、一撃で気絶させられた」という。

 これらの聴取から、2件ともジャッジ・ザ・デーモンが遠距離を跨いで事件を解決させた事が推測される。

 事件当時、自衛隊および航空管制塔では松戸市と宇都宮市の間を高速で移動する謎の飛行物体が確認されている。おそらくはジャッジ・ザ・デーモンの自機であると思われる。

 この事件で活躍したのは、言うまでもないジャッジ・ザ・デーモンの自機であるジャッジウィングであった。高速機であり、ステルス機能も備わったジャッジウィングは世界中を飛び回り、各国の犯罪者達を恐怖のどん底に叩き落としていた。

 ジャッジ・ザ・デーモンが世界中で活動できるのは、ジャッジウィングがあってこそなのだ。

 

 

 

[平等の街を目指して]

 

 そして2004年6月。修司はある一大決起を起こした。

 それは国連と共同で、日付変更線から見てアメリカ寄りの太平洋沖に人工島の建造を開始するという大規模な計画だった。

「修司! 太平洋沖に人工島を建造しようって計画は本気か!?」

 相棒バーンズやHEADの問い掛けに修司は真剣に語った。

「二次元界の技術を駆使して建造する、この人工島は二次元人と三次元人の共存を願っての都市として建造する予定だ」

 修司は、この計画は自分が長年夢見てきたという二次元人と三次元人の共存を図る人工都市の建造であり、同時に異世界からの運航の拠点と成り得る地点の建造が目的であると仲間達に伝えた。

 人工島の建造には二次元界の技術が多く採用され、島の都市の居住者は世界中から国や人種問わず声を掛けたり、または難民や貧困に相次ぐ自国から抜け出し亡命してきた人々の拠所としても建造計画が練られていた。

 この太平洋沖での人工島建造に当たり、三次元界では二次元界の特殊な物質や発達した科学技術が多く採用される様になり、世界各地の科学技術の発展は加速の一途を辿った。

 だが、この人工島建造に伴い、聖龍HEADの中でも賛否両論が分かれた。

「自然破壊に繋がるのではないか」

「二次元界の科学技術を、そう簡単に三次元人に伝授しても良いのだろうか」

「二次元人と三次元人が共存すれば、様々な亀裂や摩擦から衝突が起きてしまうのではないか」

 様々な意見が飛び交う中、小田原修司は国連との協力の元、平和的利用の為に人工都市の建造に立ち会った。

 後に人工島での都市の名前に、平等な街を願って「ジャッジ・ザ・シティ」と命名される事を、この時HEADは知る由もなかった。

 

 だが太平洋沖の人工島建設に伴う活動中でも、修司のジャッジ・ザ・デーモンとしての活動は休まる事は無かった。

 2004年6月4日三郷市逮捕監禁致傷事件で犯人逮捕。犯人はかの女子高生コンクリート詰め殺人事件の準主犯格だった男だった。

 出所後に行った暴行・監禁で再逮捕され、情状不安定のまま警察署の留置所に拘束。

 だがその深夜、只ならぬ悲鳴を聞いて駆け付けた刑務官が犯人を収容している留置室を見てみると、そこには壁に血塗れの両腕・両足が突き刺さり、断面が爆発したかのような損傷を受けた腕と足、更には切り取られた性器の断面からも夥しい出血をしてもがき苦しんでいる犯人を発見。

 その後、治療を受けた犯人は手当が早かったため命に別状はなかったものの、腕と足を左右共に損失し性器も失った挙句、顔にはJDの英字が深く焼き付けられた状態に陥る。

 犯人の口述によれば、深夜就寝している所に突如として紅い目玉が目立つ怪人が現れ、自分の両肘と両膝に何かの鋭利な3本爪の部品を突き刺され、壁に固定された所に今度は右手の3本の鋭利な鈎爪で性器を切断された挙句、両肘と両膝に突き刺され壁に固定された部品のランプが点滅すると同時に怪人は姿を消したという。その後、数秒も経たない内に両膝両肘に突き刺された部品が爆発し、両腕と両足が肘と膝から爆破され分断されてしまったという。

 口述の内容から、男性犯人の性器を切断し、両腕両足を爆破して分断した人物は、犯人の頬に深く焼き付けられたJDの文字からもジャッジ・ザ・デーモンの仕業であると判断。

 犯人はその後、実刑判決を受けた後に収容施設で性器だけでなく両腕両足の無い四つん這いで床を移動する生活を余儀なくされている。

 この事件の背景には、過去に罪人が犯した女子高生コンクリート詰め事件に対する罪状も含んでいるとジャッジ・ザ・デーモンは後に語っている。

 過去に己が犯した大罪にも、微塵の反省の色を見せない凶悪犯罪者に、生きながら苦しみ続ける罰をジャッジ・ザ・デーモンは与えたのだ。

 

 女子高生コンクリート詰め事件の主犯の性器と手足を爆破させて、もぎ取ったジャッジ・ザ・デーモンこと小田原修司は表向きの活動も積極的に働いた。

 太平洋沖に巨大な人工島を建造するという一大プロジェクトを成功させる為に、修司は各国の要人達だけでなく様々な権力のある人々と協力関係を築いて人工島の建造を着々と進めていた。

 

 修司が平等の街造りに専念する一方で、ジャッジ・ザ・デーモンとしての責務も彼は果たしていた。

 2004年7月7日

 警視庁が1995年に起きた警察庁長官狙撃事件の容疑者としてオウム真理教信者であった元警視庁巡査長と元オウム幹部2名を殺人未遂容疑で逮捕。

 その後、警視庁と検察庁が入手した数々の証拠から逮捕された容疑者全員が懲役80年の実刑を受ける。

 但し、警視庁と検察庁は入手した証拠の入手ルートを明らかにしていない。

 実はこの時、密かに警視庁と検察庁に証拠を提供したのはジャッジ・ザ・デーモンであり、警視庁と検察庁はジャッジ・ザ・デーモンと協力して証拠品を手に入れた事を内密にしたのだった。

 

 この二重の生活を送り続ける修司の多忙な日々に、聖龍HEADは心配するが、それでも修司は己の職務とジャッジ・ザ・デーモンとしての責務を止める事は無かった。

 修司は良く、聖龍HEADに対して次の様な言葉を投げ掛けたという。

「正義に絶対というものが無いように、悪にも絶対という基準はない。そんな曖昧な境界線の中で俺は罪人たちに制裁を与える鬼として闘い続ける」

 正義や悪に絶対が無いように、善と悪の境界線は常に曖昧で、その白と黒の狭間の灰色の境界の中で自分は罪人達を裁いているのだと仲間達に説く修司。

 しかし聖龍HEADは修司の良心が霞んでいく上に、いづれ消えてしまうのではないかという不安が募る中、そんな不安がる仲間達に修司は説いた。

「お前達が希望や愛を担う以上……誰かが恐怖を担わなければ、弱者は護れない」

 希望や愛、正義や理想だけでは本当に弱者は護れない。故に、誰かか罪人達を抑制する恐怖を担い、司らなければ本当に弱者を救済する事は出来ないと説く修司の言動に、聖龍HEADは返す言葉を失くしてしまう。

 

 善悪の基準は結局のところ人間が決めるもの。誰にも、その境界線を決める権限はない。それ故にジャッジ・ザ・デーモンやその周りを取り巻く英雄達は悩んだ。善悪の基準を。その曖昧な境界線を。だが悩みながらも彼らは、ジャッジ・ザ・デーモンは闘い続けるしか出来なかった。

「正義は一つではない、一つの正義に固執するな」

 この世で活躍する英雄達が掲げる正義は、決して一つでない。見方を変えれば多くの正義が確実に人々を救済している事実を小田原修司は仲間達に述べたかった。

 そして聖龍HEADの仲間達も、修司が掲げる恐怖と制裁について考える。

 小田原修司、いやジャッジ・ザ・デーモンは正義でも無ければ悪でもない、己の信念のもと戦い続ける異形の存在であり犯罪者を抑制する恐怖そのものだという事を。

 発達障害者として現実と言う闇から生まれ、現実という闇と対峙し闘い続ける存在。

 それこそジャッジ・ザ・デーモンの真の姿なのかもしれないと。

 

 

 

[Fとの戦い]

 

 テロリスト、異常者(ヒール)、犯罪者、汚職権力者、多くの罪人を罰し続けながらも平等の街を夢見て人工島建造に着手する修司ことジャッジ・ザ・デーモンの働きがあったが、そんな常軌を逸した科学力と格闘術を備えた彼でも未解決の案件があった。

 それはネット内で存在を仄めかし、その残忍性と人を惹き付けるカリスマ性から世間の注目を集める犯罪者。

 その存在は、遂にネットだけでなく現実社会でも巻き起こった。

 2005年2月。世界中で残忍な犯罪が多発し、その犯罪を行い裏で暗躍していた人物はいつも現場に残されたカードの英字から《F》と俗称され、世界を震撼させる。

 その残忍でかつ巧妙な犯罪と計画に世界中の捜査機関の目を掻い潜り、犯罪を行い続ける《F》の所業には聖龍隊ですら難色を示した。

 だが、その《F》の悪行を食い止めようと例の如くジャッジ・ザ・デーモンが《F》の捜査に踏み切っていたのだが、Fは簡単にその存在を明白なものにはしなかった。

 Fは犯罪経歴を持つ者から、精神に異常を来した異常犯罪者も巧みに裏で操り、中々その素性を表に出す事はなかった。

 愛知県安城市のスーパー・イトーヨーカドー安城店で刑務所を出所したばかりの男が乳幼児を殺害する事件の裏にも《F》が暗躍していたという。

 

「Fとは何者だ!!」

 愛知県警の獄中に捕えられている被疑者の元に、ジャッジ・ザ・デーモンが潜入して問い質す。

 だがジャッジ・ザ・デーモンの尋問に対して被疑者は狂った様に笑い出した。

「Fは、Fは………………神だぁ! はは……っ」

 ネット犯罪者Fを神だと唱える被疑者は完全に狂っていた。これ以上の尋問は不可能だと認識したジャッジ・ザ・デーモンはそのまま獄中から姿を消した。

 

 だがFが絡んでいる事件は、それからも続いた。

 なんと二次元界アニメタウンでそれは起こった。

「……君はセーラームーンかい?」「っ……!」

 テレビ局に送られてきた映像には、縛り上げられた上に痛め付けられたセーラームーンのコスプレをしている女性が映し出されていた。

 女性は酷く怯え切った様子で、カメラに向かって助けを求める様な視線を送ってた。

「君はセーラームーンかな?」

「ち、違う! 私は本物じゃない……!」

 女性はカメラを持つ何者かに問われ、自分は偽物であると切実に訴える。

 だが撮影者は偽セーラームーンにナイフを突き立てると、彼女に一方的に話し出した。

「僕はヒーローやヒロインが大好きなんだ、大ファンなんだ。だからさ、勝手に本物気取りしている奴を見ているとさ……切り刻みたくなっちゃうんだ。ほら、よく偽物のブランド品を掴まされて怒りが込み上げる時ってあるじゃん。それと同じさ。だから君の、その本物とは似ても似つかない不細工な面をこのナイフで……」

「ご、ごめんなさい、やめて…………うわあっ!」

 偽セーラームーンの顔にナイフが突き刺さる瞬間、映像は途切れた。

 この映像が報道関係者によって公開された翌日、人目の付く目立つ場所に映像に記録された偽セーラームーンのコスプレをした一般人が無残な死体で発見された。

 しかも、彼女の惨たらしい死体の顔には、なぜかジャッジ・ザ・デーモンを彷彿とさせるFの焼き印が押されていた。

 それからもFは報道機関を大いに活用し、「ヒーローとまともに戦え合えるのは僕だけ、ヒーローの真似っこをしているだけのオフザケ野郎は殺しちゃう」とマスコミを通じて声明を発表し、その後も多くのコスプレイヤーを惨殺していった。

 

 事件はその後も続き、聖龍隊のコスプレをした一般人、正確にはコスプレを纏った自警団が続々と謎の撮影者Fに惨殺されては、その映像がネットを通して放出され、多くの聖龍隊のコスプレで自警活動していた人間が犠牲になった。

 この事態に本物の聖龍隊は酷く落ち込んだ。自分達とは無関係の人間が、自分達のコスプレで自警活動をしていた人々が狂気殺人の餌食になっていく現状に聖龍隊は悩まされた。

 だが、この状況下でも小田原修司はジャッジ・ザ・デーモンとしての活動に専念した。

 自分達とは無関係の一般人が事件に巻き込まれていく現状に、困惑する聖龍HEADに対して修司が真顔で言伝した。

「俺は決して正義の味方でもなけりゃ、英雄とも名乗らん。本物の英雄には死んでもなれないと自覚しているからな……だけどな、本物の英雄であるお前達が目の前の悲劇に立ち止まり、歩みを止めたら誰が人々の希望を護るんだ? お前達も、俺も……立ち止まっちゃいけないんだ。何があろうと、敢然と立ち向かい、前進して人々の希望を……未来を護らなきゃならないのが、英雄ってもんじゃないのか? 俺はそんな気高い意志を、お前たち本物の英雄を見て学んだ。そんなお前達が自分達を真似てコスプレ姿で自警活動してた連中の惨殺を前にしたら……やるべき事は決まっているんじゃないのか?」

「………………………………………………………………」

「歩き続けろ! 立ち止まるな、進み続けろ! 聖龍隊!」

 修司はそう聖龍HEADに熱く伝えると、己はジャッジ・ザ・デーモンとしての務めを果たしに漆黒の闇へと単身で突き進む。

 

 修司からの意志を感じ取り、聖龍HEADは立ち止まる事無く自分達から率先して事件の捜査に乗り出した。

 そして皮肉にも、このFの惨殺事件をきっかけに、聖龍隊のコスプレに扮した自警団は世界中から徐々に姿を消していった。

 だがFの犯罪はそれからも頻繁に続いた。

 未だ、その素顔を晒す事は無いまま……。

 

 

 

[アメリカ将軍との協力]

 

 その一方で若干16歳でアメリカの国将軍にして近い内に北アメリカの州将軍にも任命される予定のジャクソン・グレイシス将軍が日本を始め世界の警察機関や軍事機関、更には国家機関に最終的にはICPOなどに自ら率先して訪問しては世界中で横行する《F》の悪行や度重なる陰湿な犯罪を食い止めようと、それぞれの機関の上層部と面会しつつ互いに協力関係を布いていく姿勢を奨励していく。

 

 ジャクソン将軍が率先して様々な機関と連携を組んでいく中、日本の京都にて。

 此処で将軍はプライベート用のスーツを着衣してある人物と優雅に茶を嗜みながら密会していた。

「ふぅ~~、日本の緑茶は美味しいね」

「そう言ってくれると、日本人としては純粋に嬉しいな」

 将軍と密会しているのは、他でもない小田原修司だった。二人は老舗和菓子屋の店先で茶を嗜みながら茶菓子を摘まみ、会話していた。

「しかし、密談の場に人出が多い老舗を選ぶとは……案外、いいかもね。灯台下暗しって感じで」

「意外と、人出の多い所の方が却って話が進みやすいものだ。まさか周りの人間は、こんな所で重要な話をしているとは夢にも思わない」

 二人とも、茶を口に運びながら会話を続ける。

「ジャクソン、まさか昔、軍で一緒に鍛錬を積んだお前さんがアメリカの国将軍に抜擢されるとはな……まあ、IQ280は伊達じゃないって事か」

「修司、世界中に将軍制度を推し進めた君がそれを言うかい? 君が将軍制度を推してくれなきゃ、僕だって日の目を見られなかったよ」

 実はジャクソン・グレイシス将軍と小田原修司は、昔アメリカの軍で共に鍛錬に勤しんでいた昔馴染であった。

「ところでジャクソン、本題に入るが……Fと名乗るイカれた野郎の素性はアメリカ軍でも掴んでいるのか?」

「それなんだが……Fは巧妙に軍や、時にはFBIのコンピューターにハッキングして機密情報を盗み見ている疑いがあるんだ。ああ、これはまだ公表してないんだけどね」

 二人は此処からヒソヒソ話で会話し始めた。

「大事な話、聞かせてもらって済まない。だが聖龍隊でも調査しているんだが、こっちも同じ様な捜査状況でな……Fはそうそう簡単に姿を見せてくれないんだ」

「こっちのアメリカでは、Fは単独犯じゃなくグループによる犯行じゃないかと言われている。一人で犯行に及ぶには、技術が高度すぎるって……」

「そうか。それで、お前さんは世界中の警察機関や軍事機関そしてICPOと協力関係を布いた訳だが……どうだ、聖龍隊とも協力関係を結ぶのは?」

 修司は大好物のパフェを頬張りながら親友のジャクソンに訊ねると、ジャクソンは喜々とした表情で答えた。

「それは凄い……! 日本の二次元ヒーロー達との協力が得られれば、百人力だ! ぜひ、協力させてほしい……!」

「よし、交渉成立だな。一緒にFってふざけた野郎をとっちめようぜ」

 ジャクソンの返答に、修司は生クリームで汚れた手をおしぼりで綺麗に拭うとジャクソンと拍手を交わした。

 

 だがジャクソン将軍の全面的な協力も相成って、日本では権威が完全に消失していた警察や検察組織が己の威厳を取り戻しつつある現状の中、当の《F》はコンピューターなどにも巧みにハッキングしては全くの痕跡を残さないで世界中の捜査機関や政府機関さらには軍関係の機密事項まで盗み出し、半ばサイバーテロの如く世界中の情報網を混乱させた。

 

「Fが僕たちに扮している自警団を惨殺しているのは、どうも二次元人愛好癖が現れている様だね」

「そうだな。オレたち二次元人の真似をして英雄気取りの連中を惨殺している背景には、まるでオレ達のファンだと言っていそうな手口だ」

 聖龍隊参謀総長ジュニアと副長バーンズ、そして聖龍HEADはFが二次元好きの愛好家すなわちマニアやヲタクなのではないかと推測を立てた。

「でも、タダのマニアって訳でも無さそうよ。高度な防衛プログラムもファイヤーウォールも難なく突破できるのは並大抵の知能じゃ到底できっこない」

「天才的頭脳を持った二次元人愛好家……それがFの正体って訳ね」

 犯行の手口から、Fが高い知能を持つ二次元人好きの愛好家である事を推測するコレクターアイに続いて、龍咲海もFの正体に核心を突く。

 すると此処で、聖龍HEADは二次元人好きの人間と言う事である人物を連想して後ろを振り返った。

 彼女らの後ろには、静かにHEADの推理を観察しながら好物のチョコバーに齧り付く修司がいた。HEADは一瞬、修司がFなのではないかと思ってしまった。

 だが、皆の視線を浴びて一瞬で察した修司はチョコを頬張りながらHEADに話し返した。

「おいおい、確かに俺はアニメタウン市長として二次元界の……お前達の事は熟知しているつもりだぜ。でもな、俺はFみたいに何でもこなせる万能な秀才じゃない。考え違いするな」

 ジャッジ・ザ・デーモンの際には見られない軽口で話し返す修司の言動に、HEADは顔を見合わせて「それもそうだ」と納得する。

 しかし仲間のHEADからの推測を聞いて、修司も独自の解釈を立てて語った。

「でも、確かに俺でも無暗に二次元ヒーローの真似をして自警活動をする輩は気に食わない。Fも、そんな考えの元、コスプレしている自警団を殺害しているのかもしれん」

「お前も気を付けろよ。ヒーローを名乗ってはいなくても、お前も実質自警団には違いないんだしよ」

 語る修司にバーンズが警鐘を告げると、修司は真顔でこう言った。

「心配するな。俺はヒーローでも無ければ何者でもない、この世で唯一の裁きの鬼だ。それに、もしFが目の前に現れたなら全力で叩きのめしてやるよ」

 Fにも容赦のない制裁を与えると宣言する修司の言葉に、聖龍HEADは唖然としてしまう。

 

 こうして聖龍隊や世界中の捜査機関は、他者を巧みに操り、そしてインターネットへの侵入も難なく熟す《F》が高度な知能を持った知能犯である事を突き止める。

 しかし捜査の網を掻い潜り、時には己の替え玉も用いて捜査に携わる者らを偽り欺き続ける《F》を捕える事は困難に至った。

 一方で三次元政府側はある話を小耳にする。それは《F》の正体は、三次元側の政府や当局の崩壊を望んでいる二次元人ではないかと。

 この情報に小田原修司は全否定したが、世界中の二次元人への疑惑が消える事は難しかった。

 F=二次元人説は、瞬く間に世界中に伝心し人々の二次元人への信頼感は徐々に欠落していく情勢が目立つ様になる。

 その最中、アメリカ政府が厳重に保管・管理していた核ミサイルの部品がアメリカ各地から盗み出される事件が発生した。この事件の後に《F》と名乗る人物から謎の音声メッセージが世界中にネットを通して拡散され、アメリカに点在していた核ミサイルの部品を盗み出したのは自分であると犯行声明を流した。

 アメリカ各地に点在する形で管理されてた核ミサイルの部品を盗み出した《F》の所業に、《F》が二次元人であると思い込んでいた三次元人たちは二次元人への不信感を募らせる一方だった。この現状に二次元人の人権の尊厳を主張している姿勢の小田原修司は悩まされた。

 更に次元人への不信感から、彼らの技術で建造されてる真っ只中の太平洋沖の人工島の建造も一時停止してしまうまでに追い詰められる。

 

 Fの巧みな情報戦略により、二次元人の立場が危うくなっていく一方、二次元人達の不満も爆発寸前だった。

 三次元人からの非難、そして疑いの眼差しに次第に嫌気や鬱憤が募って来た。

 この事態に小田原修司は協力関係を築いた盟友のジャクソン将軍に通達。アメリカ国内の情勢はどうなっているか国際電話で訊ねた。

「ジャクソン、俺だ、修司だ」

「おお、修司! 大丈夫かい? 僕の方の三次元界じゃ、君ら二次元人側を疑っているよ」

「やっぱりか……アメリカも同様に、Fが二次元人であると疑っているのか」

「ああ、その通りだ。高度なネット技術と、それを操作できる知能指数から、Fは二次元人って考えが伝染してしまっているよ。僕の方でも、軍上層部から二次元人と……二次元人を庇い立てする君との協力関係を断ち切れって意見が飛び交って……」

「そうか……それは最もな意見だな。だが、本当のFを捕える為にも、今は世界中の機関が捜査協力し合って、Fの行方を追わなければ……」

「その通りだ! 世界中の機密情報を盗んだという事で、Fは今やCIAやMI6も素性を追い求めている凶悪犯だ!」

「うむ、そうだな……ところでジャクソン、天才であるお前に訊ねたい。お前はFがどの様な人物像か見当はついているか?」

「う~~ん、そうだね……言いたくはないけど、やはりFは君や僕の様に二次元人が好きで好きで堪らない一種のマニアなのかもしれない。本物に固執し過ぎている為に偽物のヒロイン、そう自警団を虐殺していったんだろうね。僕から言わせれば、ジャッジ・ザ・デーモンと大して変わりない狂人だと思うよ」

「ジャッジ・ザ・デーモンと同じ、か……」

「ああ! 僕から言わせれば、ジャッジ・ザ・デーモンもFと同様、人々から注目されたいっている脅迫概念が垣間見られる。人々から注目されたいという欲求から、あんな異星人だか怪人だか解らない容姿をしているんだよ」

「………………………………………………」

「ジャッジ・ザ・デーモンもFも、同等に世界に……人間社会に何かを訴えたいが為に行動していると思うよ。特にFは犯罪を一種の娯楽、エンターテイメントの様にしか感じていない傾向が目立っている。典型的なサイコパスだよ」

「異常犯罪者か……」

 修司はジャクソンとの通話を切って、独りで考え抜いた。

 Fは犯罪を娯楽として、エンターテイメントとして繰り広げているのか。

 そしてジャクソンの言葉通り、自分ことジャッジ・ザ・デーモンもFと同類なのではないかと自問自答を繰り返した。

 

 

 

[クラウディの悲劇]

 

 そんなある日の事、ネットの書き込み版と動画共有サイトに一つの書き込みが流れた。

 それは「アイドルを陥れた偽善のアイドル! 流水霧也(はやみ きりや)をぶちのめそう!!」という書き込みだった。

 その書き込みをした人物がFであると認識したジャッジ・ザ・デーモンと聖龍隊は即座に行動に移った。

 その頃の流水霧也(はやみ きりや)は自分の地元、北海道にてアイドルを引退して生活していたが、そんな彼に暴力を振るい放題だとネットで集まった暴徒達が縛り上げられている流水霧也(はやみ きりや)を取り囲んでいた。

「な、何故……こんな真似を……」

 縛り上げられた流水霧也(はやみ きりや)の問い掛けに対して、暴徒達は口々に言った。

「それはテメェが罪を犯したのに、何にも罰せられてないからだよ!」

「そうだ! 罪を犯した二次元人は全員異常者(ヒール)だ!」

「月島きらりを陥れた報いを、この場で味あわせてやるぜ!」

「そ、それなら既に報いを受けている……! 僕はもうアイドル業から引退したんだ、これ以上どうしろと……」

 流水霧也(はやみ きりや)が暴徒達に問い掛けようとするが、暴徒達は「黙りやがれッ」と霧也を殴り付ける。

「まだ報いは終わっちゃいねえぞ! 見てみろ、この焼き印! 俺達はジャッジ・ザ・デーモンの制裁を受けて、一生消えない焼き印を顔に押されたっていうのにテメェの様なワルガキは何の制裁も受けちゃいない! こんな不平等な事があるか!!」

「Fがせっかく設けてくれた絶好の機会だ……日頃の鬱憤も込めて、このガキを半殺しにしてやろうぜ!」

 暴徒達の多くがジャッジ・ザ・デーモンの制裁で日頃から鬱憤を募らせている暴徒達で、Fが仕掛けたこの機会に流水霧也(はやみ きりや)を殴り倒そうと集まって来た心無い暴徒達であった。

 そして暴徒達が流水霧也(はやみ きりや)に暴力で鬱憤を晴らそうとした、その瞬間。高所からジャッジ・ザ・デーモンが駆け付けて暴徒の一人に頭から突撃した。

 そして多くの暴徒達を相手に、ジャッジ・ザ・デーモンが奮戦している最中、デーモンは手の甲から伸びる鋭利な爪で流水霧也(はやみ きりや)を縛り付ける縄を切り裂いて、彼に告げた。

「早くこの場から逃げろ」

 ジャッジ・ザ・デーモンから忠告を受けた流水霧也(はやみ きりや)は早速、逃げ腰でその場から離れて、物陰からジャッジ・ザ・デーモンの奮闘ぶりを観戦した。

 流水霧也(はやみ きりや)が既に逃げ出していると思い込んでいたジャッジ・ザ・デーモンは、前後左右から襲い掛かってくる暴徒達を相手に奮戦していた。

 三本爪の鋭利な刃で暴徒達を切り付け、強靭に鍛え上げられた肉体で制裁を下していくジャッジ・ザ・デーモンの奮戦ぶりに流水霧也(はやみ きりや)は目を奪われていた。

 だが、そんな彼の背後から暴徒の残党が歩み寄って来て、彼に暴力を振るう。

「ッ!」「流水!」

 暴徒に後ろから殴り付けられる流水霧也(はやみ きりや)を見てジャッジ・ザ・デーモンは彼の許に駆け寄ろうとする。しかし暴徒達がそれを阻む。

 後頭部を殴打された事で意識が薄れゆく中、流水霧也(はやみ きりや)は思った。なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないのか。

 月島きらりへのスキャンダルは元々、オフィス東山からの指示で行っただけ。それ以外の動機は純粋に月島きらりに恋していたから。今ではスキャンダルもガセである事を公表し、大人しく芸能界からも退いた自分が、何ゆえ無関係な暴徒達に襲われなければならないのか。

 流水霧也(はやみ きりや)は怒りに震えた。

 そして一人の暴徒が流水霧也(はやみ きりや)に歩み寄ったその時、彼は咄嗟に立ち上がって三次元人である暴徒を殴り付けた。

「ぐへっ」

 殴り付けられた暴徒は軽く吹っ飛び、それを見た他の暴徒達は騒いだ。

「こ、このガキ……創造主である三次元人を殴り付けやがったぞ!」

異常者(ヒール)だ。このガキ、異常者(ヒール)に変貌しやがったぞ!」

 暴徒達は自分たち三次元人に抵抗してきた流水霧也(はやみ きりや)の反撃に対し、彼を異常者(ヒール)と勝手に罵った。

 しかし流水霧也(はやみ きりや)の怒りは収まらず、彼は暴徒達に殴り掛かった。

「! 流水! それ以上はダメだ!」

 流水霧也(はやみ きりや)の三次元人への暴力を見て、ジャッジ・ザ・デーモンは彼が異常者(ヒール)認定されかねない現状を危うんで制止を呼び掛けた。

 だが怒りで我を忘れてしまっている流水霧也(はやみ きりや)は暴徒達に殴り掛かる。

 と、そこに天窓を突き破って北海道将軍の聖龍HEADちせが飛来してきた。

流水霧也(はやみ きりや)、それ以上はやめて!」

 ちせは怒りで暴走する流水霧也(はやみ きりや)を宥め止めようとする。

 そんな、ちせにジャッジ・ザ・デーモンが暴徒達と戦いながら問い掛けてきた。

「どうした?」

 すると、ちせは切羽詰まった表情でジャッジ・ザ・デーモンに返答した。

「この乱闘は隠しカメラで中継されているの! 何万人ものユーザーが、この混乱を視聴してるわ!」

 ちせからの返答にジャッジ・ザ・デーモンは驚いた。Fの仕掛けたカメラによって、自分と流水霧也(はやみ きりや)の乱闘ぶりが全世界に生中継されていたのだ。

 と、そんな混沌の中、抵抗の意志を示していた流水霧也(はやみ きりや)に異変が起こった。

「うっ……ぐあ……!」

 流水霧也(はやみ きりや)は突然、顔の右側を強く押さえながら苦しみ出した。

 そんな流水霧也(はやみ きりや)に暴徒達が痛め付けようと駆け寄って、彼を殴りつけようとした、その時。暴徒の一人が声をあげた。

「っ!! ば、バケモノ……!」

 一人の暴徒がそう声をあげた次の瞬間、他の暴徒達も流水霧也(はやみ きりや)の顔を見て愕然とする。

 ジャッジ・ザ・デーモンとちせの二人も流水霧也(はやみ きりや)の様子を伺おうと目を凝らして彼の顔を拝んでみた。

 そして二人とも流水霧也(はやみ きりや)の顔を見て声にならない悲鳴をあげた。

 なんと流水霧也(はやみ きりや)の右側の顔が、黒く醜く変形してしまっていたのだ。

 周りが黒く変形してしまった流水霧也(はやみ きりや)に怯える一方、当の本人は未だ自分の顔の変化に気付かない様子。

 すると流水霧也(はやみ きりや)は徐に自分の両手を見詰めてみると、右手、正確には右側の半身だけが黒く変色している事に気付いた。

「な、何が起こっているんだ……!?」

 自分の身体の異変に動揺する流水霧也(はやみ きりや)

 すると現場に、ちせに続いて聖龍HEADのミラーガールが飛来して駆け付けてきた。

 現場に駆け付けてきたミラーガールを直視する一同。流水霧也(はやみ きりや)も目を凝らしてミラーガールを見詰めてみると、彼女の鏡の様に美しい瞳を見て愕然とした。

 何故ならミラーガールの鏡の様に美しい瞳に映った自分の顔、その半分が醜く黒く変形してしまっている事に気付いたからだ。

「か、顔が……僕の、顔が……!」

 整形で手に入れた美顔の半分が醜く変色している事実に衝撃を隠せない流水霧也(はやみ きりや)

 そしてミラーガール本人も、顔半分が醜く変化してしまっている流水霧也(はやみ きりや)に気付いて愕然とした。

 その流水霧也(はやみ きりや)の、クラウディの変貌した容姿はたちまち現場に仕掛けられたFの隠しカメラで全世界に生中継され、晒されてしまった。

 自分の顔が醜く変わり果ててしまっている現状に、流水霧也(はやみ きりや)は気絶してしまった。

 

 その後、病院に搬送された流水霧也(はやみ きりや)の診察が行われたが、なぜ突然顔半分が醜くなってしまったのかは不明のままだった。

 憶測ではあるが、三次元人との乱闘で、三次元人が抱く流水霧也(はやみ きりや)への反感や憎悪が彼の肉体に変化を齎して、肉体の右側が整形に用いられた物質と異常反応を起こして右半身が醜く変形してしまったのではないかと思われた。

 

 こうして流水霧也(はやみ きりや)ことクラウディは、三次元人の身勝手な憎悪で美しかった容姿を失ってしまう結果に至ってしまった。

 

 

 

[二次元人大好き!]

 

 クラウディこと流水霧也(はやみ きりや)の半身が醜く変貌してしまったが故に、彼が実は整形していたという事実がマスコミによって拡散してから数週間後。前々から聖龍隊が恐れていた事が起きようとしていた。

 それはある一人の三次元人が二次元界アニメタウンに入国して、事も有ろうに聖龍HEADの中で未だに素性を明かしていないセーラー戦士/キューティーハニー/ナースエンジェル/カードキャプター/コレクターズ/魔法騎士の面々の素性を暴露しようとテレビ番組に出場したのだ。

「……これをオレは恐れていた。オレらの個人情報は、設定として既に三次元人には周知されてしまっている。その情報を公にされるのを恐れて、オレは三次元人との共生が難しいと言って来たんだ」

 テレビを観ながらバーンズは自分が、いや自分達HEADが恐れていた事を語り明かす。

 そんな三次元人の青年は、聖龍HEADに対する情報を報道機関を利用して暴露し、メディアから注目を集めようとするが、その矢先、テレビ局に一本の電話が来た。

 司会者が視聴率を狙って放送中に来たその電話に出てみると、電話からは次の様な声が何重にもエフェクトを掛けられた状態でアニメタウン中に報道された。

「やあ、僕はF。そう、今や二次元界でも三次元界でも人々のカリスマを集めているエンターテイナーだよ! 今日、僕がわざわざ詰まらない番組に電話をかけてきたのは無粋な真似をしようとする其処の三次元人の青年に対してだ。彼は三次元界からの二次元人達の個人情報を……秘密を暴露して二次元人のヒーローやヒロイン達を困らせようとしている。そんなの僕は気に入らない! 気に入らないんだ。ヒーローは誰か解らないこそ、魅力が溢れているものだし、悪役がその正体を探る事にも重要性があると認識している。だから其処の青年には二次元人の秘密を暴露してもらいたくないんだ。ヒーローの正体や名探偵少年の正体とかね」

 この一方的な話に司会者が話し返そうとするが、Fは衝撃的な話を始めた。

「でも、僕には彼の言論を……発言力を制止する力は何もない、無力な一人の人間だ。そこでだ……今日はアニメタウンの市民にも全力で協力してもらおうと凄い作戦を思い付いたんだ! 僕はアニメタウン中の病院の何処かに爆弾を設置した。何処の病院か、そして何カ所に爆弾を設置したかはサプライズ! 内緒さ。急いでその青年の口を塞がないと……そう、殺しでもしない限り塞がらないその軽率な口を閉ざさない限り、何処かの病院は爆発で吹き飛んじゃう。重病の身内、産まれたばかりの子供、怪我をして入院しているお母さん等々……急がないとアッと言う間に死んじゃうからね。○○病院の様にね」

 すると次の瞬間、Fは自分の発言が全て嘘ではないという証に、テレビ局から目と鼻の先に在る病院を爆破して吹き飛ばした。この光景を屋上のカメラから撮影したテレビ局は大混乱。青年は窮地に立たされてしまった。

 それから間もなく、ウェルズ隊長が指揮している部隊がテレビ局に駆け付けて、青年を保護。急いでテレビ局から避難させるが、既にテレビ局の周辺には大切な関係者を爆弾で殺されたくない人間が殺到して、人の海だった。

 怯え切る青年を連れて、ウェルズは人混みを避ける様に護送車を手配して青年と隊士と共に車内に乗り込み、テレビ局から離れて行く。

 

 この時、ジャッジ・ザ・デーモンのコンピューターを駆使して修司とウッズは聖龍隊を支援していた。

 コンピューターからアニメタウンの病院に身内が入院している者が隊士として護送に紛れ込んでないか確認していた。

「俺は誰であろうと疑う。誰も信じられないからこそ、どんな可能性も見過ごさない」

 以前に修司から言い渡されていた格言を思い出しながらコンピューターで一人一人の隊士の身辺調査を行うウッズ。

 するとコンピューターに一人の一般隊士が表示された。その隊士はなんと現在、ウェルズと共に三次元人の青年を護送している車の同乗者だった。

「修司様!」

 ウッズから言われ、修司は即行で携帯を取り出して護送中のウェルズに危険を呼び掛ける。

 青年を護送していたウェルズの携帯に、修司から「同乗者に気を付けろ」というメールが送られてきて、ウェルズは此処で同乗者の隊士も大切な身内を人質に取られている人間だと把握する。

「な、なあ、その銃、持ってばかりじゃ疲れるだろ? 俺が持とうか……」

 ウェルズは同乗者の隊士が持つ銃器を何とか取り上げようと言葉をかける。しかし青年が怯える中、隊士は躊躇う様子を見せながらウェルズに話し返す。

「い、いえ、大丈夫です隊長。自分が持っています……」

「いや、だけどな……」

「隊長、自分の祖母は闘病中なんです。母が死んでから、たった一人で自分を育ててくれた身内なんです。申し訳ありません……!」

「いや、解るから。大事な身内を想う気持ちは凄く解る。だが過ちだけは犯すな、その祖母の為にも」

 ウェルズは必死で、今にも装備している銃器で三次元人の青年を撃ち殺そうとする隊士を宥め止め、制止しようと試みる。

 その間、護送車に同乗している隊士も病院で寝たきりの身内を人質にされた事実を修司から伝え聞いたセーラーウラヌスこと天王はるかがフェラーリで護送車の元まで駆け付けようとしていた。

 はるかが駆け付けている間にも、隊士は良心との葛藤を抱えながら銃を手放そうとはせず、ウェルズは隊士を宥め、同乗している確保された青年は自分の命の危険に脅え切る。

 と、其処に。走行している護送車の真横から天王はるかが運転するフェラ―リが突っ込んできて、護送車に激突。その衝撃で乗っていた隊士は気絶し、なんとか殺害を阻止する事ができた。

「て、天王はるか……よくやってくれたな、お陰で助かった……」

「っ……信号無視がかい?」

 激突の衝撃で目を回すウェルズの御礼に、はるかは他人事の様に振舞う。

 そんなウェルズとはるかのやり取りを護送車の中で伺っていた青年は、自分が正体を暴露しようとしていた聖龍HEADの一人はるかが身を挺して自分の危機を救ってくれた事に驚きを隠し切れなかった。

 そんな青年に、天王はるかは睨み付け、自分達の正体を公にしようとした青年に無言の圧力をかけた。

 

 その後、青年は三次元政府の警察機関に身柄を引き渡されて、混乱が収まるまで保護されたという。

 

 

 

[白と黒の境界線]

 

 一方で他の聖龍隊士は急いでアニメタウン中の病院から患者達を避難させて、最悪の事態に備える。

 そしてとある病院にて。其処は例の流水霧也(はやみ きりや)が入院している病院に一人の医者が無人に成りつつある病棟内を進んでいた。

 その医者はまだ避難の手が回っていない流水霧也(はやみ きりや)の病室に入室すると、顔の半面が醜く変貌してしまい落胆する彼に話し掛けた。

「やあ、流水霧也(はやみ きりや)くん。元気にしてたかい?」

「あ、あなたは……!?」

 ベッドから起き上がろうとする流水霧也(はやみ きりや)に医者は歩み寄り、彼を寝かせ付けたまま話し続ける。

「僕はFだよ。君を暴徒と化した三次元人達に放り出したエンターテイナーのFさ」

「F……! 貴様が……ッ!」

 流水霧也(はやみ きりや)は目の前の医者が自分を陥れたFだと知って、怒りで起き上がろうとするが、そんな彼を変装したFが宥める。

「まあまあ、待ちたまえよMrクラウディ! 確かに世間では君は立派な悪役で、そんな君を荒れた暴徒達の前に差し出しだのは他でもない僕さ。でも、その運命を君に与えたのは本当に僕なのかな……?」

「ど、どういう事だ!?」

「君を悪役に、悪人に仕立て上げたのは誰なのかな? 君を整形させてまで利用して、月島きらりを陥れる為の道具に仕立て上げた連中と僕……どっちにジャッジメントしなきゃならないのか、わっかるかな?」

「………………………………」

「そんなに僕を殺したければ、この銃で僕を撃ち殺せばいいさ。でも、それだけで君の復讐心は満たされるのかな? 本当はもっと、自分の運命を狂わせた連中を懲らしめなきゃならないんじゃないかな……?」

 医師に変装したFは流水霧也(はやみ きりや)に持ち込んできた拳銃を手渡すと、その拳銃を握らせたまま自分の頭に銃口を突き付けて「バン」と銃声の音を口で言った。そんなFの言葉に耳を傾ける流水霧也(はやみ きりや)

 そしてFは流水霧也(はやみ きりや)の人格を変貌してしまう言葉を吐いた。

「この世は全て……白と黒の境界線(ボーダーライン)で物事は決まってしまうんだ」

「白と、黒の……ボーダーライン……」

 唖然とする流水霧也(はやみ きりや)にFはオセロの駒を優しく手渡して更に告げた。

「そう、このオセロの駒の裏表と全く変わらない。世間は結局、白黒はっきりと付けなきゃ満足できないんだ! 白と黒……ホワイト&ブラック、いや…………ブラック&ホワイトって言った方が言いやすいかな?」

「ブラック、ホワイト……」

 この時、流水霧也(はやみ きりや)の、クラウディの中で何かが崩れ落ちた。

 

 そしてFの爆破予告から病院は完全にもぬけの殻。病室で安静にしていた流水霧也(はやみ きりや)も姿を消した。

 一方で、流水霧也(はやみ きりや)を言葉巧みに自暴自棄に陥れたFは、患者や看護師など病院関係者が搭乗する避難用のバスに医師として乗り込もうとしていた。

 その際、Fは用意していた起爆装置で自分がいる病院に仕掛けた爆弾を次々に爆破。病院を吹き飛ばそうとするが。

 途中、仕掛けた爆弾が起動しなくなる問題が発生。Fは起爆装置のボタンを何度も何度も押して病院を爆破させようと試みるも、爆弾は中々起爆しなかった。

 と、その時。突如として成りを潜めていた爆発が再起動して、病院は崩落寸前。医師に変装しているFは慌てて避難用のバスに乗り込んで爆発から逃げる。

 そしてFを搭乗させたバスが発進した直後、病院は完全に炎に包まれて崩落してしまう。

 

 Fによって二つ目の病院が爆破され、警察や聖龍隊がその混乱の治安に懸かりっきりになっていた、その頃。

 道路を走る自家用車を呼び止め、運転手に発進するよう呼びかけるファッションデザイナーの黒木旭。

 しかし黒木旭が搭乗した自家用車には、既に流水霧也(はやみ きりや)ことクラウディが運転手を脅して乗り込んでいた。

「く、クラウディ……!」「久々だな、黒木旭……!」

 黒木は悍ましく変貌を遂げてしまったクラウディの顔を見て蒼然とする中、クラウディは変異してしまった右側の目で黒木を鋭く睨み付ける。

 クラウディは先ほど病院からFに手渡された拳銃を黒木に突き付けて変なマネができないよう見張る。

「ど、どうして君が此処に……!?」

「決まった事。白黒つけに来ただけさ」

「し、白黒?」

「そうだ。お前はオフィス東山と結託して、月島きらりを陥れようとしていたな。そして俺自身も、その道具として顔を整形させられた身の上……」

「そ、そうだ。俺たちは仲間だ、いや仲間だった筈。月島きらりに一泡吹かせようとした同胞じゃないか……」

「ああ、そうだ。だが、全ての憎悪の矛先は、この俺に集中し、俺はこんな身体になっちまった。俺の周りで悪どい商法をしてたテメェらは何のお咎めも無しに……!」

「か、金か? また整形する為の費用が必要なら、いくらでも差し出そうじゃないか……だから、銃は下ろして」

「スグにこの銃を使うとは言ってないぞ。全てはこのオセロの駒、白か黒かハッキリ見定めてから裁きを下す」

 そういうとクラウディはオセロの駒を指で弾いてコイントスの様に手で受け止めた。そして静かにオセロの駒が白か黒かを見定めたクラウディは黒木に言った。

「……黒だ、黒と言えば黒木、アンタの色だ。アンタは助けてやる」

「ほっ……」

 クラウディの発言に胸を撫で下ろして安堵する黒木旭。だが、クラウディは裁きを続けた。

「しかし、アンタが幸運だったとしても………………アンタのとこの運転手はどうだろうな?」

 黒木がクラウディの発言に困惑した瞬間、クラウディは再びオセロの駒を指で弾いて白黒つけた。

 その結果「……残念、運転手はアウトだ」そう言ってクラウディは黒木旭の自家用車の運転手を車内から発砲して射殺。その瞬間、車は激しく横転して、その際にクラウディこと流水霧也(はやみ きりや)は車内から脱出した。

 一方の黒木旭は車内に残されたまま、ガソリンスタンドに車が突っ込んでしまった。

「爆発するぞ! みんな逃げろッ!」

 激突の際に車から発火した炎、そして零れ流れるガソリンを見た店員が慌てて声をかける。

 そして皆が一目散にガソリンスタンドから離れる中、横転してガソリンスタンドに突っ込んだ車の中にはまだ黒木旭が取り残されていた。

「だ、誰か……頼む……私も、助けてくれ……ッ!」

 横転の際に、歪んだ車体に身体を挟まれてしまい身動きが取れなくなってしまった黒木旭。

 すると流れ出したガソリンに引火したのか、黒木が取り残されている車体は激しく炎上してしまう。

「ぐあああああああああああッ!!」

 全身火達磨になる黒木旭は、激しい炎と高温の中でもがき苦しみながらも、その瞳には炎とは違う輝きが差し込んできた。

「ひか、り……光が、私を……私を、浄化してくれている……!」

 炎に呑み込まれながらも、黒木旭は後に駆け付けた消防士たちの奮闘でどうにかガソリンスタンドの爆発阻止と共に人名だけは救われた。

 だが、全身に9割もの火傷を負った黒木旭の精神は、正常でなくなっていた。

 

 次にクラウディこと流水霧也(はやみ きりや)が駆け込んできたのは、オフィス東山の事務所だった。

 事務所には一応ながら警備員も二名ほど配置されていたが、二名ともクラウディの凶弾に撃ち抜かれて絶命していた。

「ふぅ、ふぅ……俺はあんた達の企みに乗って顔も整形した、アンタたちの言いなりになって月島きらりを芸能界から追放しようとした。全てあんた達の目論見通りに運んでやった俺だけが、こんな目に遭うのは不条理だ! 貴様達も白黒ハッキリ決めてやる……!」

「うっ……許して、お願い! 私にも事情があったの……貴方がそんな風に変わり果ててしまうのだって、見当つかなかったのよ!」

「しゃ、社長の仰るとおりだ。流水霧也(はやみ きりや)、ここは落ち着いて話し合おう」

 既にクラウディによって凄惨なまでに暴力を振るわれて満身創痍で泣き顔を浮かべる東山薫子と秘書の北山が必死に訴えるものの、クラウディは此処でもオセロのコインフリップで彼らの運命を決めようとオセロの駒を弾いた。

 白が出れば女を、黒が出れば男を撃とうと決めていたクラウディの目に飛び込んできた結果は。

「……白だ。あばよ東山……!」

 クラウディは銃口を東山薫子に向けて狙撃しようと引き金を引こうとした瞬間、「社長!」と秘書の北川が東山薫子の前に飛び出して身を挺して彼女を護ろうとした。

 だがクラウディが発射した銃弾は、不運にも盾になろうとした北山の身体を貫通し、東山薫子の身体にも直撃してしまう。

 そして東山薫子と北川は重なり合う様に倒れて、銃弾が貫通した個所からは夥しい程の血が流れて出た。

「チッ……どっちも、アンラッキーだったな」

 クラウディは自身が放った凶弾に倒れる二人を軽蔑するかのような眼差しで見据えると、次に自分の運命を最も狂わせた主人公(ヒロイン)の許に向かった。

 

 

 

[白黒つけようぜ]

 

「村西、お前が最も護ろうとしている奴らが此処にいるぜ」

「? その声は流水くん……!?」

「社長! 来てはダメです!」

「! かすみ君!?」

 突然の電話に一驚する村西芸能事務所の社長である村西に電話を掛けた流水霧也(はやみ きりや)。その傍らには何故か、村西社長が最も愛している事務所のマネージャー雲井かすみの悲痛な声が聞こえてきた。

 状況が呑み込めない村西社長だったが、彼は流水霧也(はやみ きりや)が指示した場所に在る廃墟に言われるがまま一人で赴いた。

 廃墟に一人で乗り込んだ村西社長の前には、暴力を振るわれ痣だらけになっているSHIPSの風真宙人と日渡星司、そして涙目の月島きらりと困惑する雲井かすみの四人が後ろ手に手首を縛り上げられて座り込まされていた。

「! みんな……!」

 この情景を見て一驚する村西社長が駆け寄ろうとすると、その村西社長を呼び付けた人物が四人に銃口を突き付けて闇の中から現れた。

「は、流水くん……!」

 暗闇から現れる流水霧也(はやみ きりや)の顔を見て愕然とする村西社長だが、流水は怒りを露わにしながら怒号を返した。

流水霧也(はやみ きりや)は死んだ! お前達とオフィス東山の紛争に巻き込まれてな……! 今ここに居るのは白でも黒でもない男、ブラックホワイトだ!」

 完全に人格までも豹変してしまっていた流水霧也(はやみ きりや)を宥めるのは、困難な状況で彼は村西社長の前で彼が愛するマネージャーの雲井かすみの頭に銃を突き付けた。

「な、何をするんだ!?」

「決まっているだろ。お前達が俺の美顔を奪った様に、俺もお前達が最も愛するモノを奪うまでよ」

 村西社長が問い詰めると、流水霧也(はやみ きりや)は自分の顔が奪われた様に自分も相手の大切なものを奪い取ると宣言する。

「や、止めてくれっ!」

 流水霧也(はやみ きりや)の凶行を村西社長が悲痛な声で制止するが、流水霧也(はやみ きりや)ことブラックホワイトは今にも怒りの銃口を雲井かすみ、またはアイドル達に向けようとしていた。

 

 と、その時。

 廃墟の窓ガラスを打ち破って黒き異形の者が屋内に突入してきた。

「! 誰だ!」

 ブラックホワイトがガラスが鳴り響く現況に気付いて声を上げると、その他の一同もガラスが打ち砕けた方へと顔を向けた。

 廃墟の窓ガラスを打ち破って、屋内に突入してきた異形の存在はそのままブラックホワイトの方へと歩み寄ると一定の距離を置いて立ち止まった。

「貴様は、確か…………ジャッジ・ザ・デーモン……!」

 ブラックホワイト、そして一同の目に飛び込んできたのは紅い大きな瞳を怪しく光らせるジャッジ・ザ・デーモンだった。

 ジャッジ・ザ・デーモンは目前のブラックホワイトと対峙していると、ブラックホワイトの方から質問が飛んできた。

「何故ここが解った、裁きの鬼よ!」

「お前と村西社長の会話を傍受した……だから簡単に居場所を特定できた」

「はッ、盗み聞きって訳か! 良い趣味してるなデーモン。だがそれで俺達の取引場所を割り出せたって事か……!」

 ジャッジ・ザ・デーモンが市民が使用している通話機器や会話を盗聴した事で居場所を安易に特定できた事を理解するブラックホワイト。そんな彼にジャッジ・ザ・デーモンが説得を開始する。

流水霧也(はやみ きりや)……お前の不遇な経験は痛いほど解る。だが、それだからと言ってこれ以上罪を重ねるな」

「黙れ! ……僕はもう後戻りのできない所まで来てしまった……もう三人も人を殺めてしまった。もう! 僕は……俺は戻らねえんだ!!」

 悲痛ながらに怒号を言い放つブラックホワイトに、ジャッジ・ザ・デーモンは説得を続ける。

「それはお前の誤解だ。三人とも重傷を負ったが、命に別状はない。黒木旭も東山薫子も、秘書の北川も生きている。だから更生の道もまだ見える……」

「そうか……三人とも生きているか。それなら、またケジメを付けに行かないとな……!」

「ケジメならもうとっくに付いている! 聖龍隊の総長、小田原修司が三人に対して逮捕状を発行した! 三人とも陰湿な異常者(ヒール)として身柄を拘束される……」

「あの三人には死を、鉄槌を下さなければならない! オセロの駒で既に判決が下された、奴らは死をもって罰を与えられなければならない……!」

「……誰にも、あの三人には死刑がお似合いだという判決は下せない」

「何故だ? お前自身は多くの罪人に私刑を執行しているというのに……俺とお前の違いは何だ?」

「違いは…………何も無いのかもしれない。ただ、俺はお前を止める、何としてもだ……それ以外の行動理由は要らない」

 すると一しきりジャッジ・ザ・デーモンと対話したブラックホワイトは、ポケットから一枚のオセロの駒を取り出すと、拳銃をベルトに挟み込んで空いた手で月島きらりの首元を押さえ付けて彼女を廃墟の窓際に押し付けた。現場である階層は三階、落ちれば一溜りもない。

「何をする! 流水霧也(はやみ きりや)!」

 ジャッジ・ザ・デーモンが問うと、ブラックホワイトは月島きらりを窓際に押し付けながら一同に言った。

「お前が俺を止めようというのなら、俺は俺の裁き方でケジメをつけるまでだ!」

 ブラックホワイトは今にも月島きらりを窓から突き落とす勢いで言い放つ。

「オセロの黒が出たら、貴様を……白が出たら月島きらりを殺す! 公平な裁きだろ?」

 なんとブラックホワイトは黒が出たらジャッジ・ザ・デーモンを、白が出たら月島きらりを殺すと宣言。

 突然のブラックホワイトの宣言に、ジャッジ・ザ・デーモンもアイドルやマネージャー、村西社長たちは愕然とする。

 すると、そんなブラックホワイトに窓から突き落とされそうになる月島きらりが、ブラックホワイトこと流水霧也(はやみ きりや)に訴えた。

「霧也くん、もう、やめて……!」

 友達として今なお流水霧也(はやみ きりや)に信頼を寄せる月島きらりの言葉に、本人は反応した。

「ッ…………きらりちゃん、僕はもう戻れない、帰れないんだ……。俺はもうブラックホワイトと言う名の怪物だ!」

 もう一つの人格ブラックホワイトが勝った瞬間、彼はオセロの駒を弾いてデーモンか月島きらりの運命を選択した。この時、ジャッジ・ザ・デーモンは密かにジャッジラングを手に忍ばせていた。

 そして弾かれたオセロの駒を片手で受け止めたブラックホワイトが見た色は……。

「……白だ、残念だったな月島きらり。もうお前を愛する流水霧也(はやみ きりや)は居ない、死ね」

 そういうとブラックホワイトは月島きらりを押し倒して窓から突き落とそうとした。

「や、止めろッ!」

「やめろ、霧也!」

「霧也くん!」

「お願い、正気に戻って!」

 村西社長、風真宙人と日渡星司、雲井かすみの呼び掛けにも応じず、ブラックホワイトはきらりを突き飛ばそうと腕に力を込める。

 

 と、その時だった。

 月島きらりを突き落とそうとするブラックホワイトに、ジャッジ・ザ・デーモンが手に忍ばせていたジャッジラングを投げ飛ばした。

 ジャッジ・ザ・デーモンが放ったジャッジラングは月島きらりを突き落とそうとするブラックホワイトの変形していない顔左半面に直撃した。

「うぎゃっ! お、俺の……僕の顔が……!」

 未だ流水霧也(はやみ きりや)の名残が残っている左半面の顔に鋭利な刃がむき出しのジャッジラングが直撃した事で酷く戸惑うブラックホワイト。

 ブラックホワイトが自分の左半面に気を取られている隙に、月島きらりは床に転倒して窓からの転落から逃れる。

 するとブラックホワイトが戸惑っている隙を狙って、ジャッジ・ザ・デーモンがグラップネルガンでブラックホワイトを捕まえて己の元へ強引に引き寄せた。

 ジャッジ・ザ・デーモンの許へ引き寄せられたブラックホワイトは、そのままジャッジ・ザ・デーモンに連続で顔面を殴打されていく。

「ぐっ、うげっ」

 顔面に何発もの拳を打ち付けられ、悶絶するブラックホワイト。そしてそのままブラックホワイトは床に倒れ込んでしまうが、それでもジャッジ・ザ・デーモンの制裁が終わる事は無かった。

 彼は健気な月島きらりと、その親しい間柄の人間に危害を及ぼそうとしたブラックホワイトの凶行が赦せず、何度も何度もブラックホワイトを殴り付けたのだ。

 だが、そんな凄惨なブラックホワイトへの暴行現場を見て、圧巻される宙人に星司、雲井かすみに村西社長達だったが、その中で悲痛な面持ちを浮かべる月島きらりがジャッジ・ザ・デーモンに声を掛ける。

「や、やめて! それ以上、霧也くんを痛め付けないで!」

 はち切れる想いで言い放った月島きらりは、思わず駆け出してブラックホワイトに制裁を加えるジャッジ・ザ・デーモンに体当たりしてきた。

「ッ!?」

 両手を後ろに縛られながらも、自分に体当たりしてきた月島きらりの行動に愕然とするジャッジ・ザ・デーモンは彼女に問い掛けてみる。

「なぜ止める? そいつはもうお前の知っている流水霧也(はやみ きりや)ではない……凶悪な異常者(ヒール)なんだぞ」

「そ、それでも……それでも、彼は……霧也くんは私達のお友達なの!」

 悲痛な月島きらりからの返答に、ジャッジ・ザ・デーモンは唖然とするばかり。

 と、その時。ジャッジ・ザ・デーモンが月島きらりからの言葉に意識を向けていた時の事。

 何度も殴打されたにも関わらず、まだ意識が残っていたブラックホワイトが腰に忍ばせてた拳銃を抜き取って、月島きらりに銃口を向けて発砲。だが、その射撃をジャッジ・ザ・デーモンが身をもって庇い、己の身体を盾にして月島きらりを死守した。

 そして一発射撃するとブラックホワイトは立ち上がって駆け出し、その場から逃げ出そうとした。

 一方、月島きらりを護ろうと身を盾にしたジャッジ・ザ・デーモンは、ブラックホワイトを逃がさんとするべくジャッジラングを投げた。

 ジャッジ・ザ・デーモンが投げたジャッジラングは、ブラックホワイトの頭上を通り過ぎると、彼が逃げようとする先の朽ちた照明と天井を繋げる鎖に直撃して、鎖を断ち切った。そして断ち切られた照明はそのままブラックホワイトの頭上に落下。

「う、うわあぁッ!」

 真上の照明が落下してくるのを目撃して絶叫するブラックホワイト。そして照明は彼の頭上に落下し、ブラックホワイトは照明が直撃した事で気を失ってしまった。

 

 それからジャッジ・ザ・デーモンは鋭利な刃がついているジャッジラングで両手を縛られていた月島きらりと風真宙人と日渡星司、そしてマネージャーの雲井かすみを解放した。

 そんな自分達を解放し、ブラックホワイトとなってしまった流水霧也(はやみ きりや)を徹底的に痛め付けたジャッジ・ザ・デーモンに月島きらりが問い掛けた。

「霧也くんは……彼はもう、戻らないの?」

「解らない。それは今後の、彼自身による……」

 きらりからの質問にジャッジ・ザ・デーモンは答えるものの、明確な答えは返せなかった。

 すると月島きらりに続いてSHIPSの二人もジャッジ・ザ・デーモンに問い掛けてきた。

「霧也も確かに、きらりを陥れようとした一人だ。だが、奴だけが悪い訳じゃない……」

「それなのに、一人だけ世間の悪評を受けた為に、彼は此処まで……」

 流水霧也(はやみ きりや)だけが悪人ではないと告げる風真宙人と日渡星司、二人の疑問にジャッジ・ザ・デーモンは答えた。

「世間と言うのは冷たい。常に弱者にしか悪評が向かない様になっている。だが、今は少しずつ平等になって来ている。東山オフィスの関係者が近い内に徹底摘発される予定だと聞く」

 すると、このジャッジ・ザ・デーモンの話を聞いて村西社長が問い返す。

「しゃ、社長の薫子くんも、その秘書の北川さんや……あの黒木旭までも霧也くんが撃ち殺そうとしたのは本当なのかい? それに近い内、異常者(ヒール)と認定されて連行されるなんて……」

「真実を受け入れろ。それが現実を生き抜く正しい術だ」

 動揺する村西社長にジャッジ・ザ・デーモンは真実を受け入れろと強く主張する。

「だけど……私たちの周りのキャラが……二次元人達がこうも一斉に犯罪者として摘発されるとなると、私達への風当たりも強くなるでしょうけど……」

 雲井かすみが悲痛に唱えると、ジャッジ・ザ・デーモンは彼女ら月島きらり達に優しく唱えた。

「物語の登場人物に、罪はない」

 登場人物に罪はないと説くジャッジ・ザ・デーモンの発言に、風真宙人が突っぱね返す。

「それにしちゃ、アンタは大勢の二次元人も裁いているよな」

「人種関係なく、平等に罰しなければ……本当のジャッジメントとは言えない」

 宙人の言葉に冷淡と返すジャッジ・ザ・デーモンの言葉に、一同は唖然としてしまう。

 そんな月島きらり達にジャッジ・ザ・デーモンは歩み寄ると、彼女に声をかけた。

「月島きらりよ。こんな俺が言うのもなんだが……」

『………………』

 唖然とする月島きらり達に、ジャッジ・ザ・デーモンは告げた。

「お前はそのまま、健気なまま生き抜け。それがお前の美しい人の心だ」

 ジャッジ・ザ・デーモンが月島きらりの健気さを評価すると、きらり達は呆然とした。

 するとその時、廃墟の周りに無数のパトカーがやって来て建物を取り囲んだ。

 それを見下ろしたジャッジ・ザ・デーモンは月島きらり達に「じゃあな」と一言伝えると、窓から飛び降りて漆黒の夜空を滑空して去って行った。

 その後、月島きらり達は無事に警察に保護され、ブラックホワイトこと流水霧也(はやみ きりや)は担架に乗せられて連行された。

 

 その数日後、ジャッジ・ザ・デーモンが言った通り、オフィス東山の悪事が世間に大々的に暴露されて、治療を終えたばかりの東山薫子とその秘書の北川は異常者(ヒール)として連行される事となった。

「わ、私達は被害者だぞ。こんな横暴……」

 銃で撃ち抜かれ、重傷を負った自分達は被害者だと唱える秘書の北川に対し、先導に立って関係者の連行に当たっていたバーンズは非情な現実を東山と北川に告げた。

「お前達は被害者である前に……加害者であり、異常者(ヒール)だ」

 そう言ってバーンズは東山薫子と北川の両名に手錠をかけて、二人を世間の晒し者にしながらマスコミの前を素通りしていった。

 更にその後、小田原修司はオフィス東山に業務停止命令も下した事で、オフィス東山は完全に消失した。

 一方で全身を9割以上の火傷を負った黒木旭は、未だ昏睡状態が続いていたため、連行されるまでには至らなかった。

 

 まさしく白黒つけられた顛末だった。

 

 

 

[戦争勃発]

 

 Fなる人物によって、流水霧也(はやみ きりや)を始めとする多くの二次元人の運命が狂わされた顛末より数か月後。

 そのFが更なる事態を起こした。

 前々より兼ねてのFの巧みな情報戦術によって、二次元人への疑心暗鬼が募っていった三次元人との摩擦が遂に限界を来したのだ。

 

 2005年3月

 Fは島根県議会で可決された「竹島の日」条例が成立し、日本と韓国の摩擦が激しさを募っている混乱に乗じて大規模な情報戦略を開始し、日本や韓国などの三次元界の国々を巻き込んだ、全ての三次元政府が行動を発起してしまう。

 三次元政府は二次元人すべてを異常者(ヒール)と認定してしまい、遂に三次元人と二次元人の全面戦争が勃発してしまった。

 聖龍隊総長、小田原修司は聖龍HEADの仲間達と協力して二次元側には三次元界側に攻撃しないよう強く呼びかけるものの、戦争の火ぶたは切られてしまった。

 この戦争を一刻も早く終結させようと、聖龍隊は戦場を駆け巡り事の発端であるFの素性を探りつつ、Fを必死になって捜索する。

 この時、三次元政府よりの国連に身を預けていた小田原修司は、平等な国連上層部の判断から双方ともに加担しない事を告げられ、アニメタウンより動けずにいた。

 だが、小田原修司としては動けないものの、ジャッジ・ザ・デーモンとしては動けると瞬時に悟った小田原修司は、スグにデーモンスーツを着用して戦場にジャッジウィングで駆り出た。

 戦争が激化する中、聖龍HEADは遂にFが盗み出した核ミサイルの部品を発見。しかも、その部品はすべて組み立てられ一発の核ミサイルへと仕上がっている状態で発見された。

 しかも核ミサイルの発射システムは戦場の中央に発射されるようプログラムされており、HEADは急いで核ミサイル発射を止めようとするもののFの謀略によってHEAD全員が捕まってしまう。

「こ、コイツは……最新式の電磁バリアの壁で覆われた牢屋だ! いったい誰が!?」

 軟体化できるメタルバードも突破不可能な電磁バリアに取り囲まれた聖龍HEADの面々が戸惑っていると、其処に暗闇から謎の声が檻の中のHEADに話し掛けてきた。

「ハハハハッ、どうだい僕の自作の電磁バリアーの檻は。聖龍HEADでも簡単には出られまい」

「お、お前は!?」

 高笑いしながら暗闇の中から話し掛けて来る声に、キング・エンディミオンが問い質してくると声の主は陽気に笑いながら話し返した。

「はははっ、僕だよFだよ。君らが必死になって探しているミスターFさ」

「F! あなたが……!」

 今まで多くの狂気的な犯罪を繰り広げてきた謎の人物Fだと名乗る声に、HEADの龍咲海が表情に怒りを込み上げる。

 すると暗闇の中からFは自分が今まで犯してきた犯罪を自慢げに語り始めた。

「どうだった、僕が仕掛けた数多くのエンターテイメントは! 君たち二次元界のヒーローが活躍できる様に、色んな人間を裏から使って様々な犯罪を起こしていたんだ。クラウディっていうアイドルもブラックホワイトっていう狂人に仕上げて、犯罪界のニューホープとして繰り出させた。そして最終的に、二次元界と三次元界を衝突し合わせて戦争を起こし、大々的なエンターテイナーショーを始めたって訳さ!」

「テメェ、普通の二次元人を犯罪者に追い詰めただけでなく、戦争まで起こさせやがるとは……!」

 Fの狂言にメタルバードが怒りを露にすると、Fは喜々としながら語り明かした。

「ハハッ、何を言っているんだい? 僕はただ、ちょびっと人間の心の中に潜む不安や疑心を煽っただけ。ちょっと煽ったり弄ったりしただけで、あのクラウディも狂気に落ちたし、二次元人と三次元人の不信感も募って戦争が起きただけさ。君たちも分かっているだろ、二次元人も三次元人も、どっちも疑心暗鬼に駆られて、勝手に相手を信じられなくなっていたからこそ、戦争は簡単に起きてしまっただけさ」

「そ、そんなの……あなたが核ミサイルを盗んだり、犯罪を起こしていなかったら、不信感なんて生まれなかった……!」

 Fの発言にHEADの木之元桜が反論するが、Fは淡々と語り返した。

「はは、君はまだそんな妄想を抱いているのかい、木之元桜。人間と言うのは、元々相手を……周りの人間に不信感を抱く生き物なんだ。そんな人間だからこそ、二次元人も三次元人も信頼できなくなってお互いに亀裂が生じてしまったんじゃないか。あ、言っておくけど僕が亀裂を生んだ訳じゃないからね。元からあった亀裂を大きくしただけだからね、ハハッ」

 Fの暴言に聖龍HEADは自分達が信じてきた人間の理性や良心を踏み砕かれる想いで胸中を溢れさせた。

 

 と、Fが作った電磁バリアーの檻に捕らえられ、身動きができないHEADがFの話を淡々と聞いていたその時。

 ジャッジウィングで飛来してきたジャッジ・ザ・デーモンが上空から飛び降りて、滑空してHEADが捕えられている場所に突っ込んできた。

「其処までだ、F!」

 颯爽と床に着地して、暗闇の中のFに問い詰めるジャッジ・ザ・デーモン。

 するとジャッジ・ザ・デーモンと対峙したFは怪しげな微笑を浮かべて暗闇の中から歩み寄ってきた。

「くくく、やっと来てくれたのかい、ジャッジ・ザ・デーモン……僕と同じ狂人よ」

「俺はお前とは違う……! 罪無き者を甚振る趣味は無い」

「ハハッ、それじゃ君は罪を犯していれば人を甚振っても良いと思っているのかい?」

 不敵に笑むFに対し、ジャッジ・ザ・デーモンは顔を逸らさず直視し続ける。

 そしてFは暗闇の中から現れるのだが、ジャッジ・ザ・デーモンと聖龍HEADは暗闇の中から遂にその正体を晒したFの正体を目の当たりにして愕然とした。

 何故なら、ジャッジ・ザ・デーモンと聖龍HEADの前に姿を現したのは、Fの犯罪抑制にも努め、更には二次元界と三次元界の戦争に真っ向から反対していたアメリカ国将軍ジャクソン・グレイシス将軍であったのだ。

「じゃ、ジャクソン、グレイシス……!!」

「ば、バカな……! ジャクソン、お前が……お前は、なんで此処に……!?」

 目前で不敵な笑みを浮かべるジャクソン・グレイシス将軍を前に、ジャッジ・ザ・デーモンもメタルバードも、そして聖龍HEADの面々が愕然としているとジャクソンは高笑いしながらジャッジ・ザ・デーモンや聖龍HEADを侮辱した。

「わははははっ! 君たち、本当に人の表面上の顔しか見ていないんだね! だから簡単に裏切られたり、欺かれたりするんだよ! わぁはっはっは……」

 腹を抱えて爆笑するジャクソンの素顔を目撃して、ジャッジ・ザ・デーモンもHEADも唖然とするばかり。

 だが、スグにジャクソンがFの正体だと受け入れたジャッジ・ザ・デーモンは、両手の甲から鋭利な爪を飛び出させてジャクソンに詰め寄る。

「お前がFだったのなら話は早い……ジャッジを下す」

 そう言ってジャクソンに飛び掛るジャッジ・ザ・デーモンだが、ジャクソンはひょいと軽く攻撃を避けてジャッジ・ザ・デーモンに言った。

「ちょぉっとちょっと、まだ僕が語り合うシーンが続くんだから。台本通りに動いてよ、デーモン」

「お前なんかが書いた台本なぞ、興味の欠片もない!」

「そんなこと言わないでよ。折角、この日の為に何年も前から計画を着々と進めていたのに……」

「戦争を起こす為に何年も前から計画を進めていたのか……この野郎!」

 ジャッジ・ザ・デーモンは戦争を起こす為に何年も前から計画を着工していたジャクソンの計画的犯罪に怒りを覚えた。

 しかしジャクソンはジャッジ・ザ・デーモンの攻撃を華麗に回避しながら、更に自分の思い通りに語った。

「僕はもうジャクソン・グレイシスなんて、つまらないチンケな軍人じゃない。多くの二次元人と共演を果たし、これからも沢山の二次元人と戦いを繰り広げる偉大なエンターテイナー。その名も……」

 次の瞬間、ジャクソン・グレイシスは何処からとも無くFの頭文字が施された仮面を出して、それを己の顔に装着すると得意げに名乗った。

「Mrフェイク!!」

「Mrフェイク……!」

 ジャクソン・グレイシスが名乗ったMrフェイクなる名前に、ジャッジ・ザ・デーモンも檻の中の聖龍HEADも衝撃を受けた。

 

 己をMrフェイクだと自称するジャクソン・グレイシスことFと対峙するジャッジ・ザ・デーモン。彼は急ぎ、ジャクソンを押さえ付けて真の戦争大罪人が彼であると公の場に引きずり出して戦争を終わらせようとする。

 だがMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンの爪攻撃を御手製のF字型のステッキで受け流しながら得意げに語った。

「将軍の名目で各地の捜査機関を訪れては、その国の政府機関や捜査機関のコンピューターにハッキングして情報を手に入れたり、協力関係を布いていくと述べた背後では僕のFの正体が危険思想を持っている二次元人であると情報を流したのが、戦争を起こす為の計略の一環だったのだよ」

 巧みな情報操作で二次元人と三次元人の亀裂を広げたMrフェイクの告発に、ジャッジ・ザ・デーモンは一層激しく闘い抜いた。

 と、その闘いの後半、Mrフェイクは遠隔操作で核ミサイルの発射システムを作動させ、同時に聖龍HEADを閉じ込めている特殊な監獄をタイマー式爆弾で吹き飛ばすとジャッジ・ザ・デーモンに言い寄った。

「さあ、どうするのかなジャッジ・ザ・デーモン! いや、小田原修司!」

「!!」

「はは、安心したまえ。君の素性を理解しているのは今のところ僕だけさ。誰もが小田原修司とジャッジ・ザ・デーモンが同一人物だなんて、天才である僕しか気付いていないからね。それよりもどうするのかね? 大切な仲間である聖龍HEADを救うか、核ミサイルを止めて自分とは無関係な多くの人命を救済するか……君のアンサーを見せて欲しいね」

 Mrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンに核ミサイルの発射と聖龍HEADの命を吹き飛ばす時限爆弾という、二者択一の選択を迫った。

 この時ジャッジ・ザ・デーモンは冷静に考えた。そして彼が出した答えとは。

「くだらんクイズだな、Mrフェイク。俺の出した答えは既に決まっている」

「ほう、それじゃ、君のファイナルアンサーを示してもらおうかな?」

「俺の出した答えは…………これだ!」

 次の瞬間、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクにジャッジラングを投げ付けて、彼が怯んだ隙に迷う事無く核ミサイルの発射システムの装置へと向かった。

 ジャッジ・ザ・デーモンが出した答えは、仲間である英雄達の命よりも無名の大勢の命の方だった。

 このジャッジ・ザ・デーモンの出した答えに、中には唖然とする聖龍HEADもいたが、メタルバードは的確な判断だと心中で頷いた。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンはミサイル発射の装置に駆け寄ると、端末を差し込んで遠隔操作でコンピューターに強い別所のウッズにシステムにハッキングさせてミサイルの発射を阻止させようとした。

 だが、コンピューターを他者にハッキングさせて遠隔操作でミサイル発射を停止させようとするジャッジ・ザ・デーモンの行動に逸早く気付いているMrフェイクは即座に妨害行動に移った。

「そう思い通りにはさせないよ!」

 Mrフェイクは鋼鉄製のステッキでジャッジ・ザ・デーモンの側頭部を強く殴り付けて、彼を吹き飛ばす。この時、ジャッジ・ザ・デーモンの左腕に装着されている小型コンピューター装置から接続されていた端末がミサイル発射装置に差し込まれたままだったが、Mrフェイクは気に留めなかった。

 

 そしてミサイル制御装置から離されたジャッジ・ザ・デーモンは、再びMrフェイクと対峙して激突する事になった。

 

 

[Fの落胆]

 

 核ミサイルを発射する秘密の基地に突入した聖龍HEADを嵌めて電磁バリアの牢獄に捕える事に成功したアメリカ国将軍ジャクソン・グレイシスことMrフェイク。そんなMrフェイクと死闘を展開するジャッジ・ザ・デーモンは、何とかミサイル発射装置の解除に取り掛かろうと捕えられているHEADを無視して装置の元に向かおうとするが、それをMrフェイクが妨害する。

 ジャッジ・ザ・デーモンの鋭利な爪と、MrフェイクのF字型のステッキが激突し合い激しい火花が散る。

 そんなジャッジ・ザ・デーモンと死闘を展開しながら、Mrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンに問い掛ける。

「君も所詮は僕と同レベルだよ、デーモン」

「………………」

「僕は二次元人を相手に、犯罪と言う名のビックなエンターテイメントショーを繰り広げようと苦労して戦争まで起こした。君が鬼の格好で犯罪者を痛め付けて、世論に犯罪者抑制を訴え出た様にね」

「ッ…………!」

「君も僕も、二次元人を相手にゲームを……善か悪かのゲームを繰り広げていただけさ!」

 無言を貫くジャッジ・ザ・デーモンにMrフェイクは問答をぶつけながら激しく攻めてくる。

「君は正義を非難しながらも、その言葉の裏では正義を……友である二次元人が信じる正義を自分も信じたいと強く願っていたんだろ!? 君にとって真実を暴き出す事が信条である様に、僕にとっても相手を欺き偽るのがMrフェイクのやり口さ!」

 ジャッジ・ザ・デーモンは正義を非難しながらも、その真意は自らも友である二次元人同様に正義を信じたいと強く願っていると唱えるMrフェイクは、更に自分は真実を暴き出すジャッジ・ザ・デーモンに対し己は周りを偽り欺くのが信条だと説く。

 そんなMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンにF字型のステッキから刃をむき出して振るいながら説く。

「君も僕も、こんな混沌とした世界を……大好きな二次元界と融合した世界を変えたいが為にヒーロー気取りと悪役という狂人紛いの行為に走っている! 君だって心の中では僕と同類だって薄々気付いているんじゃないのかい!?」

 混沌とした世界を変えるべく、お互いに狂人紛いな行動に駆られているのだと説くMrフェイクは、ジャッジ・ザ・デーモンを自らと同じ狂人だと皮肉る。

 するとMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンに唐突に打ち明けた。

「僕も君の様に二次元人相手に認めてもらいたかった、普通に同等の存在として認可してもらいたかった。だけど僕より先に君が……小田原修司が二次元界に認められたからこそ、僕は君とは正反対の位置づけに徹底した訳さ! 君がヒーローヒロインを庇護する役回りなら、僕はそんな彼らが信じる正義や良心を否定するヴィランの役目を担おうとMrフェイクになった訳さ!」

 二次元界の神々に認められ、その世界の住人達と共存する最初の役目を担った修司に強い憧れを持ちながらも同時に激しい妬みを抱いたジャクソンは、修司が庇護する英雄達が信じる正義や人の良心を真っ向から否定する悪役に自ら回った事を打ち明ける。

「希望や正義を護る戦いも、結局のところタダの娯楽に過ぎない! 世の中には悪役がどうしても必要だから、君は異常者(ヒール)排除法なんて作って世論を黙らせたんだろ? 世間は日頃の鬱憤や妬みを吐き出し、その矛先を向けられる標的が……悪役がどうしても必要だからこそ、異常者(ヒール)なんて存在が生まれたんだよ!」

 Mrフェイクから半ば間違っていない正論を問い詰められて、マスクの裏では表情を歪めるジャッジ・ザ・デーモン。

 そんな中でもMrフェイクは喜々と舞う様にジャッジ・ザ・デーモンと闘い合いながら歌う様に語る。

「僕はMrフェイク、偽りの犯罪者。だけど偽る為には多くの真実を知っておかなきゃならないの」

 歌劇団の様に振る舞いながら激闘を繰り広げるMrフェイクの言動に、ジャッジ・ザ・デーモンも檻の中の聖龍HEADも愕然とする。

 と、ジャッジ・ザ・デーモンがMrフェイクの言動に動揺を衝かれていた時。

「ほらほらっ、そんな装甲が厚いだけのスーツなんか着てちゃ、動きが鈍くなるだけだよっ!」

 Mrフェイクは一瞬の隙を衝いて所持していたF字型のステッキの先から長い極太の針を突出させてジャッジ・ザ・デーモンに突き刺した。その瞬間、金属製の針から高圧電流が流れた。

「ぐおおおッ!」

 防電性のデーモンスーツを貫通して電流が体内に流れ込んできた事で、ジャッジ・ザ・デーモンは電撃で苦痛を味わう。

「ははっ、そのスーツを着てから初めて味わう苦痛かい?」

 そう喜々とした笑顔で問うMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンを蹴り上げて更に苦痛を味合わせる。

 その間も刻一刻と迫る核ミサイルの発射時間および聖龍HEADを吹き飛ばす爆弾のタイマー。両方のタイマーが時間を刻む中、ジャッジ・ザ・デーモンは必死にMrフェイクに攻撃しようと迫る。

 だがMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンの攻撃手段を全て調べ上げて把握しているのか、駆動して開口する口から吐き出される濃硫酸も軽々と避けて、両手から繰り出される鋭利な三本爪もF字型のステッキで防ぐと同時に、ひねって折り取ってしまう。

 得意技の三本爪が剥がされ、全ての攻撃手段が防がれた事でジャッジ・ザ・デーモンは途方に暮れてしまう。

 そんなジャッジ・ザ・デーモンにMrフェイクは更に精神的に追い詰める。

「君がどんなに頑張ろうと、世界は変わる事はない。強者が弱者を苦しめるのは日夜行われるし、人々の悪心も消えやしない。いいや、人の悪心こそ本当の意味で人の心そのものなんだ。そんな人の心を否定する君も、英雄達が世界を変えられると本気で思っていたのかい?」

 そう言いながらMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンを痛め付けていく。

 肉体的にはもちろん、精神的にもMrフェイクはの言動で追い詰められていくジャッジ・ザ・デーモンの戦意は次第に弱まる一方。

 Mrフェイクはそんなジャッジ・ザ・デーモンを嘲笑い、もうじき戦場に向けて発射される核ミサイルで自分が起こした戦争を自らの手で、両軍の全滅を以って終結させるという猟奇的な結末を想定して発射装置のタイマーに目を向けた。

 

 するとMrフェイクが徹底的にジャッジ・ザ・デーモンを肉体的にも精神的にも痛め付けて追い詰めた、その時。僅かな希望の灯火がジャッジ・ザ・デーモンと聖龍HEADそしてMrフェイクの目に飛び込んできた。

「どうなってるんだ!? 装置が……!」

 己の目に飛び込んできた核ミサイル発射装置の現状にMrフェイクは驚愕した。何故なら発射装置はタイマーを数秒止まらせた状態で完全に停止していたからだ。

 Mrフェイクと聖龍HEADが何ゆえミサイルの発射装置が停止したのか疑問に思っているところに、Mrフェイクに痛め付けられたジャッジ・ザ・デーモンが息を切らしながら語り始めた。

「へ、へへ……装置の方は、俺がさっき差し込んだワイヤレスの端末から衛星を通じて協力者にシステムをシャットダウンさせたんだ。もうミサイル発射装置は使えない……」

 なんとジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの相手をしている間に、ワイヤレスの通信端末から衛星を介してアニメタウンのウッズに発射プログラムの解除を行わせていたのだ。

 今まで独りで闘い続けて来たと思われていたジャッジ・ザ・デーモンが、遠く離れた協力者にミサイル発射を阻止させた行為にMrフェイクは驚きつつも素直に称賛した。

「ほほう、ジャッジ・ザ・デーモン、君にも少しばかりは協力性というのが芽生えていたんだね」

 そう言い終った瞬間、Mrフェイクは地べたに這いずり回るジャッジ・ザ・デーモンの顔面を強く蹴り飛ばして攻撃する。

 しかしMrフェイクに顔を蹴り飛ばされたジャッジ・ザ・デーモンは朦朧としながらも立ち上がり、Mrフェイクと対峙する。

「お前がどんな企みを謀ろうと、どんな悪事を思い付こうと……俺が、いいや……俺と違って正義を信じられる英雄が貴様を止める……!」

「は、はは……何を言っているんだい! 君だって本心では、ダークヒーローの様な正義の味方になりたいと薄々は思い上がっているんだろ! 今さら偽善者面しない方が良いよっ」

 ジャッジ・ザ・デーモンの発言にMrフェイクは真っ向から否定すると、ジャッジ・ザ・デーモンは満身創痍の体で言い放った。

「正義も悪も…………俺の中では無意味だ。俺はただ、自分が信じる者たちが信じるものを護る為に戦い続けるだけ……俺は何も悩まないし、何も変わらない……この身が朽ち果てるその時まで……たった独りになろうとも…………戦い続けるのみ……!」

 そう力強く主張するジャッジ・ザ・デーモンは、戦闘で折れた鋭利な三本の爪に代わって己の拳をMrフェイクに打ち付ける。

「ぐほっ」

 ジャッジ・ザ・デーモンの拳を顔に受けて悶絶するMrフェイク。

 

 一方その頃、聖龍HEADが捕えられている檻の爆破装置は刻一刻と時間が刻まれていた。

「お、おい……メタルバード、何とかできないのか? このままじゃ俺たち本当に……!」

「わ、分かってる! だけどオレにもどうしようもないよ……ジャッジ・ザ・デーモン! オレらのこと忘れないで!」

 刻一刻と起爆装置が作動する時間が迫る中、動揺するキング・エンディミオンの言葉にメタルバードが焦りの表情を顔に浮かべてジャッジ・ザ・デーモンに自分達の救済を求める。だが、ジャッジ・ザ・デーモンこと小田原修司の悪癖で、頭に血が上ると目の前の事にしか集中できない欠点から、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクとの殴り合いに専念している一方だった。

 危うく聖龍HEADがMrフェイクの用意した爆弾で吹き飛ばされそうになった、その時。

 物凄い轟音と共に秘密基地に巨大な戦闘マシンが突入してきた。

 それは聖龍隊マーメイドメロディーズが搭乗するディープ・アクア・マリーンという深海魚を模した搭乗マシンで、彼女らは今や仲間であるブラック・ラヴァーズと共に秘密基地に乗り込んできたのだ。

 しかも彼女達が乗り込んできた勢いで、爆弾の起爆装置が破壊された事で爆発は未然に防がれた。

「総長! HEADの皆さん! 無事か!?」

「か、海斗! よく来てくれたぁ……」

 ディープ・アクア・マリーンから姿を現す堂本海斗の声に、メタルバードは感激の涙目で応答する。

「今さっきアニメタウンのウッズさんから連絡が来ました! ここの秘密基地はもちろん、二次元人と三次元人の戦争を勃発させたのがジャクソン・グレイシスである事実も次第に戦場に拡散されています! もうすぐで戦争は終結します!」

「ほ、ホント!? 良かった……」

 七海るちあからの現状報告を受けて、ミラーガールは心より安堵する。

 と、マーメイドメロディーズがMrフェイクが戦争発起の拠点としてた工場内に突入した直後、彼女らは工場内で激しく殴り合うジャッジ・ザ・デーモンとMrフェイクを目の当たりにする。

「あ、アレは……ジャッジ・ザ・デーモン!? それに一緒にいるのは……?」

 初めてMrフェイクを目の当たりにするマーメイドメロディーズが国際指名手配犯のジャッジ・ザ・デーモンを視認していると、解放された聖龍HEADのメタルバードが即座に指示を出した。

「詳しい事は後で話す! 全員、ジャッジ・ザ・デーモンに加勢! あの男、Mrフェイクを取り押さえろ!」

 訳の分からないまま、マーメイドメロディーズはメタルバードに指示されるままMrフェイクを取り囲む。

 すると包囲されたMrフェイクは、その情景に喜び舞いながら狂喜の如く嬉しがった。

「ひゃっほぉい! セーラームーンにキューティーハニー、ナースエンジェルに続いてマーメイドメロディと……今昔の変身ヒロインが勢揃い! 戦争を起こした甲斐があったよ!」

「なんてこと言うの! 戦争を起こした挙句、私達と戦うのまで喜ばないで!」

 喜々と舞い上がるMrフェイクの言動に、セーラーマーズは文句を言う。

 と、聖龍隊がMrフェイクを取り囲んだその時、ジャッジ・ザ・デーモンが「待ってくれ!」と闘いながら現場の皆々に声をかける。

「コイツは……俺の手で幕を下ろす!」

 ジャッジ・ザ・デーモンは戦争を起こし、多くの悲劇を生み出したMrフェイクに対して自ら、同類嫌悪的な気持ちで全ての幕を下ろそうと聖龍隊に告げる。

 そんなジャッジ・ザ・デーモンの言動に、Mrフェイクがまたしても嘲笑う。

「はははっ、君はまだ自分は何かを変えられるとでも思い込んでいるのかい? 君は世界をよりよく変えることはできない、何もできないのだよ!」

「黙れ……! スグに変わらなくてもいい、一つずつ確実に変えて行けるなら……それでいい!」

 そう叫んだ瞬間、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの顎をアッパーで捉えて殴り付けて弾き飛ばした。

「ぐへっ」

 殴り飛ばされて床に倒れ込むMrフェイクの顔から仮面が外れる。

 と、その時。マーメイドメロディーズと共に工場に自機で突撃したブラック・ラヴァーズのガイトが、指名手配犯であるジャッジ・ザ・デーモンと共にMrフェイクを撃ち抜こうと自機に備え付けているガトリング砲を連射した。

「が、ガイトやめろ! デーモンまで撃つんじゃない!」

 しかしメタルバードの声も、ガトリング砲の激しい銃声にかき消されてガイトの耳には入らなかった。

 全員がガイトの砲撃に驚く中、Mrフェイクは先ほど外れてしまった仮面を取りに行こうと銃撃の中に身を乗り出そうとしていた。

(ジャクソン……!)

 いくら多くの大罪を犯しながらも、同じ二次元人を愛する者同士、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクことジャクソン・グレイシスの首元の服を掴み、引っ張って銃撃の中に飛び込まない様に手を離さなかった。

 そしてガトリング砲を連射したガイトの銃撃は、暗闇の中に転がるMrフェイクの仮面を撃ち抜いて、完全に仮面を粉砕してしまう。

 その瞬間、仮面が粉砕されたのを視認したMrフェイクは乱心した。

「やめろーーーーーーッ!!」

 叫び上がるMrフェイクの大声に、誰もが驚愕し、機関銃を連射していたガイトにもメタルバードが「やめろッ」と一喝した事で激しい銃撃も止んだ。

 そしてMrフェイクは粉々になった自分の仮面の許に駆け寄ると、ボロボロと大粒の涙を流し始めて号泣し出した。

「うっ、うう……僕の……僕の仮面、僕のオモチャが…………」

 まるで子供の様に泣き出すMrフェイクことジャクソン・グレイシスは、途端に泣き崩れたかと思うと今度は人前で尿を漏らし始める。

「これって……」

 子供の様に泣きじゃくり、失禁するジャクソン・グレイシスの只ならぬ様子にHEADの木之元桜たちが動揺していると、この異常な行動を見たメタルバードが愕然としながら言った。

「コイツは…………多重人格障害だ」

 メタルバードの発言にその場の一同が愕然とした。テレパシーを持ち、人の真意を読み解く事が出来るメタルバードは、ジャクソン・グレイシスの仮面が壊れた事で垣間見えた症状から彼が多重人格障害だとスグに察した。

 

 それから間もなくして二次元人と三次元人の戦争は終結した。

 手製の仮面が壊れ、自我と戦意を喪失したジャクソン・グレイシスを聖龍隊は拘束した。

 そして二次元人と三次元人の兵士達の目前に、無残な泣き顔と失禁したジャクソン将軍が晒された。

「……アイツ、俺達を簡単に見捨てたな」

「小より大を……友よりも大衆を救う選択をしたまでだ」

 ジャクソンを連行中、HEADのキング・エンディミオンはメタルバードにジャッジ・ザ・デーモンが自分達を見捨てて核ミサイルの発射を防いだ経緯に愚痴を零すが、それにメタルバードは友よりも大衆を救う選択だったとしてジャッジ・ザ・デーモンの行為を咎めなかった。

 聖龍隊は後に「ジャクソン・グレイシスを拘束できたのは、協力者の助けがあったからこそ」と公言し、更にその後その協力者がジャッジ・ザ・デーモンである事が公表された。

 これにより、ジャッジ・ザ・デーモンは戦争を終結させた功労者として世間的に信頼と期待を民衆に認められた故に、世界中の警察機関は嘆いた。

 更にそんな警察機関と政府機関を嘆かせたのは、今まで自分達の協力者にして良き理解者として懸命に協力してくれたジャクソン・グレイシスが多くの狂気的事件の黒幕だと知って深く絶望したという。

「チクショーーーー……ッ!!」

 警視庁から追放され、民間の法律事務所を手懸けた自分にも快く手を差し伸べてくれたジャクソン将軍がFの正体だったと知って、真嶋護は酷く落胆した。

 世間から忌み嫌われていたジャッジ・ザ・デーモンが戦争を終結させ、Fの魔手から世界を救った存在として評価され。

 世界中の信頼を得て、表向きは多くの人望を集めていたジャクソン将軍の正体に世界は欺かれ、その真実に落胆した。

 

 一方で拘束されたMrフェイクことジャクソン・グレイシス氏には不正ハッキングや詐欺・殺人、更には戦争を勃発させた戦争大罪人として処罰を受けられると思われていた。

 が、ジャクソン氏は幼少の頃から名門軍人の家系で育てられ、その際に陰湿なまでの軍事的教育と体罰から多重人格障害を患った事で、Mrフェイクの人格が生まれたという理由から死刑や終身刑と言った重罪には課せらず、精神疾患者専門の収容所に収容された。

 こうして二次元人と三次元人の戦争にまで発展したFの数々の犯罪は幕を下ろした。

 

 

 

[戦争が終結して]

 

 戦争終結後、Mrフェイクだったジャクソン・グレイシスは収容施設で保護観察を受けながら生活していた。

「いやはや、まったく……ジャクソン将軍といえば、アメリカの誇りだったのにな」

「かつての面影が見えないな」

「だが、投薬の効果もあって今ではすっかりもう一つの人格も落ち着いているよ」

 施設で働く所員が各々に大人しく収容所の作業に徹するジャクソン・グレイシスを見て述べる。

 その内の一人の所員が、大人しく木工作業に徹するジャクソンに歩み寄り、声を掛ける。

「どうだい、調子は?」「はい、お蔭様で……」

 所員の言葉にジャクソンは素直に返答する。

 すっかりジャクソン・グレイシスの中に潜むMrフェイクの人格が消えたと思われていた。

 が、そんな木工作業に徹するジャクソンは密かにMrフェイクの仮面を製作していた。

 彼は力を込めて製作途中の仮面に刃物を突き立てて、仮面を彫り続けた。

 その後もジャクソン・グレイシスは治療を受け続けたが、Mrフェイクの人格が勝ってしまい、やがて完全に呑み込まれてしまうのだった。

 

 そしてMrフェイクを捕え、戦争を終結させたジャッジ・ザ・デーモンは今宵もまた犯罪者達を狩りに行く。

「俺はこれからも恐怖の象徴として戦い続けるだろう。だが、同時にお前達が……聖龍隊が市民の希望を象徴する存在であり続ければ、俺は構わない」

「オレ達が希望の象徴として戦い続ける以上、お前はジャッジ・ザ・デーモンという恐怖の対象で居続けるって事か……」

 夜の都市を見据えながら説くジャッジ・ザ・デーモンの言葉に、聖龍隊副長バーンズは恐怖の象徴が在り続ける現実を噛み締める。

 戦争を終結させた聖龍隊とジャッジ・ザ・デーモンの戦いは終わる事は無かった。

 異常者(ヒール)として捕えられた流水霧也ことブラックホワイトは完全に精神を病んで、今なお狂気に駆り立てられていた。

 そして今までの悪事が露見させられたオフィス東山の、東山薫子と秘書の北川は異常者(ヒール)として収容施設に拘束。オフィス東山は完全に廃業した。

 ブラックホワイトの凶行により、全身に9割以上の火傷を負った黒木旭は精神にも病みが現れ、それを補う様に異常なまでに光に執着する様になり自作で黄金のアーマーと液体火薬をベースとした爆撃機を製作する様に至っていた。

 

 二次元人と三次元人の蟠りが解消したが、その顛末は由々しき事態へと変化していた。

 三次元人の二次元人への不信感は未だ消えず、その溝を埋める様に聖龍隊は二次元異常者(ヒール)を続々と捕えて獄中に放り込んでいく結果に。

 そんな三次元人の不信感に苛立ちを覚える二次元人が凶行を行う様になり、それに対しても聖龍隊が徹底して対処する日々が続いた。

 この現状を少しでも変えようと、まず聖龍隊はアニメタウンという国家を担う自分達の個人情報を公開した。セーラー戦士たちはもちろん、ナースエンジェルや木之元桜までも自身の情報を公開して、犯罪の再犯を防いでいった。

 しかしその現状の中でも、聖龍隊は一部の情報が二次元界に広がらない様に対策を続けた。Mrフェイクが起こした犯罪の再犯が繰り返される事が無いように。

 更に戦争勃発の引き金になってしまった竹島問題は、修司の提案で北方領土と共に国連管轄下の領土して管理され、島にはアジア各地で大罪を犯した犯罪者を収容する刑務所が増設される事となった。

 

「現実が如何に醜く、悲惨に成ろうとも……お前達は希望の象徴で在り続けなければならない」

 理不尽な現実が直面する中、小田原修司は仲間である聖龍隊に唱える。

「理想と現実、それを安定させる恐怖の象徴が今後も必要となるだろう。俺は人々の希望であり、理想である英雄を支える恐怖として生き続ける」

 修司は理想と現実と言う世界の安定を担う恐怖の象徴が今後も必要となる事実、そして大衆の希望であり理想である英雄を陰ながら支える恐怖としてもジャッジ・ザ・デーモンが世界に必要だと説いた。

 

 するとジャッジ・ザ・デーモンの装いになっている修司の許に、バーンズに続いて他の聖龍HEADが暗闇の中から姿を現した。

 ジャッジ・ザ・デーモンの眼前に現れたHEAD、そしてその内の一人であり誰よりも修司を気に掛けているミラーガールが前に出て話し掛けてきた。

「私達が希望の象徴で在り続ける以上、貴方は裁きの鬼として私刑を執行していくのね」

「そうだ、それしか今の世界の秩序を安定させる術はない。二次元界と三次元界、双方が互いに理解を深め、尊重し合う世の中こそ、俺が望んで止まない理想郷だ」

 前に出て話し掛けてきたミラーガールに話し返すジャッジ・ザ・デーモン。

 そんな非情の私刑を執行し続けていく決意を胸に潜めるジャッジ・ザ・デーモンに、ミラーガールは真剣な顔で言った。

「……貴方が愛を感じられる時まで、世界を愛で満たしてみせるわ」

 他人からの愛情を感じられないが故に非情の裁きを下し続けるジャッジ・ザ・デーモンこと小田原修司に、ミラーガールは己の新たな決意を告白する。

 

 そんな相棒であるバーンズの理解と、自分を愛してくれているミラーガールの決意を受け止めると、ジャッジ・ザ・デーモンは夜の闇へと駆り出す為にグラップネルガンを射出する。

「……こんな俺にも多少ながら夢や理想が湧いてきた。お前達、真の英雄たちが本当に穏やかに平和な時を過ごせる時代を実現させたい。そんな夢を持つようになった……」

 そう言い残すと、ジャッジ・ザ・デーモンは夜の闇へと羽ばたいていった。

 

 二次元界と三次元界が融合した事により、多くの混沌が生まれてしまった。

 ある三次元人の青年は、愛してやまない二次元人と対等に渡り合う為に自ら欺きを意味するFを象った犯罪者へと変貌。

 ある二次元人たちは、三次元人が齎した理不尽な憎悪や悪意の標的にされた事で、自らを異常な存在へと豹変させてしまう。

 多くの者が変わり、変わり果てた事で世界も大きく変化していく。

 そんな現実の中で裁きの鬼は今宵も独り、悪と立ち向かう恐怖の存在として闘い続けるのだった。

 

 

 

[ジャッジ・ザ・デーモン]

 

 二次元人の未来と、法律で裁く事の出来ない社会に蔓延る悪を制裁という形で私刑に至らしめる連続殺人鬼。

 その正体は新世代型二次元人の始祖にも当たる小田原修司で、彼は自分が聖龍使いに変身できなくなってから、己の様なタダの人間でも何かを護れる戦い方はないかとアメリカへ渡米してその地で様々な英雄達から教えを学び得て、自分なりに犯罪者を抑制する恐怖の対象を思い付いて、裁きの鬼へと変貌した。

 基本的には何よりも平和と公平を重んじる性格だが、同時に厳格で自分にも他者にも厳しい所があり、ことに犯罪者には情け容赦がなく殺害する事も全く動じない。これは小田原修司が発達障害者で、他人からの愛情を感じにくい傾向から、他人を殺傷しても何とも思わないという異常性がある事を指す。

 気難しく頑固なところもあり、家庭の愛情を感じられない為か、人に愛情を見せることが苦手である。

 

能力

 鬼を模した高性能スーツを身に纏い、特殊車両ジャッジモービルや小型戦闘機ジャッジウィングを駆って夜の闇から弱者を守っている。

 極限まで鍛え上げた肉体と格闘術、不屈の精神力、そして秘書である天才ウッズが開発した数々の秘密兵器を武器に世界の悪漢と互角以上に渡り合っている。

 彼の鬼としての活躍を支えているのは、ひとえに彼の努力と強固な意志、そして聖龍隊の仲間達からの豊富な資金力である。

 その峻烈な制裁と威圧的な漆黒の鬼の姿ゆえに、ジャッジ・ザ・デーモンは世界中の犯罪者達にとって『恐怖』の体現者として恐れられている。

 

 鬼のスーツを纏う理由は、その異形の姿で犯罪者達が二度と犯罪に走らないように恐怖を植え付けるためであり、修司にとって鬼は古来より力の象徴として崇め奉られているからこそ、鬼のデザインに魅入られたのだ。

 

 

 

 ジャッジ・ザ・デーモンの使用ガジェット

 

 デーモンスーツ。

 小田原修司がコスチュームとして身に纏う特殊スーツ。

 顔の全体を覆うマスク、大きくて紅い瞳、小さな二本の角、胸のデーモンエンブレム、全身を覆えるウィングスーツを拵えたパワードスーツ、三本の鋭利な爪が飛び出す腕部の個所。

 防弾・防刃・難燃性を持ち非常に丈夫ではあるものの、衝撃や打撲のダメージを全て吸収することまではできず、刺突によって貫通することもあるため、敵の攻撃を全て受け止める事は出来ない。

 スーツの各所には、様々なアイテムやガジェットを収めるための収納スペースが完備されており、中には機械式の様々なギミックも搭載しているものもある。

 

 ジャッジラング

 三つの刃が収納されてコンパクトに持ち運びできる様になっている手裏剣またはブーメラン。

 単に投擲武器として投げつけるだけではなく、直接手に握り込んでナイフのように扱うこともある。

 種類によっては小型爆弾や発信機、自動追尾機能などを搭載したものや、相手の秘孔を突いて無力化できるよう針状に加工したもの、ワイヤー付きのものも多種多様に装備されている。

 

 グラップネルガン

 高圧ガスでアンカー付きのワイヤーを撃ち出して巻き上げる銃。

 高所への移動や、摩天楼から別の高所へと飛び移る事、敵の捕獲まで用途は広い。

 

 ジャッジモービル

 ジャッジ・ザ・デーモンが駆る高性能車両。

 漆黒の車体に様々な武器が搭載されており、ジャッジウィングで他所へ移送できる事も可能。

 

 ジャッジウィング

 ジャッジ・ザ・デーモンが駆る小型ステルス戦闘機。

 

 デーモンハビタット

 聖龍隊総本山の裏手にあるジャッジ・ザ・デーモンの秘密基地。

 

 

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